キャンペーン・リプレイ

第 三十五話 「 彼 の 者 達 の 聖 典 」  平成13年4月22日(日)

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 巨人が扉を叩く大音響が響く中、一行は改めて部屋の中を見渡した。どうやらここは何かの研究施設らしく、広い室内にはさまざまな設備やセラミック製の巨大な骨格や部品が大量に転がっていた。
「ところで、これからどうするんです?」
「とりあえず出口がないから、あの巨人をどうかする手段を考えるしかないですね」
 ゼノアとその部下はこの状況を打破するべく思案を始めた。ここはさすがに工房都市のエージェントというべきか、こんな状況にもかかわらず、全く動じていなかった。
「うむ……ミオさんやアファエルさんには悪いが、あの二人は戦闘経験が豊富とは言いがたい。ここは我々も本腰を入れて……って、あれ?」
 だが、そんなエージェント達よりも早く行動を起こしたものがいた。ご存じミオとアファエルである。二人は部屋に入るや否や早速辺りを物色し、使えそうなものの吟味を始めていた。その行動の素早さには三人の凄腕工作員さえも呆気にとられていた。
「これだけ大きな倉庫なら〜部品運搬の起重機がある筈〜」
 アファエルの台詞と視線を追ってミオも肯く。
「力押ししか知らない馬鹿相手なら幾らでも罠仕掛けられるねぇ」
「扉開けた途端に鉄材ぶち当てて〜」
「廃材処理液もあるー。何千年もの年季が入って、触れたらどーなるか分からないコイツを頭上からぶっ掛けてー」
「そおだ〜盗賊匠合特製の油で火炎瓶も作りましょ〜」
「昨夜倒した奇面衆から毒薬ぶん取ってきたじゃない。鉄材で開けた傷口にアファの弓で叩き込めば……くくく」
「ミオさぁん〜この操兵、直せば動きそうですけどもぉ〜うふふふふふふふふふ〜」
「あは、あーっははははーっ!」
 ……外の像より、中の二人の方が恐かった。と、後にゼノアの部下は同僚に述懐している。そして迎撃の準備が整い、奇跡的に稼動する作業用の操兵([ボロック]とアファエルが命名)にミオが乗り込んだ時、ついに守護者の像が部屋に乱入した!
 最初に発動したのは、入口前の罠だった。天井から水平に吊り下げられた鉄骨が勢いよく像を襲ったのだ!。その不意打ちに対応し切れず像はその直撃をまともに受け、鉄骨は胸倉に突き刺さった!!。
「#∞ムΨμソヒベゑヱw」
 像は鉄骨が刺さった傷口から何か緑色の体液を流しながら呻き声をあげた。
 だが、像はそれでも動きを止めることはなかった。像は胸に刺さった鉄骨を引き抜きながらもさらに前進し、部屋に入り込んできた。しかし、そこでもう一つの罠が像を襲った!。アファエルの合図でゼノアと部下達がハンガーの上から廃液の入った大きな容器を倒し、像に振りかけたのだ!!。
「vセム∪∂∫@Dゑヱw」
 年期の入った廃液は像の[皮膚]を溶かし、その部分から大量の煙を吐いて像は悶え苦しみながらその場に倒れ、動かなくなった。
「死んだ……かな……」
 ミオ、アファエル、ゼノアとその部下は恐る恐る倒れた像に近づいた。改めてじっくり観察してみると、その像はまるで生き物のような質感をもっていた。そしてばっくりと開いた傷口からはヒクヒクといまだに痙攣する筋肉と、その間にセラミック製と思われる骨格が見て取れた。その時、アファエルはその像の傷口が異変を起こしていることに気付いた。何と裂けた皮膚から気泡のようなものが盛り上がり、互いにくっつき合おうとしているのだ!。それを見たアファエルはあることを思い出し、像の頭部を見た。もし、この像が例の緑の巨人と同質のものであれば……
「〜やっぱり〜」
 その他の部分と比べて硬質で、そして無表情の顔−仮面−は無傷だった。そう、急所である仮面を破壊しない限り、この像は何度でも再生するのだ!。アファエルがそれを指摘すると同時に像は再び立ち上がった!!。
「うっひゃあぁぁぁ!!」
 ミオが悲鳴を上げながら操兵ボロックで突進した。それを見たゼノアが
「ミオさん、操兵で押えつけてください!。そうすれば全員で仮面を集中攻撃できますっ!!」
 と叫ぶ。混乱しながらもその言葉を辛うじて聞いたミオは、すぐさまボロックを像にのし掛からせた!。が、像の膂力は凄まじく、作業用とはいえ、体格が一回りも大きな操兵を逆に押さえに掛かってきたのだ!。そして両者の力は均衡し、結果的には何とか像の動きを封じることは成功した。
「アーちゃん!、奇面衆の毒、あれどうしたの?!」
 突然[アーちゃん]と呼ばれたことに全く動じなかったアファエルは、思い出したかのように最初の戦いで実はひそかに忍ばせておいた奇面衆の毒の容器を取り出した。そしてそれを瓶ごと矢に縛りつけ、その矢をつがえて像の塞がりつつある傷口に向けて撃ち放った!。傷口に入った瓶は勢いで割れ、その毒は傷の中に染み込んでいった。
「xチムワ襠艨ス∠∂ゑヱw」
 像は何とも言えぬ唸り声をあげ、毒の焼け突くような痛みに悶え苦しんだ!。それを見たアファエルは二瓶目を縛りつけた矢をつがえ、再度傷口に狙いを定めた。それを知ってか像はその痛みに耐えながらもその場から立ち上がろうとした。そこに、
「させるかぁっ!!」
 と、ミオが操兵でまたも押えつけに掛かった。が、やはりその場しのぎの応急修理で直した作業用操兵では手負いの像の動きを止めることは困難で、像は安々とボロックを降り払って上半身を起こした!。
 が、それでもまだ動きが不自由なのは変わらない。それを見たアファエルは、迷う事なく二撃目の矢を放った!。しかし、やはり先と比べて狙いづらくなったのは否めず、結局矢は刺さったものの毒の瓶は狙い外れて無傷の皮膚の上で割れてしまった。奇面衆謹製の強力な毒も、像の分厚い表皮では効果は発揮しないようだ。
「ミオさぁ〜ん!。あと少しだけ持ちこたえてくださいぃ〜!!」
 アファエルはそう言って、今度は油瓶を取り出し、像の傷口に投げつけた。瓶はまともに命中、油が傷口周辺に飛び散った。どうやら彼女は、毒を使い切ってしまったので、今度は傷を火で炙ってみるつもりなのだ。
 その意図に気付いたミオは、絶叫を上げながらも何とか機体を建て直し、三度像に掴み掛かった!。そして今度は像も反応し切れず、諸にボロックに押さえ込まれる形となった!!。
 それを見たアファエルは永久ランプを取り出し、光源を覆っているガラスの表面に傷を付けて割れやすいように細工した。どうやらこれを発火剤にするつもりのようだ。だが、ここで問題があった。実は永久ランプの中のガスは、時として否燃性のものが使われている場合もあり(ガスの発光は特殊な化学反応によるもので、熱によって起きているとは限らない)、これが発火剤になるとは限らないのだ。
 それでもアファエルは賭に出た。そしてそのランプをおもいっきり像目がけて投げつけた!。そのアファエルの賭は見事に的中、割れたランプの中から出た熱せられたガスが爆発、それによって油に火がついたのだ!!。
「これでケリがついてぇ〜!!」
 ミオが操兵の中から叫ぶ。だが、それでも像は動き続け、燃える炎をものともせずにその傷を再生し続けた。
「やはり仮面を破壊しなければ、こいつは死ぬことはありませんよ!!」
 部下とともに援護射撃を続けていたゼノアが叫んだ。その言葉に反応したミオは操兵を必死に操縦し、暴れる像を押さえ続けた。その援護を受けたアファエル、ゼノア、部下二人が仮面目がけてそれぞれ矢と銃弾を叩き込む!。が、その攻撃は効果を上げず、仮面の表面や周辺に傷を付けただけに終わった。
 埒が明かないと踏んだアファエルは油瓶をもう一つ取り出し、先の傷口より上部分、より顔に近い胸元目がけて投げつけた!。その瓶は狙い通りに割れ、引火した炎はさらに大きく燃え広がった!。炎に炙られた像はさらに苦しみ、悶えた。
 今がチャンスと踏んだゼノアは、部下とともに再び仮面目がけて銃を撃ち続けた!。そしてその攻撃を受けた仮面は少しづつではあるが、確実にその表面の亀裂を増やしていった。
 だが、いつまでも像も押えつけられてはくれなかった。渾身の力でボロックを降り払った像は、膝立ちの姿勢のまま手にした剣を振り回して反撃に出ようとした!。そしてその横に降られた剣は狙いたがわず操兵の横腹に命中した!。
 かに見えた。何とボロックはその剣を持つ像の腕を掴み、攻撃を受け止めていたのだ!。
「うそぉ?!」
 ミオは自分の取った行動が信じられなかった。
 像が意外な形で動きを封じられたのを見たアファエルは、今しかないと考え、弓を捨てて像に向かって走り出した!。そして何と彼女は得意の身軽さで像によじ登ったのだ!。
 アファエルによじ登られた像は、それでも彼女に構わず今度は左腕を操兵に突き出した!。ミオはその攻撃も受け止めてやろうとボロックを操縦したが、今度は上手くいかずにまともに直撃を受けてしまった!。そして動いていること事態が奇跡の操兵は外装を砕かれ、さらには駆動系までもが破壊され、ボロックはその場に崩れ落ちた。
「うひゃあぁぁぁ!!」
 操兵の中から悲鳴を上げるミオ。そんな光景を見たアファエルは必死の思いで短剣を仮面の皹に突き立てた!!。
「yトム瘁煤†¶ヌゑヱw」
 今までさんざん矢、銃弾などを浴び続けた仮面はその短剣の一撃でついに割れた。そしてその知的な仮面の表情とは正反対の不気味な[素顔]をさらけ出すと同時に像は、シュウシュウと煙と異臭を放って、溶けるように崩れ出した!。そしてアファエルが飛び降りると同時に像は、大量の緑色の肉汁とセラミック製の骨格のみを残して完全に溶けてしまった。
 像が完全に息絶えたのを確認したアファエル、ゼノア、部下二人は、すぐさまボロックの残骸に走り寄った。果たしてミオは無事で、操手槽を何とかこじ開けて這い出てきた。それを見たアファエルは、ほっとした顔でこう言った。
「とてもしんどかったですねぇ〜」
 その一言を聞いたミオ、ゼノア、そして部下達は今度こそ終わったことを実感し、改めて溜め息を突いた。
 その後ミオの怪我の手当をしていると、事が終わったことを悟ったアルバートとメリアが一行の元に駆け寄ってきた。
「皆さん、ご無事でしたか……」
 無事を喜びあった一行は、改めてこの部屋を見渡した。この広い部屋は、確かにアファエル、アルバート、メリアが見た樹界の遺跡とほぼ同じ構造で、やはり何かの工場を連想させた。唯一違うとすれば、製造されていたのが[緑の巨人]ではなく、[生きている彫像]だったことくらいか。
「あの像の外観は、間違いなく上の寺院に壁画にあった[守護者]です……古代のリダーヤでは、このようなものが研究されていたのでしょうか……」
 アルバートは像の残骸を見ながら呟いた。
「自分達の神話を[再現]するために?」
「分かりません……ですが、この地下建造物は明らかにプレ・クメーラ文明の造りです。上の神殿は、おそらくここを隠すために増築されたのでしょう」
 そんなミオとアルバートの話にゼノアも加わってくる。
「私の推測なのですが……クメーラ時代にここを発見した者が、使い方を調べて自分で先の像を造ったのでは……。そして研究が何らかの形で中断してしまったためにここを封印した……」
「なのかなぁ……?」
 ゼノアの推測に何かしっくり来ないミオ。ともかく、ここにいては何の結論も出ない。一行は先の像が出てきたもう一方の通路に行ってみることにした。もし、この地下研究所が以前の樹界のものと同一なら、もう一つの部屋のほうに本格的な製造装置がある筈だったからだ。
 一行はここで重要なことを見落としていたことに気付いた。
 一行は奇面衆の遺体が[あった筈]の廊下を進み、その先の巨大な扉から中に入った。そこは先の部屋よりも広く、さまざまな機械が設置されていた。どうやら本格的な製造ラインのようだ。
 いや、それはいまや[だった]というべきか。一行が着いた時には既にすべての装置が破壊されていた。しかもそれは明らかに、先の戦闘の間に爆薬などを用いて破壊されたような痕跡だった。
「やられちゃいましたねぇ〜あぅ〜」
「あぅ……」
 アファエルとミオ、そして一行はそろって茫然となった…。
 一行は改めて見渡すと、かつて培養槽とか制御装置とかだったものの側に、奇面衆の死体が転がっていた。おそらくは先の像との戦闘で負傷し、生き絶え絶えになりながらも、一行が像と戦っている間にここを破壊、そして力尽きて倒れたのだろう。
「結局、奇面衆の目的って、何だったのでしょうか〜」
 アファエルが残骸を見渡しながら呟く。その言葉にミオが、
「多分、例の聖典とここにある[何か]を奪取することだったんじゃない?。でも、手に負えないもんだから事切れる前に破壊してったんだろうか?」
 と自分なりに推測し、ゼノアもそれに同調した。
「そうですね……あの像はおそらくこの施設の守護者だったのでしょう。何らかの理由でここを閉鎖する際、完成していた、ただ一体の像にここを守るように命令したのでしょうね……」
 ゼノアの言葉に、一行は辺りを見渡した。すると、破壊された培養槽のいくつかには、明らかに何かが入っていた形跡、つまり一杯に詰まっていただろう培養液と、未完成の像(または緑の巨人か?)のものと思われる骨格が残されていた。
 不意にアファエルは、ここでアルバートに向き直った。
「あのぉ〜ところで、アルバートは何でこの遺跡にやってきたんです〜?」
「ですから、クメーラ王朝時代の古いリダーヤ遺跡の調査をするためです。そしたら……」
「プレ・クメーラの遺跡が地下にあったわけね……」
 ミオの突っ込みの後、アファエルは珍しくジト目になってアルバートを見た。
「でもぉ……あなた達と出かけると、いっつも奇面衆に逢いますねぇ〜」
 要するにアファエルは、アルバートとメリアがひょっとしたら奇面衆と関係があるのでは、と睨んだのだ。だが、アルバートは言いづらそうにこんな答えを返してきた。
「いゃあ……私たち二人で行くと……居ないんですが……」
 その言葉を聞いたアファエルはここで自分が墓穴を掘ったことにようやく気付いた。彼らは他にもいろいろな遺跡を探索している。が、一行、特にこの場合はアファエルがいる時にしか実は奇面衆と遭遇してはいなかったのだ。そう、樹界の遺跡も……姫盗賊の迷宮でも……そしてここでも……。
「そ……そうなんですか……変わってますねぇ……」
 アファエルはその場を笑って誤魔化すことしか出来なかった。それを見たゼノアも笑って、
「クサナギさんがいなくても、起きる時は起きるんですねぇ」
 と言った。
 とりあえず場が和んだところで一行は、結局分からなかった奇面衆の目的を改めて調査するため、持って帰れそうなものを物色して回った。そしてそれぞれに怪しげな装置や研究資料と思われる書物などを集めた。
 そんな中アファエルは、何故か陶器で出来た大きな仮面のようなものを大量に集めて一行の前に置いた。それは、例の緑色の巨人が着けていた奇面だった。
「アファエル、そんなもの集めてどうするのよ?」
「芸術……」
 アファエルのよく分からない答えに困惑するミオ。だが、ここでゼノアはアファエルの持ってきた仮面を見て驚き、首をかしげた。
「ちょっと待ってください……ここは奇面衆の遺跡ではない筈です。なのに何で、こんなに奇面衆の仮面があるんです?」
 そういえばそうだ。ここは確かに樹界の研究施設と似通っているものの間違いなくリダーヤの遺跡の筈だ。それなのに何故、製造途中の奇面衆の仮面が大量に残されているのだろうか。一行は集まった資料を調べてみたが結局、奇面衆の目的が何だったのかはついに分からなかった。特に聖典と遺跡の関連は全くの謎のままだ。
「大体、自分達が記載されていない聖典に何の価値があるんでしょう」
「ひょっとしたら、[書かれていない]ことそのものに意味があるのでは……」
 ともかく、考えても結論は出ない。一行は持てるだけの資料を抱えてとりあえず引き上げることにした。今はそれらをもとに調査することしか、ここの謎を解く方法がないからだった。その資料に関してはアルバートとメリアが預かることとなった。これらは時間をかけて徹底的に調査が必要であるためと、奇面衆ではないとはっきり分かる人物に調査してもらう必要があるためだ。本来であれば工房都市の学者に調べてもらうのが筋であるが、ゼノアが以前のリグ・アーインの件もあるので用心したこともあった。
 そしてまた、この遺跡そのものもゼノアは態勢を整え直して再度調査するつもりであることも一行に告げた。そもそもこの遺跡で製造されていた巨人や像などの疑似生物(?)については、工房都市の記録でもほとんど何も分からない状態なのだ。
 その後、持てるだけのものを回収した一行は遺跡を後にし、大急ぎで村に戻った。メテルの様子が気がかりだったのだ。そして村に戻った一行はすぐさまメテルのいる村長の家に向かった。彼女の母親はどうなったのだろうか。
 果たして、家では村長の葬儀の準備が行われていた。一行は式がとり行われる供物代の回りを見渡した。そして棺桶が村長のもの一つだけであることを確認し、すぐさま家の中に入った。部屋の中では、メテルが兄とともに母親が無事に峠を越したことを喜んでいた。母はまだ毒の後遺症か立ち上がることはできないが、それも徐々に回復していくであろう。一行はメテル達に励ましの言葉をかけ、早々に村を後にした。
「ま、母親が無事だっただけでも良しとするしかないか……」
「それに、お兄さんもいるから大丈夫ですよぉ〜」
 何か釈然としないミオとアファエルだったが、少なくともメテルに全く救いがなかったわけでもないことにひとまず安心し、多くの謎を抱えたまま一行は、ライバへと帰って行った。