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ミオやアリスの[災難]に気付く事なく、一足先に温泉に入っていたモ・エギは、一人湯の中で考え事をしていた。 「やっぱり、迷惑かな……でも、もういつまでも隠していることなんてできない……でも言っちゃったら、どっちにしろ今までと同じじゃいられないし……しかもそのことでクサナギさんが私を嫌ったりしたら……でも……」 しばらく考えた後、モ・エギはあることに賭けてみることにした。 「ここから出るまでにクサナギさんと出会わなかったら、もう暫くこのままでいよう……でも、もしクサナギさんと出会ったら……!」 意を決したモ・エギは、上半身を湯から出すと、そのまま力強く湯の中を前進した。それは、モ・エギの決意の強さを表していた。 そして程なくして、モ・エギは湯の中でまどろむ小さな人影を見つけた。それは明らかにクサナギだった。今のクサナギはエルグラーテに乗っていない。仮面も置いてきている。そしてモ・エギも一切の武具、衣服を身に着けていない。そう、今は互いに隠す為の物がないのだ。モ・エギが温泉という場所を選んだのは、この為だったのだ!。モ・エギは覚悟を決めてクサナギの元に歩み寄った。 クサナギは何もかも忘れたようにその広大な湯に使っていた。今までこのような気分になったことがあっただろうか……王朝結社……奇面衆……その他様々な敵と戦い続けたクサナギは心身ともにすっかり疲れきっていたのだろう……。今はただ、暖かい湯に身と心を任せ、その疲れを癒したいだけであった。 その時、湖畔が急に波打ち、クサナギの心を現実に引き戻した。見ると巨大な人影がクサナギのほうに向かってくるのが見える。モ・エギであった。クサナギはここに来てようやく、何故あれだけ温泉湖に来ることを拒んだのかを思い出し、大急ぎでその場を離れようとした。そう、ここは巨大な浴場である。モ・エギは当然、生まれたままの姿であった。 だが、既に時遅し。モ・エギはクサナギの姿を確認すると、とりあえず両手で体を隠してすぐ側まで寄ってきた。モ・エギのそんな姿と自分も裸であることに恥ずかしさを覚えたクサナギはその場でモ・エギに背を向けた。 そんなクサナギをモ・エギは両手ですくい上げ、自分の顔に近づけた。クサナギが一瞬モ・エギの首から下を見るが、すぐに顔をそこから背けた。そう、クサナギを両手で抱えているということは、今モ・エギはその裸体を隠さずにクサナギの前にいるということであったのだ!。 モ・エギはそんな慌てふためくクサナギを掌に乗せたまま岸辺の岩場に腰かけ、手の中の小さな青年をその豊満な胸に抱きしめた。巨大な胸の谷間に埋まる形となったクサナギは恥ずかしさと息苦しさに襲われながらも何とか堪え、モ・エギの顔を見上げて叫んだ。 「モ……モ・エギ……いったい何を……?!」 その時、クサナギはモ・エギの表情が悪戯っぽいものからどこか寂しげな表情へと変わっていくのが見えた。 「クサナギさん……私たちは、いつまで……いつまで一緒にいられるのかな……」 「モ・エギ……?」 クサナギは抵抗するのをやめ、モ・エギの話に聞き入った。 「クラウスとマルティア……あの二人は永遠の時間の牢獄に苦しみながらも、手を取り合ってずっと生きて行ける……ラクトーサとラミーネ、フィネスとレイセス……みんな種族や身分を越えた愛で結ばれた……」 モ・エギの瞳から一粒の涙がこぼれた。 「でも、私たちはどうなのかな……あなたの一生は私にとってほんの一瞬かもしれない。私……クサナギさんと別れるなんて……嫌……!」 クサナギは、今モ・エギに掛けるべき言葉が思いつかないでいた。 そんな二人の光景を金色の御仁とともにミオ、アニタ、アリスが固唾を飲んで見つめ、そして一向に進展しない二人に苛立っていた。ミオがおもむろに金色の御仁のほうを見てみると、彼女は笑顔の中に、わくわくする気持ちと苛々する気持ちの狭間で揺れている、といった表情を浮かべていた。どうやらこの金色の御仁は、モ・エギの恋に別に難色を示しているわけではなく、むしろ応援したい、というような気がありそうだ。 だが、ここでついに事態は進展した。沈黙を守るクサナギに対し、モ・エギはついにその思いを爆発させたのだ!。 「クサナギさん……大好きですっ!!。迷惑かもしれないけれど……寿命も種族も……何より大きさそのものがこんなに違うけど……」 モ・エギはそう言って両腕を伸ばし、クサナギに自分の全身を見せた。クサナギは今度は目を背けなかった。そしてモ・エギは再びクサナギを今度は左の乳房に寄せ、そしてそのまま抱きしめた。クサナギはモ・エギの鼓動が徐々に早くなっていくのを感じた。 そんなモ・エギに居たたまれなくなったクサナギはその胸から抜け出た。そしてモ・エギの両腕の上に乗って、声を掛けた。掛ける言葉は既に決まっていた。 「一緒にいられる時間が短いのなら……その時間を精一杯生きればよい……私とそなたの過ごした[時]が、そなたの良き思い出になるように……私も……そなたが好きだ……!」 「クサナギさんっ!!」 モ・エギはクサナギを頬に寄せ、思いっきり頬擦りした。そして、クサナギの顔を自分の正面に向け、目を閉じてとがらせたその唇をゆっくりと近づけた。それは顔の割には小さめであったが、それでもクサナギの頭がすっぽりと入ってしまうほどのものであった。モ・エギの巨大な唇が迫ってきたのを見て、さすがのクサナギも一瞬焦りを覚えた。 それを見ていた出歯亀四人組はクサナギの歯がゆさに呆れ返りつつあった。先に女性であるモ・エギに告白させた挙句に口づけまで……だが、四人はそんなクサナギの次の意外な行動に度肝を抜かされることになった。 モ・エギの思いを込めたその唇はクサナギの顔すれすれで止まった。大きさの差を気にしてか、最後の最後で口づけをためらっているのだ。そして、モ・エギにはこの場においてもう一つの期待もあった。 視界いっぱいの唇に圧倒され、戸惑っていたクサナギだが、モ・エギの思いに気付くと、それを叶える為に捕まれている手から抜け出してその上に乗り、その唇に手を掛けた。そして自分の顔を微かに甘い香りの吐息が漏れるその巨大な唇に自ら寄せ、自分の唇でモ・エギの下唇にそっと触れた。それは予想以上に柔らかく、そして暖かかった。 だが、これで終わったわけではなかった。クサナギがその唇から離れようとした時、モ・エギの人差し指が突如クサナギの後頭部を押さえ込んだ!。そしてモ・エギはそのままクサナギの顔を自分の唇に強く押しつけたのだ!!。 「モ……モエ……ギ……!」 「ん……ん……」 モ・エギは時折唇を動かし、甘い吐息を漏らしながらしばらくクサナギの唇(というよりは顔全体)の感触に浸った。結局クサナギが開放されたのは窒息寸前の時であった。そしてクサナギを再び両掌に乗せたモ・エギは何かが振り切れたような笑みで一言、 「ありがとう……」 とだけ呟いた。それに対してクサナギもまた、何か振り切れたような笑みを浮かべてモ・エギを見つめていた。 「これでメデタシメデタシってところかしらね……!」 不意に金色の御仁が立ち上がり、モ・エギに声を掛けた。掌の上にいたミオ、アリス、アニタは御仁が急に動いたので思わず落ちそうになってしまった。 突然声を掛けられた二人は呆気にとられた。そしてモ・エギは反射的に両手で体を隠す。その際、クサナギはその両腕に巻き込まれ、再び胸の谷間に抱かれる形となった。 「ミオ……それにアリス……見ていたのか……?!」 「い……いや……そういう訳では……」 ミオ、アリスはひきつり笑いを浮かべてクサナギにシドロモドロに弁解した。 モ・エギはモ・エギで、その金色の御仁を見て言葉を失っていた。 「[コガネ様]……?!」 モ・エギの言葉を聞いたクサナギはようやくモ・エギ以外の御仁がいることに気付き、驚愕した。だが、クサナギは今更その御仁の存在そのものに驚いているわけではない。問題はその御仁がモ・エギ同様女性(それもモ・エギ以上の絶世の美女)で、しかも(というよりは場所的に当然)裸でありさらに、手の上の女性陣と違ってその裸体を隠そうともしていないのだ……!!。 コガネ様と呼ばれた御仁は三人を手に乗せたまま、モ・エギの胸に抱かれているクサナギの側まで湯の中を歩み寄ってきた。モ・エギよりも背の高いその身長2リート強の巨大な美女の豊満な乳房が目の前に迫ってくるのを見たクサナギは、もはやどうしたら良いのか分からなくなってしまった。そんな様子を見たコガネ様は「クスクス……」と微笑みながら、困惑するクサナギの顔すれすれまでその瞳を寄せ、さらに流し目で迫り、まるで品定めでもするかのようにじっくりと見つめた。 「ふうん……」 コガネ様は意味ありげな笑みを浮かべ、今度はその艶やかな唇をわざわざクサナギの顔に寄せた。その距離は彼女がちょっと唇をとがらせると、その困惑している青年に触れてしまいそうなほど近かった。そしてコガネ様はその距離のままでこんなことを呟いた。 「くふふ……なかなかかわいい子ね……」 悪戯っぽい表情を浮かべながらも色っぽくクサナギに迫るコガネ様を見たモ・エギは、思わずクサナギを庇うようにより強く抱きしめた。一方で、少し酒の香りの混ざった、モ・エギとはまた違う甘ったるいその吐息を間近で掛けられたクサナギは、我を忘れてその場で放心してしまった。が、コガネ様の次の言葉ですぐに自分を取り戻し、そしてかえって慌てふためくことになった。 「ところで……気持ちいいかしら?。モ・エギの胸のた・に・ま……」 それを聞いたモ・エギは大慌てでクサナギを胸から離し、どうしたらいいか分からずに両手で持て余した。その手の中でクサナギは、ただ無抵抗に弄ばれるだけであった。 その時、一隻の船が永久ランプをかざしてこちら向かってくるのが見えた。それは、見回りの為の巡視船であった。本来ここは立入りが許されていない危険な場所に当たるところで、おそらくはそんなところから声がしたのでおっとり刀でやって来たのであろう。だが、二人の御仁を見た巡視員はその巨体と美しい裸体に言葉を失い、その場に茫然と佇んでしまった。 それを見たコガネ様は今までずっと掌の上にいたミオ、アリス、アニタをその船の上に下ろし、自分の顔、そして唇を巡視員に近づけ、からかうように、 「いい湯かげんね……また来るわ……」 と言って色っぽく微笑んだ。そしてクサナギとモ・エギに向き直り、 「じゃあね、お二人さん。お幸せに、ね……」 と、別れの言葉を残してその場から立ち去り、対岸に向かって泳いでいった。そんなコガネ様の後ろ姿を見送ったモ・エギは心の中で呟いていた。 「(……本当はクサナギさんともっとイイコトしたかった……でも……)」 モ・エギは、コガネにからかわれたことで落ち着いたはずの心の昂りが今でも燻っていることに戸惑いを感じていた。が、そんな感情を隠すかのようにモ・エギはクサナギに「もう上がりましょう……」と、声を掛けた。 一方。先の中州島まで泳いできたコガネ様は、温泉湖から上がろうとするモ・エギをじっと見つめた。その顔からは先ほどの官能的な表情が消えていた。 「とりあえずは心を静めたようね……あの娘は一度思いを爆発させるとどこまでも止まらない……でも、今はだめ。あの少年(クサナギ)にも迷惑を掛けるし、一気に深みにはまれば、悲劇は早く、そして破滅的に訪れる……今は、ゆっくりと……ゆっくりとその心を育んで……」 その顔に浮かぶ表情はまさに[母]のそれであった。 |