僕は空を見上げ続けていた。

  彼女がつけてくれた、僕の名前と同じ『空』。

  でも、もうその彼女はこの地上にはいない。

  きっとこの空の彼方、遠くにいるのだ。

  限りなく澄みきって、どこまでも続いている青空。

  この空を飛んでいけば、また彼女に巡り会えるのだろうか?

  僕は旅に出る。

  彼女を捜すために…。

  終わりのない旅かも知れない。

  それでも、僕は旅に出る。

  大空の中をどこまでも…。

  この空はどこまでも高く、限りがない 。

  …僕は飛べるのだろうか?

  彼女が教えてくれた飛び方を思い出す。

  飛べる。

  ただ、それだけを信じて…。

  僕は走り始めた。

  あの日の彼女の背中を追って…。

  翼を広げ、大地を力強く蹴る。

  体が浮く。

  しっかりと風を受け止めて、力強く羽ばたく。

  …幾層もの雲を抜けていく。

  どこまでも、どこまでも高みへ…。

  胸が苦しい、腕が痛い。

  それでも、僕は飛び続けた。

  全身の力を振り絞りながら…。

  彼女を捜して…。

  目の前には飛行機雲があった。

  僕はその消えていく飛行機雲を追いかけた。

  どこまでも、どこまでも…。



〜 終わる夢と始まる夢 〜



 …………。
 俺は地面に降り立つ。
 もわっとした熱気とバスの残した排気に包まれ、立ちくらみになる。
 バスのエンジンの音が聞こえなくなった。
 そして、入れ替わりセミの大群の声が押し寄せてきた。
 潮の匂いがする。
 広がるのは、見知らぬ土地の夏の光景。
 …知らない土地のはずなのに、どこか懐かしい気がする。
「ここは…」
 俺は辺りを見回すが、やはり見覚えがあるような気がする。
 立っているのもなんなので、俺はバス停のベンチに腰を下ろす。
「ふぅ…」
 俺はなぜ、こんな場所に来たかを考えてみる。
「で…、俺はこんなところで何をしてるんだ?」
 別に金が底を尽いた訳でもない。
 なのになぜ、こんなへんぴな町で下車することになったのか。
 そのとき、、ランドセルを背負った幼い姉弟が目の前を通りすぎるところだった。
 何か、悲しそうな顔をしている。
「どうしたんだ、そんな顔をして…」
 気になったので、声をかけてみる。
「うん、あのね。飼っていたインコが死んじゃったの…」
 二人の顔がこちらを向く。
「そうか…、じゃあ今からお兄さんが、元気が出る人形劇を見せてやろう」
「…人形劇?」
「ああ、そうだ」
 俺はズボンの後ろのポケットに突っ込んであった人形を取り出すとそれを地面に寝かせる。
「さあ、楽しい人形劇の始まりだ」
 俺はその真上に手をかざし、念を込めた。
 するとそれが、むくっと起きる。
 これで、俺の意志で自由に動く。
 とことことこ…
 人形が歩きはじめる。
「わあああ〜〜! すごい、すごいよ、おにいちゃん!」
「…すごい」
「そうか」
 俺は子供ふたりの顔を見る。
 小さな男の子は無邪気に大声を上げているが、女の子は驚きの方が強いようだ。
 しばらく続けて、子供たちの元気が出たようなところで切り上げる。
「どうだ? おもしろかったか?」
「うんっ!」
「はい、とっても」
「そうか…」
 子供たちは笑顔で答えた。
「あ、でも、こういうのって見たらお金を払わなきゃいけないってお母さんが…」
 男の子の方が思い出したように言う。
「別にいらない」
「ほんと?」
「ああ、元気が出ただろ?」
「うん」
「じゃあ、それだけで十分だ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとうございます」
 二人がお礼を言って帰っていく。
 人形を片付けようとしたその時、黒い影が目の前に現れた。
「…なんだ、猫か」
 黒猫だった。
 その猫は、俺の人形をくわえると逃げだした。
「……」
 俺は数秒、固まったままだったがすぐに我に返った。
「待ちやがれっ!」
 俺は猫を追いかけて走り出した。


 …………。
 やっとの思いで、猫を捕らえ、人形を取り返した。
 気がつくと、そこは海岸の堤防だった。
 つかれたな…。
 少し休むことにする。
 俺はバスの中で見た夢のことを思い出した。
 そう、あれは確かに夢だった。
 どこまでも、どこまでも高みへ…。
 俺は誰かを捜していた。
 それが誰なのか。
 なぜ、俺はそいつを捜しているかは判らない。
 だからそれを確かめるために、旅を続けている。
 空を見上げる。
 一面に澄みきった青空が広がっている。
 今、目を閉じたら、またあの夢を見れるのだろうか?
 俺は目を閉じた。
 ……。
 僕は羽ばたき続ける。
 彼女の元へ向かうために…。
 目の前には飛行機雲があった。
 僕はその消えていく飛行機雲を追いかけた。
 どこまでも、どこまでも…。
 不意に、僕は光に包まれた。


 …………。
「我が末裔の者よ。難儀な役目、ご苦労であった」
 男の声が聞こえてきた。
「よくぞ、ここまで…」
 今度は女の声だ。
「ぬしが余を開放してくれたのじゃな」
 これはさっきと違う女の声だ。
「さ、神奈さま。お礼を申さなければ」
「言われなくとも判っておるわ!」
 なんか、怒っているみたいだ。
「…確か往人と申したな」
 往人…。
 そういえば、そんな名前で呼ばれていたこともあったような気もする。
「余を忌まわしい呪縛から開放してくれたこと、感謝いたす」
「おっ、神奈もちゃんと礼を言えるんだな」
「もちろんでございます。私がお教えいたしましたから」
 なにやら『神奈』と呼ばれる女以外の二人は内緒話をしているみたいだ。
「後ろの二人、聞こえておるぞ」
 しっかりと聞こえていたらしい。
「それより裏葉、余の魂が入り込んでしまった少女はどうなった?」
「残念ながら…」
「そうか、悪いことをしたのう」
 なにやら、思い悩んだ顔になった。
「なんとかできんのか?」
「できないこともありませんが…」
「では、なんとかしてみせよ。このままでは、あまりにも可哀想ではないか」
「優しいのですね、神奈さまは」
「やっと気づきおったか」
「だったら、俺にも、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないか?」
「それとこれとは別問題である」
「…そういうもんか?」
「うむ」
「神奈さま、準備ができました」
「そうか」
「すごいな、裏葉は」
「まったく、何処かの守護の役に就いた男とは偉い違いよのう」
「悪かったな、役立たずで」
「そんなことありませんわ。柳也さまは立派に役目を果たしております」
「ありがとう、裏葉。さすが俺の連れ添いだ」
「…おぬしら」
「あ、すみません」
「まあよい、早くこの者に…」
「はい」
 そして、また僕の体が光りだした。
「達者でな」
「お元気で…」
「迷惑をかけたのう」
 意識が次第に遠のいてゆく。
「ぬしがまたこの空に来る時まで、しばしの別れである。その時まで…」
 『さようなら』
 そして、僕の意識はとぎれた。


 …………。
 『さようなら』
 俺は『夢』から目が覚めた。
 …子供たちが浜辺を歩いている。
 おそらく、その子供たちが言ったのだろう。
 波の音が気こえる。
 既に日も暮れかけている。
 隣に少女が座っていた。
「こんにちはっ」
 笑顔で挨拶をしてくる。
「今、暇ですか?」
「…いや、暇じゃない」
「でも、寝ていましたよね?」
「人を待ってるんだ」
「それ、誰ですか?」
「さあな、誰かは判らない」
「その人、本当に来るんですか?」
「ああ」
「いつ来るんですか?」
「さあな」
「じゃあ、浜辺にいこっ」
「…どうして?」
「遊びたいから」
「そうか…」
「うん、だからいこっ」
「…そうだな、『約束』だしな」
「にはは…。往人さん、覚えていてくれたんだ」
「忘れるわけないだろう」
「じゃあ、早くいこっ」
「おいっ、観鈴。そんなに急がなくてもいいだろ?」
「でも…」
「また明日があるだろ?」
「うん…、そうだね」
 俺は観鈴を抱き寄せた。
「あの夢はもう見ないのか?」
「うん、もう大丈夫。あの夢はもう終ったよ…」
「そうか…」
「にはは…。だからこれからは、幸せな夢を見るんだよ」
「…じゃあ、俺も一緒に見てもいいか?」
「…うん」
 俺たちは真っ赤に染まった空を見上げた。
 その空に浮かぶ、一つの飛行機雲。
 俺たちは、その消えてゆく飛行機雲を、いつまでも見送った。





   〜 あとがき 〜

   ……判りにくいですね。(反省)
   これは『 AIR編 』のそらが、飛び立った後から、
  『 AIR編ED 』の往人が目を覚ました後を、勝手に想像して書いてみました。
   いろいろと『 穴 』や『 矛盾 』があると思いますが、そこは『 ご愛嬌 』ということで…。
   AIR、書くの難しいです。
   何かご意見等ありましたら掲示板もしくはym2@jmail.co.jpまでご一報を。


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