キャンペーン・リプレイ

第 三十四話 「 [ ヌ シ ] を 継 ぐ も の 」  平成13年4月8日(日)

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 やがて二つの巨大な人影は一行が泊まる宿の前に姿を現した。月明かりに照らされ、はっきりと浮かび上がったその異形の巨人の姿は、以前一行が樹界の遺跡の中で遭遇したあの人造生命に酷似した質感を持っていた。
 そんなこととは露知らずにそれぞれ三つの部屋に分かれてすっかり寝入っていた一行だが、さすがに場慣れしたもので外の異変に気付いてやはりそれぞれに起き出し、警戒を始めた。
「くーちゃん、襲撃者みたいですねー……」
 静夜はまだ眠気のさめない久遠を抱き抱え、気配のする窓際に目をやった。隣ではイーリスも起き出し、装備を整えて警戒する。気配はだんだんと近づいてきた。そして、出現したものを見て二人は驚愕した。
 最初に窓から見えたものは、三本の棒のようなものだった。その棒は二人がいる部屋の窓に張り付くと、そのままガラス戸を押し破り、窓際に引っかかった。それは、巨大な緑色の巨人の指だった!。その指の主はヌウッと首を突き出し、そのまま窓の中の二人と一匹を奇面越しに見つめた。
 その巨人はセフィロスとクサナギのいる部屋にも姿を現していた。クサナギが銃を構えて迎え撃とうとすると、セフィロスが
「奴等の狙いはあの久遠だ!。クサナギはイーリスたちの部屋へ!」
 と、クサナギにイーリス、静夜の部屋に行くように促した。それを受けたクサナギは「わかった!」と、すぐさま彼女たちの部屋に向かった!。
 部屋に残ったセフィロスの前にその巨人がゆっくりとした動きで上半身を乗り出してきた。その時セフィロスは、その皮膚の質感を見てかつて樹界の遺跡で遭遇した巨人型の人造生命を思い出した。形状こそ違えど、もし同質のものならかなりの強さ、そして再生能力を持っていたはずだ。
「確か……強かったはずだよ……な!……」
 セフィロスは、自分一人になったことを少しだけ後悔し始めた。
 ここでセフィロスは同時にこの巨人の弱点も思い出した。確か巨人は顔の奇面を破壊すればその再生能力を止め、活動を完全に停止させることができたはずだ。しかし、遺跡での戦いの時は一体をセフィロス、イーリス、そしてゼロの三人掛かりでやっとの思いで倒している。果たして、セフィロス一人で歯が立つのだろうか。
 ここで躊躇してはますます不利になる一方だ。セフィロスは巨人が上ってくる前にその奇面目がけて槍を繰り出した!。今登られたら高い位置にある巨人の顔への攻撃が困難になるのだ。 だが、巨人はその体格に見合わぬ反応速度でセフィロスよりも先の行動を開始、自分が通りやすいように手にした棍棒で宿の二階の壁を破壊し始めたのだ!。その光景はイーリス、静夜、久遠の部屋でも繰り広げられ、その素早さにさすがの武繰使いも舌を巻くより他はなかった。
 その光景を見たクサナギはイーリスの部屋に行くことを諦め、よじ登ろうとしているその巨人の手首に向けてボルトアクションの狙いを定めて引き金を引いた!。その強烈な一撃は巨人の手首を直撃、指を二本ほど吹き飛ばすだけでは収まらず、巨人は衝撃でそのまま地面に倒れてしまった!!。
 その隙を見逃さなかったセフィロスはそのまま破斬槍を繰り出し、とどめの一撃を巨人に放とうとした。が、そこでセフィロスは思わず足を滑らせ、何とそのまま落下して倒れた巨人の胴体の上に自分もうつ伏せに倒れ込んでしまった!。
 一方、イーリスも迫り来る巨人に対して攻撃を仕掛けていた。当初仮面を狙おうとしたイーリスだが、今のままでは命中しそうにないと判断、ここは相手の体力をそぐために流派の技[紅連]での二回連続攻撃を試みた。その斬撃は二撃目にして命中した。が、それほど高い効果は上げられず、ただ柔らかい不気味な感触だけが刀を通じてイーリスの手に伝わっただけだった。 
 その時、今の騒ぎを聞きつけてヴァネッサがイーリス、静夜のいる部屋に飛び込んできた!。そして素早く状況を判断、巨人の出現に戸惑いながらもすぐさま長剣でその巨人目がけて斬り込んだ!。が、やはり通常ならば一撃で昏倒しそうな打撃を受けながらも巨人は平然としており、その生命力にヴァネッサは言葉を失った。
 宿の外ではセフィロスと巨人の死闘が始まった。ここで先に立ち上がったほうが勝ちだ。セフィロスは運の助けを借りるかのように必死に立ち上がった!。そしてここで決めるべく流派の技[烈火]を繰り出した!。この技は強力な打撃を生み出す反面、使用直後は技の反動のために動きが鈍る。ここで決まらなければ後がなかった。
 果たしてその槍はセフィロスの思いに答え、立ち上がろうとしていた巨人の奇面に命中、それを真っ二つに割った!。急所である奇面を割られた巨人は「延D∪∇・ф☆*ヱヱ!!」と絶叫をあげ、シュウシュウと不気味な煙と匂いを立ててその場に崩れていった。セフィロスは溶け逝く巨人の肉に足を取られながらも何とか脱出した。
 セフィロスが巨人を倒すと同時に、もう一体の巨人が新たな動きを見せた。上がってこないうちにケリを付けようとしているイーリス、ヴァネッサの前に何と、巨人は信じられない敏捷力と跳躍力を発揮、二人のいる二階へと飛び乗ったのだ!。部屋の床に足をめり込ませた巨人は手にした棍棒を構え直した。どうやら二人まとめて凪払おうとしているようだ。
 そのころ静夜は久遠を庇いながらとりあえずヴァネッサと入れ代わるように部屋を飛び出した。そして、今度こそイーリスとヴァネッサのいる部屋に向かおうとしているクサナギとばったりと出会った。静夜と久遠の無事を確認したクサナギは
「そなたたちは隠れているのだ!」
 と、二人を逃がそうとした。それを受けた静夜はこういう状況にもかかわらずほわわんとした表情で、
「隠れてるんですかー?……はーい……」
 と軽く返事をして言う通りにした。
 目の前に飛んできた巨人に驚愕したイーリス、ヴァネッサだが、とりあえずは我にかえって再びそれぞれに攻撃を繰り出した。しかし、動揺から回復していないのかヴァネッサは相手が大きいにも拘らず剣を大きく空振りしてしまい、イーリスの二度目の[紅連]も大した打撃を与えられなかった。
 そこにクサナギがようやく駆けつけ、二人を援護するべくボルトアクションで巨人の奇面を狙い……その銃弾は何とか庇う腕を避けて奇面に命中!割るまでには至らなかったが眩暈を起こす程度の打撃を与えることはできた。
 これがチャンスとばかりにイーリスは今度は流派の技[紅炎]を試みた。この技は先の[紅連]同様の二連続攻撃だが、こちらは命中よりも打撃を重視した技となっている。どうやらここで決着をつけるつもりのようだ。そしてその技はまたも二撃目で奇面に命中!。ボルトアクションの弾丸で罅の入ったそれを完全に撃ち砕いた!!。
 だが、これで終わったわけではなかった。奇面を砕かれた巨人はやはり異様な匂いと煙を吹いて溶け出し、そして最後の執念かイーリス、ヴァネッサのところに倒れ込んできたのだ!。
 イーリスはとっさに身を翻してその場を飛び退き、とりあえずは難を逃れた。ところが、武器を回旋棍に切り替えることに気を取られたヴァネッサはそこから動けず、そのまま巨人の下敷きとなってしまったのだ!。
「もういやあぁぁぁ!!」
 ヴァネッサは迫り来る巨人の死骸を前にどうすることもできずにそのまま気を失ってしまった。ここで幸運だったのは巨人の体の大部分が溶け落ちていたために押し潰されることがなかったことだった。が、それでもまともに溶けた肉汁を浴びてしまったことには変わらず、ヴァネッサはしばらくの間は悪臭に付きまとわれることとなってしまった。

 とりあえずの危機は去った。そう感じたセフィロスは宿に戻って一行が無事かどうかを確認しようとした。が、ここで彼に新たなる、そしてさらなる脅威が迫ってきた。
「何だ……この振動は……?!」
 突如鳴り響いた地響きにセフィロスがその方向に目をやると、そこに何と高さ1リートほどの巨大な[蟹]が出現した!。いや、それは蟹ではなく、蟹の形をした操兵だった。平たい胴体に四脚を生やし、蟹のような鋏を取りつけた腕を持つその機体は、顔に当たる部分の奇面をセフィロスに向け、ゆっくりと近づいてきた。
「操兵は私の分野ではないのだがな……!」
 セフィロスはそう毒付くと、とりあえずその操兵から逃れるべくその場から走り出した。蟹操兵はセフィロスを逃がすつもりはないようで、その四脚を器用に動かし、時折逃げる獲物を威嚇するかのように鋏をカシンッ!と鳴らしながら追いかけ始めた!!。
 その様子は宿の二階にいる他の一行にも見えた。
「海月の次は……蟹か?!」
 クサナギが呆れるもの無理はない。その操兵は真上から見ると、甲羅の部分が奇面衆の仮面となっているいわゆる[平家蟹]そのままなのだ。しかもその奇面の唇の彫込みがやけにリアルにできているのがさらなる不気味さを醸し出していた。
 が、それでも操兵は操兵。如何にセフィロスといえど生身で敵う相手ではない。クサナギ、そして気を取り戻したヴァネッサはすぐさま自分たちの操兵を取りに行くべく宿を飛び出し、大急ぎで操兵駐機場に向かおうとした。そしてマリンも、
「マリン、モ・エギ呼んでくるぅーっ!!」
 と叫んで一足先に駐機場に飛んでいった。

 が、世の中そう甘くはなかった。既に操兵駐機場にも蟹操兵二機が動かぬエルグラーテとブラッティマリー目がけて迫っていたのだ!。
「そ、そうはさせないんだから!!」
 モ・エギは相手の異様な姿に脅えながらも、その操兵二機に単身立ち向かっていた。ここで食い止めねば、無防備な二機の操兵が蟹操兵の攻撃に曝されてしまう。
 が、そのモ・エギの果敢な攻撃に対し、蟹操兵は鋏を巧みに繰り出してただ受け流すだけだった。そう、この操兵は最初からモ・エギの足止めが狙いだったのだ!。マリンが飛んできてクサナギたちの危機を知らせようとしたが、既にモ・エギはこの場を動くことができなかった。 そんな光景をリトリとビクアは町の入口で眺めていた。
「万事予定通り……あとはこの混乱に乗じて[幼体]を奪取すれば……」
「なるほど……やはりあなた方の差し金でしたか……いったい何を企んでこのようなことを……」
 突然の女性の声に二人の奇面が振り向くと、そこには二人のリダーヤ聖騎士が剣を構えて立っていた。フィネリアとアヴィアスだった。その姿を確認したリトリとビクアは無言のまま戦闘体制を取った。
 そんなことが起きているとは露知らず。モ・エギはクサナギたちの元に駆けつけるべく、何とか蟹操兵二機を無力化しようと奮闘していた。が、もともと足止めが目的の操兵は巧みに攻撃をかわし、後ろのエルグラーテを攻撃する素振りをしたりなどしてモ・エギの行動の邪魔を続けた。 その時、不意に駐機場から二機の操兵が立ち上がった。ルシャーナの68式とナムセスの操兵[ズィドルク]だった。
「俺たちが町の中の操兵をどうにかする。でっかい嬢ちゃんはここで旦那さんが来るまで持ち堪えてくれ!!」
「だからまだ結婚はしていないんですってば!!」
 ナムセスの言葉にモ・エギは攻撃を続けながらも赤面した。そしてそのやり取りに半ば呆れ返りながらもルシャーナがモ・エギに話しかけてきた。
「町の住人のことは私たちの部下たちがどうにかしてくれる。そなたはここを守ることだけに集中しろ!」
「助かります!!」
 モ・エギの返事を聞いた68式とズィドルクは一行がいるはずだろう宿へと向かって全力で走り出した。
 町の中では、セフィロスが迫り来る蟹操兵から逃れるために必死に走り続けた。が、闇雲に逃げ回っても埒はあかない。セフィロスは遠回りになりながらも何とか操兵駐機場へと向かった。うまく行けば先にそちらに向かったクサナギとヴァネッサがそれぞれ操兵で迎え撃ってくれるだろうと思ったからだ。蟹操兵はそんなセフィロスに追いつかんと、倒れた巨人のセラミック骨格を破壊しながら突き進んだ。
 隠れていた静夜はとりあえず操兵が自分たちに関心がないと見るや宿の部屋から顔を出し、ボルトアクションを取り出して狙撃ポイントを捜し始めた。が、この蟹操兵は機体身長が低く、しかも仮面は甲羅の内側に隠れており高い位置からの狙撃には無理があった。
 そこで静夜は、蟹操兵の足のうち一本に狙いを定めた。確かに機体装甲は頑丈だが、間接の隙間を狙えばボルトアクションでもそれなりの被害を与え、しかもそれが間接のジョイントであれば足止めにはなると判断したからだ。
 そして操兵駐機場に向かったクサナギとヴァネッサの前にも脅威が迫った。何とこちらにも二人を遮るように別の蟹操兵が出現したのだ!。宿に二階からその操兵の存在を知ったイーリスはすぐさま大声でその操兵の存在を二人に知らせた。それを受けたクサナギは建物の陰に潜んで警戒する。そしてヴァネッサもまた、遠回りになると思いながらも聞こえてくる駆動音から遠ざかるように迂回した。
 その反対方向では、逃げているばかりではどうしようもないと考えたセフィロスが、跳躍の技である[翔]を用いて蟹操兵の甲羅の上に乗ることを試みようとした。相手が全力で移動し続けてくれれば、ちょうど着地する瞬間に自分の真下に来るであろうという考えだ。
 が、敵もそれを許すほど甘くはなかった。足裁きを用いて逃げるセフィロスに簡単には追いつかないと判断した蟹操兵は、移動をやめて甲羅の一部を開き、そこから何と対人ガトリングガンを展開させてセフィロス目がけて撃ちはなったのだ!。セフィロスはその銃弾の雨を避け切れず、諸に銃撃を受けてしまった!!。
 それでも何とか軽傷で済んだセフィロスは、やっとの思いで操兵駐機場が見える路地までたどり着いた。目の前ではモ・エギが悲鳴を上げながら蟹操兵二機と格闘していた。どうやらモ・エギに後ろの操兵を任せるわけには行かないようだ。
「仕方ないか?!」
 セフィロスはこの場はとりあえず近くの物陰に隠れて操兵をやり過ごそうとした。が、蟹操兵はそれを見逃さずに再びガトリングガンをセフィロスに向けて狙いを定めた。今のセフィロスにその銃弾をかわす余裕も耐え切るだけの自信もなかった。
 が、その銃弾は発射されることはなかった。その蟹操兵が背後から別の操兵の攻撃を受けたのだ!。それは、ナムセスのズィドルクだった。
「早く行け!。生身じゃ辛かろう……」
「助かる!」
 セフィロスは軽く礼を言うと、蟹操兵と戦闘状態に入ったズィドルクを後ろにその場を走り去った。それを見た蟹操兵は一度目にした獲物は逃がさないとばかりに、押えつけるズィドルクから何とか逃れようと四脚と両腕を振り回してもがいた。が、その足のうち一本が突如火花を散らしたかと思うとそのまま動きを止めてしまった!。
「何が起きた?!……狙撃か?!!」
 慌てふためいた奇面操手の視線の先には、路地裏から覗かせる銃があった。そしてその銃を構えているのは、背嚢に久遠を詰めた静夜だった。そう、やっと狙撃ポイントを見つけた静夜がようやくボルトアクションでの狙撃に成功したのだ!。本来操兵は銃弾程度で機能を停止することはないのだが、間接の隙間を狙われた上に、一本一本の足が脆弱な四脚ではさすがに強力なボルトアクションの一撃に耐え切ることができなかったようだ。
 一方、クサナギの側にも蟹操兵が迫ってきていた。蟹操兵はクサナギを確認するや、やはり鋏を突き出してゆっくりとそれをクサナギに伸ばしてきた!。
「これまでか?!」
 が、寸でのところで援護が間に合った。クサナギに蟹操兵の鋏が直前まで迫った時、ルシャーナの68式が駆けつけ、間に入って蟹操兵を引き受けたのだ!。
「何をしている!。早く行け!!」
「かたじけない!!」
 クサナギはとりあえずこの場をルシャーナに任せて大急ぎで操兵駐機場に向かった。
 操兵駐機場の前ではモ・エギが必死に蟹操兵二機と戦っていた。本来戦鎧紅葉武雷を着装したモ・エギならばこの蟹操兵に後れを取ることはない。が、今彼女は鎧をつけてはおらず、しかも蟹操兵は正面からぶつかることはせずにモ・エギの攻撃を受け流し、そして時折隙を見て後ろの操兵駐機場に向かう素振りを見せてはモ・エギの疲弊を誘う戦術に出ていた。そしてモ・エギも駐機場を庇いながらということもあって思い切った戦いができずにいたのだ。
 そこに何の障害もなかったヴァネッサが真っ先に駐機場にたどり着いた。彼女は先の巨人との戦闘で染みついた体液の匂いに根を上げ、上着を脱いで体を拭いながらもすぐさま整備台によじ登り、駐機状態にあったブラッティマリーの起動準備に取りかかった。が……
「匂い……取れませんわね……」
 ヴァネッサは操手槽に充満し始めた体液の匂いに顔をしかめた。
 ブラッティマリーが起動し、整備台から立ち上がろうとしたその時、ようやくクサナギも駆けつけてエルグラーテを起動させた。
「クサナギさん!!、ヴァネッサさん!!」
「モ・エギ!後は任せろ!!」
 クサナギとヴァネッサはそれぞれエルグラーテAZとブラッティマリーに戦闘体制を取らせた。