
|
人々が立ち去り、後に残されたのは一行だけだった。一行は路地に佇んでいても仕方がないのでとりあえず宿に向かう事にした。その際…… 「ハニ丸様は、もーちゃんと一緒なのー」 静夜のその一言に押されたクサナギは、 「なら、そうさせてもらおう……」 と、あっさりそれを受け入れた。そしてそんなクサナギをモ・エギが再び抱え上げ、右肩の上に乗せて町を散策し始めた。その光景は再び町の人々の注目を集めた。 そんな中、静夜は宿を渡り歩いてルヴィを捜しながらも、セフィロスに再び試合に出る事を促した。 「……やっぱりセフィロス様も出た方がよろしいのではー?。自分の腕を確かめて向上させるためにー……」 「……そこまで言うのなら……」 「だって、レイム様と約束したじゃありませんかー。この前……」 「…………憶えてないな……」 その一言を聞いた静夜はその場で顔を覆って泣き始めた。 「……酷い……女心を弄ぶなんて……酷いお方ー……!」 そんな事を大声で泣き叫ばれたらたまったものではない。さすがのセフィロスも狼狽しながら静夜を止めた。そしてすぐに泣き止んだ静夜はセフィロスに「じゃあ出ますー?」と、再び笑みを浮かべて尋ねてきた。その無邪気な瞳にセフィロスは思わず 「出る出る……!!」 と、焦ったように首を縦に振ってしまった……。 その後、今晩泊まる宿を止めた一行はとりあえずその裏試合の受付のためにチラシにあった裏通りの酒場にいった。そこには既に[いかにも戦うもの]達がこぞって並び、受付の順番待ちをしていた。 そんな中、静夜がぼそっとこんな事を言った。 「……静夜も……出てもいいんでしょうかー……」 その一言にクサナギが驚いた。クサナギは彼女が武繰使いであることなど露知らず、戦闘経験などない医者だとしか思っていなかった。それゆえに、その一言はクサナギを驚かせるのに十分だった。 「静夜、正気か?!」 「はいー」 静夜の考えはこうだ。吟遊詩人がいるとしたら観客の人込みの中。その中でルヴィを見つける事は困難だ。だが広いところから客席を見渡せばもっと確実に見つけられるかもしれない……そして客席を見渡せる広い場所と行ったら……試合場しかないだろう……。 クサナギは必死に止めたが、 「危なくなったらー、「負けですー」って言っちゃえばいいんですー。それまでに見渡せれば見つける事ができるかもしれないですからー……」 と、その決意が揺らぐ事はなかった。そして静夜に抱きつかれた時から彼女を只者と思っていないセフィロスも特に止める事はなく、マリンに至っては、 「(……静夜が出れば、優勝しちゃうかも……)」 と、心の中で呟き、そんな光景を久遠は「くー?」と一声鳴いて首をかしげて眺めていた。 受付の張り紙によると、試合は総当たり制で、試合期間中であれば何度でも挑戦ができ、その中での勝利回数が最終優勝者となるようだ。要するにただ、戦いそのものを見せたいだけの構成のようだ。 その区分もいい加減で、装備の種類や地位、性別、年齢などによって分けられる事はない。が、勝負にならないので操兵は人間に戦いを挑む事はできない。ただし、その逆はできるようだ。さすがに今回はそういう[丈夫]は出なかったが……。 「あ、姉さんも出るんですかい?」 受付は先のチラシを撒いていた仁侠が担当していた。 「そうなのー。くーちゃんも一緒なのー」 背嚢に入っていた久遠は、顔だけ出して一声上げた。仁侠はその不思議な光景に首をかしげたが、別に[獣使いは参加不可]という決まりはないので、とりあえずは通常通りに手続きを済ませた。それを見たクサナギはもはや止めても聞かないと悟り、諦めて自分も手続きを済ませ、セフィロスもそれに続いた。 受付には様々なツワモノ達が並んでいた。武器は持ってきてはいないので何を得意としているかわからないが、このような裏試合に出ようというのだから、それなりに実力はあるだろう。何人かはクサナギやセフィロスに気付いたのか、意味ありげに一瞥をくれるものもいた。 その時…… 「すみません、ちょっとどいてください……」 「ぅわあぁっ!何だ何だ?!」 何と人込みを[文字通り]かき分けながらモ・エギが四つんばいになって受付のところに巨大な顔を近づけてきたのだ!。集まっていた出場予定者達は突然出現した御仁姫に慌てふためいていた。 慌てたのはクサナギも同様だった。 「モ・エギ!。そなたも出場するのか?!」 「はい。クサナギさんに頼ってばかりじゃいられないから、自分であのハリーさんと当たって、力ずくでもお断わりするつもりで……」 クサナギは意外な方向に動きつつある状況に頭を抱えた。 (モ・エギと当たったら私はどうすればよいのだ……) そんなクサナギの心配を他所に、モ・エギはやはり操兵戦の方に登録した。 一行をはじめとした様々な戦士達があらかた登録を済ませたころ、クサナギの背後から誰かが話し掛けてきた。 「どうやら怖気づいた様子はないようだな!」 ハリーだった。壊れた厚底靴を通常のものに取り替え、クサナギと同じ背丈になっていた彼は、不敵な笑みを恋敵に向けていた。 「そなたか……」 クサナギの溜め息を吐くかのような返事を気にせず、ハリーは言葉を続けた。 「……まぁ、貴様はこの私に倒される道化の役を上手く演じるんだな……それにしても……」 ここでハリーはモ・エギを見上げた。 「何故モ・エギさんが……この勝負は私とこの男(クサナギ)とでつけるもの!。あなたが出てしまっては……」 そこに静夜が割って入った。 「でもー、それはもーちゃんが見守っている場所で行わないとー……」 「それだったら、観客席で……」 「…………入りませんー。もーちゃんの大きさじゃー……」 「だがしかしっ!。もし私がモ・エギさんと戦ってしまったら……」 「その時は負けを認めればよろしいかとー……」 「その前にクサナギと当たらなかったら……」 「その時はお前の負けだ」 と、セフィロス。 「そんなぁ!……私はモ・エギさんの愛を賭けて戦おうというのに……」 ここでようやくモ・エギが頭上から声をかけてきた。 「ですから、私はあなたの事は……」 が、ここでハリーはモ・エギの言葉を遮った。 「あー皆まで言わなくとも私にはわかります!。あなたが[本当に愛しているのが誰か]という事くらい……」 この身勝手な言葉に、モ・エギは返事を返す事ができなかった。 「でも、逆にもーちゃんと戦ってハニ丸様が負けてしまう事もありますよね……」 この静夜の言葉に気を持ち直したのか、ハリーは力を込めて言った。 「もちろん!……負けた時点で貴様もモ・エギさんの愛を受け入れる資格はない!!」 「だったら、条件は五分ですねー。ハニ丸様と当たらなければ恨むのは自分の運……」 「私は運には自信があるのですよ!!」 静夜の追い打ちのような言葉にもめげずにハリーは胸を張って答えた。それを見たセフィロスは 「……[運だけ]は……」 と、突っ込みを入れ、そして今度はクサナギと見比べた。そう、運に関してはクサナギはここぞという時に不幸に見舞われる。ある意味では不利かもしれない……。 言いたい事を言ったハリーはその場を去った。その際、静夜に[背が低くなった事]を突っ込まれ、すぐさま靴屋に飛び込む姿が見えたが、それは余談だ。 そしてとりあえず手続きを済ませた一行も、翌日の第一試合に備えて休もうと、宿に戻っていった。 次の日の夕暮れ。一行は示された町外れの遺跡に赴いた。そこはどうやらクメーラ時代の闘技場跡で、こういった裏試合には打ってつけの場所だった。その中には試合場だけでなく、賭博場をはじめとした観客を楽しませるための施設が造られており、裏社会だけでなく、一般の人々も多く訪れていた。 「まぁ、あんた達の試合も賭の対象となるからせいぜい頑張ってくれ。あ、八百長は拙いから、あんた達は賭けには参加してはくれるなよ……」 案内人の言葉を聞き流しながら、一行は与えられた控室に入る。 「……ところでせっちゃん。どうすれば[勝ち]になるんです?」 突然の静夜の問いにも慣れたのか、セフィロスは特に動じる事なく答えた。 「相手に[参った]って言わせる事だ。または気絶させるとかで戦闘不能にさせる事だ」 セフィロスは静夜の隠れた(隠された)戦闘センスを見抜きつつあった。もとより、以前自分とルヴィを間違えて抱きつかれた時から只者ではないと思っていた。それゆえに、彼女がこの裏試合に出る事を特に拒まなかったのだ。 一方、整備場ではクサナギが試合について説明を受けていた。それによると、カノン砲などの飛び道具はやはり使用不可だが、AZ装備を取りつけておく事自体は構わないようだ。ようするに使用しなければ良いらしい。そしてロケットモーターに関しては特に制限はなかった。……というより、その存在に気付かなかっただけのようだが。 試合が始まる少し前。静夜はルヴィらしき吟遊詩人を捜すために賭博場を見て回った。そこには試合が始まるまでの時間潰しとばかりに人々が博打を楽しんでいる。そしてそんな人々の間に何人かの吟遊詩人がやはりそれぞれに自慢の喉を披露していた。が、結局時間ぎりぎりまで捜してもルヴィとおぼしき人物を見つける事はできなかった。 そしてそうこうしているうちに試合の時間となった。場内に試合開始が告げられると同時に賭博場にいたほとんどの客が一斉に観客席になだれ込み、その中で一行は、それぞれに控室に戻って自分の出番を待った。 やがて観客が静まり返り、それを見計らって司会の男が試合場中心に乗り出してきた。 「長らくお待たせしました!。これより本日の目玉、フィラブ裏試合を始めます!!」 司会の開会宣言に観客が湧く。そしてその歓声に答え、司会がさらに言葉を続けた。 「今回は今までの試合とはひと味違います……何と、とんでもない大物が続々と参加してくれました!!。……本物なら、ですがね?」 最後の一言に観客、そしてセフィロスも苦笑した。確かに自分は仮名を使った覚えはない。だが、名乗るだけなら自由だ。おそらくは自分やクサナギを名乗るものが結構いるだろう。まさかこのような裏試合に本物が出るとは夢にも思ってはいないだろうが…… そしてその予感は的中した。 「最初の試合はのっけから大物対決ぅ!。[蒼き神槍セフィロス]対……[蒼き神槍セフィロス]!!。さぁ、どっちが本物なのか?!」 観客の笑いと歓声に頭を抱えながらセフィロスは試合場に赴いた。そして目の前に悠然と構えるもう一人の[セフィロス]を見て唖然とした。自分の名前を名乗るにはあまりにも似ていないのだ。その名の通り槍を携えているが、その巨漢というべき見事な体格の男からはどう見ても[神槍]と呼ぶべき敏捷性は微塵も感じられなかった。 試合直前、巨漢セフィロスが目の前のセフィロスをせせら笑うように話し掛けてきた。 「……なるほど……俺の名前を名乗れば相手がびびると思ったか……だが、それも実力がある程度伴っていなければ、恥をかくだけだ……」 その一言は意外にもセフィロスの心を揺さぶった。 (ここでもし負けたら、俺は[偽物]という事になる……負けられん!) そんなセフィロスの気持ちを知ってか知らずか、巨漢はさらに強気の言葉を続けた。 「貴様に[本物の神槍]の真髄を見せてやろう!!」 「……お前の腕が……確かならな!!」 自分の不安を押し隠すように、セフィロスは力強く言葉を返した。 「せっちゃん、やっつけちゃえーっ!」 彼女にしては珍しい静夜の声援と同時に二人の賭け率が発表された。その結果は五分。客にはどちらが本物かこの時点ではわからなかったのだ。だが、中には 「……こんな裏試合に出るんだ。どっちも偽物に決まってる……」 といったような冷めた声も聞こえた。 その直後。試合開始の合図と同時に巨漢がセフィロスに向けて槍を突き出した!。それに対しセフィロスはあえて攻撃せずにそのまま破斬槍で受け止めた!!。まずは相手の力量を計るつもりのようだ。 「なかなかやるじゃねぇか……」 初手の槍を受け止められた巨漢はそのままの姿勢で話し掛けてきた。 「……なるほど、その腕なら、[セフィロスを名乗った]って恥ずかしくはないようだなぁ、俺と同じで……」 どうやらこの巨漢は自分が偽物とあえて認め、そしてその上で目の前の槍使いも自分と同じ偽物と思い込んでいるようだ。そんな男にセフィロスは特に表情を変えずに言った。 「……その程度か!」 「……何?!」 「手加減してやるから、本気でかかってこい!」 セフィロスはそう言い放って巨漢ごと弾き飛ばすように受け止めていた槍を突き放し、間合を取って今度は攻撃の構えを取った。その態度に激怒した巨漢は「手加減たぁ、言ってくれるじゃねぇか!」と、叫びながら再び槍を突き出した!。が、怒りに身を任せたその攻撃をあっさりかわし、セフィロスはそのまま突き返した!。 「…………相手にならんな」 その一突きは一瞬のうちに相手の手から槍を弾き飛ばしていた。 しばしの静寂の後、審判はセフィロスの勝利を宣言し、会場に歓喜と負け札が飛びかった。 「カッコいい方のセフィロスが勝ったぞ!」 「ひょっとして本物じゃねぇのか!!」 「どうせ偽物だ……」 歓声の中、セフィロスは審判から祝儀の金を受け取ると、足早に闘技場を後にした。 その後、休む暇なく次々と試合が行われた。参加者のたいていは腕に少々覚えのある旅の傭兵といった感じだが、中には大鎌使いや鞭使い、さらには全身甲冑に丸盾(おそらくは両方ともセラミック製)で身を固めた戦士もおり、斧の一撃で熊使いの熊を仕留めていた。 そしてついに静夜の番が回ってきた。心配するクサナギを他所に静夜は「行ってきますー」といつもの調子で闘技場に出ていった。 突然闘技場にトコトコやってきた場違いな少女を見た観客は唖然となった。審判も最初は道でも間違えたのかと思ったが、そうではないようなので戸惑いながらも通常通りの運営を続けた。ちなみに賭け率は9対1。もちろん対戦相手が9だ。静夜に賭けたものもおそらくは遊び半分だろう。 そんな事は露知らず、静夜は対戦相手をろくに見る事なく観客席にいるかもしれないルヴィの姿を捜した。そしてその中に、妙に逆立ってはいるものの確かにセフィロスとは違う銀髪の男がいるのを目撃した。が、顔はほかの客が邪魔でよくは見えなかった。 「くーちゃん、見えるー?」 静夜は背嚢から久遠を出して頭の上に乗せた。が、もとよりルヴィの顔すら見た事ない久遠にわかろうはずもなかった。 「他所見してんじゃねぇ!」 不意に響いた大声に振り向いた静夜。その目の前には、さっきから待たされていた対戦相手である拳法家とおぼしき男がものすごい形相で静夜を睨んでいた。いらつく男の視線に静夜は特に驚く事なく 「静夜、別れた旦那を捜しにやってきましたー。銀髪でカッコいい吟遊詩人ですー」 と、いつもの調子で挨拶をした。 「そうですか、それはお気の毒に……」 その独特の雰囲気に飲まれた拳法家は今までの怒りを忘れ、自分も一緒になって観客席の銀髪を捜し始めた。が、「早くやれーっ!」と客に野次られてようやく我を取り戻した。 「……ど、どうして旦那捜すのにこんなところに出てくるんだ!!」 「だって、ここから捜した方が早くありません?」 静夜の緊張感のない口調にすっかり闘志をなくした拳法家だが、一度闘技場に出た以上、戦わない訳にはいかない。溜め息を吐きながらもとりあえず独特の構えを取った拳法家は、静夜に向かってこう言った。 「……ま、手加減してやっから、かかってこいよ」 「はーい。じゃ、静夜、全力でいきますー」 そして勝負は一瞬で着いた。だが、というよりはやはりその結果はクサナギとモ・エギ、そして観客達誰もが予想した結果とは全然違うものだった。 「とりあえず、格好つかんだろうから先に殴らせてやる!」 といった拳法家の言葉に甘えた静夜はそのままトコトコと歩み寄り、宣言通り全力で、単発では一番強力な技[輝きの拳]をその無防備な胴体に叩き込んだのだ!。思わぬ一撃を受けた拳法家は、何が起きたか理解しないうちに意識を失い、そのまま倒れた。 審判の勝利宣言と同時に観客席から一斉に声が上がった。 「詐欺だーっ!!!」 その叫びと同時にとてつもなく大量の負け札が静夜の勝利を祝う(?)花吹雪のように彼女の回りに散った。 とりあえず倒れた拳法家の介抱と運び出しを手伝い、帰ってきた静夜をクサナギは埴輪のような表情で出迎え、セフィロスも(やはり……)と、自分の目が正しかった事を感じていた。 その後。自分の控室で目を覚ました拳法家は、付き添っていた友人に思わずこう言った。 「…………試合は?」 どうやら本当に何が起きたか理解していないようだ。 「確か、変な女と話して…」 ここで拳法家はポン、と手を打って結論を出した。 「…………夢だったのか!。て、事は、そろそろ俺の手番……」 「……負けたんだ。お前は」 「は?」 その直後、大勢の男達が控室に入ってきた。そしてそのもの達は皆が殺気立った目を拳法家に向けていた。どうやら、拳法家に賭けていた客の一部のようだ。 その日以来、拳法家の姿を見たものはいない。 |