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何だかんだで一行は、間もなく目的地であるラフサの町にたどり着こうとしていた。タフルの知り合いの修理屋は表向きはこの町のはずれで骨董屋を営んでいるという。だが、裏では銃と砲、そして操兵部品、その中でも電装品の扱いに長けた知る人ぞ知る腕利きの技師だと言う。しかし、何かしらの理由で隠れ住んでおり、自分の名が表に出ることは完全に拒んでいるらしい。一行は今日中にその修理屋の元にたどり着くべく足を速めた。が、その時街道の真ん中を操兵の一団が一行に向かって進んできた。操兵は全機が外套を付けているので機種は不明だ。警戒しながら様子を見てみると、その操兵群は一行の前でまるで立ちはだかるように停止した。そしてその中の先頭の機体がクサナギに話しかけてきた。 「ちと、ものを尋ねる。この地で一機の操兵に乗った旅の男女を知らぬか……?」 その声、話し方からすると操手は熟年の男性で、さらに身分の高そうな雰囲気を漂わせていた。どうやらどこかの国の騎士のようだ。だが一体、そのような者が何故にそのような男女を捜しているのだろうか。 クサナギがエルグラーテの拡声器を通じて「見てはいないが……」と答えると、その操兵の一団は特に礼を述べるでもなく、そのまま一行の方に「どけ!]といわんばかりに前進してきた。クサナギはここでどうするべきか迷った。このまま退くのも癪に触るし、だからといって退かずに揉め事を起こすのも得策とはいえない。さて。 「クサナギさん、どうします……?」 モ・エギが不安げに尋ねてきた。そしてマリンは、 「あんな失礼な奴、やっつけちゃおうよ……!」 と、怒りを露にしていた。それに対してクサナギは二人にだけ聞こえるようにこう言った。 「いや、私たちは[あんなの]に構っている暇はない……」 だが、ここで拡声器を使ったのがまずかった。取り巻きの操兵がその呟きを聞いてしまったのだ!!。 「貴様……ここにおわすお方がどなたか知らぬようだな……!!」 クサナギはその脅すような口調に屈する事なく 「あぁ、わからないが、誰なのだ……?!」 と、さらっと答えた。 「大体外套を付けたままではどのような操兵なのかすら見えないではないか!!」 操手はクサナギのその[王族のような]口調に戸惑いながらも、さらに言葉を続けた。 「知らないなら教えてやろう……このお方はな……!」 その時、この集団のリーダーと思われる操兵が止めに入った。 「止せ。不用意に我らの身分を明かすでない……!」 「で……ですが隊長!……」 隊長と呼ばれた操兵は落ち着き払って言葉を続けた。 「我らは任務の為にこの地に赴いたのだ。このような渡世人風情に拘わっている暇などない……」 その言葉に今度はモ・エギがカチン、と来た。この誇り高い御仁姫は操兵の一団に詰め寄った。ここで幸運だったのは、モ・エギが紅葉武雷の兜を取らなかったために正体が露見せずに住んだことだ。 「あ……あなた達こそ、ここにいる人が誰だかわかってないようね……!。この人はね……!!」 「止すんだモ・エギ……!。こんな何処のものだか分からないような者に拘わっている暇はないのだ……!!」 ここで[何処の馬の骨]と言わなかっただけましではあったが、険悪な状況であることに変わりはなかった。が、結局ここは互いに道を譲り合うことでどうにか事は収まった。この時、取り巻きの二機の操兵はモ・エギとエルグラーテに視線を向けていた。それは、操兵の目を通じても憎悪の念が籠っているのが明らかだった。 この光景を一部始終見ていたタフルが、とりあえず安堵の意気を漏らした。 「いや、何事もなくて良かったよ……」 「私としてもここで揉め事を起こしたくはないからな……」 クサナギのその言葉にタフルは「そう言ってくれると助かる」と満足そうに頷いた。 こんな事がありながらも一行は無事にラフサの町にたどり着いた。町に着いたタフルはそのまま修理屋に向かうことを一行に提案した。 「普段なら護衛の奴とはここでいったん別れるんだが、あんた達なら信用できるし……どうせなら見学していくのもいいだろう?」 クサナギはその言葉に礼を述べると、そのままタフルのあとについて操兵を進め、モ・エギもそれについていった。 修理屋の住んでいる骨董屋は町外れの森の中にあった。一体こんなところに客が来るのだろうか、と思ったが、タフルに言わせればその分隠れ住むには打ってつけだそうだ。 「ねぇクサナギ……骨董屋って何……?」 クサナギの頭の上から聞いてきたマリンにクサナギが、 「古い道具を引き取って、もう一度売る店のことだ」 と答えた。するとモ・エギが兜を脱ぎ、その店の側まで寄った。 「へぇ……どんな骨董品があるんです……?」 モ・エギはその場にしゃがみ込むと、そのまま店の中を覗き込んだ。それを見たクサナギとタフルが止めに入るが、時すでに遅く。 「へあああぁぁぁぁぁ!!」 と、断末魔のような老人の悲鳴が辺りに轟き渡った。クサナギとタフルが慌てて駆けつけてみると、中では一人の老人が驚いて腰を抜かしていた。 「あぁ……ロム爺……、大丈夫か……?!」 ロム爺と言われた老人は、タフルに助け起こされてようやく立ち上がった。 「ひいぃぃぃ……タフル、何じゃ今のは……?!」 「あぁ、大丈夫。害はないよ。クサナギ、説明頼むわ……」 話を振られたクサナギはとりあえずモ・エギのことを説明するが、タフルが不意にモ・エギのことを「要するにクサナギの[嫁さん]だ」と付け加えると、クサナギとモ・エギ両方が慌てふためいて「まだ結婚はしていない……!」と、しどろもどろに答えた。 その説明を受けたロム爺はとりあえずは納得し、落ち着いた。が、今度はクサナギの帽子の上のマリンに興味を持った。 「あんたのその[帽子飾り]、変わったものじゃのぉ……?」 「ヤッホー……!。私帽子飾りじゃないよー……!!」 その言葉に反応したマリンが突然ロム爺に挨拶すると、この老人は再び断末魔のような悲鳴を上げた。 「へあああぁぁぁぁぁ!!」 そしてあたふたしながら、 「し……死んだ者は[魂]になって帰ってくると言うが……?!」 「ひどぉい……マリンはまだ生きてるよぉ……!!」 そしてクサナギとタフルは再び慌てて説明するはめになった。 ロム爺がようやく落ち着いてから一行は改めて自己紹介を済ませ、改めて店内を見渡した。そこにはかなりの数の骨董品が比較的丁寧に並べられ、その中には「こんな物に価値などあるのか……?」と言いたくなるような物や、かなりの年代物の飾り銃だが、手入れをすれば十分に使用できそうな物も飾られていた。 だが、タフルはそんなものに気も留めず、ロム爺に早速仕事の話を切り出した。 「ところで爺さん、部品の方はどうだ?」 「あぁ。とりあえず、[疑似技能]用の基盤が三枚と操手槽用の電装品ができとるよ……」 ここでクサナギが割り込んだ。 「ご老人は操兵の部品も作れるのか……?」 「儂はある事情があって、外には出られん。そこでこうして隠れて骨董屋などをやっておるのだ。が、持てる技を使わない手は無いからな。だからタフルに頼まれて部品の修理なんかをやっておるんだ」 クサナギはとりあえずその事情には触れなかった。ロム爺は話題を変えようと、クサナギ達を自分の工房のある店の裏手の方に案内しようとした。が…… 「そういえば、あの[チビさん]がおらんが……」 クサナギは自分の頭の上にマリンが居ないことに気付き、辺りを見回した。すると彼女はあちこちの骨董品に目を奪われ、店内を飛び回っていた。 「わぁ……これいいっ!。このスプーンとかフォークとか……あっちのポットもいいなぁー……!!」 マリンは銀製の食器に興味を持ち、持ち上げては眺めていた。が、その内のポットを持ち上げようとして「おもーい!」といってそのまま落としそうになった。それを見たロム爺が悲鳴を上げて叫んだ。 「こ、こらぁっ!その食器に迂闊に触っちゃいかん!。わぁっ!ポットが落ちるぅっ!!」 その騒ぎを聞いてモ・エギが再び店内を覗き込んだ。 「へあああぁぁぁぁぁ!!」 ロム爺は再び断末魔の悲鳴を上げた。それを見たモ・エギはおもむろに店内に手を差し入れ、そのままロム爺を掴み上げた。そして悲鳴を上げるこの哀れな老人をまじまじと興味深げに見つめた。もともと御仁は[老いる]ということがない。それゆえにこの[老人]という存在が彼女にとって珍しかったのだろう。そんなモ・エギを見たクサナギは、 「また、[悪い癖]が出たか……」 と、半ば諦めたように苦笑を浮かべた。 今度こそモ・エギに[慣れた]ロム爺は、ようやく一行を店の裏手に案内した。そこには別棟の建物−おそらくは物置であろう−が静かに建っていた。ロム爺はその物置の扉を開け、床の雑用品を取り除いた。するとそこに落とし戸らしい物が現れた。ロム爺はその落とし戸を引き上げ、一行を招き入れた。 「私も行っていいのか……?」 クサナギの問いにロム爺は笑顔のまま答えた。 「タフルの奴がここまで連れてきたんだ。よほど信用できるのだろう。あぁ、そこのでかい嬢さんは後で操兵用の入口を教えるから待っていてくれ」 その言葉にクサナギとモ・エギは礼を言った。 外にモ・エギを残して一行はロム爺の案内で落とし戸へと入り、その中を見て驚愕した。地下は予想以上に広く、操兵が丸々一機分整備できるだけの設備が備わっていた。壁際には操兵の部品と思われる物がきちんと整理されて並べられており、中にはクサナギも見たことがない物も多数確認できた。 「儂は操兵そのものの組み立てはやらんが、細かい部品の修理はやっている。あ、タフル。疑似技能用の基盤がかなり集まってきている。近いうちに仕上がるからな」 その言葉にタフルは「すまないねぇ……」と、顔をほころばせて答えた。疑似技能とは、操兵の仮面が覚え込む技能のことだ。本来なら[深同調した仮面]が戦闘やその他の作業などで[経験を積んで習得]していくものなのだが、[疑似技能読み込み装置]に[疑似技能基盤]を取りつけることで、限定的に通常の仮面にもそれを持たせることができるのだ。 「最近疑似技能の基盤が良く売れるんだ。まぁ、[深同調]はしたくはないが、疑似技能は欲しいっていう、身勝手な奴が増えて来たんだろうな……」 もともとグラーテの仮面と[深同調]していたクサナギにとって、この装置は無縁のものだった。特に[深同調した仮面]はその技能を成長させることができるのだが、基盤による疑似技能は一切の成長がないのだ。要するに、より高い疑似技能を得る為にはより性能の良い基盤を見つけるしかない、というわけだ。 「まぁ、それに関しては今回は良い物は望めんぞ……」 そのロム爺の言葉にタフルは少し肩を落とした。そんなタフルに構わずロム爺は、 「どうじゃ。今夜はここに泊まっていかんか。どうせ宿も取っておらんじゃろう……?」 クサナギは少し考えて、こう答えた。 「そうだな……それなら、お言葉に甘えよう……」 場面が変わってホセが二人と出会ってから翌日。三人はライバに向かうべく街道を進んでいた。レティアスの操兵はおそらくは家伝来の逸品で、その性能はそこそこ良い物と思われたが、今までの逃避行の中の戦闘により機体の負担がかなりのものとなっていた。 それでもその日は何事も起きずに三人は、今夜の宿となるラフサの町に着こうとしていた。この町を越えればライバまではあと二日。それまでに[奴等]に見つからずにライバにたどり着けば、とりあえずは安心だ。だが、それは[奴等]も考えているであろうから、おそらくは途中で待ちぶせしているだろう。 (……やっぱ、止めときゃよかったかな……) ホセは少しだけ後悔の念に捕らわれていた。まあ、相手に操兵がいるとなると、さすがのホセも生身ではどうすることもできない。ライバにたどり着ければクサナギがいるのでどうにでもなるのだが、その前に襲撃されてはどうしようもないのだ。 だが、ラフサの町に入る手前の森でホセは、とても見覚えのある操兵、そして人物を見かけた。それは、ライバにいる筈の[頼もしい戦友]だった。それを見た瞬間、ホセは笑みを浮かべてレティアスとサライネに向かってこう言った。 「どうやら、ライバに行く前に[戦友]に逢えたな……安心しろ、あれは俺の[仲間]だ……!」 ホセは二人を乗せた操兵をその[戦友]がいる家へと向かわせた。 ロム爺の店の庭で食事の支度をしていた一行は、見覚えのあるポンチョを着た男が一機の操兵を連れてやってくるのを見つけた。 「ホセ!。ホセではないか……!!」 ホセに気付いたクサナギが駆け寄ると、彼もクサナギに言葉を返した。 「クサナギ、久しぶりだな」 「ホセさん、久しぶりですね!」 モ・エギも頭上から声をかける。だが、その姿を見たレティアスの操兵はその場で歩みを止め、こちらの様子をじっと伺っていた。どうやらモ・エギ(と言うより御仁)が怖くて近づいてこれないようだ。が、ホセが二人に一行を紹介すると、レティアスはとりあえずおっかなびっくり近づいてきた。 結局その晩はホセ、レティアス、サライネもロム爺の店に厄介になることになった。レティアスの操兵は程よく離れた茂みに隠しておいた。仮面もはずしておいたので、起動させない限り感応石に探知されることもないだろう。 食事をしながらホセと一行は、それぞれの出来事を話して聞かせた。ちなみにタフルはホセの噂を聞いていた。 「あんたの噂は聞いたことがある。確か、腕利きの銃の使い手で、しかも一言しゃべれば[風が吹く]という……」 それはある意味では当たってはいた。それを聞いたホセは、 「そこまで俺は[伝説]だったのか……人の噂は恐ろしいものだな……」 といって、イタズラ半分にクサナギの顔を見た。それに対してクサナギはただ苦笑を浮かべるだけだった。 「クサナギ、スコッチでもどうだ……?」 少し気が晴れたホセは再会を祝して自分のスコッチの瓶を差し出した。そんなホセを見てクサナギは、グラスを片手にこんな事を言った。 「そうだな……[スコッチ]だけ(少しだけ)貰おうか……」 だが、空っ風は吹かなかった。その一言を聞いたホセは少し得意そうな笑みを見せてこう返した。 「ふ……俺は背中に[風の神]を背負っているんだ……へっくし!(風邪の神)……」 そして今度こそ夜の荒野に空っ風か吹き、一行の側を過ぎていった。 (……全く、決めてるんだか、決めてないんだか自分でもわからんな……) ホセは内心、自分の言葉に自分自身でも呆れ返っていた。 その食事の中、レティアスとサライネは、自分達の境遇、そして今までの出来事を話した。その中でレティアスは、少し酒が入ったせいか、村人やホセにも内密にしていた[二人が追われている理由]についても話し始めた。 「僕はこの地から南にある[デリシアル]という国の騎士だった。ある日僕はここにいる城勤めの侍女サライネから、王妃殿下が事もあろうに不倫をしているのを目撃した、という話を聞いた。しかも情事の相手は隣国の大使だというのだ。僕は、その事を大臣に大急ぎで知らせた。ところが……」 ここでレティアスの表情が怒りの混ざったものになった。 「大臣、いや、王はその事を僕に内密にせよ、と申されてきたのだ!。しかも僕に賄賂まで掴ませようとして……!!」 大臣の判断はある意味では正しかった。ここでその事実が世間に知れたら、それこそ国民や他の国々に多大な影響を与えるのは必至だったのだ。しかも賄賂が通じない朴訥な騎士となると、ここは事件が表立たないように始末するのは当然だろう……なるほど、それなら二人を追う理由に納得がいく。レティアスは言葉を句切り、今度はサライネを見た。 「僕はまだいい。少なくとも最初は賄賂で懐柔しようとしたのだから……だがサライネは、彼女は何の話もなく殺されそうになったんだ!。騎士である僕は簡単には[消せ]ないが、位の低い一介の侍女の命など、[国の威信]の前では小さいのだろう。僕は彼女を連れて国を出た。が、奴等は僕らを始末する為に騎士団から追っ手を差し向けた。そして、秘密を守る為に何の関係もない村までも……!!」 ここでレティアスの話は途切れた。最後にサライネが、その後王妃と大使がどうなったのはわからない、と付け加えたが、それはもはやどうでも良いこととなっていた。おそらくそれぞれの国の利害が一致して、互いの事実を揉み消したのだろうことが容易に想像できたからだ。 話を聞き終えたクサナギは強い怒りを覚えていた。以前自分の国を滅ぼされたことがあるクサナギにとってこの事件はもはやレティアスとサライネだけの問題ではなかったのだ。そう、かくも無残な凶状に及ぶ[奴等]すなわち[デリシアル騎士団]が、かつての敵[王朝結社]を思い起こさせたのだ。 「このまま奴等を放っておいたら、いくつの村が滅ぼされるかわからない……その前に[奴等]を倒さなければ……」 「そうだな……」 その言葉にホセも同意した。そして再びレティアスとサライネに言葉をかけた。 「ま、とりあえず今夜はゆっくり寝ておけ。俺はもう少しクサナギと話をしている……」 その後、レティアスとサライネがマリンと一緒に、奥の部屋に用意した簡易寝台で寝入ったのを見届けたクサナギとホセは、そのまま寝ずの番に入った。 「こんなところであんたに逢えるとはな……風の強いこんな日に野宿なんかしていたら、風邪をひいちまうからな……礼を言う……」 「いや、礼には及ばない……それより……」 クサナギは先の話を思い出し、その怒りを募らせていた。 「あのような[つまらぬ]理由で二人の命を狙い、あまつさえ、村を丸々一つ滅ぼすとは……」 クサナギにとって[国の威信]などというのは[つまらぬ些事]に過ぎなかった。 「そうだな……国の王たるものはその国民の生活そのものを守るものなのだが、何処かおかしいのか……?」 ホセの言い分はもっともではあるが、それは理想論でしかないことが多い。実際大きな国になればなるほど、国民一人一人の顔が見えなくなり、些細な犠牲は顧みなくなるのだ。あのレオンナールも、クサナギと出会うまではそのような考えに捕らわれていた。むしろ、クサナギやレイ・ライバのような人間の方が珍しいのだ。 そんな二人の心を読んだのか、外には乾いた風が吹き荒れていた。 |