キャンペーン・リプレイ

第 二十七話 「 紅 玉 は 血 の 代 価 」      平成12年6月4日(日)

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 そして翌日。一行は朝早く、イプセンとともにグノーシスの町を出た。イプセンが[紅玉の吸血鬼]に会いに行くというので、ついていってみることにしたのだ。
「[あの方]は昼になると寝てしまいますからね……さりとて私たちは夜動くわけには参りません。そこで、早朝に会いに行くというわけです」
 その時、イヴルがイプセンにこんな質問をした。
「ところでイプセンさん。あんた、[紅玉の吸血鬼]が封じたって云う[悪い吸血鬼が封じられた]という[遺跡]ってどこにあるか知っているか?」
 イヴルは今までの情報から、ひょっとしたら[以前封じられた悪の吸血鬼]が復活して、この事件に関わっているのではないか、と考えていた。
「いえ、実は私もそれがどこかは知らされてはいないのですよ」
 やがて一行は、荒野の中にある小さなオアシスにたどり着いた。そのオアシスの中央付近に、少し小さめだが、大変立派な屋敷がある。どうやら、ここが[紅玉の吸血鬼]の居住地のようであった。
 一行はイプセンを先頭に、その屋敷の玄関に立った。そしてイプセンがその扉の呼び鈴を鳴らした。
「クラウス様。イプセンです。いらっしゃいますか?」
 クラウスというのはどうやら[紅玉の吸血鬼]の本名のようだ。イプセンがその名を呼んで程なくして、玄関の向こうから返事が返ってきた。
「……はいですぅっ!。鍵は開いていますぅ……どうぞぉ!」
 その声はどうやらマルティアのようだ。一行はとりあえず言われるままに扉を開けた。中はこの手の屋敷の定番通り、大広間となっていた。両脇の壁際にはそれぞれ二階に上がる階段もある。そしてその階段の中腹には、マルティアが一人立って一行を出迎えていた。だが、彼女はその場から一歩も動こうとはしなかった。いや、動けなかったのだ。どうやら両手で山と抱えた大量の洗濯物が重くて動けないらしい。
「た……助けて下さいぃ……沢山持とうとしたのですが、重くて途中で動けなくなっちゃったんですぅ……わぁっ!。落ちるぅ!!」
「そ……そこを動くなっ!!」
 そのマルティアの哀れな叫びに呆れ返りながらも一行は、すぐさまマルティアを手伝った。そして外にある選択干し場まで運び、干すのを手伝った。
 外に出たマルティアをモ・エギはやはり不思議そうな眼差しで見つめていた。その視線に気付いたマルティアは、その巨体に驚きはしたものの、恐怖する事なくモ・エギに話しかけた。
「わぁ!。大きな方ですぅ。[御仁さん]ですねぇ!!久しぶりですぅ」
「……マルティア、君は御仁と遭ったことがあるのかい?」
 イヴルのその質問にマルティアは笑顔のまま答えた。
「はいっ!。[四千年前]に一度だけですぅ。本当に久しぶりですぅ!!」
「………と……ところで、その[御仁さん]の名前は覚えているかい……?」
 イヴルの次の質問にマルティアは急に考え込んでその場に蹲ってしまった。
「う〜ん……確か……何ておっしゃいましたっけぇ?」
 その会話を聞いていたミオは、モ・エギにもこんな質問をした。
「ところでモ・エギ……あんた意外にも樹界から出てきて人里を旅している御仁っているの?」
 それに対してモ・エギは笑顔で答えた。
「えぇ……結構いるみたいですよ。私の[妹]も、おそらくはどこかを旅しているはずです」
「モ・エギ……そなた、妹がいたのか?」
 クサナギ、そして一行は今までモ・エギに妹がいることを聞かされてはいなかった。弟がいることは知っているが。
「そうです。双子の妹がいるんですよ。角は、一つ足りなくて四本ですけども」
 とりあえず洗濯物干しの手伝いはモ・エギに任せて(と言うより、マルティアはずっと考え込んだままなので、ほとんどモ・エギがやるのだが。)一行はイプセンについていき、クラウスに面会することにした。そして一行は、イプセンとともにクラウスの待つ部屋に入っていった。部屋の中にいたのは、少々やつれた感じがするものの、高貴な雰囲気をもつ美麗の紳士であった。そしてその顔は、セフィロスが出会ったあの[紅玉の吸血鬼]に間違いはなかった。セフィロスを見たクラウスは、ため息をついて言った。
「……また……遭ったな……君がここに来ているということは、ここにいる全員が私の[正体]を知っている、と言うことか」
 クラウスは一行に害意がないことを見抜き、特に事を荒立てようとはしなかった。イプセンは抱えてきた箱を宅の上に下ろし、蓋を開けた。その中には、きちんと並べられた紅玉が沢山入っていた。しかも、それらはすべて上質のものであった。
「有り難う……いつも助かるよ」
 クラウスがイプセンに礼を言うと、イプセンは笑顔で答えた。
「嫌ですねぇ……お世話になっているのはこちらですよ。私は、子供のころから良くしてもらってますから……それより」
 イプセンから笑みが消えた。その先の言葉を読んでか、クラウスが代わりに言葉を続けた。
「わかっている。グノーシスでの[誘拐事件]だろう……もちろん、私はそのようなことなどやってはいない」
 そこにイヴルが口を挟んだ。
「当然我々はあなたの仕業でないことは知っている。そして犯人に心当たりもある。それもあって、あなたが封印した[悪の吸血鬼]について聞いておきたい」
 少し間をおいて、クラウスはゆっくりと、自らの過去を振り返りながら話し始めた。
「今から六百年前、私は二人の吸血鬼をその居城から二度と出られぬよう封印した。聖印を居城の周りに埋めて行く作業は、吸血鬼となった私にとっては、文字通り命がけだった……」
 クラウスは焼け爛れた跡がくっきりと残る両手を見つめ、そして言葉を続けた。
「その吸血鬼は、二人の姉妹だった。二人は私を弄び、そして、このような忌まわしい体に変えてしまったのだ!」
 そのクラウスの怒りの言葉を聞いた一行は、グノーシスの町の領主が養女にした姉妹の話をした。そして町で聞き込んだ様々な情報も教えた。すると、その特徴がすべてクラウスの記憶と一致した。どうやら、クラウスが封印したはずの吸血鬼が復活してしまったようだ。
「ところで、その吸血鬼は、どうやったら倒せるのだ?」
 クサナギは昨晩の戦いで銃が効かないことを知った。アファエルの弓は効果はあったが、それだけでは対抗し切れないのは明らかである。同じ吸血鬼であるクラウスなら、弱点を知っているかもしれないと考えたのだ。
「一番有効なのは[太陽の輝き]だろう。日の光を浴びた吸血鬼は、一瞬にして灰となり、もはや復活することはない」
 それを聞いたクサナギは、ある一つの疑問をぶつけてみた。
「そなたは、その方法で自ら[滅びの道を選ぶ]ということは考えなかったのか?」
「出来ることなら、私はこの清らかな日の光を浴びて、この身を終わらせたい……だが、それが叶わないのだ。私の体の中に眠る[吸血鬼の本能]が邪魔をしてな」
 クラウスは遠い目をして呟いた。だが、クサナギは感じ取っていた。その眼の紅い輝きの中に空しさがないことを。そう、その眼は明らかに[誰かを思う慈しみの眼差し]だったのだ。クサナギのそんな考えに気付かずクラウスはさらに言葉を続けた。
「その他には[聖なる武器]か[魔力のこもった武器]なども効果があるはずだ。あとは、[聖別された白木の杭]……」
 話を聞いているうちに一行は、何となく絶望感に取りつかれ始めていた。[聖なる]だの[魔力]だの、いったいどこで手に入れれば良いのだろう。
「その他にも、比較的簡単な方法としては操兵による攻撃だ。さすがの吸血鬼も、操兵の攻撃に耐え切れるものではない。それと……」
 その言葉にクサナギはさすがに引け目を感じた。相手が吸血鬼と言えど人間を操兵で攻撃することには抵抗を感じるのだ。だが、いよいよとなれば考えなければなるまい。しかし、クラウスの言葉には続きがあった。
「今の技術の進歩で生まれたものにも、効果的なものもある。例えば……」
 クラウスがそう言ったとき、突然屋敷の外で爆発音が響いた。
「こんなような[爆弾]とか……って何だ今のはっ!!」
 一方、モ・エギの手伝いでもあって無事に洗濯物を干し終えたマルティアは、次に庭の掃除を始めた。小さめの屋敷とはいえ、その庭の掃除はマルティアでは荷が重いと思われるが、それでも彼女はニコニコ微笑みながら箒を持ち出し、掃除を始めた。
 その巨体ゆえに屋敷の外にいたモ・エギは、そんなマルティアを不思議そうにじっと見つめていた。実際モ・エギにとって初めて見たときからマルティアは不思議な存在であった。御仁、その中でも特に格の高い部類に属するモ・エギには通常の生き物とそうでないものを見分け、その本質を見極める力があった。モ・エギは、この少女が人間でなく、吸血鬼でもないことを見抜いていた。だが、それが何者か、ということになると、モ・エギにも皆目見当がつかなかった。
 そしてもう一つ。マルティアの仕種を観察していたモ・エギはもう一つの不思議な感情、そしてある衝動に襲われていた。そしてモ・エギはその衝動を押さえ切れず、箒で庭を掃いているマルティアの後ろ姿にそっと手を伸ばし、そのまま掴み上げた!。
「きゃうっ!!」
 驚くマルティアに構わずモ・エギは、そのまま彼女を自分の顔に近づけ、そしてその頭を優しく撫で始めた。そしてしばらくの間その感触に浸った。
「ごめんなさい……どうしても、我慢できなかったの」
「大丈夫ですぅ。以前いらした御仁さんにもこんなことして頂きました」
 笑顔でなすが儘にされるマルティアに、モ・エギは不躾に、こんな疑問をぶつけてみた。
「マルティアちゃん、[ご主人様]、好き?」
 モ・エギはマルティアに[かわいいお人形]といった印象を持っていた。おそらくマルティアには相手にそういった感情を与える[何か]が備わっているのだろう。そしておそらくマルティアの正体も……だが、それゆえに果たして彼女は[本当に]この吸血鬼に好意を寄せているのだろうか。その質問にマルティアは笑顔のまま答えた。
「はいっ!。大好きです。とってもカッコよくて優しい方です……でも」
 マルティアから不意に笑顔が消えた。
「……でも……御主人サマかわいそうです……したくもない[吸血]をしなければ生きてはいけない……その度にご自分を攻め……どうして……」
 マルティアはモ・エギの胸に縋りついた。その頬には一筋の涙が光っていた。
「どうして御主人サマはこんなひどい仕打ちを受けるのですか……この世界に本当に神様がいるのでしたら、あんまりにもひどいです!!」
 このときモ・エギは感じ取った。マルティアは[御主人サマだから好き]なのではなく[御主人サマが好き]なのだということを。
 だが、そんな思いに浸った二人をとんでもない災難が襲った。
「モ・エギ様……何か変な音がしませんか?」
 それは何かが空中をヒュルヒュルと飛んでくる音だった。モ・エギはその方向見て仰天した。
「ロケット弾!!……なんで?!」
 そのロケット弾は、モ・エギにそれ以上考える暇を与えないまま着弾、爆発した。
 一行はクラウスの部屋を出て、別の部屋から窓の外を見た。そしてそこに、とんでもないものを見た。それは、あの[紅蓮の狩人]デューク・フリーディオの操兵[イリューディア]……[ヴァルパス・ヒラニプラ]であったのだ!。ヒラニプラは膝部のロケット砲を展開していた。先の爆発はどうやら、そのうちの一発を屋敷に向けて放ったものが爆発したためのようだ。それにしても何故、デュークがこんなところに。
 一行がそれぞれに動き出したとき、ヒラニプラから拡声器を通じてデュークの声が聞こえてきた。それは、明らかに降伏勧告であった。
「……あんたが妹を攫ったのはわかっている。おとなしくマリアを返せばそれでよし。断るのなら、このまま攻撃を続行する!!」
 デュークはそれだけを言うと、再びロケットを発射した。それは中庭に着弾し、その爆発にマルティアが巻き込まれた!。だが、間一髪のところでモ・エギが庇い、事無きをえた。モ・エギは脅えるマルティアをその胸に抱えたままデュークに訴えた。
「デュークさん!、マリアさんを攫ったのはここの人じゃありません!!」
 声に反応してヒラニプラがモ・エギにその片目の顔を向けた。
「モ・エギか……あんたがここにいるということは、クサナギもここに来ているのか!」
 その声と同時にクサナギはエルグラーテを起動させてヒラニプラの前に立ちはだかった。
「モ・エギの言う通りだ。ここの主は人攫いなどやってはいない!!」
 だが、好敵手のその言葉をデュークは真っ向から否定した。
「俺は[領主の娘の姉妹]から聞いた。それは確かな情報だ!」
 その言葉を聞いてイヴルは、あえてダイ・ザッパーに乗らず、単身ヒラニプラの足もとに立った。そして、その姉妹の正体を告げた。それを聞いたデュークは、操手槽を開いてイヴルにその真偽を問いただす。
「本当なのか……?」
「あぁ、本当だ。お前の妹もおそらくはその姉妹と[奇面衆]に攫われたんだ!」
 それを聞いたデュークが再びエルグラーテを見ると、開いた操手槽からクサナギが顔を覗かせ、デュークに向かって強く頷いた。それを見たデュークは、
「そうか……クサナギが言うのなら、間違いはないな……」
 と、力なく呟いて戦闘体制を解いた。
 屋敷に戻った一行は、デュークの事情を聞いた。それによると、今から一週間前に例の蝙蝠男にマリアが連れ去られたのだという。
「俺は今まで色々なものを見てきたが、あんな得体の知れないものを見たのは初めてだ。奴には剣も銃も効かなかった。あの[皮膚の頑強さ]はただ者じゃない……だが……」
 デュークが持参してきた大きな木箱を開け、取り出したものを見て一行、そしてクラウス、イプセンは驚愕した。それらはすべて対操兵用の大型火器だったのだ!。
「……対操兵用長銃に携帯用ロケット、小銃擲弾に投擲爆弾もある。王朝結社にいた頃のツテを頼って手に入れた。奴等の[皮膚がいかに丈夫]といえど、ロケットや爆弾にそう、耐えられるものではないはずだ!」
 デュークらしい[現実的な発想]ではあったが、決して的外れではない。この状況ではこれらの火器に頼るしかないのも事実なのだ。
「俺はクサナギとの決闘を最後に、戦いから身を引くつもりだった。それがまさか、こんな形でまた、戦いに赴くとはな……」
 その言葉にイヴルは、
「所詮、戦いに身を置くものは、そこからは逃れられられない、と言うことだ」
 と意外と醒めた台詞を呟いた。
 そんなとき、沈み込んだ話題を切り替えようと、クサナギがマルティアのことを持ち出した。いったいあの少女が何者なのか気になっていたのだ。そんなクサナギの疑問に対してクラウスは苦笑しながら答えた。
「実は、私もよくは知らないんだ。わかっていることは、あの娘は私の屋敷に遠い昔から仕えてくれているらしい。以前聞いたマルティアの話によると、彼女はこの屋敷、そして屋敷に住むものに仕えるために[造られた]そうだ。そしてマルティア自身は[端末]で、本体は地下にあるとも言っていた」
 後になって聞いたゼノアの話によると、どうやらマルティアは古代プレ・クメーラ文明時代に造られたある種の人造知性体ということらしい。それが二度の地殻変動を経ても生き延びて、そして今なお、自らの[使命]を守り続けているのであろう。
「だが、これだけははっきりしている。吸血鬼の本能に蝕まれている今の私にとっては、あの娘が人間としての心の支えなのだ」
 今のクラウスにとって、マルティアが何者なのか、あるいはただ、[刷り込まれた使命]をくり返している機械なのか、などということには興味はないようだ。そしてこのときクサナギは気付いた。クラウスが自ら滅びを選ばないもう一つの理由を……。
 そんなとき、ミオがこんなことを呟いた。
「ところでさぁ。吸血鬼姉妹滅ぼしたら、クラウスさんの「呪い」はどうなるのかなあ?」 
 ふと思い付いた問い掛けだった。この女操兵鍛冶師は罪悪感に苦しむ人に肩入れする性質があり、この吸血鬼退治でクラウスが救えるなら「やる気も出る」と思ったのだ。 
「たぶん、解けるだろうね……」 
 なぜか自嘲気味に答えるクラウス。勢い込んだミオはしかし、次の彼の台詞に凍りついた。 
「人に戻れれば、すぐに五百年の歳月がこの身を打ち砕いてくれるだろう。ああ、気にしないでくれ。人ならざる所業を繰り返した[本当の]代価を支払うだけのことだから……」 
 クラウスはもともと例の吸血鬼姉妹によって今の体にされてしまった。それゆえに、その大本となった吸血鬼二人を[滅ぼせ]ば、その呪いは解ける。しかし、それは[人間に戻る]のではなく、[ともに滅びる]というものであった。
 その時、唐突に部屋の扉が勢いよく開いた。
「そんなの嫌ですぅっ!!」 
 その唐突な少女の声に振り返れば、そこには一人の侍女服の少女が、瞳にいっぱいの涙を浮かべてクラウスを見つめていた。
「……御主人サマがいなくなるなんて……マルティアにはもう、耐えられません〜!!」 
 マルティアはクラウスに縋りついた。そして今まで溜め込んだ思いが一気に噴き出し、[愛しい御主人サマ]の胸で泣き崩れた。
「私は今まで、何度も何度も[御主人サマ]との[出会いと別れ]を繰り返してきました。その度に[記憶]を入れ替えて……でも、もう耐えられませぇん!。私はこれ以上、思い出を[忘れたく]ないんですぅ〜!!」
 これではっきりした。もはやマルティアは[機械]ではなかった。長い年月、さまざまな人との出会いと別れを通じて、[本当の心]を知ったのだ。
「私は、御主人サマと別れたくありません……だって、御主人サマは[死なない]んでしょう?……ずぅっと、マルティアと一緒にいてくれるんでしょう?!」
「マルティア……私は[死なない]んじゃない……既に[死んで]いるのだ……」
 マルティアは泣きじゃくりながらクラウスの顔をじっと見つめた。
「……それでも……別れるのはもう嫌です……こんなことを何千年も繰り返すのは嫌です……」
「これが、私が(吸血鬼の本能以前に)死を甘受できない理由なのだろうな」 
 マルティアをあやすクラウスの表情は苦笑混じりだが慈愛のこもったものだった。 
 そんな二人を見たイヴルが、こんなことを呟いた。
「……まぁ、まだ[滅びる]と決まったわけではないさ……長い年月がその[呪い]を[血肉]に変えていることだって考えられるし……」
 この言葉はクラウスにとっては余り励みにはならなかったが、マルティアにとってはそれなりの支えになったかもしれない……とにかく、ここは二人の[絆の強さ]だけが頼りであった。だが、だからといって元凶の吸血鬼姉妹を見逃すわけにはいかない。[呪い]が解けた場合(つまりクラウスに死が訪れた時)の覚悟だけはしてもらうこととし、一同は具体的な対決方法を検討し始めた……只一人、ミオを除いて。 
 ミオは、まだ愚図るマルティアと、その主人から目が離せなかった。先ほどの泣き声と、記憶に残る"誰か"の声がダブる。 
(死んじゃイヤだぁっ……アタシを置いていかないでっ……) 
「覚悟なんて……できるわけないじゃない、本当に……」 
 これ以後のミオらしからぬ沈黙に、皆が訝しがることになる。