キャンペーン・リプレイ

第 二十五話 「 姫 盗 賊  秘 宝 の 迷 宮 」  平成12年4月10日(日)

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 月明かりが街を包み、すべての人々が眠りについたライバの街。吟遊詩人としての仕事を終えたイヴルは、誰も通らぬ大通りを宿に帰るために歩いていた。
 その時不意に地響きが轟き、イヴルを巨大な影が覆った。咄嗟に身を隠したイヴルが予想したとおり、それは操兵であった。月光のを背に豪奢なマントをたなびかせたその姿は、禍禍しい漆黒の機体のようで、見るものを威圧するかのようだ。操兵は足下のイヴルに気をはらう事無くその場を通りすぎた。
 その操兵が気になったイヴルはすぐさま後を追いかけた。やがてその機体は工房街へと入っていった。こんな時間に一体、何のために工房街などに行くのだろうか……。
 イヴルが工房街の門番に訪ねてみると、どうやらあの機体はどこかの国の貴族であるという(そもそもそういう身分でなければこんな時間に訪れたところで門前払いであるはずなのだ)。イヴルはとりあえず追跡をあきらめ、ミオにこのことを話すために旅人街にあるジュウコーの工房に向かった。が、こんな真夜中に起きているはずもなく、イヴルは仕方なくこの日は宿に帰っていった。
 翌日。イヴルは改めてジュウコーの工房を訪れていた。そこには、クサナギ、アファエルも来ていた。その中でミオは、一機の黒い操兵を呆れながらも分解して調べていた。
「[竜]の次は[黒い操兵]?また変なものを持ち帰ってきたわねー」
 クサナギとモ・エギがレクサの街から帰ってきてから数日が過ぎていた。クサナギはレクサの街で戦い、倒したディノガウラの機体を持ち帰ってミオに預けていた。使える部品があれば予備の部品にするつもりだったのだ。ところが、その機体を分解したミオは不思議なものを見た。何と、筋肉筒がすべて劣化し、木乃伊となって死んでいるのだ。
 確かに戦闘においてディノガウラは、クサナギのファルメス・エルグラーテの猛攻を受けてその筋肉筒が破裂し、起動停止にまで追い込まれた。が、通常機体の筋肉筒はすべてが死ぬわけではなく、死んだとしてもここまで急激に木乃伊化するものではない。たいていは再生器にかければある程度質が落ちるものの再利用できるものなのだ。
 ところが、このディノガウラの筋肉筒は見たところ完全に木乃伊化し、崩壊しかかっている。長い間砂漠などに放っておかれでもしない限りこんなことはありえないのだが。しかも、クサナギの話によればこの機体、筋肉筒の破裂で一度倒れたにもかかわらず、勝利への執念からか再び立ち上がったという。この手の現象はいわゆる[戦場の奇跡]として広く知られており、古操兵ファルメス・グラーテの[オハコ]でもある。だが、このディノガウラの場合、果たしてそれだけで片付けられるものなのだろうか。
「いえ、あれは奇跡などではありませんよ」
 いつの間にか現れたゼノアが何か考え込みながらディノガウラの劣化した筋肉筒を覗き込んでいた。問い返そうとしたミオだったが、
「おい、ここを見ろ……!」
 ジュウコーが脚部の筋肉筒を見ながら弟子を呼ぶ。言われた通りに筋肉筒を見たミオは戦慄を覚えた。組織の一部がまだ生きていたのだ!しかもそれは、仮面がないにもかかわらず、明らかに痙攣し、再生しようとしていた!が、やがて力尽き、その筋肉筒は異臭を放つ煙を吐き出しながら一瞬にして劣化していった。
 その光景を見たイヴルは、以前自分の故郷の長老から聞いた話を思い出した。かつて栄えた古の文明であるプレ・クメーラ文明において、操兵が外の大陸より伝わる以前より研究されていた[人造の御仁]。
「……仁機兵……」
 イヴルの呟きを聞いたゼノアが詰め寄ってきた。
「イヴルさん……なぜあなたが[仁機兵]という言葉を知っているんです?それは工房都市組合の中でも最重要機密に属するもののはずですが……それに」
 ゼノアはそう言って、工房の中、エルグラーテの隣に駐機しているイヴルの操兵[ダイ・ザッパー]に目をやった。この機体はイヴルが都市国家郡に赴く際に支給されたものであったのだが、
「あなたの操兵、一見すると羅・諸国連合の操兵に見えますが……」 
 どうやらゼノアはこの機体の素姓を見抜いたようだ。そう、この機体は元々羅・諸国連合製の機体ではない。本来この機体は羅・諸国連合の操兵工房が、都市国家郡独自の装備である[蒸気兵装]の自国での研究、開発を計画した際、蒸気兵装を装備可能な機体の参考用として極秘裏に調達した都市国家郡の操兵工房製の機体[リディアス]であった。ゼノアはこの機体のうち一機が偽名で購入され、羅・諸国連合に運び込まれていたのを何らかの方法で知っていたのだ。
 が、ゼノアはそれ以上の詮索はしなかった。この手の諜報活動は自分たちもしていることである。表面上の[機密]など少々見られても減るものではない。むしろ、そのような機密を掴ませることで、本当に隠しておきたいことを隠し通すことができるのだ。
 [仁機兵]という言葉を聞いたクサナギは、以前樹界の奥の遺跡で戦った、人造生命のことを思い出した。確かにその怪物は中枢を破壊しない限り何度でも再生してくる。もし、このディノガウラの筋肉筒がその仁機兵のものを何らかの方法で移植したものだとしたら、いったい何者が、何のために……。
 どの道ここで議論しても何の進展もない。イヴルはとりあえず仁機兵のことを後回しにした。そして、ミオをダイ・ザッパーのところまで連れていき、その機体の背に背負わせていたコンテナを下ろし、その蓋を開けた。
「ミオ、こいつをダイ・ザッパーに取りつけてくれないか?」
 コンテナの中には、操兵用の腕部が一対入っていた。しかもそれは、唯の腕ではなかった。

 そのころ、機械に慣れないゆえに話の内容について行けずに退屈していたアファエルは一人工房を抜け出し、ナバール一座に赴いていた。大道芸で稼ぐなら、芸人組合の顔役であるナバールに挨拶をしないとまずい、とミオに忠告されたからである。アファエルはナバール一座の扉をくぐった。
 アファエルの営業許可の求めをナバールは快く承知した。ショバあらしのモグリは許さない彼だが、新しい芸人が来ること自体は歓迎するようだ。アファエルは上がりの三割を支払うという条件をのみ、早速稼ぎ場である広場に向かった。
 その途中、アファエルは渡世人斡旋所の立て看板に奇妙な張り紙が張られていることに気づいた。それは、[宝捜しの仲間もとむ]というものであった。興味を持ったアファエルは渡世人斡旋所の窓口に顔を出して張り紙について訪ねると、「依頼主は夕方来るから」といわれ、とりあえずは時間つぶしを兼ねて再び広場へと足を向けた。

 同じころ、クサナギ、ミオ、イヴルはそれぞれ操兵に乗り込み、街外れにある操兵闘技場を訪れていた。ダイ・ザッパーに取りつけた特殊腕[蒸気式圧砕鎚]のテストをするためである。蒸気式圧砕鎚とは、羅・諸国連合が独自に設計、開発した蒸気兵装である。右腕部に装備された巨大な杭打ち機に左腕の圧力槽から蒸気を送り込み、その圧力で杭を打ち出して目標を貫くというもので、もし設計どおりの性能ならば、新造古操兵ファルメス・エルグラーテの左腕部に装備されている蒸気兵装、蒸気式爆砕槍に匹敵するほどのもののはずだ。羅・諸国連合は当初この装備を量産して主力兵器とする予定であった。が、実際には両腕とも交換しなければならない上に、蒸気兵装独特の弱点である充填時間、そして使用する度に機体をオーバーホールしなければならないという様々な問題に直面し、結局一基だけ試作されるに留まったのだ。そしてイヴルが旅立つ際に支給された時も、もともとダイ・ザッパー用に作られていたこともあってそのまま装備されていた。背中に背負ったまま使い道もなく、イヴルは途方に暮れていたのだ。
 だが、せっかく持ってきたのだから試さない手はない。そこでイヴルはミオに頼んでダイ・ザッパーの両腕部を換装してもらった。実際換装そのものにはそれほど手間はかからず、ほかの操兵などの手助けがあればそれほど設備も要らないのだ。が、やはり戦闘中に換装するのは難しそうだ。
 三人が闘技場で準備をしていると、観客席に見物人が集まってきた。この闘技場は昨年の操兵武闘大会のために建設されたものであるが、現在では使い道がなく、渡世人などに開放して操兵同士の決闘などに用いられている。街の中で決闘などされてはたまらないからである。また、ここなら比較的安全に見物できるため、暇な者たちが集まってその決闘で賭を行ったりしている。が、三体の操兵が決闘のために来たわけではないことを知ると、半分は去ってしまった。
 クサナギとミオはエルグラーテとワークマンデを操作して、ディノガウラの残骸を固定した。使えない部品が多いので蒸気式圧砕鎚の試験相手になってもらおうと考えたのだ。すべての準備が終わるとイヴルは早速蒸気の充填に入った。
 イヴルの操作に従いダイ・ザッパーは、その左腕部の蒸気槽に機体の熱で生じる大量の蒸気を充填した。そしてその蒸気槽を右腕部の圧砕鎚本体に接続し、十分に溜めた力を注ぎ込む。目盛りが振り切ったのを確認したイヴルは機体をディノガウラに向けて前進させた。その間イヴルは、ダイ・ザッパーの動きがいつもより鈍っているのを感じた。溜めた蒸気を維持するために機体の出力の一部が割り振られているのだ。
 ディノガウラの前に立ったことを確認したイヴルは、ダイ・ザッパーの右腕をその黒い残骸に向けた。そして十分に狙いを定めると、安全固定具をはずして操作レバーを倒した。溜め込まれた蒸気が右腕の杭を勢いよく打ち出し、ディノガウラの胸部装甲を貫く!!その一撃に耐えられなかったディノガウラは、そのまま上下に分かれ、そのままバラバラに砕け散った。
 想像以上の威力にイヴル、クサナギ、ミオは驚いた。そしてイヴルは(これは使える……)と内心喜んだが、そのためには根本的な問題である[換装の手段]を真剣に考える必要に迫られることになった。
 その日の午後。クサナギ、ミオ、イヴルはジュウコー、ゼノアとともにライバの操兵工房街へと足を運んだ。ジュウコーの用事でクリスヤマ操兵製作所に赴くためである。このクリスヤマ操兵製作所はライバで一番大きな操兵工房で、機体の修理、再生のほかに独自の操兵であるレストアール、ギルダームを生産している工房でもあった。そこでなら、ダイ・ザッパーの問題も解決するかもしれない、とイヴルは踏んでいた。
 その途中、中古操兵販売所の前を通りかかった一行だが、その時イヴルはその展示場に夕べ出会った謎の操兵が飾られているのを目撃した。気になったイヴルが側にいた店員にその操兵の素姓を訪ねると、目の下に隈を作った店員はにっこりと笑って機体の脚部装甲をたたきながら、
「どうです、この操兵。見た目じゃ性能は判断できないですよ」
 と、自慢げに言ってから、がっくりと落ち込んだ。
「夕べ突然たたき起されて、鑑定させられたんです。大急ぎでまとまった金が入り用になったから買い取ってくれって。まあ、見た目がそれなりだったんで、買い取ってみたんですが……」 
 そう言って店員は再びその操兵の脚部装甲をたたきながら、
「どうですこの操兵、見た目はこんなですが、性能は大したものですよ。一対一なら、ギルダームにだって引けは取りませんよ!」
 要するに、ギルダームよりマシ、程度の性能でしかないということだろう。まあ無理もない。この機体、明らかに古いもので(古操兵という意味ではない)、おそらくは二百年以上は経っているだろう。それでも、きちんと整備を受けていればそれなりの性能を維持できるものだが、この様子からするとかなり長いこと只の飾り物だったに違いない。部品のほとんどは製作当時のもので、動くのは奇跡に近かった。
 ひどい機体を掴まされ、やけくそじみた空元気で必死に宣伝する店員に別れを告げた一行は、目的のクリスヤマ操兵製作所に到着した。一行は早速工場長の案内で工場内を見学した。その中ではレストアール一型が五機、二型が一機ほど、専用組み立て台で最終組み立てが行われており、その光景は工房都市の本格的な施設には及ばないものの圧巻であった。
 一通り工場内を見学した後、ミオは工場長にジュウコーを呼んだ理由を聞いた。するとこの工場長は
「実は、新型機の最終試験にぜひとも立ち会ってほしかったもので……」
 といって、一行を別棟に案内した。そこには、数機の操兵が整備を受けていた。クサナギはその機体に見覚えがあった。[レストアール三型]。クサナギは先日レクサの町でこの操兵に乗り込んだことがあった。もっともその時は、突如出現したディノガウラに一瞬にして破壊されてしまったが。
 レストアールシリーズの最新型であるこの三型は、クリスヤマ操兵製作所が今までのレストアールに変わる作業用操兵として設計、開発した機体である。今まで販売していた一型に続いて発表した二型は確かに性能は良かったのだが、その分質の良い部品のために価格やコストが割高になり、決して好評とはいえなかった。そこで、性能と低価格を同時に目ざすという新たな試みのために設計されたのが、この三型なのである。
 その右肩部後方に作業用の装備を取りつけたレストアール三型はゆっくりと歩き出した。そして外の試験場の中央まで来ると、右肩部の接続部を回転させて本来の右腕とその作業用装備をそっくり入れ替えた。それを見たイヴルは驚き、工場長に今の機構について訪ねた。
「あれが我が社自慢の新機構[自動換装腕機構]ですよ。ああやって腕を必要に応じて換装させることによって、より高い汎用性を持たせることが可能になったのです。従来まではこのような汎用性を持たせたければ……」
 工場長はそう言って、工房の片隅に駐機させてある操兵を指さした。それは四脚の機体に三本の腕を取りつけた奇妙な操兵であった。操兵ワークマンデ。工房都市グーバが作業用操兵として製造している機体で、その四脚による安定性と三本の腕に取りつけられた作業用機器によって様々な作業をこなすことができ、その性能も非常に高い水準を保っている。改造次第によっては戦闘用に転用することも可能で、現にクサナギはそんなワークマンデの一機と戦い、苦戦したことがあった。
「ですが、この腕や足を増やすという方法はあまり良いものではありません。操兵の仮面というものは元々人間型の機体を制御するように作られてあります。やたらとその形を崩すと、仮面の制御能力では対処し切れなくなり、乗っている操手の負担が増えてしまって、せっかくの性能が発揮されません」
 その工場長の言葉にゼノアが苦笑しながら頷いた。
「……そこで、我が社が開発したこの自動換装腕機構が役に立つのです。様々な腕を複数装備させておりますが、機体に接続されているわけではないので仮面や操手の負担になるわけではないし、簡単な操作によって換装できるので、わざわざ機体を止めて大掛かりな設備を使用する必要もないわけで、これによって作業能力は格段に上昇できるというわけです!」
 イヴルは工場長に試乗の許可を求めた。自分で操縦して性能を確認したいというのだ。それに対して工場長は、できるだけ多くの操兵乗りからのデータを得る必要もあってこの申し出を快く承諾した。
 操手装に乗り込んだイヴルは軽く機体を慣らした後、早速数回に渡って換装腕機構を作動させた。工場長の言う通り、ちょっとしたレバー操作だけで簡単に換装させることができた。難を言えば、その可変速度が作業用としては申し分ないのだが、戦闘用に用いるには少々時間が掛かりすぎることぐらいであろうか。それでも、今のイヴルにとってこの機構は必要不可欠で、喉から手が出る程欲しいものであった。そう、彼はこの機構をダイ・ザッパーに取りつけることで、圧砕鎚の換装の問題が解決できるのではないかと考えたのだ。
 試乗を終えてレストアール三型から降りたイヴルはミオに訪ねた。
「なあ、ミオ。この機構をダイ・ザッパーに装備することはできないか?」
 それを聞いたミオは工場長にこの機構の設計図を見せてくれるように頼んだ。ミオがジュウコーの弟子ということもあり、工場長は快く設計図を持ってきてくれた。そして、さらにこんなことを付け加えた。
「この機構は元々イランド博士の設計なのです。ただ、あの方の設計はかなり複雑ゆえに量産には向かないので、かなり簡略化させていただきました。もし、実際の設計通りに製作すれば、多分あなた方の望む性能を発揮するはずですよ。必要な部品も提供できます……ただし、それなりの費用がかかりますが」
「いかほど?」
「金貨にして20枚ほど……」
 イヴルはその額を聞き、財布の中身を確認した。が、数えるまでもなくそんな大金、持ち合わせているわけなどなかった。
「……渡世人斡旋所にでも行くか……」
 クサナギとイヴルは設計図を見ているミオを置いて、早速斡旋所に向かうために工場を後にした。
 工房街を出て斡旋所に向かった二人はその途中、広場の一角でアファエルともう一グループがそれぞれ芸を披露しているのを見かけた。アファエルは小さな竪琴を引き鳴らし、その妖精族という種族の珍しさと容姿の美しさも手伝って、素人にしては中々の人だかりとなっていた。もう一方のグループもお揃いの山高帽子とポンチョという民俗衣装に身を固め、民族舞踊を披露してやはりそこそこの人だかりを作っていた。
 イヴルは自分もリュートを取り出し、その演奏に歌を乗せて披露した。その歌声とリュートの音色はアファエルと民族舞踊のグループを圧倒し、忽ちの内に両者の客を奪った。イヴルは芸が終わった後お捻りを取らずに竜の牙亭の宣伝だけをして去って行った。それはそれで嫌味であったようで、民族舞踊のグループはイヴルのほうを睨つけていた。が、当の本人は全く気にしていなかった。
 そんなイヴルとクサナギにアファエルが話しかけてきた。そして二人が斡旋所に向かっていることを知ると、さっきの宝捜しの仕事の話を聞かせた。それを聞いたイヴルは興味を示した。うまくすればダイ・ザッパーの改造費用を稼ぐことができるかもしれないのだ。
「で、その仕事はいつからだ?」
「まだ、依頼主の人とは会ってないんですよぉ〜。来るのは夕方だそうですぅ〜」
 夕方まではまだ時間があった。三人はそれぞれ時間を潰して過ごすことにした。
 クサナギとイヴルは操兵専門の部品屋に足を運んだ。何か掘り出し物がないかと考えたからだ。ここは主に中古の品や発掘品を再利用した部品を取り扱っている店[タフルの部品屋]という店である。規正の部品なら操兵修理工房でも良いのだが、こういうところのほうが時折何が出てくるか分からないので、操兵乗りには人気があるのだ。
 店の主人タフルと思われるゴーグル男が二人を見るなり話しかけてきた。
「筋肉筒はいらんかい?掘り出し物が入ったんだ」
 クサナギはその言葉を遮り、何か質の良い手甲はないか、と訪ねた。能力的には限界近くまで改造強化を重ねてきたエルグラーテは、これ以上強化する余地は殆どなかった。そこでクサナギは、今度は装備面での強化を考えていた。今クサナギが欲しいのは操兵用の手甲であった。これを取りつければ、操兵の繊細な部品の一つである手首の破損を防いでくれる。だが、その分重量が嵩み、機体の機動性が低下してしまう。
 そこでクサナギは、できればセラミック性の手甲がないかどうかを捜しに来たのだ。それを聞いたタフルは「何だ、それならあるぞ」といってクサナギを店の奥に案内した。そしてタフルはクサナギに、二種類のセラミック製手甲を見せた。一つはクサナギの求めていた軽量型のもので、細かい工夫によって指の動きも制限されないという優れものであった。
 だがクサナギは、もう一つのほうにも興味を示していた。これももちろんセラミック製なのだが、こちらは先ほどのものと違って重量がある。だが、その分頑丈、大型で、手首とともに二の腕までも守ってくれるというものであった。要するに小型の盾のようなものである。しかもそれでいて、機動力の低下は市販の手甲と同じ程度だというのだ。
 クサナギはどちらを装備するべきか迷ったが、タフルから金額を聞いて考えを切り替えた。選ぶにも先立つものが必要であるからだ。その価格は両方とも金貨30枚。買えない額ではなかったが、今後のことを考えるととても払えなかった。
 一方イヴルは、タフルの言っていた筋肉筒が気になった。そしてタフルにそれを見せてもらうように頼んだ。タフルが見せた筋肉筒は古代の遺跡から奇跡的にもパッケージングされた状態で発掘された[古の未使用品]で、これを装備すれば機体の膂力がかなり上昇するという。イヴルは金貨20枚という価格を聞いて、ますます宝探しに興味を示した。こうして二人はアファエルに聞いてこの場にやってきたミオに呼びかけられるまで、ずっと悩み続けていた。