〜 ためいき 〜




あの事件から半年近くが経ち、一月も下旬にり、寒さは衰えることを知らない
「それでは会長、また明日」
「はい。お疲れ様でした」
 形式的な挨拶を終え、車に乗り、鶴来屋を後にする。
 ブロロロロロー。
 窓から見える景色が変わっていく。
「ふぅ…」
「会長、大丈夫ですか? 最近お疲れのようですが…」
 私がため息をつくと、運転手が話しかけてきた。
「大丈夫よ。……ごめんなさい、心配かけたみたいで」
「いえ」
 それだけ言うと静かになった。
 やっぱり、周りから見ると疲れているように見えるのだろうか?
 この運転手も、普段は話しかけてくる事なんかなかったのに…。
『他人に迷惑をかけている』
 そう思うとより一層、心が重くなる。
 明日は急にお休みになったので、いい骨休みになるかも知れない……。
「ふぅ…」
 また、ため息が出た。
 そして車は私の家の前で止まった。
 
 カラカラカラカラ―――。
 以前よりも重く感じる玄関の戸を開け、家に入る。
「お帰りなさい、千鶴お姉ちゃん」
 初音が『パタパタ』と足音をさせ、出迎えてくれた。
「ただいま、初音」
 私はいつもの笑顔で答える。
 以前は偽りの笑顔だったけど、今は心の底から笑える。
「あのね、今日はご馳走なんだって」
 頭の上の『跳ね』を揺らしながら嬉しそうに言ってくる。
「そうなの? 何かあったの?」
「うふふっ、それは夕飯までの秘密だよ」
「そう…。じゃあ、楽しみしてるわね」
 そう言って私は仏間に向かった。
 帰ってすぐに、お父さまと叔父さまに挨拶をするのが私の習慣になっていた。
 その仏間に向かう途中、楓に会った。
「お帰りなさい、千鶴姉さん」
「ただいま、楓。あなたもお父さまと叔父さまに?」
「はい」
「そうなの…。あっ、楓。今日は夕飯がご馳走だって知ってる?」
 楓は『コクン』と頷く。
「じゃあ、何でご馳走なのかも知ってるの?」
「はい、でも…」
「判ってるわ、秘密なんでしょう?」
 また『コクン』と頷く。
「そう、じゃあ、しょうがないわね…」
「…ごめんなさい、姉さん」
「いいのよ、そんなに気にしないで。どうせすぐに判るんだから」
 私はそう言うと、楓の頭を撫でて、仏間に入った。
 そして、線香に火をつけて、お父さまと叔父さまに挨拶をした後、自分の部屋に戻った。
 
 部屋の中央にあるのテーブルの上にバックを置き、窓から夕日を眺めると、
「ふぅ…」
 とまた、ため息が出た。
 今日、何回目のため息だろうか?
 お父さまの死後、私はよくため息をしていた。
 私は長女だったので、妹達よりも人の醜い顔を見せられた。
 その頃、私はこの世の全てがどうでもいいことのように思えた。
 しかし、叔父さまが来てくれてから、私はため息をしなくなった。
 長女といっても当時、私はまだ未成年だったから、叔父さまの存在は心強かった。
 それからの暮らしは幸せだった。
 他人から見れば普通なのかも知れないけれど、私にはとても幸せな毎日だった。
 でも、そんな幸せも長く続かなかった。
 叔父さまが、お父さまのように『鬼』の力に苦しみだした。
 私は辛かった。
 今まで、叔父さまは私たちに良くしてくれたのに、私は叔父さまに何もしてあげれない。
 そして…、叔父さまは自ら命を絶った。
 私はまた、この世の全てがどうでもよくなった。
 それと同時にまた、ため息も出るようになった。
 しかし、耕一さんが来てからはため息が出なくなった。
 耕一さん。
 私の3歳違いの従弟。
 私の苦しみを知ってくれた人。
 私が殺そうとした人。
 私の犯した過ちを笑って許してくれた人。
 そして………私が愛する人。
 あの日、耕一さんは私を幸せにしてくれると言ってくれた。
 しかし、耕一さんは帰ってしまった。
 帰ってからも時間が空けば訪ねて来てくれるけど、大学もあるのですぐに帰ってしまう。
 クリスマスも、お正月も、耕一さんは忙しいと言い、来てくれなかった。
 初音や楓が残念そうな顔をしたことを覚えている。
 私にだって、耕一さんには耕一さんの都合があることは判っているつもり。
 でも、耕一さんとクリスマスやお正月は一緒に過ごしたかった。
 それも、できれば二人だけで…。
「ふぅ…」
 また、ため息が出た。
 耕一さんが帰ってからずっとこの調子だ。
 耕一さんの事を思うと、自分でも気がつかないうちにため息が出てしまう。
 首から下げているネックレスを強く握り締める。
 この前に、耕一さんが来た時に贈ってもらった、大切なネックレス。
 耕一さんは私に渡してくれる時、ちょっとバツが悪そうにして
「安物で悪いんだけどさ、これ、千鶴さんに…」
 と言って差し出した。
 私は値段とか、そういうんじゃなくて、耕一さんからのプレゼントなら何でも嬉しかったから。
 本当に嬉しかったから、私、思わず泣いちゃって…。
 そしたら耕一さん、急に慌てだして…。
 クスッ、そういう所は昔の『耕ちゃん』のままですね。
 私が泣き止むと、
「千鶴さんって、いつからそんなに泣き虫になっちゃったの?」
 って、意地悪そうに聞いてきた。
 でも、それは耕一さんが言っていい事じゃないですよ。
 だって…、耕一さんのせいで涙が出るんですから。
 私は机の上にある写真立てを手にとる。
 私と耕一さんが寄り添っている写真。
「ふぅ…」
 ため息をして、写真立てを伏せる。
 そして、服を脱ぎ、着替える。
 ここ一ヶ月は、こうして写真立てを伏せないと着替えられない。
 まるで、耕一さんに見られているような気がして…。
 着替え終わると、脱いだスーツをハンガーに掛ける。
 そしてまた写真立てを手にとる。
「ふぅ…」
 会いたい。
 耕一さん、あなたに会いたいです。
 最後に会ってからまだ一ヶ月くらいしか経っていないのはずに、とても長く感じる。
 あれ? また目の前の景色が歪んできちゃった。
 最近、この写真を見るといつもこうなってしまう。
 部屋の中は暖房を入れているとは言え少し寒いのに、眼と両頬が熱い。
 どうしてこんなに辛いのだろう?
 お父さまや叔父さまが亡くなったときよりも辛い。
 耕一さんは生きているから、会おうと思えばいつだって会えるのに…。
『俺が千鶴さんを幸せにしてあげる』
 私はその言葉を信じてきました。
 耕一さんは嘘をつかないって信じていました。
 でも、私、間違っていたんですね。
 耕一さん、嘘つきです。
 私、今、幸せなんかじゃありません。
 嘘をつく耕一さんなんて嫌いです…、大嫌いです。
 でも………、でも会いたい。
『コンコン』
「千鶴お姉ちゃん、梓お姉ちゃんが夕飯の準備が終わったって」
 ドア越しに初音が知らせてくれた。
「判ったわ。すぐに行くから先に行っててちょうだい」
「うん、わかった。じゃあ、早く来てね」
 初音はそう言うと、軽い足取りで階段を下りていった。
 あの子は強いわね…。
 耕一さんがいなくてあの子も寂しいはずなのに。
 私は…弱くなった。
 ううん、違うわね。
 私は最初から強くなんてなかった。
 強く装っていただけ。
 だって、耕一さんがいないだけで、一人のときは涙が止まらないもの…。
 ……だめね、こんなことじゃ。
 耕一さんに笑われちゃう……。
 さ、早く行かないとまた梓がうるさいわね。
 私は涙を拭って部屋を出る。
 廊下の空気は冷たい。
「ふぅ…」
 思わずため息が出たけれど、その息が白い。
『パタパタ』というスリッパの音を響かせながら居間に向かう。
 居間には既に梓、楓、初音の三人の姿があった。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
 私が謝ると梓が
「別に構わないよ、まだ全員そろってないからね」
 と少し嬉しそうに言った。
『全員そろってない』って、楓も初音もいるし…。
 二人の顔を見る。
 楓は心なしか、そわそわしているし、初音は何かを待ちかねているような感じがする。
 その時、テーブルの『ある席』にも食器が置いてあることに気がついた。
 …そこは叔父さまの席。
 半年前からその席は…。
 カラカラカラカラ―――。
 玄関のほうで戸が開く音がする。
「おっ!? やっと来たな」
 梓が待ちくたびれたように言う。
 私は急いで玄関に向かう。
 大した距離じゃないはずのに、とても長く感じる。
 そして、玄関に行くと、一人の男性が笑いながら立っていた。
 私の大好きな、あの笑顔をしながら…。
 私は思わずその男性………、耕一さんに抱きついた。
「千鶴さん? どう……したの?」
 顔は見えないけれど、耕一さんが慌てているのが判る。
 私は返事をする代わりに、耕一さんの背中に回した手に力を込める。
 そうしたら耕一さんは、私の髪を優しく撫でてくれた。
 耕一さんの手、暖かい…。
 ずっとこうしていたかったけど、そうもいかないので耕一さんの体から離れた。
「ごめんなさい、耕一さん」
 いくら優しい耕一さんでも、少し怒ってると思った。
 でも耕一さんは、
「俺のほうこそごめん。千鶴さんに寂しい思いをさせて…」
 と私の目を見て言ってくれた。
「そんなことないですよ…」
 さっきまでの気持ちが嘘のように思える。
 家の中とは言え、じっとしていると寒い。
 居間から慌てて出てきたので、スリッパも履いていないから、足元が冷えてきた。
「それよりさ、早く居間に行かない? ここ、寒いし」
 耕一さんが、私の様子を気遣ってか、そう言ってきた。
「そうですね。楓も初音も待っていますし、梓もうるさいですしね」
 私は少し笑って答える。
 そして、居間に行こうとした耕一さんが、
「あっ! 忘れてた」
 と、何かを思い出したように言った。
 そして、私のほうを向いて、
「……ただいま、千鶴さん」
 と、少し決まりが悪そうに、でも笑顔で言ってくれた。
 だから、私も、
「お帰りなさい、耕一さん」
 って、笑顔で答えた。
 
 今、時計の針は11:30を指している。
 居間には私と耕一さんの二人きり。
 梓と楓は明日も学校なので勉強中。
 初音は、はしゃぎ過ぎたのか、耕一さんの腕に抱きついいたまま眠ってしまった。
 仕方がないので、耕一さんに部屋まで運んでもらった。
「耕一さん、すみません。疲れているところを…」
「迷惑なんて、そんな…。こっちがお世話になってるんだから」
「そんなことないですよ。ここは耕一さんの家なんですから」
「じゃあ、お互いこういうのやめない?」
「クスッ、そうですね」
 なんだかおかしくなって、つい笑ってしまった。
「耕一さん、お茶でも入れましょうか?」
「えっ!? 千鶴さんが…?」
「はい」
「…じゃあ、お願いします」
 何か、妙な間があったような気がするけど、まあいいわ。
 せっかくだから、いい茶葉を使おう。
 …………。
「どうですか?」
 耕一さんの言葉を待つ。
「うん、おいしいよ、千鶴さん」
「よかった…」
 いつも、梓や楓に止められていたけど、私だってお茶くらい入れられるんだから…。
「耕一さん、今回はどのくらいこっちに居られるんですか?」
 来た早々、こんなことを尋ねるのは失礼かもしれないけれど、早く帰ってしまうようなら思いっきり甘えたい……。
「じゃあ、いつまで居ていい?」
 意味深な笑顔を浮かべながら私にそう返してくる耕一さん。
「『いつまで』って……、ここは耕一さんの家なんですから、いつまででも……」
「そっか……。じゃあ、4月頃までお世話になろうかな?」
「えっ!?」
「入試とかの関係でさ、大学はもう春までないんだ」
「本当ですかっ!?」
 思わず大きな声になってしまう。
「うん。だから、クリスマスと正月を返上してレポートを書いてたんだ……」
 耕一さんが少し言い難そうにそう言った。
「そうだったんですか………」
 それで耕一さん、こっちに来れなかったのね……。
 耕一さんとクリスマスやお正月を過ごせなかったのは残念だけれど、これから3ヶ月近く、耕一さんと一緒……。
 耕一さんと一緒……………。
「ところで、千鶴さん?」
「はっ、はい!?」
 急に声をかけられて驚いちゃった……。
「……明日なんだけど、時間あるかな?」
「明日ですか? 明日も仕事が………」
 …そう言えば、明日は急にお休みになったんだっけ。
「はい。明日は一日、空いていますけど…」
「じゃあ、どこかに出かけない? 二人だけでさ」
「えっ?」
『二人だけで』
 その言葉に、思わず照れてしまう。
「は、はい。喜んで」
「じゃあ、明日は寝坊できないから、今日はそろそろ寝ようかな…」
「…………もうお休みになられるんですか?」
 せっかく、耕一さんと久しぶりに会えたのに…。
「じゃあ、千鶴さんも一緒に寝る?」
 少し意地悪そうな顔になって、私に言ってくる。
「えっ!? な、何を言ってるんですか!」
「そっか…。千鶴さん、嫌なんだ…」
「…嫌っていう訳じゃ………ありませんけど」
「じゃあ、やっぱり一緒に寝る?」
「……もうっ、耕一さんのいじわるっ!」
 もう、耕一さんなんて知りませんっ!
「ごめん、千鶴さん。ちょっと意地悪してみたかっただけなんだ」
「…………」
 耕一さん、私の気持ちも知らないで……。
 少し、意地悪しちゃおう……。
「千鶴さんの困った顔とか、可愛かったからさ……」
「そんなこと言ってもダメですっ!」
「千鶴さ〜ん、ごめんってば〜」
 耕一さんが慌ててる。
「クスッ、冗談ですよ。私も意地悪してみたくなっただけです」
「……千鶴さん」
 耕一さんが、何か怒ったような顔をしている。
 そして、おもむろに私を抱き上げた。
「こ、耕一さんっ。何をするんですか!?」
 耕一さんは無言のまま、私を部屋まで運んでいった。
 そして、梓が敷いておいた布団の上に私を下ろす。
「こう……いちさん?」
「千鶴さん、俺をからかった罰だよ」
 そういうと、耕一さんは突然、唇を重ねてきた。
「ん………」
 長いキスの後、二人の顔が離れる。
 嬉しいけど、私は不機嫌そうな顔をする。
「千鶴……さん? どうしたの?」
 耕一さんが不思議そうに私を見ている。
 昔の『耕ちゃん』の顔で………。
「耕一さんばっかり、ずるいです……」
「えっ?」
「今度は、耕一さんが私をからかった罰を受ける番ですよ」
 そう言うと、私は耕一さんの唇に、自分の唇を重ねた。
 
 ……………。
「………う〜ん」
 意識が次第にはっきりとしてくる。
 隣には……耕一さんの寝顔。
 クスッ、……かわいい。
 私は耕一さんを起こさないように起き上がる。
 自分の部屋に戻り、着替える。
 今の時間は9:30。
 梓たちはとっくに学校に行ったのね……。
 居間に行くとテーブルの上にラップがしてある朝食と、書き置きがあった。
『 千鶴お姉ちゃんへ
  起こすのも悪いと思ったから、起こさないでおくね。
  朝ご飯ちゃんと食べてね。初音 』
 ……あの子たち、気を遣ってくれたのね。
 ありがとう。
 私は耕一さんを起こしに行く。
「耕一さん、もう朝ですよ」
「…………」
 う〜ん、起きる気配がないわね……。
「耕一さん、起きてください。耕一さ〜ん」
「………う〜ん」
「おはようございます、耕一さん」
「……おは……よ。千鶴…さ…ん」
 それだけ言うと、また眠ろうとする耕一さん。
「もうっ、耕一さん。起きてくださいよ〜」
「う〜ん、あと5分…………」
 ………どうしようかしら?
 ちょっと恥ずかしいけど………。
「!?」
 慌てて耕一さんが飛び起きる。
「耕一さん、おはようございます」
「千鶴さん………いま、キス―――」
「い、居間に朝食の用意ができてますから……」
 顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
 私は逃げるように耕一さんの部屋を後にした。
 
「ごちそうさま」
 あれから私たちは遅い朝食をとった。
「耕一さん、お茶入れましょうか?」
「あ、じゃあ、お願いしようかな?」
「はい」
 私は昨日のようにお茶を入れて耕一さんに差し出す。
「ありがとう、千鶴さん」
 耕一さんが受け取ったお茶をすする。
「千鶴さん、どこか行きたいところとかある?」
 急にそんなことを聞いてくる耕一さん。
「えっ? 行きたいところ……?」
「うん」
「私は、その……耕一さんと一緒ならどこでも………」
「……じゃあ、俺に任せてくれる?」
「はい」
「じゃあ、準備しようかな……」
「……そうですね」
 そして、私たちは出かけることにした。
 
 私たちは、あの裏山の道を歩いていた。
 できることなら、もう近づきたくないあの場所……。
 そして、私はその場所に立っている。
 耕一さんを殺してしまいそうになった場所。
 私が、別の『鬼』に殺されそうになった場所。
 そして……耕一さんが私を助けてくれた場所。
「千鶴さん」
 私が物思いにふけっていると耕一さんが私を呼んだ。
「はい?」
「千鶴さんにとってここは辛い思い出の場所だと思う……」
 そう言うと、耕一さんはうつむいてしまった。
「…………はい」
「だから、俺が………」
 そこまで言うと、小さな小箱を取り出して
「俺がこの場所を、いい思い出の場所にしてあげたい……」
 と言い、その箱のフタを開け
「良かったら、これ、受け取ってもらえないかな?」
 と恥ずかしそうに言ってきた。
「……耕一さん」
「俺、まだ学生だから、もう少し待ってもらわなきゃだけど、良かったら受け取ってほしい」
 私の目を真っ直ぐに見つめて言ってくる。
「こういうときは、男性の方が指にはめてくれるものですよ……」
「……そうなんだ。俺、知らなかったよ」
「そうですよ……」
 私は左手の薬指に指輪をはめてもらうと、耕一さんに抱きついた。
 
 その、帰り道。
「耕一さん、寒くありませんか?」
「そう? 厚着してきたからそんなに……」
 もうっ! 耕一さんったら、鈍いんだから………。
「ふぅ…」
 その時、不意にため息がでた。
「へぇ……。千鶴さんのため息ってそんな感じなんだ……」
 と、やけにニヤニヤしながら耕一さんが言ってきた。
「もうっ! からかわないでくださいっ!」
 私がそう言うと、耕一さんは小走りで逃げ出すように道を走っていった。
(耕一さんったら、本当に鈍いんだから……)
 これから先も、私はため息をし続けることだろう……。
 でも、それは今までとは違う、別の意味のため息になると思う。
(叔父さま……。私、これからは、叔父さまの本当の娘になりますね)
 ……私は空を見上げた。
 そして、この空の彼方にいる叔父さまに
(ふつつかものですが、よろしくお願いしますね)
 と告げると、私は耕一さんを追いかけた。
 私が吐いた先程のため息は、白く曇り、冬の空気に溶け込んでいった。





   〜 あとがき 〜

   でうも(←タイプミスじゃないですよ)、ym2です。
   これは痕をやって、切なくなっていた時に思いついたものです。
   千鶴さんの口調とかって書いてて難しかったです。
   丁寧な口調ってのは……普段は使わないもので……。
   しかも、千鶴さんの視点で書いてるもんで……。
   男の私にとって、女性の心情はよくわかりません。
   このダブルパンチ(核爆)は強烈でした。
   では、機会があったらまた次の作品でお会いしましょう。


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