キャンペーン・リプレイ

第 三十四話 「 [ ヌ シ ] を 継 ぐ も の 」  平成13年4月8日(日)

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 この時、一行はおろかルシャーナ、ムワトロ、ラゾレともにこの久遠の素性に気付くことはなかった。そして代わりに一行は、何故久遠が荷台にいたのかを疑問に思った。そもそも久遠は羅 諸国連合の樹界にいたはずなのだ。
 その時、モ・エギが上のほうから久遠を抱き上げている静夜を覗き込んだ。が、彼女は一行とは違って、久遠を見て心底から驚いているような顔をしていた。
「それって……[ケモノのヌシ]の眷属じゃありませんか……?!」
 モ・エギの話しによると、この五本の尾をもつ[キツネ]は樹界に住まう[モノノケ]または[ヤマイヌ]と呼ばれる巨獣の幼生体であるという。この巨獣は森のケモノの中でももっとも最強と云われ、[御仁]同様樹界を知るものに恐れられている存在だ。
 この話を聞いたクサナギは以前樹界で出会った[ケモノのヌシ]のことを思い出した。その美しさと畏怖を兼ね備えた姿をクサナギは決して忘れることはなかった。と、云うことは、この可愛らしい子ギツネも、いつかはあのヌシのようになるのだろうか。
「この子が普通の成体なら、緩やかに成長するでしょうけど、もし[次なるヌシ]だったら、いつヌシに[変移]するかわかりませんよ?」
 が、モ・エギの心配する声は静夜、そしてイーリスに届くことはなかった。
 何はともあれ、これでとりあえず久遠の正体は大体わかった。が、問題は何故、この[ヌシを継ぐもの]がラゾレ商会の荷馬車にいたのだろうか。
 ここでモ・エギがまたも口を挟んだ。
「ひょっとして、夕べの奇面衆はこの子が狙いだったのでしょうか……」
 モ・エギのこの一言は的を得たものだった。確かにそれならば、奇面衆が小人数で、しかも小さな網を所持していた理由に説明がつく。
「そうなの?くーちゃん……」
 静夜に話しかけられた久遠はその言葉を理解したのか、急に脅えて丸くなった。それを見た静夜はそんな久遠を抱きしめ、慰めた。
 そんな静夜と久遠に、今まで遠巻きに見ていたヴァネッサが近づいてきた。彼女はおもむろに久遠に向けて手を伸ばしてきた。その手を見た久遠は条件反射か伸びた指先に顔を近づけた。そして久遠はその時の指の仕草が気に入ったのか、そのままヴァネッサに飛びついた。まさかここまで過剰な反応が帰ってくるとは思わなかったヴァネッサは、戸惑いながらもその小さな狐を頭の上に乗せるなどしていた。
 が、その中でマリンだけはいまだ久遠に近づこうとはしなかった。まぁ、無理もない。彼女にとって[狐]は自分たちを襲う害獣、しかも子供であっても自分とほぼ同じ(体重差では上回っている)なのだ。この小さな妖精はイーリスや静夜が自分に久遠を近づけようとするたびに脅え、逃げ回っていた。

 その後一行はルシャーナたちと別れ、とりあえずどこかで一休みすることにした。が、その際クサナギだけは操兵駐機場に残された。静夜が、
「モ・エギさんが一人じゃ寂しくて可哀相じゃありませんかー……」
 と、言ったためだった。
 クサナギを除いた面々はその後、一休みのために手近な甘味処に入った。が、そこで静夜はさらに意外な再会をすることになる。
 一行が席に座ってそれぞれの好物を注文し、食していると、奇妙な人物がいることに気付いた。そのあちこちに目玉が描かれた操手用防具を身に付けた青年は、食事を済ませ、清算をして店を出ていった。その服装を見た静夜はまたも幼きころの記憶が呼び覚まされた。それは、樹界で久遠と別れた後に出会った操兵乗りの服装だった。
「[おじたま]?!」
 突然呼びかけた静夜の声に男は思わず振り返った。
「俺はまだ、[おじたま]と呼ばれるほど歳は食ってないぞ!」
 振り返ったその顔を見た静夜は驚きを隠すことができなかった。確かにその男は静夜が出会った[あの時の]青年だった。が、何より彼女を驚かせたのは、その青年が当時のままの[青年]であったことだ。そう、彼は十年以上もたった現在まで全く年を取っていないように見えたのだ。
 静夜はおもむろに青年に近づき、その頬を抓った。
「なんだなんだ?!」
 突然の行為に青年が驚愕するが、それにも構わず静夜は、
「皺がない……」
 と、呟いた。
 青年が全く歳を取っていない(ように見える)というその事実は静夜から話を聞かされた他の一行も驚かせた。そして青年もここに来てようやく静夜のことを思い出した。
「あの時の女の子か?!。大きくなったもんだな……」
「でも、おじたまは羅 諸国連合にいたはずじゃ……」
 その静夜の問いに青年は(正確には[おじたま]と呼ばれたことに)苦笑しながら、
「おいおい……あれから何年経ったと思ってるんだ……俺だって旅くらい出るさ」
 ここで静夜はようやくこの青年を一行に紹介し、そして静夜も青年に一行を紹介した。が……「[紅き氷の魔女]様に[せっちゃん]に、ここにいないけど[ハニ丸様]と[モーちゃん]、あと、そこの[お嬢さま]が……」
 どうやらこれは順番にイーリス、セフィロス、そしてクサナギとモ・エギ、最後はヴァネッサを指しているようだ。あまりの呼びようにイーリスが(特に魔女呼ばわりされたことを)抗議するが、静夜は特に気にすることはなかった。
 ともかく、一通り一行の名前を聞いた青年はこう返してきた。
「まぁ、そっちの名前を聞いた以上、俺も名乗らなきゃならないな。俺は……」
 と、青年が自分の名を名乗ろうとした時、不意に聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「こんなところで何をしている!ナムセス!!」
 一行がその声のした方を見ると、そこには珍しく怒りの感情を昂らせているルシャーナの姿があった。そんなルシャーナの姿を確認した青年−ナムセス−は特に表情を変える事なく、
「なんだ、ルシャーナじゃないか……そっちこそなんで[トランバキアの白い魔女]がここにいるんだ……」
 その二人の会話に静夜が割って入った。
「狐さん狐さん……お知り合いですかー……?」
「私を狐呼ばわりするのは止めてくれないか……」
「じゃあ……[ルーちゃん]……」
 …………どうやら静夜は最近[様]ではなく[ちゃん]で呼ぶことを覚えたようだ。その今までになかった呼び方にルシャーナは困惑しながらも、
「ま……まぁ、いいか……」
 と、とりあえずは納得した。
 静夜とルシャーナの会話が途切れると、今度はナムセスがにやにやしながら再び話しかけてきた。
「それにしても……こんな辺境にあんたが出てくるなんざ……よっぽどこの俺に逢いたかったようだな、ルシャーナ……」
「馬鹿なことを申すな!……私はこいつと恋仲などになってはいない……!!」
 今のナムセスの言葉にルシャーナは向きになって言い返した。今の彼女らしからぬ態度にイーリス、静夜、ヴァネッサが
「もしかして、年増が好きなんですか?」
「ご夫婦?」
「恋仲なんだ……」
 と、それぞれに突っ込みを入れると、彼女はさらにむっとした表情でこう言った。
「こ奴はむしろ、宿敵といったほうがよいだろう……」
 そのルシャーナのつっけんどんな言葉にナムセスは呆れ返った表情で
「おいおい、まだ実際に刃を交えたわけじゃないだろう……そうカッカするな」
 と言った。そして静夜もまた、ぼそりと呟いた。
「宿敵と書いて[とも]と呼ぶ……」
 その後一行はナムセス、ルシャーナ等と少しの間無駄話をして過ごしていたが、やがてナムセスが背伸びをしながらこんなことを言った。
「そろそろ俺もぶらりと町の散歩にでも行くか……ルシャーナ、今夜辺りどうだ?」
「何が[今夜辺り]だ!!」
 ルシャーナの怒気を背に受けたナムセスは笑いながらその場を去った。そしてルシャーナも一行に別れを告げ、とりあえずはその場をあとにした。
「今度は[夫婦漫才]ですか……」
 ヴァネッサがそう呟くと、一行は苦笑しながら頷いた。
 立ち去ったナムセスを見送ったイーリスはこんなことを呟いた。
「それにしても……あのナムセスって、ずいぶん若く見えるけど……」
「はいー……あの時からおじたまはまるで変わってませんけどもー……」
 静夜のその答えにイーリスは思わず前に逢ったアヴィアスのことを思い出した。
「すごい若作り……あの[老けた聖騎士]さんにも教えてあげたい……」
 と、その時……
「誰が[老けている]って?!」
 その声にイーリスが振り返ると、そこにはいつの間にかアヴィアスが怒りの形相で一行を睨んでいた。
 アヴィアスはこんな奴等に構ってられるかと言わんばかりに、きびすを返してその場を去ろうとした。が、急に思い出したように振り返り、一行にこんなことを尋ねた。
「そうだ。貴様たちに聞いてもわからないだろうが、こう言ったものを被っているものたちを見かけなかったか?」
 アヴィアスがそう言って取り出したのは、奇面衆の仮面だった。一行が夕べ撃退したことを伝えると、この聖騎士は感情を高ぶらせて叫んだ。
「奴等、こんなところまでうろついていたのか!」

 そのころ。操兵駐機場ではクサナギとモ・エギがエルグラーテの隣の操兵を見て顔をしかめていた。
「……ファルラーテ!!」
 ファルラーテは量産型とはいえめったに見る操兵ではない。しかもリダーヤ聖騎士の紋章をつけている機体となると、それが誰のものか容易に見当が付くというものである……。
「でも……それよりも……」
 だが、クサナギとモ・エギはさらにその隣に駐機してある操兵のほうが気になった。その機体がこの辺りでは見かけない羅 諸国連合風の機種であったこともあったが、何よりも二人が違和感を覚えたのは、その機体各所に描かれた目玉模様だった。しかもこの操兵、わざわざ一つ目風の面甲まで装着していたのだ。
「ね……変な操兵でしょ?」
「確かに……あまり趣味が良いとはいえないな……」
 その時、そんな二人の元に明らかにその目玉操兵の操手と思われる男が二人の元にやってきた。操兵同様各所に目玉の描かれた服、一つ目風の面具を装着したその男は先に一行と出会ったナムセスだった。
 ナムセスはエルグラーテを見上げ、AZ装備を眺めて「どこかの傭兵か……」と呟き、次にブラッティマリーのロケット砲を見て「傭兵の僚機か……」と呟いた。そして最後にナムセスはモ・エギを見上げた。
「確かさっき……御仁がどうこうとか言ってたっけな……」
 ナムセスはここではっとなってそばにいたクサナギとモ・エギを見比べてこう言った。
「あぁ……[ハニ丸様]と[モーちゃん]、て、あんたたちか!!」
 クサナギはナムセスがその言葉を誰に聞いたのかをあえて問うことはしなかった。
「……聞くまでもないか……」
 ナムセスは笑いながらクサナギに話しかけた。
「すまんすまん……その王族訛であんたが噂のクサナギヒコだってのは気付いたよ……」
「そなたは?」
「俺か?。俺はナムセス。旅の戦士だ」
 クサナギはここでナムセスに目玉操兵について尋ねてみた。その問いにナムセスは「俺の旅の相棒だ」と、自分の機体であることを認めた。その答えにクサナギは思わず操兵とナムセスを見比べて、
「なるほど……」
 と、納得したように呟いた。
「それにしても……」
 今度はナムセスがクサナギとモ・エギを見比べながらこう言った。
「御仁姫を嫁に迎えたと聞いていたが……本当だったのか!」
 そのナムセスの言葉にクサナギとモ・エギは狼狽しながら弁明した。
「まだ私たちは結婚したわけでは……!」
「[まだ]……?!」
 ナムセスが呟いた突っ込みにクサナギ、モ・エギは返す言葉が思い浮かばず、ただひきつり笑いを浮かべるしかなかった。
「冗談だよ。まあ、また機会があったらゆっくり話をしよう……」
 ナムセスは笑ってそれだけを言うと再びきびすを返してその場を立ち去った。クサナギの心に強い印象を残して……。

 その夜。クサナギを含めた一行は宿でとりあえず寛いでいた。そこでクサナギはアヴィアスが奇面衆を捜していることを聞かされた。
「確かに彼のものの操兵がいたので、来ているとは思ってはいたが……」
「それと、おじたまもいました」
 クサナギは静夜、イーリスから先の[目玉の操手]がかなりの歳らしい(おそらくは30〜40代だろう)ことを聞かされ、驚愕した。
「まさか?!私が見た限りせいぜいが二十代くらいに見えたのだが……」
 そんな中、久遠は店の中をトコトコとうろつき回り、飛び回るマリンを追いかけたり他の客が嗜む酒の匂いにつられたりしていた。それを見たイーリスは久遠に甘酒などを飲ませていた。
「おい、そんな小さな子ギツネに酒など飲ませて大丈夫なのか?」
 クサナギがイーリスを嗜めようとするが、静夜は「平気ですよー」と、平然とした顔で久遠を可愛がるイーリスを眺めていた。静夜にとって[魔女サマ]が動物を可愛がる姿は非常に珍しい光景であったようだ。
 その時、宿の入口にナムセスが姿を現した。
「あ、おじたま久しぶりですー……」
「さっき逢ったじゃないか……て、そういえばルシャーナはどうした?」
 ナムセスは店の中にルシャーナがいるかどうかを見渡した。が、
「逃げちゃったみたいですけど……」
 イーリスがそう呟くと、ナムセスは「チッ」と残念そうに舌打ちした。
「ま、それは置いといて……静夜だっけ。あれから本当に大きくなったな……」
「おじたまこそ、全然変わらなくて……」
 ナムセスは未だにおじたま呼ばわりされることに苦笑した。
「いい加減にその呼び方はやめてくれよ……」
「おじたまはおじたまですよー……」
 ここでイーリスはアヴィアスの話を持ち出し、彼に若さを保つ秘訣を教えてやってくれ、と持ちかけた。ナムセスはアヴィアスがリダーヤ聖騎士であることを聞くと、顔をしかめてこう呟いた。
「リダーヤの名をもつものに、今は逢いたくないな……」
 が、そのアヴィアスが[老け顔]だと聞くと、今度は笑って、
「それは、哀れとしか言い様がないな……」
 と言った。しかし、自分が若く見られていることを指摘されると今度は寂しそうな表情を見せた。
「長く生きても……いや、これはいいか……」
 その後、マリンがゴキブリを見つけ、ヴァネッサがそれに対して拳銃を撃ち放つなどの騒動が起きたりもしたがとりあえずは無事に夜更けを迎え、一行はそれぞれに床に就いた。

 一方、そのころ。二人の人物が小高い丘に立ち、町を見下ろしていた。いや、それは本当に人なのだろうか……一人は身長が半リート、全身に埴輪のような板金甲冑で身を包んだ大男。もう一人は腰を落とした姿勢の小男で、鏡獅子のような鬘をつけ、両腕に鉄の爪をはめていた。そう、この二人の奇面衆は以前の[紅玉の吸血鬼事件]、[妖精郷襲撃事件]の際に暗躍したものたちだった。
 巨漢の奇面[ビクア]は町に目をやり、何やら「グルウゥゥゥ」と、唸り声のようなものを発した。すると、それに答えるように小柄の奇面[リトリ]がビクアを諭すようにこう言った。
「そう、いきり立つな……俺とてこんな[奴等]に頼りたくはなかったが、上の命令だから仕方がない……これも任務だ……」
 どうやらリトリは今のビクアの唸り声だけで彼がなにを言わんとしているのかがわかるらしい。「それにしても、クサナギたちがいるというのは厄介だな……なぜ、こうも奴等は我々の前にちょくちょく姿を現すのだ?!」
 そんなリトリの呟きを他所に、ビクアは片腕を振り上げ、後方に控えるものたちに合図を出した。それを受けて二つの影がゆっくりと立ち上がった。が、その人影の大きさ、体格はビクアのそれをはるかに上回っていた。そしてその二つの影は大きさに見合わぬ速度で町に向けて走り出した!。
 だが、動き出したのはそれだけではなかった。その影の後ろからさらに四体の巨大なものが姿を現したのだ!。
 それは、巨大な[蟹]のようにも見える操兵らしきものだった。その[蟹]はけたたましい駆動音を立てながら、走り去った[奴等]を追ってやはり街に向かって歩み始めた。