〜 新たな一歩 〜




『 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン 』
 テスト終了のチャイムと共に、教室内から張り詰めた空気が消え去る。
「祐一、テストどうだった?」
 テストが終わるなり名雪が俺に聞いてくる。
 今まで俺たちが受けていたのは一学期の期末テスト。
 これが悪いと夏休みの補習が決定してしまうので、名雪も不安なのだろう。
「可もなく不可もなくってところだな。お前はどうだ?」
「う〜ん、夏休みの補習には来なくてもよさそうだけど…」
 最後の方を濁していることが怪しいな。
「名雪なら大丈夫でしょ」
 香里が名雪を励ます。
「そうだよね?」
 名雪が香里に同意を求める。
 テストを受けたのはお前だろ?
「それより北川は…」
 北川の席を見てみると……。
「へへっ………うひひっ…」
 机に伏して、涎を垂らしながら真っ白に燃え尽きていた。
 ヤマが外れたんだな。
 夏休みの補習、頑張ってくれ。
「さて、帰るか?」
「あ、私部活…」
「そっか、じゃあ頑張れよ」
「うんっ」
 そう言うと名雪は一足先に教室を出て行った。
「私も栞と約束があるから」
「ん、じゃな」
 香里もそう言って出て行く。
「おい、北川。言っても無駄だと思うが、テストはもう終わったぞ」
「うひっ?」
「ダメだこりゃ……」
 さらば北川、もう会うことも無いだろう…。
 俺も北川の亡骸を置いて教室を後にした。
 教室の中には北川の奇妙な声だけが響いていた。


 俺がこの街に越してきてから約半年が経った。
 3年次のクラス替えも名雪、香里、北川と一緒になれた。
 商店街を歩いていると、ふとペットショップに目がいった。
 ガラス越しに見える店内に、子犬と遊ぶ子供の姿が見えた。
(……俺も昔はあんなふうだったのかな)
 昔を思い出す。
(……久しぶりに行ってみるか)
 そう思った俺は、水瀬家とは逆の方向の道を歩き始める。
 …そう、ものみの丘へ通じる道へ。
 丘へ向かう途中、いろいろなことを考える。
 普通では考えられない『 奇跡 』を起こした『 あいつ 』のことを…。
 しばらく歩くとやがて視界が開け、目の前に青空と草原が広がる。
 その草原の中に、1つの小さな影。
 俺はその影に見覚えがあった。
「……天野」
 天野が俺の声に気づき、こちらに振り返る。
「こんにちは、相沢さん」
「こんなところで何してんだ?」
「日光浴です」
「……とうとう、おばさんを通り越しておばあさんになったか?」
「失礼ですよ?」
 天野が少し冷めた口調で俺にそう言う。
「悪い、冗談だ。隣いいか?」
「どうぞ」
 俺は天野の横に腰を下ろし寝転がる。
「……相沢さんはどうしてここに?」
「聞かなくてもわかってるだろう?」
「そうですね」
 天野は空を見上げる。
「真琴、どうしてるんでしょうね…」
「さあな……。でも、あいつのことだからバカなことやってるだろうな」
 俺も空を見る。
 雲がゆっくりと流れていく。
「この丘の子は、同じ過ちを繰り返してしまうのでしょうか?」
「過ち……か」
「人と関わり、そして同じ過ちを繰り返す……」
 天野が遠くを見つめる。
「でもさ……それが過ちだとは限らないんじゃないか?」
「え?」
 天野が俺の言葉に驚いてこちらを見る。
「たしかに別れは必ず来るけど、人と関わったことが過ちって決めつけるのはな…」
 俺は上半身を起こし、森を見つめる。
「俺は、あいつと会えて良かったって思うからな」
「相沢さん……」
「天野はどうだ?」
「……私も、あの子と会えて良かったです」
「じゃ、それでいいだろ?」
「そう……ですね」
 そう言いながら、天野が微笑む。
「それに俺たちが忘れない限り、あいつは俺の中で生きてるしな」
「そうですね。でも……」
「でも?」
「その台詞は、聞いてる方は恥ずかしいですよ?」
 天野が少し意地悪そうに笑う。
「うっ……」
 痛いところを突くなぁ。
「と、ところで、テストどうだった?」
「私は何も問題ないです」
「天野は優等生っぽいもんなぁ…」
「『 っぽい 』ってなんですか?」
「いや、なんとなく」
「そういう相沢さんはどうだったんですか?」
「俺か? ま、夏休みは学校に行かなくてもよさそうだ」
「そうですか…」
「テストも終わったことだし、どこかに遊びに行くか?」
「どうしてそうなるんですか?」
「いや、これからしばらくの間勉強しなくていいだろうし…」
「相沢さん、受験生ですよね?」
「ぐはぁ」
 こ、こいつは……。
「私なんかよりも、他の方を誘ったらどうですか?」
「う〜ん、名雪は部活だし、栞は香里とセットだし。
 舞も佐祐理さんと一緒だし、あゆは突然現れるからなぁ…」
「それで残った私、ですか?」
 うっ、少し目線が冷たい。
「いや、天野と行きたいんだ」
「………」
 天野が何か考え込む。
「ダメか?」
「……本当に私でいいんですか?」
「もちろん」
「…では、ご一緒させてもらいます」
「じゃあ、どこに行くかは喫茶店かどっかで決めようぜ」
「どうしてですか?」
「いや、ここはちょっと陽射しが……」
 俺のその言葉に天野が少し笑う。
「わかりました」
 そして天野が立ち上がる。
「相沢さんの奢りですよね?」
「うっ……まぁ、しょうがないな」
 俺も立ち上がる。
「さて、いくか」
「はい。あ……」
「どうした?」
「1つだけ条件があります」
「条件?」
「はい」
「金ならそんなに持ってないぞ」
「そういうのじゃないです」
「じゃあなんだ?」
「その…私のことも……名前で呼んでください」
 少し恥ずかしそうにそう言う。
「構わないけど……どうしてだ?」
「相沢さん、他の方を呼ぶときは名前で呼んでいますから…」
「あ……」
 名雪、栞、香里、舞、佐祐理さん、あゆ……。
 言われるとそうだな。
「わかった。その代わり俺のことも下の名前で呼んでくれ」
「わかりました」
「じゃ、いこうか美汐?」
「はい。祐一……さん」
 俺達はものみの丘を後にする。
 そして新たな一歩を踏み出す。
 今までも、そしてこれからも、胸には大切な思い出を抱えながら……。
 ものみの丘の草原を、初夏の風が駆け抜けていった。





   〜 あとがき 〜

   さて、冬雪さんからのリクエストで美汐SSを書いてみました。
   あんまりキャラが掴めていないのですが、なんとか形にしてみました。
   タイトルの『 新たな一歩 』は一応、祐一と美汐の関係を暗示するように考えました。
   まぁ、こんなもので美汐萌えな方々は納得してもらえないでしょうけど…。(泣)
   どうか、そこは広いお心で…。
   リクエストはym2@jmail.co.jpか掲示板に連絡してくだされば受け付けます。
   でも、書くのは遅いかも知れません。
   気長に待ってくれると嬉しいです。
   それと、やったことの無いゲームとかはさすがに書けないのでお許しを…。
   では、この辺で〜。

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