おねだり



「はぁ〜………」
高速で移動するハイウインドのデッキで、クラウドは力なくため息をついた。
魔洸中毒から完全に回復したクラウドだが、その後のヒュージマテリアをめぐる神羅との攻防で移動が続き、
乗り物に弱い彼にとってはまさに地獄のような毎日であった。
「潜水艦は最悪だったな…」
海底魔洸炉でのことは最悪の思い出らしい。飛空挺であればまだこうしてデッキに出て風に当たることで
気分を落ち着かせることが出来るが、潜水艦ではそうもいかなかった。
クラウドが気分を紛らわそうと別のことを考え始めると、乱気流だろうか、急に機体が大きく揺れ動いた。
「ん〜っ!!!」
臨界点に達したクラウドはあわてて口を押さえ、振り落とされないよう必死に手すりを握り締めた。
機体が体勢を整えるまでそれほど時間はかからなかったが、彼には永遠に続くように感じられた。
それでもなんとかこらえきったクラウドは、真っ青な顔のままデッキに仰向けに寝転んだ。


軽いめまいを覚えて目を瞑りしばらくじっとしていると、いきなり声を掛けられた。
「クラウド、大丈夫?」
気が付くといつの間に来たのか、ティファが見下ろしていた。
クラウドはゆっくりと起き上がった。たとえばこれが宿屋で朝ティファが起こしに来た、というシチュエーションなら
彼は飛び起きただろうが、今はその元気もなくぐったりとしていた。
「こんなに具合悪くちゃ食べられないかな」
「何、夕飯ならさっき食べたよ……もう出そうだけど」
と、冗談だか本気だかわからない答えを返したが、ティファはそうじゃないんだけど、という表情をして
両手で包み込んでいたマグカップを見た。
「今日、クラウドの誕生日だよね。でも、ミディールを出てからずっと移動続きでプレゼント買えなかったの。
 だからせめてケーキだけでもと思ったんだけど、買出しにも行ってなかったから材料がなくて。
 ケーキって言ってもこんなの、しかも一人分しか作れなかったけど、よかったら…」
そう言ってそのマグカップを差し出した。
クラウドが受け取って中を覗くと、それはおいしそうなマグカップケーキだった。
自分の誕生日であることをすっかり忘れていたクラウドはそこで初めて思い出した。
「ごめんね、プレゼント用意できなくて」
ティファがとてもすまなそうに謝った。
「いや…」
全然いいよ、と言おうとしたクラウドの頭の中にとてもいい考えが浮かんだのだった。


自分の誕生日のことなんかすっかり忘れていたし、思いがけずケーキをもらってとても嬉しかったのだが、
こういうことのひらめきにかけては、なぜかクラウドは天才的だった。
「そっか、プレゼントないんだ…」
と、いきなり寂しげな表情を作ってみせる。
もちろんティファはそれをみてさらにすまなそうな顔をする。
「ほんとにごめんね、今度街に買出しに行ったら…」
そうティファが言うのをさえぎって、クラウドは思い切っていった。
「あのさ、プレゼントないんなら代わりに…その…キスしてくれないかな…」
「えっ…!」
一瞬言葉に詰まったかと思うと、ティファはみるみるうちに顔を赤くした。
「なにいってるの…もう…こんど買いに行くから…」
しどろもどろにそう答える彼女を、クラウドは下から覗き込んで追い打ちをかける。
「今日くれなかったら誕生日プレゼントにならないじゃん」
「そんなぁ…」
「ちゃんとお祝いしてくれなきゃ俺、嫌だからな」
困り顔のティファの前でわざとすねて見せた。
こうすれば最後にはティファが折れることを知っている。
しばらくティファは先程の困った顔つきのまま黙っていたが、やがて観念したらしく口を開いた。
「目、つぶって」
ついに来た、とクラウドは内心ほくそえむ。
ティファの気が変わらないうちにと大人しく目を閉じた。
彼女の手が肩に掛かる。
いつもの香りが近づいてくる。
彼女の唇と彼の頬が触れ合う寸前、クラウドは突然瞳を開いた。
「ほっぺじゃ、ダメだからな」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
これ以上赤くならないだろうというくらい赤くなった顔を横にふりティファは拒んだが、
クラウドがまたすねるそぶりを見せると、仕方ないという風にため息をついた。
「ほら、早く目を閉じて!」
照れているのを隠すようにぶっきらぼうに早口で言い、クラウドが目をつぶったのを確認すると、
ティファは彼の首に腕を回し、恥ずかしそうに一瞬ためらった後、ゆっくりと唇を近付けた。


「うーん、短いなあ」
キスが終わるなりクラウドはそうつぶやいた。
「なに言ってるの!もう!」
ティファはまだ顔を赤くしたまま怒鳴ると、ぷいっとそっぽを向きそのまま中へ戻ってしまった。
残ったクラウドはしまりのない顔をして唇に残った感触を思い出していた。
「うえへへへへ…………」
どうやら、彼にとって今までで一番幸せな誕生日になったに違いない。




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あーもーほんとクラウドおバカさんです。素で「ウエヘヘヘヘ、俺は何をした!」状態入ってます。
まあ誕生日祝いだからクラウドを幸せにしてあげようって事で。

くだらないおまけ


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