キャンペーン・リプレイ

第 三十二話 「 怨 念 の 古 き 館 」   平成12年12月17日(日)

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 ここはご存じライバの街。一行がアクラの骨董市での事件を解決、そして帰ってきてから一週間が経過していた。間もなく雨季ということもあってか、ここのところ気温のほうもだんだんと涼しくなりつつあった。
 そんな中でクサナギはエルグラーテと土木工事、ミオはジュウコーの元での操兵修理、静夜はようやく竜の牙亭とナバール一座の間の道を覚えたりと、あいも変わらずの生活に戻っていた。そして今ライバの街には、一行に興味を持ってついてきたヴァネッサと、しばらくぶりにライバに戻ってきたイーリスもいた。
 そんなある日、ミオがブラッティマリーとウォークマンデの整備に勤しんでいると、静夜がマリンに引っ張られるように工房を訪れた。別にマリンが無理やり連れてきたわけではない。静夜はまだ、竜の牙亭からここまでの道を全く覚えていなかっただけなのだ。
「ミオ様ミオ様、これ、お弁当ですー……」
(……何でこのお姉さん、アタシんとこに寄ってくるかな?……別にどうでもいいけど……)
 最初、ミオはこの静夜の行動が不思議でならなかった。別に鬱陶しいわけではないが、どうしていつも自分のところに寄ってくるのかが気になってしょうがなかったのだ。だが、今ではそれについて問いただすのは諦める事にしていた。ミオにとっては口車の通じない相手は苦手だ。そして[何を言っても堪えない]節がある静夜はその典型と呼べる存在……そう、ミオにとってはまさに[天敵]だったのだ。
「肩を揉んで差し上げますねー、かなり凝っているようですしー……」
 もしミオがこの時、静夜が武繰の手練の使い手だと知っていればおそらくは「嫌だ!」と答えたであろう。だが、ミオはそんな事とは露知らず。断ってもするのがわかっているので、とりあえず好きにさせておく事にした。
 そんな時、静夜が裏手のスクラップ置き場に目をやりミオに言った。
「ミオ様はああいったものを集めるのが趣味なんですかー……?」
「集めるのが、じゃない。組み直すのが趣味なんだよぅ……」
 それを聞いたジュウコーが口を挟む。
「五機分もあれば、一機くらい組み上がるだろう。だが……」
 そう言ってジュウコーが目をやった先では、骨董市の事件の際に倒した操兵[リグジェイラ]の筋肉筒の一つが機体から取り外されているにもかかわらず脈動し、そして異臭と煙を放って懐死、崩壊するのが見えた。
「あれは、使いたくないぞ。あんな不気味な部品は……」
 懐死を起こしたのはフィランディの乗機だった赤いリグジェイラの部品だった。事件の後ゼノアは操兵の出所を調べるためにフィランディ一味の取り調べに同行しているが、彼らは事件解決後[何故か]放心状態が続いており、調査は一行に進んでいないという。
「あーミオ。筋肉筒は使い物にならんから、装甲その他を分解してスクラップ屋に売り払っとけ。装甲もどの道あの形のままでは流用できんから、地金に戻しておくんだ」
 ジュウコーに言われてミオがウォークマンデに乗り込んで作業を始めようとした時、工房の前に一台の豪奢な馬車が乗りつけてきた。そして馬車の中から一人の初老の男性が降りてきた。どこかの豪商の使者だろうか、正装に身を固めたその男性は丁寧な口調で用向きを伝えてきた。
「私はクリスヤマ操兵製作所のものです。ここにクサナギヒコ様がいらっしゃると聞いたのですが……」
「ハニ丸様なら、今はお仕事でお出かけしていますよー……」
 絶妙の間を置いた静夜の返事に、男の姿勢が微妙に崩れる。
「……実はですね……わが社の社長が、新開発の操兵の試験として、ぜひともクサナギ様のエルグラーテと模擬戦を行いたいと申しております。もし、都合がよろしければ、この依頼を受けてはくれないかと……」
 最新型と聞いてミオが目を輝かせた。クリスヤマ操兵工房といえばギルダーム、レストアールなどの安価な再生操兵を製造、さらにダイ・ザッパーに取りつけられた自動可変腕機構を開発したライバ一の操兵製造工房で、本家の工房都市には及ばないものの独自の操兵および関連技術を開発しているところだ。そのクリスヤマの新開発の操兵となると、どのような新機構か操兵フェチのミオとしては非常に気になるのだ。
「そういう事だったら、首根っこ引っつかんで連れてきますよ!」
 と、ミオが目を輝かせながらいうと、静夜がおもむろに、
「はーい……じゃ、静夜が見つけてきますー……」
 と言ってあさっての方向にトコトコ歩き出した。それを見たミオが慌てて引き止めると静夜は、
「ミオ様も一緒に行くんですか?じゃあ、一緒に行きましょうか。そんなにクサナギ様に逢いたいんですね……」
「そういう訳じゃなくってー!」
 途中まで言いかけたミオだが、最後まで言おうとすると疲労感に襲われたような気がしてそこで会話が途切れた。そんなミオの肩にマリンが座り、(気持ちは察するよ……)と言いたげにポン、と後頭部に手を当てた。
(……そうだ……ここはマリンに任せてしまえば……)
 ミオがそう思った時、マリンはその考えを読んでか読まないでか、
「マリン、親方とお茶してるねー」
 と、ミオの肩を離れてジュウコーの頭の上に移った。最初はマリンの存在に驚愕して寝込んでしまったジュウコーだったが、最近ではすっかり茶飲み友達となっているようだ。
「こうなっちまったら仕方ないな……操兵の解体は後でいいや……」
「じゃ、行ってらっしゃいねー(笑)」
 結局、夕方社長自らここに来るというので、それまでにクサナギに話を着けておくという事で話は着いた。当のクサナギ本人には何の了解も得ずに……。
「では、マリン様、バイバイですー……」
 静夜はミオを引きずりつつ工房を後にした。ミオはマリンに(裏切りものぉ〜)と言いたげな視線を送りながら、正反対の王城の方に向かおうとしていた静夜を正しい道に誘導しつつクサナギを捜しに町のはずれに向かった。
 そんな二人と行き違うように、ジュウコーの工房にヴァネッサが戻ってきた。彼女はライバについて以来ずっと、この町の主要な名所を見て回っていた。が、ここは産業都市。工場の類いはあっても観光(都市国家にそういう概念があるかはさておいて)に向いた場所はあまりないのだ。ヴァネッサは仕方なく自分の操兵のある工房に戻ってきたというわけだ。
 工房に戻ってきたヴァネッサにジュウコーとマリンはお茶を出して持て成した。そしてジュウコーはブラッティマリーを見上げてヴァネッサに訪ねた。
「あんたの操兵、壊れとらんかったから、修理はしてないぞ……それにしても、あんたの操兵、どこかの貴族の家に伝わる特注機のはずだろ?……軽装高機動が売りの優美な機体に、12連装ロケットが四基にガトリングガンを三基……何が悲しくてこんな重装備にしたんだ?」
 その言葉にヴァネッサは自機を見上げてただ、こう呟いた。
「面白そう……だったから……」
 その言葉を聞いたマリンはジュウコーをつっついて訪ねた。
「親方親方、操兵に乗る人ってみんなこんな?」
「半分は、な……」
 半ば呆れ返りながら答えるジュウコー。だが、そんな彼でもエルグラーテのアサルトザックには興味を示していた。さすがにカノン砲の類いは専門外だったが、それを固定している機構そのものには驚嘆を覚えていたのだ。
 一方、クサナギは今日もエルグラーテで土木工事の現場で仕事に励んでいた。さすがにアサルトザックは置いてきてはいるが、やはり一般の作業用操兵に混ざって作業をする大型の戦闘用重操兵は目立ち、どこか浮いているような感じがしていた。
 クサナギを捜しにやってきたミオはそんなエルグラーテを見て、
「相変わらず目立つやっちゃなぁ……」
 と、呟いた。が、側にいた静夜はおもむろに工事現場にトコトコと近づき、
「ハニ丸様どこですかー……?!」
 と叫んだ。どうやら静夜の目には操兵がいまだに[稲穂のなかに揺れている案山子]にしか見えておらず、エルグラーテとほかの操兵の区別が全くできないでいるのだ。
 そんな声に真っ先に反応したのはエルグラーテの仮面だった。以前[ハニ丸様そっくり]とか[案山子]とか言われた事をずっと気にしているようで、しかも振り向くまでは他の操兵と区別さえできない静夜の声を聞いたエルグラーテは、(マタキタ!)と、操手であるクサナギに伝えないように集音装置を遮断してしまった。
「ミオ様、ハニ丸様はこちらにはいないようですよー……」
 [ムキになって振り向こうとしない]エルグラーテの姿を見たミオは、両手でメガホンを作って、
「意固地になるなエルグラーテ!」
 と叫んだ。それを聞いたエルグラーテはとりあえず態度を和らげ、集音装置を作動させた。
「何かあったのか……!」
 ようやく静夜の呼び声が聞こえたクサナギはエルグラーテを降り、ミオの話を聞いた。
「なるほど、クリスヤマの社長が私のエルグラーテを相手に自分達の新型操兵を試したいと……」
「それをミオ様は了承したみたいですよー……」
 いつの間にか進んでいた話に呆れ返りながらもクサナギは、了承してしまった事は仕方ないと、とりあえず自分も承諾する事にした。どの道この現場は日雇いで雇われているので一日くらい抜けても何ら問題はないし、模擬戦ならばそれほど無駄な損傷は受けないと考えたのもあった。
「て、訳で今日の夕方には社長来るからね……!」
 ミオはそう言ってにっこりと笑った。
 クサナギとミオが夕方の打合せをしているころ。静夜はエルグラーテの正面に立ち、その仮面をじーっと見つめた。それに対してエルグラーテは、どことなく(アッチイケヨ!)とばかりに仮面の奥の目をさり気なく逸らした。
「エルグラーテ様、何か元気がないようですけど、どうしました……?」
 初めて名前を呼ばれたエルグラーテはどう対応したらよいかわからなかった。が、どうせクサナギが乗っていないのだから[無理をして]反応することもないと考え、とりあえずはそのまま黙っている事にした。
「ところで、ミオ様ー、そろそろ帰るのですかー?」
 静夜の問いにそんな光景を眺めていたミオは、
「見てても楽しいんだけど、そろそろ帰ろうかな?」
 と、そっけなく答え、二人は工事現場を後にした。
 クサナギと別れたミオと静夜が差しかかったところはライバ操兵闘技場だった。ここは以前、操兵武闘大会のために立てられた闘技場だが、今では一般に開放され、今日も渡世人の操兵乗り同士が野試合などを繰り広げていた。
「ミオ様、行くんですかー……?」
「そだね、覗くだけ覗いてこよーっと……」
 二人が闘技場に入ると、中では既に二機の操兵が試合の待つ最中だった。観客席では仕事もせんと昼間から出来上がっているような人々が数名、それぞれ応援する操兵に声援を送っていた。それは決して盛況と呼べるほどの人数とは言えなかったが、それでも二機の操兵は互いの仮面を賭けて熾烈な戦いを繰り広げていた。
 片や毛皮の装飾に身を固めた大型の操兵は、胴左右に牙のような武器を取りつけており、その姿はさながら北方の奥に住まう伝説の獣[まんもー]のようだった。そして対する操兵は両腕に動力式の万力を装備し、さらにその頭部も同様の形状そっくりに装飾した、小柄ながらも膂力を感じさせる機体だった。
「[色物]対決……」
「毛むくじゃらのほうは[毬藻さん]に見えますが……」
 そのころ。工事現場はちょうど昼休みに差しかかり、クサナギも昼食を取っていた。その時、闘技場の方から操兵が派手に倒れ、バラバラになる音が響いてきた。それを聞いた一人の人足がクサナギに話しかけてきた。
「なぁ、あんたもこんなところで土いじりしているよりは、闘技場で稼いだほうがシノギ良いんじゃないか?何もこんなところで銀貨数枚ぽっちをチマチマ稼ぐなんざ……」
 その言葉にクサナギは笑みを浮かべたままこう返した。
「私は無意味な決闘は好まない。そもそも操兵が不用意に傷つけば、それこそ元が取れないからな」
「だがよ、せっかくの強そうな操兵がこんな土方作業で泥だらけになっちまったんじゃあ……」
「エルグラーテはファルメス・グラーテのころから国で農作業や土木作業に駆り出していた。だから、私もエルグラーテも別に何とも思ってはいないが……そもそも私の国では父王が先頭に立って鍬を振るっていたからな」
 それを聞いた人足達は一瞬[クサナギの国]は小屋一つ畑一つ、王の家族のみの[ささやかな家庭菜園]を連想した。
「本当に……[国]か……?!」
 闘技場では、まんもー操兵が万力操兵を巨大な牙で噛み砕いて勝利を収めていた。
「[毬藻]が勝った……」
「[毬藻さん]が勝ったんですか……」
 冗談のような試合が終わるとミオは「色物に興味はないっ!」とばかりに闘技場をあとにした。が、静夜はおもむろに試合場に降り、今の試合で打った打ち身の腕を押さえて降りてきた万力操兵の操手の元に駆け寄り、あっという間の早業で湿布を張って去っていった。
「隙がない……一瞬のうちに俺の間合に入り込み、一瞬のうちに湿布を張って去っていった……何者だあの女?!!」
 だが、静夜はすぐに茫然となった。ミオが先に行ってしまったために帰り道がわからないのだ。しかし、静夜を置いてきた事に気付いたミオがすぐに取って返して静夜の手を掴むとそのまま連れ去ってしまった。
「さらに[その素早い]女の間合に入って一瞬のうちに手首を掴んで連れていくあの別の女は何者だ?!!!」
 それを聞いた男の付添い人がこう言った。
「あれがこの街で有名な[ジュウコー親方の弟子ミオ]だ……!」
「…[ミオ]!あの新造古操兵ファルメス・エルグラーテを製作したという[ライバの子ダヌキ]か!!な、なるほど、道理で……」
 その言葉を発した時、去っていったはずのミオが静夜を連れたまま、土煙をあげて戻ってきた。
「だぁれが[子ダヌキ]だぁ!!」
「[子ダヌキな黒子]ですよぉ……!」
 こうしてまた、怪しげな[伝説]が生まれた。ライバから旅立つであろうこの渡世人の手によって……。本来王朝結社の事件から半年以上経っている時点で忘れられているはずの彼らがいまだに有名なのは、おそらくはこうやって[新たな伝説]を次々と生み出しているからであろう……。

 その日の夕方。クサナギはその日の日銭を受取りジュウコーの工房に帰宅しようとした。が、工房に近づき、出迎えた静夜を見た途端エルグラーテの様子が急におかしくなった。別に故障したわけではないが急に[従順な]反応を示したのだ。まるで[意思のない機械]のように……。
 何の事はない。これは以前ゼロに「グラタン]と呼ばれた時に見せた、[機械に徹する事で嫌な事を忘れる]というエルグラーテ独自の行動だった。
 ジュウコーの工房にはミオ、静夜、ヴァネッサ、そしてジュウコーとマリンのほかにイーリスの姿もあった。ライバに戻ってきていたイーリスは特に何か仕事をするでもなく暇を持て余していた。別に斡旋所に仕事が来ていなかったわけではない。ただ彼女はクサナギのように[労働者として働く]事が面倒なだけなのだ。
 だが、一行を何より驚かせたのが、近ごろ[イーリスが子供を相手に剣術などを教えている]という事だった。それは街道でイーリスの[様々な]噂を聞いていた静夜のみならず、今までイーリスをそれなりに見てきたクサナギ、ミオをも驚愕させた。
 一行のそんな様子に憤慨するイーリスだが、動機を問われた彼女が
「子供[には]未来がありますから。[未来のない大人]はどうでもいいんです……」
 と、さらっというのを聞いたミオは、
(……そういう割り切り方はやっぱりイーリスだな……)
 と、つくづくそう思った。