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そのころ城の中では、ラグディスとラッセル、そして赤の盗賊団[副長]レベックが酒を酌み交わしながら一行の帰還を待っていた。 「……しかし、また都合よく渡世人が来たものだ。奴等ならそれなりに金をちらつかせれば、思ったように動いてくれる。しかも、[誘拐事件解決の功労者]という名誉も得られるのだから、当然張り切るというものよ……」 その言葉に同意しながらラッセルは、 「しかし、彼らは無事にフィネスを、娘を連れ戻してくれるでしょうか……」 と、呟いた。それに対してラグディスは、 「そのために貴殿の衛士隊長を同行させたのであろう?それに、いざとなればすべてあの渡世人達の責任にしてしまえば良い。何せあ奴等は自分達から言い出したのだ……失敗した時のことくらい考えておろう……」 そこにレベックが割り込んだ。 「それにしても[赤の盗賊団]とは考えましたな。これでレイセス[様]が[征伐]されればこの盗賊団も壊滅、私どもは操兵の塗装を変え、ほとぼりが冷めるまでおとなしくしていれば良いだけ……事件は[一件落着]ですな」 「そううまく行くかな!!」 不意に拡声器を通じた声が城中に響き渡った。ラグディスとラッセルが大急ぎで城の外に出るとそこには、ガルディアスを先頭にファルメス・エルグラーテ、ダイ・ザッパー、紅葉武雷が立っていた。そしてガルディアスからセルディスが高らかに叫んだ。 「親父殿。このセルディス、見事任務を達成し、ただ今帰還した!!」 その拡声器を通した大声を聞いたラグディスは、ラッセルとともに城の中庭で一行を出迎えた。 「おぉ、でかしたぞ我が息子よ!」 ラッセルも側で叫んだ。 「フィネスは……フィネスは無事なんだろうな」 ここでセルディスはミオとの打合せ通り、まるで原稿でも呼んでいるかのように棒読みで叫んだ。 「[黙りなさい父上!あなた方の企みは、すべて露見したのですぞ]……だったか……」 いきなり口調を変えた息子にラグディスは困惑した。 「……息子よ……いったい何を言っているのだ!!」 そして一行の傍らに、フィネスとレイセスの姿を見たラッセルもまた驚愕していた。征伐されていなければならない筈の身の程知らずが何故、愛する娘といまだ伴にいるのか……。 「お父様……私たちはもうあなたの元へは帰りません!!」 「僕は必ずフィネスを幸せにして見せます!!」 そんな二人にラッセルは返す言葉を失った。 セルディスはさらに言葉を続けた。 「[父上!あなたは愛する二人を引き裂くためにこのような誘拐騒ぎを丁稚あげ、そのためにここにいる者達や息子である私までも利用した!!これは断じて許しがたい……!!!]……で、いいんだよな」 いちいちミオに同意を求めながら叫ぶセルディスに父であるラグディスが、 「息子よ……そこにいるもの達にたぶらかされたな!」 と叫ぶと、 「うるせえ!そっちこそ俺様をダシにしたくせに……!![かくなる上は父上、あなたはこのような騒ぎを起こした以上、町の人々に謝罪し……]と、なんだっけ ……[ここは潔く退陣、マザに領主としての位を返上することをお勧めする。それが、リアのみならず、マザのためでもある]ぞっ!!!」 それを聞いたラッセルは、完全に気落ちし、その場にヘタリ込んだ。しかし、ラグディスはここに来て開き直った。 「えぇい……かくなる上はこの場にいるもの達をまとめて抹殺し、事件そのものを隠蔽するまでだっ!出ぁえ出ぁえぃ!!」 ラグディスが右手をあげると、屋敷の陰から三体の操兵が姿を現した。それは[赤の盗賊団]のものであった……。 「ようやく本性を現したな!」 クサナギの叫びにレベックが名乗りを上げた。 「[赤の盗賊団]改め[赤の傭兵団]!あの傭兵隊長ザクネーンすら恐れるこの俺を本気にさせた以上、覚悟はできているだろうな!!」 レベックが叫ぶと同時に赤いリクバインがエルグラーテに向かって前進を開始した。それに対してクサナギは先手を取り、御仁ノ太刀を振るってリグバインを迎え撃った!が、クサナギはやはり肝心なところで不幸に陥った。何と敵との間合を諸に読み違え、その自慢の太刀はものの見事に空を切った!! それを見たレベックはあざ笑いながら肩部のガトリングを作動させた。クサナギのエルグラーテのみならず、この場にいるイヴルのダイ・ザッパー、ミオのワークマンデ、モ・エギこと紅葉武雷、そして挙句の果てにセルディスのガルディアスやアファエル、フィネスとレイセスなどもまとめて凪払うつもりのようだ! だが、そのガトリングが火を吹くことはなかった。弾詰まりを起こしてしまったのだ!レベックはこの状態に驚愕し、叫んだ。 「ま……まさか剣圧でガトリングに衝撃を加えたというのか……!!」 そんな訳はない。だが、クサナギは先の失敗の照れ隠しも兼ねて叫び返した。 「……み……見たか!これでそなたのガトリングは封じたぞ!!」 クサナギは叫びながらも爆砕槍の充填を開始した。それを見たイヴルは、クサナギの先の状況から支援に回るべきと判断、自分もダイ・ザッパーの自動換装腕機構を作動、蒸気式圧砕鎚の充填に入り、リグバインに接敵しようとした。 その戦闘の最中、ラグディスは馬車にいるフィネスとレイセスに銃を向けた。それを見たミオはワークマンデをラグディスと馬車の間に立たせ、その射線を塞いだ。そしてアファエルがラグディスに向けて得意の軽業、もとい飛び蹴りを仕掛けた!その攻撃をまともに受けたラグディスは銃を取り落としてその場に倒れ込んだ!! イヴルが充填を完了させてエルグラーテの支援に向かおうとしたとき、[赤の傭兵団]のムグランがダイ・ザッパー目がけて突撃してきた。ムグランは重戦闘用操兵の部類に属し、しかもこの機体は両腰部にガトリング、両腕部に鉄残爪を装備した改造強化型である。まともにぶつかればダイ・ザッパーも唯ではすまない。 イヴルは先手を取って、先ほど充填した圧砕鎚をムグランの心肺器に向けて狙いを定めた。心肺器は操兵の空気吸入口で、仮面ほどではないがやはり操兵の急所の一つである。ここを破壊された場合、機体への空気が補給されなくなり、筋肉筒が窒息、操兵が稼働停止に追い込まれてしまう。だが、やはりこの部分に対する防御も確立されており、特に大型兵器である蒸気兵装では命中は非常に困難である。 しかし、戦闘能力に劣る今のダイ・ザッパーがムグランに勝利するにはこの方法しかない。イヴルは自分の幸運を信じてレバーを引いた。そしてその思いを受け取った圧砕鎚は、ものの見事にムグランの心肺器に命中、その威力は心肺器に留まらず、機体の腰部の骨格も破壊、ムグランを完全に粉砕した!! それを見たレベックは焦り、リグバイン二式に小剣を構えさせ、そのままエルグラーテに向けて突撃を敢行した。ここでとりあえず目の前の敵を突破して逃走を計ろうというのだ。が、クサナギはそのリグバインに向けて逆転の回旋爆砕槍を射出した!二股の白き槍がリグバインの胴体を貫き、機体を完全に粉砕した!! 「俺は……ザクネーンすら恐れる男だぞぉ!!」 虚勢だけは立派だが、こうなってはただ情けないだけである。もしこの場にそのザクネーンがいたら、こう言っただろう……。 「……俺が恐れたのはな、負けそうになったらいつ裏切られるかわかんねぇからだよ!!」 と。 隊長と仲間が倒されるのを目の当りにした赤いアルキュイルは、次の標的が自分であることを実感した。そしてそうならないために思わぬ行動に出た。 「いや……よくやった諸君。どうやら私の出る幕はなかったようだな……いや、何にせよこれでこの地の平和は守られた。私はこれで引き上げると……しよう……!!」 アルキュイルはそれだけを言ってその場からの逃走を計ろうとした。が、それを許さないものがいた。セルディスのガルディアスである。 「……相手になってくれよ……俺はまだ暴れ足りないんだ!!」 その巨体に圧倒されたアルキュイルは後退り、逃走の道を捜す。しかし、振り返るとそこには、モ・エギが立って道を塞いでいた。 「……う、うわああぁぁぁ…!!」 アルキュイルは自棄になってガルディアスの巨体に突っ込んでいった。 一方、ラグディスはそんな雇われ用心棒が倒される様を目の当りにしながらも、往生際が悪いのか再び銃を拾おうとした。が、その場にアファエルがかけつけた。銃を拾うためには立ち上がらなければならないが、それをアファエルが阻止したのだ。 こちらも自棄になったラグディスは立ち上がり様にアファエルにさっきの仕返しとばかりに蹴りを仕掛けた!が、そこにアファエルの姿はなかった。彼女は既にその攻撃を読んで宙に跳んでいたのだ!そしてそのまま落下し、ラグディスのみぞおち目がけて肘鉄を食らわせた!!その強烈な一撃を受けたラグディスは気絶こそは免れたものの、その場にうずくまって動けなくなった。 だが、ラグディスはもう一つの恐怖を味わうこととなった。倒れている哀れな父の元に息子セルディスが怒りの形相でやってきたのだ。その後ろにはボロボロのガルディアスがアルキュイルと重なりあって倒れている。どうやら、相討ち同然の勝利であったようだ。アルキュイルの操手はモ・エギに摘み上げられ、玩具になっていた。 セルディスは父の襟首を掴み上げ、そのまま立たせてこう叫んだ。 「……俺は今日限りで放蕩生活をやめる。これが最後の[親不孝]だ!!」 そしてセルディスはおもいっきりラグディスの顔目がけて拳を振るった!その怒りの一撃を受けた父親は今度こそその場に倒れ、気絶した。 戦闘は終わった。自分達が仕掛けた策略の末路を見たラッセルはその場から動こうとしなかった。そんな父の元にフィネスがやってきた。が、決してその側に寄ろうともしなかった。 「お父様……私は、レイセスとともに旅に出ます……。そして、もっと世の中を見てまいります」 レイセスも義父となるラッセルにこう言った。 「お義父さん……僕はフィネスをもらっていきます。フィネスを不幸になんかしません……一生愛し続けます!!」 その言葉を聞いてもラッセルは上の空であった。マザ一の豪商もこうなってはもはや立ち直れまい。 言いたいことを散々言った二人は、城から馬車を持ち出して早速旅立とうとした。そこにイヴルが先の戦闘で手に入れたムグランの仮面を二人に手渡した。仮面はとても高価な値で取引されており、売れば当面の生活が保障させる、とイヴルは踏んだのだ。 「……本当に、良いんですか?」 そんなレイセスの問いにイヴルは笑って頷いた。 「二人の門出の祝だ……取っておけ……!」 二人はイヴル、そして一行に礼を言いながら馬車を走らせた。それを見たクサナギ、アファエル、モ・エギ、ミオも手を振って見送った。 その時、城の方から見覚えのある二人の男女が言い争いながら歩いてきた。スタンレーとニーナであった。 「ニーナがいけないんだよ……好奇心に負けて変な話し聞き込んじゃうから……」 「何言ってるのよ!スタンレーがドジ踏まなきゃ、ばれなかったんだから!!」 どうやら二人はたまたまラグディスとラッセルの悪巧みを聞いてしまい、その秘密保持のために捕らわれていたようだ。そんな二人にイヴルはこんなことを言った。 「どうやらあんた達は[吟遊詩人]としては損したようだな……こんな[ネタ]めったにないのに」 その言葉に二人はただ、キョトンとするだけであった。 城に閉じ込められていたのはスタンレーとニーナだけではなかった。フィネスの駆け落ちに協力した彼女付きの侍女もその日以来拘束されていたのだ。が、彼女達も無事に助けられた。そして身代わりにされた少女レイミアも無事に両親の元に帰ることができた。 その翌日。マザから警備隊が駆けつけた。この騒動は結局ミオの思惑通り[モーディス家のお家騒動]として処理され、一行はそれなりの報酬(と言うよりは口止め料か?)も受け取った。そしてその結果、モーディス家は当面の間マザ政府預かりとなり、リアの統治も当分は代官が取り仕切ることになった。セルディスはその間マザに留学し、役人になるためにもう一度勉学に励むという。 一行は最後に、すっかり気落ちして以前よりも年を取ったような印象を受けるラッセルの元を訪れた。そしてミオは主人を励ますラルカスに、 「……落ち着いたら、二人を呼び戻す算段をしてみたら?」 と、さりげなく助言を残していった。 マザに向けて旅立つ日、セルディスは一行に向かってこう言った。 「……俺はもう一度やり直す。親父殿のようにはなりたくないからな」 そんな彼を一行は暖かく見送った。 「……おやぶーん……!!」 セルディスの取り巻き達が彼の馬車を見送って手を振っていた。 「お前等もまじめになれよぉ……!!」 と、馬車からセルディスが顔を出し、[元]取り巻き達に向かって手を振る。そんな光景を見ながら一行もリアを後にしようとした。そのとき……。 「……イヴルさーん……!!」 その女性の声を聞いたイヴルは一瞬背筋が寒くなった。振り向くとそこには、着飾った女性が一行に向かって走ってくるのが見える。イヴルが情報を聞き出すために[デート]したラッセルの屋敷の侍女であった。その侍女はイヴルにすっかり惚れてしまっていたのだ。 「さて、どうしたもんか……?」 イヴルはこの場を逃げ出すか、あるいは彼女を説得するか、選択を迫られていた……。 |