キャンペーン・リプレイ

第 三十二話 「 怨 念 の 古 き 館 」   平成12年12月17日(日)

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 その時、工房の前に先ほどの馬車がやって来た。どうやら[社長]のおでましのようだ。馬車は先ほどと同じように工房の入口前に乗りつけた。そして中から降りてきたのは先ほどの使者だった。さらに身なりを整えてきたところを観ると、この男性が実は社長なのだろうか……。
 いや、違うようだ。男性は馬車を降りると、中にいるもう一人の人物に話しかけた。
「お嬢……いえ社長、着きました」
 その言葉の直後に馬車の中から降りてきたのは何と、まだ十六、七の少女だった。今の話からすると彼女がクリスヤマ操兵製作所の社長なのだろうか……。
 少女はお嬢様独特の優雅な姿勢で一行の前に立ち、これまた丁寧なお辞儀をした。それを見た静夜はおもむろに少女の前にトコトコ歩み寄る。そしてこれまたおもむろに自分より若干背の低いこの少女の頭を「いーこいーこ」と撫で始めた。
「お嬢、じゃない、社長に何て事を……!」
 だが、当の[社長]は満更でもない、という表情で静夜を見た。
「どちら様なのでしょう……」
「[お医者様]です……」
 …………この答えに一瞬だが、静夜を除く全員が唖然となった。
「ミオ。だめでしょう、ちゃんと見てなくちゃ……」
 イーリスのその言葉にミオは諦めた表情で、
「何も言わないで。無理……あの人に関しては……」
 と呟く。そしてマリンもジュウコーに訪ねた。
「ホントにあの人、[お母さん]になった人なの……?」
「……知らん!!」
 少しして一行が落ち着いたころ、少女がようやく本題の話に入った。
「もうしおくれましたわ。私はフィリア・クリスヤマ。クリスヤマ操兵製作所の現社長を勤めておりますの。今まで当社は作業用操兵を中心に開発を続けていましたが、この度、これまで培ってきた技術を導入して新型の戦闘用操兵を開発いたしました」
 今までこのクリスヤマ操兵製作所が製作した操兵は、ギルダームを除いてそのすべてがレストアール型の作業用の機体がほとんどだった。だが、今度開発したのはどうやら戦闘用の機体らしい。そして依頼内容はどうやらその性能評価の試験として、クサナギのエルグラーテに模擬戦闘の相手となってもらいたいという事だった。
「と、言う事は、その操兵は戦闘用なのですか?」
 イーリスのその質問にフィリアは少し自慢気に答えた。
「そうですが、以前のギルダームのような見掛け倒しではありませんの。確かに、ギルダームの後継機ではありますが……」
 その答えにヴァネッサ、マリンを除く一行は唖然となった。[MRR−RT−LK09ギルダーム]は、クリスヤマ操兵工房が製作した戦闘用再生操兵だ。だが、この機体は戦闘用とは名ばかりの低性能で、その戦闘能力はレストアールと大差はなく、全身に防御とコケオドシを兼ねた増加装甲によって辛うじて体制を取り繕っている操兵だ。その後継機と聞いた一行は、既にその機体の程度が見えたような気がした。
 だが、それでもこの少女社長の自信の笑みは消えなかった。
「今度の機体は先代の社長である父上が作った、あのようなハリボテではございません。確かに工房都市製の操兵と比べると基本性能は[若干]落ちますが、搭載した[数々の新機構]を駆使すれば、より格上の機体とも互角に渡り合えるはずです。そこで……」
 ここでフィリアはクサナギに目をやった。
「その新機構の真価を問うべく、ライバ周辺では最強格であるクサナギ様の新造古操兵ファルメス・エルグラーテと、ぜひともお手合わせ願いたいのです!」
 側では付き人が汗をふきながら困った顔をしていた。それを見たミオは(話半分だろなぁ……けど、どうせ受けるのはクサナギだし……)と、考え、再びフィリアに関心を向けた。
 その時、今まで黙って聞いていたクサナギが口を挟んだ。
「だが、自分でこういう言い方は好まぬが、私のエルグラーテを相手に選ぶという事は、それほどの自信なのであろうな」
「確かに基本性能では劣りますが、私どもが開発した[新装備]に対してはエルグラーテを含む現行の操兵では太刀打ちする事はできないでしょう。そう、[あの装備]には!」
 そのフィリアの自信溢れる言葉を聞いたミオは目を輝かせて彼女に詰め寄った。
「へー、ほー、ふーん……で、具体的にどのような試合方法でやるんですか?!」
「まだ一般に公開する訳にもいかないのと、広い場所が欲しいので軍の演習場を借りて行う事になっております。どうせ最初に導入するのはライバ軍という事になりますから……」
 フィリアの言葉にイーリスは少し憂鬱になった。彼女は知っての通り、[王朝結社の乱]の際、一時的に新生クメーラ帝国軍に身を置いていた。確かにサイラスを追い詰めた功績は認められたが、その行動は一部の心ない者達(主にライバ国軍人)からは[保身のためにまた寝返っただけ]と陰口を叩かれていたのだ。彼女とて妙齢の女性、そうした声が堪えぬわけは無い。だが山より高いプライドと普段の言動から、孤高の女剣士の心中を察するものは皆無だった……合掌。
 その後、何だかんだの話の末にクサナギはこの話を受ける事にした。別に戦いが好きというわけではないが、フィリアの言う[新機構]とやらに興味が湧いた事も事実だったので、模擬戦程度なら構わないと考えたのだ。
 クサナギの承諾の言葉を受けたフィリアは表情を明るくし、
「では、引き受けてくださるのですね!それでは明日の早朝、ライバ城裏の演習場でお待ち申し上げております!!」
 と告げ、一行に軽くお辞儀をすると再び馬車に乗り込もうとした。その時、今まで黙っていた静夜がフィリアに話しかけた。
「あのー……できれば静夜を今晩止めていただけませんかー……?」
 静夜はとても(ミオ曰くライバ随一)寝起きが悪い。そこでフィリアの屋敷に泊めてもらう事で朝間違いなく起こしてもらおうというのだ。静夜のその突然の申し出に一瞬戸惑ったフィリアだが、すぐに笑顔に戻ると、
「構いませんことよ。私も貴方に興味がありますし……今晩ゆっくりお話でも……」
 と、快く承諾した。それを受けた静夜もまた笑顔で、
「はい、お邪魔させていただきます。それではミオ様……」
 と何故かミオの袖を掴む。
「ちょっと、待って!アタシは今晩エルグラーテの整備が……!!」
「女の子同士でお話するのもいいでしょー?……それに、エルグラーテ様って整備必要なんでしょーか?」
 ――独りでいる時、ミオ様は寂しそうなお顔をしていますから――
 という静夜の心の中での呟きには気付く事なく、ミオは胸を張って答えた。
「アタシが改造したんですっ!万全の態勢で臨むのが礼儀というもので!!」
 その言葉の直後、エルグラーテが首を縦に振ったような気がした。
 二人を乗せた馬車が遠ざかるのを見たクサナギは、早速エルグラーテにアサルトザックを装着する準備を始めた。
「やっぱり、それ(AZ)装備する気?」
「今、[万全の態勢で臨むのが礼儀]と言ったであろう?だからこそ、私も全力で臨むのだ」
 そう言ったクサナギの表情は何故かどことなく嬉しそうだった。

 その翌日。クリスヤマの豪邸では二度と見られぬであろう奇跡が起きていた。早朝、寝台の上で静夜が上半身を起こしていたのだ。しかもそれは[寝ぼけていた]訳ではない。ちゃんと目を覚ましていたのだ!
 それは今実際目を覚ましている静夜自身も信じられなかった。別に早く寝たわけではない。確か夕べは食事を取りながら互いの身の上話などの雑談で盛り上がっていたはずだから、消灯はかなり遅いはずだったのだ。それなのに今朝は………
「旅をしてから初めてかもしれない……清々しい朝って……」
 静夜は戸惑いながらも寝台から起きた。するとそれを見計らったかのように数名の侍女達が寝室に押し入り、静夜を取り囲むと一斉に服の着付けを始めた。そして気がつくと静夜はいつの間にか着替え、洗顔を済ませ、朝食の席に着いていた。
 その間静夜はずっと、なすが儘にされていた。もともと彼女の実家は豪族であり、やはり数名の侍女にかしずかれながら暮らしていたので、少々勝手が違うもののこのような状況に慣れ親しんでいたのだ。
 朝食の席には既にフィリアも着いていた。二人は古クメーラ風の少し豪華な朝食を取りながら夕べの雑談の続きに耽っていた。
 一方。ジュウコーの工房ではクサナギ、ミオが模擬戦のための最終準備に勤しんでいた。エルグラーテは万全の整備を受け、昨日までの労働の泥、汚れがきれいに落とされていた。そしてこの場には特にする事もなかったヴァネッサとイーリス、マリンも来ていた。
 その時、何故か昨日は姿を現さなかったモ・エギがこれまた何故か落ち込んだ感じでトボトボと歩いてきた。それを見たクサナギが何事かと出迎えてみると、モ・エギはクサナギの姿を見るやいきなり掴み上げ、そして胸元に抱き寄せるや
「……怖かったよぉ〜……!!」
 と、大声で泣き始めた。これにはさすがにクサナギも堪えた。何せこの巨体でしかもすぐ側で泣かれたりするのだから、その泣き声の大きさたるや半端じゃなかったのだ。
「お……落ち着けモ・エギ!いったい何があったのだ?!!」
 クサナギは必死にモ・エギを宥めるが、彼女は一向に落ち着く様子はない。それにしても、御仁姫をして[怖い]と言わしめたものとはいったい……確かモ・エギが恐怖を感じたといえば、[姫盗賊の迷宮]において遭遇した奇面衆の[目玉海月]くらいだったはずだが……。
 だが、こうしていては約束の時間に間に合わない。モ・エギの足もとではミオが、
「クサナギー……何とかしろー……!」
 と叫んでいる。しかし、今のクサナギにはどうする事もできない。するとこの光景を見兼ねたマリンがモ・エギの耳元に飛んでいき、そこで何事かをがなりたてると、モ・エギはとりあえずクサナギをエルグラーテに乗せた。
「モ・エギすまない。用事を済ませてきたらゆっくり話を聞くから……!」
「マリンがモ・エギを落ち着かせているから、早く用事を済ませてきてね……!」
 クサナギは後ろ髪を引かれる思いで工房を後にした。
 一行がライバ軍演習場に到着すると、クサナギを除く一行は見学用の貴賓席に通された。そこには既に静夜とフィリアの姿があり、お茶を飲みつつ穏やかに談笑していた。その光景を見たミオは思わず、
「う…………嘘だぁ!!」
 と叫んだ。まぁ、普段の起こす時の苦労がまるで嘘のように目を覚ましているのだから無理はなかった。
「いつもは銅鑼を鳴らしても起きなくて、しかもその度に抱き枕にされ……それが今日は早朝なのに起きてお茶まで飲んでる…………クリスヤマおそるべしっ!!」
 ミオは後学のためにメモを取り出し、フィリアがどうやって[あの]静夜を起こしたのかを訪ねた。が……
「いえ。私は何もしていませんが……」
 と言うこの少女社長の言葉に思わず筆を取り落としてしまった。
 そんな騒ぎの中、クサナギはエルグラーテの準備を済ませ、演習場の入口側で出番を待っていた。この演習場は砲撃戦にも対応しているほどの広さで、クリスヤマがわざわざこのような場所を指定してくるという事はおそらくその[新機構]は……。
 しかしそれは、クサナギにとっても有利であった。エルグラーテAZに搭載されている3リットオートカノンおよび12連装ロケット砲はある程度距離を置いた状態で使用しなければその威力は半減されてしまう。まして至近距離となるとほとんど使用できないのだ。
 その時、今まで閉鎖されていたもう一方の入口が開き、中から一機の操兵が姿を現した。その機体は故意か偶然かは知らないが、少々細身だがどことなくエルグラーテのフォルムに似ているような感じだった。要するに[ファルメス型]の古操兵を模したのだろう。ギルダームの後継機という事だが、以前のように増加装甲で誤魔化しているわけではないようだ。そしてその背部には何か機械のようなものが、さらに脚部には機体を地面に固定するための鉤爪が取りつけられていた。
「あれこそが私たちの開発した新型操兵[ギルディバーン試作一号機]。従来までのギルダームよりも数倍も高い性能を誇る最新の機体ですわ……!」
 フィリアは自慢下に新型機を紹介した。後に[PRR−RT−LK10]の形式番号が与えられるこのギルディバーンは装甲、膂力では及ばないものの、運動性と均衡は標準型の操兵に近いところまで性能が向上している。そしてフィリアの話によれば、この機体に搭載されている[新機構]を使用すればその戦闘能力は従来の機体を十分圧倒できるというのだ。
 この貴賓席には一行、クリスヤマの関係者のほかに軍の幹部も同席していた。ギルディバーンの雄姿を目の当りにした一人の幹部がフィリアにこんな事を言った。
「まぁ、あのエルグラーテと互角に戦うのは到底無理でしょうが、ある程度でも戦えれば、予備機としては使用できるやも知れませぬなぁ……」
 これはあからさまに嫌味だったが、フィリアはそんな言葉に意を返さず、
「確かに、格闘戦ではかないませんが、いかにエルグラーテと云えど、従来と異なる戦法を駆使するものを相手するとなると……!」
 と、自信ありげに返事を返した。
 そして開始の合図が鳴り響いた。クサナギはエルグラーテを少し前進させ、相手の出方を伺った。それに対してギルディバーンの操手も、闇雲に突っ込もうとはせずに機体を右の方に移動させる。ギルディバーンの武装は腰に吊した破斬剣のようだが、とりあえず構える様子はなかった。むしろ距離を置いた上で何かをするつもりのようだ。
 相手の出方がわからない以上こちらも突進させるわけにはいかない。クサナギはエルグラーテに、左肩部に固定してある盾を左手に構え直させ、防御体制を取らせた。だが、それを見たギルディバーンはチャンスとばかりに行動を開始した。そしてそれは、クサナギや貴賓席の一行を驚愕させるのに十分な行動だった。
 ギルディバーンはその場に停止し、脚部の鉤爪状の駐鋤を下ろして機体を固定する。そして背中の機械を肩口に迫り出させた。それは一基の大砲(おそらくは2リット砲)だった。
「接敵できればエルグラーテの勝ち……ですが、連射可能なこの新型の速射砲の洗礼をくぐり抜けられなければ、得意の爆砕槍も使えないでしょうね……そしてたとえロケットモーターで飛翔しても、砲は空中にも届きますから」
 フィリアが自信たっぷりの笑みのままギルディバーンを見つめていた。そう、彼女の言っていた[新機構]とは、この格納式の2リット速射砲の事だったのだ!!……だが、この時点でフィリアは肝心な事に全く気付いていなかった。
「なるほど……性能で劣る分、長距離攻撃で補おうというわけか……ならば!!」
 クサナギはエルグラーテにあえて防御体制を取らせた。今、こちらもオートカノンを展開すればすぐに発射できるのだが、その間に隙が生じて相手の砲撃の命中を許してしまう事になりかねない。ここは完全防御で初弾を防ぎ、次弾装填の間に反撃の砲弾を撃つ事にした。
 ギルディバーンの2リット砲の展開は貴賓席にいた一行、そして軍関係者の興味を引いていた。だが、静夜はこの場においても[ほわわん]としたままこの雰囲気をぶち壊すようにこう言った。
「……[釣竿]?………」
 ……………確かに見ようによってはそう見えなくもない。一方ミオも静夜の言葉に呆れ返りながらも、
「クサナギ!どうして釣り……じゃなかった、[あれ]使わないのよ?!!」
 と叫んだ。するとその言葉にフィリアが反応し、ミオに訪ねた。
「?……[あれ]とは何です……?」
「あう……」
 ミオの言った[あれ]とはエルグラーテのAZ装備を指しているのは言うまでもない。ミオはこの少女社長にAZ装備の事を教えていいかどうか迷った。
 貴賓席の中での思惑を他所に、ギルディバーンの操手は準備を終えた2リット砲の砲身をエルグラーテの足下に向けた。まずは長距離ではこちらが有利である事を示そうというのだ。
「格闘戦ではかなわないが、この距離からの射撃には手も足も出まい……!!」
 その言葉が終わると同時に引き金が引かれ、2リット砲が火を吹いた!そしてエルグラーテの足下に着弾、衝撃が機体を揺さぶった。だが、それでもクサナギは一歩も動こうとはしなかった。
「へっ!どうやら驚いて何もできないみてぇだな……!!」
 操手は勝利を確信し、すぐさま次弾装填に入った。この2リット砲は従来のものとは違い砲手による装填を必要とせず、操兵の手で作動させるレバーを動かす事によって上部の弾倉から砲弾が薬室に装填される仕組みとなっており、これによって少々の時間での速射を可能にしたのだ。だが、この[少々の時間]が彼の命取りだった。
 クサナギはギルディバーンが次弾装填に入った瞬間すぐさまAZ装備を展開、初弾を薬室に装填するとすぐに発射レバーを引いた!3リットオートカノンが轟音と轟火を吹き、砲弾がギルディバーンの足下で炸裂した!!
 その光景にフィリアは今までの余裕の表情を忘れて取り乱した。
「何ですか、あれ……昨日はあんな装備なかったはずですわよ……!!」
 ミオは苦笑しながら明後日の方を向いて、
「いやぁ……万全の装備でとおっしゃっていたので、フル装備で……」
 と、罰が悪そうに説明した。そしてクサナギも、
「さすがに普段は土木作業に邪魔になるのでな……」
 と、ぼそっと呟いた。
 驚愕したのはイーリスも同じであった。彼女は話では聞いていたものの、AZ装備を実際に見るのは初めてだったのだ。
「あれが……例の[貰い物]……」
 一方、実際にその一撃を自機の足下に受けた操手は、それでも強気のまま叫んだ。
「い……いくらクサナギと云えど、所詮は渡世人!そ……そんな安物の大砲でわが社の最新鋭の砲にかなうと……!!」
「出所は言えんが、これは工房都市製最新の3リット自動砲だ!」
 その言葉にギルディバーンの操手はすっかり自信を失った。
「お、お嬢様〜!……3リット砲と2リット砲じゃ勝負になりませ〜ん……!!」
 その操手の叫びに静夜が「そうなんですか?」とフィリアに訪ねた。
「こ……口径差がありますから……しかし、いくら自動砲と云えど3リット砲は次弾装填に時間がかかりますわ!そして確かに装甲が薄いと云えど、ギルディバーンは3リット砲の一撃なら十分に耐え切りますっ!速射性ならこちらが有利ですわっ!!」
 フィリアは不安を振り切るようにギルディバーンに向かって叫んだ。
「そうなんですか?……ミオ様……」
「まあ、”普通の“3リット砲なら、そう思い込んでも仕方が無いからねぇ……」
 そしてその[思い込み]はあっさり崩れ去った。エルグラーテAZはギルディバーンが次弾装填をしている間にも立て続けにオートカノンを撃ち続けてきたのだ。これは既に速射ではなく連射と呼ぶべきだろうか……しかもクサナギはギルディバーンに向けて12連装ロケット砲も向けていたのだ。
「装備が……違いすぎる……!」
 勝負を冷静に観察していたヴァネッサの言葉の直後、ギルディバーンはがっくりとその場で膝を折った。
「そんな……どうして3リット砲があれだけ連射できるのですか……!!」
 フィリアの顔からは笑みが完全に消えていた。そんな彼女を見たミオは、
(……説明すると気の毒な気が……)
 と、心の中で呟いた。
 ギルディバーンの沈黙を確認したクサナギは貴賓席のフィリアに向かって拡声器越しに叫んだ。
「[新装備]とは、あれの事か?……それともほかに何かついているのか……?」
 クサナギにその気はなかったのだろうが、この言葉はフィリアにとってはまさに[嫌味]だった。誇り高い少女社長は席を立ち、クサナギに向かって叫んだ。
「……また、出直してきますわ!!」
 そしてそれだけを言うとフィリアは、付き人を連れて足早に貴賓席を後にした。
 この勝負を見た軍関係者はこの結果をどう評価して良いのかわからなかった。確かに再生機でありながら大砲を装備したこのギルディバーンは、安価である事を利用して大量購入すればそれなりの戦力にはなるかもしれない。だが、模擬戦の相手がそれを上回る砲を所持していた事でその真価は発揮されずに終わった事となってしまった。この場合、相手が悪かった、と素直に考えるべきか……。
 だが、そんな事はクサナギにはどうでも良かった。それよりも気になるのは先のモ・エギのほうだ。一行はとりあえず報酬を請求して、そしてジュウコーの工房に帰ろうとした。
 その時、今の模擬戦を見ていた軍の将校らしき貴族の男が一行を呼び止めた。
「突然呼び止めたりしてすまない。私の名はアルバ・リーチャ。実は今の模擬戦を見て、貴方方に個人的な仕事を一つ、依頼したいと思って……」
 それを聞いたミオは一瞬耳を疑った。今の砲撃戦を見て依頼される仕事といえば、せいぜいが戦場での砲兵代わりが関の山だ。しかしその仕事は個人的なものだという。いったいどんな仕事なのだろうか……。
 だがそれは意外な、そして実に簡単な内容だった。
「実は……屋敷を一件、取り壊していただきたいのです……」