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夜明け頃、何事もなく町に入ったセフィロス、アファエルは宿でゼノアと再会した。一行と分かれたゼノアは独自の情報網を駆使して事件の真相を(ある程度)探り、必要なものを苦労して調達していた。その中には、[聖別された杭]と、[聖水]もあった。 「苦労しましたよ……寺院という寺院を廻って下げたくない頭下げて……やっとの思いで手に入れたんですよこれ……」 半ば現実主義的な考え方をもつゼノアとしては、このような[非現実的]な手段には出来れば頼りたくはない。だが、吸血鬼に対する手段がこのような[非現実的手段]に頼るほかがないというのもまた[事実]である以上、それを受け入れるしかない。これはゼノアにとって苦渋の選択であったのだ。 その思わぬ再会のあと、アファエルは一人領主の屋敷に赴いた。宿の主人の話だと、今朝になって急に警備が厳しくなったというので、その真偽を確かめるためだ。 アファエルは屋敷の周囲を怪しまれない程度に廻り、その周辺を探る。見ると確かに屋敷の周囲および中庭に尋常ならぬ数の衛士が見回っている。だが、その衛士達は見ためこそ毅然としているものの、あまりやる気は無さそうで、よく見てみると、隠れたところで欠伸などをしてサボっているものもいた。 そんな様子を見たアファエルは、何食わぬ顔をして門番に話しかけた。 「あのぉ〜どうしてこんなに警備が厳しくなったんでしょうか〜?」 門番はそのアファエルの[のほほん]とした態度に絆され、あっさりと答えてくれた。 「いや、ここだけの話なんだが、実は俺にもわからないんだ。お館様が急に、警備を厳しくせよ、と言われたのだが、いったい何が攻めてくるのやら……」 どうやら、衛士のほとんどはやる気など無さそうであった。このことからも、たぶらかされているのが領主夫妻だけである、と云うことはわかった。あとは何とかして、吸血鬼のみを引っ張り出せればよいのだが。 大方の偵察を終えたアファエルとセフィロスは、ゼノアを伴って再びクラウスの屋敷に戻った。そして三人を加えた一行は、改めて対策を考えた。そして、今まで得た情報などを基に検討した結果、吸血鬼が寝ているであろう昼間に乗り込み、一気に決着をつけてしまおうということになった。 だが、問題は領主の屋敷に入り込む方法であった。もともと盗賊としての経験を積んだアファエルならともかく、その他の一行では警備の厳重な屋敷などに忍び込むことなど不可能に近い。まして相手は、既にこちらの存在に気付いているのだ。どんな待ちぶせがあるか見当もつかないのだ。 ここはゼノアの出番であった。[工房都市の公証人]という肩書きはそこいらの役人風情など問題外なのだ。しかし、相手が地方とはいえそれなりの領主となれば話は別である。しかも、おそらく領主は吸血鬼にたぶらかされているであろうから、公証人程度の肩書きでは、こちらに正当な理由がなければ面会拒否をされても文句は言えないのだ。 だが、ゼノアはいつもの笑みを崩さず、 「まぁ、私に任せてください。ここは何とかして見せますよ……」 と、自信ありげに答えた。 とりあえずの作戦が決まった。まず、ゼノアの[肩書き]を利用して中に侵入、うまいこと吸血鬼を誘い出すか、そのねぐらに侵入して、クサナギとミオが銀貨を材料にして作っておいた[銀の弾丸](銀製の武器も聖別されたものと同様の効果をもつと云われている)、デュークの武器、アファエルの弓で攻撃し、そしてとどめにセフィロスの槍の石突きに固定した[聖別された杭]を吸血鬼の心臓目がけて突き出す、というものであった。 しかし、ここでもう一つ気になる問題があった。確か今まで得た情報の中には明らかに奇面衆の暗躍を思わせるものがあったのだ。だが、先の戦闘において、奇面衆の姿は全く無かったのだ。果たして、連中は本当にこの事件に関わっているのだろうか。 ここで議論していても埒は明かない。奇面衆については出たとこ勝負で望むしかない、と判断した一行は、すべての準備を終えてクラウスの屋敷を後にし、グノーシスの町に向かった。グノーシスの町についた一行は、ゼノアを先頭に領主の屋敷に乗り込んだ。門に着いたゼノアは門番に自分が工房都市から来たことを告げ、領主との面会を求めた。このときゼノアは、用向きを訪ねてきた門番に何か小さな通行証のようなものを見せた。いや、これはそのようなものではなく、小さな[紋章]のようなものであった。 その紋章を見た門番は「……まさか……ちょっと待ってろ!」と、慌てて上司の元に行った。そして程なくして、門番は上司と思われる人物を連れて戻ってきた。その上司は、顔に脂汗を浮かべ、緊張しながらゼノアに恭しく頭を垂れた。 「……まさか[あなた様のようなお方]が、このような町においでになられるとは思いませんでした……さぁ、どうぞお入り下さい」 ゼノアは軽く二人に会釈すると、一行にも屋敷に入るように促した。このゼノアの行動は一行にはかなり奇妙に見えた。今までゼノアに対してこのような態度を取った人物など見たこともなかったのだ。そしてこの光景は、羅・諸国連合の密偵であるイヴルに深く印象の残る出来事として焼きついた。果たして、このゼノアが見せた[紋章]はいったい何だったのだろうか。 一行は操兵を来客用の駐機場に預けて屋敷の謁見室に向かった。その中で屋敷に入れないモ・エギは、一人駐機場に残った。もしもの場合は乗り込む手はずにはなってはいるが、それはできればしたくはなかった。あくまでここの領主は吸血鬼に[魅了]されているだけで、この町自体が悪人というわけではないからだ。 一行は衛士の案内で領主のいる謁見の間に通された。そこでは領主夫妻がゼノアにやはり恭しくあいさつをしてきた。 「この度は貴方[様]の[ご尊顔を拝し賜り]至極光栄に存じます……本来であれば、[娘]達も出迎えさせるのですが、二人は虚弱体質ゆえに昼間は出られません……娘達は今宵の晩餐の席にて……」 ある意味それは困った。一行は本来、その[娘]に用事があるのだ。しかし、ゼノアにもここに[娘]を引っ張り出すまでの知恵は回らなかった。ここは、夜まで待つ必要がありそうだ。 「その必要はありませんわ」 その時、一人の少女が一行に声をかけてきた。それは、まさに気品あふれる令嬢、と行った印象を抱かせる雰囲気を漂わせた淑女であった。またそれでいて、可憐な少女、といった印象も残していた。 「[お父様]……ここは席を外してはいただけないかしら」 [娘]のその言葉に、まるで酔狂しているような態度で応じた。そして妻を連れ、部屋を出ていった。それを確認した少女は一行に向き直り、一行に恭しく頭を下げ挨拶した。 「お初にお目にかかります。私がミュリエル。ミルエラの姉ですわ」 一行は緊張して戦闘体制を取った。不得手であるはずの昼間に一行の前に姿を現す、ということはなんらかの罠を仕掛けている可能性があったからだ。だが、ミュリエルはそんな一行の考えを否定した。 「私は事を荒立てるつもりはありません。私が昼間出てきたのは、あなた方に誠意を示すためです。……ところで、あなた方がここにいる、ということは、ミルエラは……」 一行は燃やしたミルエラの灰をここに来る途中の川に流してしまった。清らかな川の流れは吸血鬼の苦手とするものの一つである。もはやこうなってしまっては、ミルエラは完全に復活することはなくなってしまった。 そのころ、一人待機するモ・エギは、いてもたってもいられなくなり、操兵駐機場から出て、塀を飛び越えて屋敷の側までやってきた。それを見た衛士達は操兵を持ち出し、紅葉武雷を取り囲んだ。が、工房都市匠合の(しかも特別な)紋章を着けている以上、破壊活動でもしない限り手出しすることは許されなかった。 自分を取り囲む操兵に構わずモ・エギは戦鎧の冑を脱いだ。それを見た衛士達は一斉に仰天した。何せ、操兵だと思っていたものが突然巨大な少女になってしまったのだから。 「そうですか……でも、妹の件は仕方ありませんね。あなた方は火の粉を降り払っただけですから」 ミルエラが[滅んだ]ことを聞かされてもミュリエルは冷静であった。そして、その上で一行にこんな申し出をしてきた。 「さて、ミルエラを滅ぼすほどの力量の持ち主を放っておくわけにもいきません。どうでしょう、私はあなた達なら、[同族]に加えても良いと思っているのですよ。特に……」 ミュリエルはクサナギに向き直った。 「あなたは高貴な血筋にお生まれのようね……どうです?あなたも[永遠の命]を授かりたいとは思いませんこと?しかも人間などよりもはるかに[優れた存在]として……」 「日の光を失い、人の血を啜らなければ生きてはいけない……いったいそれのどこが[優れた存在]なのだ!!」 クサナギの反論に、ミルエラは眉一つ動かす事なく答えた。 「確かに、日の光を失うことは一時的には辛いかもしれません……でも、それが何だと言うのでしょう……!。私の[力]を受け入れれば、あなたは人間を越えた存在になるのですよ」 ミュリエルはクサナギを誘惑せんと、さらに言葉を続けた。 「そして、私たちは人間を越えた優れた存在として、いずれこの世界を導き、統治する[選ばれた存在]です。[劣った存在]である人間の血を啜ることに何の抵抗を感じるのです?。それは、人間が食事をするのと何の変わりもないことなのですよ」 だが、ミュリエルの大げさな仕種も構わず、クサナギはきっぱりとこう言った。 「そなた達は間違っている……そのような[歪んだ不死]など何の役に立つ!。人間は限りある人生を精一杯生きることにこそ、存在意義があるのだ!!」 その言葉にミュリエルはわずかだが顔を歪めた。さらに、次の言葉は彼女のプライドを痛く傷つけるものであった。 「そなた達は[不死の生命]を授かったわけではない。そなた達は……唯の[死に損ない]だ!!」 それを聞いたミュリエルは、それでも怒りを露にするでなく、 「どうやら、貴方とは相容れないようですわね!」 とそっぽを向き、クサナギの存在を忘れたかのように、今度はアファエルとイヴルに向き直った。 「まぁ、あのような[愚か者]は無視して、あなた方はどうです?……特にそこの[お嬢さん]、貴方の美しさは[永遠に保存]されるべきではなくって?」 だが、次のアファエルの言葉にミュリエルはまたも衝撃を覚えた。 「……あのぉ〜私ぃ〜[生まれつき永遠の命]なんですけどもぉ〜」 「!!!……そ……そんな……私たちが必死になってこの体を得たって言うのに……」 実際、アファエルの場合は[永遠の寿命]であって[不死]というわけではない。しかし、それでもミュリエルにとっては衝撃の事実であった。何せ、[御仁]でも[龍]でも、まして[神]でもない目の前の[耳の長い少女]は[生まれながらにして永遠の命を授かっている]のだから……。 そしてミュリエルのプライドは、次のイヴルの言葉で完全に打ち砕かれた。 「まぁ……所詮[寄生虫]だな」 ミュリエルはすっかり取り乱し、辺り構わずわめき散らした。 「私は、[選ばれた不死の存在]なのよ……人間を越えた優れたもの……そう、あの樹界の半神[御仁]にも匹敵する……!!」 「そなた達とモ・エギは違う!!」 クサナギは静かに、そして力強く言い放った。 その言葉は外にいたモ・エギにも聞こえていた。ミュリエルが自分達御仁と一緒にしたことに対してこの誇り高い御仁姫は、彼女らしからぬ口調で一言こういった。 「……[汚らわしい]わ……!。あなた達はクサナギさんの言う通り唯の[死に損ない]よ……私たちと一緒にしないで!!」 ミュリエルは冷静さを取り戻していた。が、その可憐な少女の顔からは、既に笑みは消えていた。 「……いいでしょう……私はあなた達に永遠の命を与えましょう。私に永遠に仕える[奴隷]として!!」 そんな中、ミオはこの後に及んでまだ迷っていた。果たして、このミュリエルを滅ぼした場合、クラウスはどうなってしまうのか……そして残されたマルティアは……だが、同時にこのトンチキな吸血鬼を許すこともできない……自分はどうしたらよいのか。 だが、そのようなことを悩んでいる場合ではない。このとき一行の頭上には、別の脅威も接近していた。しかし、それに気付かぬほど一行は不用心ではなかった。そしてイヴルは何食わぬ顔でミュリエルに、奇面の連中はどうしたのか、と聞きつつ術の準備に入った。こちらから奇襲をかけようというのだ。 その質問に対してミュリエルは、 「いますよ……あなたがたの頭上に!」 と、にやりと笑っていった。そしてその言葉と同時に高い天井に張り着いていた三人の奇面の男が一向目がけて落下しようとした!。 イヴルはそれより先に術を放とうとした。が、やはり発動までに時間差のある練法はこういった瞬時の行動には対応し切れず、結局、術をかける前に奇面衆の落下を許すこととなってしまった。その蜘蛛を模した縞模様の服を着た三人の奇面衆は、一行目がけて一斉に襲いかかってきた!!。 戦いが始まった。奇面衆はそれぞれクサナギ、イヴル、セフィロスに襲いかかった!。が、奇襲でなければそれほどてこずる相手でもない。まず、少し離れたところからアファエルの矢が奇面の一人を貫いた。そしてクサナギも負傷しながらも一人を返り討ちにする。そしてイヴルとデュークも奇面を引き付け、セフィロスのために道を空けた。 その中でミオは、モ・エギにでも穴を開けてもらい、一気に日光の光でけりをつけようか、などと思案し、天井などを見た。が、屋敷とはいえ町の要。操兵の攻撃にもある程度は耐えられるように造られている。加えて、ここの領主は何度も言っているようにただ魅了されているだけである。よって、あまり迷惑をかけるわけにはいかないのだ。 だが、この戦いはあっさりと決着がついた。イヴル、デュークの援護を受けたセフィロスがミュリエルとの間合いを一気に詰め、破斬槍の石突きに固定されている白木の杭を少女の姿をした吸血鬼の心臓目がけて突き刺し、貫いたのだ!!。 「あああぁぁぁーっ……!!!」 その一撃を受けたミュリエルは悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。結局、この一撃が決定的となり、この場にいた奇面衆は完全に戦意を失った。 一行は奇面衆に(無駄と知りつつ)降伏勧告をした。が、突如一行の周りは大量の煙に包み込まれた。そして、この場にいた奇面衆に何者かが呼びかけた。 「……この場は撤退する……この吸血鬼[様]からは何も得られない……これ以上の戦闘は無意味である……」 一行が目を凝らして声のした方を見てみると、そこには二人の人影が立っていた。いや、それは人影なのだろうか……一体は半リートを越える巨体で、もう一体は自分達の半分ほどの身長しかない(ように見える)小男のようだ。二人は言うことだけを言うとすぐにその場を後にし、姿を消した。 その二人の姿を見た奇面衆達は、その言葉通り煙に紛れて撤収しようとした。が、それを許さないものがいた。クサナギとイヴルであった。クサナギは準備してあったボルトアクションで逃亡しようとした奇面衆を攻撃する。が、銀の弾丸は吸血鬼にこそは強いが、逆に普通の相手の場合は威力が落ちるため、決定打にはならなかった。 イヴルは練法の一つ[烈風操(ヴィ・ヒューヴ)]をかけ、目潰しと同時にその場に転倒させようとした。が、転倒させることには成功したものの、相手が奇面を装着していたことで目潰しは防がれてしまった。 それでも、クサナギとイヴルはそれぞれ敵を無力化させることに成功した。そして、この度の奇面衆の目的を聞き出すために捕縛しようとした。が、捕らえようとしたところで二人の奇面衆は、その面の裏に隠されていた毒物を含み。既に自決していた。 戦闘が終わった。この場に残されたものは一行、奇面の死体、そして白木の杭に刺されたままのミュリエルだけであった。哀れな吸血鬼は、虫の息で呟いた。 「……私は[選ばれた存在]なのに、なぜ負けたの……奇面のもの達はどうして私を見捨てたの……」 そんなミュリエルにイヴルは冷たく言い放った。 「結局、あんたはあいつ等を利用したつもりで、逆に利用されていただけだ」 だが、イヴルの声はもはやミュリエルには聞こえていないようで、一人ブツブツと呟いていただけであった。 「……私は自分が優れたものだと思っていた……でも結局、私が過ごした一千年は何だったの?……私は間違っていたの?……嫌……滅びたくない……間違いなら、やり直したい……!!」 クサナギは、今まさに日光の元に曝されようとしているミュリエル対して、こんな言葉を贈った。 「私が今、そなたにしてやれることは、清らかな光を与え、妹の元に送ってやることだけだ……今度こそ、妹とともに安らかな眠りにつくがよい……」 ミュリエルは最後までもがき続けた。が、その抵抗もむなしく、太陽の光に包まれてその身を灰に変えた。永遠の命を求め、長き年月を生き延びてきた二人の吸血鬼姉妹は、今度こそ、消滅した。 やがて、吸血鬼が滅んだことで魅了が解かれた領主がゼノアから事情を聞いて、一行に礼を述べた。そしてすぐに地下牢に向かったデュークも、無事にマリアと再会することができた。地下牢には、誘拐されたと思われる人々が捕らわれていた。彼らは一様に血を吸われてはいたが、全員が死亡したわけではなかったので、吸血鬼が死んだことで精神的にも開放されたのだ。その中には、ミルエラが娘になりすましていた家族の本当の娘の姿もあった。 一通りの礼を聞き終えた一行は、大急ぎでクラウスの屋敷へと取って返した。果たしてクラウスは……そしてマルティアは……一行は様々な思いを胸に、それぞれの操兵、馬車を大急ぎで走らせた。 一行が屋敷のクラウスの部屋に駆け込むと、そこにはクラウスとマルティアが笑顔で出迎えていた。クラウスは人間にこそ戻ってはいなかったものの、既にミュリエルとミルエラの呪いからは開放されているようであった。既に長き年月が、彼の吸血鬼としての呪いを自分の血肉に変えていたのだ。 二人が完全に滅んだことを聞かされたクラウスは、喜び半分でこう言った。 「……これで私は、永久に吸血鬼となったわけだ……」 そんなクラウスを励ますかのように、マルティアがその側に寄り添った。 「御主人サマ……元気を出して下さい……マルティアは、ずぅっと、御主人サマの側にいますから」 ゼノアは、自分の考えではあの二人の吸血鬼姉妹は、おそらくはクメーラ王朝時代末期の貴族の成れの果てではないか、と言った。滅びゆく王朝に絶望し、その現実から逃避するために[永遠の命]、すなわち[止まらない時]を求めてなんらかの秘術によって吸血鬼になったのだろうと。 だが、モ・エギやアファエルのように生まれついて[永遠の命]を持った存在ではないものが、そんな不相応なものを持てば、それなりにゆがみが生じる。そして、そのような[永遠の命]を得たところで、実際に[時を止められる]ものでもないのだ。周りの時は動き続け、やがて二人の周りからは、自分達を知るものが消え、二人には孤独感と、永遠に続く[終わり無き牢獄]だけが残された。 そこで二人は、その孤独感から[逃れる]ために、それぞれ自分に[暗示]をかけた。妹のミルエラは、自分が[子供に戻る]ことによって難しいことを考えるのを[止め]、その将来について悲観する、と言うことを[忘れようとした]のだ。そして姉のミュリエルは、自分が[人間よりも優れた選ばれた存在]であると思い込み、その優越感と[人間を導き、統治する]という使命感にその身を浸すことによって、自分達の置かれた境遇を[正当化]しようとした。彼女が御仁と自分達を比較し、そしてアファエルの存在に嫉妬したのは、自分達が[不浄なる存在]としてしか[永遠の命]を得ることができない、という劣等感から来ているのであろう。 だが、今ここにいる吸血鬼と人造人間の二人は違う。この二人は、[動かない時]など望んではいない。[紅玉の吸血鬼]は、自分が吸血鬼であるという事実を恥じてはいるものの、それを受け容れ、自分を愛してくれるものを守るために[生き]続け、そして[いにしえの召使い]は、刷り込まれた[使命]を通り越し、否定しながらも今の主人を愛し続けるだろう。[御主人サマだから]ではなく、[愛する御主人サマ]として。 一行は、そんな二人を心の中で祝福した。そしてモ・エギは、二人のそんな姿に感動しながらも、こんなことを呟いた。 「……ちょっぴり……羨ましいかも……」 そう、いつかモ・エギには、クサナギといられる時間が短く感じられるときが来るのかもしれない。二人は、同じ時間の中を生き続けることはできないのだから……。 |