キャンペーン・リプレイ

第 三十二話 「 怨 念 の 古 き 館 」   平成12年12月17日(日)

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 一行はその言葉に唖然となった。たかが屋敷一件を取り壊すのに何故、大砲がいるのだろうか……。そんな一行の様子を気にも留めずにアルバはここでは何だから、と場所を変える事を進め、一行をこの演習場の事務所の一室へと案内し、そこで改めて詳しい話を始めた。
「実は、取り壊していただきたいのは私が買った、ライバの街から程よく離れたところにある別荘なのです」
 アルバの話によると、彼は最近ライバの街はずれにある古クメーラ調の古い屋敷の権利を手に入れ、早速自分の別荘として改装しようと業者に依頼したという。ところが、実際に作業に取りかかった作業員は全員が一刻も経たないうちに何故か逃げ出してしまったというのだ。彼らは口々に、[幽霊]を見た!と言っていたそうだ。
 そこでアルバはその屋敷を完全に取り壊す事を決め、今度は操兵による作業を試みた。が、その操兵は建物に近づく事すらできなかった。操手は口々に「操兵が動かなくなった」と言って機体を降り、そして結局は[幽霊]を見てやはり逃げ出してしまったという……。
 この異常な事態を無視する事ができなくなったアルバは、この手のものに強そうな[ある方]に依頼する事にした。その人物とは……。
「[伝説の樹界の御仁姫]であるモ・エギさんなら、今度こそ壊す事ができると思ったのですが……」
 その時、クサナギは先ほどモ・エギが異常な脅え方をしていたのを思い出し、そしてその理由を納得した。要するに御仁姫ですらだめだったという事だ。だが、それにしてもあのモ・エギを(目玉海月以外で)あれほど脅えさせるものとは……その屋敷にはいったい何があるというのだろうか……。
 ここまでの話を聞いた時一行は、ここに来て何故アルバが先の模擬戦を見た上でクサナギに依頼してきたのか予想がついた。
「そこで、屋敷に近づかないで離れた位置から攻撃すれば、何の怪異も起こる事なく、そして[幽霊]を見る事なく屋敷を取り壊す事ができるというわけです!」
 確かにその方法なら屋敷に直に入るわけではないので、おそらくは楽に破壊できるはずだ。そして幸い屋敷はライバの外の一軒家。周囲には巻き込むものは何もないので、安全に攻撃できるというわけだ。
「でも……静夜、一度[幽霊]を見てみたいですー……」
「[幽霊]といえば……」
 この静夜の言葉を聞いたクサナギは、以前ノウラで遭遇した死人の軍勢を思い出した。が、あれは幽霊とは別のものであった。また、幽霊といえば妖精族の村で遭遇した翁獅子の霊、そして姫盗賊の迷宮にいたジェンヌ・セィンティアなどが思い出された。しかし、今回の[幽霊]は今まで遭遇したそれらのものとは明らかに異なるものだった。
 その時、ミオが不意に叫んだ。
「いやだぁ!思い出しちゃったぁ!!」
 どうやらミオはノウラにおける死人の軍勢との戦闘の際、ギルダームに死人の群れが大量に取りつき、よじ登ってきた時の事を思い出したようだ。
「死人の群れ……死人の軍団……死人のわらわら……もういやだぁ!!」
 そんなミオを見ながらクサナギは、阿修羅の事を思い出していた。
「阿修羅がいれば、砲撃などしなくても事件は解決するのだが」
「うう、そうだねぇ……とても[お坊様]には見えないけどねぇ……」
 だが、阿修羅はこの前街道で出会って以来逢っていない。しかも竜の牙亭には苦手とする姉ヴィシュヌが今もいるのだ。当分ライバには戻ってこないだろう……。
 どっちみち、いないものを当てにしても仕方がない。静夜の、
「クサナギ様……人助けみたいですけども、受けるのですか?」
 との問いにクサナギはとりあえず受けてみる事にし、その旨をアルバに伝えた。
「本当ですか!有り難うございます……。おおっ?!そういえば……」
 アルバはクサナギに礼を言いつつヴァネッサに向き直り、
「貴方の操兵も聞くところによると、全身にロケット砲を装備しているとか……二機掛かりの集中砲火を受ければ、如何に幽霊屋敷といえども木端微塵!幸い屋敷は町の外。遠慮無しに破壊してください!!」
 あまりに無責任に聞こえるその言葉にヴァネッサは思わず躊躇した。が、側ではミオが「撃ちたい?ねぇ撃ちたい?」と煽り、そして自分自身もロケット砲をおもいっきり撃ちまくりたいという願望がなかったわけではないので、その申し出を受けてみようかと思った。しかし、それには一つ問題があった。
「でも……ロケットのお代が……」
「あ、もちろん必要な経費はこちらで持ちますよ」
 そのアルバの言葉に安心したヴァネッサは「じゃあ、受けてみようかな……」と、二つ返事で了承した。
 それにしても、いくら幽霊屋敷だからといって、ここまで金に糸目もつけずに破壊しようとするものなのだろうか……。その疑問にアルバは苦笑しながらこう答えた。
「今回はなりふり構ってはいられませんからね」
「どうしてですー?」
 静夜が問うと、アルバはため息を一つついて話し始めた。
「私はあの屋敷のために時間をかけたくないのですよ。雇った労働者から私が[幽霊屋敷の持ち主]であるという噂が広まると、いろいろと困る事になるので……」
「でも、静夜、幽霊さんとお友だちになりたいです。お友だちになっちゃいけないのでしょうかー?」 
 残念そうに呟く静夜に、ミオが諭すように答えた。
「お友だちになると、[お別れ]が辛くなるからね……」
 そしてアルバも、
「逆をいえば、むしろ館を破壊する事で[彼ら]も[開放]されるのですから」
 と、静夜に語る。
 そんな会話の中、クサナギはアルバに屋敷の経緯を訪ねた。
「そもそも、あの屋敷に何故、幽霊などが住み着いたのだ?」
「それが私にも良くはわからないのです……」
 アルバの調べたところによるとその屋敷は、かつてはクメーラ時代の流れを受けた貴族が所有者だったらしいのだが、管理をしていた子孫の家にも詳しい資料は残されてはいなかったという……。
 どのみち、こうしていても始まらない。この仕事を請ける事にした一行は早速準備を始めた。その中で静夜も「怪我人が出たら大変ですー」と、自分の治療道具を取りに行こうとした。それを見たアルバは、
「まぁ、人がいないのですから、怪我人が出ることはありませんよ」
 と静夜に言ったが、
「でも、ハニ丸様がかかわってくるのですから、怪我人の一人や二人……」 
 …………その静夜の一言にクサナギは唖然となった。いくらなんでもそんな言葉はないだろうに……。
 そんなこんなでクサナギはとりあえずジュウコーの工房に戻りモ・エギの話を聞いてみる事にした。これはどちらかというと幽霊の情報を聞き出すためではなく、怖がるモ・エギを励ますためのものだった。
 工房に戻ってみると、モ・エギはマリンの励ましとジュウコーの出してくれた金盥に入った白湯のおかげでとりあえずは落ち着いていた。クサナギはクサナギなりに彼女を励まそうと、膝元まで寄って声をかけた。
「モ・エギ……大丈夫なのか?……いったい、何があったというのだ……?」
 声を聞いたモ・エギはクサナギを抱き上げると、そのまま再び泣き出した。
「クサナギさん……怖かったよぉ〜!!」
「モ……モ・エギ……落ち着け……落ち着くんだ!!」
 モ・エギの胸に抱きしめられたクサナギは、息苦しさと恥ずかしさにもがきながらも必死に彼女を宥めようとした。その光景にマリンが、
「あ〜あ……せっかく落ち着いたと思ったのに……」
 と、呆れ返る。そして静夜も、
「あの二人……[らぶらぶ]ですね……」
 と、呟く。
「まぁ……見ればわかるよ」
 この光景に[ある意味]慣れていたミオだが、側で見ていたヴァネッサは、
「でも、このままにしていいんですか?……放っておくと、窒息してしまいますが……」
 と、心配そうにモ・エギの胸の中でもがくクサナギを見上げていた。
 しばらくしてモ・エギが落ち着いたころ、一行はようやく詳しい話を聞く事ができた。それによるとやはりアルバの屋敷取壊しを依頼され、そこで恐怖体験をしてきたという事だった。
「窓を覗くと人魂が飛んでくるし……一日中耳元で[入るなぁぁぁ……!]って声が聞こえてくるし……それでも何とか壊そうとしたんですが、その度に靄が集まって[恐ろしい大きな顔]が前に立ち塞がるんです……!必死に逃げたけど、その顔はしつこく追いかけてくるんですうぅぅ!!」
 モ・エギの話を聞いた静夜は、ポンっと手を打って、
「わあ、新しい[観光名所]ですねー……」
 その不謹慎な発言を他所に、クサナギはモ・エギに力強く言った。
「大丈夫だ!私たちも今その依頼を受けてきたのだ。その屋敷を今から粉々に吹き飛ばしてくる!!」
「そうか!クサナギさんのエルグラーテの大砲だったら……よかったぁ!!……クサナギさんありがとう(笑)!!」
 モ・エギは笑顔を取り戻して三度クサナギを抱きしめた。
 準備を終えた一行は早速屋敷に向けて出発し、そして半刻過ぎには屋敷から程よく離れた丘にエルグラーテ、ブラッティマリーの二機の操兵が展開していた。
 時刻は昼を過ぎたころ。雲一つなく青く澄み切った青空の下で一行が屋敷を眺めると、屋敷の周囲だけがどんよりとした雲に覆われており、まさに幽霊屋敷といった雰囲気が伝わってきていた。
「手早く済ませるか……」
 クサナギはエルグラーテに乗り込み、起動させるとすぐにAZ装備を展開、オートカノンの砲身を不気味な空気に包まれている屋敷へと向け、補助映像板を下ろして照準を定めた。そしてミオ、イーリス、ヴァネッサ、そしてモ・エギとアルバが見守る中、クサナギはためらう事なくエルグラーテにその引き金を引かせた!だが……
「そんな馬鹿な?!!」
 放たれた砲弾はそのまま屋敷に向けて飛んでいき、そしてその頭上を越えた先に着弾した。その光景にクサナギ、そして一行は驚愕した。
「それなら、もう一度だ!!」
 クサナギは再び射撃を実行した。轟音とともに発射された砲弾は放物線を描いて今度は屋敷の前方10リート手前に着弾した。そして煙が晴れると、全く無傷の屋敷が現れた。
「…………?!!」
 クサナギは夢でも見ているような気になってきた。確かに照準に狂いはなかった。そして相手は全く動かぬ目標だ。さらに、外したとはいえ着弾の衝撃は並大抵のものではない。先の位置に着弾したのなら、要塞の類いでもなければ正面の窓や扉が吹き飛んでも良いはずなのだ。その光景に呆れてジト目でエルグラーテを見ていたミオは、今度はヴァネッサのブラッティマリーに目を向けた。
「ヴァネッサさん、やっちゃってください!!」
「そうか!いくらなんでも屋敷全体にロケット弾をばらまけば……」
 ミオとアルバの声にヴァネッサはすぐさまブラッティマリーのロケット砲を屋敷に向け、それを見たクサナギもロケット砲に切り替えた。そして再び照準を定めた二機の操兵は同時にロケット砲を一斉に発射した!!……はずだった。この後に及んで何故かエルグラーテ、ブラッティマリー両機のロケットがすべて不発に終わってしまったのだ。
 自棄になったヴァネッサはブラッティマリーに不発ロケットを掴ませるとそのまま屋敷に向かって投げさせた。が、というよりはやはり屋敷手前で落下してそのまま爆発、屋敷には傷一つ付けられなかった。
 その後クサナギは何回か砲撃を試してみた。が、それらはすべて屋敷を越えるかまたは手前で落ちるか、あるいは横に逸れるかしてすべて命中する事はなかった。そう、強風が吹いたわけでもないのに[横に逸れた]のだ。
「クサナギ!エルグラーテの感応石には何か反応ある?!」
 ミオに促されたクサナギが改めて感応石を覗いてみると、特に際立った反応こそはないが、わずかだがノイズのようなものが流れているのが見えたような気がした。どうやら屋敷の方から何らかの波動が流れ出ているのは確かなようだ。
「……失敗ですか……?」
「依頼主の前で言いたくないけど……これ見せられちゃあ……」
 静夜とミオの言葉に気を失いそうなアルバだったが、すぐに開き直ってエルグラーテに向けて叫んだ。
「クサナギさん!ありったけの弾を屋敷にぶち込んでください!!」
 それを受けたクサナギが、今度はオートカノンとロケット砲両方を屋敷に向けた。
「砲とロケットの一斉射撃なら……!!」
 クサナギは祈るような気持ちですべての発射レバーを引いた。だが、そんな思いも空しく、轟音と紅蓮の炎を伴って発射された砲弾、ロケット弾はすべて屋敷の手前または周辺へと散らばり、無駄に爆発しただけで終わってしまった。
 いや、今度はそれだけでは終わらなかった。
「……何だ……あれは………?!」
 爆発の直後に立ち上った爆煙を見た一行は驚きを隠せなかった。その煙の中に無数の人の顔らしきものがはっきりと見えたのだ。いや、[らしきもの]ではない。それは明らかに人の顔だった!。そしてそれらの顔、そしてその目はすべて一行を睨つけていた。
 その異様な光景を見た一行は背筋が凍るような思いに捕らわれ、ミオなどはしばらく凍りついたように動かなかった。そして爆煙が晴れた屋敷が無傷な姿で出てくるのを目の当りにしたアルバはがっくりと膝をついた。
「……[ライバ救国の英雄]に……これだけの大火力を持ってしてもだめなのか…………」
 その言葉を聞いた静夜はおもむろにこんな事を言った。
「じゃあ、行ってきまーす……」
「え……どこに行くんです?」
「……あっち」
 と、屋敷を指差し、おもむろにそちらに向かってまっすぐと(いくら彼女でも見える場所に対して方向を間違える事はなかった)トテトテと歩き出した。それを見たアルバは、隣でいまだ凍りついているミオに縋り付くように叫んだ。
「お願いします……何とか原因を突き止めてください!!」
 アルバに揺さぶられてようやく目を覚ましたミオの目に映ったのは、静夜が屋敷に向かってトテトテ歩いていく姿だった。
「あーっ!そっちに行っちゃだめーっ!!」
 ミオはアルバを無視して静夜を追いかけ、静夜がエルグラーテの側まで来たところでようやく追いついた。エルグラーテのオートカノンを見た静夜はそれを眺めつつ、
「……役立たず(ぼそっ)」
「い、言っとくけど整備のせいじゃないぞ!!」
 静夜の言葉にミオが何故かムキになって答えた。そもそも、大砲は彼女の専門外なのだ。
「こうなったら、屋敷の至近距離まで接近してそこでオートカノンを撃ってやる!!そうすれば、如何に[呪い]と言えど避ける術はないはずだ!!!」
 AZ装備すべてが通用しない事に愕然としたクサナギは、今度はエルグラーテを直接屋敷に向かわせ、そのまま走らせた。が、その勢いは長くは続かず、クサナギの必死の操縦にもかかわらず機体の歩行速度が落ち、やがて歩行そのものが困難なほど動きが鈍くなってしまった。
「くっ!……[操兵が動かなくなる]とはこの事か!……だが!!」
 クサナギは千鳥足のエルグラーテを必死に操縦、影響の受けない位置まで機体を後退させた。そしてその位置から再び射撃を試みるべく改めてオートカノンの砲身を屋敷に向けた。その足もとには、相変わらずトコトコ歩く静夜と、それを必死に止めようとして引きずられているミオの姿があった。
「もう一度撃つ!伏せていろ!!」
 言い終わると同時にクサナギは再びオートカノンを撃ちはなった!その衝撃は側にいた静夜とミオを襲った。そしてその衝撃と同時に必殺の砲弾が発射された!……が、そこまでだった。撃ち出された砲弾はそのまま地面に叩き落とされるかのように地面に激突した。幾らか後退したとはいえ5リート未満のこの距離であれば、そしてオートカノンの初速であれば落下などしないはずなのに……。
「たぶん、特殊な[力場]が発生しているのではないですか?……と、いうわけで行きましょうか、ミオ様……」
 どこで覚えたのか、難しい用語をさらっと口にした静夜はそのままミオを引きずって再び屋敷に向けてトコトコ歩き始めた。それを見たクサナギも諦めたようにエルグラーテを降り、そしてヴァネッサ、イーリスも屋敷に向かった。その中でモ・エギはアルバとともにエルグラーテの後ろに隠れながらそんな一行を見送っていた。
「皆さん、頑張って下さいね〜……」
 そんなモ・エギの言葉に静夜は笑って答えた。
「お土産待っていてくださーい……」
「何も要らないですーっ!!」