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その叫びは轟音に変わった。そして砲身から飛び出した砲弾は砦の防壁に命中、長い年月で脆くなっていた壁は簡単に崩れ落ちた!。その衝撃と爆発はデリシアルの騎士達、そして傭兵達を驚愕させるのに十分であった。 「操兵が重砲だと!……いったいあんな物、どこで手に入れたんだ……!!」 慌てふためく部下達にセラディルが激を飛ばした。 「静まれっ!。大砲はそう何度も撃てるものではないっ。すぐに奴に近づけばあやつは装填はできん!!」 その言葉に部下の操兵がすぐさま砦から飛び出し、エルグラーテ目がけて突撃を開始した。確かに、従来の大砲ならば装填が完了する前にエルグラーテにたどり着くことができたであろうが、このオートカノンは発射と同時に次弾装填が完了し、すぐに射撃することが可能なのだ!。 クサナギは迫り来る二機の操兵に対して片方にオートカノン、そしてもう片方には12連装2リットロケット六発を立て続けに発射した。その容赦ない攻撃は突撃してくるデリシアルの操兵にものの見事に命中し、爆発してそれぞれの操兵に多大な被害を与えた。それを見たモ・エギ、そして操手槽で轟音に耳を塞いでいたマリンは目を丸くした。 それは、砦の上で指揮を執っていたセラディルも同様であった。 「馬鹿な!……連射可能な砲に加えてロケット砲だと……!?」 ここは何としてでも接敵して、一騎打ちに持ち込む必要があった。このまま部下の操兵があの新型砲とロケット砲で完膚亡きまでに叩き飲めされてしまうのを阻止しなければならないからだ。セラディルはヴェオルギウスをエルグラーテに向けて前進させた。 エルグラーテAZによる砲撃が始まると同時に、ホセとレティアスは行動を開始した。ホセは砦の上でおどおどしながら戦いを見守っている見張りに銃口を向け、そしてオートカノンの砲撃に合わせて引き金を引いた。その銃弾一発を受けた見張りは何が起きたのか理解できないままその場に倒れた。 「すごい……たった一撃で……?!」 驚くレティアスにホセは、 「気を抜くなよ……!!」 と、声をかけた。が、この後がまずかった。 「ガンマンってのはな……[ガンマ]んするものだ……(我慢するものだ)」 ……………戦場に空っ風が吹いた。それを聞いたレティアスは、 「何だかわからないけど、わかりました!!」 と、自分なりに納得した。 とりあえず見張りを排除したホセは、砦の壁に入り込めそうな窓を見つけると、手慣れた様子でよじ登った。そしてホセと同じように登ろうとして苦戦しているレティアスを助けて窓際に取りつき、中に誰もいないことを確認するとそのまま静かに砦の中に入り込んだ。砦の中はもぬけの殻同然だった。手勢が少ない上にそのほとんどが外の戦闘に注意を向けられていたからだ。 タフルを捜して薄暗い通路を進む二人は、その先のトの字に分かれた通路の奥から聞き覚えのある声が聞こえてくることに気付いた。夕べの戦闘で散弾銃で扉を破った傭兵隊長レアリスのものだった。 「全く、これだから騎士様って奴はよぉ……こんな時だからこそ、人質ってものが役に立つんじゃねえか……!!」 おそらくレアリスはタフルを人質にして戦局を打開、もしくは自分達の身の保全を考えているのだろう。そうなってからでは厄介と判断したホセとレティアスは、ここで彼らと決着をつけることにし、そのまま壁際に潜んだ。人数の差を奇襲で補おうというのだ。ホセは相手の足音から人数と距離を計ろうとした。が、砦の通路に音が響いてしまい、相手が数人はいるということだけしかわからなかった。 「だが、所詮奴等は寄せ集めだ。頭を倒せば後は烏合の衆だ……!」 ホセのその言葉にレティアスは静かに頷いた。 「わかりました。援護しますっ!!」 ホセとレティアスは攻撃の機会を待った。T字路から出てきたところを一気に畳みかけるつもりだ。しかし、敵もそれほど鈍感ではなかった。ホセが機会を伺っていると、その足音が不意に消えたのだ。そして、レアリスの声が通路内の響き渡った。 「出てきたらどうだ……」 その声と同時に数丁の銃が構えられる音が聞こえた。ホセは相手がこれ以上態勢を整える前に撃って出た。自らT字路に飛び出し、腰のバントラインを抜いて続け様に視界内の敵に向けて撃ち放った!。その銃弾はレアリスを含めて合計四人の構えるレバーアクション長銃に命中、レアリス以外の全員の銃を地面に叩き落とした!。 「ふぅ……危ない危ない……!」 何とか自分の獲物を取り落とさずに済んだレアリスは、すぐさまホセに向けて反撃の引き金を引いた!。それは、通常なら軽く避けられる程度の攻撃だったが、抜き打ちと連射を同時に行ったことで注意力が散漫になったホセにとっては致命的だった。その銃弾はホセの脇腹に命中した!!。 ホセは転がりながらも何とか態勢を整えようとするが、今の銃撃による負傷が祟り、思うように動くことができなかった。そこにレアリスが再び銃で狙いを定めた。が、そのレアリスも地面に落ちた部下の銃に足を取られ、思わず均衡を崩し、攻撃の機会を逃がしてしまった。ホセにとってはまさに幸運だった。 だが、それを見た他の兵士が動きを見せた。彼らは落ちたレバーアクションをあえて拾わず、すぐさま拳銃に切り替えてホセにその銃口を向けたのだ!。 「ホセさん!!」 レティアスが飛び出し、手にした剣でホセを狙っている兵士達に斬りかかった!。その援護を受けたホセはすぐさま反対側の壁に飛び込み、相手の視界から完全に身を隠した。 ここでホセはある選択に迫られた。バントラインの残弾は一発のみ。ここでこの一撃に賭けるか、それとも違う銃に換えるか。だが、敵はその銃を換える暇も与えてはくれなかった。レアリスは様子を見ようと顔を出したホセ目がけて再びレバーアクションを向けてきたのだ!。 「これで終わりだ!!」 ホセは咄嗟に身を翻してその銃身から離れようとした。その瞬間、レアリスは引き金を引いた!。が、その銃弾は床を転がるホセの帽子を吹き飛ばしただけに留まった。ホセは宙に飛んだ帽子を掴み、かぶり直しながら再びバントラインを構え直した。どうやら、この一発に賭けるしかないようだ……!。 レティアスはホセの援護の為に必死に剣を振るった。今自分が兵士達を釘付けにしておくことで、ホセはレアリス一人を相手にすればよくなるのだ。レティアスは最初の一太刀で一人を昏倒させ、そして返す剣でもう一人にも致命傷を与えた。なるほど、今まで逃げおおせてこれた理由が納得できる。もともとレティアスはクサナギには及ばないものの、剣の腕はここにいる兵士達よりも上だったのだ。 一方、レアリスは咄嗟に自分の攻撃をかわしたホセの動きについて行けず、思わずその場につんのめった。さらに悪いことに、レバーアクション銃の再装填に手間どってしまった!。今更準備をしても間に合わないことを悟ったレアリスは、腰の拳銃に手を掛けた。ホセ同様、抜き打ちで攻撃しようというのだ。 「奴に出来たんだ……俺にだって……!!」 だが、それより早くホセが動いた。隠れていた壁際から上半身を乗り出すと、一途の希望を込めてバントラインの引き金を引いた!。その銃弾は今にも腰の得物に手を掛けようとしているレアリスに命中、この傭兵隊長は銃を構えることができないまま「ぐはぁっ!!」と悲鳴を上げた。 「今度は、地獄の亡者相手にでも、銃の特訓をするんだな……!」 ホセに言葉を投げかけられたレアリスは、何の返事も返すことができないまま、その場に倒れた。 「ひ……ひいぃぃぃぃ!!」 隊長が倒れるのを見た兵士達は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。やはりこいつらは唯の烏合の衆だった。 敵が逃げ去ったのを見てレティアスが安堵の息をついた時、不意に近くの部屋の扉が叩かれる音がした。二人がその部屋の前に行ってみると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「おぉい、ホセ、レティアス!。俺だ、タフルだ!!」 その声を聞いたホセはすぐさま取りつけられている南京錠を針金一本で解除した。その早業を見て、倒れていたレアリスから鍵束をもって帰ってきたレティアスは舌を巻いていた。ホセはそんな若い元騎士をタフルのいる部屋に入れると、すぐさま銃の弾丸を補充した。 「ところでタフル……ここにはあと、どれくらいの兵士がいるんだ……?」 「もう大して残っちゃいないだろう……それに、あんたが今倒した奴、それが兵士達の隊長で一番の使い手だ。おそらくはあと何人いても大したことはないだろう……」 その言葉を聞いたホセは、レティアスとタフルを連れて砦からの脱出を試みた。 外では、操兵戦も佳境に入っていた。いや、それは戦いとは呼べないかもしれなかった。何せ、エルグラーテAZのオートカノンとロケット攻撃の前にデリシアルの騎士達は成す統べもなく倒れていったのだから。 砲とロケットの同時攻撃が有効であると感じたクサナギは、再びそれを繰り返そうとロケットの発射装置を操作した。が、ここで、というよりはやはり不幸が起きた。残り六発ある筈のロケットが発射しないのだ!。どうやら突貫作業が祟ってどこかで回路が断線してしまったようだ。仕方なくクサナギはオートカノンのみによる攻撃に切り替えた。距離は約20リート。まだ十分射撃可能範囲だった。そしてその攻撃は確実に敵操兵を捕らえ、破損させていった。 それでもデリシアル操兵は執念でエルグラーテAZから約10リートの距離にまで近づいた。が、そこまでであった。筋肉筒、装甲、そして駆動系がほとんど破壊された操兵はそこからはよたよたとしか接近できなかった。クサナギはロケットモーターを作動させてエルグラーテAZを飛翔させると、空中からその操兵に対して止めの一撃を放った!!その砲弾をまともに受けた操兵は今度こそ、動かなくなった。 クサナギがエルグラーテを着地させると同時に、その地面に何かが突き刺さった。それは、セラディルに奪われた筈の御仁の太刀だった。見ると、ヴェオルギウスが刀を投げたままの姿勢で立っていた。どうやら、刀を返した上で決着をつけようというのだ。 「まさかこんなところで、使命が挫折することになろうとは。だが、私は最後の一人になっても、王より賜った任を達成する……それが、騎士の道だからだ!」 セラディルはヴェオルギウスに剣を構えさせると、クサナギのエルグラーテAZに向かって高らかに名乗りを上げた。 「我が名はセラディル・サラニス!。デリシアル騎士団の騎士団長なり!。我が名を聞いた以上、そなたには死んでもらう。私は極秘の任で来ているのだ。私がここにいた証拠は消さねばならない。そなたとは、せめて最後に正々堂々と、剣による決着をつけよう……!!」 だが、クサナギはそれに答える代わりにヴェオルギウスに向けてオートカノンを発射した。その砲弾は騎士の礼節に乗っ取って剣を掲げるヴェオルギウスの足もとに着弾、その衝撃はセラディルを混乱させるのに十分だった。 「貴様!あくまで正々堂々とは戦えぬというのか!!」 取り乱したセラディルに、クサナギは冷徹に言い放った。 「任務の為と称して何も知らない村を全滅させ……何の罪もない村人を皆殺しにし、そしてさらに多くの者を巻き込んだそなたを私は騎士とは認めない!。故に私は名を名乗らない。そしてそなたを行きずりの悪党として成敗するのみ!!」 そう、クサナギはタフルの言葉通り、セラディルを騎士として扱うつもりはなかったのだ。クサナギはさらに決定的な言葉を続けた。 「そなたのような[騎士を偽る者]はこの砲弾で沈むのが相応しい!!」 セラディルはクサナギの言葉に激怒した。が、だからといって正面から言い返すこともできなかった。何せ、何の武力も持たない村を焼き討ちし、村人達を惨殺したのは紛れもない事実だったから。しかし、セラディルはそれでも、いや、だからこそここで引くわけにも行かなかった。[すべては任務の為]。今のセラディルにとって、この言葉だけがすべてだった。そしてそれこそが、自国の為だと信じているのだ。 「私は……国を守る為に戦っているのだぁ!!」 セラディルは自分に言い聞かせるように叫び、ヴェオルギウスをエルグラーテAZに向けて突進させた。勝利する為だけではなく、自分の誇りを取り戻す為にもここは何としてでも剣による勝負に持ち込まねばならなかったのだ。 だが、クサナギはそれを許すつもりはなかった。 「抗う術もなく、殺されていったもの達の無念を思い知るがいい!!」 エルグラーテAZは容赦なくオートカノンをヴェオルギウスに向けて撃ち放った。その攻撃を立て続けに受けたこの高貴な騎士を形どった操兵は瞬く間にその身が見るも無残に砕かれていった。が、装甲が砕け、筋肉筒が千切れ飛んでもセラディルの執念はそのヴェオルギウスをエルグラーテAZに接敵させた!!。 オートカノンを含むあらゆる砲は本来は遠距離戦向きに作られており、ある程度の近距離ではその威力を十分に発揮することができない。セラディルはそれを狙って突進させたのだ。いくら破損のひどいヴェオルギウスでも、いや、逸品の誂え物であるヴェオルギウスであればこそ、クサナギが砲から刀に切り替えている間に攻撃を加えれば、おそらくはこの[卑劣な]操兵に大打撃を与え、戦闘を振り出しに戻すことが可能である筈だった。 が、クサナギはそれでも御仁の太刀を拾おうとはせず、両肩部の96式輪回機関銃を展開させ、二丁を同時に発射した。彼はあくまで飛び道具で決着をつけるつもりであり、そして轟音とともに発射された弾丸の雨は、既に崩壊寸前だったヴェオルギウスを粉々に粉砕し、その身を完膚亡きまでにスクラップに変えた。 ヴェオルギウスが完全に沈黙したのを見届けたクサナギは、その倒れた機体の側にエルグラーテAZを寄らせ、オートカノンの砲口を仮面に押し当てた。 「そなたのような者は……このような最後が相応しい!!」 「やめろおぉぉ!!」 セラディルの悲鳴を無視してクサナギがオートカノンの引き金を引くと同時に、砲弾が爆音を轟かせてその仮面を砕いた。 戦闘は終わった。モ・エギは御仁の太刀を地面から引き抜くと、それをエルグラーテに差し出した。 「はい……クサナギさん……」 「有り難うモ・エギ……」 クサナギはエルグラーテに太刀を掴ませると、それをアサルトザックのカノン砲の反対側に新たに取りつけられた鞘に納めた。 外の操兵戦が終わったのを、ホセ、レティアス、タフルは砦の上から確認し、クサナギとモ・エギの元に歩いていった。 「終わったようだな……レティアス……」 ホセの言葉にレティアスは満足げに頷いた。その側ではタフルがエルグラーテのオートカノンを見て驚いていた。 「ありゃぁ、ロム爺さんが大切にしている試作型自動装填砲じゃないか!。何でエルグラーテがあんな物付けているんだ?……あれは俺がさんざん頼み込んでも、誰にも売らないと言って聞かなかったものなのに……!!」 「あぁ、あれはロム爺さんがあんたを助け出してくれるなら、と言ってクサナギに譲ったんだ……」 それを聞いたタフルは一瞬驚き、そして感激した。 「そうか……爺さん、そんなに俺のことを大事に……友人として思っていてくれたんだな……」 そしてエルグラーテAZとホセを見て、 「あんたとクサナギ、ロム爺さんには返し切れねぇ借りができちまったな……」 と、呟いた。ホセは「こいつも忘れるな!」と言ってレティアスを指さした。それを聞いたタフルは笑顔で「そうだったな……」と付け加えた。その言葉にレティアスは、 「礼には及びません。もともとは僕たちが巻き込んでしまったんですから……」 と、罰の悪そうな顔で答えた。 その時、倒れたヴェオルギウスの中からセラディルがようやくの思いで這い出てきた。そしてレティアスに向かって叫んだ。 「あれが……あの事実が世間に広まれば我が国の王家はお終いなのだぞ……!!」 その言葉にクサナギが再び激怒した。 「その為に……そんな[下らぬ事情]の為に、いったい何人の犠牲者を出したのだ!!」 そしてホセも興奮するセラディルの側によって銃口を突きつけ、こんな事を言った。 「国って言うものは、民がいてこそ成り立つんだ。この村の者がお前の国の民だったら、同じことができたか?。民がいなくなれば、国はなくなっちまうんだぞ……!」 その言葉にこの高潔である筈の騎士は俯いたまま答えた。 「私は、国を守る為にはあらゆるものを犠牲にしなければならないのだ……!」 「そなた等は王朝結社と何ら変わりはないな……そなた等には村を一つ潰した罪滅ぼしをしてもらわねばならない……!!」 そのクサナギの言い様に今度はセラディルが激怒した。 「奴等は唯のテロリストだ!。それに……戦争になれば村一つ程度が犠牲になるなど当たり前だ!!」 その開き直りにクサナギは呆れ返り、静かに言い放った。 「そなた達のような者は常にそういって、自らの罪をその言い訳で誤魔化してきただけだ!!」 さすがに今の言葉には堪えたのか、それっきりセラディルはその口を閉ざしてしまった。そんな彼にホセは静かにこんな事を言った。 「一部の歪んだ思想に振り回された民達のことも考えてみたらどうだ……」 クサナギは最後に、セラディルを含むデリシアルの騎士達にこんな言葉を残した。 「せめてもの情けだ……そなた達を[国の名を騙った偽騎士]として役人に突き出してやる。そうすれば、とりあえずはそなたの国の名誉はある程度は守られよう……だが、それはそなた達の国の王家の為ではない!。事実が広まることでそなたの国の民が余計な被害を受けることがないようにするためだ!!」 これは彼らにとっては苦い選択だった。確かにこれによって国の名誉は守られはするが、代わりに自分達が[偽騎士]というレッテルを張られてしまうのだ。その事に耐えられなかったセラディルの部下の一人が自棄になって叫んだ。 「大砲などを持ち出した卑怯者の情けなど受けはしないぞ……!!」 「人質を取ったそなた達の言う言葉かっ!!」 クサナギの返す叫びを受けた騎士は何も言い返せなかった。その言葉にはセラディルやもう一人の部下も堪えたようであった。 「確かに我々は騎士として恥ずべきことをしてしまったのは事実だ。しばらく牢の中でその事をじっくりと考えることにしよう。我々が帰らなければ、レティアスとサライネの居場所は国にはわからないだろう。我々を突き出すがいい……」 セラディルはやっとの思いでそれだけを言うと、腰の剣を捨ててその場に座り込んだ。それを見た二人の部下も嗚咽しながら隊長に習って剣を捨てた。 その後一行はタフルとレティアス、そして捕らえたデリシアル騎士や傭兵を連れてロム爺の店へと戻った。その間タフルは自分をひどい目に会わせた傭兵をドツキ回し、それに対して暴れ出した傭兵をモ・エギが押さえるという光景が繰り返された。そして操手槽の中では、マリンが轟音の衝撃のためにいまだにヒーヒー言ってうだっていた。 その途中、ホセはレティアスにいつの間にか摘んでいた道端の花を渡した。 「これはサライネに渡してやりな……」 「あ……ホセさん、どこへ……?!」 「風に聞いてくれ……」 そしてホセは一行から別れた。どうやらデリシアル騎士から二人を守ったことで、自分の[仕事]は終わった、と感じたのだろう。クサナギは操手槽から顔を出し、ホセの背中に声をかけた。 「風がこちらに向くことがあったら、また逢おう……」 「アディオス!」 ホセは振り返ることなく新たなる旅に立った。 店の前ではロム爺とサライネが一行の帰りを心配そうな顔で待っていた。それを見たレティアスは満身の笑顔で彼女の元に駆け寄った。そんな二人にモ・エギは心地好い気分になった。今の今まで言ってはいなかったが、おそらく二人は今までの逃避行の中で愛が芽生えていただろうから。そしてモ・エギはその自分の中にその二人に対する嫉妬が生まれなかったことにも気付いていた。そう、今の自分にはクサナギがはっきりと[そこにいる]のだから。 クサナギはロム爺にオートカノンの礼を改めて言った。 「だが、本当に良いのか?……私がこのような物を受け取って……」 ロム爺は大きく頷いた。 「かまわんよ。あんたが使ってくれるなら、悪いようにはならんだろうし、簡単には奪われんだろうからな。だが、今後はそのような武器を所持した者が敵として立ち塞がることも増えるかもしれんぞ。そのオートカノンほどでなくとも、連射可能な砲は次々と開発され、操兵にも搭載可能となってきている。それと……」 ロム爺は次にクサナギが持って帰ってきたデリシアル騎士達の操兵の残骸に目をやった。 「この隊長の奴は[唯の誂え物]だろうが、部下の乗っていた操兵は[アルシェレイラ]という機体でな……聞いた話によるとメタモ・レイド工房で製作されたアルキュイルの後継機で、まだ一般には出回ってはいない筈だ……」 「最新型……?!」 「時代は進んでいるんだ。お前さんの思った以上にな。だが、儂はそんな時代の進みについて行けず、こんなところに隠れているというわけだ。あ、オートカノンの出所は言うなよ。まあ、壊れた時はいつでも修理してやるからな……」 「かたじけない。この砲は大事に使わせてもらおう。だが……」 クサナギはここで、オートカノンを見た時から感じていた疑問をロム爺にぶつけてみた。 「ロム爺……そなたはいったい何者なのだ……?」 その質問にロム爺は少し寂しげな笑みを浮かべて答えた。 「それは聞かん方がいい。儂も言いたくないしな……」 今までの会話からおそらくロム爺は、どこかの工房都市で技師をしていたであろうことは容易に想像できる。それも、おそらくはかなりの地位にいただろうことが。果たしてそんな人物がなぜ、工房都市から逃げ出したのだろうか……このようなオートカノンを抱えたまま。だが、クサナギはあえてそれ以上聞こうとはしなかった。そのほうが互いのためになると判断したからだ。自分がロム爺の素性を知らないことで、その上でクサナギが沈黙することでロム爺の居場所が必要以上に広まることを阻止できるのだから。 そしてクサナギは、先の話から、対この前に戦ったクロウの狂操兵ディノジェイラを思い出していた。あの少年はいったい、どこであのような装備を手に入れたのだろうか……そして今後も、あのような操兵で自分に挑んでくることがあるのだろうか。 その後、故障したロケットの修理と、アサルトザックを本体色に塗装し直しが完了した[新造古操兵ファルメス・エルグラーテAZ]は、正式にクサナギに譲渡された。今後は砲弾やロケット等の消耗品の入手はタフルに頼ることになった。先のロム爺の話ではないが、ごく希に渡世人の中にも大砲を使用している酔狂な者がいるので、タフルに限らず、一部の部品屋はそういった物も取り扱っているのだそうだ。 翌日、一行は知らせを受けてやってきたラフサの警備隊にデリシアルの騎士と傭兵達を引き渡した。騎士であった筈の者が、犯罪者護送用の馬車に乗せられる姿はどことなく涙を誘うものだった。そんな中、セラディルはクサナギにこんな言葉を言った。 「もし私が、もういちど騎士として立ち直ることができたら、その時は今度こそ剣による勝負を受けてくれるか……?」 「考えておこう……」 その返事にセラディルは寂しげに微笑むと、そのまま護送用の馬車に乗せられ、詰め所へと送られた。その後は裁判を受けて強制労働所送りとなるであろう。それが[野盗]が受ける刑罰の定番だったからだ。 「じゃあ、クサナギさん。私たちも行きましょうか。ホセさんも旅立ったことだし……」 その言葉にクサナギ、マリン、そしてタフルは同意した。そしてレティアスとサライネもロム爺に別れの挨拶を済ませていた。 「僕たちはとりあえずライバに行きます。その後、どこへ行くかはそれから考えます」 「ホセさんや皆さんのおかげで、もう私たちを追ってくる者は当分いないでしょう。ホセさんはもう旅立ってしまったけれども、皆さんに改めて……あ、あれ? 戻ってきたみたいです……」 サライネが指さした方向を見ると、ホセを乗せた馬が土煙をあげてこちらに向かってくるのが見えた。 「もう、風がこちらに吹いたのか……?」 馬上のホセは一行に合流すると、レティアスとサライネにこう言った。 「約束をしていたんだよな……あんた達二人をライバに送り届けるってな……」 そして遠い目をして、 「ま……風が呼び戻したんだ……」 そんなホセにクサナギはライバまでの同行を申し出た。もっとも、自分達もライバに変えるのだから同行も道連れもないのだが。 「そうですね……旅の道連れは多い方がいいし……じゃ、出発しましょう……!」 モ・エギの言葉と同時に一行は、ロム爺の見送りを受けてライバへの帰還の旅に出発した。その後は再びホセ、レティアス、サライネとは別れるのだろうが、それはまたいつかどこかの空の下で逢えるだろう、とクサナギは思った。そして、それと同時にレティアスとサライネの旅の無事も祈った。今までの追っ手はもういないとしても、いつまた、次の追っ手が来ないとは限らないから。 だが、二人の表情は今までになく明るかった。おそらくこれならば、どんな困難も二人で乗り越えていくことができるだろう。 数日後、一行は無事にライバの街に着いた。その時、AZ装備のエルグラーテを見た衛士が取り乱したりもしたが、それはまた後日、ということで。 いや、言い残した事が一つ。ホセはライバまでの旅の間、ある後悔の念に捕らわれていた。 「そういや、最後の戦いの時にあんまり[駄洒落]言えなかったな……」 ……………………。 |