キャンペーン・リプレイ

第 二十八話 「 温 泉 郷 に 少 女 は 舞 う 」 平成12年7月16日(日)

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 吸血鬼騒動を解決し、クサナギとミオ、モ・エギ、そしてイヴルがライバに戻ってきてから〜ちなみにセフィロスは「武者修業を続ける」と言って一行と別れていた〜一月が過ぎた。
 気がつけば季節は既に春……ここライバ周辺でも種まき、田植え、開墾などが始まり、ライバの渡世人斡旋所には人手不足の荘園などからの仕事依頼も殺到していた。クサナギはここしばらく、そのような畑仕事などをして日々を過ごし、ミオも本業の操兵技師としてジュウコーの工房で腕を振るい、そしてイヴルもあちこちの祭りなどでリュートを奏でていた。
 そんな中、一日の仕事を終えたクサナギとミオのいる竜の牙亭に、表向きは大道芸の元締めを勤めているナバールが道化の姿のままやってきた。もっとも、彼の素顔はいまだ誰も見たことがないのだが……。彼はクサナギ、ミオと世間話をした後にふと、こんな台詞を漏らした。
「最近、他所の盗賊匠合がこのライバを伺っているらしいんだ。ここは王朝結社が暴れてくれたせいで裏社会も混乱していてな……何とか隙を見せねェように頑張っているんだがな……」
 本来、こんな話は部外者には聞かせるものではない。が、クサナギとミオには信頼を置いているのか、ナバールはこのようなことをつい話してしまうことがある。これでよく、ライバ裏社会の元締めが務まるものだ、とクサナギは思った。元締めといえば……クサナギはこの時、ナバールの表の[顔]を思い出して訪ねた。
「そういえば、アリスはどうしているのだ?」
 アリスはライバ奪還作戦においてリナールの駆るアルシュバリエのロケット攻撃から市民を守った。単独ではなく、デュークやメリエンヌ、モ・エギの援護を受けての辛勝であったが、やはり市民は身を呈して庇ってくれたアリスに感謝の念を持った。[王朝結社の乱]の後、アリスは渡世人稼業から身を引き、ナバールの元で踊り子としてその芸を磨いていた。  
「三月前にこの町を出た。俺の紹介で、アドリアーノという芸人一座に応援に行ったんだ。新しい踊りを学ぶ良い機会だと、本人も喜んでいた。元気でやっているといいが……」
 アリスはこの街では英雄でありまた、[操兵乗りの踊り子]として珍しがられ、人気も高かった。その名声は彼女をより成長させる原動力となっていた。だが、アリスはそんな名声だけに頼るつもりはなかった。ナバールから知り合いの劇団で働いて見ないか?、と訪ねられたアリスは今まで培ってきた技術を試し、さらに新たな技術を得る良い機会と考え、それを承知したのだ。
「おそらく今頃は近くの街で公演をしているはずだ。何、きっとあの子なら大丈夫!」
 ナバールは自分の娘を気づかうように呟いた。クサナギも心の中で、新たな旅に出たアリスに声援を贈る。が、その中でミオは一人、
「アリス……元気にカムナ動かしているかな……まさか壊しちゃいないよな……」
 と、アリス本人ではなく、その乗機ユニホーン・カムナの心配をしていた。
 その時、辺りに聞き慣れた地響きが聞こえてきた。モ・エギであった。彼女はこの所、クサナギ同様あちこちの畑仕事や建設現場、治水工事などの仕事をしていた。だが、渡世人稼業や操兵戦で手に入れた仮面を売り払って得た大金が殆ど新造古操兵ファルメス・エルグラーテの維持費で消えてしまうクサナギと違い、モ・エギはそれほど使う金もないはずだ。確かに以前、家を建てる費用を稼ぐ為に姫盗賊の宝探しに参加したが、それはその時に得た報酬で十分だったはずだ。それを何故、今になって……。
「ク・サ・ナ・ギ・さーんっ!」
 モ・エギは竜の牙亭に着くとその入口から中を覗き込み、クサナギの名前を呼んだ。そしておもむろに巨大な手を店の中に伸ばして、そのままクサナギを鷲掴みにして引きずり出した!。だがクサナギは特に抵抗もせずにモ・エギの成すが儘にされた。このモ・エギの行動は、もはや当たり前の光景となっており、街の人々は特に気にもしていなかった。店の常連客なども、クサナギがカウンターで寝ている時などはモ・エギの掌の上にわざわざ乗せてやるほどだ。
 店の横の空地に腰を下ろしたモ・エギは、クサナギを微笑んでいる自分の顔に近づけ、小声でこう言った。
「クサナギさん。ライバの近くに温泉郷があるんですって。どうです?。たまに、二人だけで行きません?。フフッ大丈夫、路銀は私が稼いだから……」
 なるほど、ここのところ積極的に仕事を捜していたのは、この為だったのか……と、クサナギ、そして店の入口の影で二人の会話を盗み聞きしているミオは納得した。
「ゼノアさんも仕事で出かけてるし、ここのところイヴルさんも来ていないし……」
 モ・エギの(殆ど無駄とも言える)小声での話にクサナギは少し考え込んだ。
(……確かに、私はイヴルに会って以来、女性関係では碌なことがない。たまには二人きりも良いかもしれぬ……)
 クサナギが二つ返事で了解すると、モ・エギは「じゃあ、明日の早朝に正面の門で……」と言い残して準備の為に帰っていった。そしてクサナギもミオやナバールに、「用事ができた」と惚けたことを言って、やはり準備の為にジュウコーの工房に向かった。
「ごっつぉさーん……御代ここに置いてくねー!」
 ミオは何食わぬ顔で店を出て、自分も工房に帰っていった。そして明日の為にエルグラーテの整備をしているクサナギの横で、やはり何食わぬ顔のまま自機ワークマンデの整備に取りかかった。そう、この[子ダヌキ]はここで「あ〜らクサナギさん、そんなに浮き浮きしてどこ行くの?」などとイヴルみたいには聞いたりはしない。ただ「黙って、こっそり」尾いていくだけであった。
 そして翌日。クサナギが約束通り門まで来てみると、そこには既に戦鎧「紅葉武雷」に身を固めたモ・エギがにこやかに待っていた。そんな二人を見たライバの門兵が、
「クサナギさーん……モ・エギさーん……朝も早くからデートかい……?!」
 その言葉に二人は顔を赤らめ、
「い……いや、そういう訳では……」
「い……行きましょうクサナギさん……」
 と言ってその場を誤魔化した。この場合、モ・エギは兜を脱いでいたから表情は分かる。だが、クサナギの場合はエルグラーテの拡声器を通してのものだ。機体が悠然と立ちつくしているにもかかわらず、クサナギがしどろもどろに答える様は滑稽であった。やがて二人は(やはり意味はないのだが)互いに手などつないで旅立っていった。
 そんな様子を建物の影からじっと見つめる、謎の操兵がいた。その正体はこの日の為(?)にミオが作り上げた[ワークマンデSAC(シークレットアーマーカスタム)]であった。ミオは自機ワークマンデに迷彩塗装を施した増加装甲を取りつけたこの機体で二人を尾行しようというのだ。
 そんな怪しげな操兵を衛士隊の操兵が見つけ、その場で職務質問しようとした。が、ミオは声を掛けられる前に素早く反応し、ワークマンデの人差し指を頭部に当たる場所に位置する操手槽に当て、「しーっ」と言ってその衛士隊を静止した。そしてエルグラーテと紅葉武雷が出ていったのを確認するや、ミオはワークマンデを前進させ、追跡を開始した。その爪先だけで歩く姿は、まるで忍び足で追跡する[へぼ密偵]そのものであった。そんな光景を見た衛士隊操兵は、唖然として見送ることしかできなかった。
 不意にモ・エギは背後に怪しげな視線を感じた。
「何か付いてくる……?!」
 モ・エギが後ろを振り返るとそこには見知らぬ迷彩操兵が立っていた。が、ただ、同じ道を行くだけであろう、と考えたモ・エギは特に気にする事なく、再び歩み始めた。
「ふぅ……危ない危ない……」
 ミオはワークマンデの操手槽の奥に潜んでいた。この機体の操手槽は開放型で、ちょっと覗き込まれればすぐにばれてしまう。[クサナギとモ・エギの行く末を案ずる]ミオとしては、[二人を見守る為]にもここで見つかってしまうわけにはいかなかったのだ。
 この[達磨さんが転んだ]状態は三人が目的地であるラルテアの街に到着するまで続いた。モ・エギやエルグラーテが振り返る度に突如駐機姿勢を取る操兵を、旅人達は首を傾げながら見送った。不自然に感じなかったのは当の本人達だけであった。
 街道を進んで三日ほど。三人はこの状態のまま無事にラルテアの町に到着した。町の入口に当たる関所についたモ・エギは、門兵の前であえて御仁であることを明かした。どうせ温泉に入るのだから、今のうちに正体を晒すしかないのだ。
 モ・エギが御仁であることを知った門兵は操兵隊の出動を要請しようとした。が、上司が戦鎧「紅葉武雷」の胸甲に取り付けられている[工房都市匠合の紋章]を見て驚愕し、慌てて町への入場を許可した。そんな門兵達を見たモ・エギは得意そうな顔で、そしてクサナギは苦笑しながらそれぞれ町に入っていった。
「よろしいんですか?、あのような御仁を町に入れてしまって……」
「工房都市匠合12委員の一人[リングバール]の紋章だ……問題を起こさない限りこちらは手出しはできん。しかも邪険にすれば何を言われるか分からん。逆を言えばあれほどの紋章をもっておられるのだ。下手な手出しさえしなければ何も問題は起こさないだろう。むしろ……」 
 上司はそう言って、新たに門に入ってくる操兵に目を向けた。その迷彩塗装の機体はまるで、先の二人を[影からこっそりと]監視しているようであった。
「我々はああいう怪しげなモノを取り締まらねば……!」
 そして、上司の命令でその操兵は詰め所まで連行された。それは二人に続いて町に入ろうとしたミオのワークマンデSACであった。結局ミオは操兵ごと連行され、機体から降ろされて質問攻めにあった。
「入国の目的は?。どこから来た……?なまえは……?!」
「目的は出歯亀……じゃない、温泉で……ところで、この町に一機の操兵と御仁が来ませんでしたか……?」
 ミオの質問に門兵は、
「あぁ、確かに来たよ……で、入国の目的は?……どこから来た……?!」
 と、軽く答えてから再び同じ質問を繰り返した。要するに信用されていないのだろう。が、当のミオは二人のことが気になって門兵の言葉など耳に入らず、上の空でその質問に答えていた。そんなミオに根負けした門兵は、夕方近くになってようやく、町への入場を許可した。