絆



病室のドアをノックする音。
中からの返事を受けてゆっくりとドアが開いた。
「…よお、調子はどうだ」
さすがに診療所ということを弁えたのか、珍しく煙草を加えずにシドが入ってきた。
その後ろに続くのはバレット、そしてユフィ。
ミディールで療養中のクラウドと、彼を看病するティファを見舞いに来たのだった。
神羅の計画を阻止し続ける中、合間を縫っては仲間達は何度も顔を出していた。
ハイウインドにも人数を残さなければならない以上、一度に連れて行ける人数は限られる。
リーダーのシドは絶対として残りは二名。
今日は前回いけなかったバレットが優先的に決まり、残り一名の枠をユフィとナナキが争った。
初めはナナキも譲らなかったが余りにもユフィが行きたがったので、しぶしぶ彼女に譲ったのだ。
ユフィは見舞いに行くことが決まると、毎回必ず行きたいと主張した。
ティファがパーティを離れた今、女の子もいなければ同年代の子もいない。
こんな状態なのだからユフィがティファに会いたくなるのは当然だと誰もが思っていたので、彼女の希望はいつも叶えられた。
けれど、ユフィが考えていたのはそんなことではなかった。


「クラウド、ぜんぜんよくならないの……。バカだな、私……。クラウドに何をしてあげられると思ってたんだろ……」
うつむき加減でティファが呟いた。
その後ろで車椅子に乗り、焦点の合わない瞳で何事かを呻くクラウド。
クラウドの状態が何一つ改善していないのは明らかだった。
それ以上に明白なのは、ティファのやつれ具合だった。
もともと細身だったのがさらに痩せたようであり、顔色も思わしくなかった。
「ま、こういうのは時間が掛かるもんさ。で、何かの拍子にコロッとよくなっちまったりするからよお、
 あんまり根詰めないで気楽にやってくのが一番ってモンだ」
ティファの肩を軽くたたきながらシドが励ました。
「ちゃんとメシくってんのか?ヤツが元気になったときに食べさせられるように
 ここの名物料理の作り方とか教えてもらったらどうだ。役に立つぜきっと」
バレットも横から元気付けようと口を挟む。
男二人あれこれとティファに話しかけていたが、ユフィだけはなにもせず
ただ二人の後ろからティファの事を見ているだけであった。
「こないだ食ったここの名物の煮込み料理うまかったぜ。なあユフィ」
気になったのか後ろを振り返ってバレットがユフィに話題を振る。
「え、…ああ、あれかあ。おいしかったよね」
突然話しかけられふと我に返りあわてて返事をした。
「どうしたんだお前、あんなに来たがってたのによう」
珍しく元気のないユフィをシドは変に思ったらしい。
ユフィは下を向きながら後ずさりしながら言った。
「なんか乗り物酔いが治んないみたいでさ、クラクラするんだよね。外で頭冷やして来る」
苦笑いを浮かべて、そのまま静かに部屋を出てしまった。
「どうしたんでえ、あいつ」
あれほど行きたいと言ったにもかかわらず、ろくに話もしないうちに出て行ってしまったのだ。
シドとバレットが戸惑うのも当然だろう。
気になることはもう一つある。
ここ何度か見舞いに行った後のユフィの様子がおかしかった。
初めのうちはユフィばかり喋っていたのが、最近は口数も減り、ハイウインドに戻った後は
個室に閉じこもってしまうことも多くなった。
この状態にはさすがに気配りという言葉には無縁のバレットさえ心配していた。
料理担当だったティファがいない今、その役を自ら買って出たのはユフィだった。
もともと料理をする方でなかったため苦労していたようだが、回数をこなしていくうちに
だんだんと腕前も上がってきた。
戦闘にも嫌がらずに参加したし、怪我をした仲間の手当てもするなど、
ティファのいない穴をみごとにカバーしていた。
出逢ったばかりの頃はちょっとわがままな少女だった彼女の意外な成長に、
シドもバレットもこっそり心の中で舌を巻いていたのだ。
だが最近ふさぎこんでいるところを見ると、それは強がりだったのではと心配になった。
「俺が見に行ってくるぜ」
さすがに気になったのか、バレットが後を追った。


ユフィは診療所を出たところの木陰に佇んでいた。
近づくと何も言わずにバレットは彼女の隣に腰をおろした。
心配なのは当然だが、無理に聞き出すようなことはしたくないし、
彼女も自分が心配して後を追ってきたことぐらい解るだろう。
ユフィのほうもそのことは理解しているらしく、何か言おうとするのだがうまく言葉が見つからないようで、
口にしようとしてはためらい、しばらく沈黙が続いていた。
黙っているのが何よりも苦手なバレットであったが、今はおとなしくユフィの言葉を待っていた。
そういった点で、ユフィだけでなくバレットもこの旅を通じて成長したといえるだろう。
風に揺らされて頭上の枝が音を立てて沈黙を乱す。
それに引き出されたかのように、ようやくユフィが口を開いた。
「クラウド、ぜんぜんよくならないね…」
「ああ…」
「ティファ、やせちゃったね…」
「ああ…」
バレットは自分の感想は挟まず、ただユフィの言葉に相槌を打った。
「…ねえ、これでいいと思ってる?」
「…何のことだ」
「何のことってさぁ…」
ユフィは、先程までいた診療所の方を見た。
「あいつら2人のことか?」
「うん…」
答えを聞いてバレットはなんだとでも言うように大きく息を吐いた。
「まあ、似合いの2人ってヤツだからしょうがねえんじゃないか?
 まだ俺はあのツンツン野郎をティファにふさわしい相手と認めたわけじゃないけどな、
 でもティファにとって必要なんじゃしょうがねえよ」
「ほんとにそうなの?」
診療所の方を見ていたユフィは、バレットの方を振り向き問い詰めた。
「いや、男女の問題なんて本当のところは当人にもわかんねえもんだ」
バレットは少し笑って答えた。
パーティ最年長で既婚者の彼は様々な経験をしてきたのだろう。
「ただあいつらがお互いを必要としてんだから、側にいるのがいいんだろう」
「んー…」
ユフィは、納得がいかないというような呻きをもらした。
「あたしも、初めはそう思ったよ」
ユフィは少し悲しげな表情を浮かべていた。
「クラウドがここで見つかった時、ティファが側にいたいって言ったのが嬉しかったんだ。
 ティファっていつも周りにに気を使って、自分の気持ちを隠したりするから…。
 正直な気持ちを打ち明けてお願いしてくれて、すごく嬉しかった。
 それから、あんなボロボロのクラウドのことを看病するって決心するなんて、
 やっぱりすごいなって…。これが、2人が幸せになるための初めの一歩になればいいなって…」
少しずつ、ユフィの目が潤み始めた。
「だから賛成したんだ。だけど、現実ってそんなに甘くないんだね。
 クラウドはぜんぜんよくならないし、ティファはやつれてくし…。
 なんか、軽々しく賛成しちゃって良かったのかなってずっと考えてたんだ。
 ティファもクラウドも、たぶんお互いにとってものすごく大事な相手だと思うよ。
 でも、クラウドが治るまではいっしょにいないほうがいいんじゃないのかな?
 このまま一緒にいたら、きっとティファは…………」


話を聞いてバレットは、自分勝手な少女だったユフィが他人を心配するあまりに
ふさぎこんでしまっていたことを知って、内心その成長に驚いていた。
バレットはいつになくやさしいまなざしでユフィを見た。
「なあ、バレットはなんでシエラさんと一緒に暮らしてるかわかるか?」
「は?」
唐突に話題を持ち出されてユフィは面食らった。
「えー、シドはあいつはどんくせえけど、料理も出来るこたあ出来るし、
 そこそこ片付けとか洗濯とかやるし、便利だから一緒にいるんだって言ってたけど?」
バレットは思わず笑ってしまった。あいつの言いそうなことだ。
「ホントにそう思って言ってると思うか?」
ユフィは首を振って答えた。
「…ううん。最初会ったときはびっくりしてなんてヒドイやつだ!って思ってたけど
 シドはそういう人じゃないよ。ちょっと不器用なんだけど悪いやつじゃない」
「ああ。あいつは照れ屋だからな。大事なことほどうまく言えねえし、
 大事な人ほどああいう態度をとっちまうんだよな。シエラさんとか、ハイウインドのクルーとかな。
 まあ、お前から見てもあいつにとってシエラさんがどういう人かはわかるわけだ」
「うん。シドってさあ、大事な人ほどぶっきらぼうになっちゃう人だからさ、
 それをわかって受け入れてくれるシエラさんは一番大切な人なんだと思う」
さすがに恋愛に敏感な年頃なだけある。
ティファがこれくらい敏感だったらこんな苦労をせず、幸せになっていたかもしれないとバレットは思った。
「俺もお前の言うとおりだと思うぜ。まあこんなこと面と向かってシドに言ったら照れ隠しに怒るだろうがな」
そう言って豪快に笑うと、バレットはすこし表情を引き締めた。
「でもよう、シエラさんはある意味シドの夢を潰してしまった人だよな。
 失敗した夢に関わった人と一緒に住んで、夢の残骸であるあのロケットのある村に暮らすってのは、
 シドにとってはつらい気持ちになったことは一度や二度じゃないだろうな」 
「………」
「つらい過去を思い出してしまうとしても、それ以上に自分の支えになるから一緒にいたんじゃないのか」
「…でもぉ…」
バレットが言わんとしていることはわかったのだろう。
「ティファ、もう倒れちゃいそうだったよ。それでも、それでもクラウドが必要?」
ユフィの目に浮かんだ涙は零れ落ちそうになっていた。
すべてを犠牲にしても必要なこと――――――それを理解するのはまだ先のことか。
さすがにバレットもどう説明すればいいのか迷っていた。


「おいおい、見舞いに来たってのによお、何やってんだお前ら」
気が付くとシドがすぐ側までやって来ていた。
「外に出たっきり二人とも帰ってこないしよ…、ん、どうしたユフィ」
彼女の目が潤んでいるのに気が付いたのだろう。
「ねえ、シドはあの2人のことどう思ってる?」
「あの2人って、クラウドとティファのことか?」
ユフィはこくりと頷いた。
「まあ、似合いの2人だと思うけどな」
「そうじゃなくて」
自分が聞きたいのはそういうことではない、という風に首を振った。
「大丈夫だと思う?」
「…心配してんのか?」
「うん…」
落ち込んだ表情でユフィは答えた。
反対に、シドは笑っていた。
「そう思っちまうのも当然だよな。クラウドもティファもあの状態だからな。
 安心しろよ。お前が思ってるよりあいつらは強え。もしかしたら俺が思っているよりも強いかもな」
「でも、そんなこと言ったって…」
安心できる訳無いといいたいのだろう。
もちろんシドもこんな答えでユフィが納得するとは思っていない。
「まあ、俺だって不安にならないわけじゃないさ。でももう少し様子を見てやってもいいんじゃないか。
 それで、あいつら2人がもしだめになりそうだったら、その時は…」
シドは涙目のユフィの頭をなでながら言った。
「その時は、俺達が助けてやろうな。それでいいだろ?」
「うん…」
ぽろぽろと両の瞳から涙を零しながら、ユフィは頷いた。


彼女が、彼らのような絆を理解できるようになるのは、もう少し後のこと…。




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パーティ最年少(ナナキはおいといて)のユフィと、酸いも甘いも噛み分けてきた年長者2人のお話。
やっぱり私はユフィがかわいくてしかたないです。そしてオヤジが大好きです。
気が付いたら完成までにものすごく時間を要しましたが、こういう話はまた書きたいなあ。



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