Distance 最後の戦いが終わってから、しばらく時が経った。 人々は落ち着きを取り戻し始め、それぞれ新しい生活を初めている。 クラウドとティファも例外ではない。 クラウドは以前と同じように何でも屋を、ティファもセブンズヘブンでの経験を生かして 昼はカフェ、夜はバーになる飲食店を始めた。 どちらも軌道に乗り始め、クラウドには仕事の依頼が次から次へと入ってくるようになり、 ティファの店も繁盛していた。 ただ、仕事がうまくいくということは、二人でいられる機会も減るということだ。 今回も、クラウドに遠くでの大きな仕事が入ったため、しばらく家を空けることになった。 「今回の仕事は10日間の予定だから。終わり次第すぐ帰ってくるけど」 「最近多いね、出張の仕事」 「寂しいか?」 「お店が忙しくて、そんなこと感じる暇もないわ」 「そうか・・・」 クラウドとしては、ティファに少しは寂しそうなそぶりを見せてもらいたいのだが、 ティファは明るくニコニコと笑ったままだ。 「一人でご飯食べるのって味気ないよな」 「テレビ見ながら食べてるからそんなことないわよ」 「最近強盗が多発してるんだってな。俺がいないと不安だろ?」 「私より強い強盗なんているのかしら?」 ティファに一言、「本当はクラウドがいないと寂しいの」と言われたくて色々誘導尋問を試みるが、 なかなかうまくいかない。 「でもさ、相手が40人の盗賊団だったら・・・」 無駄なあがきをするクラウド。 そんなクラウドにティファは「やれやれ」といった様子で、ちょっとだけ調子を合わせる。 「アラビアンナイトじゃないんだから。そうね、そうなったら魔法のランプで クラウドがどこにいたって呼んじゃうから」 「それはやっぱり俺がいないと不安だから!?」 やっと反応の返ってきたティファに、クラウドは意気込んで問い掛けた。 「クラウドは私がピンチのときに助けてくれるヒーローだから。 ほら、そろそろ行かなきゃ遅れるわよ」 やっぱりかわされてしまった。 「わかったよ。じゃ、行ってくる」 クラウドは名残惜しそうに家を後にした。 それから5日後の夜。 滞在先のホテルで、クラウドは一人眠れずにいた。 「今ごろティファはどうしてるのかな・・・」 自分のことを考えてくれているのだろうか。 そんな余裕もないほど忙しくしているのか。 「はぁ・・・」 天井を見ながらため息をついた。 仕事で遠くにくると、ついティファのことを考えてしまう。 仕事中にぼけっとして、ミスをしてしまったことも一度や二度ではない。 離れているのはやっぱり寂しいし、自分が遠くにいるときに何かあったら、と思うと心配だ。 それから、ティファの店の常連客の中には、ティファを口説こうとする男もいるらしい。 もちろんティファは丁重にお断りしているのだが、クラウドとしてはやはり気分のいいものではない。 「ティファは、俺が出張に行くの不安じゃないのか?今回の依頼人、結構美人なんだぞ。 ・・・まあ、ティファには負けるけど」 まるでティファに聞かせるかのように独り言を呟いた。 電話でもしようかとPHSを手に取ったが、かけることなく放り出してしまった。 ティファの方からかけてきてくれればいいのに、と思う。 なかなか眠れないので、ちょっと酒でも飲もうとクラウドは起き上がった。 備え付けの冷蔵庫からワインを出した。 寝付きを良くするためだが、逆効果になることがほとんどだ。 「・・・ティファのカクテルの方が美味い」 口になじんだ味を思い出してしまう。 それをかき消すかのように、クラウドは酒を呷った。ちっとも美味くない。 だが、たくさん飲めば、そのうち眠りに落ちるだろう。 明日の朝は二日酔いでひどいことになりそうだ。 「早く仕事を終わらせてさっさと帰るぞ・・・」 ぼんやりした頭でそう決意した。 クラウドが仕事に出かけてから9日が経った。 ティファは自分の店にいた。小さな店なので、ティファ一人で切り盛りしている。 混雑時には大変だが、ランチタイムを過ぎた今は、奥のテーブルに二人組の男と、 カウンターに小さな女の子とその母親らしき女性がいるだけである。 どちらのテーブルの注文の品はすべて出した。ティファは、皿を洗いながら、考え事をしていた。 (クラウド、仕事はうまくいってるかな?) クラウドにはああ言ったが、クラウドの事を考えない日はない。 だが、正直に寂しいとか不安なんだと言ったら、 クラウドはきっと気になって仕事が手につかないだろう。 心配事を抱えていたら、失敗してしまうかもしれない。 何でも屋とは危険な稼業だ。ちょっとしたミスで命を落としかねない。 だから、クラウドが仕事に行くときには笑顔で見送ってあげたいと思う。 「寂しいから、早く帰ってきてね」と言えば、 クラウドは出来る限り早く仕事を終わらせて帰ってきてくれるだろう。 しかし、あせって仕事を早く終わらせようとすることは、リスクも増大するし クラウドには大きな負担になるだろう。 そう考えるとそんなお願いは出来なかった。 ティファはちらっと時計を見た。昼の営業終了の時間だ。 だが、店内の客に声をかけることはしない。ゆっくり食事をしてもらうための心遣いだ。 そっと、店の外に出て飾ってあったメニューを畳んだ。 ふっと、ため息をついた。今店にいる客が帰ったら、一人になる。 クラウドを心配させないように、ティファは電話することを我慢していた。 しかし、一人になると、つい電話に手が伸びてしまう。 昼と夜の間の準備時間と、店を占めた後の時間が一番つらい。 あまり、一人にはなりたくないが、準備があるのだから仕方がない。 「明日には、帰ってくるのよね」 自分を元気付けるために言ってみたが、 何でも屋の仕事は予定通りにいくことのほうが珍しいのだとわかっている。 ティファは元気なくドアにかけてある札を『close』にして掛けると、 ドアを開けて店の中に戻った。 音を立てないように静かにドアを閉めて、振り返ったティファの動きが止まった。 銃口が、自分のほうを向いていた。 奥のテーブルに座っていた二人組の、背の高いほうの男だ。 クラウドが言っていた強盗に違いない。 相手は銃を持っているが、勝てないことはないだろう。 そう考えて構えようとしたティファの目にあるものが飛び込んできた。 もう片方の小太りの男が、カウンターに座っていた女の子に銃を突きつけている。 もしあの女の子が撃たれたら、と思うと、男に飛びかかることが出来なかった。 「金はどこだ」 落ち着いた低い声で、背の高い男がティファに言った。 「・・・お金なら出すからお客さんには手を出さないで!」 ティファが、男をにらみつける。 「安心しろ。こっちの言うことを聞けば客もお前も傷つけたりはしない。 だが、すぐ警察に通報されると困るからな、痛いかもしれないがこれは我慢してくれ」 そう言うと、男はティファを床に座らせ、用意してきたらしいロープで後ろ手に縛った。 小太りが女の子から銃を離したら、殴りかかろうと思っていたティファは唇をかんだ。 だが、今は男の言う事を聞くしかない。形勢は非常に不利だ。 小太りが馬鹿にしたようにティファに向かって喋る。 「客を中に残したまま店を閉めるなんて、無用心もいいところだぜ。 強盗にとっちゃ、こんなに仕事のしやすい店はねえよ」 絶対に、捕まえてやる!怒ったティファはそう思った。 「余計な口を利くな」 背の高い男が、小太りに向かって厳しい口調で言った。 続けてティファに対して口を開いた。 「夜になっても店が開かなかったら、常連客が不審に思って気づくだろう。それまでの辛抱だ」 小太りに対するより、やわらかい口調だった。 背の高いほうの男は、根っからの悪者ではないようだ。 「で、金はどこだ」 「・・・カウンターの、右から二番目の引き出しの中よ」 小太りがカウンターの引き出しを乱暴にあけた。 「小さい割に結構繁盛してんな、この店。俺達が取ってった分ぐらいすぐ稼げるだろ」 そう言って引き出しの中をかき回しながら、勝手にカウンターの食べ物をつまみ食いしている。 「店を荒らすんじゃない」 「へいへい、お前はほんとに強盗らしくねえな。金が必要なくせによ」 文句をいいながら、店のお金を袋に放り込んだ。 「済んだか、行くぞ」 背の高い男はティファのいる方へ歩いてきた。 小太りもカウンターから出てきた。このまま逃げるのだろう。 お客さんに怪我はないみたいだし、反撃はせず大人しく助けを待ったほうがいいとティファは思った。 ただ、自分がクラウドの事を考えてボーっとしていたせいで男達の怪しい気配に気づけなかったことや 小太りの態度のことを考えると悔しかった。 (でも、もうしょうがないわ。このまま早く出て行って) ティファはそう念じたが、それは通じなかった。 「あ、すげえぞ、これ!」 女の子の母親がはめている指輪に気づいた小太りが、それを奪ったのである。 「10万ギルはくだらねえ。いただいてくぜ」 「お客さんのものは持っていかないでよ!」 ティファは怒鳴った。 「こんな金になるもんを置いてくバカはいねえよ」 小太りが鼻で笑った。続けて、背の高い男に向かって言う。 「お前もそうだろ?病気のガキがいるんだもんなあ」 いくらそんなに悪いやつではなさそうだとはいえ、強盗をするくらい金に困っているのだ。 指輪を置いていくはずがない。 やはり、背の高い男は黙ってドアのほうへ歩いていった。 その後ろ姿に向かって女性が叫んだ。 「お願いします、大事な結婚指輪なんです!どうかそれだけは・・・」 必死な叫びに、男に迷いが生じたようだった。 そのスキをティファは見逃さなかった。 自由の利く右足で男のすねを力いっぱい蹴り飛ばした。 「うっ!」 痛みに反射して足を抱えようとして、背の高い男はバランスを失いティファの方へ倒れこんだ。 やった、とティファは思った。だが、小太りが即座に反応した。 「こいつ!」 小太りがティファに向けて銃を構えた。引き金に指を掛ける。 撃たれる!そう思ってティファは目を瞑った。 ちょうどその時だった。 「ただいま」 予定より早く帰ってきたクラウドが店に入ってきた。 『close』の札が出ていたので、ティファ一人しかいないと思っていたのだ。 だが、目の前に広がる意外な光景に足が止まった。 ティファに銃を向けている小太りの男。 ティファに覆い被さっている背の高い男。 そして、後ろ手に縛られたティファ。 かたく閉じられた目には、涙が滲んでるようだ。 クラウドはすばやく思考をめぐらした。 (ティファに一体何が・・・?あ、まさかこいつら、俺が心配してたやつらなんじゃないのか? ティファを口説いてるっていう。そうか、ティファが断ったから脅してむりやり・・・! そのロープは・・・そうか、お前の趣味だな!!) 全く当たっていない。 だが、自分の勝手な想像にクラウドはリミットブレイクした。 「ティファは俺の女だ・・・二度と近づくな・・・」 怒りに燃えたクラウドはバスターソードに手を掛けた。 小太りが、ティファからクラウドに銃を構えなおしたが、目に入らなかった。 「お前の趣味にティファをつき合わせんじゃねー!!!!!」 的外れなことを叫びながら、超究武神覇斬を繰り出した。 警察の事情聴取を終えた二人が、家に戻ったのは夜だった。 「今日は助けてくれてありがとう」 ティファがクラウドに言った。 「最近物騒だしな、今度から俺が家を空けるときにはバレットにでも用心棒をやらせるか」 「そんな、大丈夫よ。これからはちゃんと気をつけるから。心配しないで、ね」 ティファは笑ったが、クラウドは硬い表情のままだ。 「嫌だ、心配する」 「クラウド?」 ティファはクラウドの顔を覗き込んだ。クラウドが話し出した。 「今日はティファを助けられたからよかったけど、それはたまたまだ。本当なら明日帰るはずだった。 俺は、ランプの精じゃないから、ティファが呼んだらいつでも駆けつけられるわけじゃない。 だから、遠くにいると不安なんだ。ティファが危険な目にあったとき、俺の名前を呼んでも 届かないから。もし、遠くにいるときにティファに何かあったら、俺はきっと一生後悔する。 近くにいたら、絶対助けたのに、って」 クラウドは仕事で遠くへ行く度に抱えていた不安を、一気に吐き出した。 「ティファは自分がセフィロスに斬られた時のこと、覚えてるか?」 ティファは首を振った。 「私、意識を失ってたもの」 クラウドはあの時の光景を思い浮かべていた。 「ティファは、うわごとを言ってた。 『ピンチのときは助けに来てくれるって約束したのに・・・』って。 その言葉が、今も頭から離れないんだ。だからもう二度と、ティファを危険な目にあわせたくない」 そしてクラウドはティファの目を見た。 「確かにティファはいろんな意味で強いから、不安だとか寂しいとかあまり思わないのかもしれない。 でも、時々思うんだ。強がってるときもあるんじゃないかって。違う?」 まっすぐに見つめられて問われると、ティファはもう強がることはできない。 ティファは今日感じたことを、そのままクラウドに話した。 「クラウドがいないとき、本当はいつも寂しかったの。でも心配をかけたくないから言わなかった。 電話もしたかったけど、掛けなかった。早く帰ってきて、って心の中で思うだけだった。 今日、強盗に銃を構えられたとき、もうだめだと覚悟してたの。 そのとき、クラウドには二度と会えないと思ったら涙が出てきた。 本当のこと、言っておけばよかったな、って。 いつも強がったり、恥ずかしがったりして、なかなか素直になれなかったから・・・」 「ティファが、本当の気持ちを言ってくれないことが一番心配なんだぞ。わかったか?」 「うん」 ティファが素直に頷いてくれたので、クラウドは嬉しくなった。 「よし、じゃあ明日なんだけど、事後処理のためにまた向こうに行かなきゃならないんだよな〜。 でも、ティファが一緒にいてほしいっていうなら来週にしてもいいんだけど〜」 わざとらしくティファに向かって言う。試しているのだ。 「明日は一緒にいて」 ティファはちゃんと素直に答えた。クラウドは調子に乗ってさらに聞く。 「それは、お店の人手が足りないから手伝ってほしいってこと? それとも、俺が行っちゃったら寂しいから?」 「・・・クラウドが行っちゃったら寂しいから」 顔を赤くしながらティファが答えた。クラウドは満足した。 「明日は、お店をお休みにするから、一緒にいてね」 自分が、こんなことを言えるとはティファも思ってなかった。 クラウドが笑っていった。 「明日は、ずっと一緒にいような」 自分が素直に気持ちを告げれば、相手も応えてくれる。 ティファは、嬉しさと照れが入り混じったはにかんだ笑顔をクラウドに向けた。 ------------------------------------------------------------------------------------- 1111HITを踏んだ春風さんリクエストの 「クラウドが仕事で遠くに行っちゃって寂しがるティファと早く帰りたいと思ってるクラウドの心情」 このお題を見たとき「クラウドの留守にティファ大ピンチ!間一髪のところでクラウドが助けに来る」 というのにしようと決めました。でもティファがピンチに陥るなんてそうないよね。 ティファより強い強盗なんて存在しないだろうし・・・。 それから、クラウドにはもっとかっこよく登場してもらうつもりでしたが、 ハリウッド映画のようなセリフを喋るクラウドなんて恥ずかしくて書けない・・・。 そういうわけでいつものちょっとおまぬけ勘違いクラウド(泣) しかも前半は飲んだくれ。でもよいのです。ティファのピンチにちゃんと助けに来てくれれば。 戻る