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二機の操兵と御仁姫が砲撃地点に向かうのを見た半仮面は、軽く舌打ちして呟いた。 「ここまでか……もうそろそろ潮時だな」 半仮面がそう言って軽く手を上げる。そしてそれを合図に観客席の一部が開き、中から住人ほどの集団がわらわらと飛び出した。それは、まるで猿のような毛皮と動きを見せる、奇面衆の集団だった。彼らはそれぞれ両手に小剣ほどの大きさの鍵爪を構えていた。 そんな[猿軍団]を目の当りにし、それが自分達に向かってくるのを目撃したセフィロスと静夜は、すぐさまそれぞれに流派の構えを取って迎え撃つ準備をした。 「……どうしましょうあれー」 「面倒だが、相手をしてやるほかはあるまい!」 そんな二人を猿奇面が取り囲むべく周囲に展開する。セフィロスと静夜はそれぞれにその包囲網を突破せんと、その猿奇面に向けて突っ込んだ。 「いくぞ!!」 セフィロスは迫り来る猿奇面達に対して流派の技[流舞]で一気に攻撃を仕掛ける事を試みる。この技はいわゆる足裁きと繰り手を組み合わせたもので、一瞬のうちに複数の相手に槍を繰り出す事ができるのだ。 が、既にそれを呼んでいた猿奇面はすぐさま防御姿勢を取った。それは、初手の槍を自分の体で押さえ込むという、無謀とも取れるものだった。そう、それは洗脳によって[死を恐れる]という感情を除去された奇面衆ならではの作戦だった。そしてもし決まれば、槍を押さえ込まれて動けなくなったセフィロスに猿奇面の毒爪が一斉に襲いかかるのだ! しかし 「甘い!!」 セフィロスの槍はそれを受け止めようとした奇面の体を横凪に切り裂き、そのまま続け様にさらなる二人を凪払う! 「セノハビン顯ゑヱヱ!!」 セフィロスの二つ名通りの神速の槍に猿奇面は思わず飛び退いた。 一方静夜は、やはり自分に向かってくる猿奇面の爪をやはり流派の技[双つ螺旋]で受け流す。この技は一見相手の攻撃を受け流す防御技のように見えるが、実際はそれだけにはとどまらず、受けた攻撃をそのまま別の方向、最終的には相手にそのまま返すという反撃技なのだ。 三人の猿奇面は静夜を取り囲み、それぞれに両手の毒爪を繰り出すが、その攻撃は次々と弾かれ、攻撃を返された奇面達は次々と倒されてゆく。が、受け流しの拳をかいくぐって毒の爪の一撃が静夜を襲う! 「!!」 思わずたじろいた静夜だったが、幸い爪は肩当てを掠めただけにとどまり、静夜の体に届く事はなかった。 「お母さまの[御守り]に助けられましたー」 安堵の息を吐いた静夜はそう呟き、次なる技[緋き焔]で二人の奇面を地に伏した。 その隣ではセフィロスがさらなる奇面と戦っていた。今の槍の一振りで相手の実力を見切ったセフィロスはまたも取り囲んでくる奇面に対して余裕の表情を浮かべて挑みかかった。が、それが油断を呼び、背後からの毒爪を諸に受けてしまったのだ! 「くっ?!」 傷口から毒が染み込み、激痛としびれが体の自由を奪う。それでもセフィロスは槍を振るい、奇面を次々と倒してゆく!だが、毒はいまだに体を回り、セフィロスの体を蝕んでいる。このままでは倒れるのは時間の問題だった。それでもセフィロスは取り囲んだ三人のうち二人を戦闘不能に追い込んだ。 「最後の一人だ!」 セフィロスは気力を振り絞って槍を繰り出す。だが…… 「……目が……霞む?!」 回ってきた毒がセフィロスの気力そのものを奪い始め、それによって大事な一撃をかわされてしまった!……そして…… 「……だめか?!」 さすがのセフィロスも気力が果てたのか、とうとうその場に蹲ってしまった。何とか槍を支えに倒れずには済んだものの、動けない事に違いはない。それを見た猿奇面はここぞとばかりにセフィロスにとどめを刺さんと両手の毒爪を大きく振りかぶった! その時、いつの間にか抜け出していた久遠がセフィロスに迫らんとする猿奇面の後頭部に張り着き、その攻撃の邪魔をしたのだ! 「くーっ!!」 久遠は降りほどこうとする奇面の動きに耐え、そのまましっかりとしがみついた。そしてそれによって生じた隙を静夜は見逃さなかった。すぐさま[呼打真(こだま)]を繰り出し、自分の周りにいる奇面達を一瞬にして蹴散らした。その攻撃で襲いかかってきた奇面達は全滅した。 「セフィロス様大丈夫ですかー?」 静夜は動じる事なくセフィロスを抱き起こし、すぐに解毒薬を飲ませ、それによってとりあえずの毒の進行を止める事はできた。 「お客さんの避難は済んだよー!!」 戦闘の間ずっと客の誘導を続けていたマリンが戻ってきた。 「こちらの方も終わりましたー」 静夜がいつものぽわわんとした表情に戻って答える。が、マリンは傍らに横たわるセフィロスを見て絶叫した。 「セフィロスが死んじゃったぁ!!」 「死んでませんー」 静夜は少しも慌てず鞄の中から針を数本取り出し、セフィロスの身体の[ツボ]に刺した。南雲護身術の医術としての面[点穴]を突いたのだ。そしてそれによってある程度傷が塞がったセフィロスはようやく話す事ができるようになった。 「……助かったよ……」 「こんなに戦ったの初めてなんで、手がまだ震えていますー……」 そんな静夜の言葉を聞いたセフィロスは返す言葉が思いつかなかった。そう、本来静夜は戦いに向いた性格ではないはずなのだ。だが、彼女の持てる[力]は既に身を守ためのものというにはあまりにも強すぎた。そしてそういった力は常に戦いを呼んでしまうものなのだ。 そんな中、静夜は点穴で塞ぎ切れなかった傷口を手当しようとした。が、その際、思わず刺した針を抜く手に余計な力がこもり、せっかく塞いだ傷口の一部を開いてしまった! 「ぐわっ!!」 「……だ、大丈夫ですかー?ご免なさいー!」 「大丈夫……大丈夫だ……」 慌てて傷薬を取り出す静夜に、セフィロスは悶絶しながらも笑みを浮かべて答えた。 そのころ、降りそそぐロケットの雨を避けながらクサナギは、エルグラーテを砲台のある街の遺跡に走らせていた。そして程なく、建物の影に隠すように設置されたロケット砲数基とそれを操る奇面衆を発見した。 「そこか!!」 クサナギは今にも応戦体勢をとらんとするロケット砲台に向けてエルグラーテを突っ込ませる。が、ここで機体の脚が建物の残骸に引っかかって思わず動きを止めてしまった。幸い転倒は避けたものの、その一瞬の隙は大きく、敵はロケットの照準をエルグラーテに完全に合わせてしまった! 「クサナギさん、任せて!!」 そこにモ・エギが駆けつけてきた。モ・エギは建物をあっさり乗り越えると、発射直前のロケット砲をおもいっきり蹴り上げた。蹴り上げられた砲台は5リート以上飛ばされてから爆発!続いてモ・エギはほかの砲台を(喜々として)踏み潰していく。それを目の当りにした奇面達は残った砲を見捨ててその場から逃走した。 「クサナギさん、やりましたーっ!」 「……あ、有り難うモ・エギ……」 兜を脱いでうれしそうにはしゃぐモ・エギにクサナギは思わず苦笑を浮かべる。そこにクサナギよりもさらに遅れてハリーのハーキュリーローズがやってきた。 「いやあ、モ・エギさん。そのような事は私に任せてくれれば……そして!」 ハーキュリーローズはここでエルグラーテに向けて指を突き出した。 「のろまは引っ込んでいろ!」 (……そなたとて遅れたであろうが!……) そう言いたいのを我慢し、クサナギは敵の次の攻撃に備える。そして案の定別の建物の影からさらなるロケット弾が飛来した! 「なんのっ!!」 クサナギはエルグラーテにすぐさま盾を構えさせ、ロケット弾を全弾そのまま受け止めて機体への被害を防ぐ。その横ではモ・エギがとっさに建物の蔭に逃げ込み、ハーキュリーローズが被弾しながらも何とか持ちこたえていた。 「大丈夫ですかぁ?」 ぼろぼろになった操兵を見たモ・エギが思わずハリーに話し掛ける。 「はっはっは……ちょっとぼろぼろになりましたけれど大丈夫ですよ、これくらい」 だが、いつまでも一方的な攻撃を受けているわけには行かない。クサナギとモ・エギ、そしてハリーは手分けして敵の砲台を捜す事にした。が…… 「私とモ・エギさんはこっち、貴様はあっち、だ!」 「何故、そなたがモ・エギと一緒で私が一人なのだ!」 結局、このままでは埒が明かないと思ったクサナギは、今度はエルグラーテの赤外線視覚装置とAZ装備の照準装置を作動させ手先のロケットの弾道を追い、そして程なくして場所の見当がついたところでクサナギはその方向に向けて四発のロケット砲を撃ち込んだ! 「お返しだ!!」 炎を噴いて発射されたロケット弾は建物の蔭に飛び込み、そして大爆発を起こした。おそらく、相手の火薬に引火したのだろう。 突然ロケットを発射したエルグラーテにハリーは思わず呟いた。 「……貴様……それはちょっと[ずるい]だろ……」 「もはや試合などとは言ってはいられない!こうなったら、ここから生きて帰る事だけを考えるんだ!!」 クサナギの言葉にハリーは仕方がない、と頷き、再びモ・エギに振り返った。 「では、私とモ・エギさんはこちらに……」 「いえ、私はクサナギさんと一緒に……」 それでもクサナギについていこうとするモ・エギにハリーは 「だめです!危険すぎます!!」 と、操兵の手でこの場から連れ出そうとする。その時、どこからともなく十発近いロケット弾がハーキュリーローズに襲いかかった! 「ハリーさん後ろ!!」 が、モ・エギの忠告にもかかわらず、ハーキュリーローズは先ほどよりも大量のロケット弾にさらされた。その凄まじい爆発と炎に耐え、とりあえず機体は立っているものの、装甲が砕け、むき出しになった筋肉筒が無残な姿をさらしていた。 「まだ砲台が残っていたのか!」 クサナギはロケットが飛んできた方向に機体を向けた。そしてそこにいたものを見て驚愕した。それは、以前妖精郷で見た、奇操兵ディノジェイラの砲撃形態だったのだ! 「クロウ?!……そなた、奇面衆の仲間だったのか?!!」 クサナギの問いにディノジェイラのむき出しの操手槽にいるクロウは少年とは思えない、それでいて不気味なほど無邪気な笑みを浮かべた。 「仲間?まぁ、奴等とはいろいろとあってね。ま、そんなこと僕には関係ない。僕は、今度こそこの操兵で君に勝てればそれでいいんだ!」 クロウは怒気を孕んだ声を張り上げながらもディノジェイラに射撃体勢を取らせる。 「……でも、今度はこの前のようには行かない。何せ、あの時は三対一でようやく僕に勝ったんだからね……そして、今回は先に一体を潰した。その御仁と二人だけで、僕にかなうものか!」 クサナギはエルグラーテのオートカノンをディノジェイラに向ける。が、それを見たクロウは余裕たっぷりに言い放った。 「そんな安い大砲なんかあっても無駄だよ。何せ、火力は僕の方が上なんだからね!」 確かに総合的な火力はカノン砲の他にマシンキャノンを二丁装備しているディノジェイラの方が上だ。だが、カノン砲そのものの連射速度はエルグラーテのオートカノンの方が若干速い。しかも空中から攻撃できる分エルグラーテの方が有利だ。さらにクサナギは以前戦った経験から、ディノジェイラの大体の戦闘能力を把握している。そして一方のクロウはAZ装備のエルグラーテの戦闘能力はまだ見た事はなかった。この戦い、実は一対一でもクサナギの方が有利であった。 その時、一方的にやられた上にさんざん無視されたハリーが破壊された機体の中から這い出て、ディノジェイラに向けて叫んだ。 「待て!モ・エギさんに手を出そうものなら、まずはこの私を倒してからにしろ!!」 ハリーはそう言って剣を抜き、果敢にも生身でディノジェイラに向けて走り出そうとした。が、すぐに背後から巨大な手によって掴まれた。モ・エギの戦鎧の延長技手だ。 「ハリーさん、生身で何をしようって言うんですか!ここはクサナギさんに任せて安全な場所まで避難してください!!」 モ・エギはそう言って、ハリーを抱えたままいったん廃墟の影に身を潜めた。この時ハリーは自分を掴んでいる鋼鉄の腕を見てこんな時にもかかわらず、 (これがモ・エギさんの生身の[手]だったら……) と、心の中で呟いていた。 視界からモ・エギが消えると、クロウはさらに強気になって叫んだ。 「これで一対一!……完全に君に勝ち目はなくなった。僕の勝ちだ!!」 それと同時に戦闘の火蓋が切って落とされた。クロウが動く前にクサナギはロケットモーターを起動、空中へと飛び上がった。そしてその状態のままクサナギはディノジェイラ目がけてロケット砲を立て続けに発射!四発中二発が直撃し、ディノジェイラは装甲と筋肉筒に多大な被害を受けた。 「やったなぁ!!」 いきなりの先制を受けたクロウは空中にいるエルグラーテAZに向けてマシンキャノンを乱射した。が、クサナギはエルグラーテに微妙な横移動による回避運動を取らせ、あっさりと避ける。そしてその状態のままクサナギは今度はオートカノンを発射!その一撃でディノジェイラは装甲にさらなる亀裂を増やし、駆動系にも被害を受けた。 だが、それでもディノジェイラは動きを止める事はなかった。クロウは機体の態勢を整えると、反撃とばかりにロケット砲、マシンキャノン、3リットカノン砲のすべてを一斉掃射!!……しかし既にそれを読んでいたクサナギはロケットモーターを巧みに操作、エルグラーテを着地させる事なくすべての攻撃を回避した。 「どうして当たらないんだぁ?!」 クロウはなおも砲撃を続けるが、ディノジェイラの周囲を回り込むように飛行するエルグラーテの動きに着いて行けず、その攻撃はただ辺りの廃墟を破壊してゆくだけだった。そう、砲撃形態を取るこの奇操兵は、蒸気輪によって直線的な機動性は確保したものの、もともとは遠距離からの砲撃のみを想定した性能となっており、エルグラーテのような飛行による機動回避を行う相手は全く想定されてはいない。 しかも、以前の戦闘においてエルグラーテは砲撃に対してほとんど対処できなかったが、今ではAZ装備によって同等以上の攻撃能力を備えている。こうなっては、いまだ技量において劣っているクロウに勝ち目はなかった。 そして数回の砲撃戦の末、エルグラーテAZはディノジェイラの真上を取った。 「これで砲撃はできまい!!」 「くそぅ……くそっくそっくそぉっ!!」 クサナギの叫びにクロウは悔しさのあまり操手槽の中で地団駄を踏んだ。だが、既に何発もの被弾によってディノジェイラの機体はクロウの怒りに応えるだけの機能は残されてはいない。そして、クロウもそれを知らないわけではなかった。 「僕はまだ負けたわけじゃないぞぉ!!」 クロウは叫びと同時に緊急用レバーを思い切り引いた。それと同時にディノジェイラの足元から大量の炎と煙が噴き出し、この奇操兵をエルグラーテ同様空中に舞い上がらせた! 「飛んで逃げる気か?!」 そう、ディノジェイラは以前の戦闘においても装備された固体ロケットで戦場を離脱したのだ。だが、それをあっさりと見逃すクサナギではない。 「逃がさない!」 クサナギは照準器の中心にディノジェイラを捕らえると、オートカノンとロケット砲四発を同時発射!ただ空中を弾道飛行するだけのディノジェイラにそれを回避する術はなかった。 「わああぁぁぁぁ!!」 クロウの悲鳴の直後、ディノジェイラは空中で爆発四散した。 「終わった……か……奴等の仲間にならなければ、こんな事には……」 エルグラーテを着地させたクサナギは、墜落して行くディノジェイラを複雑な心境で見つめていた。 だが、クサナギはこの時、空中に不思議なものが浮かんでいるのを目撃した。 「……何だ……あれは……?!」 宙に浮かぶそれは、まさしく人間だった。全身を長衣で纏い、顔を仮面で隠したその人物は、いつ助け出したのだろうか、クロウとディノジェイラの仮面を両手に抱きかかえ、そしてそのまま霞のように消えていった。 その光景は静夜とセフィロスにも見えていた。今の消える人影を見た静夜は、故郷羅 諸国連合の僧侶の事を思い出していた。そう、神聖皇帝ラ・ソーラを崇める僧侶達は皆、不思議な[力]を使えるという。そして、彼らは全員が覆面を着けており、しかもその一部は、その覆面の下にさらに仮面を着けているという。そう、今の[人物]と同様に……。 その後クサナギとモ・エギがディノジェイラの残骸の元に駆け寄ったが、やはり操手であるクロウと仮面はどこかに消えていた。 戦いは終わった。とりあえず合流する一行だが、この時静夜は、試合場の中から掛け金の詰まったズタ袋を引きずって逃げ出す数人の男達を見つけた。その男達の身なりは割と立派なもので、どさくさ紛れの観客とは思えなかった。 「火事場泥棒はめーなのー」 静夜のほわわんとした呼び止めに男達は一斉に振り返り、口々に叫ぶ。 「火事場泥棒じゃねぇ!これは正当な利益だ!!」 「めーなのー」 話を全く聞かずに同じ言葉を呟く静夜に、男達は先の試合を思い出し、その[めー]の威力を勝手に想像した。 「ひいいぃぃぃ!!俺達は半仮面の男に頼まれただけだ!!あんたら[クサナギ様御一行]を陥れたら、俺達の組合に寄付してくれるっていうから……」 それを聞いた静夜は、ジト目で[ライバ救国の英雄]を見た。 「……また、クサナギ様のせいー?」 「奴等のせいだ!!」 クサナギの反論は、どこか空しかった。 「目立ったのはクサナギだが……ま、静夜もこれからはその[仲間入り]だ。あれだけの事をやれば、奴等も十分注目するだろう……」 セフィロスのあまり助け船にならない言葉に、静夜は仕方なく納得した。 その後、一行ができる限りの後始末をしている中、ハリーは自分のぼろぼろになった操兵を茫然と見ていた。が、クサナギが近づくと、再び毅然とした態度に戻った。 「……ハリー……」 「……今日のところは引き分けだ。だが、次はない。それだけは覚えておけ!」 「(まぁ、まともには戦ってはいないのだから、な……)」 クサナギは苦笑を浮かべた。 そこに静夜がやってきた。 「怪我をなさっているのなら、治療しますー」 静夜の言葉にハリーは「そのお気持ちだけ受け取っておきましょう」と丁重に断る。もちろん、 「あぁ、ですが私に惚れるのはいけません。私にはモ・エギさんという、心に決めたお方が居りますゆえ……」 と、勘違いな言葉を返すのも忘れなかったが。 そしてハリーは、再びクサナギの方に向き直る。 「ちなみに言っておく。私のモ・エギさんに対する愛は貴様のそれよりもはるかに大きい!……ただ、モ・エギさんの愛を[受けるだけ]の貴様とは違い、私は大きな愛を与え続ける事ができるのだ!そうでしょう、モ・エギさん!!」 突然話を振られたモ・エギは、黙ってハリーを抱えあげた。モ・エギの顔が意味ありげに自分の側に来た事でハリーは期待に胸を膨らませた。ようやく自分の気持ちが伝わったのだ。が、その直後ハリーは絶望の縁に落とされた気分となった。何とモ・エギは、彼に[温泉郷での出来事]を話し始めたのだ! その[断片的な]内容はモ・エギの足元の静夜、セフィロス、マリンにも聞こえた。 「……クサナギ様……えっちー」 「ち、違う!!あれは私から求めた事では……」 クサナギの言い訳にセフィロスも 「男らしくないぞー」 と、軽く野次を入れる。だが、何よりも激昂に駆られたのはハリーだった。地面に降ろされた騎士は、ものすごい剣幕でクサナギの元に駆け寄った。 「クサナギ……貴様、モ・エギさんにあそこまでさせておいてぇぇぇ!!しかも自分からじゃないだとおぉぉ!!」 ハリーは腰の剣に震える手を掛けた。が、とりあえずは抜き放つ事はなかった。 「……今日のところは操兵もない。したがって、決闘の権利は保留する!……だが、次は必ず、貴様からモ・エギさんの愛を勝ち取って見せる!!」 ハリーはそう言ってハーキュリーローズに乗り込む。だが、自分の愛機が立ち上がる事すらできない状態である事を知ったハリーはとりあえず機体を降り、運搬の手配に向かった。「取るなよ!!」と言い残して……。 やがて、高笑いとともに操兵運搬用馬車で改めて去って行くハリーを見送る一行。そんな中、静夜がクサナギにこんな事を言った。 「……ところで、どう責任を取るつもりですかー?」 「あんなもの(ハリー)を呼び込んだ事か?……何、次に逢った時にはきちんと相手をするさ……」 「そうじゃなくて、もーちゃんの件です」(きっぱり) 「う!!」 静夜の問いにしどろもどろしているクサナギを、モ・エギは顔を赤く染めながらもそっと抱き上げ、自分の肩に乗せた。どうやら今はこれで満足、といったところだろうか……。 「でも、ちゃんとライバの街に帰ったら……ですよー」 今の静夜の言葉が、例の[指輪]の事を言っている事はクサナギ、セフィロスにも理解できた。 「そうか……クサナギ、とうとう[籍を入れる]のか……」 セフィロスの言葉にクサナギは何も応える事ができず、またモ・エギは今の言葉の意味が分からなかったのか、ただきょとんとした表情でクサナギの顔を見ているだけだった。 「では、そろそろ帰りま……す……か……」 不意に静夜の言葉が途切れ途切れになった。見ると、静夜は自分の背嚢を枕に、さらにはしっかりと久遠を抱いてすっかりと眠っていた。側にいたマリンも、 「ま、今まで起きていられた事が[奇跡]だね」 と、眠そうな声で呟き、自身もモ・エギの頭の上まで跳んでいき、その髪の毛にもぐり込んで眠ってしまった。 その翌日。出発を前にクサナギはエルグラーテの整備の街の工房を訪れた。が、そこにいたのは…… 「……また、逢ったな!!」 そう、自機の修理を依頼に来たハリーだった……。 さらにその翌日。結局本来の目的だったルヴィ捜しを果たす事ができなかった一行は、とりあえずライバに帰るべく帰路の旅についた。 いや、まだ語らねばならない事があった。 半仮面の男の前に、総仮面の人物が跪いていた。それは、先ほどクロウと仮面を救い出したものだった。 「……奴等に姿をさらすとは、お前らしくないな……」 男の言葉に、仮面の人物は何も応えなかった。 「まぁよい。私としてもクロウ[様]とあの仮面を今失うわけにはいかぬ。だが、これからは注意しろ。私としては、お前の[力]はまだ、奇面衆にも知られるわけにはいかないのだからな。そう、今後まだ[共闘]を続けるとしても、だ!」 総仮面の人物は、今の言葉にただ深々と頭を下げるだけだった……。 |