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とりあえず一行は今後の対策を立てることにした。クサナギとしてはレティアスとサライネを渡すわけにはいかない。が、かと言ってこのままではタフルがどうなるかわからなかった。そして、仮に二人を連中に渡したとしても、どの道タフルが無事に帰ってくる保証もないのだ。 「もはや二人だけの問題ではない。私は奴等を許すわけにはいかない……何としてでも奴等からタフルを取り返さなければ……!!」 「でも、エルグラーテの刀は敵に取られたんでしょ……?いくらクサナギさんでも爆砕槍とガトリングだけじゃ……」 モ・エギが不安げに言った言葉にクサナギは、ロム爺に操兵用の武器がないかどうかを尋ねた。操兵部品を扱っているのなら、何か武器もあるのではと考えたのだ。御仁の太刀が取られたエルグラーテにはそれでもまだ武器は残されてはいた。だが、爆砕槍には使用回数制限があり、ガトリングも三機もの操兵を相手にしたのでは弾数が持たない。ここはどうしても、代わりの刀が欲しかった。 「残念だが、ここには刀や剣は今はない……」 ロム爺の言葉にクサナギは「そうか……」と、肩を落とした。が。ロム爺の話にはまだ先があった。 「が、他の武器でいいならある。もし、タフルを助け出してくれるなら、あんたにくれてやってもよい……」 ロム爺はそう言ってクサナギを地下整備場に連れていった。そして、壁のレバーを倒して部屋中の永久ランプに光を灯した。すると、今まで暗闇の中に隠れて目立たなかったその部屋の壁際に、ひときわ巨大な金属の物体が天井からぶら下がっているのが見えた。それは、明らかに大砲、それも口径が3リットもある重砲だった。 「これはいったい……!!」 驚くクサナギに、ロム爺は表情を変えずに言った。 「3リットオートカノン。儂がここに隠れ潜んでいる理由の一つだ。自動装填装置により、連続発射が可能になった、操兵搭載用の新型重砲だ。装填数は十発。一度レバーを引けば、後は発射時のガス圧を利用して自動で弾が薬室に装填される仕組みになっている。二秒に一発は撃てるだろう……」 この都市国家郡において、大砲は戦場ではなくてはならない存在になりつつあった。だが、現在の砲は一発撃つごとに砲弾を装填しなければならず、とても連射出来るものではない。しかも、弾の装填は熟練の砲手が三人掛かりで五秒から十秒前後と、とても時間がかかるのだ。最近では装填装置に改良が施されたというが、それでも四秒から八秒に一発撃てれば良い方だった。しかも、それは設置型の砲の話だ。確かに以前、[グンダーニ]という名称の大砲装備型の操兵が開発されたが、実際には役に立たなかったという。現在では操兵に大砲を装備する方法がいくつか考案されてはいるが、やはり装填や発射時の衝撃などの問題で主に四脚操兵の荷台に据えつけるのが精々であるという。 だが、今の話だとこの[3リットオートカノン]は自動装填装置によって連射が可能で、しかも操兵搭載用であるという。それが本当なら、この武器は操兵戦、いや、戦争そのものを根底からひっくり返すほどのものであることになるのだ。 「良いのか?……このような物を私がもらって……」 クサナギはオートカノンを見つめながら、ロム爺に呟いた。 「こいつをあんたにくれてやる。その代わり、タフルを絶対に助け出してくれ……!!」 ロム爺の縋るような目に、クサナギはただ黙って頷いた。 クサナギ、ロム爺、そしてモ・エギは早速取りつけ作業にかかった。だが、もともとエルグラーテはこのような大砲を取りつけるようには作られてはいない。そこで、ロム爺考案のもう一つの装備が引っ張り出された。[強襲用増装]通称[アサルトザック]だ。これをエルグラーテの追加水容器の代わりに取りつけ、アームでオートカノンを固定することにした。これによって、エルグラーテは最小限の負担でこの大砲の装備が可能となった。 さらにロム爺は、アサルトザックの余分なハードポイントを利用して12連装3リットロケット砲と、5連装マルチディスペンサを取りつけてくれた。これによってエルグラーテは事実上、遠距離戦から接近戦までのすべての間合での戦闘が可能となり、運用法によってはまさに万能型操兵となった。 クサナギはこの状態のエルグラーテを[新造古操兵ファルメス・エルグラーテAZ]と呼称することにした。 作業を進めながらも一行は、タフルを助けだし、なおかつ奴等を倒す方法を模索した。敵が根城にしている砦はかなり古い物で、あちらこちらが風化しているためにAZ装備のエルグラーテで攻撃を加えれば簡単に破壊することができる。が、それではタフルもどうなるかわからない。ここは慎重に行く必要があった。 そこで、クサナギとモ・エギが正面に出て時間を稼ぐ間にホセが砦内部に潜入、タフルを救出する、という方向性で作戦が検討された。 その時、マリンが慌てて地下整備場に飛び込んできた。 「大変!。二人がいなくなったよぉ……!!」 慌てて店に戻ってみると、離れた茂みから操兵の駆動音が聞こえてきた。見ると、レティアスの操兵が茂みから立ち上がり、砦の方向に向けて歩き出していた。どうやら二人だけで砦に向かうつもりのようだ。モ・エギがすぐさま操兵の前に立ち、二人を止めに入った。 「止めなさい二人とも!。今、あなた達が行ったところでどうにもならないでしょう!!」 その言葉にレティアスは落ち着き払ってこう言った。 「僕たちが行けば、タフルさんは開放してもらえる……」 「私たちの為にこれ以上、犠牲を出したくないんです!!」 どうやらサライネも決意を固めたようだ。それを聞いたホセとクサナギはすぐさまモ・エギに続いて止めに入った。 「待つんだ!。そなた達二人が行ったところで、奴等はタフルを生かしては返さない。それどころか、奴等は真実を知った者はすべて皆殺しにするつもりなんだぞ!!」 「ともかく、ここは俺達に任せるんだ!!」 二人の言葉を受けたレティアスとサライネは、とりあえず操兵を止めた。ホセは操兵から降りてきたレティアスに、こんな言葉をかけた。 「俺の自慢はな、請けた用心棒の仕事で、雇い主を死なせたことはないってことだ……雇い主に死なれちまったんじゃあ、仕事にならないからな……それと同じで、約束を守るのは、騎士の役目なんじゃないのか?」 それを受けたレティアスは二人に言った。 「わかりました。あなた達を信じます。でも、僕たちにも何か手伝わせてください!。もともとは僕たちを巡って起きたことです……僕たちはこれ以上逃げ回っているわけには行かないんです!!」 結局、レティアスはホセとともに砦に潜入することが決まった。いままで三機もの操兵を相手に逃亡を続けてきた剣の腕は確かなものだったが、肝心の操兵の破損がひどく、使い物にならなかったからだ。そしてサライネはロム爺が預かることになった。 「ま……俺達の幸運でも祈っててくれ……」 ホセの言葉にサライネは、ただ黙って頷いた。 エルグラーテのAZ装備が完了したと同時に一行は行動を開始した。クサナギとモ・エギは日が昇る前に砦の見える小高い丘に向かった。そしてエルグラーテにオートカノンを展開させると、その砲身を荒野の真ん中に佇む、石造りの建造物に向けた。 このおそらくはクメーラ王朝時代に建築されたものと推定される小さな砦は、放棄されて以来全くの廃墟と化しており、あちらこちらが崩壊したままになっている。おそらく、ロム爺の言う通りオートカノンの攻撃で簡単に破壊できるだろう。しかも、小さいとはいえ、デリシアルの騎士と傭兵達全員で警備するにはやはり広すぎるのだ。 そこで、クサナギがエルグラーテAZで砦を攻撃、敵の気を引いている間にホセとレティアスが砦内部に潜入、タフルを助け出そうという作戦に出たのだ。もし、敵がタフルを人質にした場合も、奇襲をかけて助け出すつもりでいた。行き当たりばったりの笊のような作戦だが、時間がない今の状況では、これしか思いつかなかったのだ。 エルグラーテの側には、戦鎧紅葉武雷に身を包んだモ・エギが寄り添っていた。もし、敵の操兵が射撃中のエルグラーテに攻撃を仕掛けてきた場合、それらを近づけないようにするのが彼女の役目だった。そして操手槽には、クサナギの他にマリンも乗っていた。この小妖精の少女はただ好奇心に駆られてついて来ただけなのだが。 一方。潜入組のホセとレティアスも茂みや岩陰を伝って砦側に近づこうとしていた。そんな中ホセは、砦を見ながら潜入口の検討に入っていた。 「さて、俺ならどこに兵士を置いておくか……?」 兵の数が少ないといっても、というよりは兵の数が少ないからこそ、敵はおそらく適所に兵を配置するだろう……同じプロとしてそれを感じ取ったホセは、敵の立場になってそれを考え、そして結論を出した。そして、レティアスを連れて砦の壁面に回り込んだ。相手はおそらく、高台から広視界を見張る筈だ。そこで敵の目がエルグラーテに向いた時を狙って壁面に一気にたどり着いてしまえば、おそらくは気付かれることはない、とホセは考えたのだ。 「さて、行くか。レティアス、プロの技って奴をよく見ておくんだ……!」 「はいっ!」 レティアスはクサナギとモ・エギがロム爺とともに作戦準備をしていたころ、ホセによる特訓を受けていた。騎士に任ぜられるだけあってレティアスの剣の腕はなかなかのものだったが、銃の方はいかんせん心もとないものがあった。そこでホセが彼を鍛えることにした。それは、ホセが手を叩くタイミングよりも早く銃を抜く、という単純ながらに難しいものではあったが、レティアスは何とかそれをこなして、一夜漬けながらも何とか銃も様になるようになった。 そして何とか敵に気付かれずに砦の壁面にたどり着いたホセとレティアスは、クサナギの攻撃開始を待った。 一方、砦の中では、デリシアル騎士達によるタフルへの訊問が行われていた。 「もう一度尋ねる。そなたは二人から我々のことは聞いているのか……」 タフルは余裕の表情で「ああ、聞いているよ。全部!」と軽く答えた。 「聞いているからどうだって言うんだ?。俺も殺すのか!。そうしたいんだったらしてもらっても構わないんだぜ……そうすれば、クサナギとホセが楽になって、お前等をコテンパンにやっつけられるからな……!!」 それを聞いた他の騎士団員がいきりたった。 「貴様……誰に向かってものを言っている!。この方はデリシアルにこの人ありといわれる騎士、セラディル卿サラニス様であるぞ……!!」 セラディスはそんな部下を嗜め、タフルに静かな口調で話しかけた。 「タフルとやら。私もクサナギヒコの噂は聞いている。が、そなたを人質に取られ、しかも刀まで我らの手の中にある。威かな[救国の英雄にして名高い操兵乗り]と云えど、どうすることもできまい……」 タフルはセラディルのその顔にある主の[迷い]が浮かんだのを見逃さなかった。 「まぁ、こうでもしなけりゃ、クサナギ達には絶対に勝てないって事か……」 そのタフルの言葉にセラディルは眉を潜めた。 「勝てぬわけではない!。万全を期して望んだまでだ……!!」 「だったら戦ってみたらどうだ!……俺を人質にしないで、正々堂々と[騎士らしく]な……!!」 この挑発は効を奏した。セラディルは腰の長剣を抜き放ち、タフルにその剣先を突きつけた。 「ならばこの剣に誓おう!。私はそなたを人質にせず、正々堂々とクサナギヒコを討ち取り、我が[使命]を果たして見せる!!」 それを聞いた傭兵隊長が声を荒げた。 「おいおい、そりゃどういうことだよ!。それじゃ、せっかく捕らえたこいつの利用価値が全く無いじゃねえか……!!」 「黙れっレアリス!。雇われの身の分際で、私に指図するなっ!!」 レアリスと呼ばれた傭兵隊長は何か言いたげな顔になったが、とりあえずこの場は何も言わなかった。一応自分の身を弁えてはいるのだろう。そんな光景を見たタフルはセラディルに対して最後にこう言った。 「なるほど……騎士としての誇りはまだ残っていたようだな……だが、クサナギがあんたを騎士として扱うかどうかは保証しないぞ。理由は、あんた自身がよくわかっている筈だ……」 タフルの言葉をセラディルは、ただ黙って聞いていた。 その時、部下の一人が部屋に飛び込んできた。 「セラディル様!。クサナギが現れました!!」 「わかった!」 セラディルは部下を連れてすぐさま砦の防壁に赴き、自機ヴェオルギウスに乗り込むと、部下全員に戦闘体制を取るように命じ、そのまま機体の上半身を壁の上に曝した。そして、丘の上に立つエルグラーテとモ・エギに向かって拡声器を通して叫んだ。 「二人はどうした……!そなただけか……!!」 それを受けたクサナギは、 「レティアスとサライネを渡すわけにはいかない!……そして、同時にタフルと刀も返してもらうぞ!!」 「なるほど、戦いの道を選ぶというのか。だが、三対二……そして刀もない今のそなた達に、いったい何ができるというのだ……」 「武器ならあるぞっ!!」 クサナギはエルグラーテの3リットオートカノンの砲身を砦のヴェオルギウスのいる壁に向けてその引き金を引いた。 「そなた達には、これで十分だっ!!」 |