
|
夕方になって一行は、斡旋所を訪れた。アファエルも昼間の上がりをナバールに収めたその足で一行に合流していた。係員に促された一行が斡旋序の二階へと上がると、そこには既に依頼主と思われる青年が一行を待っていた。 「やぁ、君たちか、私の依頼を受けてくれる人たちは……」 この貴族のような物腰で話しかけてきたこの青年はリサーム・ラウナスと名乗った。自分の家が元はマザの貴族であったのだといい、確かに言われてみれば、かなりくたびれてはいるものの着ている服は立派なもので、その物腰、言葉づかいも貴族のそれであった。 リサームは一行が席に着くと、自分が探そうとしている宝について話し始めた。それは、この都市国家郡に伝わる伝説の一つである、[姫盗賊ジェンヌの財宝伝説]というものであった。 クメーラ王朝時代末期、ゴンドア大陸南部を平定し安定に向かおうとしていたこの時、大陸を股にかけた大盗賊団が現れた。姫盗賊ジェンヌ率いる[姫君の盗賊団]である。 総勢二百は下らないと云われ、大陸すべてを活動範囲としていたこの大盗賊団は、元はクメーラ王朝が大陸平定の際に滅ぼした小国セィンティアの残党が、王女ジェンヌ・セィンティアによって集められ、王国復興のために一旗上げたものであった。そしてとりあえずの資金稼ぎのために、クメーラに仕える貴族、商人などを襲撃し、それによって得た金品を裏で売り払って軍資金とした。 が、所詮勢いだけで結成された組織、やがて本来の目的を忘れてそのうちに完全な、と云うよりは唯の山賊集団と化していった。それでも、襲撃の対象はあくまでクメーラ王朝であったのだが。 それでも、この神出鬼没の盗賊団は大陸全土で暴れ回り各地に数々の伝説を残した。その中でもこの盗賊団の首領である姫盗賊ジェンヌは様々な伝説を残していた。その中には結成から十年経ってもその容姿は少女の頃のままであるとか、幻術のようなもので追っ手を幻惑したとか、背に羽を生やした小さな少女を連れているとかかなり怪しげなものがのがあるものの、残党をまとめただけの組織を何の後ろ楯もなく天下に轟く大盗賊団に仕立て上げた事そのものはまさに驚嘆に値するだろう。そもそもこのジェンヌという姫、その素姓は謎に包まれている。一説によるとこの姫はセィンティアの正当な血筋ではなく、子供に恵まれなかった当時のセィンティア王と王妃が、視察旅行のときに知り合った少女を気に入ったか何かで、養子として迎え入れたのだとも云われている。 だが、そんな大盗賊団も最後は呆気ないものであった。ある日、このゴンドア大陸を巨大な地殻変動が起こったのだ。それは半ば衰退しかかっていたクメーラ王朝を崩壊させるのに十分であった。もしこのとき、この姫君の盗賊団が本来の目的であるセィンティア王国の復興のために行動を起こしていたら、その目的は簡単に達成できたことだろう。 しかし、既に唯の山賊と成り果てていたこの姫君の盗賊団は、地殻変動のあおりをくらってあっさりと崩壊してしまった。仲間は散り散りになり、もはや組織再編は不可能であった。ジェンヌは残された仲間とともに各地を回り、やがて現在都市国家郡と呼ばれるこの地のどこかに今まで集めた財宝の数々を隠した。その総額は金貨にして十万とも百万とも云われているという。そしてそれは[姫盗賊の遺産伝説]として、クメーラ王朝の[王家の操兵伝説]と並んでこの都市国家郡に伝わる有名な伝説の一つとなった。 「……要するに、[おとぎ話]ってわけね」 ミオの冷めた一言を全く気にせずに、リサームは目を輝かせて言葉を続けた。 「確かに、今まではそう思われてきた。だが私は、それが事実であることを掴み、そしてその隠し場所をついに発見したのだ!だが、自分一人では発掘するのはかなり困難だ。そこで、その発掘を手助けしてくれる人物を捜していたのだ!!」 リサームは自分の身の上話を語って聞かせた。リサームは先も説明した通り、元はマザの貴族の家柄であった。が、先代がその財産を食いつぶしてしまい、家が破産して家族は離散してしまった。リサームはそんな家を再興するために、家の家宝である操兵[イスパニオス]を持ち出して無宿渡世の操兵乗りとして全国を旅して廻ったという。 だが、働けど働けど金は溜まらず、家の再興どころか自分の生活の維持すら危うくなってきた。そこでリサームは、旅の途中で偶然知った[ジェンヌの遺産の隠し場所]と云われる場所を発掘することを思い立ち、この街で資金を工面して人手を集めることにしたというのだ。もはやリサームにはこの伝説に縋るしか道は残されていなかった。 その話を聞いたイヴルはあの中古販売所にあった操兵を思い出し、そのことをリサームに話した。 「そうだ。それは夕べ僕が大急ぎで売った操兵だ」 そう言ってリサームは大量のずた袋を卓の上に置いた。それはすべて銀貨が詰まっていた。 「これが発掘資金と君たちへの前金、すなわち僕の全財産だ。何、ジェンヌの宝を発掘すれば、操兵などいつでも買い戻せるし、こんな金などはした金になってしまうんだ!!」 「だが、ジェンヌの宝とやらが本当にそれだけの価値を持つものなのか?」 クサナギの水を差すような一言にもリサームを全く動じなかった。 「……心配ご無用!ジェンヌの宝には、まだ続きがあるんだ!!」 ジェンヌにはこんな逸話も伝わっている。盗賊団の首領となった彼女は一人の青年と恋に落ちた。彼の名はシンディ・バート。元はセィンティア王国の密偵であったが、落ち延びたジェンヌが残党をまとめて盗賊団を結成したときに、その右腕となって奔走したのである。 が、固い愛で結ばれたジェンヌとシンディに悲劇が訪れた。クメーラ軍の追撃隊との戦闘の際にジェンヌをかばってシンディが命を落としてしまったのだ。深い悲しみがジェンヌの心を覆い尽くした。 しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった。まもなく生まれるはずだった二人の愛の結晶であった新たな命も、その産声を上げることはなかった……死産であった。 その後のジェンヌは半ば本来の目的であったはずの王国復活を忘れたように世界中を渡り歩いた。そしてあるものの情報を集めて回った。それは、死んだ我が子を蘇らせる方法であった。やがてジェンヌは、いくつかの手段、秘宝に関する情報を手に入れた。 その一つは、リダーヤ聖教の奇跡の秘宝と云われる[聖・アトランジェの聖杯]、もう一つは、所持するものに永遠の命を与えると云われる[永久の宝珠]、最後はあらゆる病を癒し、死さえも克服するという[御仁の角]。ジェンヌはこれらの秘宝中の秘宝と呼ばれる品々を捜して回った。 だが、[聖・アトランジェの聖杯]はリダーヤ聖教の総本山[リディア・ファミリア]の奥に安置されているために威かなジェンヌと言えど手の出るものではない。また、[御仁の角]も樹界の奥に住まう[御仁]から奪わなければならず、不可能に近い(現代になって一つの例外は生まれたが)。ジェンヌは残る一つの秘宝である[永久の宝珠]にすべてを掛けた。 そして様々な苦難を乗り越えてジェンヌは、とうとう望む宝珠を手にすることが出来たという。だが、本当に子供が生き返ったかどうかは定かではない。その前に地殻変動が起きてしまったためにその後の記録が残されていないためである。 しかし、これだけははっきりしている。その後[永久の宝珠]は、ジェンヌの残した財宝とともに隠されたということだ。 「もし、この宝珠が発見されれば、これだけでも国一つが買えるほどの価値になるんだ。僕の家の再興も、君たちへの報酬も思いのままだ!!」 そう叫ぶリサームの瞳は既に金貨と宝石に変わっていた。まともに話のできる状態ではなかった。 一行はこの眉唾な話に悩んだが、どうせすることもなかったし、クサナギとイヴルは大金が欲しかった。そして考えた末にこの仕事を承諾することにし、その旨をリサームに伝えた。それを聞いたリサームが大喜びしたのは云うまでも無い。 「本当かい、いや、有り難う。早速だが……」 と、発掘の段取りの打合せを始めようとした。が、その時何者かが窓を軽く叩いたのである。ここは二階。普通窓の外に人などいるはずがない。まさか、この話を何者かが聞きつけ、宝を横取りしようとしているのでは……。 イヴルは腰の拳銃を引き抜いてゆっくりと窓際に近づいた。そしてその窓に手を掛けようとしたその時、聞き覚えのある少女の大きな声が部屋中に響いた。 「あのぅ、宝捜しの仕事の依頼はまだ間に合いますか?」 イヴルが銃をしまって窓を開けると、イヴルの視界いっぱいに巨大な少女の瞳が飛び込んできた。そこには御仁姫モ・エギがかがんだ姿勢でこの部屋を覗きこんでいた。御仁姫であるモ・エギはご存じの通りの大きさなので建物に入ることができずにいたのだ。 「モ・エギ、そなたなぜ、金など必要なのだ?」 クサナギの疑問はもっともである。モ・エギは食事を必要とせず、この街を救った英雄、そして工房都市の得別な紋章の持ち主ということもあって現在住み家としているガレージなども無料で使用できる。しかもそれでいてモ・エギ本人も土木工事などで稼いでおり、(操兵サイズで繊細な作業が可能なので)下手な操兵乗りより収入があるはずなのだ。彼の問いにモ・エギは微笑みながら答えた。 「実は、いい加減ガレージでは住みずらいので、町外れにでも自分の家を建てようと思って大工さんのところに行ったんです。ところが、その見積りが予想以上の金額だったもので……」 まあ、当然である。モ・エギほどの大きさの巨人が暮らす家となるとかなりの大きさになる。たとえ縦穴式住居でも相当の手間と材料が必要となるのだ。そんなときにモ・エギもまた斡旋所の立て看板を見て、この仕事で一山当てようと思ったのだというのだ。 モ・エギを加えた一行は打合せを始め、まずは必要なものを買い揃えるところから始めることにしてとりあえずは解散、早速街へ買い出しに出かけた。リサームの話によると目的地にも街はあるのだが、そこは発掘を生業とした街のようなので装備も割高であるだろうと判断したのだ。 が、その買い物の途中、ちょっとした騒動が起きた。 「ふぎゃああああああああっ!」 ご婦人方に人気のとある服飾店内に、車裂きにされる猫(?)の断末魔にも似た絶叫が木霊した。 「だ、大丈夫なのか?」 クサナギは怖気を奮って連れに尋ねたが、問われた側は涼しい顔である。 「もちろん、店員たちを見なって。平然としたもんじゃないか」 そこはこの道のプロである。"お客様をより美しく"装うために、彼女らは何の躊躇もしなかった。"嫌がる少女を寄ってたかって取り押さえ"、"衣服を剥いで浴槽に叩き込み"、"イモのように茹で洗ってから肌に香油をすりこみ"、"店員の化粧技術の練習台として弄び"…… 「まあ、あの叫び声が店の外にまで響くのは、少々まずい気もするけどね……。」 気がする、どころか大いにやばい。店の戸口にはすでに見物人が溜まり始め、店内でおたつくクサナギと、店の奥から聞こえる絶叫・懇願・罵詈雑言・はては呪詛にまで至る娘の声に注目している。 (な、なぜこのようなことになったのだ?)クサナギは呆然と店の天井を見上げた。確か彼らは遺跡探索の仕事を受け、その支度に商店街に来たはずだった。そう、アファエルが「[ダンジョン]攻略には手鏡が不可欠ですぅ」と主張し、その物色に訪れたこの店で…… 「婦女子には身だしなみが必要、とか言って店員に[アイツ]と金貨を渡したのは……イヴル、やはりこの騒動の原因はそなたではないか!」 ビシィ!と指差すその先には、既に吟遊詩人の姿はなく(とっくの昔に立ち位置を変えて、イヴルはさりげなく他人を気取っている)かわりに見事に"女装の決まった"若い操兵鍛冶見習い〜ミオが立ち尽くしていた。 「わあ、きれいじゃないですかぁ」 恐いもの知らずの異界の住人、アファエル。 「ホント、女の子らしさがあって可愛らしいよ。なあクサナギ?」 火に油を注ぎながら、平然と人を盾とするしたたかな吟遊詩人、イヴル。そして救国の勇者様はあいかわらず生真面目に、徒手空拳でこの脅威に立ち向かうのだった。 「う、うむ。確か…に……」 頷きかけたクサナギの動きが止まった。ミオは笑っている。口元だけで笑いながら、ごく自然な仕草で右手をそばのスツールに掛けている。 「でも、ミオさんは普段のままのほうが[可愛い]ですよ」 そこにモ・エギが割り込んできた。が、モ・エギにとっての[可愛い]という言葉、視点はあまり当てにはならない。彼女にとっては[良い人間]は皆[小さくて可愛い]存在なのだ。ただし、クサナギには[可愛い]以上の感情が芽生えているのだが。 だが、今の状態のミオにその言葉は届かず、かえって火に油を注ぐ結果となった。そんな剣呑な様子に気付かず、モ・エギは言葉を続ける。 「だいたい人間の使う化粧品は肌を痛めてしまいますよ。女の人はもっと、ありのままの自分を大事にしなければ……」 既にモ・エギは自分の世界に浸っており、クサナギにとっても何の助けにもならなかった。そんな中、クサナギは一人覚悟を決めていた。 (手負いの獣ほど恐ろしい相手はいないと、城爺も言っていたな……)いつしかクサナギは人生の走馬灯を鑑賞し始めていた。 この事態を打開したのは、仕掛人のイヴルだった。ミオの注意(「殺意」とも言う)をクサナギにそらし、その死角から滑るように近づいて柔らかく抱きすくめる。 「うきゃァっ!!?」 奇声を上げてミオは反射的に脚を振り上げ(さすがにスツールは重かったらしい……軽ければ使っていたかは考えないほうが良い)、クサナギの向うずねを蹴り上げた。 「ほらほら、そんなに暴れたらせっかくの装いが台無しだぜ?」 クサナギの苦悶など知らぬふりで、イヴルはミオの髪をワシャワシャと撫でる。その手管をいかんなく発揮して、とうとうこれを宥めきってしまった。恐るべき男イヴル、さすが羅・ 諸国連合から密偵として派遣されるだけのことはある(?)。 まだ何か納得していないらしいミオも、これ以上玩具にされるよりましと割り切り、そのままの格好で旅の支度を続けた。まあ、以後の買物の支払が丼ならぬ大鍋勘定になったのを責めるのは、彼女に酷というものであろう。……だが、この時点での出費は実際のところかなり大きく、現在手元には半分ちょいしか残ってはいなかった。 その翌日、すべての準備を終えた一行は、朝早くライバの街を出発した。その目的地は依頼主であるリサーム・ラウナスしか知らなかった。下手に目的地を教えてしまうと、依頼主を出し抜いて宝を先に掘り出されてしまうという判断であろう。 だが一行はそんなことで気分を害することはなかった。そもそも上記のことを忠告したのはイヴルであった。彼はリサームが宝の在りかを簡単に話してしまいそうになったのを見て慌てて止めたのだ。幸い一行以外には話していないようで、それを聞いたイヴルは安堵の吐息をついていた。 目的地まではかなりの距離があるようで、一行は西に向かって四日間旅を続けた。そして五日目の夕暮れ時、一行は目的地であるセランデの町に到着した。 リサームの説明によると、人口約千人程度のこのセランデは、かつては[遺跡の町]と呼ばれていた。この付近で発見される数多くの古代遺跡を大勢の学者、山師が発掘し、それらがもたらす利益によって栄えていたという。だが、その遺跡のほとんどを発掘しきったと思われたころからだんだん人が絶え、現在の寂れた状態になったらしい。 それでも、今まで発見されていなかった遺跡が時折見つかるため、現在でも山師が一獲千金を狙って発掘しに来るという。ここの遺跡は主にクメーラ王朝時代のもので、プレ・クメーラ文明のような操兵、科学技術の類いは期待できないものの、王朝時代の繁栄を忍ばせる物品、財宝の類いが発掘されるのだ。 リサームの求める姫盗賊の財宝はこの遺跡の中の一つにあるという。その遺跡は何度か発掘され、さまざまな学者、山師が調査したが、それなりの宝物は手に入ったもののとても伝説の財宝とは呼べなかった。しかし、その遺跡は不自然なほどに隠し扉の類いが多く、また、その構造からもまだまだ発見されていない部分があると云われ、リサームを含む一部のものたちが伝説の財宝を求めてその遺跡を訪れるという。 一行はその日の宿を求めて一見の宿[古代帝国の扉屋]に入った。リサームは早速店の主人に遺跡についての詳しい情報を求めた。すると主人は、 「……あぁ、その件なら、町の[発掘組合]にかけ合うんだな……」 といって、その場所を教えてくれた。一行は早速その場所に行ってみることにした。 一行は組合の建物に向かう途中、別の山師の集団と出くわした。その集団はだれもが疲れ切っている、と言った表情をしていた。イヴルが景気はどうかと訪ねると、彼らは「これが今日の成果だ」といってずた袋を一行の前に投げ出した。その中には、大量の錆びた鉄製の武具がぎっしりと詰め込まれていた。 「古代の鉄は質がいいからな。溶かして地金に戻せば、それなりに売れる」 そういったリーダー格の男は疲労を隠そうともせずにぐったりと項垂れた。どうやらどこかの遺跡を発掘し、[はずれ]を引いてしまったのだろう。 立ち去ろうとする集団を止めてイヴルは、ジェンヌの遺跡について訪ねた。それを聞いたリーダー格は、 「あんた達もあの[夢]を信じているのか?やめておけ。あの遺跡はこれまでに何度も発掘されてきたが、今までそれなりの宝しか見つかっていない。おそらく、これ以上は何も出ては来ないだろう……」 と、一行に忠告してその場を去った。その言葉にリサームは、 「私はこのジェンヌの財宝にラウナス家の再興を掛けているんだ。決して夢であってたまるものか!!」 と拳を震わせていた。 集団と別れた一行は、かつては立派であっただろうくたびれた建物の前に着いた。その立て札には、[セランデ遺跡発掘組合]と書かれていた。一行はその入口をくぐり、窓口でジェンヌに関する情報を求めた。係員は半分やる気の無さそうに応対した。そして一行にこんなことを言った。 「その遺跡の正確な図面があるんだが……」 「じゃあ、それを見せてくれないか?」 「だが、ここにはない。その図面は、この町の東のほうに住んでいる、カイラムという男がもっている。彼は昔は腕の立つ山師だったんだが、年を取って引退してからは、高い料金を取ってあんた等みたいな山師に図面を見せることで生活しているんだ」 組合事務所を出た一行は、その足で早速カイラムの家に向かった。そして彼の小さな家を見つけると、その玄関の扉をたたいた。 おそらくカイラムであろう男は、むっとした顔で一行を出迎えた。彼は別に機嫌が悪いわけではなく、これが普段からの顔のようだ。一行はカイラムに例の遺跡の見取図を見せてくれるように頼んだ。それに対してカイラムは表情を変えずにこう言った。 「……金貨で二十。それ以上は譲れんな」 金を取るとは聞いていたが、まさかここまで高いとは。一行は渋々その代金を払い、地図を見せてもらった。地図を見ながらのカイラムの説明によると、遺跡は岩山の中腹にある大きな亀裂の奥にあり、まるで神殿のような入口があるという。その入口を入ると操兵でも楽に入れるほどの広い回廊が続いている。回廊の端のほうには上り階段があって、そこを上ると上部の居住区と思われる部分に出る。ここは何度も調べたが、もはやめぼしいものは残っていない。そして回廊の突き当たりには大きな少女戦士の像があるという。 その少女の像は右手には槍を持ち、左足を一歩前に出していかにも歩みだそうとしているかのようだ。右足の側には何故か剣が突き刺さっている。そして何より不思議なのはその左手であった。その胸のところにある左手は、まるで何か大事なものを抱えているかのようだ。が、それが何だったのかは今となっては定かではない。 最初この遺跡が発見されたときはこの遺跡はこれだけだと思われていた。が、ある冒険家が隠し扉が発見し、その中に迷宮のような遺跡が続いていることがわかった。その迷宮にはわずかながら宝があったが、とても伝説の財宝と言えるものではなかった。 だが、隠し扉の巧妙さと宝の価値が釣り合わないことがかえってこの遺跡の謎を深めていき、幾人もの冒険家や山師などがたびたび遺跡を調査した結果、この迷宮の奥に六ヵ所ほど巧妙な隠し扉が見つかった。しかし、どの扉を通ってもこの迷宮の最深部と思われる部屋にたどり着くことはなかった。発見される宝物があまりにも中途半端すぎることから、おそらくこの宝は囮で、遺跡の中にはまだ隠し扉の類いがあるのであろう。 「そうそう、この部屋があやしいんだ」 カイラムはそう言って、一ヵ所の小さな部屋を指した。そこには入口のほかにもう一つ、別の扉が記されていた。が、何故かその扉の向こう側は何も描かれてはいない。場所が迷宮の端のほうゆえに、どこにどう繋がっているか推測もできない。 「……今までその扉の中に入ったものはおったが、なせか知らんが、皆その奥について何も語ろうとせんのだ。しかもその話を持ち出すと何故か腹まで立てる。まるで馬鹿にされたかのようにな」 さらにカイラムはもう一つ、遺跡の入口の奥に古代語の碑文が刻み込まれていることを一行に教えた。その意味は自分では分からないという。 イヴルは老人に、最近自分たち以外で地図を見せた人物はいないか、と訪ねた。すると老人は、若い冒険家の男女と、山師の集団に見せた、と答えた。どうやら、競争相手が二組もいて、しかも既に遺跡に向かったらしい 一通りの説明を聞き終えて一行が礼を言って立ち去ろうとしたとき、カイラムは一行にこう、忠告した。 「人間は思わぬ財宝を得たとき、豹変するものだ。数年前もその迷宮で宝を見つけたものが仲間割れ、同士討ちで果てたと云う。しかもその際、どこかの部屋に罠まで仕掛けたらしいのだ……」 情報を得た一行は、とりあえず今夜は休むことにして宿に戻ろうとした。その時、一人の老人がすれ違いざまおもむろに一行を指さし、呼び止めた。 「……お主達、[あの遺跡]に行こうというのか……!!」 クサナギが何故そのことを知っているのか、と訪ねると、老人はカイラムの家の方を指さして、 「あの家に行ったのだろう……。たいていはそうだ!」 と指摘した。そして一行にこう忠告した。 「が、止した方が良い……。お主達はあの遺跡が姫盗賊の財宝の隠し場所だと思うておろうが、そうではない。あの遺跡には、古の時代に封印された[魔神]が封じられておるのだ。もし、それを開放したら、この世は終わりだ……!」 「一体、その魔神とは何なのだ」 クサナギの問いに老人は、まるで一行を脅すかのようにその正体を告げた。 「……それは、恐ろしい[御仁]だ……!!」 それを聞いたイヴルは大急ぎで操兵駐機場からモ・エギを呼んで戻ってきた。が、モ・エギを見た老人は特に驚きもせず、 「……儂が言っておるのは、こんな[でかい女子]ではない」 と、全く驚きもせずにモ・エギを見上げた。そんな老人の視線にモ・エギは戸惑いを隠せずに苦笑いを浮かべて頭を掻いた。彼女にしてみれば自分を驚かないこと自体は喜ばしいことのはずである。だが、最近モ・エギは自分を見た人間をなだめることそのものに快感を覚えるようになってきた。特におびえる子供は掌に乗せてなだめるととても[可愛い]のだそうだ。それゆえに、この老人のような反応をされると拍子抜けしてしまい、何か物足りないのだ。 老人はそんなモ・エギにお構いなしに話を続けた。 「……あの遺跡に封じられている魔人は、[人の手によって造られた御仁]と聞き及んだことがある。いかなる操兵、いかなる武器、いかなる秘術を用いても仕留めることかなわず、それでもようやくの思いでこの遺跡に封じられたと聞き及んでいる」 「でも、どうしてその遺跡に魔人とかが封じられているなんて、あんたが知ってるのよ!」 と、叫ぶミオ。それに対して老人は遠い目をして、 「……儂の祖父さんが昔、あの迷宮の謎を解いて本当の深部にまで潜り、そこで鎖に繋がれた、まがまがしい一つ目の巨人を見たんじゃよ。祖父さんは、魔神がそこから出られないように迷宮を元どおりにして、その秘密はだれにも明かさず墓場まで持っていってしまったんじゃ」 そこまで話した老人は、一行に「いいか、遺跡には絶対に行くなよ!!」と再度忠告してその場を去った。 老人がいなくなった後、アファエルがリサームに、 「あんなこと言ってますけどもぉ、やっぱり行きますかぁ?」 と問いかけた。リサームは特に悩むこともなく、 「当たり前だ!私は信じている。あの遺跡にはジェンヌの財宝が眠っていると……!!」 と、決意を新たにしていた。 その後一行は宿に戻り、明日に備えて体をゆっくりと休めることにした。宿の一階の酒場では先ほど出会った集団がやけくそじみた祝宴を上げていた。その時アファエルが場を盛り上げるために竪琴を取り出して一曲奏でたが、周りの叫び声が大きく、その音はだれも聞いてはくれなかった。 |