キャンペーン・リプレイ

第 三十四話 「 [ ヌ シ ] を 継 ぐ も の 」  平成13年4月8日(日)

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 一方、ナムセスのズィドルクに助けられて一足先に到着していたセフィロス、そしてクサナギのあとから駆けつけたイーリス、静夜は駐機場のほど近くで二人の聖騎士がやはり二人の奇面衆と戦っているのを目撃した。その二人の聖騎士はアヴィアスとフィネリアだった。アヴィアスはビクアの巨体に驚愕、苦戦を強いられ、フィネリアはリトリと五分の戦いを展開していた。 本来ならば一行に二人を助ける義理はない。が、かといって放っておく訳にもいかず、さらに相手が奇面衆とあってイーリスとセフィロスは加勢するべくその戦闘の中へと突っ込んでいった。 操兵を起動させたクサナギはすぐさまエルグラーテを蟹操兵に向かわせ、あえて刀を抜かずに掴みかからせた!。
「これでどうだ!」
 エルグラーテは蟹操兵を安々と持ち上げてあっさりとひっくり返し、抵抗むなしく蟹操兵は地響きを立ててその無防備な腹を曝して地面に倒れた!。どうやらこの機体は対人用で、あまり膂力はないようだ。それを見たヴァネッサは、もう一機の蟹操兵にブラッティマリーを向かわせ、そしてこちらは奇面を形どった甲羅の上に乗り上げさせる。その思わぬ攻撃に蟹操兵はその動きを完全に封じられた!。
 その程近くでも、イーリス、セフィロスが奇面衆との戦闘に入っていた。イーリスはアヴィアスに襲いかかるビクアに向けて流派の技[裂波]を繰り出した。この技は、同じ流派の技である[空]をさらに強化したもので、体力消耗が大きいものの決まれば遠間の突撃効果と重なってかなり大きな威力を発揮する。全身を金属鎧で覆ったビクアに打撃を与えるにはうってつけだった。
 果たしてその威力は凄まじかった。ビクアの猛烈な鉄棍の攻撃に曝されていたアヴィアスは、横から一瞬風が吹いたように感じた。そしてその直後、ビクアの横にいつの間にかイーリスが立っているのを目撃した。突き出された刀は、その横腹の鎧の隙間に深々と突き刺さっていた!。
「グオォォォォォォ!……ガァ!!」
 イーリスが悶絶するビクアから刀を引き抜くと、その巨体はゆっくりと、地響きを立てて倒れた。そしてその巨大な奇面の埴輪武者は、もう二度と立ち上がることはなかった。
「今のは本当に……人間の技なのか……?!」
 アヴィアスは目の前の[魔女]が起こした奇跡を信じることができずにいた。
 セフィロスはフィネリアと互角の戦闘を続けているリトリの近くまで駆け寄った。そしてやはりこちらも流派の技[烈火]の準備に入った。この技は瞬間的な[気]の力で打撃力を上昇させる[炎]をさらに強化したもので、(限定的ではあるが)[気]を練り込むことによってさらなる打撃を引き出すという言わば[疑似気闘法]というべき技だった。
 だが、この技にはその威力を最大限に引き出すために気を練る必要があるため、発動までに時間がかかってしまう。そして発動直後にはその疲労のために動きが散漫となり、隙だらけとなってしまうのだ。
 その隙をリトリは見逃さなかった。この小柄な奇面は体に似合わぬ長い両腕と装備した長い鉤爪で、なおも攻撃を仕掛けてくるフィネリア共々切り裂こうとした!。が、セフィロスへの鉤爪は衣服をかすめるだけにとどまり、フィネリアも身をひねって回避した。
 その時、ビクアを倒したイーリスがセフィロスに加勢しようと駆けつけてきた。それを見たリトリはこのまま囲まれるのはまずいと判断、包囲から逃れようとその場から飛び退こうとした。が、そこに気を練り上げたセフィロスが立ち塞がった!。
「これで決まりだ!!」
 セフィロスは気を乗せた破斬槍をリトリ目がけて突き出した!。その一撃は迷う事なくリトリの胸に突き刺さり、リトリは何が起きたのかを理解する間もなく絶命した。
「くーちゃん、終わっちゃいましたねー……」
 静夜は構えていたボルトアクションを降ろして呟いた。彼女はこの戦闘の間ずっと狙撃の機会を伺っていたのだが、ビクアもリトリも一瞬のうちに倒されてしまったので、その機会がとうとう巡ってこなかったのだ。
 そして操兵戦も決着が着こうとしていた。ブラッティマリーに乗り上げられた蟹操兵は、何とかそれを振り解こうともがき始めた。が、もともと対人用に作られたこの特殊操兵にそれほどの膂力はなく、その場でジタバタするのが精一杯だった。
「そう来るのですね……ならば!!」
 ヴァネッサはその甲羅の上でブラッティマリーに足踏みをさせた!。何とか立ち上がろうとした時にそんなことをされてはたまらない。蟹操兵はその攻撃(?)に耐え切ることができずに筋肉筒と骨格が損傷、その場で機能停止に追い込まれてしまった!!。
 隣ではエルグラーテAZにひっくり返されてしまった蟹操兵が何とか元の姿勢に復帰しようと試みていた。そして蟹操兵は何とか片足を錘代わりにしてどうにか横向きの状態にまで立ち上がった!。
「そうはいくか!!」
 それを見たクサナギはすぐさまエルグラーテAZを立ち上がろうとしている蟹操兵のそばに寄らせ、間も入れずに無防備になった仮面目がけて強烈な蹴りを繰り出した!。打撃力が少ない無手の攻撃とはいえ、急所である仮面に直撃を受けてはひとたまりもなく、割れはしなかったもののやはりこちらの機体も機能を停止させてしまった。
 とりあえずの戦闘が終わり、一行は安堵の息をついた。その時、ルシャーナとナムセスが戦っていたそれぞれの方角から同時に爆発音と煙が立ち上った!。通常操兵は(爆発物を満載したエルグラーテAZ、ブラッティマリーは別として)倒されても爆発するなどということはほとんどない。もしあるとすれば……
「……まずい!!」
 クサナギ、ヴァネッサはそれぞれに自機を蟹操兵から飛び退かせた!。そして間一髪、二機の蟹操兵はほぼ同時に爆発炎上した。
 今度こそ戦闘は終了した。緊張を解いたフィネリアとアヴィアスは一行の元にやってきた。二人はライバでの出来事もあってぎこちないものの、とりあえず礼を述べた。
「今日のところは、礼を申し上げておきましょう……奇面衆はもともとリダーヤ最大の宿敵、とりあえずこの戦闘は勝利できましたが……」
 今のフィネリアの言葉に一行は驚いた。今までそんな話ゼノアからも出なかったからだ。そんな一行に構わずフィネリアはさらに話を続けた。
「本来ならばこれから話すことはリダーヤ正教にとって秘匿とされる部分なのですが、奇面衆がここまで全面的に出てくるとあっては、あなた方にお教えしてもよいでしょう……」
 フィネリアの話によると、奇面衆とはもともとリダーヤの仇敵で、[邪神]を信仰するものたちであるという。彼らはその[邪神]の顔をかたどった奇面をかぶることで信仰を表し、悪行の限りを続けてきたということらしい。
「なるほど……彼らの無鉄砲な行動はその信仰から来ているのですね……」
 イーリスが今の話を聞いて納得した。そしてクサナギも、
「奴等は狂信者ということなのか……」
 と、呟いた。
「私たちはあのような邪神の使徒から人々を守るために、彼らと戦っているのです!。でも……」 
 フィネリアはここで急に考え込んだ。
「彼らはいったい何の目的でこのような町を襲ったのでしょう……あのような操兵まで持ち出して……」
 そこにイーリスが口を挟んだ。
「でも、ここに来た部隊は壊滅しましたし、もう来ることはないでしょう?」
「いえ、彼らの組織はとてつもなく大きいのです。リダーヤ誕生以来、何千年も戦い続けて未だ壊滅させられないと聞き及んでおります……」
 フィネリアの不安そうな言葉にイーリスも、
「そうですね。彼らは何度でも現れましたからね……」
 と、あっさり納得してしまった。
 そんな中、モ・エギは戦闘直後から動かなくなったブラッティマリーの側に駆け寄っていた。さっきからヴァネッサが出てこないのだ。
「ヴァネッサさぁん?」
 モ・エギがブラッティマリーの胸部装甲をノックして呼びかける。すると程なくして操手槽が開き、中からヴァネッサが顔を出した。が……
「ヴァネッサさん!!」
 ヴァネッサは何と、操手槽の中で完全に伸びていた。先の巨人との戦闘での匂いがそのまま操手槽に充満、操兵戦の緊張が解けた瞬間にそのことを思い出し、そのまま匂いに負けて失神してしまったのだ。
「大変!。すぐにお風呂に入れてあげなくっちゃ……!!」
 モ・エギは操手槽の中からヴァネッサを抱き上げると、そのまま宿まで大急ぎで連れていった。今彼女に何より必要なのは、体を洗う風呂なのだ。その後、操手槽からヴァネッサがいなくなったブラッティマリーがゆっくりと崩れ落ちるように倒れた。
 そんな様子を横目に、静夜が久遠を背嚢から出してあげながら一行の元に戻ってきた。そして上空にはマリンの姿もあった。それを見たイーリスはマリンを自分の元に呼び寄せた。
「ところで……そいつは山に帰すのか……?」
 久遠を見たセフィロスの言葉に静夜が腕に抱いた子狐を見ると、それに答えるかのように静夜からから離れたくない、と言いたげな表情を見せて「くーっ!」と一声あげた。
「……と、言うことらしいですー……」
 静夜は愛しげに久遠を撫でる。そして久遠もまた、静夜の言葉の意味を知ってか満足げに五本の尾を揺らしていた。
 が、そんな久遠を見たフィネリア、そしてアヴィアスが急に表情を強張らせた!。
「どうしたのですか?」
 イーリスが何食わぬ顔で尋ねると、フィネリアは、
「奇面衆の狙いは、その[幼体]でしたか……」
 と、表情を変える事なく呟いた。それに対してイーリスも特に笑みを崩さずに「そうですよ」とあっさり肯定した。
「このような小動物を狙う理由があるのか?!」
 クサナギが納得いかないように叫ぶと、フィネリアはさらに険しい表情を浮かべて言葉を続けた。
「そのものがもし、[ヌシを継ぐもの]だとしたら、奇面衆が狙うのも無理はありません。そして、私たちとしても放置しておくわけには……」
 その剣幕にイーリスはひるむ事なく笑みを浮かべたまま、
「だとしたら、なおのこと始末などできないんじゃなくて?。手を出した途端に[化けて]しまうことだってあるわけでしょう?」
 イーリスの後ろでは、珍しく静夜も緊張した表情で二人の聖騎士を見つめていた。そしてクサナギ、セフィロスもそのただならぬ雰囲気を悟ってそれぞれに身構えていた。
 その時、不意に頭上から
「とりあえずここは互いに引いたらどうだ?。こんなところで喧嘩なんかされたんじゃ、町の人たちに迷惑がかかるだろう」
 と、ナムセスの声が響いた。見ると、いつの間にかズィドルクと68式が並んで立っていた。どうやら二人とも蟹操兵の自爆に巻き込まれてはいなかったようだ。それを見たイーリスは中にいるナムセスに、
「ちょうどよかった。ナムセスさん、どうせならその[若さの秘訣]をここの[老けた]聖騎士さんに教えてやってはいただけないですか?」
 と、とてもアヴィアスに失礼なことを言った。それを聞いたナムセスは、憤慨するアヴィアスをしってか知らずか操手槽を開け、機体の背部によじ登って顔を出した。すると、それを見たフィネリアがまたも急に表情を変えた。しかも今度は、どちらかというと[畏怖]を感じ取っているようだ。
 それとは正反対に静夜は表情が明るくなった。
「おじたまっ!。援護は役に立ちましたかーっ!!」
「おう!、て、俺は[お兄さん]なんだが……それにしても驚いたよ。まさかあれほどの銃使いになっているとはな……」
 どうやらナムセスも何か勘違いしているようだ。
「前も仮面を一撃で割りましたよー……」
 その静夜の自慢げな笑みにクサナギはただ苦笑を浮かべるしかなかった。
 だが、そんな和やかな雰囲気の中、フィネリアは何か化け物でも見るかのような表情でナムセスを見続けていた。それを見たアヴィアスは不思議そうに
「どうなさいました?」
 と尋ねるが、まるで聞こえていない、と言ったような感じでただ黙っているだけだった。そしてその視線に気付いたナムセスが、意味ありげな笑みを浮かべながらズィドルクの頭部に腕をかけて話しかけてきた。
「どうやらその顔は、俺の[正体]を知っていると言いたげな様だな……」
 そのナムセスの表情は、今まで一行に見せたことがない[不気味な]雰囲気を漂わせていた。その言葉を聞いたフィネリアは困惑するアヴィアスに、
「……今日のところは引きましょう……あの者が相手では、私たちだけではとても手に負えるものではありません……」
 と静かに言った。そしてフィネリアは再び一行のほうに振り返った。
「今日のところは礼を申し上げておきましょう。奇面衆はリダーヤが[正教と凡教に別れるずっと以前からの仇敵、そしてあなた方にとっても……ここは共通の脅威に対して手を結ぶべきかもしれませんね……」
 そのフィネリアの言葉に対してイーリスも返した。
「行動する前には考えたほうがよいですよ。どうすればいいことになるかってことをね……」 
 そのやり取りの直後、フィネリアとアヴィアスは振り返る事なく「またいずれ……」とだけ言い残してその場を立ち去った。
 二人の聖騎士が見えなくなると、今度こそ事態が収拾したと感じたルシャーナが一行の前にやってきてこんなことを言った。
「やれやれ……そなたたちと来るといつもこのような事件に巻き込まれる……」
 その言葉にイーリスは「楽しいでしょ」と悪戯っぽく微笑み、静夜は、
「[私たち]じゃありません!。[クサナギ様]ですーっ!」
 と、自分たちの[関与]を否定する。
「どうした私[だけ]なのだ?!」
 今の静夜の言葉にクサナギは思わず反論した。が、そこにナムセスが割り込み、こんなことを言った。
「いいじゃないか。何もない人生よりは楽しいと思うが……」
 それに対してイーリスがこんなことを言った。
「さすがですねオジ様。年の功って言うものですね……」
「歳のことは言うな!、気にしているんだぞこれでも……」
 イーリスの今の一言はナムセスが落ち込むのに十分だった。
 そんな中、ルシャーナが再び自機68式に乗り込んだ。
「さて、町の後片付けでも始めるか……そもそもこの町のものたちにして見れば、自分たちとは関係がないのだから、いい迷惑なのだからな……」
 その言葉に静夜も同意した。が……
「そうですねー……[クサナギ様のせい]ですからー……」
 と、あえて[敵の狙いは久遠]であることには触れなかった。
 その後、一行は町を襲った[謎の集団]を撃退し、町を救った英雄として迎えられ、歓迎された。もちろん一行の誰もが、そもそも敵の目的が何だったのかは言わなかった。
「ところで、本当にどうするつもりなんだ?こいつ……そもそも山に帰すのが一番なんだろーがな……」
 セフィロスが久遠を指さして言うと、静夜は、
「帰りたくないってー。大丈夫。用心棒さんがこんなにいるんですからー……」
 と、いつものようにほわわんとした口調で答えた。そして脅えるマリンを捕まえ、久遠の前に置いた。久遠はマリンに近づくと、興味深げに前足を出したり擦り寄ってきたりした。別にこの子狐にはマリンに害を加えようという意思はないのだが、その間マリンはずっと、
「やっぱりキツネいやぁーっ!」
 と叫び続けていた。
 翌日、一行は町の人々に見送られながら再びラゾレ商会の用心棒としてライバへの帰路についた。その中にはナムセスの姿もあった。
 その一週間後。一行とラゾレ商会は何事もなくライバへと続く街道を進んでいた。そしてその途中の別れ道で、一行はナムセスと別れることになった。彼はこのまま故郷の羅 諸国連合に戻るという。クサナギはその別れ際、ナムセスにこんなことを尋ねた。
「そういえば、あの時何故、二人の聖騎士はそなたを見て驚いていたのだ……?」
「さぁね……恐れるのは奴等の勝手だ……」
 ナムセスはそっけなくその問いに答えると、
「それじゃ、縁があったらまた逢おう!」
 と、ズィドルクに乗り込んで再び街道沿いに歩き始めた。それを見た静夜が大声で見送った。
「おじたまっまた逢いましょうねーっ!!」
 その声にズィドルクは一瞬バランスを崩した。
「頼むからその歳になって[おじたま]はやめてくれないか……」
 ナムセスは拡声器越しにそれだけを言うと、今度こそ故郷に向けて旅立っていった。その背中を見送るクサナギは、思わずこんなことを呟いた。
「あのものは本当に何者だったのだろう……?」
 そこにルシャーナが思いに耽った様子でやってきた。
「もし、我がトランバキアと羅 諸国連合が戦争を始めれば、私と奴は[本当に]宿敵として戦うことになるだろう……」
 今の言葉に疑問を持った一行に構わず、ルシャーナは一人言のように言葉を続けた。
「私がトランバキア第四皇女であるように、ナムセスは羅 諸国連合の次代[神聖皇帝]なのだからな……」
 これでフィネリアがナムセスを恐れた理由が納得できた。羅 諸国連合は[神聖皇帝ラ・ソーラ]を中心とした巨大宗教国家だ。当然自分たち以外は異教、異端としているリダーヤにとっては奇面衆同様敵対勢力だ。そして相手がその神聖皇帝の一族だとすると、確かに二人だけでは手に負えないのは当然だろう……。
 今のルシャーナの説明にセフィロスが一言挟んだ。
「だが、相手は一人だったのだから、あの聖騎士二人にとっては手柄を立てる機会だったんじゃないのか?」
「いや、王位継承権が薄い私ならともかく、奴ほどのものが一人で旅をするはずなどない。おそらくは背後に忍びの護衛がいるはずだ……」
「なるほど……あのフィネリアという騎士はナムセスの先を読んで逃げたというわけか……」
 セフィロスの納得した返事にルシャーナはさらに言葉を続けた。
「まぁ、全面戦争は今のところ互いに避けておきたいだろうからな……」
 そんなやり取りを聞きながら、クサナギはナムセスが去っていった方角を見続けていた。
「……とんだ大物が出てきたというわけか……」
 その後、新たな仲間久遠を加えた一行は、旅の疲れを癒すために再びライバに続く街道を進み始めた。その際静夜は久遠の五本の尾をリボンで束ね、一本に見えるようにしていた。別に街の人々への配慮ではない。
「ミオちゃんには内緒にしておきましょう」
「……なんでー?」
 いまだ久遠に慣れないマリンがその子狐の興味津々な視線に脅えながら静夜に尋ねると、
「面白いから。このこの正体を知ったら驚くでしょ(笑)」
 どうやら静夜はミオの反応が見たいだけのようだ。
 だが、実際あまりのんびりと構えてはいられない。今までは一行が関わった事件に奇面衆がたまたま絡んでいたのだが、これからは違う。奴等が狙う[ヌシを継ぐもの]を迎え入れてしまった今、奇面衆は確実に一行に襲いかかってくるのだ!。そして逆に一行は、リダーヤの敵対宗教であること以外、奇面衆についてやはり何もわかってはいないという、不利な状況に何ら変わりはないのだ!!。
 奇面衆は一行にとって確実に身近な存在となったことは、この戦いが今まで以上に激化するということを暗示していた。


 いや、まだ話すべきことが残されていた。その奇面衆の正体にさらに近づいたものがいたのだ。それは、姉ヴィシュヌの任務を引き継いだ阿修羅だった。
 奇面衆に関する調査のために旅を続けていた阿修羅は、とあるいにしえの遺跡の守り人から、奇面衆の手掛かりになりそうな記述が記載されているという書物が存在することを聞き出した。それは、リダーヤ正教の聖典だった。
 阿修羅は早速手近なリダーヤ神殿を訪れ、聖典の閲覧を求めてみた。が……
「異教徒などに我が聖典を読む権利などない!!」
 と、ものの見事に門前払いをくわされてしまった。
 その後阿修羅は何とかその聖典を見ようといろいろな街、いろいろな図書館を当たって手掛かりを捜し続けた。そしてついにその聖典が、ダラム・ウェーダ教の寺院の一つが参考用に保管しているという情報を入手した。阿修羅は早速その寺院に赴いた。
 ダラム・ウェーダ教は聖人ダラムによって開かれた教えで、主に苦行や奉仕活動などの修行を通じて現世の迷いを払い、より高い[悟り]を開くことを目的としているという。また、この宗教は多神教であり、他の宗教、宗派に対してとても寛容であることでも知られている。
 険しい山奥にある寺院の老僧は、阿修羅の突然の申し出を快く承諾した。
「え…と、あった、これじゃこれじゃ……」
 老僧は一抱えもある大きな本を阿修羅の前に置いた。そして異教の本を開くことに対する[仏]への詫びとして短く経を唱え、積もり積もった埃を払って木製の表紙の鍵をはずした。
「この絵巻は何でも、はるか一千年前に天変地異で滅んだクメーラ王朝の様子を描いたものらしいのじゃが……ほら、ここに……」
 阿修羅の横から内容を説明する老僧が指さした部分に阿修羅は釘付けになった。そこには何と、口から炎を吐く[奇面衆の仮面をつけた異形の巨人]が描かれていたのだ!。その巨人はかなり抽象的な描かれ方をしてはいたが、間違いなくそれは一行が以前樹界の遺跡で目撃したあの[仁機兵]そのものだったのだ。
「何でも、リダーヤに古くから伝わる[悪魔]じゃとか……」
 老僧の説明に耳を貸しながら阿修羅はさらに昔の記述を溯って調べてみる。すると、同様に[異形の巨人が世界を滅ぼした]という内容の文、挿し絵が何ヵ所かに記されていた。もし、この内容が正しければ、この奇面の巨人はプレ・クメーラ文明崩壊にも関わっているようだ。 が、ここで老僧が不意にこんなことを言った。
「じゃが……実はちょっとこの書物について気になる点があるのですじゃ……」
 老僧はそう言って、奥から別の書物を持ち出し、先と同じように経と埃払いをしてからやはり表紙の鍵を開けた。
「今貴女にお見せした本は今から800年前に書かれたリダーヤ正教の本なのじゃが、ここにお持ちした本はそれ以前のリダーヤが正教と凡教に分離する以前の聖典ですじゃ。ところが、こっちの本には……」
 老僧は先と同じ文が書かれているはずの項を開いた。すると、そこには先ほどの聖典に記されていたはずの[異形の巨人]の姿が描かれていなかったのだ。
「確か先の聖典には[光と闇の戦いは天地創造の時代から続いている]と記されておったのじゃが、この聖典には一切載ってはおらんのですじゃ……」
 そう、確かに阿修羅が最初に目を通した聖典には、太古の時代から光、すなわち聖女リディアを中心としたリダーヤの神々と、闇と称される今で言う奇面衆との戦いが続けられていると記されていた。が、今開かれたそれ以前の聖典にはそのような[光と闇の戦い]などという記述は全く見当たらないのだ。
「ここだけの話ですがじゃ……[聖女リディア]とはリダーヤを統べる聖人でしてな、何でも創世時代から今なお若いまま健在で在らせられると言います……まぁ、実際には名前を世襲する制度なのじゃろうが……」
 老僧の呟きを聞きながら、阿修羅はなおも手掛かりになりそうな文を捜して項を溯るように開いた。そして、もっとも古い出来事と思われる項にとんでもないものを目撃し、驚愕した。それは何と…………