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ヴァネッサはとっさにマリンを庇うように手を頭に伸ばした。が、それよりも早く動くものがいた。クサナギだった。クサナギは両者の間に割り込み、大太刀でその剣をとっさに受け止めたのだ!。 「そなた、いきなり何の真似だ!」 フィネリアは鍔迫り合いを続けながらも叫ぶクサナギの言葉を無視してヴァネッサに向けてこんな言葉を叫んだ。 「あなた、悪霊に取りつかれていることに気付かなかったのですか?!!」 どうやらフィネリアもマリンのことを[お化け]だと思ったらしい。しかも性質の悪いことに[悪霊]と判断してしまったのだ。それに気付いたイーリスが、いきり立つ彼女にマリンのことを説明した。 「これは霊じゃなくて[ペット]ですよ……」 ……それはそれで余りにもひどい言い様だが。イーリスのその言葉にマリンは「(ペットじゃないもん……)」と心の中で呟きながらも招きに応じてイーリスのところに飛んでいった。そんなマリンの心境を気にする事なくイーリスはマリンを胸元に抱き寄せた。そんな様子にフィネリアは、 「あなたはいったい、今何を抱いているのかわかっているのですか……!」 と、イーリスの態度に憤慨した。それを聞いたイーリスはこう返した。 「可愛いですよ。知性もあるし……それに、あなたはこの子が何かできるとでも思っているのですか……?」 それを聞いた周りの見物人たちは口々に「そうだそうだ!かわいそうじゃないか!!」と叫んだ。そう、既にマリンの存在はモ・エギ同様街の人々に受け入れられており、もはやリダーヤの入る余地はなくなっていたのだ。 「これだから狂信者というものは……」 クサナギの呟きをよそに、イーリスはなおもフィネリアを攻めるような言葉を投げかけた。 「仮にこの子が私の[所有物]としておきましょう。それでもあなたはそのものを無理に奪って壊すことができるのですか?!」 イーリスのその言葉にフィネリアは自信たっぷりに答えた。 「それが……神に仇成すものであれば容赦なく……!」 その傍若無人な答えにイーリスはなおも反論したが、クサナギに 「止せイーリス!。狂信者とは何を話しても無駄だ!!」 と止められると、イーリスもはっきりとこう言い切った。 「そのようですね。よーく分かりました!」 その言葉を聞いたフィネリアは何も言わずに、悔しがるアヴィアスを連れてこの場をあとにした。 二人が去ったのを見たイーリスは、とりあえずはマリンを[物扱い]したことを謝罪した。それに対してマリンは一応腹は立てていたが、やはり突然剣を振りかざしてきたリダーヤ聖騎士から守ってくれたことでは感謝していた。 一方では静夜が、事の成り行きに茫然としていたヴァネッサに話しかけていた。 「怪我はありませんかぁー?」 「大丈夫ですが……最近気が抜けてましたから……」 ヴァネッサはフィネリアの突然の剣戟に反応できなかった自分を恥じていた。 「だめですよ。周りに面白いものがあるからってそれにばっかり気を取られては……」 静夜に嗜められたヴァネッサは思わずこう漏らした。 「ですが……見てて面白いんですもの……ドツキ漫才……」 ヴァネッサの今の言葉にクサナギはあきれて反論する気も起きなかった。当人にとって今の鍔迫り合いはまさに命がけだったのだ。そう、今のフィネリアの剣裁きが最初からクサナギに向けられていたとしたら、受け止めることができたかどうか怪しかった。あるいはセフィロスやイーリスの腕をもってしても……。 そんなやり取りをしていると、そこに一人の女性が人込みを割って入ってきた。 「どうやらことは収まったようだな……」 ルシャーナだった。それを見たイーリスは思わず、 「こんにちわ。今日も物見遊山ですか?……そういえば、お供の方はどうしたんです?」 と、まくし立てるように挨拶した。それを受けたルシャーナは、 「ムワトロなら煩いのでおいてきた」 とだけ答えた。すると今度は静夜がこんなことを尋ねた。 「ところで、マリンちゃんの服を作ってくださったというのは本当でしょうか……」 その問いにルシャーナは突然顔を真っ赤にして俯いた。今まではどんな状況でも不敵な笑みを保っていたこの誇り高い帝国の皇女にしては珍しいことであり、おそらく一行にとっては初めてのことだった。そんな様子に構う事なくマリンは、 「そうだよ!。このお姉さんがマリンの服を作ってくれたんだよ」 と、ルシャーナの周りを飛び回り、その肩の上に止まった。 ともかく、一行はモ・エギの家にお邪魔してルシャーナがここに訪れた本当の理由を尋ねることにした。そして一行が家に入ると同時に周りの見物客もそれぞれの帰路についた。その直後、ナバールが誰もいなくなったモ・エギの家の前にやってきた。騒ぎを聞きつけてあわよくばそれを利用し、おひねりをちょうだいしようとしたのだろう。だが、事が既に終わっていると知り、この道化は思わず「チッ!」と舌打ちしてこの場を去った。 モ・エギの家で寛いだ一行は、改めてルシャーナの用件を聞いた。 「と、いうわけで今回私の商隊はライバから二週間ほど行ったところにあるウィルアンの町に出かけるに際して用心棒を雇うことにしたのだが、渡世人斡旋所に募集を出してもまだ一人しか来ていないのだ……」 その一人とはヴァネッサのことだ。ここで一行はヴァネッサにルシャーナを改めて紹介し、ついでに彼女の身の上も明かした。その際、再びイーリスと静夜が先のマリンの服の話を持ち出し、それによってルシャーナはまたも赤面した。 その後、少しして落ち着いたルシャーナは今度こそ一行に先の用心棒の依頼を持ちかけた。もう少し待っていれば他の渡世人も集まってくるのだろうが、それを待っていては出発が遅れてしまう。そこでルシャーナはライバでよく知っている一行に声をかけたという訳である。その話を聞いたクサナギは二つ返事で了承した。 「私としても最近、砲弾やらロケットやらの弾代が掛かっているので、それなりの蓄えが欲しかったところだ」 それを聞いたルシャーナは思わずこんなことを言った。 「そういえば最近、そなたの操兵が[ハリネズミになった]と聞いているが……」 それを聞いたイーリスが同意するように、 「そうなんです!。最近クサナギったら、絡め手に走るようになって……自分の腕で勝負すればいいのに……」 と、嘆き、静夜は静夜で、 「[ハリネズミ]じゃないです。[釣竿]ですー……」 と、これまたひどい例えで3リット砲を表現した。 まあ暇だったこともあって、イーリスとセフィロスもこの依頼を受けることにし、静夜も他の町でルヴィの手掛かりを捜せるとあって、医者として雇われることになった。そしてクサナギが行くとあってモ・エギも当然参加することにし、退屈だったマリンも同行することを決めて渡世人斡旋所に依頼を受けたことを届け出に行った。 翌日。一行は出発のためにモ・エギの家の前にやってきた。すると巨大な縦穴式住居の前には既にモ・エギがいまだ寝ている静夜を両手の上に乗せて待っていた。朝が苦手な静夜はあらかじめモ・エギの家に泊まり、起こしてもらうつもりだったのだが、やはりこのような結果となっていた。 その後イーリスが濡らした布で顔を拭いたり、汁気の多い果物を与えてみたりしたが、それでも静夜は起き出すことはなく、仕方がないのでそのままラゾレ商会の馬車に乗せて出発することにした。 今回のラゾレ商会の旅の目的は(本当に)行商だった。その積み荷は主に生活必需品が中心で、それほど高価な品物は積んではいない。が、その量は馬車二台分にもおよび、偽装のために操兵がルシャーナの68式装甲操兵一機しか所有していないラゾレ商会にとって、すべてを守り切るにはそれだけでは文字通り荷が重すぎたのだ。 だが、そんな不安はどこ吹く風、と言わんばかりに旅は順調に進み、数日が経った。その間イーリスはルシャーナの身の上を尋ねてみたり、静夜がムワトロの肩などを(普通に)揉んだりしたりと平和な時間が過ぎていった。そして二週間目、一行は目的地であるウィルアンの町近くの街道沿いの林の中で最後の野営をしようとしていた。 「やれやれ、到着前日だって言うのに、また缶詰めの塩漬け肉かよ……」 出された夕餉のシチューを見たムワトロが思わず毒付く。この旅の間、商隊はずっと「缶詰めと干し肉」だの「瓶詰めと干し肉」だの「乾パンと干し肉」だのを食べ続けていた。それゆえに、たいていは出発した当日や到着前日になればもう少しマシな食事が出るのが普通となっている。 「ぼやくな!。これでも昨日の缶詰めよりはずっと高級なものを使っているのだ。しかもちゃんとした料理になっているだけ良いと思え……!!」 「へいへい……」 ルシャーナに嗜められたムワトロはおとなしくシチューを口に運んだ。それを見ながら一行もそれぞれに食事を始めた。そんな中、薪の炎を見つめてヴァネッサがこんなことを呟いた。 「それにしても……ライバ周辺には[元王子]やら[帝国の姫君]やら、何でこんな人たちがいるのだろう……」 「まぁ、類は友を呼ぶって言うし……!」 ヴァネッサの返事のつもりで呟いたイーリスは自分が[墓穴を掘った]ことに気付いて唇を噤んだ。そう、確かに今ここにいるものたちは普通ならばめったに目にすることがない希有なものたちばかりである。クサナギやルシャーナをはじめとして[伝説の御仁姫]に[小妖精]、[方向音痴の若い医者]に[幻の武繰使い]……そう、セフィロスやイーリスも十分[怪しい人]の仲間なのだ。 まぁ、かく言うヴァネッサも12連装ロケット砲四基とガトリングガン三基を搭載した重武装の操兵を乗り回すというところでは十分[怪しい人]だ。そんなブラッティマリーとクサナギのエルグラーテAZを見上げてルシャーナが、 「私の操兵もさすがにそこまでは……」 と、すっかり呆れ返っていた。 そんな一時の団欒の中、すぐ側の林で何かが動いたような気配がした。それに気付いたのはクサナギと静夜だけのようだ。二人は暗闇の中、目を凝らして周りの茂みをじっくりと観察した。そんな二人を見た他の一行もそれぞれに警戒を始めた。 その時、茂みの中を何か黒い陰が一瞬動いた。その[何か]は4半リートほどの大きさで、それほど高さはないように見えた。それを見た静夜は今の物体が何であるのか、自分のもつ動物の知識に当てはめようとし、そして…… 「うさぎさんでしょうかぁー……うさぎですねー……」 と、結論を出し、そして決めつけた。が、クサナギはその結論に納得できずに一人茂みの中にその物体の正体を確かめようとした。クサナギが銃を構えて近づくと、その物体はゆっくりと後退した。それを見たクサナギは自分もゆっくりと、そしてボルトを引きながら前進した。やがてクサナギはその物体のシルエットを見ることができた。それはやはりうさぎなどではなく、どちらかというと[亀]……いや、[カブトガニ]を思わせる形状をしていた。 そんなクサナギを見た静夜は自分も覚えたてのボルトアクションを取り出し、ボルトを引いた。そして何故かクサナギの無防備な背中にその銃口を向けた!。本人はどうやら援護射撃のつもりでいるようだ。 周囲が異様な緊張に包まれる中、イーリスもその物体に近づき始めた。それを見たモ・エギが、「あまり変な生き物に不用意に近づかないほうが……」 と警告するが、側でセフィロスが「うさぎだろ?」というと、イーリスはそれがうさぎであるという前提でさらにその物体に接近した。が、クサナギはセフィロスの言葉に 「これのどこが[うさぎ]だというのだ!」 と、反論した。すると今まで事態を静観していたルシャーナがクサナギに永久ランプを投げて寄越した。それを受け取ったクサナギはランプでその物体を照らした。そして地面に横たわる[それ]を見て言葉を失った。いや、別に見たことがないものがあるわけではない。そこには 4半リート四方ほどの奇面衆の奇面が横たわっているだけだった。 奇面を見たクサナギは反射的にボルトアクションの銃口を向けてその引き金を引いた!。その銃弾は横たわる奇面に命中した。が、あっさりと弾かれてしまった。どうやらこの奇面はセラミック製であるようだ。 クサナギはすぐさま次弾装填に入ろうとしたその時、自分の足の間を一発の銃弾が通り過ぎ、奇面に命中したことに気付いた!。その突然の銃弾は奇面を貫き、セラミックの破片をまき散らして中の奇面衆に打撃を与えた!。銃弾は静夜が放ったものだった。クサナギの銃撃に驚いた彼女が思わず引き金を引いてしまい、それがものの見事に(偶然?)命中したのだ。その一撃を受けた奇面衆は苦悶の声を上げたが、それでも巨大な奇面をかぶって蹲る姿勢を変えようとはしなかった。 クサナギと静夜の射撃の直後、周囲でも動きがあった。今出現した奇面と同様のものたちが一斉にその巨大な奇面を立ち上がらせ、一行を威嚇したのだ!。その数全部で三体……。 敵の全容が見えた時点で全員がそれぞれに行動を起こした。イーリスはそのうちの一体に接敵、[返し]による攻撃を試みようとした。が、奇面衆はそれより早く行動を起こし、イーリスに対してこれまた巨大な植木鋏のようなもの出足を狙って攻撃を仕掛けてきた!。が、その際奇面衆は無理な姿勢による攻撃にしくじり、足を滑らせてその場に転んでしまった!。イーリスがその隙をついて斬り掛かり、奇面衆はその刀をまともに受けて絶命した。その時、イーリスはわずかに笑みを浮かべていた。 焚き火の周りではルシャーナを守るためにラゾレ、ムワトロをはじめとする部下たちがルシャーナを守るために行動を起こしていた。が、その側でヴァネッサは初めて見た奇面衆を見て、その姿に錯乱していた。いや、錯乱の理由は他にあった。 「いやあぁぁぁぁ!!ゴキブリイィィィ!!!」 どうやらヴァネッサは巨大奇面のシルエットを台所に良く出る[あれ]と錯覚してしまったようで、思わず拳銃を抜いて辺り構わず乱射してしまった!。幸いマリンと静夜はその前にモ・エギの裏に隠れ、ルシャーナたちはかなり離れていたためにその銃弾は側で駐機してあったエルグラーテの装甲で弾けるだけに留まった。 セフィロスは相手の実力が読めないこともあって、とりあえずは接敵することだけを考えた。相手もセフィロスが相手だけにこちらもとりあえずは様子を見る。接敵したセフィロスは相手が動きを見せないうちにこちらも[返し]の技で連続攻撃を繰り出し、そのうちの一撃を確実に命中させた!。が、やはりセラミック製の巨大奇面に阻まれ、決定打とはならなかった。 その時、そのセフィロスと奇面の側にイーリスが駆け寄り、刀を突き出して奇面に対して突撃を仕掛けてきた!。が、低い姿勢の敵に対して突きで命中させるのはやはり困難で、突撃に失敗した反動で大きな隙を作ってしまった。 敵の高い防御に手を焼いたセフィロスは、ここで流派の技[炎]を繰り出した。この技はかなりの体力を消耗するものの、[気]を乗せた強大な打撃を与えることができる。奇面の裏に隠れた敵を確実に仕留めるには、今はこの技を用いるしかない。セフィロスは渾身の[気]と力を込めて一撃を放った!。そしてその槍は砕けるはずのないセラミックの面を砕き、奇面衆はその一撃で動かなくなった。 残りは一人。クサナギはその場にしゃがみ込み、敵が攻撃を仕掛けてくる瞬間を見計らい、一瞬見える足元を狙ってその引き金を引いた!。そしてその弾丸は固い奇面の中で思わぬ跳弾を起こし、それがとどめとなって奇面衆は地面に伏した。 戦闘が終わり、防御姿勢を取っていたルシャーナの部下たちが恐る恐る倒れた奇面衆に近づいてきた。彼らも当然工作員としてこの土地のさまざまな情報を知ってはいたのだが、さすがに直に奇面衆を目の当りにするのは初めてのようで、全員が(武繰の技共々)驚きの表情を浮かべていた。そしてやはり奇面衆を初めて見たヴァネッサも、戦闘が終わって緊張が解けると同時に失神しかかってしまった。 そんな中、ルシャーナがこんなことを呟いた。 「それにしても……こ奴等は何が目的だったのだろうか……クサナギにしろ我々にしろ、この人数をたった三人で襲うなど不自然すぎる……」 静夜とイーリスは周りを見渡し、ほかに賊がいないかどうかを調べてみたが、どうやらここには本当に三人しかいなかったようだ。その三人も一人は即死、残る二人もこの怪我ではもはや助からないだろう……。 ここで静夜の医者としての信念が彼女を動かした。静夜はおもむろに針を取り出すと、倒れた奇面衆の壺に刺し、[点決]を打つことによる治療を試みようとした。それを見たイーリスが奇面衆の[洗脳]とそれによる危険性について説明したが、それでも静夜は治療を施し、その奇面の男はとりあえず動けるまでに回復した。 が、ここで悲劇は起きた。目が覚めた奇面衆は素早く状況を確認し、そして自分が逃走できないと知るや、口に含んであった容器を割り、中の毒物を飲み込んだ。それに気付いたイーリスがその背中を蹴って阻止しようとしたが時遅く、奇面衆はその場で血を吐いてそのまま絶命してしまった。静夜は目の前の惨劇に言葉も出せなかった。 「どうやらあなたの意思は無駄になってしまったようですね……」 イーリスの余りにも冷酷な言葉は今の静夜には届かなかった。 その後、クサナギは奇面衆の目的が何なのかを知る手掛かりを捜すために賊の持ち物を調べてみた。すると、彼らは例の巨大奇面と大型の断ち鋏のほかに、奇妙なことに小さな網を所持していた。それはとても人間を捕らえるには向いてはおらず、小動物の類いに使用するものだろうことが見て取れた。いったいこの奇面たちの目的は何だったのだろうか。 クサナギがその小さな網を一行に見せると、何故かセフィロスの視線は辺りを飛んでいるマリンのほうに向けられた。 「マリン、こんな人たちに知り合いなんていないもん!」 視線に対するマリンの抗議にセフィロスは、 「欲しがる者がいるかもしれないがな……」 と、言い訳をした。が、ルシャーナもその意見には同意しかねるようで、 「にしても、大勢がいる中で網をかけて連れ去るなどということは如何にこ奴等とて不可能であろう……」 と、反論した。 結局、しばらく話し合ったものの奇面衆の目的が何だったのかはついにわからず終いで、一行は用心しながら一晩を過ごした。そしてその晩はそれ以上の襲撃はなく、一行は無事に朝を迎えることができた。 翌日。商隊はその日の昼前に目的地であるウィルアンの町に到着した。 「我々は何日かこの町に滞在するつもりだが、その間そなたたちは自由だ。この町で好きに過ごすがいい……」 ルシャーナの言葉に一行はとりあえず宿を取って休憩することにした。が、この時マリンがいないことに気付いた。また何かあったのかと思った一行が辺りを見渡すと、その小妖精が血相を変えてラゾレ商隊の馬車から飛び出してくるのが見えた。 「いやあぁだあぁぁぁぁ!!」 マリンは悲鳴を上げて静夜の胸に飛び込んだ。それを見た静夜はマリンの頭を撫でながら事情を尋ねた。 「どうしたんですかー?」 すると側にいたルシャーナが、 「こ奴、積み荷に悪戯でもしようとしたのか……?」 と呟くと、静夜は思わず「メッ!!」と、マリンの頭を拳骨で小突いた。 「えぇぇん!いったあぁぁぁい!!」 マリンはしばらく頭を押さえて転げ回った。そして痛みが治まるとようやく事情を話し始めた。 「あのね……マリンが退屈だから馬車の中を見てみようとしたらね……中に何か光るのがあったの。そしたら…………[キツネ]ーっ!!」 再びパニックを起こしたマリンに思わず静夜はルシャーナを見た。その視線にこの[雌狐]は、 「私はさっきからここにいたぞ……って、大体何故に私が狐なのだ!!」 と反論した。 とりあえず静夜は脅えるマリンを宥めながらも、その問題の荷馬車の荷台を覗き込んで様子を見た。すると、その中で一瞬何かが光を放った。それは明らかに陽光に反射した生き物の眼だった。が、静夜の見た限りそれは敵意や害意をもつ類いのものではなかった。 「おいでおいでー……」 静夜は子猫や小犬に接するような態度でその生き物に接した。その手招きに興味を示したのか、その生き物はゆっくりと荷台の中からトテトテ出てきた。それは一匹の子狐だった。いや、本当にそれは狐なのだろうか。まんまるく愛らしい顔のその狐らしき生き物の尾はやけにふさふさしており、まるで複数の尾があるかのようだ。 その生き物を見たイーリスがルシャーナに、 「商隊はこのような生き物を飼っているんですか?」 と尋ねたが、ルシャーナは「そんなことはないが……」と否定する。そんなことなど構わずこの[子キツネ]は静夜の顔を見て呑気に「くーっ」と一声鳴いた。その今の鳴き声を聞き、そしてそのつぶらな瞳を覗き込んだ静夜は、遠い幼き日々の記憶を瞬時に呼び起こした。 「……くーちゃん……?」 静夜の呟きを聞いたキツネ−久遠−は目の前の女性が何者かを理解したのか、「くーっ!」と叫んでその胸の中に飛び込んだ。 その後落ち着いた静夜は、久遠を改めて一行に紹介した。その時、イーリスはその久遠に高い関心を示し、思わず手を伸ばしてその頭を撫で始めた。その微笑ましい光景に静夜、そして一行はこの(他称)[紅き氷の魔女]の意外なる一面を見たような気がした。 そんな中、久遠の名前を呼んだ静夜にクサナギが「知り合いなのか?」と尋ねた。 「そうなんですー……ちっちゃいころに逢いましたー……」 「だが……だとしたらこのキツネはそなたが子供のころからずっと成長していないことになるぞ……?!」 クサナギの疑問はもっともだ。静夜の話が本当なら、その出来事からざっと十年は過ぎているはずだ。それなのに、この久遠はその時から全く成長していないのだ。が、そのクサナギの疑問に対し静夜は、特に気にすることもなく「そういうこともありますよ……」と、久遠との再会に浸っていた。 その静夜の側では、ヴァネッサが何となく久遠の尻尾を見た。 「なんで……五本もあるの?!……」 |