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レーデリックの掛け声で下っぱ操兵が一斉に突進し、そのうち三機がエルグラーテを取り囲む。が、クサナギはそれらの操兵よりも早くエルグラーテを操作し、正面の操兵に向けて御仁の太刀で先に斬りつけた!。その一撃は決して強烈とはいえなかったが、それでも再生機にとっては大打撃となり、その装甲に大きな亀裂を作った!。 残りの一機はモ・エギが引き受けた。紅葉武雷の強化された膂力で繰り出される七枝刀の威力は凄まじく、これも彼女にしては強烈とはいかないまでも、それでも相手操兵の装甲をその突き出た枝の一本で抉り取り、大打撃を与えた……!。 今のところ目の前に敵がいないミオも、やはりワークマンデを敵操兵に近づける。隙を見て装備されている鉄棍で攻撃するつもりなのだ。 そんな中、レーデリックもファルラーテをゆっくりと進め、 「取り囲め!。一機づつ、確実に仕留めるのだ……!!」 と、部下に指示を出している。まずは部下を先にけしかけ、疲労と損傷が出た後でゆっくりととどめを刺すつもりのようだ。だが、そう簡単にはいかなかった。 一方、モ・エギは目の前の操兵にその太刀を返し、二の太刀による攻撃を試みた。クサナギを援護しようにも、まずは目の前の敵を叩かなければ前には進めないからだ。そんなモ・エギの太刀は敵操兵を捕らえ、機体はその一撃に耐え切れずに駆動系を破壊され、そしてその場に崩れ落ちた。 レーデリックの指示を受けた下っぱ操兵は、エルグラーテを数の暴力で圧倒しようと、一気に取り囲んで攻撃しようとした。それに対してクサナギはエルグラーテに防御体制を取らせる。それを見たレーデリックは鼻で笑った。 「無駄なあがきを……!」 だが、これがクサナギの狙いだった。クサナギは敵がエルグラーテを取り囲み、攻撃を仕掛けてきた瞬間に、背部に装備されたロケットモーターを始動、エルグラーテは炎を背負ってそのまま空中へと舞い上がった!。そして、レーデリックとその部下に驚く暇を与えぬまま正面の操兵の側面に回り込み、その落下エネルギーを乗せた太刀の一撃はその哀れな再生機を木端微塵に粉砕した。!!。 「ば……馬鹿な……!。操兵が、宙に飛んだ、だと……!!」 クサナギは着地したエルグラーテをそのままファルラーテに向き直した。 エルグラーテの後ろに回り込んだ敵操兵は、その光景に目を奪われながらも我を取り戻し、そのままエルグラーテに攻撃を加えようとした。が、そこにミオのワークマンデSACが鉄棍で攻撃、その強烈な一撃は敵操兵の操縦系を完全に破壊して、機体はそのまま地に伏した。!!。 目の前で部下の操兵があっさりと破壊されている光景を見たレーデリックは怒りにその身を震わせた。 「おのれ、どこまでも俺の邪魔をするとは……許さんぞ……!!」 そこにモ・エギが先制、とばかりに攻撃を仕掛けてきた!。が、レーデリックは既にその動きを読んでいた。彼はファルラーテに小剣を構えさせると、油断して無防備になっている紅葉武雷に手にした獲物で一気に斬りつけた!!。 「きゃあぁぁぁ……!!」 その小剣の一撃は戦鎧の冑を飛ばし、その強烈な一撃を受けたモ・エギはそのまま地面に倒れ込んだ。威かな御仁といえど、一気に深い傷を負ってしまうと唯ではすまない……。 「モ・エギーッ!!」 クサナギがエルグラーテをモ・エギに近づけようとするが、その前にファルラーテが立ち塞がる。 「これが御仁か……たわいもない。まぁ、嬲り殺しにするには楽しめそうだな……!」 倒れたモ・エギを前に立ちつくすエルグラーテに、残っていた下っぱ操兵が後ろから攻撃しようと長槍を構えた。が、そこにミオがワークマンデの鉄棍で攻撃を仕掛けてきた!。その一撃は機体脇腹部に命中、胴体装甲に亀裂を生じさせた……!!。 「やったなこのアマっ!!」 「やかましいわっ!!」 下っぱ操兵は標的をこの小生意気な迷彩操兵に切り換えた。 「小娘、操手槽から引きずり出して、握りつぶしてやる……そして、ごめんなさいと、言わせてやるぅ〜ぅっ!!」 「……ぶちっ!!」 頭の中で何かが切れる音がしたミオのワークマンデSACの鉄棍と下っぱ操兵の長槍が同時に繰り出される。見た目はともかく性能は互角。勝負の行方は分からない。そして長槍はワークマンデの迷彩塗装が施された増加装甲を粉砕、さらに操縦系に損傷を与え、機動力を低下させる。が、ミオの繰り出した鉄棍の一撃は相手操兵の腰部の骨格に直接打撃を与え、敵操兵をそのまま地面に倒した。!!。 「馬鹿な……俺の槍は確かに貴様を貫いたはずだぁーっ……!!」 敵操手は自分の敗北を信じられず、壊れた機体の操手槽からむなしい叫びをあげていた。 「誰が引きずり出すって!。誰が……!!」 キレた儘のミオはワークマンデで倒れた敵操兵の残骸を蹴り続けた。それに耐え切れず哀れな操手は涙声で叫んだ。 「ごめんなさ〜いぃっ!!」 モ・エギを倒されたクサナギは怒りに満ちた目でファルラーテ、そして操手槽にいるレーデリックを睨つけた。 「一座の公演を邪魔するだけに留まらず、モ・エギをこんな目に合わせるなど……もはや容赦はしないぞ!!」 「ふんっ!次はお前の番だ……!!」 そしてエルグラーテとファルラーテは全く同時に斬り掛かった!。が、ここで機体と操手としての能力差がでた。エルグラーテの装甲はファルラーテの繰り出した小剣の攻撃を完全に弾き返し、逆にエルグラーテの御仁の太刀はその自機の複製機に大打撃を与え、装甲を砕いて筋肉筒を切断した。!!。 「なんだ……その反則じみた装甲は……!。同じ操兵のはずだーっ!!」 「そなたの[擬物]と私のエルグラーテを一緒にするなっ!!」 その時、モ・エギがやっとの思いで立ち上がった。まだ痛みが残るのかモ・エギは肩口を押さえ、「うっ!」とうめき声をあげた。 「モ・エギ……!!」 「まだ、立ち上がるか……しぶとい奴め。あの操兵を倒したら、次は貴様を嬲り殺しにしてやる……!!」 その言葉はクサナギの怒りの火にさらに油を注ぎ込んだ。クサナギは無言のままエルグラーテを前進させる。その怒りの姿にレーデリックは思わず怯み、小剣を構えて防御姿勢を取った。が、ここでクサナギは両肩部の96式輪回機関銃を展開させた。 「そなたには……これで十分だっ!!」 クサナギの叫びとともに、両肩のガトリングが火を吹いた!。その怒濤の銃弾は既に装甲の大部分が失われたファルラーテの全身に浴びせかけられ、機体はボロボロに砕け散った。そして、このグラーテ量産型は完全にその機能を失い、そのまま崩れていった。 ファルラーテが倒れると同時に、間欠泉が勢いよく噴き出した。そして[龍の女神の舞]もいよいよ終焉を迎えた。アリスはこの戦闘の間ずっと、舞い続けていた。その可憐な舞いと鈴の音は観客を魅了し、見ているものはその騒ぎの中誰一人席を立って逃げる者はいなかった。 アリスは舞の仕上げとばかりに間欠泉の噴出に合わせて体に回転を加えて思いっきり宙に跳んだ。そして、今まで練習を重ねてきた三回転半が決まり、手足から伸びた色取り取りの布が渦を巻いたようにアリスの周りを取り巻いた。そして、着地が無事に決まると、堰を切ったように観客からアリスに拍手と声援が贈られた……!!。 アリスはその声援に答えるかのように舞い続けた。その周りでは踊り子達がアリスを祝福するかのようにクルクルと舞う。観客は誰も席を立とうともせず、踊り子達に惜しみない拍手を贈り続けていた。 戦闘が終わると同時にモ・エギはその場に蹲り、肩口を押さえて苦しみの声をあげた。 「く……クサナギ……さん……!!」 「モ・エギーッ!!」 クサナギはエルグラーテを降りるとモ・エギの顔の側に寄った。モ・エギはクサナギが近づいて来たのを確認すると弱々しくその右手を伸ばし、クサナギを掴み上げた。そのまま成すが儘にされたクサナギはモ・エギの顔の側まで来ると優しく声を掛けた。 「モ・エギ……大丈夫か?……どこかまだ痛むのか……?!」 だが、この時クサナギの視界が不意に暗くなった。そして顔中を何か柔らかい感触のものが包み込んだ。それはモ・エギの唇であった。彼女はクサナギの不意をついていきなり接吻をしたのだ……!!。やがてクサナギを開放したモ・エギは、先の表情とは打って変わった悪戯っぽい笑みと人なつっこい大きな萌葱色の瞳を巨大な手の中で困惑している小さな青年に向け、そのまま頬擦りした。 「引っかかったっ!。んふふ……とっくに治っちゃいましたヨこんな傷……」 そうなのだ。御仁であるモ・エギはもともとこのような傷などあっという間に再生してしまうのだ。だが、それはクサナギも知っていたはずである。しかし、この朴念人の青年はやはり心配して駆け寄ってしまうのだ。モ・エギの笑みを見たクサナギは思わず苦笑した。 舞台ではすべての演目を終えたアリス達が、観客の拍手と歓声に答えるようにお辞儀をしていた。それを見たクサナギはモ・エギの手を離れて再びエルグラーテに乗り込んだ。そして今度はクサナギが今の仕返しとばかりにエルグラーテでモ・エギを抱え上げたのだ!!。 「ク……クサナギさん……ちょっと……?!」 クサナギは無言のまま、モ・エギを抱えたエルグラーテをそのまま舞台にいるアリスのほうに向き直した。そしてエルグラーテの右腕を舞台の上で佇むアリスに突き出し、その親指を上に向けて立てた!。それを見たアリスは最高の笑みで答えた。 そんな光景を見ていたミオは、 「あ〜もう、好きにやって……!。もう、知らん知らん……!!」 と、ソッポを向いて、ワークマンデで辺りの後片付けをしていた。 その時、ファルラーテの残骸を押し退けてレーデリックが姿を現し、エルグラーテに向けて悔しげに叫んだ。 「何故だ……俺はお前と同じ機体に乗っていたはずだぞ……?!」 よほどこの機体に思い入れがあったのだろう……。だが、そんなレーデリックにクサナギは冷たく言い放った……!。 「その機体は私の操兵の複製に過ぎない……!!」 レーデリックは今までに味わったことがないほどの悔しさを噛み締め、 「憶えていろ……この俺をコケにした奴は絶対に許さない……!!」 そしてこの哀れな頭目はその場から逃走を計った。が、クサナギは逃走を許さず、ガトリングをレーデリックの前に向けて撃ち鳴らした。が、彼はそのクサナギの牽制をものともせずに走り去ろうとした。が、 「冗談じゃない……ここで逃げられてたまるものですか……!!」 と、モ・エギがレーデリックに向けて走り出し、その戦鎧の長い右腕を伸ばして捕らえようとした。やはりやられたままでは御仁姫の名が廃るのだろう……。そしてレーデリックはその右腕に捕まり、「う、うわぁ……!!」と、情けない悲鳴を残して拘束された。モ・エギはそのままレーデリックをクサナギに向け、「はいっ!。捕まえました!!」と突き出した。それを見たクサナギは、 「往生際の悪い奴だ……さっきの戯言は、檻の中から叫ぶがよい……」 と、呟いた。 「俺がこれで終わる男だと思うなっ!!」 衛士隊に連れて行かれながら叫ぶレーデリックの姿はどことなく情けなく、哀れであった。それを聞いたミオは、 「それっ!。それが聞きたかったんだぁ!!」 と、手をたたいて喜んでいた。 かくして、この町を巻き込んだ一大騒動は一行の勝利とアリスの舞で締めくくられた。この温泉郷を救った一行は見事な舞を披露したアドリアーノ一座、そしてアリスとともに祝いと感謝の宴に招待された。 そして翌日、事件の後片付けがほぼ終わったところで、アドリアーノ一座は次の公演場所に向けて旅立つことになった。その別れ際、アニタとテシウムはこんな申し出をアリスに持ちかけた。 「アリス……あなた、正式にこの一座の一員にならない……?」 「私たちは、君のような踊り子がぜひともほしい……!」 その突然の申し出に、アリスは戸惑い、茫然となった。そんなアリスに構わず、テシウムは言葉を続けた。 「追っ手がいなくなったことで私は堂々と旅を続けられることになった。私は今まで、レーデリックの下で色々な悪事に加担した。こんなことで罪滅ぼしになるとは思えんが、それでも、いや、だからこそ私は、全国を旅して、あちこちの町や村で、私たちの公演で人々に夢と希望を与え続けるんだ……!!」 そしてテシウムはアリスの手を取った。 「その為に、ぜひとも私は君の力を借りたい……!!」 アリスが後ろを見ると、クサナギとモ・エギが無言で、それでいて強く頷いていた。ミオも無言のまま視線を送る。彼女の場合は口を開くと罵詈雑言で送り出してしまうから黙っているだけだが、その視線は明らかに「(チャンスを逃がすんじゃないわよ!!)」と訴えかけていた。そしてアリスは、その期待に答えるように、 「分かりました。私もアニタさんと一緒にこの一座で踊りを学ぼうと思います……!。よろしければ、この一座で働かせて貰えませんか……お願いします……!!」 「もちろんだとも!……私たちからお願いしたんだ。歓迎するよ……!!」 一座の団員達、そして一行はアリスに惜しみない拍手を贈った。 そして新たにアリスを加えたアドリアーノ一座は、次なる公演の場所に向けて新たなる旅に出た。町中の者がそれを見送り、市長なども「来年も頼みますぞ……!」と、熱く手を振った。そしてクサナギ、ミオ、モ・エギもこの小さな仲間とのしばしの別れに、しばらく手を振り続けていた。 一座の馬車の中では、テシウムが早速アリスとアニタ二人を主役に置いた演目の構想に入っていた。そしてアニタも、カムナの中にいるアリスに笑みを浮かべながらこう言った。 「ある意味これからは、ライバル同士ってことね……踊りを競い合える娘が来てくれたことは、私にとってもいい刺激になるし……!!」 そんなアニタにアリスは、カムナの操手槽の中から自分も彼女に向けて笑みを浮かべて答えた。 一座を見送った一行はようやく訪れた平和な日々の続きを満喫しようとしていた。そんな中、モ・エギが急に背伸びしてこんなことを言った。 「ん〜……と、さて、せめて帰る前にもう一回温泉湖に行きましょうか……クサナギさんとミオさんも一緒に行きましょう……」 それに対してミオは、 「で……でも、アタシ壊しちゃったワークマンデの修理もあるし……」 と、損傷した自機を見上げて言うが、モ・エギはそれに構わずミオを掴み上げ、クサナギ共々温泉湖に連れて行った。 「まあまあ、昨日いっぱい汗かいて、しかも後片付けで時間もなかったし、修理は落ち着いてからゆっくりすればいいじゃないですか……」 そんなモ・エギの言葉にミオはポリポリと頭を掻いた。彼女としては内心ではクサナギとモ・エギに遠慮して言ったつもりだったのだが、モ・エギはモ・エギで、第三者としてのミオに自分のいまだ昂ったままの感情の抑え役になってもらいたかったのだ。 モ・エギは昨日の衝動的とも言えるクサナギとの口づけを思い出しながら心の中で呟いた。 「(……今のままじゃ、クサナギさんに何をしてしまうか分からない……)」 そんな感情を隠すかのように、モ・エギは手の中のクサナギとミオに向けて優しく微笑みかけていた。 |