12月も中旬になり、辺りは一面『雪景色』と言う言葉が憎い程似合う時期になった。
「学校もあと残り僅かだな」
思わず少し口調が嬉しそうになる。
「うん。そうだね………」
隣りを歩く名雪が少しブルーになって呟く。
「どうしたの、名雪? あなたらしくないわよ」
「そうですよ名雪さん、どうしたんですか?」
香里&栞の仲がいい(?)姉妹が名雪に問いかける。
「相沢君、?マークはいらないわよ」
「……香里、読心術でも使えるのか?」
「そんなもの使えないわよ」
う〜ん、どこのSSでも香里は間違いなく人の心を読んでるんだけどなぁ………。
「そんなこと、そのSSの作者に聞きなさいよ」
「ほらっ! 今、俺の心を読んだだろっ?」
「………そんなことないわよ」
少し間が空いたな………。
「学校が休みになったら、みんなと会えなくなるね……」
名雪がポツリと呟いた。
「なんだ、そんなことで気にしてたのか」
「う〜。そんなことじゃないよ」
そう言い、俺の方を少し睨む。
「会おうと思えばいつだって会えるし、2週間もすれば嫌でもまた学校が始まるんだから……」
「でも………」
「名雪……どうせ冬期講習とかに出るんでしょ?」
香里が呆れたように言う。
「うん」
「だったら、そこでみんなに会えるんじゃないの?」
「あっ! そっか」
「そうですよ名雪さん」
栞がそう言って微笑む。
「うんっ! そうだね」
ようやく名雪がいつもの調子に戻った。
「じゃあ、百花屋に行こう?」
「なんでそうなるんだ?」
「イチゴサンデー、食べたいから」
「それは構わないけど自分で払えよ?」
「祐一………」
その半泣きで俺を見るのはやめてくれ。
「あ〜! わかったよ!!」
「ほんとっ!? ありがとう、祐一!」
「悪いわね、相沢君」
「ごちそうさまです、祐一さん」
………えっ?
「ちょっと待て、なんで2人の分まで……」
「祐一さん……ダメなんですか?」
ううっ、栞までそんな顔をして……。
「相沢君、栞を泣かせたら……」
……香里、相変わらず栞にはあますぎないか?
「わかりました。奢ります、奢らせてください」
「それでこそ祐一さんです」
「最初から素直にそう言えばいいのよ……」
……これが『悲しい男のSAGA!(性)』ってやつか。
結局、百花屋で4人分の代金を払い、俺の懐にも冬が訪れた。
百花屋を出て、しばらく歩いていると公園を通りかかった。
その公園の中では子供たちが雪合戦をしている。
「わぁ〜。見て見て祐一、雪合戦してるよ」
「んなもん、見りゃわかるよ」
「楽しそうですね〜」
「そう? ただ疲れるだけだと思うけど……」
「……そんなこという人、嫌いです」
「し、栞……」
あ、香里がブルーになってる。
珍しい画だな……。
「ねえ祐一、私たちも雪合戦しようよ」
「はぁ? 何でそうなるんだよ」
「あ! 名雪さん。それ、いい考えですね」
「でしょ?」
「だからなんでそうなるんだよ」
クッ、このままでは不利だ。
香里を味方につけなければ………。
「おい、香里……」
香里に耳打ちをする。
「このままだと、雪合戦するハメになっちまうぞ……」
「……そうね、この年になって雪合戦ってのはちょっとね……」
「祐一、香里。二人で何をこそこそ話してるの?」
俺たちの態度を不思議に思った(思わない方がおかしいが)名雪が聞いてくる。
「いや、なんでもないよ。それより、本当にやるのか?」
「うんっ!」
「名雪、冬季講習に出るんでしょ? そんなことしてないで勉強したら?」
「う〜」
「栞も、ちゃんと勉強しないとじゃないの?」
「………そうですけど」
おおっ!
さすが香里、名雪と栞がもう少しであきらめそうだ。
「う〜ん……。あっ、そうだっ!」
名雪が何かを思いついたようだ。
「香里が私たちに勉強を教えてくれればいいんだよっ!」
「えっ!?」
香里が慌てる。
「そうですよお姉ちゃん。それに一日くらいしなくたって大丈夫です」
「栞……。勉強だけに限らないけど、続けることに意味があるのよ」
香里が反論を続ける。
「……お姉ちゃん、私と雪合戦するの嫌なんですか?」
「そ、そういうわけじゃないのよ、栞」
「じゃあ、いいですよね?」
「………しょうがないわね」
――― って、オイ!
「香里、約束が……」
ボソッと香里に告げる。
「相沢君、社会は常に進歩し続けているのよ」
いや、今は社会とか関係ないと思うぞ。
「祐一もするよね、雪合戦」
「……いや、俺は遠慮しとくわ」
休みの日にわざわざ体力を浪費する必要はないだろう。
「祐一、雪合戦やらないの?」
名雪がまた涙目になる。
「祐一さん、来ないんですか?」
栞は栞で俺の服の袖を引っ張る。
…………。
ええいっ! 俺も男だっ!
「しょうがねえなぁ……」
二人の女子高生にこうまでされて断るやつは『男』だとしても『漢』じゃねえ!
…………へっ。
どうせ俺もそこら辺の若僧ですよ……。
「やった〜!」
手を取りあって喜ぶ名雪と栞。
「相沢君………」
香里の表情が暗い。
「みなまで言うな……」
喜ぶ二人とは対照的に、俺と香里の表情は暗かった。
「ただいま〜!」
「ただいま……」
「おかえりなさい、2人とも。……祐一さんどこか具合でも悪いんですか?」
俺の暗く沈んだ声を聞いて、秋子さんが心配してそう言ってくれた。
「いえ、そういう訳じゃないんですけど……」
「そうですか……。ならいいんですけど」
いつもように微笑んでダイニングに戻って秋子さん。
俺と名雪は自分の部屋に戻る。
「さむ……」
自分の部屋は思った以上に寒かった。
これからストーブをつけるよりも、リビングで温まったほうがよさそうだ。
そう思って手早く私服に着替え、部屋を出る。
ちょうど階段を降りようとした時、名雪の部屋のドアが開いた。
「あれ? 祐一出かけるの?」
「この格好でか?」
このくそ寒い中、コートも着ないで外に出るか、フツー?
「あ、そうだね」
「俺はこれから、リビングで『ほっと一息、珈琲タイム』だ」
「わ、偶然」
「なんだ、お前もか?」
「うん」
ふと、名雪の手を見てみると、なにやらお菓子のような箱を持っている。
「あ、これ新発売なんだよっ」
いや、そんなことはどうでもいいが……。
「じゃ、早いとこ行こうぜ。さみぃ……」
「そうだね」
階段を下りてひとまずダイニングに行く。
「あら、どうしました? 祐一さん、名雪?」
夕飯の準備をしていたと思われる秋子さんがこちらに気づく。
「ちょっとコーヒーでも飲もうかと思いまして」
「そうですか。では、どうぞ」
そう言って2人分のコーヒーを差し出してくれた。
「すみません」
「ありがとう、お母さん」
いつもの笑顔で返事をしてくれる秋子さん。
そしてリビングへ向かう。
「コーヒーGETだぜっ!」
「ど、どうしたの、祐一?」
俺が突然そう言ったので名雪が少々驚いたようだ。
「いや、特に意味はない」
「……変な祐一」
決して作者が今、これを書きながら『ポケ○ン』を見てるというわけではない。
リビングに行くと既に先客がいた。
「あ、おかえり〜」
「おかえりなさい。祐一君、名雪さんっ」
「ただいま。真琴、あゆちゃん」
「おう、今帰ったぞ」
「祐一、何で偉そうなわけ?」
真琴がすかさずツッコミを入れてくる。
「それはな、主人公だからだ」
「まともなCG一枚もないのに……」
「ぐはっ!」
それを言うか! 貴様は!!
「北川だって顔くらいあるのに、顔さえないし……」
くっ! 痛いところを……。
それよりなんで真琴が北川を知っている?
「うるせえ! いいかげん、働くか学校行くかしろよ!」
「う〜!」
「あ、真琴じゃどこも行けないか」
「そんなことな〜い!」
「どうだか……」
「そんなことないの〜!」
真琴が俺に対して攻撃を始める。
「むっ、やる気か?」
「2人とも、いいかげんにしたらどうですか?」
いつの間にか後ろにいた秋子さんが仲裁に入る。
「はい……」
「うん……」
やっぱり秋子さんには敵わない。
あのジャムなんか出された日なんかには………ゾッ。
「みんな、仲良くね」
それだけ言うと秋子さんはまたダイニングの方に戻っていった。
「あのジャムだけは嫌だからな。しょうがない、今日のところはやめるか……」
「………うん」
こうして、俺と真琴の戦いは一時停戦となった。
しばらく4人でテレビを見る。
5時からのドラマの再放送で、今日はその最終回を放送していた。
「うぐぅ……」
ドラマのラストシーンで、あゆが泣き声(?)をあげてきた。
「おいおい、これくらいで泣くなよ……」
俺が名雪に助けを求めようと目で合図をしようとすると
「ゆ、祐一………」
名雪まで泣いていた。
まさかと思って真琴の方を見てみると
「あう〜」
真琴まで泣いていた。
………勘弁してくれよ。
俺は早くこのドラマが終わってくれるのを祈った。
夕飯も食べ終え、風呂に入り終えたところに名雪が部屋に来た。
「どうした?」
「明日のこと、忘れてるんじゃないかなって……」
「明日? なんかあったけ?」
少しとぼけてみる。
「明日はみんなで雪合戦しようって約束したのに……」
すこし涙ぐんだ表情になる。
「あ〜。わかったから、そういう顔するな」
「うんっ。えへへっ」
途端に元気になる名雪。
「ったく、んな心配してないでさっさと寝ろ」
「うん、わかったよ」
それだけ言うと自分の部屋に戻っていった。
「ふぅ〜……。だるいなぁ……」
この寒い中、雪合戦。
この年になって、雪合戦。
でも…………。
「……ま、たまにはいいか」
そう思った俺は早めに寝ることにした。