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ライバを出てから街道沿いに五日進み、一行は何事もなくリアの街に到着した。街は結婚式数日前ということもあってお祭り騒ぎであった。一行は早速[ドル爺さんの宿]に入り、その宿に荷物を預けてそれぞれに街の中へと出かけていった。 イヴルとアファエルは吟遊詩人としての仕事をするためにこの街の芸人の元締めの所に赴いた。ナバール一座で得た許可はさすがにマザ付近までは及ばない。だが、全く知られていないわけでもなく、さらにこのお祭り騒ぎで芸人はいくらでも必要であるために簡単に許可を得ることが出来た。が、アガリのピン撥ねは四割と少々高めであったが。 許可を得ることが出来た二人が早速町の広場に出向いてみると、そこでは既に何人かの芸人達が腕を競い合っていた。その中でも一番注目を集めていたのは男女二人組の歌い手と踊り子で、美麗の青年の奏でるバンジョーの音色に合わせて赤い髪の官能的な美女が情熱的な舞踊を披露し、人々はそれを夢中になって見ていた。 「せめて、姉さんがいてくれれば……」 イヴルは、この所用事かなにかで何処かに出掛けいてる姉ナナを思い出した。そしてイヴルもリュートを取り出し、曲を奏で始めた。それを見たアファエルはその手助けに、と自慢の軽業を披露した。が、宙に舞うまでは良かったが、着地の際にまともに背中から落ちてしまった。だが、そこで挫けるアファエルではなかった。すぐさまいつもの[のほほん]とした笑顔を見せ、「大丈夫ですぅ〜これで掴みは[バッチシ]ですねぇ〜」 と、笑って見せた。アファエルのその容姿とその表情に引かれ、二人の周りにも沢山の人々が集まってきた。イヴルは、その中で最高の曲を奏でた。 やがてそれぞれの出し物が終わり、一休みしているイヴルとアファエルのところに先ほどの二人組の男女が話しかけてきた。 「あなた達中々出来るじゃない!」 その官能的な美女はニーナと、そして美青年は遠慮がちにスタンレーと名乗った。二人はやはり旅の芸人で、街から街へと渡り歩いて芸を披露して生活しているという。 イヴルとアファエルもそれぞれ名乗った。そして話が進むにつれ、互いに気が合っていった。そんな中、イヴルはニーナとスタンレーに不躾にこんな質問をした。 「ところで、お二人はどのような関係で……」 どうやらイヴルは、仲の良い男女を見るとその関係が気になってしまうようだ。そんなイヴルの質問にニーナとスタンレーは照れながら、 「ち、違いますよぉ……僕たちは幼なじみなんですよぉ」 「そうそう、腐れ縁でパートナーになったのよ!」 と答えた。まぁ、幼なじみというものは、大抵は……いや、それ以上は言うまい。 イヴルは、自分が今夜ドル爺さんの宿で芸を披露するので一緒に出ないか、と二人に持ちかけた。が、彼らは既に領主の城に招かれているから、と断り、イヴル達に泊まっている宿を教えて今日のところは別れた。 そのころミオは、エルグラーテとダイ・ザッパー、そして自分用のワークマンデの整備をしていた。この駐機場には一行の操兵の他に旅の渡世人の操兵が四機ほど駐機していた。それはどれもアルキュイルやギルダームといった中古機や再生機で取り立てて変わったものではない。ミオは整備台に登って城の方を見た。城といってもそれほど大きくなく、ここからなら多少中を覗くことが出来た。 中ではおそらくはこの町の守備隊と思われる操兵が、城壁の奥にある専用の訓練場で特訓に励んでいた。それはすべてがアムイード型で統一されており、全部で六機ほど確認された。城にある整備場の規模からすると、これがおそらくは全戦力なのであろう。 いや、どうやらもう一機いるようだ。城の整備場とは別の扉が開いた。おそらくは領主専用機の格納庫の扉であろう。そしてそこから一機の威風堂々とした操兵が出てきた。いや、それは威風堂々というものではなかった。そう、まさに巨大といっても過言ではなかった。肩幅、手足の太さなどどれを取っても、大型機に分類される新造古操兵ファルメス・エルグラーテをはるかに凌いでいるのだ。 実際にはその機体の頭頂高はエルグラーテと同じ程度である。だが、その雰囲気がエルグラーテよりもはるかに大きく見せていた。その操兵は両腕を斜め下に突き出し、威張り散らすように訓練場に向かって歩み始めた。それを見た守備隊の操兵が慌てて道を空けた。「威風堂々と」といえば聞こえが良いが、正直見ていて気持ちの良い光景ではなかった。 クサナギは町並の人込みの中にいた。クサナギは人々の活気ある声が好きであった。その笑い声は街が平和であることの証とクサナギは信じていた。そんな声が生活を豊かにし、文化を育んでいると。やがて夕方になり、クサナギは仲間達の待つ宿に戻っていった。そこに受難が待つとも知らずに……。 夜。ドル爺さんの宿は旅人達で賑わっていた。広間の奥にある舞台では様々な芸人達が芸を披露していた。その中には、元剣士なのか、いかにも古めかしい武具のようなものに身を包んだ男が「いにしえの剣舞」なるものを披露し、最後に丸太を切る際に思わず剣を折ってしまう、というハプニングも起きた。その後叱られている[剣士]を見ると、舞台上と言葉使いが変わっていた。どうやら彼は唯の芸人らしい。 その他にもヨーヨー使いの芸も人々の歓声を集めた。特に受けたのは、十個の的を並べて、客の指定したものを狙い倒すというものであった。その中でアファエルとイヴルは「5と6の二枚抜き!」と無茶を言って芸人を困らせていた。 そんな光景を見ていたイヴルは、自分の番が来たと知り、自慢のリュートを手に舞台へと上がった。そして客の注目する中、イヴルは優雅にリュートの音色を店内に響かせ……なかった!最初の弦を鳴らした瞬間、その弦が千切れてしまったのだ!!静まり返る客。茫然とするイヴル……。 そんなイヴルを見兼ねたアファエルはおもむろに弓を取り出し、舞台に上がった。 「皆さぁん〜これより、私の部族に伝わる珍しい弓術[うぃりあむ・てる]をお見せいたしますぅ〜」 アファエルはそう言って、クサナギを舞台上に呼んだ。そして自分がなぜ呼ばれたのか全くわかってないクサナギを舞台中央に立たせ、その頭の上に林檎を乗せた。ここに来てクサナギは自分が呼ばれた理由にやっと気づき、抗議の声を上げた。 「……ちょっと待てアファエル!何故私が的にならなければならぬのだ……!!」 「〜行きますよぉ〜!!」 アファエルの[のほほん]としたかけ声と同時に人々の歓声が響き渡り、クサナギの抗議の声はむなしくかき消された。そして、その哀れな元王子の頭のリンゴに向けてアファエル自慢の矢が放たれた!!矢は見事に林檎の真ん中を貫いた。ほっとするクサナギ。だが、大喜びした客の声を聞いてクサナギは再び絶望の淵に立たされた。 「アンコール!アンコール!!」 クサナギは目の前が真っ暗になっていった。 深夜。騒いでいた客もそれぞれ帰り、町はすっかり静まり返っていた。その中で大部屋にまとめられた一行は眠りについていた。が、その中でクサナギは何度も自分の頭に矢が刺さっていないことを確認し、またイヴルはリュートの弦を修理するなどで眠りにつけないでいた。 その時、宿のそばを一騎の馬が通り過ぎて行く音が聞こえた。こんな時間に何故、いったい誰が……。その音に飛び起きたアファエルはすぐさま窓から飛び降り、様子を見た。続いてクサナギもまるで本職の軽業師のような身のこなしで飛び降りる。やっとの思いで起き出したミオはその様子を信じられない、といった表情で見ていた。 飛び降りたクサナギとアファエルはその馬に二人の人物が乗っているのを確認した。が、それが男か女かまでは確認できなかった。馬はちょうどリアの町の中央区間からやってきて、そして北の方へと向かっていった。中央区間といえば、領主モーディス家の城と大商人フィーデス家の屋敷があるところであった。 だが、それで終わりではなかった。その後ろから六騎程の騎馬がやってきたのだ。その騎馬の騎手はすべてが黒い衣装で身を包んでいた。そして騎馬六騎は一行に目もくれる事なく先の馬を追って北の方へと走り去っていった。今から後を追うにも、相手が馬ではどうしようもなかった。そして何か釈然としないまま夜が明けた。 翌日。とりあえず朝食を取る一行だが、やはり全員が夕べの出来事が気になっていた。そしてそれぞれに一行は行動を開始した。 アファエルはクサナギを伴って町の裏路地へと赴いた。闇市を捜すためだ。やはり[小妖精]の類いがないかどうか知りたかったのだろう。だが、その場所はついにわからず結局この町の盗賊組合のある裏路地の酒場に入った。ただし、クサナギは店の雰囲気に馴染めず、入口でアファエルと別れてその場を後にした。 一方、残された形となったアファエルは、この町の盗賊組合の顔役に面会した。アファエルは顔役に、何か変わった話がないかどうか訪ねた。結婚前夜ということで、おそらくは盗賊組合に何か景気のよい話がないかと考えたのだ。 だが、町のお祭り騒ぎとは裏腹に、顔役の表情は暗かった。彼の話によると、この組合は近々このリアの町からマザの本部へ撤退するという。 「……この町の財政は今、非常に苦しい。このままじゃ、この町は完全に潰れちまう。まぁ、この度のご婚礼の話はそうならないための手段らしいから、そうなれば俺達も引っ越しなんざしないで済むんだろうが、な」 そのころイヴルは、夕べの騎馬の手掛かりを得るために、昨夜領主の城に出向いていたはずのニーナとスタンレーに会うために二人が宿泊している宿に赴いた。が、二人はまだ宿には戻ってはいなかった。イヴルは仕方なく広場に向かうが、そこでも彼らの姿はなかった。広場には昨日の[剣士]がやはり夕べと同じ芝居を見せていた。イヴルはその[剣士]に二人を見なかったかどうか訪ねてみるが、彼は朝から二人を見ていないという。どうやら二人はまだ、領主モーディスの城にいるようだ。 仕方なくイヴルは広場の屋台を巡り、噂話しを聞いて回った。そしてその中で、この婚礼の新郎セルディスと、新婦であるフィネスの話を聞いた。それによると、新婦のフィネスは、気立てが良くそれでいてしっかりした少女で、流行病で母親を失ってからは、フィーデス家の屋敷の管理を任されていたほどであると云う、とても評判の良い娘であった。一方、新郎のセルディスの評判は、あまり良いとは云えなかった。 「まぁ、セルディスぼっちゃまは見た目こそ立派な偉丈夫だが、次期領主様としては……酒と女と賭事に目がなく、領主様になるための勉強といえば、暴れられる操兵と剣技だけ。この儘じゃこの町も終わりだな。毎日ゴロツキ見たいな愚連隊なんかと……」 屋台の親父はそこまで言って口を噤んだ。そして、手のひらを返すように、 「いや、何、セルディス様がこの町の領主様になれば、この町も安泰だ、はっはっはっ……」 と、焦ったように叫んだ。イヴルが後ろを見ると、いかにも着飾った六人のカブキ者達が酒瓶を片手に町を練り歩いていた。どうやらこいつ等が、次期領主セルディスの取り巻き達のようだ。彼らは各屋台に酒や食べ物をせびっていた。人々は彼らが領主の放蕩息子の友人であると云うことで、泣き寝入りをせざるおえないようであった。 イヴルはそのカブキ者達の後ろ姿を見て、すっかり呆れ返っていた。 一方ミオは、フィーデス家の屋敷の前に来ていた。昨日の騎馬がこの屋敷またはモーディス家の城から来たものなら、おそらくはなんらかの動きがあるはず、と踏んだからであった。だが、屋敷は特に何の動きも感じられず、とても静かであった。いや、結婚式二日前だというのにむしろ静かすぎるくらいだ。これはこれで何かある……。ミオはそう考え、屋敷前を後にした。 アファエルと別れたクサナギは当てもなく町をさまよっていたが、特に何もなくやがて宿に戻ってきていた。そしてすぐあとにアファエルも戻ってきた。二人はミオとイヴルが戻ってくるまで宿の酒場で寛いでいることにした。 その時、六人のゴロツキ達が宿に入ってきた。先ほどイヴルが見たセルディスの取り巻きであったが、クサナギとアファエルはそんなことは知らなかった。取り巻き達はドカドカと真ん中の席を陣取り、乱暴な口調で酒を注文した。当然支払いはないだろうが、何かされるよりましだ、と思ったのか、主人は言われるままに酒を出した。 やがて取り巻き達の席に給仕娘が酒とつまみを持ってきた。すると取り巻き達はその娘を下品にからかい、嫌がる娘を捕まえて強引に酌をさせようとした。そんな悪さを黙ってみていられないものがいた。言わずと知れたクサナギヒコその人である。クサナギはおもむろに立ち上がり、ゴロツキ達に敢然と立ち向かった! 「やめないか!それ以上やるというのなら、この私が許さないぞ!!」 「そうですよぉ。その人は嫌がっているじゃないですかぁ〜」 アファエルもクサナギに同調し、取り巻き達に詰め寄った。そんな二人を取り巻き達はそれぞれ三人づつで取り囲んだ。 「ほお、兄ちゃん俺たちとやろうってぇのか……面白れぇ……こいつを畳んじまいな!!」 取り巻き達は一斉にクサナギに襲いかかった。三人の拳がクサナギに繰り出された。だが、クサナギはそれを軽くかわして真ん中の一人に集中して自分も拳を繰り出した。ゴロツキはそのクサナギの拳を避けることはできず、頬に痣を作っていった。どうやら相手は威勢のよいだけの素人のようだ。 相手が素人ならば話は早かった。こういう相手の場合、とにかく一人を集中して攻撃し、叩きのめせばその力の差を見て残りの者も浮き足立つのだ。しかし、クサナギ自身も素手の戦いはそれほど得意ではない。そこでクサナギは相手の拳を避けることを諦め、ただひたすら正面の相手を力一杯殴り続けた。そんなクサナギの捨て身の猛攻を受け、取り巻きの内一人は顔を痣だらけにして倒れた。その間に他の連中の攻撃を受けたが、戦士として場数を踏んでいるクサナギはその打撃をそらし、特に痛手は被らない。それを見た他の取り巻き達はクサナギに戦いを挑むのをためらった。 一方、アファエルを取り囲んだ取り巻き達はその誇り高い妖精族を下品な視線で見ていた。 「ネェちゃん奇麗だねぇ……。俺達とちょっと、遊んでくれや!!」 取り巻き達はそう言って、やはり一斉にアファエルに飛びかかった。が、アファエルはその得意の軽業で男達を軽くあしらった。アファエルはそのまま壁際に飛び退くと、その哀れな連中を挑発した。 「どうしたんですかぁ?それで終わりですかぁ〜?」 その[のほほん]とした仕種がかえって彼らの精神を逆なでしたのか、取り巻き達は怒声を挙げて再び飛びかかった。が、それこそアファエルの思う壺であった。アファエルは三人がかかってくるのと同時に、後ろの壁を利用してそのまま三人を飛び越えたのだ!意表を突かれた動きに取り巻き達はついてこれず、内一人がそのまま壁に激突した!! その時、イヴルとミオが同時に帰ってきた。一目で状況を判断した二人は相変わらずのクサナギとアファエルに呆れ返っていた。そして、状況が不利になったとみてその場を逃げ出す取り巻きの内一人にイヴルはすれ違い様に拳を打ち込んだ!殴られた取り巻きは特に反撃も出来ずにその場を逃げ去った。 他の取り巻き達も気絶した仲間を連れてこの場から逃げ出そうとした。が、それをアファエルは許さず、内一人に足をかけてその場に倒した。そこにクサナギとイヴルが詰め寄った。 「さて、色々と聞きたいことがあるんだが……」 イヴルは取り巻きを通じて何か情報を得ようとした。が、店の主人が彼を放してやってくれ、と懇願した。このゴロツキ達が領主の息子の取り巻きだと知っているイヴルは、店に迷惑をかけるわけにもいかないのでその申し出を受け入れた。取り巻きは、 「お、……俺達をこんな目に会わせて、只で済むと思うなよ……!!」 と、お決まりの捨て台詞を吐いてその場から逃げていった。 「……助けてくださってありがとうございました」 店の隅に逃れたために無事であった給仕娘の礼の後、クサナギとミオ、アファエルは今のゴロツキが領主の息子、すなわち新郎の取り巻き達であること、そしてこの婚礼にまつわる新郎の噂を聞いてすっかり呆れ返った。その日はそれ以降とりあえず何の動きもなく一日が過ぎた。 結婚式前日。ミオは一人この町の北の門へと赴いた。この前の騎馬は確かにこちらの方に逃げたはず。そして町の外に出たのは間違いないのだ。町の人の話によると北の門は、今は使われなくなっている旧街道が伸びていて、しかもそこはすぐに、ラルスダンと呼ばれる峡谷に続いており、そこは旅の難所の一つであると云う。そのためか、北の門はだいぶ寂れていて、門番も暇そうに欠伸をしていた。 ミオはそんな門番に一昨日の晩に馬が数騎通ったかどうか訪ねてみた。が、ここにいる門番はその日は非番で、その日の当番は今日は非番である、と答えた。ミオはその時の門番の居場所を聞こうと思ったが、思い止まった。ここにいる門番に話が伝わってないところからすると、おそらく当日の門番も居眠りなどをしていて見てはいないだろうと踏んだからだ。 代わりにミオは門番の許可をもらって門の外に少しだけ出て、門の入口付近の地面を調べた。するとそこには、間違いなく数日以内に騎馬の通った跡が発見された。その収穫に満足したミオはとりあえず、町の中に戻っていった。 アファエルは朝早く盗賊組合に赴いた。もう少し変わった情報が欲しかったからである。盗賊組合についたアファエルはさっそく、顔役に何かいい話がないかどうかを切り出した。顔役はそれとなく袖の下を要求し、アファエルが銀貨50枚を支払うと、こんな話を聞かせてくれた。 「この婚姻の話は、親同士が決めたことなんだ。まぁ、そんな話はよくある話だが、実のところこの婚姻は、領主であるモーディス家が、マザ一番の豪商であるフィーデス家と繋がりをもって、ボロボロの財政を立て直そうっていう魂胆のようなんだ。これはフィーデス家にとっても、貴族と繋がりが持てるんで、それなりに見返りもあることだし。それで、この婚約話を承諾したようだ……が……」 ここで顔役は呆れ返ってこう言った。 「その財政難って奴も、もともとはあの放蕩息子のせいなんだ。あのバカ息子、賭や女に興じるあまり、ついには国庫の金にまで手を出したって云うんだ。唯でさえ貧乏な町だってぇのに、これじゃ財政難になっちまうわけだよ……」 なるほど、これはこれでおもしろい話である。だが、アファエルが聞きたかったのは他にもあった。アファエルは顔役に一昨日の騎馬の話を持ち出し、それに関する情報を求めた。それに対し顔役は一転して険しい表情になった。どうやらこれは単に情報を出し渋って金を要求しているわけではなく、本当に教えるべきかどうか迷っているようだ。 アファエルはその顔役の机に金貨を置いた。それを見た顔役はさらに悩んだ。「教えるべきか……」と呟く顔役。アファエルはさらに金貨を二枚ほど置く。合計金貨三枚が並んだ時点で顔役はようやく重い口を開いた。 「実は……モーディス家は盗賊組合とは別に、子飼いの密偵集団を雇っているようなんだ。おそらく、あんた達が見たのは、そいつ等じゃねぇかと思うんだが」 そしてこんな話も付け加えた。 「……そういえば、一組の芸人が城から帰っていないって話知っているか?近ごろ、街道でこんな話を聞いたんだ。何でも、最近男女一組の芸人が実は、どこかの密偵だっていう話だ。領主の城に行った芸人が実はその密偵で、出てこれないのはそれがばれたんじゃねぇかっていう話なんだ。それと……」 どうやらこの顔役の話はイヴルとナナを指しているのではないか、と思われるが、アファエルはそんなことには気づかなかった。そして顔役は最後にこんなことを付け加えた。 「この町にもうすぐ上納品を積んだ商隊が来ることになっているらしいが、どうやらその護衛の操兵、只者じゃネェって話だ。もし、この件に首を突っ込むなら気をつけな!」 その少し後、盗賊組合の情報通りその商隊はやってきた。その機体はどこかの家の紋章をつけた外套で覆っているために機種は不明であった。その操兵は全部で三機。そのうちの一機はかなりの大型機で、一見すると頭部はないようだ。そして外套の隙間に見える足首から、この機体の色がすべて赤で統一されていることが伺えた。 その機体は一見するとどこかの貴族に仕える騎士のようだ、が、たまたま付近を通っていたクサナギはその操兵をすれ違い様に眺めてその本質を見抜いた。 「あれは、騎士などではない。あの操縦は傭兵のそれだ」 その操兵の一団はまっすぐにモーディスの城へと向かっていった。 そのころ、イヴルは再び広場を訪れた。が、やはりニーナとスタンレーは戻ってはいなかった。イヴルはその足で今度は朝市を訪れた。色々な噂話しを聞くならやはり[近所の奥様方]に聞くのが一番、と考えたからである。そしてイヴルは適当に市場を歩き、やがて玉蜀黍売りと話していた一人の[若奥様]からこんな話を聞くことができた。 「実はね……フィネスお嬢さまには、恋仲になった人がいたのよ」 その主婦の話によると、フィネスは屋敷に仕えていた衛兵の一人であるレイセスという青年と恋に落ちた。だが、父親であるラッセル・フィーデスは身分の違いを理由にその仲を裂いた。そして半ば強引に、このリアの領主の子息セルディスとの婚約の話を進めたのだ。フィネスはそれを拒んだが、家のためだと説得されて、結局それに応じたということのようだ。 その話を聞いたイヴルは憤りを感じた。なぜ、最初の愛を貫かなかったのか、と……。イヴルはその主婦に、そのレイセスがどんな青年であったか訪ねた。それに対して主婦は、 「とってもいい人ですよ。誠実で、真っ直ぐで……。ほら、そこを通っている人をもっとかっこよくした感じの……」 イヴルが主婦の指さした方を見ると、そこには偶然にもクサナギが通りかかっていた。 (なるほど……どんな性格かよくわかる……) イヴルは不思議そうにこちらを見るクサナギを見て、そう思った。 その時、このお祭り騒ぎをぶち壊すような爆発音が町中に響き渡った!その音のした方を見ると、モーディスの城の庭から爆発の煙が上がっていた。そしてそれと同時に複数のガトリングガンの銃声が響き渡っていた!! |