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出発してからしばらくして、静夜がゼリスに話しかけた。 「……あのー[ゴキブリ]様……」 「……ゴキブリって、私の事ですか……?」 [ゴキブリ]という言葉に一瞬むっとしたゼリスだが、それでもすぐに笑みを浮かべて静夜に振り返る。 「……はいー。後ろ姿がゴキブリそっくりだってみんな言っていましたからー。ところで[ゴキブリ様]はどうして小妖精様達の事を知ったのでしょうかー……?」 マントをゴキブリ呼ばわりされたゼリスは「お気に入りだったのに」と落ち込みながらも、 「まぁ、ある事件をきっかけに知り合ったんですよ。それについては、今話すと長くなりますし」 と、どこか要領を得ない答えを返し、そのまま考え込むように黙ってしまった。するとミオが、 「まぁ、その事については野営の時にでもゆっくりと……」 と、怪しい笑みを浮かべて先へ促した。 その日はこれ以後何事も起きずに夜を迎えた。そして食事をしながら一行は、ゼリスの話を聞いていた。 「かれこれ数年前……私は他の地で妖精族の集落に助けられた事があり、それによって彼らの存在を知ったのです。その村の場所は彼らとの約束で話す事はできません」 そこで静夜の突っ込みが入る。 「……どのくらい前なんですかー……具体的に何才くらいなんでしょー……?」 「いやぁ……年齢に関しては、言いたくないし……」 どこか要領を得ない返事の後ゼリスは、とりあえず話を続けた。それによると彼は、この度の襲撃計画を旅の途中で偶然知ったのだという。 「ある日私が野営をしていた時、近くでやはり野営をしている集団を見つけたのです。一人旅の私は御一緒させていただこうと思って近づいてみると……」 ここから先はゼリスの話を元に構成してみよう。集団に近づいたゼリスはその後、このような会話を聞いてしまった。 「妖精族の村の場所がわかりましたぜ」 「ようやく見つけたか……あの小さいもの達をたくさん捕まえて売り飛ばせば、俺達は大金持ちだ!!」 「ここからあと数日も進めばその場所に辿り着く。そうすれば、捕まえ放題だ!。げひっげひっげひひひひ!!」 男達はそう言って笑い転げた。木陰からそれを聞いていたゼリスは戦慄を覚えた。 「これは大変だ!何とか手を打たないと……!!」 その後ゼリスは、連中に見つからないようにその場を離れ、大急ぎでこの事を阻止すべく行動を開始した。目指すならばここから程近く、かつ大きな街。そこにはおそらく、自分に力を貸してくれるであろう勇士がいる筈だから。 「……と、いうわけで私は、ライバの街に来たというわけです」 ゼリスの話はここでようやく終わった。その間クサナギ、ミオはとりあえず黙って話を聞いていた。そしてアファエルと静夜はそれぞれに質問(突っ込み)を入れた。 「〜あのぉ、あなたが以前知ったという村は何という村なのでしょうかぁ〜?」 「そ……それについては、彼らとの約束でお教えできません」 「……そうですかー……恩返しという事でしたら、あなたがその見返りに[何かを受け取る]という事はないんですよねー……?」 「ま……まさかこの私がそのようなものを……私は善意で彼らを助けたいだけですよ……!」 二人の突っ込みにゼリスは冷汗をかきながらも、その笑みを崩さずに二人の質問に答えていた。そこに今度は今まで黙っていたミオが入ってきた。彼女はゼリスに、敵の主力と推定される[赤い操兵]について聞いてきた。 「そうですね……[彼]が話していた事といえば、[君は強いのか?]とか、そんな事ばっかりでしたね」 その言葉にクサナギは閃くものがあった。確か、あのような言葉を使う者といえば、以前レクサの街でクサナギと戦った黒い操兵[ディノガウラ]の操手クロウ少年だけであった。ひょっとすると彼が再び自分の前に現れたというのか。 だが、ミオはそれには疑問をもった。自分は事の顛末は話で聞いただけだが、確かディノガウラはクサナギが完全に破壊した筈だ。しかもそれはライバの街に運ばれた際、筋肉筒が完全に[壊死]しているので部品を取り戻したとしても復元は不可能だ。さらに今までの情報によると今度の機体は得体の知れない兵器を搭載しているともいう。果たしてクロウはいったいどうやってこの[赤い操兵]を手に入れたというのだろうか。 とりあえずミオはこれ以上のゼリスへの質問を諦めた。今までの様子からしてここでつっついてボロを出させるのは簡単そうではあるが、今はまだその時ではない、と考えたのだ。とりあえず一行は、次の日に備えて今夜は休む事にした。が。 「……それではそろそろ眠る支度を始めますねー……」 その言葉と同時に静夜がおもむろにお気に入りの寝間着に着替え始めた。それを見たクサナギ、ミオ、モ・エギ、そして意外にもゼリスが慌てふためいた。が、もともと[のほほん]としているアファエル、そして当の静夜本人は特に気にもしていなかった。 「……見ても大したものじゃないからいいですよー……第一、もう子供がいるのですから、おばさんなんですよー……」 それを聞いたモ・エギは心の中で(あなたがおばさんならクサナギさんはおじさんになっちゃうじゃない……)と呟きながらも両腕で静夜の体を男二人に見せないように隠した。もっともクサナギは慌てながらも最初から後ろを向いてはいたが。 そんなモ・エギを見たゼリスは、 「そういえば、そちらの方は[操兵から降りてきません]ねぇ」 と、モ・エギに向かって言った。それを聞いた静夜は「あまり顔を見せたがらないんですよ」と助け船を入れる。それに対してゼリスは、 「恥ずかしがり屋なんですか……操兵乗りにもいろいろな人がいるんですね」 と、一人で納得していた。 その深夜。ゼリスがすっかり寝入ったのを見計らってアファエルはマリンを外に出した。今までずっと背嚢の中に隠れていたマリンはようやく出してもらえた事から、おもいっきり背伸びをした。 そんな中、モ・エギはクサナギに再びこんな事を言った。 「それにしても、やっぱりこのゼリスという人、人間じゃないような感じがするんです。以前南の妖精族の村で見たあの[グ、何とか]とか[ザ、何とか]とか……」 「〜[グルネル]と[ザルバード]ですねぇ〜」 アファエルがここで訂正を入れた。 「……あの、[でいもん]とか[マ族]とかいう奴等か!!」 クサナギのその[変な]言い回しにアファエルは苦笑した。 「そう、その[でもーん]と同じ感じ何ですよこの人!」 どうやらモ・エギも[変な]覚え方をしてしまったようだ。そんな二人をよそにアファエルとマリンはすっかり眠っている(様に見える)ゼリスを見た。だが、その様子からでは彼の正体は皆目見当がつかなかった。腰に拳銃を下げているが、もし魔族だとしたら、彼はこの世界についてそれなりに勉強したのだろう。 「〜せめて[魔法の力]が使えればわかるのでしょうがぁ〜」 アファエルはこの世界に来た時に失われた自らの[魔法]を思い出していた。それさえあればゼリスの正体を看破するなどたやすいだろうに、と。だが、それは魔族も同じ筈である。以前クサナギ達と戦った魔族も[魔法の力]そのものは振るってはこなかったのだから。そう、条件は五分なのだ。片や魔法に代わる[道具]を駆使できる妖精族に対し、彼ら魔族はいまだに強大な生命力を維持しているのだ。 結局のところ、今の段階ではゼリスの正体はまだわからない。とりあえずクサナギとモ・エギはアファエルとミオに見張りを任せて休む事にした。が、そのミオはすっかり眠ってしまった静夜に抱き枕にされてしまっていた。アファエルが何とか助け出そうとするが、静夜の抵抗は思ったよりも激しく(?)、結局ミオはこの[ねぼすけねーちゃん]に抱かれたまま見張りをするはめになってしまった。 その後しばらくしてアファエルは、静夜の手の中からミオを助け出した。それを見たクサナギとモ・エギはとりあえず仮眠を取った。そんな中ミオはマリンに、彼女が暮らしている集落がどの辺りなのかを訪ねた。が、この小さな妖精にとって、[操兵で進んだ一日の距離]はいまだ途方もなく遠い故に自分が今、どこにいるのか全く見当がついていなかった。 結局その晩は何事も無く過ぎようとしていた。アファエルは見張りに退屈したのか、次の日の朝食になるようなものを捜した。そして程なくして一羽の野兎を見つけ、狙いを定めて弓を引き絞った。が、手が滑って矢があらぬ方向に飛んでいった。 「わぁっ!アファエル何してるのよぉ!!」 とばっちりを食ったマリンが抗議の悲鳴をあげた。 一方、すっかり眠っていると思われた静夜は不意に起き上がった。そして「トイレー……」と呟き草むらの方に歩いていく。どうやらまた寝ぼけているようだ。それを見たアファエルが、 「〜あぁ、このままでは静夜さん、戻れなくなってしまいますよぉ〜!!」 と叫んだ。そう。もし彼女がこのまま茂みに入っていったら、天性の[方向音痴]で迷ってしまうのだ。その声に気付いたモ・エギが周りを起こさないように立ち上がり、静夜の側までやって来た。 「はいはい、この辺りね、この辺り……私隠しているから……」 「……はーい……」 その後用を足した静夜は再び茂みに向かって歩き出した。それを見たモ・エギは、ため息を一つついて静夜を抱き抱えた。そして彼女の寝袋の所まで連れていき、 「はーいもう寝ましょうねー」 と言ってこのまるで子供みたいな少女を寝かしつけ、自分も元いたところに戻った。が、静夜は再び立ち上がり、毛布をもって今度はモ・エギの側までやって来た。そしておもむろにその膝の上によじ登ってその上に毛布を敷いてそのまま眠ってしまった。さすがのモ・エギもどうしたらよいかわからなかった。 「ホントに寝てるの?ひょっとして確信犯……?!」 結局静夜は朝までモ・エギの膝の上から降りようとはしなかった。 そして無事に翌日を迎えた一行は、再び小妖精の集落に向けて出発した。そんな中ゼリスは、ここに来て急に「先行したい」と言ってきた。 「私、先に行って妖精さん達と話をつけてきますから」 「そなた一人で大丈夫なのか……?」 クサナギの言葉にゼリスはその笑みを崩さずに、 「大丈夫ですよ。もしもの時は騎馬のほうが逃げやすいですから。集落はこの先を進んで間もなくですから、すぐわかりますよ……」 と言って、騎馬の速度を速めてその場をあとにした。 残された形となった一行はとりあえず先に進む事にし、今度はマリンの案内でその集落へと向かった。そして森を強引に突っ切って抜けたところで間もなく、その集落のある場所まで辿り着く事ができた。そこに、先に来ている筈のゼリスの姿は無かった。 クサナギとミオはそれぞれ操兵から降りた。小妖精達を必要以上に刺激しないためである。同様の理由でモ・エギも操兵とともに残る事にした。 そのころ。一行がいる集落から離れた場所では、ラルゼス率いる闇商人の一味が小妖精集落の襲撃のための最終準備を進めていた。 「……何だと。集落に用心棒?!」 ラルゼスは[その男]の進言に驚いていた。まさか小妖精に味方する人間がいるなどとは思わなかったのだ。だが、ラルゼスは驚きはしたものの、特に慌てふためく事はなかった。 「まさか貴様が呼んだんじゃないだろうな?!」 「いえいえまさか……それよりも大丈夫なんですか?相手は[そこそこ腕の立つもの達ですよ?」 [その男]の飄々とした言葉づかいに苛立ちながらもラルゼスは、自分の後ろに立つ[赤い操兵]を見上げて鼻を鳴らした。 「こっちには[生意気]だが、最強の操兵がついているんだ!どんな奴が来ても恐れる事はない……!!」 その言葉に側にいた操兵の操手が口を開いた。 「そいつらが何を考えて邪魔をするかなんてどうでもいい……僕はただ、強い奴と戦いだけだからね!!」 その少年、クロウの言葉を聞いて[その男]ゼリスは、満足げに頷いた。さらにその光景を、大男と小男が[赤い操兵]の影から監視するように[奇面]越しに見つめていた。 一方、一行は集落の入口があるといわれる場所までやって来た。だが、その場所は唯の叢で、村どころか入口一つ無かった。マリンは驚く一行に構わずその場所で輪を描くように飛び回った。そして今まで聞いた事がない言語で何かを呟いた。その言葉はアファエルには理解できた。それは、妖精語と呼ばれる彼女達独自の言葉で、同時にある種の[魔法語]でもあった。 マリンのその奇怪な行動のすぐ後、突如一行の正面の空間が歪み始めた。そしてその光景に驚く暇なく一行の目の前にこれまた突如、多くの花に囲まれた集落のようなものが出現した。それは人間の村々とそれほど変わる事のないものであった。ただ一つ、その大きさがすべて五分の一程度である事を除いて。 [入口]が開くと同時に数人の小妖精達が飛び出してきた。外から入口が開かれた事に驚いていたのだ。が、そこにマリンの姿を見るや一斉に歓声を上げて再会を喜んだ。 「マリン……マリンだ!よかった、帰ってこれたんだ!!」 マリンは仲間達に一行を紹介した。最初人間の姿に警戒した妖精達だが、マリンの執り成しと[エルフ]であるアファエルがいた事ですぐにその警戒心は解け、口々にマリンを助けてくれた事の礼を述べた。 アファエルは飛び回る妖精達を見て故郷を思い出していた。[剣の世界]でも小妖精は珍しい存在ではあったが、それでもこのゴンドア大陸よりもたくさんいた筈だから。そんな彼女の気持ちはクサナギ、ミオ、静夜も気付いていた。 そんな中、静夜はおもむろに花を摘み始めた。そしてその花で冠を拵えると、にこやかに微笑んで「はい。ミオ様ー」と言ってミオの頭の上に乗せた。その静夜のある意味少女趣味な行動にミオは泣きたい気持ちで、 「誰かこの人何とかしてー」 と呟いた。そしてその光景を見ていたマリンも、 「この人、本当に[お母さん]になった人なの?」 と、呆れ返っていた。 その時、集落の奥から一人の背の高い妖精が姿を現した。もっとも、背が高いといっても、マリンより少し大き目、という程度であったが。その妖精はこの集落の長であった。長は静夜を見てこう言った。 「[童の心]を無くさずに持つという事は良い事だ……それはそうと……」 そして長は改めて一行に向き直った。 「そなた等がマリンをここまで連れてきてくれたそうだな……感謝する。そなた達が我々に害意を持っていない事は承知している。大した礼はできないが、とりあえずはゆっくりと体を休めてくれ」 長は笑顔でそう言うと、一行を里の中へと招き入れようとした。だが、クサナギとミオはその言葉を遮り、例の襲撃の話を切り出した。 「そうゆっくりもしてはいられないのだ。私は悪い人間達がこの里を狙ってきていると聞いてここまでやって来た!」 今のクサナギの言葉にマリンも泣きそうな声でこう言った。 「そうなんです。このままでは私たちはみんな捕まってしまいます!!」 「なんですと……?いったいどのようなもの達が……?!」 驚く長に静夜がものの試しにゼリスの特徴を話して聞かせた。それを聞いた長は怒りの混ざった声で叫んだ。 「まさか……[奴]か?!」 どうやら長はゼリスの事を知っているようだ。それも、あまり良い仲ではないようだ。 「そなたはゼリスを知っておられるのか!!」 長は口に出すのもはばかる、といった感じで語り始めた。 「あなた方は奴が魔族である事に気付かなかったのか……まぁ、奴は狡猾であるから無理もないか……」 クサナギは以前[魔族]と戦った事があるので大体どのようなものかは想像がついた。が、ミオと静夜はそのようなものにはあった事がないので、皆目見当がつかずにアファエルに魔族がどのようなものか訪ねていた。 「私が以前出会った[グ]何とかと[ザ]何とかはおよそ人間とはかけ離れた姿をしていたが……」 「……[グルネル]と[ザルバード]は魔族の中では下級の分類に入る。あの[性悪魔族]は魔族の中でも高級な分類で、人間そっくりに変身するなど軽いものだ。だが、この[世界]の人間は魔族に対して全くと言っていいほど知識が無い。しかも魔法の力も弱っている筈であるから、ゼリスの奴もやりずらかろう」 確かに以前の魔族達もその事に関しては苦労していた。全く知識が無い故にそれがどれほど恐ろしいものか理解もできないのだ。しかも本来の[力]である筈の[魔法]も失われているのだから、恐怖を示そうにもどうにもならないのだ。 「……静夜は[キツネさん]や[タヌキさん]のほうがよっぽど怖いですー……」 その言葉に長も同意した。 「確かに、小さな体の我々にとっては[狐]は恐ろしい。奴等は油断をすれば、我々を捕らえて食べようとするからな……」 その言葉を聞いたミオは何故か[にやりと笑っているルシャーナ]を思い出した。 「……確かに……怖い……!」 だが、静夜の言った[キツネやタヌキ]はその[ルシャーナとミオ]の事を連想していたのだ。その事にミオは気付いているのだろうか…… 「だが、そのような[魔族]が襲ってくるのか……」 得体の知れない相手に少し考え込むクサナギ。そんな彼を他所に静夜は、 「……大丈夫ですよー。このハニ丸様……じゃなくてクサナギ様は、何と[英雄]様なのですー……」 その言葉に長の顔が明るくなった。 「なるほど……そなた達は[腕の立つ冒険者]という事か」 どうやら[剣の世界の住人]はみんな、クサナギ達のようなもの達の事を[冒険者]と呼称するようだ。その言葉に静夜だけは「静夜は唯の医者ですー」と反論した。 「ところで、ゼリスの狙いは何なんだろう?」 ミオの疑問に長は腕組みをして考え込んだ。そして少ししてその結論を出した。 「奴の狙いはおそらく、この里を取り巻く[結界]を維持している私たちの宝[魔力の宝珠]であろう……この里は危険なものから私たちを守るためにある種の結界を張っているのだ。それを生み出すための魔力を奴は狙っている。おそらく、それを用いて、かつての自分の力を取り戻す気だろう」 クサナギとミオはそれを聞いて、おそらくは[聖刻石]のようなものだろうと考えた。静夜に至っては[魔力]だの[結界]だのと言われても何の事やらさっぱりわからなかった。だが、本来羅 諸国連合の者は都市国家群の者よりもそのような言葉は[練法]がらみで聞く事がある筈なのだが。 「この[魔力の宝珠]から魔力を引き出すには、私を含む何人かの妖精達が[儀式]を行わなければならない……奴はおそらく、そなた達と商人達を戦わせ、共倒れを狙い、その中で漁夫の利を得ようというのであろう」 「……で、そのゼリスは[結界を越える]事はできるの?」 ミオの質問に長は、 「奴も罷りなりにも魔族だ。それなりの魔力は残してはいる筈だ。しかも、こちらの世界に来てから、自らの魔力に代わる何かしらの[力]を手に入れていると聞く……」 その言葉に静夜は、ようやく自国に伝わる[術法]について思い出した。確か羅を支配する僧侶の中でも僧正級のもの達は様々な[奇跡]を引き起こす事ができるという。それは要するに[練法][気孔術][招霊衡法]なのであるのだが、一般には詳しくは伝えられてはいない。しかしそれでも[風の魔法][水の魔法]などといった形で聞いた事はあった。かく云うルヴィことイヴルも、[風門の練法]を少々なりと使えるのだ。 そこにマリンが口を挟んだ。 「長さま、早く手を打たないと奴等は鉄の巨人を連れてここまでやって来てしまいます!!」 「鉄の巨人だって……!まさかゴーレムまで……?!」 その言葉を静夜は否定した。が、 「……[ごーれむ]じゃありませんよ……[鉄の案山子]ですー」 「……[案山子]とわ、違うっ!!」 確かに以前エンペラーゼは[案山子]にされていた事もあったが。ミオは花冠を頭に乗せていじけたまま長に訪ねた。 「でも、上級魔族って、手の込んだ事をしてまで漁夫の利を狙う程の[せこい]奴等なの……?」 「魔族は恥ずべき存在だ。姑息で卑怯で陰険で……まさに害以外の何者でもない……奴が魔力を手に入れたら何に使うかわからない……奴の望みは世界の破滅なのだ」 怒りに満ちた長の言葉を聞いたクサナギは、何故かそのゼリスに対して[哀れみ]の感情を持った。 「不毛な……そのようなことにしか生きがいを持てないとは……何と[惨めな生き物]なのだ……」 その時、遠くの方から何やら操兵の足音が聞こえてきた。おそらく奴等であろう。そんな中、アファエルがこんな事を進言した。 「〜あのぉ〜ゼリスはきっと、この戦いの最中にきっと、宝を盗みに来ます。私がその宝の前で見張っていますね。妖精の宝は私たち[エルフ]にとっても宝〜同じ[仲間]ですから〜」 その言葉に長は「そう言ってもらえると助かる……」と心から感謝した。 とりあえず敵が迫ってきているのは確かである。クサナギはモ・エギとともに待っている新造古操兵ファルメス・エルグラーテの元へと急いだ。そしてアファエルも宝の収められている祠へと向かった。 「……あのー……静夜は何をしたら良いのでしょうかー……?」 クサナギに続いて操兵に戻ろうとしたミオは静夜の問いかけに少し考え込んだ。そう、ミオは静夜を医者としてしか認識していないのだ。 「じゃ、とりあえずアファエルと一緒にいて、誰かが怪我をした時にはお願いね」 とだけ言って、ワークマンデの元に急いだ。 一行が戦闘準備を終えたところでようやく敵の全貌が見えた。相手の戦力は操兵がアルキュイルとアムイードが合計三機。そして例の赤い操兵が一機。その機体はやはり見た事もない機体であった。いや、強いて言えばあの[ディノガウラ]に似てなくもなかった。 そして闇商人はエルグラーテを見て驚愕していた。 「腕の立つ用心棒がいるって聞いていたが、ありゃクサナギじゃねぇか。腕の立つなんてものじゃねぇ……話が違うぜ!!」 それを聞いた赤い操兵の操手は脅える依頼主に構う事なく、クサナギに話しかけた。 「まさかこんな所で逢えるとは思わなかったよ……!」 その少年の声をクサナギは忘れる筈はなかった。 「そなた……クロウかっ!そなた、まだ懲りてなかったのか!!」 「そうだよ、僕だよ。あの時ディノガウラに乗っていたクロウだよ。あの時は操兵が完全じゃなかったから僕は負けた。少なくとも[あいつ]はそう言っていた。だが、今度は違う。この[ディノジェイラ]はディノガウラとは比べものにならないほど強い操兵だ!もうこれで君なんかに負けはしない。もっとも……」 その言葉と同時に二機のアルキュイルと一機のアムイードが前進を開始した。 「その前にこいつ等をやっつけられれば、ね……!」 |