穏やかな春の陽射しが、あるカップルを温かく見守っている。
 向かい合って座り、楽しそうに話をしている。
 そして女性の方が何かを思い出したように立ち上がった……。


COLORFUL ALBUM



 卒業式の校長や来賓の祝辞など、退屈なものと相場は決まってるわけで……。
「………眠い」
 あくびを堪えながら、椅子の背もたれに体重をあずける。
 壇上では延々と俺たち卒業生を祝う(?)話が続いている。
(そう言えば、この後クラスでなんかやるんだったな……カラオケだっけ?)
 卒業式の後、クラスでやる打ち上げのことを考える。
(歌、あんまり得意じゃないんだよね……)
 ふと、時計を眺める。
 もう10分も話が続いている。
 話す人が入れ替わるので、その度に立って礼をしなければならない。
 それがなきゃ、寝てるのに……。
「………ふぅ」
 思わず出た溜め息は白く濁った。


 拍手の雨に迎えられながら、式場を後にし、教室に戻る。
「冬弥。校長先生の話とか真面目に聞いてた?」
 式場を出るなり、彰が俺に話しかけてくる。
「聞いてない」
「えっ? 冬弥君聞いてないの?」
 後ろにいた由綺が驚く。
「由綺……まさか真面目に聞いてたの?」
「う、うん……」
 なぜか申し訳なさそうな顔をする。
「ダメだよ、ちゃんと聞かないと」
 どうやら彰まで真面目に聞いていたらしい。
「……そうだ、はるかも聞いてないと思うぞ」
 目の前の人の中からはるかを探す。
 ………いた。
「お〜い、はるか〜。ちょっと……」
 のんびりと振り返って、その場で俺たちが来るのを待つ。
「お前、さっきの話し聞いていたか?」
「うん」
「ほらっ! 冬弥だけだよ、聞いてないの」
 彰が調子に乗る。
 ……この野郎。
「でも、聞いてただけ」
 はるかが思い出したように言う。
「…………」
「…………」
「…………」
 3人とも黙ってしまう。
「そうか……」
 そして、俺たちは脱力感と共に教室に戻る。
 廊下には既に、友人との別れを惜しむ者たちが固まっている。
 自分の教室に帰ると、クラス内ではこの後のことについての会話が多かった。
「藤井君たちも来るでしょ?」
「うん。別に予定ないし……な?」
「そうだね」
 彰たちが頷く。
「じゃあ、4人決定っと……」
 メモ帳になにやら書き込んでいる。
 3月になったとは言えさすがにまだ寒い。
 たまらずストーブにあたりに行く。
「藤井、お前もう決まったんだよな?」
 友人が話しかけてくる。
「ああ、悠凪だ」
「そっか……いいなぁ」
「お前は?」
「俺はまだだ……発表までもう少しだからな」
「……大丈夫だよ」
「だといいけどな」
 顔を合わせて笑う。
「悠凪かぁ……森川も一緒なんだろ?」
 内緒話でもするように小さな声で聞いてくる。
「まあ……な」
「いいよな〜。彼女もいて、大学も決まって……」
 他のクラスメートも会話に入ってきた。
「それで……どこまでいったんだ?」
「…………まだ、キス……しか」
「本当か!? 嘘つくなよ?」
 なぜ、そんなに本気になる?
 そのやる気を勉強に向けろよ……。
 って、人のこと言えないけど。
「あ〜、なんだっていいだろ!」
「い〜や、洗いざらい白状してもらう」
 いつの間にか俺はクラスの大半の男子に囲まれていた。
「どうなんだ?」
「本当はどこまでいったんだ!?」
「もう、したんだんろ!?」
(誰か……助けて)
 俺がそう思ったとき、ドアが開いて担任が入ってきた。
「話したいこともあるかもしれないが、とりあえず席についてくれ」
(助かった……)
 俺はこの時ほど教師に感謝したことは無いだろう。
「じゃあ、俺からの祝辞……」
 クラスのほとんどの顔が不満なものに変わる。
「は、先程うんざりするほど聞いたと思うから、配る物を配って終わりにするか」
 担任が『ニッ』と笑う。
 その言葉を聞いた途端、生徒の表情が一変し、明るいものへとなる。
(この先生は話のわかる先生だったな……)
 ふと、そんなことを思う。
 やがて、配布物も配り終える。
「じゃあ、これで終わりだな。3年間ご苦労様」
 その担任の言葉を聞き、堪えていた涙を流す女子もいた。
「ちなみに、来年も受験する者は面倒みるからな」
 再び『ニッ』と笑い、教室を出ていった。
 そして、先程俺たちに出席の確認をした女子が前まで出る。
「では、この後の打ち上げに参加する人は、着替えて5時に―――」
 詳しい説明がされ、解散となった。
「冬弥、どうする?」
 彰が俺のところまで来る。
「時間まで2時間くらいしかないからな、家に帰って着替えて出ればそれくらいだろ?」
「そうだね」
「じゃ、帰るか」
 由綺の姿を探す。
 教室の隅の方で由綺は他の女子生徒と話をしていた。
「……そっとしておくか」
「いいの?」
「最後だしな。俺とはいつでも会えるからさ」
「そうだね」
 由綺には声をかけずに教室から出る。
 廊下ですれ違う友人と会う度に立ち止まり、会話をして玄関までいく。
「……ここが勝負なんだよな」
 これから起こる事態に対して対策を練る。
「あきらめようよ、冬弥」
「……そうだな」
 去年は俺たちも同じことをしていたので、対策を練っても無駄だとわかる。
 毎年、在校生が卒業生を玄関を出たところで歓迎をして送るのだ。
 その歓迎の内容は…………。
「行くか……」
「……うん」
 スリッパを脱ぎ、靴を履き替え外に出る。
『先輩っ! 卒業おめでとうございますっ!!』
 本当にめでたいと思ってるかどうか疑問に思う言葉を言いながら、多くの生徒がタックルをしてくる。
「くっ……」
 しかし、ここで簡単に倒れるわけにはいかない。
『おめでとうございますっ!』
 第2波がやってくる。
 それに耐えながらも前進をする。
 何とか人込みを掻き分けてその空間から脱出する。
「……彰?」
 気がつくと彰の姿が無い。
「………あいつ」
 振り返ると胴上げされている彰がいた。
 彰が来るのを待つ。
「……死ぬかと思った」
「一撃目で倒れるからダメなんだよ」
「わかってるけど……」
 去年は俺たちがやっていた訳だからそうだろうがな。
 一撃目のタックルで倒れると、第2波が胴上げをする。
 この学校の伝統らしい。
 ……妙な伝統だよな。
 本当に祝ってるのかよ。
 中には殴ってくるやつとかもいるんだぞ……。
「ふぅ……じゃ、帰るか」
「そうだね」
 そして、俺たちは学校を後にした。


 時刻は4時50分。
 約束のカラオケボックス店の前にクラスメートが集まっている。
「結構来るんだな」
「そうだね。でも、クラス全員の半分くらいかな?」
 彰が人数を数えながら言う。
「ま、そんなもんだろ」
 5時になったので店の中に入る。
 1番大きな部屋に通される。
「うわぁ〜」
「でかいな……」
 部屋に入ると、クラスメートからそんな声が聞こえてくる。
「じゃあ、時間は気にしないでどんどん行きましょー!!」
『オー!!』
 皆、自分の歌う歌のコードを探している。
 通い慣れているやつは暗記していて、既に登録している。
 そして、音楽が流れ出し、会場は盛り上がっていく。
 ―――1時間後。
「………」
 俺が由綺の異変に気がついたのは1時間が経ったときだった。
 さりげなく由綺の隣りに座り、聞いてみる。
「どうしたの、具合でも悪いの?」
「……ううん」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
 由綺が微笑む。
 しかし、どこか悲しい。
 その時、俺はトイレに行きたくなった。
「ねぇ、冬弥君……?」
「あ、ごめん由綺。ちょっとトイレ行ってくる」
「あ……」
 俺は部屋を出て、トイレに行って用をたす。
 手を洗い、トイレから出てくると、由綺が立っていた。
「由綺も?」
 最後の方は言葉を濁して聞く。
 由綺は首を横に振る。
「どうしたの?」
「……冬弥君。ひょっとして、私の他に好きな子が………いる?」
「えっ!? どうしたの、いきなり……」
「いるの?」
 由綺が瞳を潤ませて聞いてくる。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって……冬弥君、帰るとき声をかけてくれなかったから……」
 由綺が俯く。
「あ……。あれは、由綺の話の邪魔しちゃ悪いと思って……」
「………本当?」
「うん。……ごめん、やっぱり声かけた方が良かったよな……」
 俺は優しく由綺を抱きしめる。
「……私の方こそ、ごめんなさい」
「いや、俺が悪いんだ。また、前と同じことを繰り返しちゃうところだったな……」
 由綺の髪を撫でる。
 このサラサラとした感触が俺は好きだ。
「あの時は、私が勝手に勘違いしちゃっただけ……。冬弥君は悪くないよ」
「いや……誤解されるようなことをした俺が悪いんだ」
 俺は当時を思い出す。
 ……………。


 ――― 文化祭の準備の1週間前。
 俺たちのクラスは喫茶店をやることにしたらしい。
 まあ、エコーズでしてるから俺は問題ないけどね。
「冬弥君。冬弥君は何の係?」
 放課後、由綺が俺にそう聞いてきた。
「ん〜、確か調理の方だったような気がする。由綺は?」
「私はウェイトレスみたい」
 そうだろうな。
 とりあえず可愛い女の子で客を集めないと……。
 大体予想はついていたけどね。
 ……でも、なんかむかつく。
 由綺は俺の彼女なんだぞ?
 手を出すやつがいたら……。
「冬弥君? どうしたの?」
 俺の顔を覗き込むように聞いてくる。
 思わずドキッとしてしまう。
「な、なんでもないよ。それより、今日も養成学校あるの?」
「……うん」
「そっか……」
 分かっていることだけど、ちょっと悲しい。
「俺もなんか準備があるみたいだから一緒に帰れそうにない……ごめんな」
「ううん。元々私の方が無理言ってるんだから、冬弥君が謝る必要なんてないよ」
「藤井ク〜ン。ちょっと来て〜?」
「あ……。じゃあ、また明日」
「うん。じゃあね、冬弥君」
 由綺は笑顔で言ってくれた。
 廊下を曲り、由綺の後姿が見えなくなると俺は声のした方に行った。


 ――― 文化祭3日前。
「それでさ、彰がさ……」
 今日も準備で放課後も残っているが、由綺も養成学校が休みなので、今は世間話をしている。
「藤井ク〜ン、ごめ〜ん。ちょっと手伝って〜」
「ふぅ、これから面白いってとこなのに……」
「続きはまた後のお楽しみだね」
「ごめん。じゃあ、俺行ってくる」
「うん」
 俺は由綺との会話を打ち切り、準備に向かった。


「最近、冬弥君とあんまりお喋りしてないなぁ……」
 お手洗いからの帰りの廊下でポツリと呟く。
 私が教室のドアを開けようとすると、中から話し声が聞こえてきた。
「それでね……森さん、藤井君のことが好きなんだって!」
 えっ!?
「え〜? でも藤井君って、森川さんと付き合ってるんでしょ?」
「そうだけど……ほら、森川さんって放課後も忙しいじゃない?」
 森さんって……さっき、冬弥君を呼んだ人だよね……?
「それで、さみしいから他の女の子に走っちゃうって?」
「そう!」
「そうかなぁ〜?」
「間違いないわね。その証拠に藤井君、楽しそうに話をしてるわよ」
「う〜ん」
 ……冬弥君が?
 嘘だよね……そんなことないよね?
 私の足は自然と前に進みだした。
 やがて……森さんと楽しそうに話をしている冬弥君の姿を見つけた。
「………冬弥君」
 私はそれ以上その場にいることができなくなり、その場から走って逃げた。


 ――― 文化祭前日。
「由綺、明日は一緒に回ろう?」
 私たちは今、準備を終えて久しぶりに一緒に帰っている。
 でも、私はなんだか嬉しくない。
「由綺?」
 冬弥君が不思議な顔をする。
「あ……なんでもないよ」
「そう? それで、明日一緒に回ってくれるよね?」
「冬弥君、当番はいつ?」
「えっと……午前だったかな?」
「あ……私は午後からなんだ」
「え……? あ、じゃあ無理か……」
「うん……ごめんね」
「なら、当番代わってもらおうかな……」
「あ、そこまでしなくてもいいよ。……他の人に迷惑だよ?」
「でも……」
「じゃあ、今度一緒にお買い物に行こう?」
 ……心が痛い。
 そんな日が本当に来るのだろうか?
 これ以上、私の我が儘に付き合ってくれるのだろうか?
 色んな考えが私を苦しめる。
「由綺がそれでいいんなら、別にいいけど……」
「うん。ありがとう、冬弥君」
「ははっ、これくらいお安い御用だよ」
 その笑顔は……本当だよね?
 私、信じるよ?
「あ、じゃあ私こっちだから……」
「うん。じゃあ、明日ね」
「おやすみなさい、冬弥君」
「おやすみ、由綺」
 私、信じていいよね?
 ねぇ? 冬弥君………。


 ――― 文化祭当日。
 結局、私は明け方まで眠ることができなかった。
 朝、家を出るときにお母さんに『大丈夫?』と言われた。
 私はまだ……大丈夫だよ。
 自分にそう言い聞かせ、学校に来た。
「じゃあみんな、今日は楽しめよ」
 いつの間にか朝のHRも終わっていた。
 少し、頭がボーっとしてるみたい。
 私の担当の時間は……30分後。
 それまで、冬弥君とお喋りしていたいな……。
 教室の中で冬弥君の姿を探す。
 ……いた。
「冬弥く……」
 私は途中で呼ぶのをやめた。
 私の目に、森さんと楽しそうに話す冬弥君の姿が映ったから……。
 そして、聞きたくない会話も聞いてしまった。
「藤井君、今日……良かったら一緒に回らない?」
「う〜ん……彰と回ろうと思ったけど……」
「あら? 七瀬君なら澤倉先輩のところに行ったって……」
「……あんにゃろう」
「ね? 一緒に回ろうよ?」
「う〜ん……そうだなぁ、そうしよっか?」
「本当!? じゃあ早く行こっ!」
 森さんが冬弥君の手を掴んむ。
 そして2人は教室を出ていった。
「森川さん、そろそろ準備しましょう?」
「あ……うん」
 そんな気分じゃなかったけど、クラスに迷惑をかける訳にはいかない。
 これから3時間……ちょっと長いけど頑張ろう。
 大丈夫、私は1人でもきっと大丈夫。
 自分にそう言い聞かせて接客をする。
「いらっしゃいませ」
「おっ! 君、可愛いねぇ〜。何時に当番終わるの? 一緒に回ろうよ?」
「あ……すみません。私、もう約束しているんで……」
「そっか、残念だな。じゃあ……カフェ・オレ1つ」
「かしこまりました」
 約束なんかしてないけど……。
 冬弥君、今頃……森さんと楽しんでいるのかな?
 それから1時間が経ったけど、予想していたよりもお客さんの量が多い。
 どうしてかな?
「森川さ〜ん、5番テーブルのオーダーお願いしま〜す」
「あ、はい」
 急いで5番テーブルに行く。
「あ……」
「結構忙しそうだね? 由綺」
「冬弥……君」
 そのテーブルには冬弥君ともう1人……森さんが座っていた。
「……ご注文はお決まりでしょうか?」
「……由綺?」
 私の事務的な態度に冬弥君が驚く。
「私は紅茶を。藤井君は?」
「あ……コーヒー」
「紅茶にコーヒーですね。しばらくお待ちください」
 冬弥君たちに背を向け、オーダーを告げにいく。
 どうして……どうして私に笑いかけるの?
 何で私に見せつけるの?
 どうして……。
 目の前が霞む。
 ……私、泣いてるのかな?
 その次の瞬間、私の意識が遠のいていった。


 目が覚めると私はベットの中にいた。
「……あれ?」
 どうして、私こんな所に?
「由綺! 大丈夫!?」
「……冬弥君?」
 どうして冬弥君が?
 森さんと一緒じゃないの?
「………良かった」
 冬弥君が安堵の息を漏らす。
「……由綺、急に倒れちゃうんだもん。ビックリしたよ」
「え?」
「由綺、俺たちのオーダー受けた後、倒れちゃったんだよ?」
「そう……なんだ」
 私は上半身を起こす。
「保健の先生は過労だって言ってたよ。疲れてるなら、ちゃんと言わないと……」
「ごめんなさい……」
「まぁ、無事でよかったよ」
 私に優しく微笑みかけてくれる。
 その笑顔が私の心を強く引き裂く。
「……もういいよ、冬弥君」
「え? 何が?」
「森さんと約束してるんでしょ? ……行ってあげないと」
「ああ、そんなことか。それなら断ったよ」
「えっ?」
「こんな状態の由綺を放っておけないしね」
「……私は1人でも大丈夫だから」
 本当はそんなことない。
 でも…………。
「だから、行ってきていいよ?」
 今の私に出来る精一杯の強がり。
「そっか……」
「うん、だから……」
「でも、俺は大丈夫じゃない」
「え……?」
 冬弥……くん?
「俺は由綺がいないと辛いんだ……」
「……冬弥君」
「だから、ここに居てもいいか?」
「………うん」
「由綺……?」
 冬弥君が不思議そうな顔をする。
「あ……」
 私は自分でもわからない内に涙を流していた。
「………由綺」
 冬弥君は私を優しく抱きしめてくれた。
「私、本当は大丈夫じゃなかったんだ……」
「……なら、どうして話してくれなかったの?」
「冬弥君、森さんのことを好きになったんじゃないかって思って……それで」
「そんなこと………」
「私、ちょっと前に森さんが冬弥君のこと好きだって聞いて……」
 冬弥君が口を閉ざす。
「冬弥君も楽しそうに話をしてたから……私……」
「ごめん……ごめんな、由綺」
 冬弥君が私をもっと強く抱きしめてくる。
「でも、ちゃんと断ったから」
「えっ?」
「さっき告白されたけど、断ったんだ」
「……本当?」
「うん。俺、由綺がいないとダメみたいだから」
 冬弥君が照れくさそうに微笑む。
「ごめんなさい……私、勝手に勘違いして……」
「いや、俺は嬉しいよ」
「え?」
 どういうことだろう?
「由綺、やきもち焼いてくれたんだろ? それだけ俺のこと好きでいてくれるってことじゃないか?」
「あ………」
「うれしいよ、由綺」
 髪を撫でてくれる。
「…冬弥君も……嫉妬してくれる?」
「そりゃ……まぁ」
「うふふっ」
「……やっと笑ったね」
「え?」
「いや、最近由綺の笑顔見てなかったからさ」
「そ、そうかな?」
「ま、そんなことどうでもいいか」
「うん」
 しばらく私たちはそのまま抱き合っていた。
 冬弥君の匂いがする……。
 優しい匂い……。
『これより10分後、第一体育館にてフォークダンスを行います。皆様、どうぞご参加ください』
「もうそんな時間か……」
「ねぇ、冬弥君?」
「なに?」
「私たちも踊ろう?」
「でも……由綺、体は?」
「大丈夫だよ」
「本当?」
「うん」
 多少無理してでも踊りたいよ……。
「……わかった。それじゃあ行きましょうか、お姫様?」
「うんっ!」
「お姫様は『うんっ!』なんて返事はしないぞ?」
 意地悪そうな笑顔を私に向ける。
「う〜、冬弥君の意地悪……」
「ごめんごめん」
「もうっ……許してあげるのは今日だけだよ?」
「は〜い」
 そして私たちはお互い顔を見合わせて笑った。


 ……………。
「もう、あんな誤解はされたくなかったのに……俺ってバカだよな」
「そんな! 私が悪いんだよ……ただ声をかけてくれなかっただけなのに……」
 このままではラチがあかないな……。
「じゃあ……おあいこだな」
「うん」
 由綺が微笑んで頷く。
「そろそろ戻ろうか?」
「そうだね」
 俺たちが部屋に戻ると……。
「藤井っ! 森川さんを泣かせるとは何事だっ!」
「サイテーよ、藤井君っ!」
 俺は罵声を浴びる。
「……へ?」
 状況がつかめない。
「皆、2人を見てたんだよ」
 彰が面白そうに笑って言う。
「え?」
 見てた……って、今のを?
 由綺の顔が赤くなる。
「お、お前らっ!」
「藤井、顔が赤いぞ?」
「う、うるせえっ!」
 この後、俺だけ散々からかわれた。


 そろそろ、時間もいい頃になったので終わりにすることになった。
 そして、最後に写真を取ることになった。
「台は……これでいいわね」
 部屋の中にあったテレビの上にカメラを置き、タイマーをセットする。
 セットした女子が定位置に納まる。
「冬弥君……」
 俺の隣りには由綺がいた。
 俺は由綺の肩を抱き寄せる。
「あ……」
 由綺に優しく微笑みかけてやる。
 由綺も微笑んでくれた。
「そろそろよ〜」
 その声に気づき、カメラを見る。
 そして、カメラのシャッターがおりた。


 ――― 3年後。
「由綺、何探してるの?」
 俺は由綺の部屋に遊びに来ている。
「高校の時のアルバム。なんか見たくなっちゃって」
「そっか……どこの学校もそろそろ卒業式だしな」
「うん、だから………あった!」
 由綺がアルバムを持ってきて広げる。
「へぇ〜。懐かしいな」
「うん……。あ、この写真」
 由綺がある写真を指さす。
「ああ、卒業式の日に行ったカラオケのときのやつだな」
「うん」
「由綺、あの時泣くんだもんなぁ。まいったよ」
「う〜」
 由綺が困ったような顔をする。
「それを覗き見るこいつらもどうかと思うけど……」
「ふふっ、冬弥君いじめられたよね?」
「まぁ……ね」
 思わず苦笑する。
「そう言えば、それまで由綺は俺の後ろを歩いてたよね?」
「う、うん……」
「どうして?」
「なんか……冬弥君の彼女って見られるのが……」
「嫌だった?」
「そんなことないよ! ただ……冬弥君の後ろって安心できたから……」
「……そっか」
「でも、冬弥君の後ろを歩くのはその日で卒業したんだよ?」
 由綺が微笑む。
「いつまでも冬弥君の後ろを歩いていたら、ダメだから……」
「なんで?」
「ふふっ、秘密だよ」
(だって……結婚式の時は、隣りを歩かないとダメだから……)
「……なんか悔しいな」
「ふふふっ」
 また笑って、由綺は再びアルバムに没頭し始める。
「懐かしいなぁ……」
 由綺はアルバムに夢中になる。
 俺は床の上に置かれていたもう1つのアルバムを手に取る。
「由綺、このアルバムは?」
「それは……大学に入ってからのアルバムだよ」
「見てもいい?」
「いいけど……つまらないよ?」
 とりあえず俺はアルバムを開けてみる。
 しかし、2ページも見ると、残りは何も写真が無かった。
「お仕事とかで、あんまり写真とか撮ってる時間無いんだ……」
 由綺が寂びそうに呟く。
「由綺……。じゃあ、これから撮っていこうよ」
「え?」
「そして、俺と由綺の2人だけのアルバムに貼っていこう?」
「うんっ!」
「高校のアルバムに負けないくらい、いろんな写真を撮ってさ……」
「じゃあ、いろいろな場所にお出かけしようね?」
「ああ、そうだね……」
 …………。

 今は真っ白なこのアルバム……。

 いつか、2人の写真で多彩に飾られるように……。

 その日はそう遠くないはずだから……。

 そして、そのアルバムには……。



 2人の輝く笑顔が、きっと写っているはずだから。






  〜 あとがき 〜

  どうも、最近創作活動を怠け気味のym2です。(爆)
  卒業シーズンなので、こんなのを書いてみました。
  ちなみに、この中に出てくる玄関での出来事は我が母校で実際にあることです。(笑)
  おそらく、他にも多く学校で似たようなことがあるでしょうけど……。
  では、例によって苦情、批評などあったらメールくださいね。
  じゃあ、また次回作(?)で。

  ってことで、次回作(?)になりました。(笑)
  自分で書いてて内容が薄いと思ったんで、バージョンアップです。
 『由綺が何故声をかけなかっただけで泣いたのか?』
  の部分をなんとか埋めました。
 『卒業SS』ではなくなった気もしますが………にはは。(汗)
  後半も苦し紛れに少しプラスしてみました。
  本来は他のSS用のネタだったのですが、ちょうど良かったので採用しました。(笑)
 (ちなみに元のネタは詩っぽいやつでした)
  では、こんなものでも宜しければ楽しんでくださいね。

  追記 H13.3.28
  森川由綺FC 寄贈日  H13.3.28


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