はやとちり? ある日の昼下がり、ティファとユフィはニブルヘイムの近くの街のケーキ食べ放題のお店に来ていた。 「ティファが今とってきた中でどれがおいしかった?」 「みんなおいしいけど、特にミルフィーユとモンブランがおすすめかな」 「よーし、じゃあ次はそれにしよ。アタシ、取りに行ってくるね」 「うん」 ユフィがまたウータイを飛び出し、ティファとクラウドの暮らすニブルヘイムに来たのは 1ヶ月ほど前のことである。 もっとも、結婚してまだ一年経たない新婚家庭に転がり込むような野暮なことはせず、 アパートを借りて一人暮しをしている。 以来、ティファとユフィはよく二人で買い物に行ったり、こうしてお茶を楽しんだりしていた。 「ずいぶん取ってきたわね」 「へへっ、このペースで行けば全種類制覇できそうだよ。ティファはもうケーキ取りに行かないの?」 「うん、もう終わりにする」 「・・・もしかして、さっき『ティファ、ちょっと太ったね』ってアタシが言ったの気にしてる?」 ユフィはバツの悪そうな顔をして謝った。 「ゴメン、そんなつもりで言ったんじゃないんだよ。 みんなで闘ってた頃に比べれば随分女らしい体になったなってこと」 「いいよ、気にしないで。でも、ほんとの事言うと・・・最近体重が増えちゃったんだけどね。 まあ、そうじゃなくて、なんでもう食べるのを終わりにするのかっていうとね、 先週、ユフィとウータイ料理食べ放題に行ったでしょ」 「あ、あの店おいしかったよね。また行こうよ」 「うん。で、あの日おなかいっぱい食べたし、チョコボに乗って帰ったせいもあって、 家に帰ったら気持ち悪くなっちゃったんだ。でも、食べ過ぎだなんて恥ずかしくて言えないでいたら クラウドったら私が病気になったと勘違いしたみたいで、『病院に行かなきゃだめだ』 って心配してくれて・・・」 「ハイハイハイ、つまり今日はクラウドを心配させないためにもここらで終わりにしとくってことか。 まったく、コレ以上聞いてたらこっちがおなかいっぱいになっちゃうよ」 あきれ口調でそう言うものの、本当はユフィは幸せそうなティファの顔を見るのが好きなのである。 そして本人は気づいていないようだが、うらやましくも感じているようであった。 「買い物してたらすっかり遅くなっちゃったわね」 「アタシは一人暮らしだから構わないけど、ティファはダンナ様が首を長〜くして待ってるからね〜」 チョコボに乗った二人に、強くはないが冷気を含んだ風が吹きつける。 「うぅ、夏なのにニブルヘイムは夜になるとちょっと肌寒いねえ」 「ニブル山から冷たい風が吹いてくるからね。・・・あれ?」 町の入り口にクラウドが立っているのが見えた。 「いいダンナ様じゃん。じゃ、アタシはお邪魔にならないようにお先に♪」 そう言うとユフィは自分のアパートのほうへすーっと消えてしまった。 ティファはチョコボに乗ったままゆっくりクラウドのほうへ近づいていく。 「・・・遅いじゃないか」 「・・・ごめんなさい」 「ニブルヘイムは夜になると気温が下がるんだ。わかってるだろ。体冷やすようなことするな」 そういって手に持っていたティファのカーディガンを羽織らせると、チョコボから抱えて降ろした。 そしてクラウドは、ティファを抱きかかえたまま家に戻ろうとする。 びっくりしたのはティファだ。 「どうしたの。私、今日は別に気分も悪くないし、一人で歩けるよ」 「いいから」 有無を言わさぬ調子で言うと、そのまま家まで入って居間のソファにティファをそっと降ろした。 クラウドがティファの好きな紅茶を入れてきた。 「ありがとう。・・・おいしい」 その一言にクラウドの表情が和らぐ。 だがまた真面目な顔に戻ってティファと向き合った。 「チョコボなんて揺れの激しい乗り物に乗ったりしたらだめじゃないか。 買い物なら俺がいるときに車で連れてってやるからさ。 それからティファ、ちゃんと病院には行ったか?」 「まだそのこと気にしてたんだ。行ってないよ」 「行けってあれほど言ったのに」 (完全に勘違いしちゃってるみたい。これは正直に言うしかないかな) 「あのね、クラウド、違うんだよ」 むっとするクラウド。 「病院に行ってもいないくせに、なんでそんなこと言えるんだよ」 いちいちうるさいクラウドにティファもちょっといらついてきた。 「クラウド、心配してくれてるのは嬉しいけどちょっとしつこいよ!」 「ティファ、イライラするのはわかるけど、今は大事な時期なんだし・・・。 確かに俺もうるさく言いすぎかもしれないけど、やっぱりティファが大事だし、 無事に生まれてきて欲しいと思うから色々言うんだ。わかるだろ?」 この言葉に驚いたのはティファの方だ。 (ちょっとまって、クラウド!あなたまさか・・・) ―病院に行かなきゃだめだ― ―体冷やすようなことするな― ―揺れの激しい乗り物に乗ったりしたらだめじゃないか― ―イライラするのはわかるけど、今は大事な時期なんだし― ―無事に生まれてきて欲しい― クラウドの言葉がフラッシュバックする。そして、ひとつの結論が浮かんだ。 「・・・もしかして、私が妊娠してるって勘違いしてるの・・・?」 鳩が豆鉄砲食らったような顔とは、今のクラウドみたいなのを言うのだろう。 「違うのか?」 ティファは黙ったまま頷いた。 「クラウド、なんか勘違いしてるみたいだけど、私はじめっから妊娠なんかしてないよ。」 そのセリフでやっと事態を飲みこんだらしいクラウドはバツが悪そうにチョコボ頭を掻いた。 「なんだ・・・。俺てっきり子供が出来たんだと思っててさ。 ほら、ティファが気分悪いって言うの珍しいし、最近ちょっと太ったしさ・・・。」 クラウドは照れながらも弁明しようとして、女の子に絶対言ってはいけないことを 言ってしまったことに気づいていなかった。 おまけに、その一言でティファの表情が曇ったことにも気づいていない。 「だからはやとちりしちゃって・・・。」 「・・・クラウド」 トーンの低いティファの声に、ようやく何か変だ、と覚った。 「・・・私、確かに最近ちょっと太ったけど・・・。 それでも妊娠してると間違えられるほど太ってないよ!」 「ティファ、何怒って・・・」 「もういい!クラウドのバカ!」 それだけ言うとティファは寝室に行ってしまった。 乱暴に閉められたドアは、すぐにまた開き、クラウドの枕と掛け布団が放り出された。 「おい!」 クラウドが言葉を発するよりも早くドアは閉じられ、中からカギをかける音がした。 今日は居間のソファで寝ることになりそうだ。 「まったくなんであんなに怒るんだ?」 ベッド代わりのソファに横になってクラウドはぼやいた。 あまり女の子と付き合いがなかったので、その辺の乙女心がわかってないのだ。 (ユフィや、エアリスはどうだったっけ・・・) 皆で旅をしていた頃を思い出してみる。 (そういえば三人共、太った痩せたでよく大騒ぎしてたな) おしゃれには気を使っていたエアリスはもちろん、色気より食い気といった感じのユフィでさえ 「最近太ったからダイエットしなきゃな〜」 なんてしょっちゅう言っていた。 女の子にとってはすごく気になることなのかもしれない、という考えががぼんやりと浮かんできた。 (だとしたらさっきのはまずかった。たしかに太ったっていっても、 ティファもとが細いからそんなんでもないし、ましてや妊婦の体型では全然ないからな。 太ったから妊娠したって勘違いした、ってのは言うべきじゃなかった) 明日の朝謝ろう、と決意するとようやくすっきりした。 (それにしても、ティファは今のままで十分キレイなのに、なんであんなに気にするんだろう?) もっとキレイになりたい、と思うことは女の子にとっては自然なことなのだろうか。 (ああ、でも俺だってそうじゃないか。かっこよくなりたいっていつも思ってて・・・) 一緒にいてティファが恥ずかしいと思わないように。 いや、もっと言えばティファが自慢できるような男になりたい。 そういつも思っている。 (もしかして、ティファも同じ事を考えているのか?) 好きな人も、自分のためにキレイになろうと思っていてくれているとしたら――――― (本当にひどいこと言っちゃったな) と、反省しながらも嬉しくて顔がにやけてしまうクラウドであった。 一方ティファも眠っていなかった。 はじめのうちこそ、 (太ったから妊娠したと思った、なんてひどいよクラウド!) などと怒っていたのだが、それが収まるにつれだんだん後悔しはじめた。 太ったのは本当のことだし(でもほんのちょっとだけど!)、昼間ユフィにも言われたことだ。 だが、クラウドに言われたということがショックで、あんな態度をとってしまったのだ。 (・・・クラウドに悪いことしちゃった。きっと怒ってるよ・・・。 クラウドのバカ、って言ったとき、訳わかんないって顔してた。 当たり前だよね、クラウドは全然悪くないのに私が一人で怒ってたんだから) ふぅ、と大きなため息をつくと、サイドボードに置いてあった手帳を取った。 (明日は、クラウドがお休みの日だったはず・・・) 本当は手帳なんか見なくてもわかる。それくらい楽しみにしていたのだ。 (せっかくだから、どこかに行こうかって話してたのに・・・。 クラウドがお休みを取れるのなんて何ヶ月ぶりかな?) そんなことを考えながら手帳をめくっていたティファはあることに気づいた。 次の日、お昼になってようやくクラウドは目が覚めた。 「しまった!寝過ごした!!」 今日は朝一番にティファに謝って、ゴールドソーサーに誘おうと思っていたのだが すでに日が高くなっている。 仕方ないからまず謝ろうと思って身を起こすと、家の中に人の気配がないことに気づいた。 「・・・ティファがいない」 ユフィのアパートにでも行ったのだろうか。 それとも、まさか、怒って出て行ったのか!? 不安が頭を掠める。 (とりあえず、ユフィのところに行ってみよう) 気を落ち着けようとしても出来なかった。 焦ってしまうと玄関までがものすごく遠く感じられた。 急いで鍵をはずし玄関のドアを勢いよくあけるとなんとそこにはティファの姿があった。 「きゃっ」 「ティファ!」 「びっくりした。いきなり開けるんだもん」 なんだかティファの機嫌がいいので、クラウドはほっとした。 家の中に入ると、ティファが切り出した。 「昨日はごめんね、クラウド。私一人で怒っちゃって。それでね、あのね」 「ごめん!俺が悪かったんだ。俺、ティファの気持ちとか全然わかってなくて ティファに悪いこと言っちゃってさ。怒るのも当然だよな、って昨日一晩考えて・・・」 「もう、ちょっと待って、クラウド。私の話を聞いてよ」 自分の話をさえぎって入ってきた上に、なかなか話が終わりそうもないクラウドを制した。 「そう言えばティファ、今までどこにいたんだ?」 実は昨日、ティファは手帳を見ていて、予定日を大幅に過ぎているのに来ていないことに気づき、 もしやと思い午前中に病院に行ってきたのだ。 「ちゃんと説明するから、まず最初にこれだけ聞いて」 ティファはクラウドに顔を近づけると、嬉しさを滲ませた声で囁いた。 ―あのね、クラウド 赤ちゃんができたんだよ― ------------------------------------------------------------------------------------- 「乙女心がわかってないクラウドがティファに『太った』と言ってしまい ティファが傷ついちゃう話」というのを思いついたのですが、 「ティファが太る→おめでたしか考えられん!」ということでこうなりました。 つーか、プロポーズや結婚式ネタを書く前におめでたネタを書くことになろうとは。 唐突過ぎましたね。順序は大事です、ハイ。 それにしても男の子?女の子?女の子だったらエアリスって名前にするってのも あるけど、私はしませんね。 だって、二人にとって「エアリス」って呼べる人は一人しかいないでしょ? 欲を言えばユフィをもっと出したかったわー。 戻る