雨上がりの道を、私たちは並んで歩く。
「グラウンドが使えないからって、部活がなくなったわけじゃないだろう?」
「今日は自主トレーニングだからいいんだよ〜」
「そうかそうか、じゃあ夜は俺とトレーニングでも……」
「祐一……」
私は少し冷めた目で祐一を見る。
「軽い冗談だ」
「面白くないし、そういうこと言うのはオヤジの証拠だよ?」
「別にウケを狙ったわけじゃないんだが」
「ねえ、祐一。百花屋さんに寄って帰ろうよ」
「またか? よく飽きないよな」
「うんっ」
「しょうがねえなぁ」
ぶつぶつ文句を言いながらもちゃんと一緒に行ってくれる。
『 ギュッ 』
「こら、腕にしがみつくな」
怒りながらも少し顔を赤くする祐一。
「こうするの嫌い?」
私がこう言うと祐一は少し困った顔をするけど、これ以上何も言わないんだよね。
普段は祐一の方が歩くのが少し早いけど、ゆっくり歩いてくれる。
「祐一……」
「なんだ?」
「……ありがとう」
「はぁ、何言ってんだお前?」
「ふふっ、なんでもないよ」
ただ、言ってみたかっただけだから。
「ほら、さっさと行くぞ」
「うん」
私たちは百貨屋に向かって歩き出した。
「ああっ、俺の漱石が…」
「祐一、ごちそうさま」
「……はぁ〜」
祐一がため息をつく。
「祐一。ふぁいと、だよっ」
「お前が言うな!」
「うにゅ〜」
「もういい、早く帰るぞ」
「あ、待ってよ祐一〜」
私は慌てて祐一を追いかける。
でも、祐一はゆっくりめに歩いてくれているからすぐに追いつく。
「まったく、本当によく飽きないよな?」
「うんっ、おいしいもん」
私がそう微笑むと祐一は苦笑する。
「あ〜、今日の晩メシなんだろうなぁ…」
「う〜ん……唐揚げ、かな?」
「どうしてわかるんだ?」
「なんとなく…」
うん、きっと作者が食べたいからじゃないよね。
「そうか……ん?」
祐一が何かに気がつく。
私もその方向を見る。
「紫陽花か……」
「綺麗だね〜」
私たちは紫陽花まで近づく。
「なあ、名雪?」
「なあに?」
「紫陽花の花言葉って知ってるか?」
「う、うん……」
確か……。
「そうか。じゃあ、この紫陽花は名雪にピッタリの花だな」
「えっ……?」
「なぁ〜んてな。ほら、帰るぞ」
「う、うん……」
私は少し戸惑いながらも祐一の後ろについて行く。
紫陽花の花言葉は………。
『 浮気・心変わり 』
「名雪、どこか具合でも悪いの?」
夕飯の後、いつまでもテーブルに座っていたら、お母さんにそう言われた。
「ううん、そんなことないよ」
「そう、ならいいけど…」
お母さんは奥に行く。
家に帰ってくるときの会話が頭をよぎる。
『 紫陽花の花言葉って知ってるか? 』
『 う、うん…… 』
『 そうか。じゃあ、この紫陽花は名雪にピッタリの花だな 』
……祐一。
私、祐一以外の男の人を好きになんてなっていないのに……。
どうして……。
『 コトッ 』
不意に私の前にマグカップが置かれる。
「これでも飲んで少し落ち着きなさい」
カップの中にはお母さんが入れてくれたココアが入っていた。
「うん……ありがとう、お母さん」
「何があったのか話してみなさい」
「うん、実はね……」
私は帰りにあった出来事をお母さんに全部話した。
「そう。そんなことが…」
「うん…。祐一、私のこと嫌いになっちゃったのかな……」
「きっとそんなことないわよ」
「でも!」
「ふふっ、名雪。紫陽花の花言葉は他にもあるのよ?」
「えっ…?」
「少し待ってなさい」
そう言うと、お母さんは2階へと上がっていった。
紫陽花の他の花言葉……?
私はいくら考えてもあの花言葉以外は出てこなかった。
しばらく考え込んでいると、お母さんが1冊の本を持って下りてきた。
「はい、名雪」
そう言って手渡された本は花言葉についての本だった。
「自分の目で確かめなさい。祐一さんの想いを……」
そう言うと、また奥に行ってしまった。
私は紫陽花のページを開く。
思ったとおり、そこにはあの花言葉が書いてあった。
でも、その下には他の花言葉が……。
私はその言葉を見た瞬間、祐一のいるリビングに向かう。
リビングのドアを開けると、祐一がドラマを見ていた。
「そんなに急いでどうした?」
「祐一っ!」
私は祐一に抱きつく。
「な、名雪? どうしたんだよ?」
困惑する祐一。
「ごめんなさい、私……私…」
「『 ごめんなさい 』って、何もしてないだろ?」
「でも、私祐一に謝らないといけないから……」
祐一の想いを疑っちゃたから……。
「なんだかよく分からんが、でも、名雪が何をしようと俺は許すよ」
「本当?」
「ああ。だからほら、笑ってくれよ」
「うんっ!」
私はその言葉の通り、精一杯の笑顔を見せる。
「あ〜、ドラマ終わっちゃったな……」
「ごめんなさい……」
「ま、それ程面白いもんでもなかったから別にかまわないけどな」
「うん……」
「またそう言う顔をする。なら……」
祐一が私を抱き寄せる。
「あっ……」
「名雪が笑うまでこうしていてやるよ」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ私、もう笑わないね?」
「どういうことだ?」
「だって笑わなければ祐一がずっとこうしていてくれるんでしょ?」
「うっ。それはそれで困るかも……」
「ふふっ、冗談だよ」
私はそんな祐一がおかしくて、笑顔をこぼす。
「おっ、今笑ったな?」
「わ、笑ってなんかないよ〜」
「さて、そろそろ寝るか」
祐一はソファから立ち上がる。
「あ、待ってよ祐一〜」
私は祐一の背中を追いかけた。
祐一たちが2階へ上がっていったしばらく後……。
ダイニングでは秋子が洗い物を終え、戸締りを確認していた。
そして、そこから庭に咲いている紫陽花の花を見つめていた。
「正反対の花言葉、あなたはどちらがいいのかしら……。
やっぱり、あの花言葉よりも、もう1つの方が良いわよね?」
そう呟くとカーテンを閉め、2階へ上がっていった。。
庭にある紫陽花は、秋子の言葉を肯定するかのように、一粒の雫を垂らした。
紫陽花の花言葉。
『 浮気・心変わり 』
そしてもう1つ………。
『 ひたむきな愛情・辛抱強い愛 』
季節ネタでこんなSSを書いてみました。
名雪は7年も辛抱強く待っていたんですから、この花言葉はぴったりだと思います。
それにしても花言葉って色々ありますよね?
1つの花なのに3つも4つもあったりする花もあるし……。
紫陽花は花の色がすぐに変わるから『 心変わり 』とつけられたようです。
それと同時に、長く咲き続けるので『 辛抱強い愛 』というのもあるそうです。
ほかにも『 冷淡 』『 元気な女性 』っていうのもあるみたいです。
『 元気な女性 』よりも『 ひたむきな愛情 』の方が合いそうだったのでこっちにしました。
それと、祐一の言葉ですぐに『 心変わり 』しますしね。(笑)
いろんな意味で名雪にピッタリだと思います。
皆さんはどれが一番、紫陽花にふさわしいと思いますか?
例によって、感想などありましたら掲示板、ym2@jmail.co.jpに一言お願いします。