トクベツな時間




一日中青空が続きそうな、天気のよい朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、クラウドは目を覚ました。
だが、体を起こそうとはしない。
まだ眠たかったこともあるし、二度寝好きのクラウドはこうしてベッドの中でまどろむのを
朝の楽しみにしているせいもある。
クラウドはとろとろと夢うつつの状態で、昨日のことを思い出していた。


昨日、クラウドとティファは結婚した。
新婚旅行は先送りになってしまったけれど、籍を入れて、式を挙げた。
純白のウェディングドレスは、ティファによく似合っていた。
ベールをあげたときのティファは、今までのどんな瞬間よりも綺麗だった。
ティファってこんなに美人だったのか、と改めて思った。
そのティファが、自分の妻になったのだ。


ティファは先に起きて、朝ごはんの支度をしているみたいだ。
いつもティファの方が起きるのが早くて、ごはんを用意しながら寝坊したクラウドを待っている。
そう、いつもと変わりない、朝の風景。
違うのは、クラウドがいつまで経ってもベッドを出る気になれないこと。
昨日寝たのが遅かったせいではない。それならばもう一眠りすれば済むことだ。
そんな単純なことではない。下手すれば今日一日中ベッドの中で過ごしてしまいそうだ。
クラウドがなかなか起きようとしない、その原因は―――――――
ドアの向こうにいるのが、"恋人"ではなく、"妻"だという事実。
ただそれだけのことなのに、なぜかティファを意識してしまうのだ。


結婚しようと決めたものの、その意味を考えたことはなかった。
当然の流れと言えばそうなのかもしれない。
たとえば、ティファと二人で公園を散歩していると、声をかけられることがあった。
「素敵なご夫婦ね。新婚さんかしら?」と。
初めの頃は、「いいえ、違うんです」と否定していたけれど、
それがいつからか「いえ、まだなんです」に変わって、
今は「ありがとうございます」と言える状況になった。
それくらいの、小さな変化だと思っていた。
一緒に暮らし始めてだいぶ経っていたし、互いの気持ちが繋がっている自信もあった。
結婚は、一種のイベントと言うか、儀式のようなつもりだった。


「たかが儀式」のはずだったのだが、いざ結婚してみるとこのざまだ。
ティファの顔が見たいけど、目を合わせるのは恥ずかしい。
声が聞きたいけど、何て話し掛けたらよいかわからない。
自分がティファをの生涯の伴侶に選んだこと。
ティファも自分を最愛の人に選んでくれたこと。
ずっと前から決めていたことだったのに、"結婚"という誰の目から見ても明らかな形にしてしまうと、
なんて照れくさいものなんだろう。
ティファのことを考えて、こんなにドキドキするのは久しぶりのことだった。


そうしてクラウドは長いことベッドでまどろんでいたが、お腹もすいてきたので起きることにした。
なにより、新婚一日目からこれでは先が思いやられる。
そして、クラウドはまた昨日のティファを思い浮かべた。
恥ずかしいけどやっぱりティファの顔が見たい。
のそのそとベッドから降りると、まるで他人の家を訪れるかのような緊張した面持ちで、
ティファのいるダイニングへと向かった。


ティファは食事の準備をして、クラウドを待っていた。
「おはよう、ティファ」
クラウドは椅子に掛けながら言ったが、視線は下に落ちていた。
「おはよう、クラウド」
ティファも、どことなく緊張した声色である。
二人は、黙って朝ごはんを食べ始めた。
トースト、目玉焼き、ベーコン、コーヒー、サラダ、フルーツが並ぶ、いつもの食卓だ。
違うのは、食卓を包むどことなく緊張した雰囲気。
笑い合いたいのに、顔をあげられない。
互いに、なにか話題を探そうとして焦っている。
夫婦ってこんなにぎこちないものなのか。
むしろ、結婚する前の方が和気藹々としていたような気がする。


シドとか、バレットもこんな感じだったのだろうか。
いつかは慣れるものなんだろうか。
クラウドはトーストにバターを塗りながら考えた。
続いて、ジャムを塗ろうと思い、イチゴジャムの瓶に手を伸ばした。
ちょうど同じタイミングで、ティファも手を出していた。
手がぶつかる直前のところで、二人とも慌てて動きを止めた。
ティファに触れそうになった。それだけで自分の鼓動が早くなって行くのを感じていた。
「ティ、ティファ、先・・・使えよ」
自分でも情けなくなるほど上ずった声が出た。
「私いいからクラウド使って」
ティファも妙に早口だった。
クラウドは心の中で自分を罵った。
しっかりしろ!こんなことで動揺するなんて、ガキじゃねえんだぞ!
まるで、二人とも昔に戻ったみたいだ。

そう、まるで、二人とも昔に戻ったみたいだ。

初めの頃に。


お互いの気持ちを確かめて、一緒に暮らし始めたとき、こんな感じだった。
今までも一緒に旅をしていたとは言え、常に仲間達がいた。
それが二人きりになって、嬉しいのと恥ずかしいので、最初はこんな風にぎこちなかった。
考えてみれば、二人で向き合うのは初めてだったわけだし。
思いが通じ合ったばかりだったから、相手が"特別"だって意識がすごく強かったんだ。
でも、しばらく過ごすうちに、二人でいることが自然なことになっていった。
初めは相手のことを意識しすぎていたけど、それもなくなった。
そして、それが当たり前になりすぎていた。


でも結婚したことで、久しぶりに改めて感じたんだ。
ティファがいつも傍にいてくれてること。
ティファがすごくかわいいこと。
ティファが自分にとって一番大切なこと。
そして、そのティファが自分を選んでくれたこと。
そうだ、なんとなくわかった。
結婚は、自分の一部みたいになってしまった相手に、もう一度恋をする機会。
当たり前になってしまったことを、もう一度意識できるきっかけなんじゃないか。


そう考えると、クラウドは今日はじめてティファの顔をまともに見た。
もっとも、ティファはあさっての方向を見ていたけれど。
また少し鼓動が早くなっていくのを感じた。
しかし理由がわかったら、そんなに心地悪いものではなくなった。
むしろ、久しぶりの感覚をちょっと楽しむ余裕すら出てきた。
ティファは、と言えば。
トーストを手にしたままうわの空だ。
おそらく、さっきまでのクラウドのように戸惑っているのだろう。
口元にイチゴジャムがついてるのだが、それすら気づいていない。
ティファにはこのドキドキの原因がわかっていないみたいだ。
そう思ったクラウドは少し優越感を抱いた。
まだ動揺しているティファを、ちょっとからかってみたくなった。


「なあ、ティファ」
急に呼びかけられたティファはかなり驚いたみたいだった。
視線を外したまま、ティファはぎこちなく応えた。
「な・・・なに、クラウド・・・」
それが言い終わらないうちに、クラウドは椅子から腰を浮かしてティファの方に乗り出すと、
ティファの口元についていたイチゴジャムをペロッといただいた。
「!!!!!!!!!!!!!」
驚いたティファの手からトーストが落ち、ご丁寧にもそれは新調したばかりのテーブルクロスに、
ジャムの面を下にして着地した。
「食べこぼしがついてたぞ。全く、子供じゃないんだから・・・」
ティファは耳まで真っ赤にしながら何か言おうとしたが、言葉にならなかった。
激しく動揺しているティファを見て、クラウドはちょっとやりすぎたかな、と反省した。
しかし、クラウドはすぐにこう思い直した。
もうしばらくしたら、きっとまた二人でいることが自然になってくる。
お互いにこんなにドキドキすることもなくなるだろう。
だから、今日はもう少し俺のことを意識しててもらおうか。




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ぎゃっふー!!!なにやってんでしょうクラウドったら!!
個人的にキスとかマジ告白より恥ずかしいです。
だってキスおよび告白はいろんなシチュエーションが有り得ますが、
この”ほっぺについたやつ(基本はクリーム)をぺロッ”といただくのは
甘々以外の何物でも無いからです。
みささんの「新婚さんのクラティ」という2000HITのキリリクでしたが、はりきりすぎました。

タイトルの「トクベツな時間」には、結婚後のこれからティファと過ごす時間・
今まで過ごした時間・思いを伝え合った決戦前夜・暮らし始めたときお互いを意識してたとき・
そして今日久しぶりにドキドキした時間・・・などなど色んな「特別な時間」すべてを指しています。
"トクベツ"というのも、ティファと一緒に過ごすこと自体が「特別」っていうのと、
今日久しぶりにお互いを「特別」だって意識した、っていうのを掛けてたりします。


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