キャンペーン・リプレイ

第 二十九話 「 手 の ひ ら の 上 の 来 訪 者 」 平成12年8月20日(日)

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 その後一行と静夜、ウラノは、茶などを嗜みながらいろいろな話題の話に興じていた。まさに平和な一時だった。外にはどこかの隊商の用心棒でもしていた操兵が歩いている。別に特別な事ではなく、ライバでは当たり前の光景だった。が……
「でも、この駆動音からすると、やけにボロッちい操兵だなー」
 そう、このアルキュイルの改造型と思われる操兵の音は当たり前のものではなかった。やたらとゆっくりな歩行速度、関節の軋み音、そして時折聞こえる何か重い部品が脱落する音……脱落?ミオが慌てて外に出てみると、そこには一機の大破した操兵が表通りを今にも倒れそうにヨタヨタと歩いているのが見えた。
 いや、それは大破、というよりは既にスクラップといったほうが早かった。壊れた右腕部を自分で抱えてやっとの思いで歩いていたその機体は、修理工場のある工房街に向かって必死に歩いていた。そのあとには、おそらく脱落した部品と思われる物が大量に落ちていた。操兵が途中膝を崩してその場に倒れそうになる度に、街の人々は辺りから逃げ出した。が、操手は機体が倒れそうになるのを必死で阻止していた。
「いったい、どうすればあのような壊れ方をするのだ……」
 クサナギが呆れたように呟く。
「〜まるで[ぞんび]ですねぇ〜」
 アファエルもその姿に思わず言葉を洩らした。
 そんな光景を目の当たりにしたミオはすぐさまジュウコーの工房に向かおうとした。が、それに対して当のジュウコー本人は、工房から出る事もなく音だけを聞きつつ落ち着き払って、
「……あと五秒、だな……三……ニ……一……」
 と、呟いた。そしてその[予言]通り操兵はきっかり五秒後、一軒の店にもたれかかるように崩れ、その場に倒れた。
「わぁっ!俺の店がぁ……!!」
 嘆く店員をよそにミオ、静夜は倒れた機体によじ登った。そして操手槽をこじ開けて操手を引っ張り出そうとした。が、中から「ハッチが開かないよぉ」と、情けない声が聞こえてくる。どうやら、完全に中に閉じ込められたようだ。
 クサナギは大急ぎでエルグラーテを取りに行き、ミオは必死になって操手槽のヒンジと格闘していた。その時、
「どうしたんですか?……今、ものすごい音がしたんですけども」
 と、モ・エギが話しかけてきた。それを見たミオがぱっと顔を輝かせた。
「あーちょうどいいや。モ・エギ、このハッチこじ開けて!それから、静夜さんはすぐに操手を外に出して手当を……」
 だがミオの声を尻目に、静夜はモ・エギを見上げて言葉を失っていた。そう、彼女は[御仁]を初めて見たのだ。クサナギの[御仁姫の婿]というのも、[御仁のようにおっかない女を嫁にしている]の例えだと彼女は思っていたのだ。
 振り返ったミオが見たものは、モ・エギを見てその衝撃に耐えられずに気絶していく静夜の姿だった。モ・エギが慌ててその手で受け止め、顔に寄せて指でツンツンとつっついて「大丈夫ですか?」と声をかける。それに反応して静夜は目を覚ますが、目の前の巨大な萌葱色の瞳を見て再び気を失った。その光景にモ・エギは泣きそうな声で、
「この人、[虚弱体質]ですかぁ?」
 と、呟く。それを見たミオはため息をつき、
「これが[普通の反応]じゃないのかな?」
 と返した。その後モ・エギの手を借りて操手槽をこじ開け、
「やっと出られたけど……はうっ!」
 と、モ・エギを見て気を失った操手を引きずり出した。
 そんな中、ようやく気を取り直した静夜がモ・エギに話しかけた。
「……あなたがクサナギ様の[お嫁様]ですねー……?」
「え……あの……わ、私まだ結婚してはいないんですけども?」
 顔を赤らめながら慌てふためくモ・エギに静夜は、何やら意味ありげな表情でこんな事を言った。
「……結婚はきちんとしておいたいいですよ……でないと、静夜みたいに旦那様がどこかに行ってしまって、探さなければいけなくなりますよー……」
 まさに実体験に基づいた一言であった。その時。
「そなた、夫に逃げられたのか?」
 と、一人の金髪で背の高い女性が話しかけてきた。ルシャーナだった。彼女も今の操兵が倒れた現場を物好きにも見物に来たのだ。
「それにしても、酷い有様だな……」
「……えーと、この操兵はもともとこのような形をしているのではないのですかー?」
 静夜のトンチンカンな質問に、ルシャーナは一瞬言葉に詰まった。
「……操兵ってこんなものだと思っていましたー。おーきくって、動く案山子ー……」
 あんまりな言葉にミオ、ルシャーナ、そして戻ってきたクサナギは茫然となってしまい、周りにいた他の操兵乗りも「あんまりだぁっ!!」と、嘆いていた。
 その後クサナギ、ミオはその操兵の残骸を詳しく観察した。が、それは見れば見るほど不可思議なものであった。機体のあちこちに残る無数の弾痕、砕けた装甲に残る焦げあとは明らかに重火器やロケット、果てはカノン砲によるものと思われる弾跡まで……これはまるで戦争にでも行ってきたような感じだった。
 それでも操手は頑丈な操手槽に守られていたため、命に別状はなかった。が、静夜とモ・エギの治療でも、骨折、打撲までは完全に治癒する事はできなかった。
「……あとはちゃんとしたお医者様の所で治療を受けてくださいなー……」
 一方、クサナギがより詳しく機体の損傷を観察すると、どうやら最後のとどめには鉄斬爪が使用されたという事がわかった。だが、それはあくまで本当に最後の止めだけのようだ。
「それにしても、この操兵はいったいどういう相手と戦ったのだ?!」
 クサナギはこの機体に残された弾痕に興味を持った。それは大きさからして明らかに対操兵用の弾丸なのだが、それにしては命中数が多すぎるのだ。そう、これではまるでガトリングの乱れ撃ち……
「だが……ガトリングならともかく、ロケットやカノン砲など、そんなものを持っている野盗などいるのか?!」
 クサナギの疑問はもっともだ。このガトリングも十分な疑問なのだが、ロケット砲と2〜3リット砲と思われるものは決して野盗が持つような物ではない。確かに時折傭兵崩れがロケットを用いる場合もあるが、ここまで豪快に使用するには(費用などの面で)かなりの覚悟がいる筈である。まして、儲けのたいしてない日雇い風情が使用するなど考えられないのだ。何とか工房までは動くようにと、この操兵を応急修理していたミオもその破損箇所を見て呆れ返っていた。
 そのころ、静夜とモ・エギの治療でようやく意識を取り戻したものの、モ・エギを見るたびに気絶を繰り返していた操手がようやく落ち着き、自分の身の上に起こった出来事を話して聞かせた。
「……偉い目にあったよ……もしこれが操兵同士の野試合の結果だって言ったら、信じてもらえるか……?」
 それを聞いたクサナギとミオ、アファエルと静夜は目を丸くした。何故、野試合などで大砲だのロケットだのが出てきたのか。
「どういう事だ……これはまるで戦争にでも行ってきたようではないか?!」
「あぁ、戦った俺も戦争をしてきたような気分だ。その赤い操兵はガキの声で[君は強いのか?]と聞いてきた。俺も当然操兵乗りとしての誇りがあるから、[あぁ、強いさ!]って答えたんだ。そしたら、いきなりこの様だ……!!」
 静夜はこの時、[ガキの声と赤い操兵]という言葉で何かを思い出しかけた。が、この場では何も思い出す事はなかった。そしてクサナギも、[ガキの声]に思い当たる事があった。が、あの時会った[少年]が乗っていたのは[黒い操兵]であった事から、別人だろう、と考えた。
 そしてこの操手はもう一つ、気になる事を言った。
「……あと、爆煙でよくは見えなかったが、あの操兵、格闘を仕掛けてきた時と砲撃を仕掛けてきた時では[形状が違った]ような気がしたんだが……」
 クサナギは全く相手の姿が想像できなかった。
「全くあいつの武器は何なんだ……ロケットなら操兵にも搭載できるが、問題はあの、まるでガトリングみたいな武器だな……」
 それを聞いた静夜が側にいたアファエルに、
「……アファエル様、ガトリングって、何ですかー……?」
 と訪ねた。アファエルは、
「〜さぁ〜私はわかりませんがぁ〜?」
 やはりアファエルに銃の事を聞いてもわからないようだ。
 そんな会話の最中、ルシャーナがその機体の弾痕を見て不意にこんな事を漏らした。
「これは……まさか[マシンキャノン]?!」
 その言葉にアファエルが反応した。
「〜[マシンキャノン]って何ですかぁ〜?」
「私の帝国で現在研究の大型機関銃だ。従来のガトリングよりもさらに破壊力を高めるために開発した物だが……」
「要するに、連続して射撃ができる銃の事だ」
 機関銃という物が理解できなかったアファエルと静夜にクサナギが説明を加えた。そしてルシャーナに、
「またそなたの国の実験か?!」
 と訪ねた。
「……それはあり得ん。私とて今でこそこうやって遊び歩い……任務についている身だが、仮にも軍上層部の人間だ。このような場所で実験をするのならば、私にも一言あっても良い筈だ。それに、最新鋭とはいえ、機関銃如きの実験をわざわざこのような場所まで来て行うとは考えにくい……」
 そこに静夜が割り込んできた。
「……[婿様]、こちらの方はどちらの方なのでしょうー……?」
 クサナギは「婿様ではない!」と反論しながらも、静夜にルシャーナを紹介した。今の言葉を聞いたルシャーナはクサナギに笑いかけた。
「そなた、[婿]になったのか?私は[嫁を貰った]と聞いていたのだが?」
 そして再び静夜はルシャーナに向き直り、「水守静夜と申しますー」と名乗った。それに対してルシャーナも、トランバキアの流れの戦士だと名乗った。
「……でも、あなたは[軍隊では偉い方]なのでしょうー?」
 どうやら彼女は[ぽわわん]としているようで、聞く事はしっかりと聞いているようだ。それを聞いたルシャーナは、「そのようだな……」と、まるで他人事のように受け流した。
「……静夜は羅・諸国の国から来ましたー。つきましては、いずれ医術の勉強をしたいと思いますので、そちらの国に留学に行きたいのですがー……?」
「喜んで歓迎しよう。私としてもそなたの国の医術に興味もある。そなたの国の医術はわが帝国とは違った発展をしているそうだな。我々としてもぜひとも参考にしたいものだ」
「〜あのぉ〜私の森にも独特の医術があるのですがぁ〜」
 アファエルの言葉にルシャーナは笑顔で答えた。
「私の国にはそなた達のような妖精族はいないらしい。ぜひとも後でゆっくりと話をしたいものだ」
 その時、ルシャーナの側にムワトロがやって来た。
「殿下……どうやらこの弾痕は、うちの工廠で研究しているマシンキャノンじゃないみたいですぜ」
「それでは、このようなマシンキャノンとやらを製作できる者がほかにいると……?!」
 クサナギの問いにルシャーナは、
「おそらく、工房都市なら可能であろうな……」
 と、呟いた。
 その後、静夜の「その口髭さんは誰ですかー?」とか、アファエルの「番頭って何ですかぁ?」とか、二人の会話に振り回されながら時は過ぎた。
 そんな中、その操兵の操手が最後にこんな事を言った。
「そういえば、あの赤い操兵には仲間がいるようだな……近くに馬車がいたから、おそらくはそいつもどっかの隊商の用心棒だったんだろうか……?」
 結局、ここで立ち話しても何だし、とクサナギとミオはとりあえず操兵をジュウコーの工房に運び入れる事にし、アファエルと静夜もルヴィの手掛かり捜しと静夜の医師匠合での手続きを済ませてしまう事にした。
「アファエル、静夜さんをナバールのおっさんのところに連れてってよ。そのルヴィさんが吟遊詩人なら、何か知っているかもしれないから」
「〜わかりましたぁ〜」
「じゃ、頑張って連れてってねー!」
 ミオはそう言って、操兵を運ぼうとしているエルグラーテとともにジュウコーの工房に戻ろうとした。その時、静夜がミオを呼び止めた。
「……ミオ様、あの、できれば宿を取っておいてもらいたいのですがー……」
 静夜を見て、何か騒動の元になりそうだな、と思っていたミオだったが、それでも何故か断れないでミオは承諾した。そして宿に届けておこうと静夜の背の荷物を受け取った。ところが、ミオはそれが異様に重い事に驚いた。
「……人は見かけによらないなぁ……」
 ミオはそう考えながらも、とりあえずエルグラーテを追いかけて工房に向かった。
 アファエルは静夜を連れてナバール一座を訪れた。入口をくぐると、いつもの通り道化のナバールが窓口で事務処理をしていた。アファエルに気付いたナバールは笑顔で彼女を迎え入れた。そして妙に[ぽわわん]としている静夜を見て話しかけてきた。
「おや、あんたアファエルの親戚かい?耳は尖ってないみたいだけど……」
「〜私に親戚はいませんけどもぉ〜この人が何でも斡旋してほしいというか〜?」
 その言葉に静夜はすぐに突っ込みを入れた。
「静夜、芸なんてしたことありませんよー!」
「〜ほら、突っ込みは早いですよぉ〜へろへろ〜」
 この二人の光景を見たナバールは思わず「使える……!」と呟いた。
 そんなやり取りの後、静夜はナバールに早速ルヴィについて訪ねてみた。が、ナバールが街に来ている吟遊詩人の帳簿をひっくり返すように調べても、ついにその名は出てこなかった。
「……おかしいですねー……二月ほど前にこの街に来ているという話を聞いたんですけども……」
「ひょっとして、それは本名じゃないんじゃないか?」
 ナバールのその問いにそれでも静夜は「ルヴィですー!」と言い張る。
「……すごくかっこいいんですー……」
 静夜のその言葉にナバールは次に[美形]で売っている芸人を当たってみた。が、[闇と自由の法]団以外の芸人の名前は見当たらなかった。
「ま、奴等はついにショバ代を払わなかったがな……」
 どうやらナバールは今でも彼ら[美少年宣教師]を芸人集団だと思っているようだ。
「……それにしても、こんな美人の奥さんを置いて逃げちまうなんざ、ひどい旦那だねぇ」
 詳しい事情を聞いたナバールは腕組みをしながら唸った。が、美人といわれた静夜はそれについては実感が無いようだ。
「……アファエル様、静夜って美人なんでしょうかー……?」
 質問を投げかけられたアファエルは少し考え込んで、
「〜う〜ん、そうかもしれませんねぇ〜」
 と答える。すると静夜はアファエルの顔を見てこう言った。
「……でも、静夜よりもアファエル様のほうがお奇麗ですよぉ……」
「私は違いますよぉ。森の中では[普通]の方でしたから〜」
 そんな二人の会話を聞いていたナバールが呟いた。
「……今度この二人組で芸でもしないかな?」
「でも、この会話には、[毒]がありませんかねぇ?」
 部下の言葉にナバールは「今はちょっと[毒]があったくらいが流行なんだ」とうそぶく。
「欲を言えば、さっきの[突っ込みがもっと頻繁に出ればいいところなんだが……」
 結局ここではルヴィの手掛かりは(当然ではあるが)何一つ得られず、静夜はナバールに医師匠合の場所を訪ね、そこに向かうためにアファエルとともに一座の建物をあとにした。その後、目的地に向かう際にまたも静夜がトンチンカンな方向に向かい、アファエルを困らせた事は言うまでもない。
 一方ミオは、工房に戻る前に竜の牙亭に立ち寄り、静夜の荷物を主人に預けて彼女のための部屋を確保した。特に満室でもなかったため軽く承諾した主人に、ルヴィの事について訪ねてみるミオだった。宿の主人なら結構顔が広い、と考えたのだが、主人は「知らないなぁ……」とそっけなく答えた。
「なんか旦那さんらしくて、捜しているみたいだから、見つけたら声掛けてやってよ」
「あぁ、わかった。他の宿も当たってみるよ」
 ……まぁ、このくらいの親切をしてもバチは当たらないよなぁ……そう思いつつミオは再びジュウコーの工房に戻っていった。
 ミオが工房に戻ってみると、ちょうどエルグラーテが先の操兵(の残骸)を工房に運び込もうとしているところだった。側ではその操手が医者に行かずに自機を心配そうに見ていた。 が、ジュウコーはその操兵に一瞥をくれると、
「そのスクラップはバラして、部品を選り分けとけ……!」
 と叫んだ。それを聞いた操手はがっくりと肩を落とし、機体をジュウコーに売り払う事を決め、自分の治療と次なる機体を捜して新たな旅に発った。[顔]だけになった[相棒]とともに。
 あとに残されたのは、もはや残骸と化した無残な操兵だけであった。
「クサナギ!男手いるんだから手伝ってよ……!!」
「わかった」
 ミオとクサナギは持ち帰った機体をとりあえず解体してみる事にし、早速作業に入った。その時、操手槽周りの装甲を外しに掛かったミオは、その隙間から何か光るものが飛び出していったのを目撃した。そう、何か小さなものが光の粉を撒きながら。
「あれ……何だろ?」
 ミオはクサナギに今の光を見たかどうかを訪ねようとした。が、彼はマシンキャノンの弾痕付近を調べている途中で、他を見ている余裕などないようだ。そして程なくしてクサナギは一発の銃弾を見つけた。それは確かに対操兵用長銃専用の0.3リット弾だった。
「何か見たのか?私は何も見なかったが……」
 それを聞いたミオは先の事は気のせいである、と片付け、再び作業に没頭した。
 一方、ナバール一座を後にしたアファエルは、またも道に迷った静夜を連れてようやくの思いで渡世人斡旋所に辿り着く事ができた。そして、静夜の旅医者としての紹介状発行の手続きを終えた時、一人の男が仕事依頼の手続きをしているのを見かけた。その紫のおかっぱ頭の、どこかゴキブリを思わせる外套を身に着けた男は係員に「腕の立つ者はいませんか?」と訪ねていた。どうやら、彼の仕事は[荒事]のようだ。
「〜あのぉ〜どのような仕事なんでしょうかぁ〜?」
 アファエルと静夜が話しかけると男はにこやかな(そして怪しい)笑みを浮かべて返事をした。
「それは……[正義のための戦い]です!!」
 それを聞いた静夜は胡散臭そうに男を見、そしてアファエルにこう訪ねた。
「……アファエル様……[正義]とは何でしょうかー……?」
「〜[自分に都合の悪い者を力で排除]する者の事です〜」
 いったいこの二人は[正義]に対してどんな感情を持っているのだろうか……もっとも、このような男の言う[正義]には、どこか怪しげな響きが込められているので、二人の言い分も確かなのだが。
 とにかく、このような男に構ってはいられない二人はさっさと斡旋所を後にしようとした。そして食い下がる男に、
「……そのようなお仕事でしたら、クサナギさんという方のほうが受けてくれますよぉ……」
 と、クサナギに押しつける形でその場を誤魔化した。
 そのころ、弾丸を見つけた当のクサナギはそれを見てやはり不思議に思った。通常対操兵銃では戦闘用装甲操兵の装甲を完全に貫通する事は難しく、関節の隙間など装甲の薄い部分を狙って撃ち込まれるのが普通だ。だが、この弾丸は明らかに装甲を貫いていた。そしてそれでいて弾は特に特殊な物ではなさそうだ。おそらく、通常の物より強い火薬を使用しているか、銃そのものに何かしらの改良が施されているのだろう。
 そしてもう一つ、この弾痕の付き方、そして貫き方から推測すると、この機体の受けた弾丸は明らかに機関銃から発射されたものである事が判明した。どうやらルシャーナの言う通り、この操兵はマシンキャノンによる攻撃を受けたのであろう。
「銃の弾を調べれば何かわかるかもしれないか……?」
 そう考えたクサナギは、早速タフルの部品屋に赴くために出かけようとした。
 その時、ジュウコーが工房の奥の母屋から血相を変えて飛び出し、ミオとクサナギを呼びつけ、こんな事を口走った。
「……お前等……儂の大事にしていた茶菓子の焼き菓子をどうした?!」
「……は……?」
 ジュウコーの話によると、彼が大事に取っておいたお気に入りの焼き菓子が、ちゃんと閉めておいた戸棚の中から消えていたというのだ。もちろん、二人はそんなものがあったなどとは知る由もなかったので、無論知らない、と答えた。だが、ジュウコーはそれでも引き下がらなかった。 仕方なくミオは自らの疑いを晴らすために母屋の台所の捜索を始めた。それを見たクサナギはこの場をミオに任せて自分は早速タフルの部品屋に向かった。
 タフルの部品屋に着いたクサナギは、いつもゴーグルを身に着けている店の主人タフルにガトリングの弾は無いか、と訪ねた。もちろん、エルグラーテの肩部の96式輪転機関銃のものだ。そして程なくして二百発分が詰まった木箱を抱えて出てきたタフルにクサナギは、持参した先ほどの弾丸を見せてその出所を聞いてみた。
「……こりゃぁ、普通の対操兵用長銃用の弾丸だ。この手のものを扱っている工房なら、たいていのところが作っているやつで、特別な物じゃないな……」
 刻印を見たタフルの答えを聞いたクサナギは、先の操兵の話、そしてそれを見た自分の推測を話して聞かせた。それを聞いたタフルは腕組みをして考え込んだ。
「おそらくそりゃあ、どっかの工房が非公式に自分の作った新兵器を試験しているんじゃないか?たまにいるらしいぞ、試験場の模擬戦じゃ良い結果が得られないんで、辻斬りや山賊なんかに見せかけて新兵器の試験しているひどい技師が……」
 おそらくそうだろうな、と相槌を打ったクサナギは、タフルに礼を言い、重い木箱を抱えて店を後にした。
 他にする事のなかったクサナギがジュウコーの工房に戻ろうとすると、その途中でやはり工房に向かっているアファエルと静夜に出会った。二人は静夜の医師匠合(有料、銀貨五十枚)での手続きの後、竜の牙亭で茶などを飲んで寛いでいたが、クサナギとミオが一向に戻らないので、こっちから出向いてきたという事だ。
 静夜はクサナギの担いでいる木箱に興味を持ったのか、おもむろに話しかけてきた。
「……とても重そうですね……一つ持ちましょうかー……?」
「いや……これはそなたが持つような物ではない……」
 この言葉にもやはり二つの意味があった。一つは、このようなガトリングの弾丸など、戦いに縁の無い者(少なくともクサナギはそう思っている)が持つような物ではない、というもの。そしてもう一つは、やはりこの[ぽやぽや]としている女性に持たせるには危険すぎる物である、という事だ。
 そんなこんなで三人がジュウコーの工房に戻ってくると、そこではまだ、ミオが台所の捜索を続けていた。それを見て、事情を聞いたアファエルと静夜も捜索に加わる。だが、台所からはネズミ一匹出てきた跡も見られなかった。
 捜索は台所からつながっている居間へと移った。その時、ミオは敷布を閉まっていた筈の戸棚の戸が半開きになっている事に気付いた。確か、ここは朝掃除した時にちゃんと閉めておいた筈であった。そして、耳を澄ませてみると、その中から何か小さなものが焼き菓子を齧る音が聞こえてくるではないか。
 それを聞いた静夜はおもむろにその戸を閉めた。相手が小動物なら、こうする事によって混乱をきたして暴れるであろうと踏んだからだ。だが、予想に反してその[何か]は一瞬敷布に潜り込むような音を立てただけでそれ以上の動きを見せようとしなかった。あるいは、この戸棚の中にその[何か]が通り抜けられるような抜け道でもあったのだろうか。
 ミオと静夜は戸を開けて敷布をひっばり出してみた。が、その中にはネズミが通り抜けられるような隙間は存在しなかった。
 一方、アファエルとクサナギは出された敷布の方に注目していた。もしかしたら、こちらの方に紛れているかもしれないと考えたからだ。そして程なくしてアファエルは、その中で何か小さなものが動いているのを見つけた。彼女はとっさに[それ]を捕まえ、敷布を丸めて閉じ込めた。その途端。
「わぁっ、離せぇっ!!」
 と、その敷布の中から明らかに女の子と思われる小さな声が聞こえてきた。アファエルがゆっくりとその敷布を開けると、中から一人の少女が食べかけの焼き菓子を抱えたまま姿を現した。
 それを見たクサナギ、ミオ、そして静夜は言葉を失った。驚くべき事に、その少女の身長は約七リットほどしかなく、しかも、その背にまるで蜻蛉のような羽を生やしていたのだ。
 少女は周りを見渡し、もはや逃げ場が無い事を悟った。そしてその場に居直った。
「もう煮るなり焼くなり好きにしろーっ!!」
 クサナギ、ミオ、静夜はどうしたらよいかわからなかった。今までモ・エギ、ス・アキ、コガネ様で大きなものに馴れていたものの、逆に小さなものは初めてだった。よって、どう対処したらよいか見当もつかないのだ。
 だが、その中でアファエルだけは落ち着き払ってこう言った。
「〜まぁ〜[ふぇありー]ですかぁ〜懐かしいですねぇ〜」
 その言葉を聞き、アファエルの耳を見たその小さな少女は急に笑顔になった。
「ひょっとして[えるふ]?……よかった……やっと、同族に逢えたぁ!!」
 少女は羽を広げてアファエルに飛びついた。その際にこぼれた光の鱗粉を見たミオは、これが先ほど自分が見たものの正体である事に気付いた。
 少女が落ち着くまでの間にアファエルが彼女の正体について説明した。この少女はアファエル達妖精族とは親戚に当たる存在の[フェアリー(こちらの世界では小妖精と呼んだ方がよいか?)]と呼ばれる種族で、やはり[剣の世界]の住人という事だそうだ。
 では、そんな小妖精がなぜ、このような所にいるのだろうか。それについては少女が説明してくれた。
 彼女の名前はマリンといった。マリンの一族は樹界から程よく離れた森にあり、そこで[長]を中心にして静かに暮らしているという。そんなある日、マリンが[結界]から飛び出し、外の世界を探索していた時、[悪い人間]に捕まってしまったというのだ。その人間はマリンに、集落の場所をしゃべらせようとした。が、彼女はそれだけは頑なに拒んだ。
 その後しばらくマリンは、小さな檻に入れられて彼らに連れられていたが、隙を見て逃げ出した。そして側に来ていた[大きな鉄人形]の中に隠れてやり過ごそうとしたものの、その後で強烈な衝撃がマリンを襲い、それからの事はよく覚えていないという。
 クサナギはそれがおそらくはロケットとマシンキャノンによる攻撃だろうと考えた。つまり、マリンが逃げた先がたまたま戦いを挑まれた渡世人の操兵で、その直後に[赤い操兵]からの攻撃を受けたのだろう。
 だが、話はここで終わってはいなかった。マリンが逃げ出す際にとんでもない事を聞いたのだ。何と連中は、なんらかの方法でその集落の場所を探り当て、襲撃する計画を立てているというのだ。このままではマリンの故郷は闇商人達に蹂躙されてしまう。
「でも、私一人じゃどうしようもないし……相手は[鉄の巨人]連れてるし……私、どうしたらいいの?!」
 アファエルは、嘆いているマリンにこう言った。
「〜大丈夫ですよぉ〜私たちがいますから。[鉄の巨人]はクサナギさんがやっつけてくれるし〜」
 それを聞いたクサナギはマリンの悲しむ顔を見て呟いた。
「このような小さきもの達を狙うとは、なんて奴等だ。私は絶対に許さない!!」
「……やれやれ……またタダ働き、か……」
 ミオの嘆きを他所にクサナギは一人、決意を新たにしていた。
 その時、
「どうだ。[犯人]は見つかったか!!」
 と、ジュウコーの怒鳴り声が聞こえてきた。ここで一行はどうしたらよいか迷った。果たして、茶菓子を取られて怒り狂っているこの親方の前にこの小さな少女を出すべきか。
 だが、事は意外な方向に動いた。マリンを見たジュウコーは今までの怒りを忘れて彼女の姿に茫然となったのだ。そして茶菓子の事など頭からなくなったように、
「……どうやら疲れているようだ……儂、もう寝るわ」
 と言って、その場を去った。
(そのまま寝ていて……アタシの[幸せ]のために……)
 ミオはジュウコーの後ろ姿を見て、心の中で呟いた。
 とりあえずここでは話しづらい一行は、竜の牙亭に場所を変える事にした。その際アファエルは、クサナギに渡世人斡旋所に行く事を勧めた。
「〜なんでも〜[正義の戦い]だそうですよぉ〜」
 それを聞いたクサナギは、如何わしいようなものを見たような口調で、
「自分から[正義]を名乗る者に碌なものはいない!」
 と、呟いた。そう、クサナギは今まで、王朝結社だのリダーヤ聖騎士だのと言った自称[正義のための戦い]と名乗るもの達と出会い、戦ってきていた。それゆえに、このように[正義の戦い]を自分から[詐称]する輩を信用する事ができないのだ。それに、今はマリンの故郷を魔手から守らねばならない。このような如何わしいことに構っている暇など無いのだ。
 それでも、アファエルはその依頼が気になるのか、クサナギに斡旋所に行く事をしつこく勧めた。根負けしたクサナギはとりあえず行くだけでも行ってみようと思い、一行と別れて斡旋所に向かった。