キャンペーン・リプレイ

第 二十五話 「 姫 盗 賊  秘 宝 の 迷 宮 」  平成12年4月10日(日)

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 一行は驚いた。姫盗賊ジェンヌは何百年も前に死んだはずの人物である。リサームは思わず魔除けの印を組み、ミオなどは思わず銃を取り落とし、どこで覚えたのか念仏のようなものを唱え始めた。祟られると思ったらしい。だが、ジェンヌは敵意を見せる事無く一行に微笑んでみせた。が、その笑みはどこか寂しげであった。
「その娘は、私とシンディの愛の証……。でも、生きて生まれてくることはなかった。私は、その子だけでも生き返らせようと、永久の宝珠を捜した……」
 ジェンヌは、その小さな柩の前に来ると、中で[眠る]最愛の娘の頬に手を伸ばし、そっと触れた。そして、寂しげな笑顔で娘の顔を見ながらこう言った。
「結局、宝珠はこの子を生き返らせることは出来なかった。あるいは、聖杯や角を使っても同じだったのかもしれない。でも宝珠は、この姿を永久にとどめておくことは出来る。だから、私はこの子を永遠に残すことにしたの。私とシンディの唯一の愛の証として……」
 ジェンヌは笑顔に戻って再び一行に振り向いた。
「その宝物はあなたたちにあげる。私は、この子とともにここで過ごすわ。永遠に、この子とずっと……」
 アファエルは彼女が何者か改めて聞いてみた。彼女の存在が、幽霊にしてはあまりにも現実的すぎるからであった。
「ひょっとして、貴方も私と同じ、妖精族なのですかぁ……?」
 アファエルの尖った耳を見せられたジェンヌは困惑の表情を浮かべた。どうやら彼女は妖精族を見たことは無いらしい。
「まぁ、地縛霊みたいなものかな。でも、いいじゃない別に。幽霊だからって、何もわざわざ半透明になって、おどろおどろしく出ることはないんじゃないかしら」
 そう言って笑うジェンヌは、とても子供を産んだ女性とは思えなかった。その表情はまるで無邪気な少女だ。だが、再び娘の寝顔に向けた笑顔は一転して、母のそれになっていた。果たしてどちらが本当のジェンヌなのであろうか。まぁ、この正体不明のミステリアスな雰囲気があったからこそ、[伝説の姫盗賊]として後世にその名が残ったのであろうが。
 一行はそんなジェンヌに別れを告げてこの場を去ろうとした。が、不意に外からモ・エギの声が聞こえてきた。
「でも、その子がここに[居る]限り、貴方も[永久に]ここから自由になれない……」
 その声にジェンヌは少し戸惑いの表情を浮かべた。そしてクサナギが、ジェンヌの話を聞いて感じた疑問を口にした。
「そうだ。永久に隠しておきたかったのなら……そなたは何故、迷宮にわざわざ手掛かりになる碑文などを残したのだ?」
「盗賊としての[性]じゃないの?」
 宝が手に入り、事が片付いたと思っているミオは、軽い気持ちで答えた。が、クサナギの言葉を聞いて何か感じ取ったイヴルがこんなことを言った。
「ひょっとして、ジェンヌは……本心では捜し出して欲しかったのでは……?」
「……どゆこと?」
 イヴルはスットンキョウな表情で聞き返すミオに、説明するように言葉を続けた。
「つまり、なまじ[娘の形]が残っているからここを離れられないのでは?この娘をきちんと埋葬したら、ジェンヌもここに縛られずに[成仏]出来るかも……?」
 その言葉に他の一行は頷いた。が、ただ一人、ミオだけはその意見に反発した。
「死んじゃった子供を見守るためにジェンヌさんはここに残っているんじゃないの?それとも、あんまり永く見守り続けて、見守ることしか出来ないことが悲しくなったの……?!アタシはそんなに長く生きてないし、母親にもなっていないから、ジェンヌさんの想いはわからないよ!!」
 ミオにとっては、今のままでも誰に迷惑をかけるで無し、何もわざわざ自分たちが何かする必要は無いと思われたのだ。、本人がその気なら手を貸すけれども、あえて他人が干渉するようなことじゃないと……その主張は、傍から見れば冷酷とも言えるものかも知れなかったが。
 だが、当のジェンヌはモ・エギの言葉に揺れていた。そう、確かに今のままではいけないとは思ってはいた。が、やはり娘の寝顔を失うのは耐えられない。しかし、ここに[居る]娘は……彼女にこれ以上は言えなかった。
 そんなジェンヌの気持ちに気付いたクサナギが、彼女に代わってその続きを言った……。
「そなたには気の毒だが……ここにそなたの娘は居ない。ここにあるのは、もはや唯の[抜け殻]に過ぎないのだ……」
「……そうね……その通り、よね……」
 そのあまりにも直球過ぎるクサナギの言葉を聞いたジェンヌは、だが意外にも冷静であった。そう、彼女にとってはわかりきっていた事を指摘されただけなのだ。ただ、今までそれを認めることができなかっただけなのだ。
 クサナギの言葉を受けてさらに考え込むジェンヌ。認めはしたものの、まだその心は揺れ動いているようだった。そこにアファエルが口を開いた。
「ちょっと、人の話をお聞きなさい。いいですか〜死んでから始まる世界もあるのですよ。恐れること無く、新たな出会いをもとめて旅立つのです〜」
 彼女は親切心から何とか話をまとめようとしたのだろう。だが軽口ともとれるこの口調に、ミオが過剰に反応していた。
「!!!(死んだら終わりじゃない!だから皆な今を精一杯生きてるんじゃないのっ!坊主でもないのに知った風な口きくなボケェ!!!)」
 どうやらミオには「死」に対する何かこだわりがあるようだ……だがこんな台詞を吐いたら全てぶち壊しである。しかし幸い、未然にイヴルに口を塞がれ、モガモガと呻くにとどまった。
 涙さえ浮かべて暴れるミオを抑えたまま、イヴルが穏やかに言葉をまとめた。
「この子の遺体は私達が丁重に葬りますよ。ですから安心してお逝きなさい。……たぶん[むこう]で旦那さんとお子さんが、貴方の来るのを待っておいでですよ?」
 その言葉を聞いたジェンヌは一行を見渡し、そして何かを決意した表情になった。
「そうね……その通りよね……どうせなら、シンディと一緒にこの子の笑顔が見たいのも確かだもの……」
 どうやら一行のの誠意はジェンヌに伝わったようだ。ミオもようやく落ち着き、その場にほっとした空気が流れた。
 その会話は外にいるモ・エギにも聞こえていた。モ・エギは目頭に手を当てた。彼女にとってはアファエル以上に[死]というものに対して全く縁がない。彼女たち御仁は、何があっても(灰になろうが気体になろうが)絶対に死なないのだ。それゆえに[死後の世界]という概念が理解できず、ミオ同様[人間は死んでしまったら何も残らない]と思っていたのだ。だから、死してなお自分の子供のことを思って現世に留まるジェンヌの姿はモ・エギにとっては驚異でありまた、感動的なのだ。
 涙を拭ったモ・エギは、気分を変えるために外を見ようと顔を上げた。するとそこには、それまでの気分をすべてぶち壊しにしてしまう[モノ]が立っていた。[それ]は明らかに敵意をもっていた。が、モ・エギは[それ]の姿を見た途端戦意が湧くどころか、恐怖さえ覚え、思わず叫んでしまった!!
「きゃあぁぁぁ……!何なのよこれっ……!お化けえぇぇぇ……!!」
 その悲鳴にも似た叫び声は下にいる一行にも聞こえた。モ・エギをして[お化け]と言わしめた[モノ]とは一体?!
「皆さんすいません、いくつかそっちに行きましたぁ……!!」
 その言葉と同時に、一行の前にも数体の何かが降りてきた。それは、先ほどイヴルとモ・エギが目撃したあの、目玉海月であった。それが一行の前に三体も出現したのだ!その異様な姿に恐怖しつつもクサナギ、ミオ、アファエル、イヴルはそれぞれに武器を構えた。リサームは、自分も幽霊でありながら、海月の異様さに驚き、恐怖しているジェンヌを庇うように立ちはだかった。
 その海月を良く見てみると、それは明らかに人間であった。その巨大な傘状の盾を被った白装束の男たちは、傘の下から垂らした触手を靡かせながら、本物の海月のようにゆらゆらと体を揺らしながら一行に向かって近づいてきた。その姿は一見すると道化のようで滑稽だが、誰も笑えなかった。その傘の目玉の模様があまりにも異様で、その上その目玉にはクサナギとミオには馴染みの深い[奇面]が取りつけられていたのだ!!
「……奇面衆……!!」
 クサナギのその叫びを合図に、その三体(このときミオは、三人とは言いたくない!と思った)はその目玉の盾を正面にかざし、そして一斉に「☆○▲♯◇§ゑヱヱヱ!!」と、奇声を上げて一向めがけて突進してきた!!
 しかし、幸運にもまだ距離が開いていた。一行はそれぞれ準備していた銃、短弓で先制攻撃を仕掛けた。クサナギはその海月の一体にボルトアクションを向け、引き金を引いた。その銃弾は奇面の傘を貫き、それを受けた海月はそのままの勢いで地面に突っ込むように倒れた。イヴル、ミオ、アファエルもそれぞれに銃と短弓を撃ち放ち、その集中攻撃によってもう一体の海月も倒れた。だが、続く一行の攻撃を三人目はその海月の傘で完全に防ぎきってしまった!何とあの傘はセラミック製の盾だった!!
 残った一体は銃の再装填をしているクサナギに向かって突進してきた。寸でのところで弾を装填し終えたクサナギが立ち塞がるが、その海月は盾を正面にかざし、「cv拐ロ襠顯゚wゑヱヱ!!」と再び奇声を挙げて盾をくるくると回転させた。巨大な目玉が回転しながら迫ってくるという恐ろしい光景を目の当りにしたクサナギはとてつもない恐怖感に襲われた。その隙を狙い触手でクサナギに切りつける海月!!触手の先には鋭利な刃物が取りつけられていた。だが、クサナギは間一髪のところで回避し、服に傷をつけただけで済んだ。
 傷つけられた服には何か液体のようなものが染みついていた。その毒々しい色からしてそれは明らかに何かしらの毒薬であった。奇面衆の刃物には必ず毒の類いが塗ってあるのは知られていたことだが、ここに来て改めて連中の恐ろしさが垣間見えた気がした。
 接敵してしまったクサナギを救おうとイヴルが海月の裏に回った。が、後ろから見た海月の男の盾を振り回す姿は何となく間抜けで、それがかえって異様な不気味さを醸し出しており、その姿を見たイヴルは思わず攻撃をためらってしまった。アファエルも弓をつがえてクサナギを援護しようとするが、距離が近すぎて撃つことができない。
 絶体絶命のクサナギだが、ここで負ける訳にはいかなかった。クサナギはこの至近距離では不利と知りながらもそのボルトアクションで勝負に出た。海月は銃口をかわすようにゆらゆらと揺れ、その触手を回転させてクサナギを切り裂こうとした!クサナギはその攻撃をかわすと銃口を海月に向けて引き金を引いた!!銃弾はものの見事に海月を貫き、海月はそのまま地面に倒れた。
 三体の海月を倒したものの、あまりの異様さにこのときすでに全員の息が上がっていた。だが、これで終わりではなかった!!
「きゃあぁぁぁぁ……!……もういやあぁぁぁーっ!!」
 地上からは未だにモ・エギの悲鳴が上がっていたのだ!一行はジェンヌをリサームに任せると、大急ぎで地上に戻った。
 一行が地上に出てみると、そこではモ・エギこと御仁姫紅葉武雷が半泣きになりながら二体の操兵と戦っていた。その敵操兵の姿を見た一行は驚愕し、モ・エギの悲鳴の理由も納得した。それは、先ほど戦った[目玉海月]と同じ姿をしていたのだ!!違うところと言えば、その脚部が三本になっているところだが、それゆえにその不気味さは一層増していた。その操兵を見たミオは思わずこう言った。
「お……親海月……?」
 クサナギとイヴルは大急ぎでエルグラーテとダイ・ザッパーに乗り込み、起動させた。そしてクサナギはエルグラーテを前進させてモ・エギと入れ代わり、その海月の前に立った。
「助かった……クサナギさん、イヴルさん、あとお願いします……」
 モ・エギはそれだけを言うとその場に倒れ込み、そのまま失神した。攻撃によって打撃を受けたのではない。その姿の異様さにとうとう気が参ってしまったのだ。無理もない。たった一人でこんな不気味な敵、しかも二体同時に相手したのだ。
 ミオとアファエルは二体の操兵が立ち上がるのを見て、あとはクサナギとイヴルに任せるつもりで後ろに下がろうとした。が、それはどうやら叶いそうになかった。二体の巨大海月の足もとから二体の目玉海月が駆け出し、二人のほうに向かってきたのだ!!
 クサナギとエルグラーテは目の前の目玉海月との戦闘に入った。クサナギは、海月を見て動転したのか調子が上がらないエルグラーテを操作し、大太刀で攻撃を加えた。が、そのセラミック製の傘はどうやら増加装甲の役割を果たしているようで、エルグラーテ自慢の[御仁の太刀]を受けても少々の傷がつくだけで、大したダメージを受けてはいなかった。
 ダイ・ザッパーを起動させたイヴルは、ミオとアファエルに向かって二体の目玉海月が向かっていくのを確認するや、ダイ・ザッパーをその前に立ち塞がらせた。通常の相手ならこれだけでも逃げていきそうなものだが、薬物と恐怖による洗脳で感情を無くした奇面衆にとっては唯の障害物でしかなく、その脚の間を通り過ぎて行こうとした。
 イヴルはダイ・ザッパーを操作して、その脚を鳴らして地響きを起こした。操兵は意外にも人間のような小さな目標を直接攻撃するには向いていない。そこで、地響きを起こしてその衝撃で海月の行動を妨害しようというのだ。その行動は功を奏し、海月のうち、アファエルに向かっていた方がその場で倒れ、傘を取り落としてしまった!イヴルはそれを確認するや、苦戦しているエルグラーテの援護に向かった。
 攻撃を受けた海月操兵はその触手を振り回して反撃に出た。クサナギはエルグラーテにその攻撃を回避させようとするが、触手に紛れて突き出された一本の細い腕がエルグラーテの胸装甲を掴んだ。クサナギはその腕を降りほどかせようとするが、その前にその腕が一瞬火花を散らし、その瞬間エルグラーテを掴んでいた手首が大爆発を起こした!!どうやら高性能爆弾がしかけられていたようだ。やはり奇面衆、唯では勝たせてはくれそうにない。
 そのとんでもない攻撃を目の当りにしたイヴルは、もう一体の海月操兵に向けてダイ・ザッパーを向かわせた。そしてダイ・ザッパーに装備させた双刃槍でその海月の目玉に突きかかった!が、もともと膂力が高いとはいえないダイ・ザッパーの攻撃は、やはりそのセラミック製の増加装甲に阻まれてほとんど打撃を与えなかった。
「クサナギ達は、こんなとんでもない相手と戦っていたのか……!」
 海月の反撃を回避しながらイヴルは、奇面衆の恐ろしさを肌で感じ取っていた。そして、今までしたこともなかった操兵との[精神同調]の態勢に入った。精神同調とは、操兵の仮面(ある程度の格が高いものに限るが)と操手の精神をより深く同調させる行為で、これによって操兵の仮面の潜在能力を引き出し、操兵をより高度に操縦することができる。クサナギ、アリスもこの方法を用いており、クサナギなどはグラーテの仮面を高い格まで成長させている。
 だが、この精神同調には欠点もある。操兵との繋がりがより深くなることで、操兵が受けた打撃を自分もより強く感じ取ってしまうのだ。また、(一部の[否定派]の意見によると)仮面の意識の格が操手の技術より高い場合、その操手を乗っ取ってしまう可能性もあると云われている非常に危険な手段でもある。それ故、イヴルは、仮面の格的には可能でありながらこの精神同調を今の今まで試みなかった。
 しかし、目の前にいる強敵に勝つには、今はこれしか方法がないと判断したイヴルは、後戻りができないと知りつつもこの精神同調を試みることにし、自らの精神を仮面に委ねた。不意に、[仮面の意識]が自分の心に入り込んでくるような気がした。が、思っていたほど不快感は感じなかった。そして気が付いたとき、ダイ・ザッパーの動きが軽くなったような気がした。どうやら成功のようだ。
 そのころアファエルは、ダイ・ザッパーの支援で地面に倒れ、盾を取り落とした奇面衆に立て続けに矢を放った。ここで仕留めなければ接敵されて攻撃を受けると考えたのだ。その判断は正しかった。奇面衆は自分が不利な状況になっても決して降伏することはない。しかも、一つの攻撃と手段を封じたからといって、他の攻撃手段がないとは限らないのだ。
 アファエルの矢を受けた奇面衆は、悲鳴を上げる事なく立ち上がった。が、さすがに不死身という訳にもいかず、その胸に必殺の矢を受けて再び倒れ、そして動かなくなった。
 一方、ミオは自分に向かってくる海月に対して長銃を構え、引き金を引いた。が、その銃弾はセラミック装甲に阻まれて打撃を与えられない。海月は銃弾を再装填しているミオに向かって再び奇声をあげた。
「∽∫Dゑヱヱヱ!!」
 その声と回転する巨大目玉を前にミオは一瞬怯みながらそれでも相手の弱点を見出そうと必死に冷静さを取り戻した。そしてその盾が海月の足を覆っていないことを見抜くと、その無防備な足めがけて再び引き金を引いた!ミオは相手を地面に転がすつもりで撃ったのだが、その銃弾を不意に無防備な足に受けてしまった奇面衆は、そのまま倒れ、動かなくなった。
 精神同調を果たしたイヴルは、より鋭くなったダイ・ザッパーに再び海月操兵を攻撃させた。だが、膂力自体は変わらないのでまともに攻撃しても埒が明かない。イヴルは海月操兵の下半身を狙った。人間同様この操兵も傘は上半身しか覆っていないのだ。そしてその攻撃は功を奏した。双刃槍は細い三本足を確実に当て、その攻撃を立て続けに受けた海月操兵はそのまま地面に倒れた。
 思わぬ苦戦を強いられたクサナギは、今度は爆砕槍の牽制攻撃に切り替え、二股の槍を海月に向けて射出レバーを引いた。蒸気の力で射出された 二股の白い槍は確実に海月の傘を捕らえ、その増加装甲を砕いた。そして続く太刀の攻撃はその下の胴体を捕らえた。
 海月操兵は最後の反撃とばかりに再び爆弾触手でエルグラーテを攻撃するが、クサナギはエルグラーテにその攻撃を回避させ、御仁の太刀を海月操兵に叩きつけた!増加装甲を失った海月操兵は以外と脆く、その一撃を受けてそのまま崩れていった。
 戦闘は終わり、すべての敵が地に伏した。イヴルは敵が何者かを探るためダイ・ザッパーを倒れた海月操兵に近づけた。その時、ダイ・ザッパーの足もとで何かが動いた。イヴルが見てみると、倒れた海月操兵の触手のうち一本がダイ・ザッパーの足を掴んでいた。そう、爆弾付きの触手が……!!
 イヴルは慌ててダイ・ザッパーを操作、双刃槍でその触手を断ち切ろうとした。もし、その前に爆弾がこの位置で爆発した場合、ダイ・ザッパーの足は間違いなく骨格近くまで破損してしまうのだ。間一髪、爆発する前に槍の穂先はその触手を断ち切った。
 それと同時に、その海月操兵の操手槽が爆発!、炎を上げて炎上した。見ると、エルグラーテが倒した方の機体も同様に操手槽が吹き飛び、燃え上がっていた。そしてミオとアファエルに倒され、気を失っていた者も、毒物か何かで自決していた。これで、この敵に関する手掛かりは一切失われてしまった。果たして奇面衆はこの遺跡に何を求めてきたのだろうか。
 とりあえず一行はモ・エギを介抱してからジェンヌの元に戻った。ジェンヌは海月たちを指さし、一行にこれが何者かを聞いてきた。
「私、長い事ここに居るけど、こんな不気味な物見たことないわ……」
 クサナギとミオが自分たちのわかる範囲で説明すると、とりあえずジェンヌは落ち着いた。
「ところで、あの[巨人]の着ぐるみはいったい何なのだ……」
 そのクサナギの疑問にジェンヌは、
「あぁ、あれね……昔盗んだものの中の一つだけど、私も何だかわからないの。とりあえず中身が空っぽだったんで、この迷宮を造ったときに利用させてもらったの」
 クサナギは、以前樹界の中の研究施設跡で戦った人造生命と仁機兵が奇面衆と似た仮面を着けていたのを思い出していた。それらの人造の巨人たちと奇面衆との間には何かしらの関係があるのは間違いない。ひょっとすると奴等の狙いはこの[巨人の着ぐるみ]なのではないのか。
 とりあえずこの問題は後回しにして、一行は再びジェンヌに宝珠をどうするのかを聞いてみた。ジェンヌは優しく微笑み、こう言った。
「永久の宝珠はあなたたちに上げるわ。その宝珠は、確かにこの子の姿を永遠にとどめてはくれるけれど、同時に悲しみも永遠にとどめてしまう。それに、この悲しみに縛られているのは、私だけじゃなく、この子にとってもそうなのかもしれないし……」
 イヴルはジェンヌにこんなことを訪ねた。
「ところでジェンヌ。もし、その子が生きて産まれていたら、何という名前を付けるつもりでいたんだ……?」
 ジェンヌは少し考え、思い出したように呟いた。
「フィーネ……そう名付けるつもりだった……」
「いい名前だ……。少し時間はかかるかもしれないけど、あなたの故郷に家族の名前を刻んだ墓碑を建てて上げよう」
 イヴルはそう言ってリサームを(そのくらいの甲斐性は見せろ!)といわんばかりに睨つけた。その視線に気づいたリサームはムッとした表情で、
「……当然だ!私はラウナス家の再興のためにあなたの遺産を使わせてもらうのだ。そのくらいのことをしなければ、罰が当たるというものだ!!」
 とイヴルをにらみ返した。そしてジェンヌに向き直り、決意に満ちた表情で告げた。
「では、本当によろしいのですね」
「いいわよ……!」
 その言葉を受けたリサームは一瞬ためらいながらも、眠るフィーネの手から宝珠を受け取った。それと同時にフィーネの体が輝き、そして光の粒子となって空中に消えていった。
 一行がジェンヌのほうに振り返ると、そこには彼女の姿はなかった。果たしてそれが消えてしまったのか、それとも[死の向こう側の世界]でシンディとフィーネに逢えたのか……今の一行にそれを知ることは出来なかった。
 イヴルは詩人らしく、ジェンヌの居たところに向かってこう言った。
「安らかにお休み……伝説の姫盗賊にして美しき墓守りの少女よ……こらミオ、君もお別れを言いなさいって……!」
 イヴルに小突かれ、何を拗ねたのかソッポを向いていたミオも逝ってしまった人への最低限の礼儀は守って頭を下げた。クサナギ、リサームは言うに及ばず、それぞれ自分たちの知る弔いの祈りを捧げた。アファエルは……いつものようにのほほんと微笑んで手を振っていた。
 迷宮の入口では、モ・エギが壁に凭れ掛かって自分なりにジェンヌの冥福を祈っていた。その時、耳元で風が鳴った。モ・エギは一瞬はっとなり、周りを見渡した。ジェンヌの声が聞こえたような気がしたのだ。
(ありがとう……あなたの一言がなければ、私はここから離れることが出来なかった……)
 その声はそう言っていたような気がした。いや、そう言ったに違いない。モ・エギはそう思うことにした。
 翌日。一行は奇面衆に殺された山師たちを迷宮の近くに葬った。彼らが持って帰ろうとした宝は、彼らのひどい扱いによって価値が落ちていたこともあり、山師たちの[冥土の土産]あるいは[夢]として一緒に埋めてやった……。
 その後一行は早速宝の引上げに取りかかったが、その作業は宝物の数がかなりのもののために一日近くかかった。永久の宝珠は[真の宝とは、飽くなき探究心なり]と書かれたあの書き物に包んでリサームに手渡した。
「いつになるかはわからないが、約束する。必ずこの宝珠はジェンヌたちの墓に埋葬する。感謝を込めて……!!」
 そして一行は数日掛けてライバに戻った。その途中、幸いにも野党の類いの襲撃を受けることはなかった。ライバに戻るとリサームは早速宝の売却に入った。当面の活動資金と一行に支払う報酬、そして家宝の操兵を買い戻す金を確保するためだ。
 その間一行は、土産話と引換に永久の宝珠についてゼノアに聞いてみた。
「正式には[緑永石]と云いまして、この石には[物の腐敗、劣化を防止]させ、[永久保存]する力があるんです。ただし、どうやらこれは単なる[防腐剤]というわけではないようで、その原理はわかってはいません」
「それでは、その石を持っていれば[不老不死]にでもなれるのか?」
 ゼノアは苦笑してこう付け加えた。
「それがうまくはいかないんですよ。緑永石の力は[生きている]ものすなわち新陳代謝が起きているものには効果がないんです。しかも、その効果が永続するのは石を接触させているときだけで、もし石を離してしまったら、今までの[永久保存]の分の反動で、腐敗、劣化が急激に進むんです。それ故、上手い利用法がいまだに見出せないんです……」
 数百年もの間保存されていたフィーネは石を離した途端光の粒子となって消えた。おそらく、本来であればキチンとした保存処理を施していないであろうフィーネの遺体はもはや原形も残らないほど朽ちていなければならず、その[自然を曲げた]分一気に[時]が進み、粒子にまで分解されてしまったのであろう。
 また、ゼノアには、持ち帰った奇面衆の操兵と[仁機兵の着ぐるみ]の調査を依頼した。久しぶりに顔を見せた奇面衆が今度は何を企んでいるかは知らない。だが、今後おそらく、再び自分たちに襲いかかってくることは容易に見当がついた。奇面衆との戦いは、まだ始まったばかりであった。
 それから一行は、それぞれ宝の分け前を報酬として受け取った。一行が実際に手にしたのは総額でも宝の価値の十分の一にも満たなかったが、それでも十分すぎる額であった。報酬を受け取ったクサナギとイヴルは早速部品屋に駆け込み、それぞれ目的のものを手に入れ、アファエルも武具屋に赴き、質のよい皮製の防具を買い求めた。
 だが、ミオは手にした財を使う暇などなかった。イヴルが購入した筋肉筒をダイ・ザッパーに換装し、そして次には蒸気式圧砕鎚を取りつけた自動換装腕機構を製作しなければならなかった。しかもその上で、よりにもよってリサームが、買い戻した家宝の操兵の修理まで依頼してきたのだ。これではとても買い物を楽しむ余裕などなかった。
 一方、当のリサームはラウナス家再建準備のために方々を走り回った。だが、手に入れた宝物をすべて売り払うには時間がかかり、また、ライバではすべて処理することができないため、実際に再興のための活動を起こすにはまだまだ時が必要で、またさらに、あちこちを旅することになりそうだ。 
 そんなリサームにイヴルがこんなことを訪ねた。
「ところで……家を再興したら、いったい次はどうするつもりなんだ……?」
「今の私は家を再興することしか考えていない。次のことは、再興が叶ってから考えるさ」
(そういうことを今のうちに考えないと、また没落しちまうぞ……!!)イヴルは心の中でそう、思った……。