俺は大学から少し離れた所にある、日陰になったベンチに座っていた。
ここなら夏の暑さを少しはやわらげてくれる。
彼女との待ち合わせの時間まで、まだ1時間以上もある。
(少し早く来すぎたかな? …まあ別にいいか、する事もなかったし)
今日は2人とも午前までの講義なので、これから一緒に昼食を取って、商店街にでも行こうかと思っていた。
俺は暇つぶしに通り過ぎる人を眺めたり、その通り過ぎる人の会話を聞いていたりした。
そして、あるカップルが目にとまった。
「あ〜、待ってよぉ〜、浩之ちゃ〜ん」
「ったく、もうちょっと早く歩けないのか?」
「だって…」
「まぁ、今に始まったことじゃないから別にいいけどな…」
「うん、ごめんね…」
「バカ、本気にするなよ。ところで、昼飯、何食べる?」
「う〜ん、浩之ちゃんは何食べたい?」
「…あかり」
「えっ?」
「あかりを食べたい」
「だ、だめだよぉ〜。そんな、こんな明るいうちから…」
「じゃあ、暗くなればいいのか?」
「えっ? そ、それは…」
「バ〜カ。冗談に決まってるだろ」
「もうっ! 浩之ちゃんの意地悪!」
……。
(そう言う冗談は、もっと人のいない場所で言ってくれ…)
俺は少々呆れて、そう思った後、また通りに目を戻した。
「浩平、早く行こうよ〜」
「待てよ、長森。そんなに急いでも、もう無駄だって」
「無駄じゃないよ。まだ間に合うもん!」
「いや、絶対に混んでる。今日は他の場所にしよう、な?」
「ダメだよ。それに、『あのお好み焼き屋に行こう』って言い出したのは浩平のほうだよ」
「だ・か・ら、言い出した俺が食わなくていいって言ってんだから、別にいいだろ?」
「ダ〜メ。今日は浩平の奢りなんだから」
「ふ〜。判ったよ、行きゃあいいんだろ、行きゃあ!」
「うん。じゃあ、早く行こうよ」
「ったく、これだから『だよもん星人』は…」
「私、『だよもん星人』なんかじゃないもん!」
そんな言い争いをしながら街の方へと消えていった。
……。
(『だよもん星人』ってなんだ?)
そんなことを思っていると、新たなカップルが大学の方に歩いてきた。
今度の2人は、おとなしそうなカップルだった。
「由綺、よく来れたね。今日はレッスンに行かなくて大丈夫なの?」
「うん…、緒方さんが『大学の単位は落とすな』って言ったから…」
「そっか、英二さん、そう言うところは律儀なんだ…」
「冬弥くん、お昼もう食べちゃった?」
「いや、まだ食べてない。由綺は?」
「私もまだ…、冬弥くんと一緒に食べようと思ったから」
「そうか…、じゃあ、彰や美咲さんもいつもの場所にいると思うから、みんなで取ろうか?」
「うんっ! じゃあ、早く行こうよ!」
「おいっ、由綺。そんなに急ぐと転ぶぞ」
「もう! 大丈夫だよ。私だってもう子供じゃな…、あっ!」
「まったく、言ってるそばから…」
……。
(あの彼氏、大変そうだな…。ま、俺もそうだけどな…)
また懲りずに、通りに目を戻す。
今度は2人の男が話をしながら大学の方から出てきた。
「まったく、健太郎もとんだ災難だよな」
「ああ、いきなり休学届なんて出されて、それで店まで任されるなんて…」
「あ、そうそう、噂で聞いたんだけど、あいつ女と同棲してるらしいぜ」
「マジかよ!? くそぉ〜、なんてうらやましい野郎だ」
「まぁ、聞けよ。その相手ってのが小学生なんだってさ」
「…あいつ、いつからそっちの方向に走ったんだ?」
「さぁな。そこでだ…、これからあいつの店に行ってみないか?」
「おっ! それいい考えだな。よし、行こう!」
「…ところで、あいつの店ってなんて名前だっけ?」
「確か『五月雨堂』って名前じゃなかったっけ?」
「あ〜、そうそう、そんな感じの名前だったな」
「よし、行こうぜ」
……。
(小学生の女の子と同棲?…世界は広いもんだ)
そんなことを考えていると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「もう! 早く来なさいよ和樹!」
「うっせーな瑞希、そんなにでかい声ださなくても聞こえるよ!」
「文句言ってないで早く来る!」
「はいはい…」
「まったく、和樹はただでさえ単位が危ないのに、その上遅刻ばっかりしてたら、本当に留年しちゃうよ」
「判ってるよ! だからこうして締め切り前なのにわざわざ来てるんだろ」
「もうっ! 学生の本分は勉強なんだからね、判ってるの?」
「あ〜、うるさい! 小言は後にしてくれ」
「そうね、早く行かないと講義が始まっちゃうわね…」
……。
(あの彼氏、結婚したら絶対に尻に敷かれるな…)
俺は苦笑しながらそう思ったら、
「…一さん!」
と、誰かに呼ばれた気がした。
その声がした方に目をやってみる。
そこには、長い黒髪の綺麗な女性が立っていた。
「千鶴さん!」
その女性の反対側から、そう呼ぶ声が聞こえた。
その男はやがて先程の女性の方へと走り寄っていった。
「耕一さん。会いたかった…」
「俺も…。でも、千鶴さん。どうしてここに?」
「ちょっと、お仕事の都合でこっちに来て、少しだけ時間が空いたから…」
「そうなんだ…。じゃあ、これからお昼なんか一緒にどう?」
「はい。…それなんですけど、私、お弁当作って来たんです」
「『お弁当』って…。ま、まさか…千鶴さんの手作り?」
「はい! それで、その…、よかったら、一緒に食べませんか?」
「えっ!? ええ。…よろこんで」
そして、2人は去って行った。
去っていく男の背中に、哀愁が漂っていたのは気のせいだろうか?
……。
(手作りの弁当か…。今度、俺も作ってもらおうかな…)
世の中には面白い奴等が大勢いるが、そろそろ人間観察にも飽きてきた。
時間は……約束の時間より30分も遅れてる。
腕時計を見てそう思った時、、目の前に1人の女性が立っていた。
「今、何時?」
「1時」
「わ…びっくり」
言葉とは裏腹に少しも驚いた様子はなかった。
「これ、あげる」
そう言うと缶コーヒーを差し出した。
「遅れた、お詫びだよ」
「……」
「……」
2人とも黙ってしまった。
このままではずっとこの状態が続く気がしたので、俺はその沈黙を破った。
「んで…、気が済んだのか?名雪」
「うん、十分だよ」
まったく、なんで待ち合わせの度に、昔のことを再現しなきゃなんないんだ?
「祐一、早く行こうよぉ〜」
自分が遅れて来たくせに、名雪が急かす。
「じゃ、行くか」
「うんっ!」
そして俺たちは商店街に向かって歩き出した。
これは、フッと思いついたんで書いたSSです。
書くキャラの登場作品は……分かりますよね?(ぉ
多少(かなり)の矛盾があると思いますが、そこは……許してください。
こういう話は結構好きなので、思いついたら書いていきます。
『このキャラを登場させろ!』
と言う要望があれば、できる限り取り入れさせていただきます。
なにかあれば掲示板、ym2@jmail.co.jpまでメールをくださいね。
では、次回作でお会いしましょう。