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城では、先ほどクサナギが目撃した操兵が、その身に纏った外套を脱ぎ捨て、城の中を蹂躙していた。そのうち一機はムグランと呼ばれる重操兵で、両腕に鉄斬爪、両腰にガトリングガンを一基づつ装備している。もう一機はアルキュイル型、特に目立った改造はしていないようだ。最後の一機は何とリグバイン二式。あの傭兵隊長ザクネーンの乗機と同じ機体であったのだ!どうやら、この操兵が親玉のようだ。そしてそれらの操兵は、すべてが全身赤い色で統一されていた。 その三機の操兵の足もとでは、その仲間と思われるもの達がフィーデス家の紋章のある馬車を乗っ取っていた。そしてそれを確認した操兵達は、すぐさま撤収を開始した。どうやら最初からこの馬車が目当てであったようだ。 その光景を見たクサナギとイヴルはすぐさま自分達の操兵を取りに操兵駐機場へと向かった。だが、敵の操兵はすべて北門の方に向かっていった。一行の操兵は西門の方にあった。おそらく今からでは間に合わないだろう。 そのころ、北門にいたミオは、その一団と鉢合わせの形となった。その操兵の集団を見たミオは特に慌てることなく背中の長銃を取り出し、白煙弾を装填、その銃口を操兵に囲まれて走る馬車に向けた。この白煙弾の煙では操兵の視界は遮ることはできない。だが、敵の狙いが馬車ならば、それの動きを止めればかなりの時間稼ぎになると踏んだのだ。 「ま、結婚前日の無礼講、ということで……!」 この町でそんなものが通じるならフィネスとレイセスの恋は上手くいったのだろうが、そんな事情を知らないミオはその馬車の御者目がけて引き金を引いた。轟音とともに発射された弾は馬車の御者席付近に命中、大量の煙が辺りに広がった。その煙に驚いた御者は慌てて馬車を止めたが、馬がすべて混乱を来してしまった。どうやら上手く行ったようだ。 だが、世の中そんなに甘くはなかった。馬車の中を確認しようとしたミオだが、突如敵のムグランが馬車に接近し、その前に立ちはだかったのだ。さすがに生身ではどうすることもできずに、とりあえず退くミオ。それを見たムグランはその腕の鉄斬爪で馬車と馬を切り離し、なんと馬車を抱え上げたのだ!そしてそのまま煙の外まで持ってくると、馬車を地面に下ろし、残っていた綱を引いて馬車を牽引、呆然と見守るミオを置き捨てて、そのまま北門を破壊して町の外へと消えていった。 クサナギとイヴルがそれぞれエルグラーテとダイ・ザッパーに乗ってきたときには既に遅く、ミオが暴れ馬に振り回されているだけであった。今から後を追っても無駄であろう。仕方なくクサナギ達は町の壊された部分を整理し、人々の救出に当たった。 その中で一人、果敢にもその賊を追跡したものがいた。いわずと知れたアファエルであった。彼女は先ほどの混乱の中で馬を調達、そして追跡を開始したのだ。だが、敵の逃亡は巧妙なもので、北の門から出たすぐにある森に逃げ込んだのだ。しかし、森は妖精族にとって縄張りも同然。アファエルは確実に連中の通った跡を割り出し、追跡を続けた。 森を進むアファエルはやがて、三方向の別れ道にたどり着いた。見ると賊の痕跡はどれにもあった。どうやら賊はここで三つに別れたようだ。その場をアファエルが慎重に調べると、そのうち一ヵ所に馬車の車輪の跡が残っていた。アファエルがその跡をたどってみると、この道は森の出口、そしてラルスダン峡谷の入口となっていた。そしてそこに、無残にも破壊された馬車の残がいが転がっていた。アファエルが中を調べたが、もはや何の痕跡も、気配すらもなかった。 一方、あらかた町の後片付けを終えたクサナギ、イヴル、そしてミオはさっそく領主の城に行ってみることにした。だが、ここで問題が起きた。クサナギとイヴルが操兵で出向いたため、衛士隊の操兵が警戒し、戦闘体制を取ったのだ。先の戦闘の後ということもあって無理もなかった。仕方なくクサナギとイヴルは操兵を降りて城の門へと向かった。 城の中では、ミオが目撃した重操兵が他の操兵に取り押さえられていた。 「えぇいっ放せっ!俺様はあいつ等を叩きのめしてくるんだっ!!俺様の前では、こんな所業が許されんことを、思い知らせてやるんだっ!!!」 どうやらセルディスが飛び出そうとしているのを阻止しているようだ。やがてセルディスは落ち着き、しぶしぶ専用整備場へと帰っていった。 三人は門番に領主との面会を申し出た。 「もし、何かお困りの様子でしたら、お力になりたい、と思いまして、ね……」 ミオのそんな言葉に門番は胡散臭そうに一行を見た。その門番の態度はミオがクサナギの名前を持ち出しても変わりはない。さすがにライバからかなり離れた土地では、クサナギの名前も簡単には通用しないようだ。それでもミオは門番に食い下がり、ようやく領主に取り次いでもらうことができた。 しばらく待たされた後、ようやく領主との面会を許可された一行は、門番に案内されるまま城の応接室に通された。応接室では、領主ラグディス・モーディスが不機嫌そうな表情で一行を出迎えた。 「……そなた達が、クサ・ナギヒコとその一行か……。いったい何の用件かね」 それを聞いた一行は先ほど自分達を案内してきた門番を捜した。が、その門番は既に部屋から出ていた。いったいどうすれば、たった二人でこんな[伝言ケーム]になってしまうのだろうか。 それはともかく、ミオは領主に非礼を詫び、先程門番に伝えたことを繰り返した。ここは少し下手に出た方がよい、と考えたのだろうか、その会話はひどく丁寧でかつ卑屈なものであった。が、その態度がかえって自分達の足元を見られているかのような印象を持った領主は、 「言いたいことは、それだけか……」 と、眉をひそめた。それを見たミオは、 「そうですか〜そういうことでしたら、私たちはこれで……」 といってクサナギとイヴルを連れてこの場を去ろうとした。が、その時ラグディスが、急に何か思いついたように一行を呼び止めた。 「……待て。聞けばそなた達は先の騒ぎにおいて我が町の市民の救出に当たってくれたそうだな。どうやらそなた達は信頼に値する人物のようだ」 領主はここで話を切り、一行が再び席に着いたところで口を開いた。 「そなた達を見込んで、重要な任務を依頼したい……」 「それはどんな任務で……?」 ミオが領主にそう訪ねると、ラグディスは一通の手紙を卓の上に置いた。そして一行に、それを見るように促した。
「先ほど襲撃があった時、城の中庭に置いてあったのを部下が回収した。そして花嫁は、その手紙通り馬車ごと連れ去られてしまった」 ミオがその手紙が入っていたという封書を見ると、それは中庭に置いてあったにしてはやたらと奇麗だった。が、とりあえずそのことには触れなかった。 首領の名前を見たイヴルは驚愕した。その名前が先ほど聞いたフィネス嬢の恋仲だった青年と同じ名前だったのだ。 「そうだ。奴は二年前からフィーデス家で私設の衛兵隊に勤めていたのだが、二日前の深夜に姿を消した」 二日前の深夜といえば、一行が騎馬を見た日であった。では、あの騎馬がそうであったのだろうか。 イヴルは、この屋敷に逗留している(させられている?)であろうスタンレーとニーナの消息を訪ねた。するとラグディスは烈火の如く怒り、 「あの二人は奴等の仲間だったのだ!そして奴等の企みを手引きしたのだ!!」 それを聞いたイヴルから二人に対する好感情が消えていった。だが、ミオはこのとき、この領主の表情に何かしらの違和感を覚えた。そんなミオの感情に気づかず、ラグディスはさらに言葉を続けた。 「そこでそなた達に依頼する。かの[赤の盗賊団]なる賊から花嫁を救出するのはもちろん、しかる後に賊を完膚無きまでに叩き潰すのだ!!」 そこにクサナギが口を挟んだ。 「……ちょっと待て!それでは、身代金を払わずに奴等から力ずくで花嫁を取り戻せ、と申すのか。それでは、花嫁の安全はどうなるのだ!!」 そのクサナギの言葉に領主は静かに答えた。 「身代金そのものをけちって言っているのではない。金貨はフィーデスが用意するのだから、私の腹が痛むわけではないからな。だが……!」 ラグディスは一行に向き直り、怒りに満ちた叫びでこう言った。 「これは我がモーディス家の[誇り]の問題だ!奴等に身代金を払うくらいなら、いっそこのまま死んだほうがましだ!!」 そして怒りの形相のまま、 「これは命令だ!何としてでも奴等を壊滅させろ!そのためなら、花嫁が多少傷ついたとしても構わんっ!!」 この言葉に一行は半ば呆れ返った。この後に及んで人命よりも家の体面を優先するとは……。とりあえず一行は答えを保留した。この依頼を受ける前に、その誘拐されたフィネス嬢の実家であるフィーデス家の方の言い分も聞いておく必要があったからだ。一行はその旨をラグディスに伝えた。ラグディスはそれを承諾し、フィーデス家の当主に面会できるように一筆添えてくれた。 そのころ、追跡を諦めて町に戻ったアファエルは、その足で盗賊組合へと赴き、情報を求めた。ところが、その盗賊組合も[赤の盗賊団]に関する情報を求めていた。どうやら例の盗賊団はこの辺りでは(ひょっとするとどこでも)知られていない謎の組織であったようだ。 まぁ、まだそれほど時間が経っていないのだから仕方がない。そう思ってアファエルが立ち去ろうとしたその時、そのアファエルを顔役が呼び止めた。何か重大な頼み事があるようだ。 「実はな……領主の坊ちゃんの花嫁が誘拐されてな、その身代金をどこかの渡世人が運搬するって話が入ってきたんだ。確か、ク……何とかって言ったっけ」 アファエルはそれがクサナギ達を指していることに気づいた。 「まぁ、どの道この町もおしまいだ。俺達もこの町から撤収しなきゃならない。そこで、仕事終いにこの身代金を強奪しちまおうってわけだ」 どうやら、この顔役はアファエルにその仕事に加わってもらいたいようだ。 「どうだ、お前さん。何食わぬ顔で奴等に近づき、その美貌で、奴等の仲間に入れてもらうんだ。俺達は[赤の盗賊団]に成り済ましてくるから、お前さんは俺達の手引きをしてくれれば良い。もちろん、分け前ははずむさ……」 アファエルは困惑の、それでいて[のほほん]とした表情で答えた。 「あのぉ〜私はクサナギさん達の仲間なんですけどもぉ〜」 それを聞いた顔役は絶句した。が、すぐに立ち直り、 「だっだけどさ!そこを何とか……ほら、色仕掛で仲間をたぶらかして……さ!!」 「色仕掛って、何ですかぁ〜?」 この一言がとどめとなった。アファエルが今の言葉を[本気で]言ったことに気づいたのだ。(もったいない……)そう思った顔役だが、これでは使い物にならない。そしてそのことが、顔役から完璧にやる気を失わせた。 「……わかった。諦めて、まじめに撤収の準備でもしよう……」 そんな顔役にアファエルは、ラルスダン峡谷の地図がないかどうかを訪ねた。顔役はすぐに地図を持ってきてくれた。そしてこんな話も聞かせてくれた。 「確か、峡谷の奥の方に今は使われていない大きな岩窟寺院があったはずだ。まぁ、既に探索済みのところだから、今更行っても、何もないがな……」 そのころ一行は、ラグディスの書簡を持参してフィーデス家の当主ラッセル・フィーデスと面会していた。そして一行は、ラッセルからも花嫁救出の依頼を受けた。 「私は、娘が無事に戻ってくればそれでよいと思っている。だが、金を渡したとしても、奴等が無事にフィネスを返してくれるとは限らない。そこで君達には、無事にフィネスが戻ってくることを確認する見届け人を勤めてもらいたい。もちろん、奴等が無事に戻さなかった場合は、救出も頼みたいのだ」 ミオはラッセルの表情をよく見ながらその話を聞いていた。そしてラッセルに、賊の頭目であるレイセスについて訪ねた。 「彼は、二年前に私の家の衛士隊として雇った男だ。決して優秀ではなかったが、まじめな男だった。少なくとも、その時はそう思っていた。そんなレイセスに私の娘は惚れた。だが、二人が一緒になることに私は反対した。彼と娘では、あまりにも身分が違いすぎたのだ」 その言葉にクサナギは憤りを感じた。いったい身分などに何の意味があるのだろうか。ラッセルの言葉は続いた。 「しかし、結局反対して正解だったのだ。彼は……いやさ奴は、最初から身代金目当てでわが家に忍び込んでいたのだ!まさかフィネスがそんな男に惚れてしまっていたとは……。諸君!どうか娘を取り戻して欲しい。そして、奴の本当の姿を暴き出し、娘の目を覚ましてやってくれ!!」 だが、目敏いミオはこのとき、このラッセルの表情がどこか作り物のような感じがしていた。そう、明らかに何かを隠していたのだ。やがてラッセルはモーディス家の使者に呼ばれ「方針が決まり次第連絡する」と言って出かけていった。 何か煮えきらない気持ちで屋敷を出ようとする一行。その時ミオは、一人の侍女がこちらの様子をじっと、何か言いたげな表情で見ていることに気づいた。それを見たミオはイヴルをけしかけ、その侍女に話しかけさせた。 とりあえずイヴルは、その侍女に好感情を持ってもらうように接した。が、その時[眼鏡を外した]のがいけなかった。彼女はそのイヴルの[真の美貌]にくらっと来てしまい、すっかり赤面してしまった。だが、これはこれで幸いし、周りにいた衛兵にもただイヴルがナンパしているようにしか見えなかった。侍女は赤面しながら手紙をイヴルに手渡した。そして、 「……今夜……中央広場で、逢ってくれませんか……」 と、恥ずかしそうに言って、屋敷の奥へと消えた。 その後、宿に戻った一行はアファエルと合流し、それぞれの情報を交換した・そしてそれらを元にミオ、クサナギはそれぞれに推理を始めた。 ミオはあの領主と商人がおそらくはそれぞれに嘘をついているのではないか、と考えていた。つまり、領主と商人が互いを騙し合っているのではないか……と考えたのだ。だが、これと二日前の騎馬の関係はどうなっているのだろうか。アファエルの情報からすると、二日前の騎馬隊はおそらく、領主の子飼いの密偵であろうことは予想できる。そして、その騎馬が追いかけていたのはおそらくは……。 しかし、ミオにはラッセルとラグディスがそれぞれ互いに何を隠し合っているのかが見えなかった。それゆえに、いったい二人がなにを企んでいるのかが全く見えなかったのだ。 「二人で走り去っていったのがレイセスとフィネス嬢だとすると、それを追っていたのが領主の密偵……娘の失踪を隠すために[赤の盗賊団]をでっちあげたのは商人だよね。でも領主としては面白くないから、いっそその身代金の奪取を計るはず……自分ならそうする。するとほかに伏兵が……」 ミオはますます深みに嵌まり、唸り続ける。そんなミオを見たイヴルはすっかり呆れ返っていた。 それに対してクサナギは微妙に違った推理をしていた。クサナギはあのラッセルとラグディスが最初から共謀しており、騎馬はフィネスとレイセスの駆け落ちで、先の襲撃事件そのものが茶番だったのではないかと考えた。だが、ここでクサナギはさらに深読みした。 「……フィネスとレイセスが駆け落ちしたことは間違いない。そして花嫁を取り戻さんとして領主と商人が動きを見せているのも確かだ。だが、この事件にはきっとほかにも裏があるはず……。おそらくモーディスとフィーデスはこの[駆け落ち騒ぎ]を利用して何かとんでもないことを企てているような気がする……いったい、その企みとは……?!」 クサナギはクサナギで唸り続けていた。 結局情報が不足していたことには変わりはない。ここはイヴルに期待するしかなかった。イヴルが指定された広場に行ってみると、そこは未だお祭り騒ぎの真最中であった。そしてその片隅を見ると、先ほどの侍女が質素ながらもそれなりに着飾ってそこに立っていた。まぁ、この場合下手に人の気がないところよりはかえって目立たないのであろう。と言うよりは、彼女にとっては半分デートのような感じなのであろう。 「どうですか……とりあえず、ゆっくり話のできるところに行きませんか?」 イヴルは侍女の緊張をほぐすかのように話しかけ、侍女もその申し出に応じた。二人は恋人同士のように小料理屋に入り、その窓際の席でゆっくりと語らった。そしてしばらく関係のない話で侍女をその緊張から開放し、やがて侍女が話したがっていた話題に入った。 「レイセスさんは、親方様の言われるような悪い人じゃないと思うんです」 「フーム。ところで、フィネス嬢は町の人々が話している通りの人なのか?」 イヴルがミオからこれだけは聞いてくれ、と念を押されていたことを侍女に訪ねると、彼女は、 「そうです。お嬢さまは気立てがよくてお優しい方で、母様がなくなられてからは、家のことをお預かりしております。でも、レイセスさんとの件では、御館様とかなり言い争ったようです。そして二日前の晩、御館様とそのことで口論となってからは、お嬢さまは私たちの前に姿をお見せになっていないんです」 イヴルは今の言葉が気になった。二日前の晩と言えば、自分達が騎馬を目撃した日と一致する。そして[それ以降姿を見せていない]ということは。 「だが、それじゃ今日モーディスの城から誘拐された[フィネス嬢]は……」 そのイヴルの疑問に侍女は不安そうな顔でこう答えた。 「今朝は御館様が直接付き添って、馬車にお乗せになられたそうです。ですが、それについてちょっと気になることが……」 「と、言うと?」 「実は……昨日からお嬢さま付きの侍女達の姿も見えないんです」 これではっきりした。あの晩の騎馬に乗っていた一人は間違いなくフィネスだ。そしてもう一人はたぶんレイセスであることが予想できる。だが、それでもまだ完全に確証が取れたわけではなかった。 そのころ、ミオ、クサナギ、アファエルはいまだそれぞれに推理をしていた。が、いくら考えても埒が明かなかった。 その時、一行の元にラッセルの使者と思われるものがやってきて、翌日に身代金の運搬が行われることになったので、その任務を正式に依頼するという両家からの伝言を伝えた。そしてその付添い人が両家からそれぞれ派遣され、一行と同行する旨も伝えた。 「うち一人はわがフィーデス家の衛士隊長ラルカス殿。そして、もう一人は……」 ここで使者は冷静だった表情を歪めて、嫌そうにこう言った。 「……ご領主モーディス家子息……セルディス……[様]!」 面前で花婿を奪われた放蕩息子であった。 |