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ウィルアンの町での事件から一週間が過ぎた。ナムセスと別れた後、クサナギ、セフィロス、モ・エギとマリン、そして久遠を連れた静夜達はラゾレ商隊を離れ、フィラブの町に向かっていた。夫ルヴィらしい人物を見た、という話を聞いた静夜が一人トコトコと反対方向に向かう姿を見たクサナギとモ・エギが慌てて同行し、セフィロスとマリンが興味を持った、というところだ。特にセフィロスなどは、 「……間違えられたんだから、文句の一つも言ってやる……」 と、一人呟いていた。 一行がたどり着いたウィルアンの町は街道沿いの宿場町で、それなりの活気があるようだった。町に入ると静夜は早速、道行く人に声をかけた。 「あのー……この町に銀髪の吟遊詩人がいらっしゃる、と聞いてきたんですけどもー……」 「吟遊詩人?あぁ、それなら、三人程来ているが、一人はそこの宿で……」 そこまで聞いた静夜はそれ以上話を聞く事なく(文字通り)まっすぐ示された方向(宿ではない)に向かってトコトコと歩き出した。それを見たセフィロスは「おいおい!」と追いかけ、マリンとクサナギもやれやれ、と言いたげな表情で後に続いた。が、モ・エギだけはついて行こうとはしなかった。いや、できなかった。やはりそれなりとはいえ宿場町であり、人の往来が激しくその巨大な足を踏み出す事ができないからだ……。 モ・エギを除いた一行は静夜を先頭に宿に入った。 「すいませーん……ここにルヴィという吟遊詩人が来ていませんかー?……」 静夜と問いに一瞬宿の主は戸惑い、そして隅にいる人物を指さしながら言った。 「……ルヴィという名は知らんが、吟遊詩人ならそこで暇してるよ」 指されたところには、確かに銀髪の、そして琵琶を携えた人物が腰掛けていた。が、後ろを向いているためにその顔は見えなかった。それを見た静夜は以前のセフィロスの件で学習したのか、まずはその顔を確かめる事にした。それを見て思わず「成長したな……」と拍手をするセフィロス。そして顔を見た静夜は…… 「……はずれー……」 そう、男はルヴィではなかった。その男は確かに銀色の髪をしているのだが、どう見ても人気が無さそうな[冴えない男]だった。 「……何がはずれですって?!」 いきなり面と向かってはずれ呼ばわりされた吟遊詩人はむっとした顔で静夜を睨みつけた。が、静夜は怯まず、 「銀髪だけど、ルヴィじゃないからはずれー……」 これには人当たりの良さが売りの吟遊詩人も頭にきたのか、わざとらしくうそぶいて見せる。 「ルヴィ?……そいつも吟遊詩人ですか?。ですが、私が名前を聞いた事がないという事は、大した吟遊詩人ではないようですねぇ……」 その言葉に静夜は(珍しく)怒りを露にし、思わず[気]を練り出した!。が、本来精神集中が必要な気闘法がこのような精神状態で練れるはずもなく、結局この場は[血の惨劇]にならずにすんだ。 気を練るのに失敗した静夜は「ひどいです、あんまりですー、えーん、えーん」と思わず(何故か)セフィロスに抱きつき、泣き出した。それを見た吟遊詩人は 「何だ、いるじゃん……」 と、困惑する銀髪のセフィロスを見て呟いた。 「ともかく!。捜しに来たんだろ、ルヴィの事……」 セフィロスにそう言われた静夜はやっと我を取り戻した。そんな静夜にセフィロスは改めてルヴィの特徴を聞いてみた。 「セフィロス様よりかっこいいですー。銀髪ですー。名前はルヴィですー……」 …………。 ここでセフィロスとクサナギは銀髪の吟遊詩人と聞いて、以前まで一行に加わっていたイヴルを思い出した。が、確かに彼も銀髪だったが、[名前が違う]という事ですっかり別人だと思っていた。 とりあえず落ち着いた静夜は、再び銀髪の吟遊詩人に向き直った。 「と、いうわけで、他の人を捜してきますー。すいませんでしたー冴えない銀遊詩人さん……」 「誰が冴えないだ!。ようし、それだったら、私の歌を……!」 「[俺の歌を聞け]系は嫌いですー」 静夜は吟遊詩人の歌をあっさり遮り、さっさと店を出た。 さて、店を後にした一行はルヴィらしい吟遊詩人を捜すべく、静夜に続いて町の中を散策した。ところが…… 「……ねぇクサナギ……ここ、怖いところだよきっと…」 今までクサナギの側にいたマリンがそっと呟く。言われてみればここはどう見ても路地裏。すれ違うもの達はどこかやくざもの独特の雰囲気を漂わせていた。何故一行はこんなところに入ったのだろうか? 「……静夜……次の[銀髪]はどこにいると聞かされた?」 不安になったセフィロスが[先頭を進む]静夜に何気なく尋ねた。 「聞いてません」 「…………どこに向かっているんだ……?」 「適当ですー」 「………………これだぁーっ!!」 結局ただ静夜に引っ張り回されるだけに終わった一行は、とりあえず路地裏から出て行こうとした。その時、一人のチンピラがセフィロスの肩にぶつかってきた。 「あ痛てっ!てめぇ……肩折っちまったじゃねぇか……どうしてくれるんだ!!」 どうやらチンピラは相手が誰だかわからずにカツアゲしようとしてるようだ。そんな凄みを利かせて脅すチンピラにセフィロスはただ「そうか。すまなかったな」と軽くあしらって立ち去ろうとした。いきり立ったチンピラはなおもセフィロスに突っ掛かろうとしたが、そこに静夜が割って入った。 「……何だ?……あんた……」 静夜は不意に男の間合に入り、声を上げる暇も与えずにその袖を巻き上げ、露出した肩口におもいっきり湿布を張りつけた!。 「ぎゃあぁぁぁ!!」 チンピラは強い湿布と今の張り手に思わず悲鳴を上げた。それを見た静夜はこんな事をチンピラに言った。 「……これで、治療代は金貨一枚になりますが、こちらが悪いようなので(ここで「俺は悪くない」とセフィロスが叫んだが……)お代は頂きません。それではまたー……」 それだけを言うと静夜はトコトコと立ち去っていった。そしてセフィロスも茫然としているチンピラに「良かったな」と声をかけて静夜の後に続いた。 その後一行は今度こそ裏路地を出ようと足を速めた。するとそこに今度は、一人の仁侠がが現れ、突如静夜に向けて仁義を切った。 「お引けぇなすって!。先ほどの姉さんの[腕前]見せて頂きやした。つきましては、これをご覧下せぇ……」 仁侠はそう言って、一枚のチラシを静夜に手渡した。それは、この町の盗賊組合主催のいわゆる[裏試合]の宣伝だった。 「……この試合は操兵、人間問わずに腕自慢のもの達が集う、年に一度の祭典でござんす。もちろん、博打その他の娯楽も用意してござんすので、ぜひともいらして下せぇ。あ、お客の半分は堅気さんもおいでになりやすので、どうぞご安心しを……」 どうやら仁侠は静夜の先ほどの動きを見て、かなりの腕前と誤解した(というより見抜いた)ようだ。だが、その誘いに当の静夜は、 「試合すると喧嘩するから、めーなのー」 と、その誘いをあっさり断った。それでも仁侠は出場を勧めたが、静夜は首を縦に振らない。 「そう言うのは[蒼き神槍様]と[ハニ丸様]が出るのが一番なのー」 静夜のこの一言は仁侠をさらに驚かせた。 「……そ、そちらさんが、あの[蒼き神槍]と……[御仁姫の亭主]!……そ、それはお見それいたしやした……!!」 やたら恐縮する仁侠にクサナギは「まだ結婚はしていない!」と反論するが、セフィロスは静かに 「……似たようなもんじゃないか……」 と呟いた。 とりあえずそれが仕事なのか、仁侠は一行全員にチラシを配り、「詳しい事は角の酒場で」と言い残してその場を後にしようとした。が、その仁侠を逆に静夜が呼び止めた。 「あのー……ルヴィという吟遊詩人を知りませんかー?……」 「……吟遊詩人さんでやすか?。それでしたら、試合場に来ればいくらでも来やすから、その中にきっといやすよ!」 仁侠はそう言って、今度こそその場を後にし、この光景を眺めていたチンピラも、 「(……セフィロスだって?!……俺はとんでもない奴に喧嘩吹っかけてたのか……)」 と、真っ青になってその場を逃げ出した。 ここで静夜がいきなりクサナギとセフィロスにこんな事を言った。 「それではお二人さん、頑張ってくださいねー……」 「ちょっと待て!。私はまだ試合に出ると入ってないぞ!」 唐突な静夜の言葉にクサナギが反論し、それに続いてセフィロスも 「行く事に問題はないが……試合に出ると決めた覚えはないぞ。そもそも、試合に出なくとも試合場に行けば捜せるではないか……」 と、言葉を続けた。 (あーあ、何時になったらこの路地裏から出られるんだろう?) 呆れたマリンが足元の久遠と顔を見合わせた、その時。 表の路地が急に騒がしくなり、そして何か巨大なものが走っていく振動が響いてきた。それは明らかに操兵のものではない。そしてそれを追うかのように、今度は明らかな操兵の駆動音と足音、振動が伝わってきた。 「何が起きたんだ?!」 一行が何事かと出てみると、一機の派手な騎士風の操兵に追われ、モ・エギが町中を逃げ回っている光景に出くわした。そのカスタム機と思われる見た事もない操兵は何かを後ろ手に隠している。武器だろうか……。 「どうしたんだモ・エギ?!まさか、またリダーヤの手のものか……?!!」 「クサナギさん?!、助けて!変な操兵が……」 モ・エギはクサナギの姿を確認するやその体を両手で抱え、そのまま自分の前に出した。要するにクサナギの陰に隠れたつもりなのだ。 「いったい何を……?!」 突然のモ・エギの行動に戸惑うクサナギだが、そうこうしているうちに騎士操兵が二人に近づいてきた。そして操兵はモ・エギの側に寄ると、クサナギを無視して後ろ手のものをモ・エギに向けて突き出した!。 「!!……?!」 操兵が突き出したものは何と、大量の花だった。砂と岩しかないこの辺りで、いったいどこから集めてきたのだろうか……。目の前の大量の花束に茫然としているクサナギを無視して操兵がモ・エギに話し掛けてきた。 「……私は一目見たときから、あなたの美しさに心奪われた……。あ、操兵のままの無礼をお許しください。さすがに[背の高い]私もあなたには及ばないもので……」 この思いも寄らない操兵の行動にクサナギ、そして足元のセフィロス、静夜、さらには町の住民も唖然とした。そんな状況にかかわらず操兵は言葉を続けた。 「……だが、私の愛はあなたのその大きさをも包み込む事ができる!!」 「さっきからずっとこんな感じなんです……」 いい加減聞き飽きた、というような感じでモ・エギが言う。 「もーちゃんめーなのー。浮気しちゃー」 「浮気じゃないです!。私はお断わりしているのに、この人が勝手に……!!」 静夜の言葉にモ・エギが反論するが、それを遮るように操兵が再び話し掛けてきた。 「何をためらう……確かに私とあなたでは大きさが違う。だが、そんな些細なことが何の問題になろうか?!」 「あーそこの案山子の方……」 「誰が案山子だって……?!」 突然静夜に話し掛けられた操兵だが、相手が[可憐な少女]だと知ると、落ち着き払って言葉を返してきた。 「……お美しいお嬢さんがそのような庶民の言葉を使うなど……あ〜だが、私には惚れるな。私の心は、今は目の前の御仁の姫君に奪われているのだから……」 「だめですー……もーちゃんには[ハニ丸様]という恋人がいらっしゃるのですからー」 「……ハニ丸?……まさか、破廉恥にもモ・エギさんの手の中にいる[チビ]か……!」 「別にその言葉を気にしたわけではないが……操兵に乗ったままで相手をチビ呼ばわりするなど、非常識にも程があるではないか!!」 地面に降ろされたクサナギの指摘に納得したのか、操兵は立ったままの姿勢で操手槽を開いた。そしてその中から、一人の美男子がクサナギの前に飛び降りてきた!。その着地の衝撃を堪えた美男子の身長は軽くクサナギの頭半分を越えていた……。 「……なんだ。私よりチビではないか……」 クサナギは平均的な身長であってチビというわけではない。相手の操手の方が高く見えるだけだ。クサナギはさりげなく操手の足を見た。別になんて事はない。ただ、普通に[妙に底が厚い靴]を履いているだけだった。 操手のその厚底の靴を見た静夜はトコトコとその側に寄り、その踵を思いきり蹴った!。 「うわっ!!」 その不意な攻撃に操手は躓き、その場に転んだ。が、それでも不敵な表情を崩さずに立ち上がった。 「……そなた……歩きにくくないか?……第一、そんなものを履いていたら、操縦がしづらかろうに……」 「……ふ……それが操縦技術というものだ」 そんなクサナギと操手のやり取りを見ていた静夜はおもむろにこんな事を言った。 「……カッコ良さでは操手様の勝ち。でも純朴さではハニ丸様の勝ち。セフィロス様はどう思いますかー?」 「う、う〜ん……」 突然話を振られたセフィロスは思わず唸った。そしてその名を聞いた操手が今度はセフィロスに向き直った。 「なるほど……貴殿が[蒼き神槍]か……その槍の腕は私も耳にしている……だが!!」 操手は一瞬顔をこわ張らせ、そして再び余裕ありげに笑みを浮かべてこう言った。 「私の方が……美しい!!」 「貴様、喧嘩売っているのか?!」 男の思わぬ言動に激怒するセフィロス。 「そうですよー。そんな事を言うと槍でさっくりやられてしまいますよー」 その静夜の言葉に対し、それでも操手は怯まずに言葉を続けた。 「さすがの私も蒼き神槍と戦うにはそれなりの覚悟がいる。だが、これは[美しさ]の話だ」 ここまで聞いたセフィロスは思わず、 「モ・エギ!こんな奴踏みつけてやれ!!」 と叫んだ。「え、でも……」とさすがに戸惑うモ・エギ。が、操手はその言葉に平然とこう言った。 「美しい御仁姫に踏みつけられる!……それはそれで本望なのだが……」 「……そなた……そんな趣味があったのか……」 「違うっ!。私はただ、すべての愛を受け入れる広い心を持っているという事だ!!」 クサナギの呆れ返ったような言葉に操手が反論する。その言葉にモ・エギは覚悟を決めたように大きく息を吸ってこう言った。 「……私はあなたの愛を受け入れる事はできません……私には、クサナギさんがいます!!」 そのモ・エギの言葉に静夜、そして見物人達は大きく拍手をした。そしてセフィロスも、 「モ・エギに手を出す前に、こいつに勝たねばな……」 と、今のモ・エギの言葉に真っ赤になって[埴輪になった]クサナギを指して言った。 「……なるほど……そういう事か。それならば、この町で行われると言う裏試合、その試合で決着をつける事にしよう。どちらの愛が強いか……!!」 その操手の宣言に見物人達はどよめき、そして歓声を上げた。そして静夜もわくわくした表情でクサナギの答えを待った。が、そんな状態でも当のクサナギは埴輪になったままだった……。そして少しの間があって、クサナギはモ・エギの方を見上げた。そしてその瞳が何かを期待しているように自分を見ており、さらにセフィロスの 「クサナギ!。このままモ・エギを取られてもいいのか!!」 という叱咤(?)に押されるように、硬直したまま自棄気味に叫んだ。 「……わ……わかった!その勝負、受けて立とうではないか!!」 「もーちゃんの愛を賭けてですねー」 その静夜の突っ込みにクサナギは叫んだ姿勢のまま再び埴輪になった。そしてそんな状態のクサナギをモ・エギはやさしく抱き上げ、自分の胸に抱きしめた。 「クサナギさんありがとう!!」 「こらぁっ!き貴様、モ・エギさんになんて事をするのだ」 勘違いした(と思い込んだ)操手がモ・エギの足元で叫ぶ。それに構わずモ・エギはクサナギの小さな体を自分の頬に寄せた。その光景に人々は思わず拍手を送った。 「……ラブラブ全開ですねー」 「ラブラブ全開だな……」 静夜とセフィロスが二人を見上げて呟き、隣ではマリンと久遠が呆れたように同時に首を横に振っていた……。 「ふんっ!。そうしていられるのも今のうちだ。貴様は私の[愛の物語]では惨めに立ち去る道化の役なのだからな……!!」 不機嫌なままそう言った操手はそのまま操兵に乗り込もうとした。が、突然[自慢の厚底靴]の踵が砕けた!。 「ぐわぁっ!!」 そのまま豪快にスッ転ぶ操手。どうやら、先の静夜の蹴りで厚底靴の踵に皹が入り、操兵に乗り込む際に掛けた力で完全に砕けてしまったようだ。それでも操手は操兵に乗り込んだ。 「私の名はハリー・チャック!。覚えておくがいい!!」 操手=ハリーは名乗りを上げると、そのまま操手槽を閉じてしばらくしてから帰路についた。どうやら中で靴を履き代えていたようだ……。 やがて人々は[ショー]が終わった事を悟り、それぞれの生活に戻った。その中に、一人暗がりの中に入っていくものがいた。そしてそのものは、奥にいる人物に頭を垂れて恭しく述べた。 「……当初の予定とはだいぶ異なりましたが、例の三人が裏試合に参加する模様です……」 「……手段は問わん。予定外の因子が[かなり]入ったが、あの者達、特にクサナギヒコの操兵を試合に引っ張り込めた事自体は成功したのだから、良しとしよう……」 その人物は、以前骨董市の事件で暗躍した派手な半仮面の男だった。 |