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まずレイムは自分の馬を取りに行くために竜の牙亭に戻ることにし、ミオ、イーリス共々(状況がわからず会話に取り残されていた)モ・エギに抱き抱えられて宿に戻った。 レイムが宿に戻ってきたのを見たセフィロスは、ここで先の騒動における誤解を解こうとした。レイムに気があるかどうかは別としてセフィロスとしても誤解されたままでは気持ち悪いのであろう……。 そしてレイムも恥ずかしげに謝罪する。 「先ほどは取り乱したりして申しわけありません……」 それを受けたセフィロスは、 「いや、そもそもあれは誤解なのだから……はいっ!」 と、先の説明を静夜に補足させようとする。が、その静夜はただ、恥ずかしそうに顔を紅潮させているだけだった。それを見たセフィロスはまたまた焦って、 「おいっ!。……違うと言っているだろうが!。そもそも捜している人物が違うんだぞ……!!」 そのセフィロスの必死の弁明に静夜はただ、コクコクと頷くだけだった。どうやら本当にただ恥ずかしがっているだけのようだ。 だが、そんな静夜の行動を見てレイムはまたも何か誤解した。しかし、今はそれどころじゃないと頭を切り替えた。 「ともかく、今はセフィロス様の疑いを晴らすのが先です……!。大丈夫です!。私が必ずあなたの疑いを晴らして見せますっ!!」 レイムはこの捜査にやたらと積極的だった。おそらくはイーリスの話を気にしてか「ここはセフィロス様のために頑張って、そして……」という彼女なりの判断だろう。そんなレイムの密かな考えを、何故かこういうことには敏感な静夜がさりげなく見抜いていた。 静夜はおもむろにレイムのそばに寄って、その手を取ってこう言った。 「頑張ってくださいねー……」 レイムはその静夜の唐突な言葉と行動に戸惑いながら「はい……」とだけ頷いた。 そんな中、ミオはレイムに小さめの手提げ籠を手渡してきた。 「はいこれ、お弁当。これから遠出で大変だからねっ」 そのミオの心遣いにレイムは「有り難うございます……」と礼を言って受け取った。 実はこの籠に入っているのはお弁当だけではなく、その下にマリンが隠れていた。ミオはマリンに密かにレイムに着いていってくれるように頼んだのだ。そして何か異常事態が起きたら籠から脱出、一行の元に戻ってきてその旨を知らせるように、と言い含めていた。 一行に挨拶を済ませたレイムが外に出ると、そこには先の嫌味な笑みとは打って変わったさわやかな笑みを浮かべてザファルが待っていた。そしてレイムに向けてこれまたさわやかに、 「さぁ、参りましょう!」 と告げた。それに対しレイムはとりあえず作り笑いで答えた。そのやり取りを見ていた静夜はおもむろにこう呟いた。 「……三角関係?」 どうやら静夜は、今の様子から[ザファルがレイムに対して横恋慕している]ように写ったようだ。 ここで静夜は、セフィロスに見送るように促した。彼の励ましの言葉があれば、レイムもより張り切れるだろうと考えたのだ。が…… 「頑張って」 これだけだった。 「心が込もってません!」 静夜に注意されたセフィロスは再びレイムに言葉をかけた。しかし…… 「……頑張って」 変わらなかった。その代わり、今度は自分も同行すると言い出し、レイムにその現場の場所を聞いた。それによるとこの度の行き先は、ライバに程近い開拓村で、そこはもっとも最近の被害現場だという……。だが、セフィロスの同行をまたもザファルは断った。 「だが、私が着いていって、その上で賊が出現すればそれは私じゃないことが証明されるだろう!」 もっともな理屈で食い下がるセフィロスだったが、それでもザファルは引かない。 「いえ、かえってここに居てくれたほうが事件が起きたときにそれがあなたの仕業でないことをここに居る皆様方が証明してくれますから……」 と、あくまで自分たちだけで行くことにこだわっているようだ。そしてザファルはそれだけを言うと、馬に跨りライバの門に向けて騎馬を走らせる。それを見たレイムも一行に挨拶を済ませて出発しようとした。その時、セフィロスがレイムに小声でこう警告した。 「あの男は怪しそうだから、気をつけるんだ……!」 それを聞いてレイムは「はい……!」とだけ答え、そしてザファルに続いて自分も竜の牙亭を後にした。 「それにしても、あの者はなぜ急に態度を……」 今までの光景を見ていたクサナギはさっきの態度とはあまりにも打って変わった様子に疑問を持った。それに対してミオが 「そうでしょう、そうでしょう?」 と、相槌を打った。 その後、出発したレイムとザファルはライバの街を出た。そして街の外で待機していた衛士隊の騎馬隊と合流、すぐさま現場となった村に向けて出発した。このときレイムは、その用意周到とも取れるザファルの手際の良さに疑問を持った。 「どうしてわざわざ街の外で待機していたのだろう……」 だが、ここでレイムは特にザファルに問うことはしなかった。 一方、自分は特に関係ない方向に話が発展していたと考えたヴァネッサは、仕事捜しの再開のために再び渡世人斡旋所を訪れた。が、たいして時間が経っていないこともあって特に変わった仕事はなかった。そこでヴァネッサは、今度は斡旋所の窓口で白面団に関する情報を求めた。もしかしたら、それに関する仕事が来るかもしれないからだ。そしてそれは斡旋所も考えていたようで、やはり彼らなりに情報を集めてはいたようだ。 「そもそも白面団という名の由来は、彼らの頭領が顔半分を白い面で隠していることから来ているようです……今まで入った情報によりますと、襲われたのは三つの開拓村で、まだ警備体制がしっかり出来てなかったところばかりだそうです……」 「で、それらの村々の被害はどれくらいなんです?」 ヴァネッサの質問に係員は資料をめくりながら答える。 「えーと……全滅ということはなかったようですが、かなりの蓄えが盜られたようです。それから、生き残った者の証言なんですけれども、その頭領はまるで大勢の者に[見せびらかす]ように槍を振るっていたそうですよ……!」 さらに続いた話によると、その頭領の特徴は顔を仮面で覆っているほかはかなりの長髪で、しかも銀色の髪だという。だが、話を聞く限りではその髪型そのものは[天突く怒髪]のように膨れ上がっているということらしく、まるで芝居小屋の鬘のようにも思えた。 「そういえば、以前王朝結社を率いていたサイラスという男も銀髪でしたな……」 ヴァネッサも[王朝結社の乱]の話は耳にしていたので、サイラスの特徴は知っていた。が、その後捕らえられたサイラスが脱走したという話は聞いたことがない(あれば今頃ライバそのものが大騒ぎをしている)。また、彼女が知っているかどうかはわからないが、そのサイラスは[聖剣]失った上に負けたショックですっかり廃人になっており、しかもその髪も色が落ちて白髪になっているので白面団の頭領と同一人物であるということはありえないのだ。 ヴァネッサは、今度は白面団の根城らしい場所の情報がないかどうかを訪ねた。が、それに関しては斡旋所のほうも何も掴んではいないようだった。 「ともかく……賞金でも掛かったらまた伺いますわ……」 そういってヴァネッサが他の仕事を探そうとしたとき、係員はおもむろに壁を指してこう言った。 「賞金なら、懸かってますよ……」 その言葉にヴァネッサが壁の一角を見てみると、確かに白面団に賞金が懸けられたことを印す張り紙が出されていた。その額は頭領で金貨三枚、とまだあまり高くはない。だが、係員の話によると今後被害が増えれば値が釣り上がっていくだろうということだ。 さらにその張り紙には現在知られている段階の白面団の組織としての構成も書かれていた。それによると構成人数は現在のところ二十名前後。操兵は二〜三機確認されている。だが、その中でもっとも目を引いたのは最大戦力として認識されている二人の戦士の存在だった。 一人は白面団の頭領である槍使い。これは今までさんざん話を聞かされている。そしてもう一人はその頭領に次いで強いと言われる[棍使い]の女戦士がいるという。手配書によるとその女戦士は、歳の頃は十六、七で、この辺りでは非常に珍しい[倭民族]の衣装に身を包んでいるという……。 だが、賞金が懸かったとしても居場所がわからなければ意味はないし、かといってお金もないので何か仕事をしなければ稼げない。仕方なくヴァネッサは、とりあえず特徴だけ覚えて結局、ライバの門の近くでの治水工事の仕事を請け負うことにした。 そのころ竜の牙亭では、レイムの出発を見届けたセフィロスは、自分もいそいそと出発の準備をし始めた。やはりレイムが心配なのか、大急ぎで追いかけようというのだ。それを見た静夜も「出発なんですかー……」 と、自分も準備を整え、「じゃ行きます」と、トコトコと何故か(というよりいつもの通り)反対方向である町の中心部に向かって歩き出した。そんな静夜を見たセフィロスは思わず「歩き……?」と問う。それに対して静夜は笑顔のまま、 「歩きですよー……」 という。それを聞いたセフィロスはこう言った。 「こっちはドウドウ鳥。歩きでは追いつかないんだが……」 「そのうち追いつきますよー……」 その静夜の言葉を聞いたセフィロスはミオ、イーリス、クサナギに向けて、 「この人、こう言う性格なのか……?」 と、思わず訪ねた。ミオはただ、「そうなんです……」とだけ言った。当の静夜は言われている意味がわかっているのかいないのか、ただミオの頭を「いーこいーこ」と撫で撫でするだけだった。 ともかく、セフィロス、そして一行は宿の主人にレイムが向かったという開拓村に向けて出発することにした。 「俺が先に行く。みんなは後から着いてきてくれ……!」 「それほどレイム様のことが心配なのですねー……」 静夜の言葉にセフィロスは、照れを隠すようにこう言った。 「別に俺が出ていくことはなかったんだが、こう俺の名前が出たんじゃ、放っておくわけには行かないからな……」 そして「本当にそれだけ?」という静夜の言葉を無視してさっさと出発しようとした。が、その途端急に空が暗くなり、そしていきなり大粒の雨が降りだした。それを見たセフィロスは思わず「やめるか……」と呟いた。 一方、治水工事の仕事を請けたヴァネッサは早速現場であるライバの町の門の近くに向かった。が、着いたころには既に天気は大雨となっていた。 「止め止めっ!。……たくっ、何でこんなときに降るんだ……だからもっと速く仕事を進めろと言ったんだ……!!」 言いたいことを叫んだ現場監督は、今度はヴァネッサに向き直ってこう言った。 「あー……せっかく来てもらったのに悪いね……ま、せっかくだから茶でも飲んでいってくれ……」 その言葉にしばし茫然となったヴァネッサだが、雨の中立ちすくんでいるのもどうかしていると思い、とりあえず雨宿りだけでも、と仮設事務所に上がり込もうとした。 その時、ヴァネッサがふと街道のほうに目をやると雨の中、この辺りでは珍しい倭民族の衣装と蓑笠、雨合羽に身を包んだ女性がとぼとぼと歩いている姿が見えた。そしてその女性は何と背中に鉄で補強された棍を背負っていた。 「ひょっとして……例の[棍使い]?!……まさか、そんな偶然あるわけが……」 そう思いながらもヴァネッサは、自らも何とブラッティマリーの仮面を傘代わりにしてその女性の跡を尾け始めた。が、珍しい蓑笠を着た女性をこれまた仮面を傘にした女性が尾行するという光景はやはりどこか滑稽で、やはり通りすがりのものたちの注目を浴びてしまう。雨が仮面に当たり、滴り落ちる。それはまるで、(ワタシハカサジャナイ……)と泣いている仮面の涙のようでもあった。 その時、周囲の視線と後方よりの気配を感じた女性は不意に立ち止まり、ヴァネッサに振り向いた。その女性は見た感じ、歳は十六、七のまだあどけない少女のようだった。尾行がばれたことに気付いたヴァネッサはなおもその場を誤魔化すためにそのまま進み、彼女を追い抜こうとした。が、少女はすれ違いざまに笑みを浮かべて呟いた。 「私に何かご用でしょうか……?」 「いえ……別に……気のせいでは!……」 しどろもどろに答えるヴァネッサだが、次の言葉で観念するしかなかった。 「[顔]に書いてありますよ……」 少女はそう言って、ヴァネッサが傘にしている仮面を指さした。確かに普通、こんなものをかぶって歩く人はまずいない……。が、尾行がばれたからといって少女は特に事を荒立てるつもりもないようだ。 「とりあえず、雨の中でお話しするのも何ですから、どこか雨宿りできるところにでも行きましょう……」 こうなってはどうしようもないと感じたヴァネッサは、とりあえずその申し出を受け入れてみようと思った。 やがて、二人は表通り沿いにある茶店に入った。その時、その店の前を一騎の鳥馬が通りかかった。それは先行して出発したセフィロスだった。そしてヴァネッサは、それを見た女性の表情が強張るのを見た。女性はその表情のまま、通り過ぎていくセフィロスの顔をじっと見つめていた。 「どうしたんですか?。今の人が何か……」 ヴァネッサに問いかけられた女性は「何でもありませんの……」と言って手近な席に腰かけ、ヴァネッサにも座るように促した。 「ところで、私にご用がおありのようでしたが……あ、申し送れました。私の名は鈴音と申します……」 ヴァネッサはとりあえず自分も鈴音に名を告げた。が、いざ自分が尾けていた訳を話すとなると何を話して良いのかわからず、まともな説明ができなかった。が、鈴音はそんなヴァネッサに構わず自分の身の上を話し始めた。 「私はとある用事でこの街を訪れたのですが、その用事が済みましたのでそろそろ発とうと思っていたのです。でも、突然の雨で……それでも、あなたがいなければそのまま発ったのですが、これも何かの縁なのですね……ところで……」 鈴音はここで再びヴァネッサに向き直った。 「見たところ、あなたも旅人のようですが……しかも、手にしているのは操兵の仮面とお見受けいたしますが……」 「まぁ、そうですね……」 要領の得ない返事をするヴァネッサ。それに対し鈴音は不意に遠くを見るような目で外の景色に目をやり、そしてこう呟いた。 「あなたには……何か旅の目的はおありでしょうか……」 「今のところ……具体的には……」 ヴァネッサの答えに鈴音はただ、「そうですか……」とだけ答えた。もともとヴァネッサは家が勝手に決めた縁談に反抗して家を出た。それゆえに旅そのものの目的は今はまだないのだ。現在は一行に興味を覚え、それでライバに居着いている、と言ったところだろう……。 鈴音は遠い目をしたまま言葉を続けた。 「私は、[世の中を良くしたい]と思って旅に出ました……世界は今降り続く雨のように混沌としています。そこにいつしか、せめて一筋の光を差し込みたいのです……!」 ここで鈴音は顔を輝かせてヴァネッサに向き直った。 「ヴァネッサさん!。もし目的がないのでしたら、私とともに来ませんか?。私は今、まさに[世の中を良くする]ために戦っているのです!!」 「それって……白面党のこと……ですか?……」 「今は……言えません……」 ヴァネッサの問いに鈴音は一瞬表情を暗くした。今の言葉でヴァネッサは彼女がかの党の一員であることを確信した。そして鈴音も白面党が世間では良い印象を持っていないことは自覚しているようだ。が、鈴音は自信を持って言葉を続けた。 「確かに今の私たちの活動は世間の人々には悪として写るかもしれません……ですが私たちは戦い続けます!。この混沌の雨を終わらせ、人々が晴れやかに暮らせるその日まで!!」 鈴音はそう言って店の入口に立ち、決意に満ちた瞳を雨の降る空に向けた。その時不意に、彼女の目前に鋼鉄の巨大な扁平足が踏み降ろされた!。そしてその直後、鈴音は跳ね上げられた水溜まりの水を思いっきりかぶってしまった!!。 「[混沌の雨]は……このような事故も起こします……」 それは、セフィロスを追って出発したウォークマンでの脚だった。以前アクラの街に赴いた際に失敗した仮面同調が今回は成功したことで浮かれたミオは、足もとの注意をつい疎かにしていたのだ。 「あ、そこの人すいませ〜ん……!」 「だめじゃないミオちゃん!、人に水をかけちゃ……めっ!!」 静夜のおしおきに音を上げたミオの拡声器から流れてくる悲鳴を残してウォークマンでは街の門に向けて歩み去っていった。その直後、クサナギのエルグラーテ、モ・エギの紅葉武雷も通り過ぎていく。どうやら彼らもセフィロスを追って出発したようだ。 すべての操兵(そして御仁)が通り過ぎた後、鈴音は手荷物から手拭いを取り出して顔を拭った。そして再び荷物をまとめてそれを背負い、蓑をまとって店から一歩踏み出した。 「じゃあ、私は行きます……あなたも旅人なら、もしかしたらどこかの空の下で逢うかもしれません……その時にまた……」 鈴音はそれだけを言い残すと、急ぎ足でその場から立ち去った。それを見送ったヴァネッサは、自分もブラッティマリーに戻って一行の後を追った。どうせ治水工事は中止になってしまっている。一行について行けば何か仕事の口もあるだろうと考えたのだ。 その後、合流したヴァネッサから先の茶店の話を聞いた静夜は、にっこりと微笑んでミオにこう呟いた。 「ミオちゃぁ〜ん……[拳骨]と[梅干し]と[お灸]……どれがいいですかぁ?―……」 「……どれもいやあぁぁぁ!!」 そのころ、開拓村に到着したレイムとザファル、衛士隊一同はさっそく捜査を開始していた。が…… 「さすがに何も……ありませんね……」 事件から数日以上が過ぎた現場ではさすがに何も見つけられない。そのことをレイムが訴えると、ザファルはここで先ほどまでの[好青年の仮面]を脱ぎ捨て、こう言いはなった。 「いいえ……[手掛かり]なら、もうやってきたようですよ」 レイムはザファルが顎で指した方向を見た。するとそこに、一頭のドウドウ鳥に乗った男を先頭に、武装した人物が十数名ほどこちらに向かっているのが見えた。そしてその先頭の男は、顔半分を白い仮面で覆っており、頭には歌舞伎役者を思わせる銀色の鬘をかぶっていた。 「まさかあれは!……向こうから姿を現すなんて……!!」 レイムはザファルに向き直った。 「もし噂が本当なら、今の私たちの戦力では勝ち目はありません!。ここはいったん退却しましょう!!」 だが、レイムの言葉にザファルは嫌味な笑みを浮かべるだけだった。そして腰の拳銃を抜き、それを何故かレイムに向けた。それに驚いたレイムは思わず衛士隊のほうを振り返った。しかし、その衛士隊も長銃の銃口をレイムに向けていた。 |