キャンペーン・リプレイ

第 二十八話 「 温 泉 郷 に 少 女 は 舞 う 」 平成12年7月16日(日)

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「あぁ……アニタ、どこに行ってしまったんだぁ……!」
 テシウムは気が動転しながらも団員に指示を出し、自分も辺りを捜していた。クサナギには、その光景が[アニタがはぐれた]、というよりは[アニタが誘拐された]という感じであった。ミオが見てみると、この騒ぎの張本人である[劇団]も、何故か道具一式を置いたままその場から消えていた。
 クサナギとミオは以前の[年明け暗黒教祖事件]を思い出した。確かあの時も、妖精族のエリファが騒ぎのどさくさの中[闇と自由の法]団に誘拐されていたのだ。二人は、これが取り越し苦労であることを祈った。が、それでも三人はその可能性も検討し、それぞれ早速調査に乗り出した。
 ミオは先ほどの[いにしえの操兵]が駐機している広場に向かった。そこではやはり、その操手の現場検証を兼ねた事情聴取が行われていた。衛士達の訊問に当初彼らは、先の暴走でアドリアーノ一座に向かったのはあくまで偶然である、と主張した。が、しつこく訊問され、旅芸人達に雇われて、そちらの方向に走ってくれ、と依頼されたことを白状した。
 ミオは改めて先の[古操兵]を観察してみた。それはやはり増加装甲による偽装で、中身はよくある再生操兵であった。それだけを確認したミオは、野次馬の振りをしてその操手達に「で、その問題の旅芸人、てのは……?」と声を掛けてみると、その操手はミオが先の戦いでワークマンデに乗っていた、ということに気付かず、
「実は昨日街道沿いで知り合ったばかりで、詳しいことは何も分からないんだ。でも、俺達の身分を証明してくれるからって……おいっ!。そういえばどこに行ったあいつ等……!!。話が違うじゃねぇか……」
 その言葉に衛士達も呆れて、
「あ〜あ……逃げられちゃいましたねぇ……ま、我々も捜してみますから……」
 と、呟いた。
 ミオは先ほどの旅芸人一座の荷物を見てみた。が、それは使用された形跡は全くなく、そして何か芸をするにはあまりにも少なすぎた。最初ミオは、彼らがアドリアーノ一座に嫉妬してその腹いせに操兵を雇って嫌がらせをして、そのとどめとばかりにアニタを攫ったものだと思っていたが、どうやらこの件にはさらに裏がありそうだ、と考え始めた。
「大体、芸ったって、街道沿いで雇った素人操兵のドツキ漫才だけってぇのも変なんだよねぇ……」
 ミオはブツブツ言いながら、人が出払って無人状態のアドリアーノ一座の前をうろうろしていた。
 一方、アリスは先の旅芸人がこの町に滞在しているであろうと考え、門番の詰め所を当たってみた。最初詰め所の役人はアリスを追い返そうとしたが、彼女が先の騒動をカムナで止めた功績者だと知ると、快くアリスの質問に答えてくれた。が、それによると彼らはこの町には一夜だけ公演に来ただけで、逗留はしていないということであった。
 だが、彼らはこの関所をまだ通っていないという。もし、町の外に出ているとしたらいったいどこから出ていったのであろうか……。もっとも、この町は大した城壁もなく、少ない荷物程度の装備であれば、簡単に関所破りなどできそうではあるが……。
 役人に礼を言って詰め所を出たアリスは、今度は広場で先の公演を見た人々に聞き込みを始めた。が、人々はその旅芸人の姿を誰一人見てはいなかった。気がついたら煙に巻かれたみたいに消えていったと言う者もいた。いくら先の騒動の中でも、誰にも目撃されない、というのはあまりにも不自然であった。詰め所の話だと旅芸人一座は15人。そんな人数が一遍にいなくなる、などということがあり得るであろうか……。
 アリスは次に町中の旅館、旅籠、酒場などを廻って見た。ひょっとしたら、町の外には出ずにそういったところで身を潜めているかもしれない、と考えたからだ。だが、かなり時間をかけて廻ったにも拘らず、何の手掛かりも得られなかった。
 おなじころ、クサナギはアニタを捜して奔走しているテシウムを呼び止めた。そして、先ほどから気になっていたことを単刀直入に訪ねた。
「テシウム殿……ひょっとしたら、この件は先の旅芸人の司会の男と何か関係があるのではないか……!」
 クサナギはもともと遠回しにものを言う男ではない。それ故に、本来ならばもう少し様子を見てからのほうが良い場合でも、そのまま言ってしまうことが多いのだ。そんなクサナギの直接的な質問にテシウムは少し戸惑いながらも、
「い……いや、あの男は同業者としていけ好かない奴で……私はああいうインチキばかりをやるような奴は嫌いなんですよ……」
 と、何か歯切れの悪い答えを出した。クサナギはやはりこの男には何かある、と気付いた。が、再び愛娘を捜すその姿そのものには嘘偽りがないことを感じると、とりあえずこの件はテシウムが落ち着いてから、と考えて自分も再びアニタを捜し始めた。
 その後、クサナギが聞き込みをしながら街を歩いていると、頭巾と外套に身を包んだ一人の男がクサナギとすれ違い様に、どこか聞き覚えのある声でこう言った。
「ちょっと後でこの件について話がある。温泉湖の中に来い……」
 それはナバールの声であった。どうやら今はいつもの道化の化粧をしてはいないようだ。そういえば、彼の素顔を誰も見たことはなかった。男はクサナギにそれだけを告げるとその場から去っていった。
「クサナギさんどぉ?……そっちは何か見つかった……?」
 モ・エギが頭上から話しかけてきた。彼女は彼女なりにアニタを捜していたのだ。
「いや、何も……だが……」
 クサナギは先の男の件を聞かせると、モ・エギは神妙な顔でクサナギを見下ろした。
「でもクサナギさん、それは何かの罠かもしれないわよ……それに、温泉の中じゃ無防備じゃない…」
「だが、どの道むこうから何かを仕掛けてくるなら好都合だ……大丈夫。私のことなら心配はいらない……それよりも、モ・エギは一座の天幕を見ていてくれ。また奴らが何か仕掛けてくるかもしれないから……頼む!!」
 クサナギは笑顔でモ・エギに答えると、そのまま温泉湖に赴いた。
 丁度そのころ、ミオはいい加減考え続けていても埒が明かないと思い、自分もアニタを捜す手伝いをしようと、走り回っている団員を捕まえようとした。が、団員を捜して町中を走り回っているうちに……
「ここ何処……?!」
 結局、自分が迷子になってしまった。まさに木乃伊取りが木乃伊……。
 そして、酒場で何の手がかりも得られなかったアリスは旅芸人一座の置き去りになった荷物を改めて調べてみた。それは、同じ旅芸人のアリスが見て分かったのだが、使用した形跡がほとんどないのだ。これでこの旅芸人一座が何か別の者の偽装であることがはっきりした。その時アリスは、以前ナバールが残した言葉を思い出していた。
「盗賊ってぇのはな……何か任務を遂行する際には一切の痕跡を残さないものだ……」
 ひょっとしたら、この件には何処かの盗賊匠合が拘わっているのであろうか……。

 再び温泉湖に赴いたクサナギは、とりあえず浜辺近くの湯に浸かって例の男が来るのを待った。すると、先の男が腰に布を巻いただけの格好でやはり温泉に入ってきた。クサナギが見たその男の横顔は、どこかライバ国王レイ・ライバに似ているような気がした。そう、丁度髭を剃ったライバ王、という感じなのだ。
 男は、クサナギの側に腰かけると静かに口を開いた。
「すっぴんで逢うのは初めてだったかな……?」
 クサナギは驚きの眼で男を見た。
「やはりナバールか……」
「まさかあんたが来ているとは思わなかったよ……それにしてもクサナギさん、あんた、つくづく騒動の絶えない男だな……あんたの行くところ事件だらけだ……」
 ナバールは少し間をおいて、早速話を切り出した。
「実はな、この町に裏社会の大物が来ているらしいっていうんで、顔でも見てやろうと思ったんだ。そいつは、どこかの町ではかなり大きな盗賊匠合の頭目[だった]なんだが……」
「[だった]……?」
 クサナギの疑問にナバールは淡々と答える。
「そうだ。ここから西のほうにある大きな国でだいぶ振るっていたそうなんだが……」
 ナバールの話によると、その組織はかなり大きなもので、末端の組織を入れると、その規模はライバの盗賊匠合に匹敵するかあるいは上回っていたという。だが、最近その本拠地のある町で領主が代替りし、その時から何故か手入れが激しくなり、さすがに壊滅までには至らなかったものの、弱体化は否めなかったようだ。このままでは壊滅も時間の問題であろう……。
「そこでその者達はライバを狙ってこの町まで来ている、というのか……?」
 ナバールはため息交じりに話を続けた。
「俺は今まで、表社会と裏社会がうまく回るように間を取ってきたんだが……[あいつ]は、裏社会に閉じこもっているような奴じゃない……[あいつ]が乗り出してきたら、ライバの治安は今以上に悪くなる……」
 ナバールの言う通り、もしそんなものがライバに来たら大変なことになる……そう思ったクサナギだが、ここで一つの疑問が出た。
「だが、アニタの件とその[大物]とは何か関係があるのか……奴等の仕業だとしたら、いったい何の為にアドリアーノ一座を困らせるのだ……?!」
 その疑問にはナバールも困った顔で答えた。
「それがわからねぇんだ……さっきの騒ぎが奴等の仕業だってことは分かってはいる。だが、ライバを狙うほどの組織が何故、旅芸人一座を狙っているのか……?」
 クサナギはテシウムの先ほどの態度をナバールに話してみた。それを聞いたナバールは、彼がその組織の[裏切り者]ではないか、と睨んだ。今までの態度はおそらく、報復に対する恐れから出ているのであろう、と……。
「だが、奴等はなかなか尻尾を掴ませてはくれねぇ……」
「だろうな……」
 しばらく沈黙が辺りを支配した。そして間をおいたころ、ナバールが再び口を開いた。
「クサナギさん。俺は[ライバ王のお目溢し]で組織を存続させている。そして大きな事件を未然に阻止する代わりに、些細な事件を見逃してもらっている……。その中にはあんたに退治されても仕方がない事件もあるだろう……。だが、俺は[あいつ]ほど、酷い事件は起こしちゃいない。酷い麻薬も入れていないし、堅気を巻き込んだ抗争なんかもやっちゃあいねぇ。王朝結社のせいで乱れた統制も取り戻しつつある……」
 ここでナバールの言葉から力が抜けた。
「だが……今のままで襲撃を受けたら、正直言って防ぐ自信はない……持ち堪えることはできるが、荒れるだろうな……抗争が長引いて……」
 その言葉にクサナギは、
「それだけは、防がねば……!」
 と、静ながらも怒りに燃えていた。
「ま、それは裏社会の事情だ。とりあえずクサナギさんは、あのアニタという娘さんを助けてやってくれ……」
 ナバールはそれだけを言うと温泉から上がり、脱衣所へと向かった。この時、クサナギはその後ろ姿を呼び止め、さっきから気になっていた疑問−何故ナバールがライバ王に似ているのか−について聞こうとした。
「ナバール……そなたの顔どこかで見たような……?!」
「あぁ、今は化粧を落としただけで変装は特にしてはいないが、おそらく、道化の印象が出ちまうんだろうな……次は気をつけよう……」
 ナバールは惚けたようにそう言うと、さっさとその場から立ち去ってしまった。クサナギはそれ以上の追求を諦め、自分も温泉湖をあとにした。
 結局、この晩はこれ以上の手がかりも得る事なくとりあえずは全員宿屋に合流した。そして一行はそれぞれに得た情報を交換した。ただ、クサナギはナバールがライバ王に似ていることは伏せてはおいた。
 敵の正体の見当がついた一行だが、やはりその目的が見えずに困惑していた。確かに、アドリアーノ一座がこの公演を失敗してしまえば、彼らは信用を無くし、場合によっては一座解体、などということにもなりかねない。だが、それでいったい[奴等]は何を得るのであろうか……自分達が弱体化した腹癒せに組織を抜けたテシウムを巻き添えにする、という程度の組織とは思えないのだ。
 ここでミオは視点を変え、アドリアーノ一座の公演そのものの妨害である可能性を考えてみた。確かに、アドリアーノ一座の公演する[龍の女神の舞]はこの町にとっては重要な意味を占めている。だが、この神事はあくまで数十年程度の歴史しかなく、その中に重要な[伝説]の類いは含まれてはいない。それ故に、大手の盗賊匠合が狙う理由も全く思い当たらなかったのだ。
 結局、その結論は出ないまま夜が更け、ここは何かを知っているであろうテシウムに聞いてみるしかない、ということになった。