
|
「……いったい何故……こんなことになったのだ!?」 元王子クサナギヒコ・ディス・グラーテは、今現在自分が置かれている状況に困惑していた。何故か自分は今まで着たこともないようなクメーラ王朝風の礼装を着せられ、隣には同じように着飾った見知らぬ女性が……いや、知っている。それはやはりクサナギ同様クメーラ王朝風のドレスに身を包み、見違えるほどに[女性らしくなった]ミオであった。クサナギは再び呟いた。 「何故……こんなことになったのだ……?」 [姫盗賊の遺産]の探索から一月が経った。見つけた財宝の売却に苦労するリサームをよそに、一行はそれぞれの日々を過ごしていた。そんな中、イヴルは大金をミオに支払い、早速ダイ・ザッパーの強化改造を依頼した。改造の内容は手に入れた強化筋肉筒の取りつけによる膂力強化と、全身の伝達系の調整による運動性の向上、そして蒸気式圧砕鎚を取りつけるための[自動換装腕機構]の製作であった。 その改造がすべて終了する日、最後の調整をするミオに向かってイヴルが 「失敗したら[罰ゲーム]だぞ!」 と叫んだ。ミオはそれに対して自信たっぷりに言い返した。 「このミオ様がそんな失敗するわけがないでしょ、せいぜい成功したときのお礼の言葉を考えておくことね!」 そしてすべての調整が終了し、ダイ・ザッパーは整備台から切り離された。ミオは早速、自動換装腕機構を作動させ、圧砕鎚を展開させようとした。が…… 「?……あれ……おっかしいなぁ……?」 自動換装腕機構はミオがいくらレバーを倒しても一向に作動しなかった。その時、今まで黙って様子を見ていたジュウコーが歩みより、圧砕鎚の装着部分を見てこう言った。 「ミオ……接続装置が機体と繋がっとらんぞ!こりゃ、かなりあちこち直さなきゃならんなぁ!!」 ミオはがっくりと肩を落として再度作業に取りかかった。そしてすべての作業を終え、ようやく完成させたところにイヴルとアファエルがやってきた。 「ミオ……罰ゲームの件、覚えているか?」 「何の、ことか……な……」 引きつり笑いでその場をごまかそうとするミオをイヴルは無理やり連れ出して、以前訪れた衣装と化粧品の店を訪れた。その罰ゲームとは、[ミオがおもいっきりおしゃれして人通りの多い時間帯に街を散歩する]というものであった。これはミオにとって何故か大変に苦痛なことのようであったが……先の失敗もあって断るに断れない。このときミオは、ただボーッとくっついて来ていたクサナギを指さし、こう言った。 「クサナギがつき合ってくれるなら!」 それを聞いたイヴルは目を輝かせ、クサナギは身をこわ張らせた。 かくして、ここに奇妙な[カップル]が誕生した。クサナギは自分が置かれた状況を改めて理解し、そして苦悩するのだった。 突然現れた[場違いなカップル]に街の人々は振り向き、注目した。その視線に逃げ出したくなる衝動に駆られながらも[罰ゲーム]だ、と自分に言い聞かせて耐える二人。しかしその時、イヴルとアファエルがそこに追い打ちをかけるようにそれぞれリュートとハープを奏でた。それは、[結婚の歌]であった。それを聞いたミオはついに我慢の限界に達し、その場から逃走しようとした。が、それを許さないものがいた。クサナギであった。操兵戦における仮面同調で鍛えられた精神力で周りの視線に耐え切ったクサナギは、憤怒の表情でこう言った。 「……私を巻き込んでおいて、そなただけ逃げ出す気か……!!」 クサナギはミオの襟首をむんずと掴むと、そのままの体勢で無理やり引っぱり回した。それを見ていた通りすがりの人々は、そんな二人の気も知らずに「よっ御両人!」「幸せにな!」と、祝いの言葉を投げかけていた。もはや周囲に気を配る気力さえ無い二人、しかし、そんな二人を突如巨大な影が包んだ! ちょうどそのころ、モ・エギはクサナギ達に用事があってジュウコーの工房に向かっていた。その時、モ・エギの耳に[結婚の歌]が聞こえてきた。樹界に住まう御仁族は不死の存在ゆえに子孫を残すことはあまりなく、よって、[結婚]という儀式はめったに行われない。しかし、だからといって[愛し合う]ということがないわけではなく、むしろ[愛し合うものが一つに結ばれる]ということはモ・エギにとっては人間以上にめでたいことであった。 が、その感情はすぐに砕け散った。結婚する二人を祝福してあげようとやってきたモ・エギが見たものは、彼女にとっては[悪夢そのもの]であったのだ。そう、彼女の視界に[クサナギが変な格好をして、嫌がる女性の首根っこを引っつかんで無理やり式を挙げようとしている]光景が飛び込んできたのだ。 「……信じられない……何かの間違いよ!!」 モ・エギは[仲良く(?)]歩く二人に両手を伸ばし、そのまま掴み上げた! 「な……なんだ!!」 突然空中に持ち上げられたクサナギが見たものは、怒りの表情に満ちあふれたモ・エギの巨大な顔であった。本来美しくも可憐な表情であるはずの伝説の御仁姫の顔はあまりの怒りにひき歪んでいた! 「クサナギさん……私というものがありながら……私に何の相談も無しに、これはいったい、どういうことなんですか……!!」 「お、落ち着けモ・エギ!これには、少々複雑な事情が……!!」 「これが落ち着いていられますかぁ!!」 モ・エギはクサナギとミオをその手に握ったまま揺さぶった。自分の状況に気づいていないミオは思わず、 「きゃああぁぁーっ!!」 と悲鳴を上げて思わずクサナギにしがみついた。それを見たモ・エギはますます怒りの炎を燃やして、 「こらっ、あなた!クサナギさんから離れなさぁいっ!!」 と、ますます両腕を振り回した。気が高ぶったモ・エギは彼女がミオであることに気づいていないのだ。 そのころ、この騒ぎの[黒幕]の一人であるイヴルは、騒ぎが起きたと同時に近くの宝石店に逃げ込み……そしてまた懲りずにミオのための宝飾品を捜していた。この店はなかなか品揃えがよく、質の良いものが並んでいた。その中には、自分達がこの前[ジェンヌの墳墓]で発掘してきたものも混ざっていた。どうやらリサームはこんなところにも売りつけたらしい。 結局イヴルは、小さな紅玉のついた銀製の耳飾りを購入した。そしていまだ騒ぎの治まらない外に出て、今度はモ・エギを宥めるために落ち着いた感じの曲を奏でた。 一方、もう一人の[黒幕]であるアファエルは、ここから少し離れたペット屋に来ていた。そして店の主人に、[人の言葉を理解する動物]を注文した。アファエルが求める[人の言葉を〜]は[人間並の知能を持っているもの]を表していた。どうやら[小妖精]の類いを捜している様だ。だが、店の主人は[人間に従順で良く懐く利口な]動物だと理解し、 「これなんかどうだい……この犬と猫は……」 と、利口そうな動物を薦めてきた。が、 「あのぅ〜私が欲しいものは、こういうものじゃ、ないんですけどもぉ〜」 と、アファエルの[ノホホンとした]説明を受けると、 「わかった!取っておきのを見せてやる!!」 といって、アファエルを店の奥へと連れ込んだ。そこには、鳥籠が一つ。そして中身は、一羽の鳥。だが、アファエルはその梟のような鳥の顔を見て驚いた。その鳥の顔が店の主人と同じだったのだ!! 「驚いたでしょう!この鳥は[人真似鳥]といって、飼っていれば、買い主の顔に似てくるんですよ。しかも、九官鳥みたいに言葉も返すんですよ」 アファエルは一瞬その鳥が自分の顔になるのを想像した。 「なんか〜違いますぅ〜」 でも、悪くないとも思った。金貨五枚という大枚も、この前得た沢山の報酬があるので全く問題ない。だが……。 「でもぉ〜」 アファエルは散々迷った末に、とりあえず保留にした。 そのころ、外の騒ぎは絶頂に達していた。騒ぎを聞きつけて駆けつけた衛士隊の操兵もその光景を見て唖然とし、ただとにかく宥めるしかない、と判断したらしい。 「……落ち着いて!とにかく落ち着いて……!!」 と、周囲を取り囲み、その操兵はまるで人間のような仕種で「どうっどうっ!!」と狼狽えながらも必死で宥めていた。 衛士隊はモ・エギが[御仁]だから宥めていたわけではない。モ・エギはライバ市民に完全に受け入れられており、それによって、御仁に対する[偏見]や[迷信]はほぼ払拭されたといって良い。衛士隊もあくまで彼女を人間と同様に(それも一般市民よりは若干格上で)扱っており、それゆえにまるで夫婦喧嘩でも止めるような感じで接しているのだ。まぁ、さすがに大きさの違いはどうしようもなく、操兵を持ち出すのはやむ終えないが……。そして周囲から見ればこの喧嘩はまさに[はた迷惑な恋人同士の内輪喧嘩]だったのだ。 その日の夕方。ライバ城前の広場でクサナギが必死の思いで事情を説明し、ようやくモ・エギは落ち着いた。誤解とわかったモ・エギは二人に謝った。 「でも、ミオさん、こんな格好してるから全然気が付かなかったですよ」 その言葉に少々腹が立つミオだが、とりあえず何も言わなかった。そこにこの騒ぎの張本人であるイヴルとアファエルがいけしゃあしゃあとやってきた。その上イヴルは先ほど購入した耳飾りをミオに手渡し、その神経をさらに逆なでした。 「……イヴル……あんた、まだ懲りてないの?!」 寄らば噛みつかん勢いのミオにもイヴルは特に動じず、その見事な早業で耳飾りをミオの耳につけた。 「やっぱり女性は女性らしくおしゃれしなくちゃね、モ・エギも似合うと思うだろ?」 モ・エギはミオをひょいと摘み上げ、まじまじとその耳飾りで飾られたミオの顔を見つめた。さすがに大きさの差でじっくり見ないとわからないのか、くるくると回して正面、右、左を見てこう言った。 「よく似合っていると思いますよ。でも、やっぱり化粧は程々にしたほうが……女性は自然のままが一番ですよ」 そしてここに来てモ・エギは、ようやく自分の用事を思い出した。 「あ、そうそう、私、ちょっとゼノアさん達と出かけてきますね。何でも、遺跡の調査だとか言っていましたから」 「ねー、その仕事に人手は足りているの?」 ミオのその問いにモ・エギが頷くと、ミオは残念そうに舌打ちした。ミオとしては、今日の騒ぎのほとぼりが冷めるまでライバの街から離れたかったのだが。 その翌日、ゼノアとモ・エギの一行はその[遺跡探索]に旅立っていった。それを見送ったミオ、クサナギ、イヴル、アファエルは早速渡世人斡旋所に赴いた。斡旋所の窓口の係員はクサナギの顔を見るや 「……高給取りは雇えないよ……」 と切り出し、一行を困惑させた。そんなことに構わずミオはなるだけ隊商の用心棒の口を捜した。よほどライバから離れたかったのだろう。そしてミオは"マザの先にあるリアという小さな荘園に向かう商隊の用心棒"の仕事の張り紙を見つけ、その仕事の依頼人に会うことにした。 程なくして依頼人である隊商の主イプセンと面会した一行。依頼人の話によると、近日中にリアの町では領主であるモーディス家の子息とマザ一番の商人であるフィーデス家の一人娘の婚姻の儀式が行われるという。そこで依頼人はそのお祭り騒ぎに便乗した商売で一儲けしようというのだ。 報酬は相場よりやや少ない金貨二枚。依頼人の財政が厳しく、今はこれしか払えないが、今回の商売が成功すれば、帰りの分は保証されるという。ミオは先日のこともあり[結婚]という言葉に過剰に反応したが、それでも引き受けることを一行に提案した。特にすることもなかったクサナギとアファエル、そしてお祭り騒ぎとなれば商売ができるとあってイヴルもそれを受け入れ、一行はその旨を依頼人に伝えた。そしてその日のうちにリアに向けて出立したのだった。 |