キャンペーン・リプレイ

第 二十五話 「 姫 盗 賊  秘 宝 の 迷 宮 」  平成12年4月10日(日)

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 ちょうど一行が大広間を調べていたころ、一人モ・エギは退屈そうに像に凭れ掛かっていた。一度はアルバーととメリアの兄妹が来たので退屈しなかったのだが、彼らが帰った後は時折一行が変な隠し扉から出てくるぐらいで誰とも合わなかった。モ・エギがそのあまりの退屈さに兜を脱ぎ、誰もいないと思っておもいっきり欠伸をすると、入口のほうから悲鳴のようなものが聞こえてきた。見るとそこには、先ほど一行と出会った山師たちがモ・エギを見て仰天していた。彼らはどうやら、と言うよりは当然ながら、本物の[御仁]を見るのは初めてであった。
 ちょうど良い退屈しのぎだと思ったモ・エギは、その場にうつ伏せに寝転び、山師たちに向けて、笑みを浮かべながら戦鎧の長い右腕を伸ばした。そしてそのうちの一人を掴み上げると、自分の顔の側まで近づけた。それを見たほかの山師たちはそれでも宝物の詰まったズタ袋を捨てずに一目散に走り出した。それを見たモ・エギは、
「ちょっと待って!別に取って食べようってんじゃないんですから、ちょっとお話したかっただけなのにぃ……!!」
 と、慌てて呼び止めた。が、彼らは振り返りもせずに遁走した。仕方なくモ・エギは一人残った山師も開放した。モ・エギの手から放れた山師は、大急ぎで仲間の後を追った。
「少し、脅かし過ぎたか、な……」
 モ・エギは頭を掻きながら反省し、そして再び像の側に凭れ掛かった。確かに今のモ・エギの行為は何の免疫の無いものにとっては強烈であったであろう。だが、もしこのとき山師たちがモ・エギと一緒にいたら、この後の惨劇に出会うことはなかったのかもしれない。
 そのころ、イヴルと別れたクサナギ、ミオ、アファエル、リサームは、地図上で予想できる次の隠し部屋のある場所に行く途中、その前にほかの部屋を見てみようと思い、この区間の中央部分の一ヵ所、地図上では隠し扉になっている部屋に赴いた。
 一行がその部屋についてみると、不思議なことにあるはずの扉が消えていた。今まで、明かされた隠し扉は再び隠されていることはなかった。これはおそらく、以前に来たものが何かしらの理由で再び隠したのだろう。一行はその隠し扉を開いてみた。
 隠し扉を開けるとそこは、向かって左に伸びている細い通路であった。除き込んでみると、奥に何かが倒れている。一行が油断なく近づいてみると、それは死後二、三年はたっているであろう木乃伊化した死体であった。死因は銃弾によるものらしい。そしてその死体は、反対側にある扉のほうを向いて倒れていた。状況からすると、扉の向こうから何者かによって狙撃されたようだ。
 だが、これが迷宮の罠によるものとは考えにくい。何故なら、銃、そして火薬が発明されたのは古くてもせいぜいが三百年程度。この遺跡がジェンヌのものだとすると、作られてからざっと七百年以上は溯るはずである。それに、今まで一行が見てきたこの迷宮の仕掛けは、そのすべてが一時的に捕獲するものか、あるいは[振り出しに戻し]たり、または長い迷宮で疲労感を誘うものばかりである。しかも小出しに宝物を出して囮とするなど、全く無駄に終わらせないようになっているところからも製作者の意図がわかるというものである。
 しかし、これが罠だとすると明らかに殺意をもっているのが見える。この迷宮では初めてみるもので、それがかえって違和感を感じさせるのだ。
 とりあえず開けてみればわかる。そう考えたアファエルは、クサナギとミオの忠告を聞かずにこの時に限って何も考えずに扉を開いた。今まで何もなかった、あるいはあっても特に危険のないものばかりであったので、そこから生じる油断であったのだろう。だが、すぐにその考えは間違いであったことに気づいた。手遅れではあったが。
 アファエルが扉を開いたとき、突如迷宮中に一発の銃声が轟いた。そして一発の銃弾がアファエルを襲った!不意を突かれたアファエルはその攻撃を回避し切れず、その銃弾をまともに受けてしまった!!
 幸い銃弾はアファエルの肩を掠めただけで、その怪我も大事には至らなかった。反射的にクサナギが長銃を扉の中に向けると、中には銃を構えた男が一人いた。が、驚くべきことにそれは、既に木乃伊化している死体であった!!とりあえずそれ以上は撃って来ないものの、空洞になった眼窩はまるで、一行を恨みの目で見ているかのようだ。
 ミオが部屋の中を覗き込んでみると、その仕掛けの全容がわかった。実際には木乃伊が銃を撃っているわけではない。台座に固定されているのはレバーアクションの銃で、しかも再装填レバーを引くと同時に引き金も引かれるという[ランダルカスタム]と呼ばれるものであった。仕掛けはこの銃のレバーを針金で扉に結び、誰かが開けるとレバーが動いて銃が発射される、という単純なものであった。もし、今扉を閉めたらレバーが戻り、銃は再び発射可能状態に戻るようになっているという訳である。
 ミオはその仕掛けの元である針金を切った。これで銃は発射しない。一行がその部屋に入ってみると、その奥には銃と木乃伊のほかに大量の宝物、宝剣数本、王冠、首飾りなどの細工物、絵画数枚、彫像、チェス盤と駒などの丁度品が沢山置いてあった。おそらく、この部屋ばかりではなく、この木乃伊の仲間がかき集めた宝物という宝物がが集められているのであろう。 
 おそらくこれは、カイラムの言っていた[仲間割れ]で死にかけた山師が、宝物を取られないように死に際に仕掛けた罠であろう。外の死体は不幸にもこの罠にかかって死んだかつての仲間かもしれない。

 さてその少しあと、入口の回廊に戻ってきたイヴルは、遺跡の入口に立ち、おもむろに結印を始めた。その光景を見たモ・エギは不思議がった。
「……このことは、みんなには黙っててくれよ」
 その一言にモ・エギは何もわからないまま頷いた。それを見たイヴルは安心して結印を始めた。イヴルが掛けようとしている練法は[静空環]と呼ばれるもので、三刻ほどの間は気流の流れを読んで侵入者の存在を感知するものである。イヴルは先の[目玉海月]を警戒していた。あれがクサナギ達の言っていた奇面衆だとしたら、このまま只で済むとは思わなかったからである。
 術を掛け終えたイヴルはおもむろに外を見た。その時イヴルは、そこでとんでもないものを見てしまった。先ほど出会った山師達が全員死んでいたのである!しかもその死体はすべてが何か刃物のようなもので無残にも全身が切り刻まれていたのだ!!モ・エギもその様子を見て言葉を失っていた。

 そのころ一行は、おそらく最後であろう区間に来ていた。そこは先ほど山師達と出会った区間と全く同じ構造になっており、中の大広間の隠し扉にはやはり碑文が隠されていた。[まず、左足を扉に向けよ]。これですべての手順がわかった。
 一行は最後に必要な[何か]を取りに行くために[右手の]区間に戻った。そして、そこでもう一度念入りに探索してみると、やはり側面、[左手の]区間との間に隠し扉があった。そしてその中には、石でできた赤子の人形。おそらく、[両手に抱えしこの願い]とは、[生きて母の腕に抱かれたい]という願いだったのであろう。
 一行が人形をもって入口に戻ってくると、イヴルは先の惨殺死体を指さした。そのあまりにもすさまじい光景に言葉を失いながらも様子を詳しく見てみると、どうやら一瞬にして殺されたようで、その山師達の表情は自分たちの身に何が起きたのか全く理解していないようであった。そして周りには、これまた無残に壊れたり傷ついたりしている宝の山……。これを見ても殺戮者の目的が単なる宝の横取りという訳ではないことがはっきりとわかる。
 その時クサナギは、昨日出会った老人の[遺跡にふうじられし魔神]の話を思い出した。少々辻褄が合わない気がしないでもないが、彼の話によると、その老人の祖父がこの謎をすべて解き、その真の隠し場所の奥で見たらしいという。ひょっとしたら、奇面衆(と思われる目玉海月)の目的は、その[魔神]なのであろうか。
 だが、その中でリサームは一人、
「そうか……その奇面衆とやらの目的は[ラウナス家の再興]の妨害なのかも……いや、そうに違いない!!おのれ、私はそのような妨害などには決して屈っしないぞっ!!」
 と、勝手に盛り上がっていた。
 一行はとりあえず、今まで集めた碑文の通りに像を動かしてみることにした。まず最初に、手に入れた赤子の人形を開いている左腕に乗せてみる。人形はぴったり嵌まり、それと同時にカチッと何かが外れる音がした。モ・エギが像を回してみると、それはゴロゴロと何の抵抗もなく回り、それと同時に槍の先も回った。どうやら、これが宝の在りかを示すようだ。
 続いて一行は、モ・エギに像の[左足を扉に向け]させ、[頭上の目印]である太陽の紋章を目盛りにしてまずは[右に八]度回し、つぎに[左に五]度回した。そしてアファエルが[右足の剣を最後に]倒してみる。剣は今度は少し抵抗がかかって倒れ、ガチッという重い音が響いた。が、それだけであった。
 イヴルが槍の穂先を見てみると、それは何故か地面を指していた。が、扉のようなものが開いたわけでもない。いったいこれはどういうことなのだろうか。
 その時、モ・エギがおもむろにその像を持ち上げた。するとその下には、梯子のかかった地下道への入口が現れた。どうやらこの像そのものが鍵であり、扉であったようだ。これでこの回廊が操兵で入れる理由がわかった。
 とりあえずこれで最後であろう入口は開いた。入口が開くと、そこからは地下水脈の音がはっきり聞こえてくる。中が直接水脈につながっていると厄介だと考えたイヴルが石を落としてみる。が、石は少し経ってから、カラン、と乾いた音を立てて底に落ちた。しかし、中がどうなっているのかわからないことも確かである。そこで、その縦穴にまず身軽なアファエルが降りて様子を見てくることにした。
 アファエルはゆっくりと梯子を降りた。そして何事もなく底に着くと、永久ランプをかざして中の様子を調べた。そこは大きな広間になっており、その奥には大きな両開きの扉があった。水脈の音はそこから聞こえてきた。
「大丈夫みたいですぅ……!」
 というアファエルの声に一行はモ・エギに見張りを任せて自分たちも縦穴に降りた。そして大きな扉の前に立ち、そのノブに手を掛け、押し開いた。その中は当然真っ暗で何も見えなかった。だが、その奥に何か巨大なものが蹲っているのが微かに見えた。それは、明らかに操兵程の大きさもある鎖に繋がれた[巨人]であった。
 一行が一歩その部屋に足を踏み入れたとき、突如部屋中に怪しげな光が灯り、その巨人を照らした。それと同時に、その巨人がゆっくりと立ち上がった。それは明らかに操兵とも[御仁]とも異なる不気味な姿をしていた。両手両足、胴体の一部はおそらく金属製であろうが、その他の部分は妙に光沢のある金属とも布地とも言えない不思議な素材で包まれていた。そしてその顔はただ、一枚のゴーグルが覆っているだけであり、表情や感情とかは全く読めなかった。
 立ち上がった巨人は鎖に繋がれたままゆっくりと一行に向かってきた。このままでは全く対抗手段のない一行は、大急ぎで扉を閉めた。だが、どの道このままだと鎖を引き千切ってこちらに向かってくるのは明らかであった。が、扉を閉めてしばらく経つと巨人の足音が止んだ。侵入者を撃退したと満足したのか、それとも扉に魔力でもこもっていて巨人の動きを封じたのか。果たしてこれが、老人の言っていた[魔神]なのだろうか。そしてこの遺跡は本当に[魔神]を封じておくためのものなのだろうか。
「どうしたんですか?」
 一行の騒ぎ声を聞いてモ・エギが覗き込んできた。だが、一行の事情を聞いてもモ・エギには何も出来なかった。この縦穴の大きさは中途半端なもので、操兵やモ・エギはこの穴に入ることは出来ない。故に、現在の状況ではあの巨人に対抗する手段は全く無いと言っても過言ではなかった。
 イヴルはこのとき、その巨人に心当たりがあるのを思い出した。それは、僧正の元での修行中に見せてもらった絵巻の中にあった。その巨人の姿はまさにその絵巻にあった[仁機兵]の姿であったのだ。だが、クサナギ達の見たものとだいぶ形が違う。それもその筈、クサナギ達の見たものは素体状態のもので、この遺跡にあるものはその上に特殊な外装を被せたものなのだ。
 とにかく、このまま何もしない訳にも行かない。仁機兵も操兵同様仮面が弱点であることは以前の戦闘で明らかになっていた。クサナギ、イヴル、ミオ、リサームはそれぞれ銃を、アファエルは短弓を構えた。そして再び扉の前に立ち、その扉を開いた。巨人が鎖で縛られているうちにケリを着けてしまうつもりなのだ。もっとも、以前の戦闘において仁機兵は、その口から凄まじい威力の閃光を放っていたので、もしそれを使われたら一溜りも無いのだが。
 扉を開くと、巨人は最初に縛られていた場所に戻っていた。そして一行が部屋に踏み込むと再び先ほどと同じように立ち上がり、そして先ほどと同じようにこちらに向かってきたのだ!それを見た一行はふと何か気付いたようで、再び扉を閉め、そしてまた扉を開けた。すると、巨人は律儀にも先ほどの位置に戻っており、そしてまた、先ほどと全く同じように立ち上がった。
 それを見たミオは、自分たちが見ているものは幻ではないか、と思い始めた。が、伝わってくる振動は本物である。どうやら幻ではないらしい。
 その時、イヴルとアファエルがおもむろに開けた扉の裏側を見た。するとそこには、沢山のカラクリが仕掛けられていた。そしてそれはすべて、壁伝いにあの巨人に繋がっていたのである。一行が寄ってたかって仕掛けを壊すと、巨人は動きを止め、周りの光も消えた。
 やはり巨人はカラクリ仕掛けの人形だった。周りの光も、それを悟らせないために出たら目に光り、その影によって動きを不気味に演出していたのだ。巨人を縛りつけていた鎖も実は巨人を動かす伝達機関だった。見るとこの部屋には様々なカラクリの仕掛けが施されており、それらの一部は天井まで伸びていた。そしてそれらのカラクリの動力源は、どうやら部屋の脇にある地下水脈を利用した巨大な水車のようだ。おそらく上の昇降機などもここから動力をもらっているのだろう。
 だが、それでもこの巨人の正体は皆目見当がつかなかった。確かにその中身はカラクリ仕掛けなのだが、その外装はやはり未知の材質でできているのだ。おそらく、仁機兵用の外装であることは間違いない。いったいこの迷宮の主(おそらくはジェンヌ)はどういう経緯でこの外装を手に入れたのだろうか。
 しかし、そんなことはリサームには関係ないようで、彼は巨人を無視してさっさと部屋の奥に入っていった。一行もそれを慌てて追う。巨人のカラクリ以外にも何か仕掛けがあるかもしれないのだ。
 広間の奥には階段があった。そして階段の上のほうには両開きの扉。これが最後の扉だろうか。一行がその階段を登ろうとしたとき、その階段のうち一段に、碑文が書かれているのを見つけた。[今、汝等登るは遺産への入口なり]。
 その碑文を呼んだリサームはますます興奮し、その扉を開けようとした。アファエルはそれを必死で止めた。これが最後の扉だとすると、どんな仕掛けがあるかわからない。ここは逸る気持ちを抑え、慎重にならなければならない。
 アファエルはまず、罠がないかどうか調べた。が、あちこち調べても何の仕掛けもない。そして今度は鍵を開けようとしたが、これまた鍵など掛かってもいなかった。アファエルはわざわざ長い棒を持ってきて、それで扉を離れた位置から押し開いた。が、何も起こらない。ただ開いただけだ。
 扉が開いたのを見るやリサームは居ても立っても要られなくなり、早速その部屋に入ろうとした。が、それをイヴルが止める。そんな光景を横目にアファエルは慎重に部屋の中に入っていく。が、その中には箱が一つあるだけであった。これが[遺産]だとしたら、あまりにもお粗末すぎる。だが、[永久の宝珠]であれば話は別である。その神秘の宝珠ならば、それ一つで家の再興どころか都市国家一つ丸ごと買えるほどの価値を持っているのだ。
 アファエルは今度はその宝箱を調べ始めた。だが、この箱にも罠どころか鍵一つ掛かっていない。それでもアファエルは油断する事なく箱から離れ、先ほどの長い棒で箱の蓋をつっついて開けた。箱は思いの外軽く、つっつかれた途端、蓋が開いた勢いでそのまま倒れた。アファエルは再び棒でつっつき回し、箱を元に戻してその中を慎重に覗き込んだ。
 箱の中には一枚の紙が入っているだけであった。その紙には古代クメーラ文字で何かが書いてある。イヴルがそれを受け取り読んで見る。だが、その内容はしばらく伏せた。中身が紙一枚だったことで混乱しているリサームをさらに激怒させるに十分だったからである。[真の宝とは、飽くなき探究心なり]。まるで三流落語のオチである。
 結局、自分たち、いや、今までこの迷宮の謎を解こうとしてきたものたちがこれまで味わった苦労は何だったのだろうか。そんなことを考えながら一行は、脱力感に包まれながらもその場から引き上げようとした。が、その時クサナギが突如、彼にしては珍しく声高らかに笑い出した。その光景を見た他の一行は、あまりの結末にクサナギが気でも狂ったか、と思った。が、クサナギは笑いを堪えてこう言った。
「い、いや、違うんだ……。さっきの碑文の謎が解けたのだ……!!」
 クサナギの考えはこうだ。[今、汝等登るは遺産への入口]という言葉だが、これは扉を指しているのではなく、その階段そのものを指しているのではないのだろうか。そう、碑文には確かに[入口]と書かれているのだ。もし、扉を指しているのならば、[道]もしくば[階段]と記されているはずなのではなかろうか。
 その考えに基づいて一行は、もう一回階段を調べてみることにした。だが、どんなに調べても、隠し扉の類いは見つからなかった。そこにはただ、石で組まれた[だけ]の階段があるだけであった。そう、何の漆喰もされていない、石を積み上げただけの階段が。
 この階段を退かせば何かある。そう考えた一行だったが、この大量の石を退かすとなると大事である。ここに居る人手と今持ち合わせている道具ではどうすることもできない。せめて操兵かモ・エギでも連れて来られれば……。
 その時、ミオがおもむろに先の巨人のカラクリの修理を始めた。そして巨人の足にロープをくくりつけ、その先にフックを取りつけた。巨人を使って石を退かそうというのである。やがて作業は完了し、巨人は再び動き始めた。しかし、接続が不完全だったのか、ただ両手を降って歩く仕種をするだけであった。が、それで十分であった。巨人は軽やかに歩き、その動きを利用して石が次々と退けられていった。その姿はまるで行進曲でも似合いそうだ。
 そして石はすべて取り除かれ、その内側の部屋が明らかになった。そこには、今まで見つけたものがすべて瓦落多に見えてしまうほどの宝の山が出現した。それはまさに、圧巻と言うにふさわしいもので、まさに[伝説の遺産]であった。それを見たリサームは飛びあがらんばかりに喜んだ。
「これで……これでラウナス家の再興は叶ったも同然だぁぁぁーっ!!」
「……まぁ、[再興]ですわね……(最高ですわね)」
 ……………迷宮に空っ風が吹いた、ような気がした。居ないはずのホセに代わってアファエルが吹かせたのだ……。
 気を取り直した一行は、その宝の間のさらに奥へと足を踏み入れた。最大の目的である[永久の宝珠]を捜すためだ。やがて一行は、部屋の奥に何か淡い緑に輝くものがあるのを見つけた。
 それは、小さな箱から漏れていた。が、それはどう見ても柩にしか見えなかった。一行がその箱の側まで来てみると、その箱には蓋がなく、中を見ることができた。そしてその中には、小さな赤子の死体が入っていた。いや、本当に死体なのだろうか。その赤子はとても数百年前のものとは思えず、ちょっと揺さぶれば今にも起き出しそうである。その赤子の手には緑に輝く宝石が握られていた。おそらくこれが、[永久の宝珠]であろうか。
 一行はめざす宝珠を前にして迷った。果たして、この赤子の抱く[宝]を取っても良いものなのかどうか。
「僕は……取りたくないな……」
 イヴルがボソッと呟く。その言葉は、この場の全員の気持ちを代弁していた。クサナギ、ミオ、イヴル、アファエルは神妙な表情で依頼人であるリサームを見た。この宝珠を取るか否かは彼の判断にかかっているのだ。
 リサームは赤子の柩の前に立った。そして一行に向かってはっきりとこう言った。
「僕の家の再興には、ここにある財宝だけで十分だ」
 少し間をおいて、リサームは最後にこう、付け加えた。
「…………これは[ジェンヌの取り分]だ……!」
 一行はその言葉に同意した。と、
「……やれやれ、とうとう見つかってしまったわい……」
 突然聞こえた老人の声に一行は振り返った。見るとそこには、どこから入ってきたのだろうか、昨日出会ったあの老人がいつの間にかそこに立っていた。まるで、ずっとそこにいたように……。老人を見たミオは、おもむろに銃を取り出し、そしてふだん使わない実弾を装填した。ミオは老人を奇面衆の一味だと思ったのだ。
 だが、老人は穏やかな声でこう言った。
「……じゃが、[永久の宝珠]に手を出さないでくれたことは感謝するべきかな………今の私にとっては、その宝珠と[娘]だけが[宝物]ですもの」
 老人の声が途中で若い女性のものに変わった。そして老人がその手を顔に当て、何かを剥がす仕種をするとそこには、[母は真の〜」の広間にあった絵画に登場するものと全く同じ姿の少女が……おそらくは[姫盗賊ジェンヌ]その人が立っていた。