キャンペーン・リプレイ

第 二十四話 「 荒 野 の 諸 々 」       平成12年2月27日(日)

12345

 屋敷では、エリックとエメリアの結婚式が執り行われていた。参列者はクーメルダとカマ男を除くエリックの取り巻き達、十名以上の傭兵達、そして操兵が二機。そのうちの一機はあのクロウの乗る黒い操兵である。
 空には朝日が昇っていた。それを見たエリックは、
「見てごらん……僕たちの新しい門出を祝う朝日だよ」
 と、キザったらしく呟いたが、エメリアは終始俯いたままであった。
「……汝、新郎エリック・ダルコスは、このものを妻として、生涯の愛を誓いますか……?」
 司祭の厳かな声が響いた。それに対してエリックは、「誓うとも!!」と力強く答えた。次に司祭はエメリアのほうを向いた。
「……汝、新婦エメリア・パルクは、このものを夫として、生涯の愛を誓いますか……?」
 その問いに対してエメリアは答える事なく、沈黙を保っていた。
「……誓いますか……?」
 その時、辺りに葬送行進曲を奏でるバンジョーの音色が響いた。この場の全員がその方向を見ると、そこには朝日を背にしたホセ、ロキア、エルグラーテ、そしてモ・エギのシルエットが立っていた。
「エメリア……迎えに来たぜ!!」
「……ホセさん!!」
 エメリアの顔に笑顔が戻った。そして、再び繰り返された「誓いますか?」という司祭の言葉にきっぱりと、こう答えた。
「……誓いません……!!」
 それを聞いたエリックは、半狂乱になって訳の分からないことをわめき散らした。
「そなた達の企みはもう露見した。おとなしく観念したらどうだ!!」
 クサナギの拡声器を通した叫びにもかかわらず、クーメルダは落ち着いた様子で言い放った。「ほーっほっほっほ!。あなた方こそ、自分たちの立場がわかっていないザマスわね……。このわたくしが、何の準備もしないと思っているザマスの?!」
 クーメルダは右腕を高らかに上げた。そしてそれを合図に町の周囲から五機もの操兵が出現し、式場を包囲した。その機体はうち四機が一式リグバイン、一機はリグバイン二式、すべてが最新型の重戦闘操兵である。クーメルダはこうなることを予想して、これほどまでの操兵部隊を雇っていたのだ!。さしものクサナギとモ・エギも、これらを加えた総勢七機を相手にするのはかなり荷が重い。どうする!!。
 だが、その頼もしい味方を得たはずのクーメルダは、その操兵部隊を見て絶叫した。
「…なんザマスかあの操兵は……!わたくしはあんな操兵雇った覚えはないザマスよ!!」
「あぁ、あんたの雇った操兵なら、俺たちが片付けたぜ!!」
 リグバイン二式から拡声器を通じて、ザクネーンのガラ声が響いた。どうやらこの操兵部隊はザクネーンの傭兵部隊のようだ。リクバイン二式は一行の方に向き直った。
「雑魚は俺たちが引き受けた。あとはお前等が好きなようにやってくれ」
「すまない!」
 クサナギはザクネーンに短く礼を言うと、再び敵の方を向いた。
「どうする……!。もはやそなたたちに勝ち目はないぞ!!」
 それを聞いた傭兵たちはざわめき始め、互いの顔を見合わせた。そして勝ち目がないと悟るや一斉に逃げ出した!。
「……ま……待てっ!。逃げるなぁっ!!お前たちには高い金払っているんだぞぉっ!!!」
 だが傭兵たちはそのエリックの声に耳を貸そうともせずに一目散に逃げ去った。後ろでは、式を取り仕切っていた司祭もソロリソロリと離れ、そして脱兎の如く逃げ去った。後に残されたものはエリックとクーメルダ、そして取り巻きたちと操兵だけであった。
「ま、おめぇの人望の無さって奴だな」
 ホセの呟きはエリックを完全に激怒させた。そんなことには構わずホセは、腰の銃を抜いてエリックに向け、撃ち放った。それを見た重戦士はとっさに前に出てエリックを庇った。その銃弾は迷う事なく重戦士に命中した。が、キンッ!と固いものを弾く音がしただけで重戦士は平然としていた。
 重戦士は驚くホセを嘲笑うかのようにマントを脱ぎ捨てた。その下には、この辺りでは見かけない全身板金鎧を着込んでいた。いや、板金ではない。
「トランバキア製セラミック装甲だ!。そんな鉛玉など、痛くも痒くもないわっ!!」
 重戦士はそう叫んで、大盾と戦斧を構えた。それを見たロキアもまた、自慢のセラミック製大盾と、戦斧を構えて重戦士の前に立ちはだかった。
「なるほど……俺と同じ戦術を使うか……だが、防御力は装甲の差で俺の方が上だ!」
 ロキアはそんな言葉に耳を貸さず、ゆっくりと重戦士との間合を詰めた。
 黒い操兵は逃げる傭兵たちを蹴散らしてエルグラーテに振り向いた。
「僕の[ディノガウラ]は、こんな奴等に負けたりはしない。たったそれだけの操兵で僕を止められるものか……」
 大した自信である。クサナギはエルグラーテをディノガウラに向けて前進させた。その横ではモ・エギがもう一機の操兵を相手に戦闘を始めていた。どうやらクサナギはディノガウラだけを相手にできそうだ。
 一方、戦いに赴こうとするホセの元にマートが駆け寄ってきた。
「ホセおじさん、この銃を使って……!!」
 マートはホセにバントラインを手渡した。
「姉さんを助けて!!」
 その叫びを受けたホセは、操兵が戦っている間に向けて馬を走らせた。が、その前にあの銃士が立ち塞がった。銃士はホセを前にしてこう言った。
「なるほど……今、あんたのその手に俺の欲する銃があるというわけか……。ならば、今俺がこんなマザコン坊やのために戦う必要はないわけだ」
 そして銃士はその場を退き、ホセのために道を空けた。
「いいか!。この戦いが終わったら、次は俺とあんたの決着をつけるぞ。いいな!!」
「ま、待て、お前まで裏切る気か……!!」
 エリックの叫びは銃士には届いてはいなかった。
 そのころロキアは、絶対的に防御力を誇る重戦士に苦戦していた。ロキアは重戦士に戦斧を幾度も叩きつけたが、そのセラミック装甲の前に全く歯が立たないのだ。逆に重戦士は頑丈な装甲に守られている安心感からか、防御を全く無視した捨て身の攻撃を繰り出し、その戦斧は確実にロキアを捕らえ、決して浅いとはいえない傷を増やしていった。
 それでもロキアは攻撃の手を緩めなかった。いかに堅固な鎧でも、立て続けに命中を与え続ければ、いつかは破れるのだ。が、重戦士の捨て身攻撃は予想以上に激しく、ついにロキアは強烈な一撃をまともに受けてしまったのだ!。
 一方、操兵戦のほうは全く逆に、クサナギが一方的な戦いを展開していた。ディノガウラは左腕部の鉄斬爪をエルグラーテに向けて突き立ててきた。が、クサナギはその動きを既に見切っており、その操縦を受けたエルグラーテは繰り出されたその鉄の爪を軽々とかわしていく。
 だが、ディノガウラの武器はこれだけではなかった。クロウはニヤリと笑うと、右腕部に仕掛けられた隠し武器を展開した。それは、偽装手首の下に隠れていた固定小剣であった。その不意打ちの剣がエルグラーテ目がけて振り下ろされた!!。
 その戦いの中ホセは、馬を走らせてエメリアの元に駆け寄ろうとした。それをさせまいとエリックはエメリアを捕まえようと飛びかかった!。が、間一髪でホセが駆けつけ、エメリアを救い上げて馬上に乗せ、そのまま走り去った!!。
「……ホセさん!!」
「待たせたな、エメリア!」
 その姿はまるで本物の恋人同士のようであった。
「……ぁあ……エメリア……!!」
 放心状態になったエリックは、ホセとエメリアの馬が走り去ってゆく方角にただトボトボと歩くだけであった。
 操兵戦のほうも佳境に入っていた。隠し小剣の不意打ちを受けたクサナギであったが、その攻撃を既に見抜いていたクサナギはエルグラーテに大太刀を構えさせ、その小剣目がけて振るわせた。その太刀は小剣の刃に激突、火花を散らしてその小剣に亀裂を生じさせた。
 自分の攻撃がことごとく阻止され、クロウは焦りを感じ始めていた。クサナギと自分の実力の差は歴然としていた。なまじ操兵の性能が互角だけにそれがはっきりと見えるのだ。が、クロウはその事実を受け入れようとはしなかった。
「僕は……僕のディノガウラはそんな操兵なんかに負けはしない!!」
 半ば自棄になったクロウは、両腕のそれぞれの武器を同時に振るってエルグラーテに攻撃を掛けてきた。クサナギもそれに答えるように大太刀と爆砕槍の同時使用による反撃を試みる。が、その勝敗は明らかだった。クサナギは大太刀で鉄斬爪と隠し小剣を受け流しつつその両腕に打撃を加え、爆砕槍でその胴体を攻撃した。そしてその攻撃に耐えられずにディノガウラは地面に倒れた。
 一方、重戦士の斧を受けたロキアは自らの盾に守られ運よく気を失わないでいた。その一撃に耐えたロキアは斧を構え直すと、重戦士の頭部目がけて振り下ろした。いくら頑丈な鎧を身に纏っていても、頭部に一撃を受けたら唯ではすまないだろうと考えたからだ。
 モ・エギのほうも決着がつこうとしていた。アルキュイル型は手にした鎚矛で紅葉武雷を攻撃するが、スクラップの寄せ集めと御仁族伝来の戦鎧で強化された御仁姫では全く勝負にならず、その七枝刀と大鉈の連続攻撃を浴びて既に立っているのがやっとの状態にまで追い詰められていた。
 モ・エギはアルキュイルに向け、止めの一撃を繰り出した!!。
 クサナギは倒れたディノガウラに向かってこう言った。
「確かにそなたの操兵は素晴らしい。だが、そなたの腕はまるでなっていない。今のままでは、どんな操兵に乗っても私どころか、他のどんな操兵乗りにも勝てはしない……!!」
「僕が負けるはずはない……お前なんか……お前なんかぁぁぁーっ!!」
 その言葉がよほど答えたのか、筋肉筒が焼き切れて立ち上がれない筈のディノガウラは、そのクロウの憎悪を糧にして立ち上がった。それを見たクサナギは蒸気兵装の弁を開き、蒸気の充填に入った。そして爆砕槍の槍先を尚も向かってくるディノガウラに向けて射出レバーを引いた。二股の白い槍が旋回しながらディノガウラの装甲を砕き、ディノガウラは今度こそ動かなくなった。
 ロキアのすべてをかけた戦斧の一撃は相手の盾を越え、狙いたがわず重戦士の頭部を捕らえた。その執念の一撃はさしものセラミック装甲も防ぎ切れず、砕けぬはずの冑が砕け、その一撃が致命傷となって、今まで無傷だったはずの重戦士は完全に昏倒した。
 ディノガウラ、アルキュイル、そして重戦士は同時に地面に倒れていった。それを見たクーメルダはヒステリックな悲鳴を上げてそのまま気絶した。この時点で一行の勝利は完全なものとなった。
 クサナギはエルグラーテをディノガウラの側まで歩ませた。見るとどうやらクロウは無事のようで、機体から仮面をはずしてエルグラーテを見上げると、その中にいるクサナギを睨つけてこう叫んだ。
「……今日は運がよかったな……次はこうは行かない。必ずお前を叩きのめしてやる!!」
 そしてクロウは仮面を抱えてその場を走り去った。クサナギはあえてその後を追おうとはしなかった……。
「……エメリア……エメリア……」
 倒れた操兵の横をエリックがよろよろと歩み寄ってくる。それを見たホセはエメリアを馬から下ろすと、その亡者のようなエリックに向けて走りより、そして馬の後ろ足で思いっきり蹴り上げた!!。エリックはその一撃をまともに受けて地面に倒れた。その顔には、蹄鉄の後がくっきりとついていた。それを見たホセは、
「なんだ……前よりいい男になったじゃねぇか」
 と、言い放った。
 そのころ、町の中でも人騒動が起きていた。人々が一斉に立ち上がり、逃げた傭兵を取り押さえ、そしてダルコス家の館を占領したのだ。それを見たクサナギはこう呟いた。
「どうやら私達のしたことは、町の人々が立ち上がるきっかけにはなったようだ」
 すべてが終わった。ホセはエメリアに顔を合わせずにこの場を去ろうとした。が、
「……ホセさん、どこに行くんですか……!」
「そうだホセ。そなた、エメリアの中にいるそなたの子はどうするつもりなのだ!!」
 二人の朴念人に止められて困惑するホセ。それを聞いたロバートが血相を変えてホセの元に駆け寄った。
「エメリア……!それはどういうことだ!!」
「ごめんなさいお父さん!。これはエリックを騙すための嘘なの!!」
 ロバートはエメリアの弁明にとりあえず納得した。だが、エメリアのホセに対する感情は既に嘘ではなかった。生命をかけて自分を救ってくれたホセに心底惚れ込んだのだ。まぁ、嘘もここまでつき通せば、本物になるということだろうか。
「……ホセさん……小さな工場の娘ですけども、こんな私じゃだめですか……」
 そんなエメリアの言葉にホセの気持ちは揺らいだ。いっそこのまま工場で銃技師としてロバートに弟子入りしてしまおうか……いや、それは出来なかった。ロバートは既に銃は作らないと誓っているのだ。それとも、保安官としてこの町の治安を守って暮らすか……いや、自分はまだ自由人でいたいのだ。
 その時、そのホセの元に先の銃士がやってきた。その鋭い眼光はホセに再び緊張感をもたらすのに十分であった。そう、まだ終わってはいなかったのだ。
 銃士はホセの真横に立ち、右腕を腰に当てた。ホセもまた、腰の銃に手を掛ける。その光景をクサナギ、ロキア、モ・エギ、ゼノア、そしてエメリアとマートが固唾を飲んで見守った。これは二人の対決である。一切の手出しは許されないのだ。
 しばらくの沈黙が過ぎた。そしてついに銃士がその右腕が動いた!!。……が、その手に握られていたのは二つの葉巻であった。
「……火……貸してくれねぇか」
 二人は葉巻に火をつけ、その煙を思いっきり吸い込んで、そして吐き出した。その葉巻の味に満足したかのように銃士がホセにこんなことを言った。
「今日は勝負は無しだ……。その銃はあんた達の門出の祝にくれてやる。だが、これだけは忘れるな。あくまでそいつは預けるだけだ。俺があんたを倒して手に入れるまで、せいぜい大事にしておけ!」
「おめぇこそ、荒野でのたれ死ぬなよ!!」
 銃士はその場を立ち去り、振り向かずに手を振った。
「そういえば、名前を聞いていなかったな……俺はホセだ!」
「…………グンダレフ、だ…………!!」
 グンダレフはそういうと、ポンチョを翻して今度こそこの場を去った。
 不意に、周りで操兵の駆動音が響いた。見ると、リグバインが一斉に動きだし、この場から立ち去ろうとしていたのだ。
「後の始末は任せた。俺たちはもう行く。ま、次に逢うときも敵じゃねぇことを祈るぜ……」
「有り難う!。最後にそなた達が来てくれなかったら、どうなっていたことか……」
 クサナギのお礼の言葉にザクネーンは、照れながら答えた。
「……いや、むしろ礼を言うのは俺の方だ。助かったよ。依頼を受けてくれて……」
「行くよ……お兄ちゃん!」
 拡声器越しのルイーザの呼び声を受けてザクネーンはリグバイン二式を起動させ、そのまま町を後にした。
 外野が去っていく中、ホセは改めて譲られたバントラインを手に取った。その銃は手にしただけでその秘められた力がわかるほどのものであった。ホセは迷った。本当にこんな恐ろしい銃を自分が手にしてよいものかどうか。
「……何、あなたなら大丈夫。私は信じてますよ……」
 ロバートはホセに優しく声を掛けた。
「ホセおじさんは強いんだもん。大丈夫だよ」
 その言葉にホセは、昨日マートに言った言葉をくり返した。
「マート。俺は強いんじゃない。憶病だから銃を使うんだ……マート、お前は、銃なんか使わずに、姉さんと父さんを守ってやれ」
 そしてホセはそのまま馬を進ませた。
「……待って、ホセさん……!!」
 ホセの元に駆け寄ろうとしたエメリアをロバートが止めた。
「ホセさんは[風]だ……通りすぎていく[風]だ」
「……ホセさん……また……逢えますか……」
 エメリアの呟くような問いにホセは振り向かずに答えた。
「……風が……この街に吹いたら……」
 そしてホセを乗せた馬は砂煙の向こうに消えていった。その後ろ姿をエメリアはいつまでも見続けていた。
 そんな光景を見てクサナギ、ロキア、ゼノア、そしてモ・エギは、ホセの行く末の幸運を祈った。  

 追伸
 この話でホセは、実際には空っ風を(著者が覚えているだけでも)二十三度は吹かせていた。が、都合上全部書き切れなかったことをとりあえず詫びておこうと思う……。