キャンペーン・リプレイ

第 二十八話 「 温 泉 郷 に 少 女 は 舞 う 」 平成12年7月16日(日)

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 一行が温泉湖から出てみると、人々が一斉に町外れの広場に集まっていくのが見えた。ミオが一人を捕まえて話を聞いてみると、何でも広場で何か大掛かりな見世物があるらしいということであった。この町にはアドリアーノ一座の他にも沢山の芸人達が訪れている。おそらくはその内の一つであろう……。
「皆さん、どうせなら見てみませんか?」
 モ・エギの一言に全員が頷いた。特にアリスとアニタにとっては他の芸人達の[技]を見るまたとない機会であったから、なおさらであった。一行はその歩幅の関係上からモ・エギに抱えてもらい、その広場に向かうことにした。この時、クサナギは心なしか胸元近くに抱かれた。それを見たミオは、
「アタシ、[熱い]から肩でいいよ……」
 といって、そのままモ・エギの右肩によじ登った。この時、ミオが言った[熱い]というのは、モ・エギの風呂上がりの熱気ばかりではなく、クサナギとモ・エギの今の関係を揶揄したものも含んでいるようだ。
「ところでモ・エギ……先の[コガネ様]とはいったい何者なのだ……?」
 クサナギの疑問に対し、モ・エギは先の出来事もあってか複雑な表情で答えた。
「あのお方は、御仁賊を統べる長老です……本来ならば[力があり余り過ぎているのでこの世界には居られない]ので、[仮初の体]をこちらの[世界]に造り出している、とか……」
 その辿々しい答えからすると、実際のところモ・エギにも良くは分かってはいないようだ。その話を聞いたミオは、
「へぇ……御仁って、女性社会だったんだ……」
 と呟いた。それを聞いたモ・エギは苦笑しながら、
「たまたま今の長老様が女性だったというだけですよ……」
 と、答えた。
 一行が広場にたどり着いてみると、そこは人だかりができていた。モ・エギが広場に入ってくるや人々は一斉に驚いたが、モ・エギは気にする事なくにこやかに笑いながら、
「なんでもありませんから、どうか気になさらないで……」
 と、その場に膝を抱えて座り込んだ。そして一行も、モ・エギのおかげで空いた席にちゃっかりと居座っていた。その中でアリスとアニタは、やはり[見世物]を見に来ていた座長のテシウム以下団員達を見つけ、一行を紹介した。一座のもの達はモ・エギの巨体に戸惑ったが、アリスの説明でとりあえず落ち着いた。
 やがて[見世物]が始まった。それは予想以上に大掛かりなもので、広場の両脇には操兵が一機づつ、それぞれ玉座のような物に据えつけられていた。そしてその中央には舞台があり、そこでは座長と思われる男が司会を務めていた。
 だがこの男、司会という割には厳つい表情をしており、あまり良い印象ではない。しかもよく見ると、それなりに美男だが非常にこわもてで、しかもその頬には刀傷の跡と思われるものもあった。いったいこの座長は何者なのだろうか……。
 この時、クサナギはさらに不可思議なものを見た。テシウムがこの司会に対して異常なまでの興味……いや、警戒を示していたのだ!。表面上は平静を装っているのでミオ、アリスは気付かなかったが、クサナギは彼の目が常にその司会のほうに向けられているのを見逃さなかった。それはまるで、司会に対して恐怖で脅えている、というように見て取れた。
 そして司会が重々しく口を開き、この一座の[見世物]が始まった。
「今宵は皆様方に、[古代の神秘]をお見せできることを誇りに思います……これなる操兵は、太古の時代に伝説的な戦いを繰り広げた[ファルメス]と[ヴァルパス]の二つの陣営に別れていたいにしえの操兵です……今、その伝説がここに蘇り、その戦いの決着をつけようと、操兵は再び立ち上がります!!」
 確かに言われてみれば、その両脇に控えている操兵の外観は古操兵風である。その機体は操手槽の扉が開いたままで、座席に誰も乗っていないことがよく見えた。だが、クサナギ、アリスにはその座席の位置がやたらと前に突き出ていて不自然、といった感じがした。この位置ではいったいどこに操縦桿や操縦把がつくのだろうか、と……。
 それに対して操兵技師であるミオはさらに詳しく機体構造を推測することができた。それによると、おおかた前方の座席は偽装で、実際にはその裏の本来の操手槽で操縦し、さも無人で動いているように見せよう、という程度のものであろう、とのことだ。
 そしてミオの予想通り二機の操兵は[誰も乗っていないにもかかわらず]起動し、玉座から立ち上がった。そして[わざとらしく驚愕]した司会には目もくれず、[太古の決着をつけようと]広場の中心で対峙した。その額にはそれぞれ[緋]と[蒼]の[フィールミウムの石]がまるで[永久ランプが灯るように]点滅していた。
 一方の操兵が重々しく語り始めた。
「まだ起動できたのか……このポンコツ操兵め……!」
 それに対してもう一方の操兵も答えを返す。
「貴様こそ、神殿などではなく、ジャンクの山にでも埋まっておればよかったのだ……!」
「スクラップが……!。貴様などバラバラに解体して鉄屑屋に売り払ってやる……!!」
「貴様こそ、溶鉱炉にでも落ちて、鍋釜にでも生まれ変わるがよい……!!」
 散々罵り合った二機の操兵はそれぞれ剣を抜いた。そしてその剣を[さも戦っているように]ぶつけ合った。それは明らかに八百長であったが、その光景に観衆は興奮し、それぞれの操兵に声援を贈った。どうやら彼らには、その操兵の素姓など関係ないようだ。
 だが、その声援は恐怖の悲鳴に変わった。何とその二機の操兵が、剣を交えながら群衆に向かってきたのだ!。蜘蛛の子を散らすように逃げ散る群衆を他所に、二機の操兵は「屑鉄が!」「スクラップめ!」と罵り合いながら町の中へと入っていった。そしてその行く手には、何とアドリアーノ一座の天幕があった。
 それを見た一行は慌てて行動を起こした。モ・エギがすぐに二機を止めに入り、その間にクサナギ、ミオ、アリスがそれぞれに操兵を起動させる為に大急ぎで貸しガレージに向かった。
 操兵を止めに入ったモ・エギは両機の間に割り込んだ。突然目の前に現れた御仁の少女に二機の操兵は「何だこいつはっ?!」と、威厳(というより演技)を忘れて取り乱したが、役者魂の賜物か、すぐに自分を取り戻し、
「だ……黙れ……!御仁風情がいにしえよりの戦いを邪魔するなっ」
 と、意気巻いて前進を続けようとした。
 一方、[いにしえの古操兵]の暴挙を食い止めるべく自機エルグラーテを起動させたクサナギは、奇妙な違和感に襲われた。そう、何故かグラーテの仮面から普段は感じない[怒り]の感情が沸き上がっているのだ。どうやらエルグラーテは、目の前の[スクラップの寄せ集め]が[ファルメス]を名乗ることに怒りを感じたようだ。クサナギの搭乗を確認したエルグラーテはクサナギが駆動版を踏み込まないうちに走り出した。
「待て、エルグラーテ!。落ち着け、とにかく落ち着け……!!」
 だが、エルグラーテはクサナギの操作にも拘らず、その[ファルメスを名乗るスクラップ]を目ざして一直線に走り出した。額の[フィールミウムの石]を蒼く、そして強く輝かせて……。それでも、クサナギは言うことを聞かなくなったエルグラーテを必死になだめながらも現場に向かい、アリスとミオもそれぞれ、ユニホーン・カムナとワークマンデSACでその後を大急ぎで追った。
 三体の操兵が現場に到着してみると、二機の[いにしえの]操兵はモ・エギを避けながらもゆっくりと、そして確実にアドリアーノ一座の天幕に向かっていた。モ・エギはそれでも何とか食い止めようとしたが、何せ今は丸腰、何の装備も持っていなかったのだ!。確かに、御仁であるモ・エギが本気を出せば武器などなくともこのようなスクラップは敵ではない。だが、ここで本気で乱闘したら町がどうなるか分からないのだ。ここはただ、押さえるのがやっとであった。
 そんな光景を目の当りにしたミオは、ワークマンデSACを数歩前進させ、
「コラァッ!、その大根役者、今すぐ戦闘をやめなさーいっ!!」
 と、二機に向かって拡声器で怒鳴りつけた。
 クサナギも相手に停止を呼びかけようとした。が、この時エルグラーテがその機体を振動させていることに気付いた。見ると、検血管や検水菅も戦闘前だというのに沸騰しているではないか!。どうやら、グラーテの仮面は目の前のスクラップの「ファルメスの真の力を見せてやる!」という言葉に過剰に反応しているようだ。
 だが、どの道戦闘は避けられそうになかった。[ファルメス]が、邪魔をするモ・エギを殴り倒そうとしたのだ。これをクサナギは黙って見過ごすわけにはいかなかった。
「モ・エギに何をするっ!」
 クサナギはそのままエルグラーテを前進させ、[戦闘を繰り広げている]操兵の内一機[ファルメス]に向かってセラミック手甲による攻撃を仕掛けた。大太刀で斬るよりは手加減できるであろう、と判断したのだ。が、本気で攻撃しようとしているエルグラーテの仮面と波長が合わないのか思うように操作ができず、その拳は敵との間合を読み違えてそのまま大きく空振りしてしまった。
「ク……クサナギさぁ〜ん……!何とかしてぇ〜……!!」
 殴る姿勢を見せてから数歩前進するエルグラーテの姿を見てモ・エギは、両手で敵操兵からの攻撃を庇いながらも、嘆きながらクサナギに助けを求めた。いくら御仁といえど、全金属製の拳の攻撃は生身では堪えるようであった。
 その隣では、アリスのユニホーン・カムナ・が[ヴァルパス]に向かって突進していた。盾を使ってその敵操兵に体当たりをかけるつもりのようだ。そしてその攻撃は何の妨害もなく成功し、カムナの体当たりを受けた[ヴァルパス]は、そのまま地面に倒れてしまった!!。
「イッテェ……手前ぇ……!。何商売の邪魔をするんだっ!!」
 先ほどまでの威厳を忘れた口調で怒鳴る[ヴァルパス]に、アリスはカムナの剣をその操兵に突きつけ、叫び返した!!。
「それはこっちの台詞よ……別にあなた達が戦うのは構わないけど、こっちの仕事の場所を壊されるわけにはいかないのよっ!!」
 その隣では、クサナギが再度攻撃態勢を整えていた。
「あ〜あ……せっかくの風呂上がりが……誰の所為だ……!!」
 ミオの非難の声を受けたクサナギは、さっきの温泉での出来事の後で格好がつかないとまずい、と思い、今度こそ、とばかりに拳を構え直し、再び攻撃を加えた!。今度はエルグラーテはクサナギの操作を後押しし、拳は今度こそ命中、[ファルメス]に大打撃を与えた!!。
 そこにモ・エギが飛び掛かり、[ファルメス]を後ろから羽交い締めにした!。
「は……離せこのアマッ!!」
 [ファルメス]もまた、演技を忘れてモ・エギを振り解こうとしたが、所詮ポンコツ操兵では少女とはいえ御仁の膂力にかなうはずもなく、さらに締め上げられてかえって脱出は困難になった。
 そこでミオの声援がとんだ。
「クサナギ、やっちゃえ……!!」
 それを聞いた二機の[いにしえの]操兵は、
「ク……[クサナギ]だとぉ……!!」
 と、驚愕してそのまま硬直してしまった。彼らはどうやらクサナギの噂を知っているようだ。
「クサナギさん、今ですぅっ!!」
 モ・エギの必死の援護とミオの声援を受けたクサナギは、とどめ、とばかりに三度拳を叩きつけた!。
「モ・エギに手を出す者は、こうだっ!!」
 そのクサナギの思いと運を乗せたその攻撃はものの見事に[ファルメス]の仮面すれすれに命中、その打撃は機体の制御系統を破壊して、駆動を止めた。
「もう、偽物を名乗るのはやめたらどうだ……!!」
 駄目押しのその一言に、相手の操手は完全に戦意を消失、「ご免なさいぃぃ!!」と叫んだ。そしてその光景を見たエルグラーテは全身から蒸気を噴き出し、一時的に機能を止めた。その中でクサナギは、グラーテの仮面の怒りの感情が徐々に落ち着いていくのを感じた。
 一行が事を片付けて後ろを振り返ると、人々が町を救ってくれた英雄に対して惜しみない拍手を贈ってくれていた。おっとり刀で駆けつけた衛士隊の操兵も、
「いやぁ……我々の出る幕はなかったですなぁ……はっはっはっ……」
 と、遅れて来たことを笑って誤魔化していた。そしてエルグラーテを見上げ、
「しかし、噂に聞いたエルグラーテをこうして見ることができるとは……[御仁を連れた操兵]というから、ひょっとして、とは思ったんですが……」
 そんな衛士隊長の言葉にクサナギは照れながら、
「いや、私はただ、当然のことをしたまでだが……」
 と答えていた。
 一行は後片付けを衛士達に任せると、すぐさまアドリアーノ一座の元に戻った。ところが、ここはここで一騒動が起こっていた。今の戦闘の最中にアニタが行方不明になったのだ。