キャンペーン・リプレイ

第 二十六話 「 赤 の 盗 賊 団 の 峡 谷 」 平成12年5月5日(金)

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 翌日。イヴルは早朝になって帰ってきた。ミオはそんなイヴルを何故か不機嫌そうな態度で出迎え、そして互いの情報を交換しあった。イヴルは出発の時間を聞いた途端「4半刻(三十分)だけ寝かせてくれ」と言って寝台で仮眠を取った。いったい、イヴルは侍女とどう夜を過ごしたのであろうか。
 出発の時間。それぞれの準備を済ませた一行はラルカスとセルディスの到着を待った。その中でミオはこの町に来る際に使用したワークマンデをあえて置いてきていた。賊の要求では操兵は多くて三機。おそらくセルディスは操兵に搭乗してくるであろう。こちらには既にクサナギの新造古操兵ファルメス・エルグラーテとイヴルのダイ・ザッパーの二機がおり、それにセルディスの操兵を加えると三機になってしまうからであった。
 やがて一行の元に一台の馬車がやってきた。そして中から初老の男性が降りてきて一行に挨拶、自己紹介をした。彼がフィーデス家の衛士隊長ラルカスである。そして賊の首領(と思われている)のレイセスの上司でもあった。この度の任務は上司としての責任を果たすためであろうか……。
 そしてさらにしばらく待っていると、やがて城の方から一機の大型操兵が姿を現した。それはミオが目撃したあの、威風堂々とした操兵であった。その大きさは本来大型機に分類されるエルグラーテと同じくらいなのだが、その全体の飾り立てられた印象、不必要に巨大に作られている肩部および腰装甲などによってエルグラーテよりも大きく見える。実際クサナギの目にはその操兵の身長が自機エルグラーテの二倍から三倍に写って見えていた。
 その操兵から降りて来たセルディスを見た一行はさらに驚いた。操兵だけではなく、その操手も巨大に見えたのだ。いや、実際に巨大であった。身の丈2リート強の巨躯のその出で立ちはそれだけでも存在感を主張しているのだが、一行の目にはその筋肉だけで構成されているとしか思えない巨体がまるで操兵ほどもあるように見えた。
 セルディスは随伴してきた馬車から上等の食料と酒をラルカスの馬車に積み替えさせながら一行に、最初に言っておきたいことがある、と前置きしてから高らかに宣言した。
「まず、この俺様、セルディスがこの任務のリーダーである!次にこの俺様の名を呼ぶときは必ず[様]をつけろ!!そして最後に、この任務は失敗は許されない!!!以上だ」 
 そしてさっさと専用操兵[ガルディアス]に乗り込み、北の門へと向かっていった。仕方なく一行もそれぞれ操兵を起動させ、ラルカスの馬車を護衛しつつ、ガルディアスを先頭にラルスダン峡谷に続く森へと進んでいった。
 一行が警戒しながら森を進むと、その途中、ちょうどアファエルが通った三つに分かれる道の一つに矢印のようなものが立てかけてあった。アファエルが見たときにはなかったものだ。一行はそれを[赤の盗賊団]の指示と判断。その矢印の通りに右へと進んでいった。
 道中ミオはラルカスにそれとなく、この事件についていろいろ質問、時には鎌をかけてみた。だが、ミオ自身にとっても納得ができないことが多すぎてどこから突き崩してよいかわからずに結局あまり突っ込んだ内容にはならなかった。
 やがて一行は森を出て、ラルスダン峡谷に入った。この峡谷は難所と呼ばれ、その谷は操兵でも乗り越えることが困難で、しかもかなり複雑に入り組んでおり、まさに自然の迷路、と云った感があった。なるほど、これなら北の門に見張りを置かない理由もよくわかる。これほどの難所なら、外敵が攻めてくることもないし、地図でもなければ抜けるのはかなり困難だろう。
 その地図を頼りに進む一行。地図は間もなく広場に出ることを示していた。そして一行は地図の通りに巨大な岩壁に覆われた広場に出た。それと同時にそれぞれの操兵の感応石に反応が現れた。どうやらここが金の引き渡しの場所のようだ。
 岩壁の上から三機の操兵が一行を取り囲むように出現した。その期待は昨日フィネス嬢を誘拐したものと同一であった。崖の下の方には奴等の手下と思われるもの達も何人か確認できる。改めて地形を確認すると、この広場には一行が入ってきた道の他にさらに三つほどの道が確認できる。下っぱはそれぞれの道に立っていた。
 賊のリーダーと思われるリグバイン二式が拡声器で一行に向かって叫んだ。
「……身代金は用意してきただろうな!」
 ミオがラルカスに今の声が誰かを確認した。が、ラルカスはその声に聞き覚えはないと言った。
「そなたは首領のレイセスか?!」
 クサナギのその誰何にリグバイン二式の操手はこう答えた。
「俺は副長のレベック。首領であるレイセス様はわざわざこんなところにはおいでになりはしない」
 イヴルはレベックにフィネス嬢はどうした、と問う。肝心の彼女がいなければこの取引は成立しないからだ。そのイヴルの問いに対しレベックはリグバインの足もとを指さした。そこには、遠くて誰だか確認は出来ないが、確かに一人の少女が縛られ、巣巻きにされていた。その側では下っぱの一人が、その少女が逃げ出さないように見張っていた。
 それを見たセルディスは自機ガルディアスを盗賊団に向けて前進させた。
「昨日はよくも恥をかかせてくれたな!ここをきさま達の墓場に変えてやるぜ!!」
 叫ぶセルディスはそのままガルディアスに抜剣させた。それを見たクサナギは果敢にも(クサナギの妄想では)エルグラーテの三倍はあろうかと思われるこの巨大操兵を止めに入った。実はガルディアスの膂力は見た目ほどではなく、エルグラーテに取り押さえられたこの巨大操兵はセルディスの必死の操縦にもかかわらず、その場から一歩も動くことができなかった。ここに来てクサナギはようやくガルディアスがエルグラーテと同じ大きさである、と認識できた。
「えぇい放せっ!だいだい手前ぇは気にいらねぇんだ!!渡世人の分際で俺様よりも偉そうな操兵に乗りやがって!!!」
 なす術もないセルディスはただ空しく叫ぶしかなかった。
 そんな光景を尻目にしながらもミオはレベックに人質の無事の確認を要求したが、レベックは金を受け取ってからである、といって聞かない。無事を確認しなれば渡せない、と主張するも、
「……[切り札]は我々が握っていることをお忘れかね?!」
 と言って全く取り合わない。話は平行線を辿るかに見えた。
 その時、イヴルのダイ・ザッパーが馬車から離れた。そしてレベックに向けて「好きにしろ……」と言い放った。それを見たミオはとりあえず交渉を引き延ばすことを諦めた。
 アファエルが金貨の入った箱を重そうに馬車から下ろし、広場の真ん中に置いた。それを見たレベックは部下を寄越して箱の中身を確認させた。箱を開け、中身を見た部下はその金貨を見て思わずこう、口走った!
「[親分]!本物ですぜ!!」
 一行はその言葉を聞き逃さなかった。
 金を受け取った賊は右端の道に向かってその箱を運んだ。見るとその道の岩場の影に一台の馬車が隠してあった。馬車に箱が積み込まれるのを確認するとレベックは、一行に向かってこう言い放った。
「……これで取引は終了した。フィネス嬢はここに置いていく。あのお方としては金が入った以上、もはやこの女に用はないのでね」
 レベックは部下にこの場からの引き上げを命じた。部下達はそれに従い、次々と崖の中、あるいは影に消えて行く。そして部下がすべてこの場から消えるのを確認したレベックは、
「それでは私も失礼するとしよう……。[この奥にある神殿跡でレイセス様がお待ちしている]のでね……」
 とわざわざ居場所を教えるような言葉を残して自分もその場を立ち去った。
 クサナギとイヴルはすぐさま感応石で彼らの後を追った。だが、何故か感応石にノイズが入り、精度が下がっていた。後で知った話だが、このラルスダン峡谷には聖刻のをはじめとする不可思議な力を反射する金属[銀鏡鋼]の鉱脈が所々に存在しており、それによってこの辺りでは聖刻の力がわずかながらに乱反射し、ごく弱い[力]にも反応する感応石が真っ先に影響を受けたのだ。
 [銀鏡鋼]とは、このゴンドア大陸でまれに採掘される金属の一種で、この金属を集めて鍍金を施せば、[練法]などの術法を反射、防御することが可能である。だが、このゴンドア大陸において[術法による攻撃]という現象はあまり一般的ではない。それゆえにこの金属の使い方は、主に粉末状にして白煙弾に仕込み(ごくわずかな量でよい)、爆発させて敵の感応石の妨害などに使用するというものであった。
 今の状況はまさにこの状態が自然に発生したと言える。唯でさえ感応石の探索範囲はそれほど広いわけではない。そこにこの現象が重なっては対処のしようがないのだ。だが、そんな中でもクサナギは、敵のリグバインが範囲ギリギリで右に迂回したことに気づいた。それは、地図上では神殿跡とは反対の方向であった。
 赤の盗賊団が去り、あとには崖の上に残された少女が縛られているままで残されているだけであった。クサナギはエルグラーテの背部のロケットモーターを始動させて崖の上まで飛翔、安全に着地して操兵を降り、その少女の戒めを解いた。クサナギはフィネスの顔を知らなかった。そしてとりあえずその少女の名前を聞いた。
「……そなたはフィネスか?」
 少女は脅えたままで答えた。
「……いいえ……私は町に住むものでレイミアと申します。私は昨日、突然現れた人達に誘拐されて……気がついたら縛られて……」
 どうやらこのレイミアという少女は、昨日の騒ぎの際に同時に誘拐され、フィネスの身代わりとして利用されてしまったようだ……。クサナギはレイミアをなだめ、降りられるところを捜して馬車のところまで連れて帰った。そしてとりあえずイヴルが預かり、ダイ・ザッパーの、ふだんは姉のナナが乗る操手槽の後ろのもう一つの席に乗せておくことにした。
 一行はとりあえずの方針を相談し、クサナギとセルディスが崖の上から、イヴルとミオ、ラルカスが馬車の逃げた道、そして身軽なアファエルが神殿跡への偵察、と役割を決め、それぞれ行動を開始した。もっともクサナギの場合は、セルディスが勝手に操兵で無理やり崖の上によじ登って敵を追いかけ始めたのでなし崩しにそうなってしまっただけなのだが。
 金貨を乗せた馬車を追ったダイ・ザッパーとミオ、ラルカスだが、その途中で行き止まりにぶつかり、そこに馬車が乗り捨ててあるのを発見した。馬車は当然もぬけの殻であった。見るとその正面の崖に縄梯子をぶら下げていたと思われるフックが打ちつけられていた。どうやらここから宝を崖の上へと引き上げ、待機していた他の仲間と逃げたようだ。
 イヴルはダイ・ザッパーにこの崖の登はんを試みさせた。崖の上では馬車は走れない。今操兵で追いかければ追いつく、と判断したためであった。ところが、崖に手を掛けて登り始めた途端、その岩場が崩れ、ダイ・ザッパーはものの見事に地面に滑り落ちてしまった。敵の罠か。そうではなかった。ただイヴルが操縦を誤り、力を余計に掛けすぎて崖を崩してしまっただけであった。
 イヴルは再び別の場所からの登はんを試みた。先の場所は完全に崩れて登れなかったからである。ところが、ここに来てクサナギの不幸でも移ったのか……イヴルは再び操縦を誤り、またもや崖から滑り落ちてしまった!!後ろの席ではレイミアが悲鳴を上げている。イヴルは崖の登はんを諦めざる終えなかった。
 一方、単身遺跡に向かったアファエルは、巨大な寺院の跡にたどり着いた。だが、周りを調べても赤の盗賊団が潜んでいそうな気配は感じられなかった。しかし、そこでアファエルは馬車一台と馬二頭が隠れるように繋がれているのを見つけた。どうやら、赤の盗賊団ではないものの何かが潜んでいることは確かなようだ。
 アファエルはとりあえず遺跡から離れることにした。その時、遺跡の影から銃口が伸び、アファエルに静止を求めた。
「ここはとりあえず、我々に従ってはくれまいか……?」
 その声は穏やかで、別に脅しているわけではなかった。アファエルがその場から逃げ出そうとしても銃口を向けるだけで射撃もしてこない。どうやら、アファエルに本気で危害を加えるつもりもないようだ。
 アファエルがどうするべきか考えあぐねていると、寺院の大きな入口の中から巨大な人型の[何か]が出現し、それを見たアファエルは驚愕した。[それ]は機械に疎い妖精族のアファエルが見ても操兵ではない、とはっきりしていた。だが、アファエルはその巨体に驚いたわけではなかった。そしてその巨大な[それ]はアファエルに向かって[長い右腕]を伸ばしてきた。
 一方、崖を登り損ねたイヴルとともにミオは、アファエルの後を追って寺院跡に続く道へと馬車を進ませていた。その中でミオはラルカスに先の取引現場での不審な会話についての意見を求めた。
「……ところでさぁ、さっきの賊の会話なんだけど……あいつ等確かこう言ったよね["親分"本物ですぜ]って」
 それを聞いたラルカスはムッとした表情で答えた。
「当たり前だ!親方様はフィネス様のことをお考えになっているのだ。金貨は本物に決まっているだろう……!!」
「違うの。あたしが聞きたいのは、賊がレベックとか云うのを[親分]て呼んだことよ。おかしいと思わない?自分のことを副長だって名乗っておきながら手下が[親分]だなんて呼ぶのは……」
 それを聞いたラルカスは眉一つ動かさずにこう言った。
「……何が……言いたい!」
「あたしの推理はこう。フィネスお嬢さまは既に二日前の晩にいなくなっている。恋仲のレイセスとともに、ね。そしてその発覚を恐れたあんたの主人ラッセルが、[赤の盗賊団]とかいって娘の誘拐をでっちあげ。そして身代金を渡した後で私たちを本物の二人の所まで誘導して私たちにフィネス嬢を取り戻させる……」
 ミオの言葉が続く間ラルカスは、終始顔をしかめたまま話を聞いていた。
「ね、ラルカスさんの主人にも親としての都合があるんだろうけど、娘の駆け落ちを結婚相手に隠す為に偽の盗賊仕立てて襲撃するなんてフェアじゃないと思わない?ここはラッセルさんを説得して、御領主に真相を言って謝るのが一番良いと思うんだけどなぁ」
 脈ありと見たミオは何とかこの衛士長を味方につけようと必死に弁を振るった。その説得が功を奏したのか……やがて衛士長は苦悩に満ちた声を上げた。
「やはり、御領主と旦那様をお諌めするべきだったか……」
「二人ともぐるかいっ!」
 ミオの突っ込みは衛士長のこめかみに拳銃を突き付けるのと同時だった。そしてこの会話に注目していたイヴルもダイ・ザッパーの槍先をラルカスに向けて叫んだ。
「真実を話してもらおうか……!!」
 二人に詰め寄られたラルカスはうつむいたまま話を始めた。が、その目と鼻の先では三体の操兵が三巴の戦闘を繰り広げていた!
 そのころクサナギは、ただひたすらに走るガルディアスを追いかけながら崖の上を進んでいた。その時、その左手に例の寺院跡が見えてきた。だが、クサナギは敵はここにいないと確信していた。先の感応石の反応からリグバインが右の方に逃げたことは明らかであったからだ。
 しかし、クサナギはその敵の跡を追うことを許されなかった。興奮したセルディスが寺院跡に向かって突進していったのだ!仕方なくエルグラーテも後を追った。やがてガルディアスは崖を滑り降りて寺院の入口に差しかかった。その時、何か操兵のようなものがその巨大操兵の前に立ち塞がり、[六本の枝をもつ剣]で立ち向かったのだ!!
 同じころ、何者かに捕らえられたと思っていたアファエルは何故かお茶などをご馳走になっていた。そしてその目の前には何故かゼノアがいた。その側にはゼノアの部下、見上げるとモ・エギもいた。そしてその傍らには何とフィネスとレイセスと思われる男女がいたのだ。アファエルが丁寧に誰何すると、二人は自分達がフィネスとレイセスであることを認めた。
 フィネスの話によると、二人は確かに三日前の晩に騎馬で脱走した。その際、侍女の何人かが手助けしてくれたという。だが、見張っていたラグディスの密偵に見つかり、その追跡を振り切って何とかこの寺院にたどり着いた。だが、追っ手もすぐに追いついてきた。そこにたまたま寺院の調査にこの地を訪れていたゼノア達とモ・エギに助けられたのだという。
 その時、寺院の外で見張りをしていたゼノアの部下の一人が声を上げた。
「隊長!操兵の襲撃です……!!」
 それを聞いたモ・エギは立ち上がりざまに戦鎧の兜を装着、御仁姫紅葉武雷となってその操兵を迎え撃った!
 ガルディアスと剣を交えたものがモ・エギであると気づいたクサナギはすぐさま叫んだ。
「よせモ・エギ!その者は敵ではない!!」
「え……クサナギさん?!」
 モ・エギはすぐに戦闘体制を解こうとした。が、セルディスのガルディアスは戦闘行為を止めようとしない。
「やめるんだセルディス!彼女は敵じゃない!!」
「うるさい!俺様の邪魔をする奴はみんな敵だ!!」
 セルディスはクサナギの言葉を聞き入れず、モ・エギに対して攻撃を続行した。というより、もはや興奮状態のセルディスはもはや誰にも止められない。仕方なくクサナギはエルグラーテに大太刀を抜刀させ、暴れるガルディアスに向かっていった。
 クサナギはガルディアスの長剣を狙ってエルグラーテに大太刀を振るわせた。[御仁ノ太刀]は狙いたがわずガルディアスの長剣に命中、セルディスはその攻撃に耐え切れずにその剣を取り落としてしまった。
「……て、手前ぇ、裏切ったなぁ!!」
 セルディスはますます混乱し、ガルディアスの両腕を振り回してエルグラーテに突っ込んできた。その時、イヴルのダイ・ザッパーがようやく駆けつけ、ガルディアスの背後から首のジョイントを狙って短刃による攻撃を加えた。その短刃はジョイントを破壊するに至らなかったものの、ガルディアスの動きをある程度制限することに成功した。
 クサナギはこのときとばかりに大太刀を捨て、ガルディアスの仮面目がけてエルグラーテの拳で殴りかかった!この[仮面割り]という戦法は操兵の急所である仮面を狙うことで操兵の機能を麻痺させ、あわよくば破壊する手段である。だが、操兵の仮面は最初からこの戦法に対して防御しやすく作られており、簡単には命中しない。しかし、それでも試みるに値するだけの効果はある。
 クサナギは慎重に狙いを定めてエルグラーテの鋼の拳をガルディアスの仮面にに向けて突き出した!本来操兵の拳は殴りつけるのに向いていないのだが、エルグラーテには新たにセラミック性の小手が装備され、手首の破損を防ぐだけでなく、二の腕そのものの防御力も上昇させることができるのだ。
 だが、その攻撃はぎりぎりのところでガルディアスの顔面を掠った。結局クサナギ、イヴル、モ・エギは力ずくで押さえにかかり、結局この暴れ操兵はエルグラーテ、ダイ・ザッパー、そして紅葉武雷の手によってようやく取り押さえられ、機体を停止させることができた。
 その後アファエルの説明でようやく事情が飲み込めた一行は、改めてラルカスにこの事件の真相を追究した。ラルカスはゆっくりと話し始めた。
「……フィネス様とレイセスが脱走した次の日、追撃に出た領主様の密偵が戻らないことを受けて、ラッセル様とラグディス様はとりあえずの対策を話し合われた。婚姻の日は間近。もはや隠し切れないと考えたお二人はこの花嫁誘拐の狂言を思いつかれた」
「……それが、[赤の盗賊団]か」
 クサナギの言葉にラルカスはうなだれたまま言葉を続けた。
「そうだ……体面を重んじるラグディス様は[駆け落ち]などという事実が発覚するのを恐れた。自分の息子が、妻となるべき人を取られた、などということなど……。しかし、それが[誘拐]であれば、その場の体面は崩れるものの、あとで取り戻すことによってそれはいくらでも立て直すことができる」
 その言葉にフィネス、レイセスをはじめとする一行は憤りを感じた。娘がなぜ脱走したのか考えもせず、ただ自分達の家の体面のことばかりを考え、挙句の果てには自分達やレイミアをはじめとして何の関係もないもの達を巻き込むなど……。
「……ここで渡世人である君達を利用したのは、旅の者達である君ら第三者が証人となることで、その正当性を主張し、レイセスを盗賊団の首領として扱うことができると踏んだからだ」
 今まで話を聞いていたミオはラルカスに向かって叫んだ。
「あんたね……!ほんとにフィネスのこと考えて事を起こしたの!!この坊ちゃんが間違ってフィネスを叩き斬ったらどうするつもりだったのよ!!!」
 と言って、セルディスを指さした。指されたセルディスは反論しようとするが、急にバツが悪くなってそのまま黙っていた。事情を聞いたセルディスはイヴルに諭され、すでに二人の恋に干渉するつもりはなかった。もっとも、この婚姻自体、親が勝手に決めたことなのでセルディスは特にフィネスに対して特別な感情を持っていたわけではなかったのだが……。
 ミオの言葉を聞いたラルカスは反論した。
「そのために私が寄越されたのだ!セルディス様の同行を知ったラッセル様が、私にフィネス様を守るように命じられたのだ!!私としては、レイセスを殺すつもりもなかった。できれば彼には、この場から誰の目にも届かないところまで逃げてもらいたかったのだ」
 それに対してミオは言葉を荒げた。
「それじゃあ、愛し合っていたこの二人はどうなるのよ!フィネスが可哀相じゃない!!」
 そして今まで沈黙していたフィネスも声を上げた。
「お父様は……私ではなく、[家のこと]を考えているの……それじゃ、私の考えはどうだって言うの!私はレイセスが好きなの!!だから、駆け落ちまでしたのに……でも、お父様は[家のこと]しか考えていらっしゃらないの!!!」
 そのフィネスの言葉に打ち据えられたのか、ラルカスは地面に両手をついてこう呟いた。
「……申し訳ありません……ですが、これも……フィーデス家の安泰のためでございます」
 ラルカスはあくまで[家に仕えている]人間であった。そんなラルカスを見た一行はもう呆れはてて声も無かった。
 クサナギは今度はモ・エギとゼノアに、何故この地にいたのかを聞いた。その問いに対しゼノアは、この寺院の調査が目的であると答えた。
「この寺院はかつて古リダーヤ教のものらしいのですが、ここに[奇面衆]の手がかりがあるらしいんですが……でも」
 ゼノアは言葉を切って、にこやかに笑ってこう言った。
「後にしましょう。今はこの事件の結末の方に興味がありますから!」
 一行はとりあえず、今後の方針を話し合った。このまま二人を逃がすのも良いが、それだけでは騙された自分達の気も収まらない。だが、このまま乗り込んでも相手は権力者。分が悪いのは見えていた。
 そこでミオは、今まで会話の置いてきぼりを食っていたセルディスに話しかけた。
「……ところで、あんたはこの事件について何も知らされてなかったわけだけど。どう、自分の親にダシに使われて悔しくない?」
 ミオの言葉巧みな話術に乗せられたこの単細胞はその言葉に頷いた。
「と、当然だ……!このまま騙されて終わるのはご免だからな……。俺は確かに札付きのワルだが、親父殿のような姑息な企みはやはり許せんのだ!!」
 セルディスは拳を震わせながら叫んだ。どうやら彼は根っからの悪人ではなく、姑息で自分の体面ばかりを考える父親に反発して、今の放蕩生活をしていたようだ。
「で、ここはその親父殿に当然仕返しをしてやらなきゃいけないよねぇ……」巨漢を見上げる少女の目が光る。

 そこでミオはさらに言葉を続けた。
「で、ここはその親父殿に当然仕返しをしてやらなきゃいけないよねぇ……。そこで話があるんだけどさぁ……」
 ここに来てイヴルはミオの企みに気づいた。おそらくミオの考えは、一行だけでこのまま乗り込んでも正当性に欠けるのなら、ここはセルディスに先頭に立って騒ぎを起こしてもらい、この事件そのものを[親子喧嘩]に発展させてしまえば自分達の行動もうまくごまかせる、という算段であろう。セルディスに何かを吹き込むミオを見て、イヴルは何故か[タヌキの化かし合い]という言葉を思い出していた。
 方針が決まった一行は直ちにリアの町へと取って返した。そしてフィネスとレイセス、ゼノアとモ・エギ達もことの結末を見届けるために一行に同行した。やがて一行はリアの町に入り、その足でモーディスの城に赴いた。