Depend on you 「おはよう、クラウド」 食卓でいつものようにティファが言ったが、その声はかすれていた。 「どうした、風邪でもひいたか?」 クラウドはコーヒーを飲みながら問い掛けた。 「そうみたい。なんか咳が出るし、のどが少し痛いの」 ティファは鼻にかかった声でそう答えた。 しかし今のところは熱もなさそうだし、だるそうでもないようだ。 大したことはなさそうだが、放っておいてこじらせては大変だ。 「昼に病院行っとけよ。風邪は万病の元だから、甘く見ない方がいい」 「うん、そうするわ」 鼻にかかった声は、どことなく頼りなさげで、甘えているみたいだった。 「鼻声のティファ、かわいい……」 「え、なんか言った?」 「い、いや、なんでもないさ!」 クラウドは赤い顔で否定した。 「お、俺、仕事に行ってくる!」 顔が赤いことをティファに指摘される前に、クラウドは慌てて家を飛び出した。 夕方、クラウドは今日一日の仕事を終えて帰宅した。 ところが、いつもなら台所で夕食を作っているティファの姿がなかった。 玄関に靴があったから家の中にはいるはずである。 呼びかけながら家の中を見て廻ると、ティファは頭まで布団をかぶりベッドで寝ていた。 「昼寝したまま寝過ごしちゃったのか。ったくしょうがないな」 ティファの寝ているベットに歩み寄ると、ティファの体を揺すった。 「ティファ、もう六時半だぞ。そろそろ・・・」 ご飯の支度を、と言い掛けたクラウドの唇が固まった。 朝は何とも無かったティファが、ベッドの中で荒い息をしているのがわかったからだ。 「ティファ!?」 驚いたクラウドは、ティファの顔が見えるように布団をめくった。 ティファは熱っぽい顔で、苦しそうにしていたが、うっすらと目を開けた。 「……クラウド?帰ってきたの?…ごめんね、まだご飯作ってないの…」 「そんなことはいい!それより、一体どうしたんだ?」 話すのも辛そうなティファに質問するのは気がひけたが、仕方が無い。 朝の時点ではまだ元気そうだったのに、どうしたのだろう。 「…朝はね、ちょっと、風邪かなってくらいだったんだけど…、昼から、急に熱が出て……。 病院に行ったら、インフルエンザじゃないかって、言われたの……」 クラウドは、今年のインフルエンザは高熱が出ると言う話を思い出した。 「熱は測ったのか?」 「……たいしたことないわ…」 嘘だ。絶対嘘だ。心配されたくないからそう言っているのだ。 「……ごめんね、今、ご飯作るから……」 ティファは力なく言うと、ベッドから体を起こそうとした。 クラウドは慌てて制止した。 「駄目だ。俺が何か作ってくるから寝て待ってろ」 「でも……」 「でもじゃない!言うこと聞かないと怒るぞ」 「………ありがとう……」 弱々しくティファが応えるのを聞くと、クラウドは寝室を出た。 シドの家に電話をして、シエラさんにおかゆの作り方を教わると、クラウドは早速作り始めた。 だが、普段料理を全くしないのでうまく出来る自信がない。 なべを火にかけながら、クラウドは自分を責めていた。 鼻声のティファがかわいい、なんてボーっとしてる場合じゃなかった。 大したことない、なんて勝手に思わずに、ちゃんと心配してあげればよかった。 もしかしたらティファは昼からずっと一人で苦しんでいたのだろうか。 自分が病気になったとき、ティファはいつも傍で看病してくれたのに。 そんなことを考えていたせいで、クラウドはおかゆを煮すぎてしまった。 「しまった……」 味は可もなく不可もなく、といったところだが、見た目がはっきり言って不味そうだ。 「あーあ……」 付きっ切りで看病するどころか、おかゆもろくに作れない。 失敗作のなべを片手に、クラウドはますます自己嫌悪に陥った。 なんとか二回目はましに作ることができ、クラウドはお盆におかゆをのせて再び寝室へ行った。 味も見た目もさっきのよりはまし、といったレベルで、決して美味しくはないのが悲しい。 「ティファ、おかゆ出来たぞ」 クラウドの呼びかけに、ティファはゆっくりと体を起こした。 だが、体を起こすとめまいがするのだろうか、表情が辛そうだ。 しまった、寝かせておいてあげればよかった、とクラウドは後悔した。 「ごめん、起きてるのつらいか?」 「ううん……大丈夫」 さえない表情でティファは答えた。 クラウドはお盆をサイドテーブルに置くと、お椀を手に取りおかゆをスプーンですくった。 その動作を見てティファが言った。 「クラウド…私、一人で食べるから…」 「いいよ、俺が食べさせてやるから」 「ううん、自分で食べる……」 そう言うとティファはクラウドの手からお椀とスプーンを取り上げた。クラウドはがっかりした。 ティファはおかゆを一口食べて、おいしい、と呟くように言った。 本当は美味しくなんてないだろうけど、気を使ってくれるティファは優しい。 食べる姿を見つめながらそう思っていたクラウドに、ティファが話し掛けた。 「クラウド、傍にいたらうつっちゃうよ…。明日から出張でしょ……」 自分の仕事のことをクラウドはすっかり忘れていた。 「そうだ、忘れてた。後で電話でキャンセルしないとな」 「仕事…休むの……?」 「あたりまえだろ。ティファがこんな状態なんだし」 そう言ったクラウドにはティファの次の一言が予想できた。 「いいよ…仕事行って…。私なら大丈夫……」 言うと思った。 何でも屋の仕事は信用第一。一度ドタキャンすれば評判が落ちるし、仕事を干されるかもしれない。 失った信用を取り戻すのは大変なことだとわかっているから、ティファは気を使っているのだ。 「今回の出張は長いんだぞ。その間誰がティファの看病するんだよ?仕事のことは気にするな」 「でも……」 おかゆを食べるティファの手が止まっている。やっぱりあまり美味しくなかったようだ。 「ちょっと、頭痛い……。もう、寝るね…」 ティファはお椀とスプーンをクラウドに返すと、横になり布団を深くかぶった。 また熱が上がってきたのか、息が苦しそうだ。 「ごめん、明日はもうちょっと美味しく作れるように研究するよ」 「そんな…美味しかったよ…。それより、早く寝なきゃ…明日、早いんでしょ……」 まだ仕事の心配をしている。クラウドは呆れて言った。 「もう、仕事のことはいいって言ってるだろ」 いい加減、ティファも了解してくれると思った。 だが、予想外の返事にクラウドは自分の耳を疑った。 「…私…クラウドがいない方が…いいの…」 熱に浮かされながらティファが答えた。 いない方が、いい。 それは、今までで一番ショックな一言だったかもしれない。 茫然としてクラウドは呟いた。 「……確かに俺、いても何の役にも立たないし……。ティファも気を使うしな……」 熱でボーっとしていたティファがその言葉ではっとした。 「違う……ごめん……そういう意味じゃなくて……」 「いいよ。悪かったよ…」 クラウドはティファ何かを言うのも聞かず、寝室を出て行った。 ティファにはいない方がいいと言われたものの、クラウドはやはり仕事をキャンセルした。 先方は激怒していたが、クラウドにはどうでもよいことだった。 それより、ティファの熱は少しは下がっただろうか。 クラウドは音を立てないように、静かに寝室のドアを開けた。 中は、静かだった。さっきほど息が荒くない。眠っているのだろうか。 クラウドはそっと部屋の中に入ると、ベッドの脇に立った。 その気配に気づいたらしく、ティファが布団からそっと目だけ出した。 「クラウド…いるの…?…さっきは、ごめんね…あんな言い方して……」 「ごめん、起こしちゃったか」 ティファは布団の中で小さく首を振った。 「……クラウド……傍にいてくれて…嬉しい…」 「気を使うなよ」 「ううん…本当にそう思うの……。さっきのは、つい……」 「つい、何なんだよ?」 ティファは布団に包まったまま、上目遣いでクラウドを見た。 「……あのね、実を言うと……今日病院で診てもらったときに言われたの……。 多分、インフルエンザだと思いますが、もしかしたら……」 「もしかしたら、何だ!?」 まさか、すごく重たい病気にかかっているとか!? クラウドは嫌な予感がした。 「……もしかしたら……耳下腺炎かも知れません、って…」 聞いたこともない病名だ。とてつもない難病なんだろうか? 「耳下腺炎?それって大変な病気なのか!?」 「…おたふく風邪のことだけど…」 最悪の事態を想定していたクラウドは拍子抜けした。 「は?おたふくって……あのおたふく風邪?ティファ、子供のときにやんなかったのか。 でも、どうして俺がいないほうがいいんだ?俺はかかったことあるからうつらないのに……」 クラウドに訊ねられて、ティファは恥ずかしそうに答えた。 「だって、嫌だったんだもん……クラウドに、ほっぺた腫れた顔見られるの……」 クラウドは唖然とした。 「なんだ、そんなことか」 でも、気持ちはわからなくもない。 子供の頃おたふく風邪にかかった時、こんな顔なのにティファがお見舞いに来てくれたらどうしよう、 といらぬ心配をした記憶がある。もちろん、杞憂に終わったが。 「そんなこと、じゃないよ……。恥ずかしいもん……。もしおたふくになったら、 クラウド、きっと私の顔見て笑うよ……」 布団に顔をうずめたままティファが言った。 そんな彼女を見て、クラウドは笑いながら冗談を言った。 「平気だ。俺はティファのふくれっつらなんていつも見慣れてるからな」 「……ひっどーい」 ティファが少し笑ってくれたのが嬉しかった。 「少し元気が出たみたいだな。多分、ただのインフルエンザだよ。2、3日寝てれば治るさ。 まあ、何の病気にしろ、俺がちゃんと看病してやるから」 「ありがとう……頼りにしてるから……」 その一言にクラウドは照れてしまった。 「まあ、その、あんまり頼りにならないけどな。今日初めておかゆ作ったりしてみて、 いかに自分がティファに頼りっきりだったか痛感したよ」 「ううん、いてくれるとすごく心強いよ……。ただ、料理はまだ修業が必要だけどね……」 大分楽になった様子でティファは笑ってみせた。 それを見てクラウドもほっとして笑みをこぼした。そしてちょっと思った。 もしかして、自分はティファの元気の源になっているのかな、と。 もちろん、恥ずかしくて本人には訊けないけど、なんだかそんな気がしてクラウドは嬉しかった。 ------------------------------------------------------------------------------------- 2222HITを踏んでくださったみささんリクエストの「風邪ひきさんを看病する」話です。 が、肝心の「はい、あ〜んv」がありません…。クラウドの作ったおかゆの不味さを表現するのに、 ティファの手が止まってしまうという表現を使おうと思ったので、「あ〜ん」が使えなかったのです。 ところで、私はおたふく風邪にかかったことないのですが、ものすごく痛いらしいですね。 数年前、インフルエンザにかかったときに、今回のティファみたいに「インフルエンザだと思うが、 もしかするとおたふくかもしれない」と言われ、潜伏期間の2週間を不安に過ごしたことがあります。 大きくなってからかかると重いって言いますしね。結局、ただのインフルエンザでしたけど。 戻る