キャンペーン・リプレイ

第 三十話 「 轟 砲 一 閃  怒 り の A Z 」平成12年9月10日(日)

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「あん時、カッコつけなきゃよかったかな……?」
 レクサの町から旅立って五ヵ月。ホセは時折彼の地での事件、そしてエメリアの事を思い出していた。確かあの時ホセは、彼女の告白(?)を振り切って再び旅に出た筈だった。が、今になってそれをちょっとだけ後悔していたのだ。
「いや、俺はやっぱり自由なさすらい人さ……」
 ホセは自分の迷いを振り払うと、今日の宿泊地にしようとしている街道沿いの小さな村へと先を進めた。が、その村の方角から大きな煙が立ち登っているのが見えた。どうやら家々が炎に包まれ、炎上しているようだ。
「家が燃えているのか……ほーかほーか……て、[放火]?!!」
 ここで空っ風を吹かせている場合ではない。ホセが大急ぎで村に行ってみると、そこはまさに地獄絵図と化していた。村中の建物はすべて破壊されるか焼かれているかで、無事な建物は一つとしてなかった。そしてその周りには大勢の人々が倒れていた。が、彼等の死因はこの火事によるものではなく、銃や剣などによるものばかりであった。これは野盗の襲撃だろうか。
 ホセが村の中を廻っていると、一人の男が呻いているのを見つけた。どうやらまだ息があるようだ。
「おい!大丈夫か!?!」
 ホセが男を助け起こすと、彼は震える手で一軒の燃えかけた建物を指さし、息も絶え絶えに呟いた。
「あの建物の中……に……」
 そこまで呟いた男はそのまま息を引き取った。ホセは男の目を閉じると、腰の銃を抜いて油断なくその建物に近づいた。そして壊れかけている扉を蹴破ってその中へと入った。中はすっかり荒らされており、ひどい有様だった。どうやら誰かが中を家捜ししたようだ。
 台所らしい部屋に入ったホセは、水瓶をこぼしてそれ以上の延焼をとりあえず防ぐと、その中を念入りに捜索した。すると、卓の下に落とし戸が隠されているのを見つけた。どうやら物置の落し戸のようなのだが、絨毯などで巧妙に隠されていた。先の男はこれを教えようとしていたのだろうか。
 ホセがその戸をゆっくりと引き上げると、中には一組の男女が隠れていた。その男女は服装からこの村の住民ではなく、旅人ではないか、と思われた。だが、ホセはその二人の様子が少し気になった。女の方が普通の旅人といった感じなのに、男の方がどことなく高い身分を思わせる雰囲気があったのだ。いったいこの二人はどのような関係なのだろうか。ホセが声をかけると、男は女を庇いながら銃を構えた。
「僕たちは簡単には捕まらないぞ……!!」
 どうやらホセを敵と思っているようだ。
 ホセは銃をしまい敵意がないことを二人に示した。
「待ってくれ……おれは唯の通りすがりだ。いったいここで何があったんだ……?!」
 ホセの態度に男女はとりあえず警戒を解き、物置から出てきた。そしてホセに導かれてその建物の中から出た二人は、そのあまりにも悲惨な状況に茫然となった。
「何ということだ……」
「私たちのために村の人達が……!!」
 ホセは二人を励ましながら雨風を凌げるところを捜した。
 夜。焚き火の炎を囲みながらホセは煙草に火を着けると、二人に事情の説明を求めた。
「僕の名前はレティアス。僕はここにいるサライネと一緒に[あるもの達]から逃げているんだ……」
「[あるもの達]……て、何だ?。いったいあんたは何をしたんだ……?」
 だが、レティアスとサライネはその事に関しては何も話そうとはしなかった。
「君にその事を話したら、君まで[奴等]に狙われてしまう。ある国の王族の醜聞に関することだ、とは言っておこう。この村の人はそれを僕たちから聞いたと思われて、奴等に……!」
「なるほど……話せない内容ってわけか……」
 悲痛な感情に襲われた二人を察したホセはそれ以上この話に触れるのをやめ、二人の今後を訪ねた。
「で……あんた達はこれからどうするつもりだ?」
「とりあえず大きな町に行こうと思っています。そこなら奴等も思い切ったことはできませんから……奴等は[国の威信]を守る為なら、このような村でも何のためらいもなく全滅させてしまう……」
 今、この都市国家郡の国々の間では[王族]の立場に変化が生じつつあった。以前の[王朝結社の乱]において、クサナギ達の戦いもあったにせよ、[市民の手で勝ち得た勝利]という事実があちこちの国々に広まり、それをきっかけにいわゆる[市民運動]が起こりつつあった。いまや市民は王達の[従順な民衆]ではなくなってきたのだ。そんな中でも王族はその威厳と権威を守り続けようとしていた。中にはレイ・ライバのように市民との融和を積極的に図る者もいるがそれはむしろ例外というものだ。
 そして、そんな中で王の醜聞が世間に広まれば、その市民運動に影響を与えるのは必至であった。しかも場合によっては、それによって発生した混乱に乗じて他国の侵攻もありえるのだ。おそらく奴等は何としてでもこの二人を始末しようとするだろう。
「俺の名はホセ。風が吹くところにやってくる、流れの銃士だ。ま、ここで会ったのも何かの縁。俺がライバの街まで送り届けてやる」
 その言葉にレティアスとサライネの表情は明るくなった。
「本当か!……すまない……」
「何と礼を言ったらいいか……本当に有り難うございます……!」
 そしてホセはここに来てようやく相手の戦力をレティアスに聞いた。
「奴等は騎士団の操兵で構成されていて全部で三機。その他にも傭兵がかなりの数がいる筈だ……何、僕も操兵はもっている。たび重なる戦闘で破損してはいるが……」
「そうか……操兵がいるのか……」
 ホセは別にここに来て後悔しているわけではない。ただ、さすがに操兵相手は生身の銃士ではちと荷が重すぎるのだ。
(……ま……ライバに行けば[あいつ]がいるし……)
 ホセはライバにいるであろう[戦友]を思い出していた。そして翌日、とりあえず街道沿いにライバに向かうことにした。

 一方、ホセの[戦友]であるクサナギは、ライバの街の竜の牙亭で今日も暇を持て余していた。妖精郷の事件から一ヵ月が過ぎ、ミオは破壊されたワークマンデの修理、静夜は[ルヴィ]を求めて再び旅立っていた。他のもの達もどこかでそれぞれに旅や生活に勤しんでいるであろう。
 クサナギのいるカウンターの上には小妖精の少女マリンがいた。彼女は一行に加わってから、アファエルと一緒にずっとライバの街を見てまわっていた。が、ここのところライバ見物にも飽き、また、夏に近づくにつれて上がった気温の高さに耐えられずに大の字になって伸びていたのだ。そのはしたない格好を嗜めることに飽きたクサナギもまた、何もすることもなくただぼーっと[埴輪]に成り下がっていた。
 いいかげん[埴輪]にも飽きたクサナギは、とりあえず斡旋所に赴いてみることにした。すると、暑さを凌ぐために大の字になって表面積を広げていたマリンがムクッと起き上がった。
「クサナギ〜……ライバの外に行くなら声かけてよね〜……」
「わかった。そうしよう……」
 マリンの情けない声に見送られながら竜の牙亭をあとにしたクサナギは、間もなく渡世人斡旋所の入口をくぐった。するとそこには珍しい人物がいた。操兵部品屋のタフルだ。彼がこのようなところに来るなど、何かあったのだろうか。
「クサナギか……いや何、ちょっと用心棒の依頼さ……」
 タフルは知り合いの機械屋に修理を頼みに行くことになり、その旅の用心棒を捜しているということだ。物が物だけにできれば信用があるものが良いそうだ。彼は試しにこの依頼をクサナギに持ちかけてみた。
「そうだ……だったらクサナギ、あんた引き受けてくれないか?。まぁ、大した報酬は出せんが……」
 クサナギは間も入れずに答えた。
「そうだな……仕事もなかったし、引き受けても良い……」
「……案外、仕事選ばないんだな……」
 何はともあれ仕事を請けたクサナギは、自分一人で受けるのも何だから、と早速モ・エギのいるガレージ街へと赴いた。が、彼女が住んでいた筈のガレージの入口にこんな張り紙が残されていた。
[引っ越しました。ご用の方は地図の場所までおいでください]
 どうやらモ・エギの家が完成し、いつの間にか引っ越したようだ。
(……一言いってくれれば手伝ったのだが……)
 そう思ったクサナギだが、とりあえずそのモ・エギの新居に行ってみることにした。
 クサナギが地図を頼りに町外れまで来てみると、そこには巨大な茅葺きの家、要するに巨大な縦穴式住居がそびえ立っていた。周囲は操兵用の外套を流用した布で覆われ、なかなかしっかりした作りのようだ。
「モ・エギ、いるのかー……!」
 クサナギの呼び掛けに応えて中からモ・エギが天幕から顔を出した。
「あ、クサナギさんちょうど良かった。引っ越しが終わったんで呼ぼうと思っていたんです……」
 クサナギが挨拶もそこそこにタフルの仕事の話を切り出すと、特にすることもなかったモ・エギは二つ返事で承諾した。
「そうだクサナギさん、せっかくだから上がってきません?」
「そうだな、せっかくだからそうするか……」
 その返事を聞いたモ・エギはクサナギを両手で持ち上げ、中へと入っていった。家の中は思った通り広く、中央には木と鉄骨で組まれた巨大な柱があった。周りを見てみると外から見た印象と違い、あちこちが金属で補強されていた。それを見ながらモ・エギが苦笑を浮かべた。
「ライバではこの家を支えるような巨木は無いって、大工さんが言ってたんです。だからあんまり好きじゃないんですけど、仕方なく金属の補強を入れてもらったんです……」
 これは当然だろう。そのような巨木は東のグーデンバール王国のような森林国か、もしくは樹界にでも行かなければ手に入る物ではない。いくら姫盗賊の迷宮探索で得た報酬が多額でも、それらの巨木を揃えるにはまだ足りなかったのだ。しかも大工にとっては、このような単純な構造の縦穴式住居を、このような大きさで建てるのは初めてだったのだし。
「クサナギさん、お茶でも飲んでいきません?」
 モ・エギはクサナギを大きな宅の上に下ろすと早速湯を沸かし、器用にも(クサナギには少し大きめの)碗に茶を注いだ。その間クサナギは周りを見渡した。ここはモ・エギの家だから当然、卓や寝具などはすべてが彼女に合わせたものだ。クサナギはまるで自分が小人にでもなったかのような気分を味わった。

 翌日。クサナギとモ・エギはマリンとともに、タフルの待つライバの門の前までやってきた。久しぶりに外に出ると聞いたマリンは嬉しそうだ。何せここのところアファエルは(最近こっちが本業になりつつある)竪琴による芸人家業が忙しく、ライバから出掛けていないのだ。今日もマリンをクサナギに預けると、
「じゃあ、お土産を待ってますからぁ〜」
 と、今日も大通りに出向き、芸に勤しんでいた。
 ライバ正門で待っていたタフルは、初めて見たマリンに大層驚いた。が、側にいたモ・エギとその大きさを見比べると、呆れたようにクサナギにこう言った。
「おっきいのとちっちゃいのに挟まれて大変だな、クサナギ……」
 クサナギは頭の上に乗っているマリンに手をやりながら苦笑した。そんなクサナギを見てもモ・エギは心暖まるだけで特に嫉妬はしなかった。以前なら(イヴルやアファエルが煽ったこともあったが)このような時はクサナギを掴み上げて騒ぐのだが、今はただ、心が安らぐだけだった。これはマリンがまだ子供(に見えるから)だからであろうか。