キャンペーン・リプレイ

第 二十七話 「 紅 玉 は 血 の 代 価 」      平成12年6月4日(日)

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 しばらく時が経った。一行はデュークが持ち込んできた武器を前に対策の思案に暮れていた。そして夕方を過ぎたその時……
「なぁんだ……お兄ちゃん達[退治]してくれたんじゃないんだぁ!」
 と、聞き覚えのある声が辺りに響いた。一行が外を見てみると、何と昨日助けた少女ミルエラが宙に浮かんで一行を見下ろしていたのだ!。その下の地面には亡者の群れも見えた。おそらくは彼女達の眷属であろう。
 クサナギ、デューク、イヴル、そしてアファエルが窓際でそれぞれ配置につき、ミオ、セフィロスも外に出て迎え撃つ準備をする。その間にもミルエラは一人勝手に言葉を続けた。
「でも、もう仲良くなっちゃうなんてずるいなぁ……でも、いいや。お兄ちゃん達は私が[おもちゃ]にして遊ぶの。[お姉ちゃん]にはあげないんだから」
 ミルエラはまさに姿通りの子供じみた口調でしゃべり続ける。だが、その姿を見たクラウスは一行に警告した。
「あの姉妹は見た目こそ少女のままだが、その実際の年齢はかなりの老婆だ……[永遠の命と若さ]を得るために恐るべき[秘術]を駆使して今の体を手に入れたのだ!!」
 一行がそれぞれに戦闘準備を終えると同時に、亡者達もこぞって動き始めた。そして戦闘が始まった。先手を切ってアファエルの妖精族伝来の複合弓がミルエラに向けて放たれ、その矢がミルエラを貫く!。ミルエラは貫かないはずの矢に驚愕した。が、その強靱な生命力(?)であっさりと耐え切った。
 クサナギとデュークはそれぞれに対操兵長銃を構えて亡者の群れに目がけて撃ちはなった!。が、アファエルの弓ほど劇的な効果を上げてはいない。やはり、威かな対操兵用火器と言えど[魔力]もなければ[聖別]もされていない武器では威力は限られているということなのか。そしてやはり強靱な肉体でそれらの攻撃を耐え切った亡者は一気に玄関のセフィロスとミオ目がけて走り寄ってきた!。
 玄関ではセフィロスが破斬槍を構えて亡者達を待ち構えていた。だが、セフィロスの槍は名槍ではあるものの[魔力]などがこもっているわけではない。果たして……。そして、クサナギとデュークの攻撃を耐えた亡者−吸血屍−が三体、セフィロス目がけて襲いかかった!。が、セフィロスはその攻撃を回避しつつ、反撃の槍を繰り出して吸血屍達を確実に突き刺した!!。
 実はセフィロスの槍には、あらかじめイヴルの[練法]による細工が施されていたのだ。[門外練法 与術(エン)]。この術を施された武器は一時的に聖刻の力場を発し、その破壊力が上昇するものである。そして相手がこの吸血鬼や吸血屍のような特殊な魔物であっても効果を及ぼす場合もあるのだ。イヴルはセフィロスの槍に「特殊な護符だ」といって札を貼りながらこの術をかけた。あくまで自分の術である、ということを伏せたかったのだ。
 だが、これはもともと低位の術に部類するものである。術による[かりそめの聖刻器]でしかない今の槍で果たして高位の吸血鬼にまでは効くものかどうか。
 その当のイヴルはやはり二階の窓から攻撃を掛けようとしていた。無論、その[練法]で。イヴルは慎重に印を組み、呪句を詠唱しながらその精神を、アファエルの矢を受けてなお空中で笑っているミルエラに向けた。そして術は完成した!。
 空中でけらけら笑っていたミルエラは突如、強烈な疾風に襲われた!。その疾風はミルエラの周囲をつむじを巻いて取り囲み、かまいたちを引き起こしてミルエラを切り裂いた!!。[風門練法 風刃操(ヴィ・カート)]。イヴルが使用できる範囲のもっとも破壊力のある術である。だが、それゆえに精神の疲労も大きく、そう何回も使えるものではないのだが。
 ミルエラは空中で悲鳴を上げながらくるくると回った。が、すぐに態勢を立て直し、イヴルを睨つける。だが、そこにミオが銃口を向けた!。
「ええーい食らえっ!。太陽の光を詰め込んだ弾丸だぁっ!!」
 ミオはそう叫びながら長銃の引き金を引いた。実際、ミオが撃とうとしているのは、唯の閃光弾である。ミオははったりをかますことで吸血鬼の戦意を挫こうとしたのだ。事実ミルエラは銃の知識はあまり持ち合わせてはいないようで、その言葉に一瞬凍りついてしまった!!。しかし、銃弾はものの見事にはずれ、見当違いのところで輝いた。その光をミルエラが見てもそれほど衝撃を感じていないようで、これではあまり効果は望めなかった。
 ミオは銃での攻撃を諦め、側に駐機してある自機ワークマンデに乗り込もうと駆け出した。だが、すぐ側には吸血屍が二体ほど接近してきた。この亡者は見かけよりも速い速度で迫ってくる。このままでは追いつかれてしまうのは目に見えていた。
 その時、裏庭からモ・エギがようやく間に合い、その吸血屍目がけて七枝刀を降り下ろした!。さしもの吸血しも操兵並み、しかも先祖伝来の戦鎧で強化された御仁族の姫君の攻撃を受けて無事で要られるはずはない。哀れな吸血屍は粉々に砕け散った!!。
「モ・エギ、サンキューッ!」
 ミオはワークマンデの操手槽に潜り込むとすぐさま機体を起動させた。
 一方、部下の不甲斐なさ、そして敵の思わぬ援軍に苛立ったミルエラは高みの見物をやめ、自分から攻撃を仕掛けるべく、一行目がけて飛んで来た。だが、それをアファエルは見逃さず、すぐさま矢を放った!。が、ミルエラはそれを楽々回避すると、そのままそのアファエル目がけて手を伸ばそうとした。しかし、その前にモ・エギが立ちはだかり、その進路を妨害した。モ・エギを見たミルエラは、まるでゲームに負けた駄々っ児みたいに、
「ずっるぅ〜い!!」
 と、腕を降って叫び、そしてそのまま拗ねてしまった。
 モ・エギはそんなミルエラのその頭を容赦なく左手で叩く。このときモ・エギはこの吸血鬼に、どうやら何かしらの憎悪、と言うより嫌悪感を覚えていたようだ。その巨大な掌で叩かれた衝撃は並み大抵のものではなく、ミルエラはそのまま落下、下にいた吸血屍を巻き込んで地面に衝突してしまった!。さしもの吸血鬼も、より格が上の存在である御仁族の姫の攻撃を受けて無傷であるはずがなかった。
 そこにイヴルが投擲爆弾を投げつけてきた。その爆弾はミルエラと吸血屍を巻き込んで爆発した。その威力は(彼女達にとっては)大したものではなかったが、爆弾などの火薬を知らないミルエラにとっては、精神的打撃のほうが大きかった。
「いったぁ〜い!何よ何なのよもうっ!!」
 ミルエラはすっかり笑みを無くし、混乱しながら立ち上がった。そこにイヴルは再び風刃操をかけようとした。が、練法は術が発動するまでにかなりの時間がかかってしまう。この風刃操はまだ早い方だが、それでも一瞬というわけにはいかず、術がかかる前にミルエラは範囲外から出てしまい、結局吸血屍だけがつむじ風の餌食となった。
 セフィロスはデュークの援護を受けながら必死に吸血屍と戦っていた。が、いくら武繰の技を繰り出し、必殺の槍で貫いても、既に[死んでいる]亡者達にはそれほどの打撃を与えられなかった。その時、ミオがワークマンデを操作し、セフィロスの前にいた吸血屍目がけて鉄棍でおもいっきり攻撃を加えた!。その一撃を受けた吸血屍はその場に倒れ込んだ。が、半分砕けた体で再び立ち上がった。
 戦いは予想以上に長期戦となった。その中でマルティアもクラウスを守るために立ち上がり、側にあったロケット砲を抱えた。それを見たクラウスは彼女を必死に止めた。だが、この健気な少女の決意は固かった。
「大丈夫ですぅっ!。私は、御主人サマを守りたい……だから……戦いますっ!!」
 マルティアは意気も洋々に窓際に向かった。が……。
「……御主人さまっ!」
「どうした!」
「これ……どうやって使うのでしょうか……?」
「…………………………(涙)」
 そんな二人の状況を横目に見ながらも、クサナギは必死に慣れぬ対操兵用長銃を撃ち続けていた。−この二人のためにも、私は負けられない−クサナギはその思いを銃に託し、風刃操を避けて空中に飛び立ったミルエラ目がけてその引き金を引いた……が、こんなときに限ってクサナギは不幸に陥る。銃が弾詰まりを起こしたのだ。暴発しなかっただけでもまだマシ、と言うものだが、銃が使えなくなったことは事実であった。
「クサナギ……[噂]は本当だったのか……」
 デュークの嘆きを受け流しつつクサナギは、窓の外に駐機してある自機エルグラーテを見た。
「この距離なら、跳べるな……」
 エルグラーテに跳び移るつもりで、クサナギは窓から身を乗り出した。それを見たモ・エギが戦鎧の長い右腕を伸ばし、クサナギとエルグラーテの間に橋をかけた。
「クサナギさんっ!!」
 クサナギはモ・エギの右腕をつたってエルグラーテに乗り込み、そして起動させた。
「有り難う、モ・エギ!!」
 新造古操兵ファルメス・エルグラーテの心肺器が唸りをあげた。
 だが、その前に戦いのけりはついた。デュークが撃ちはなった対操兵用長銃がミルエラの小さな体を貫き、アファエルが三度放ったその矢がとどめとなって、この小さな吸血鬼は動かなくなった。そして、それに呼応して周りの吸血屍もその場に崩れ落ち、そのまま朽ち果てた。だが、
「……まだだっ!。奴の体に[清められた杭]を撃ち込めっ!!。そしてそのまま燃やすんだ。そうしないと、奴はいくらでも復活するっ!!!」
 クラウスのこの言葉に一行は戸惑った。今ここに、そのような[杭]は無かったのだ。その時、モ・エギがクサナギにこんなことを言った。
「クサナギさん!。エルグラーテの爆砕槍!!」
「……そうかっ!!」
 このとき、クサナギはモ・エギの言葉の意味を悟った。今までこのエルグラーテに搭載された蒸気式爆砕槍の二股の白き槍は、超硬質のセラミック製だと思われてきた。だが、王家の操兵の聖剣[ファーラス]を砕き、通常の武器ではほとんど歯が立たないであろう[みすりるごーれむ]を貫くなど、とても考えられない現象を起こしている。モ・エギはそれに賭けたのだ。
 クサナギは爆砕槍の槍先をミルエラの体に突きつけ、そのまま突き刺した。その時、新造古操兵ファルメス・ エルグラーテの仮面の額に装着された[フィールミウムの石]が蒼い輝きを放った。そしてその光は爆砕槍の槍を包み込んだ。その時、死んだと思われていたミルエラが、蚊細い声で呟いた。
「どうして……どうして傷が塞がらないの……やだよ……このままじゃ私[無くなっちゃう]よ……お願い、許して……もう悪いことしないから、ねぇ……」
 その呟きは、マルティアがもってきた油がかけられ、そのまま火をつけられ、そしてその身が完全に燃えつきるまで続いていた。不死の命をもつミルエラにとって、[滅び]すなわち自身が消えてなくなるなどということは定命のもの以上に恐怖であったようだ。とくに、[魂]が残ることがないと云われている[負の命]をもつ吸血鬼にとっては……。
 とりあえずの戦闘は終わった。そしてクラウスもこの時点では無事であった。だが、一行はそのことを喜んでいる時間はなかった。ここにミルエラが現れた、と云うことは、[姉]のほうも一行の存在を知っている、と云うことになるのだ。ここで時間をつぶす訳には行かなかった。
 しかし、だからといって何か策があるわけではなかった。相手は領主をなんらかの方法で誑らかし、その娘の座に居座っているのだ。そう簡単に引っ張り出せるものではない。
 結局、アファエルとセフィロスが町に先行して偵察をすることにし、二人は夜明け前に町に向かった。