〜 始めに 〜
   *全シナリオのネタバレを『軽く』含みますのでご了承ください。
    名雪EDから一年後くらいです。
    ヒロインたちは全員生きています。


【 Kanon 】   〜 short story 〜


Endless Waltz



 ――― 学園舞踏会
 今年から、一般の方も参加できます。
 参加料は無料です。お気軽にご参加ください。

 開催場所  本校体育館
 日時・時間  1月27日(土)6:00〜8:00



――― 1月20日(土) P.M 4:30
「そろそろ、舞踏会の時期ね」
 商店街の張り紙を見て、香里がポツリと言った。
「…そうか、受験のことばっかりで気がつかなかったな」
 香里は問題ないとして、俺と名雪………他一名は周りのことにそんなに気を回せなかった。
「なんだ? その『他一名』ってのは?」
「ん、お前のことに決まってるだろう。なあ、北川?」
「……ふんっ、どうせ俺は脇役さ…」
 あ、いじけた。
(お前は書くのが面倒だから、少しこのままでいてもらおう by作者)
 ん? なんか変な声が聞こえたような……、気のせいか。
「どう、相沢夫妻? 参加してみたら?」
「か、香里! 夫妻ってなに?」
 名雪が顔を赤くして香里に抗議してる。
「あ、ごめんなさい。水瀬夫妻だったかしら?」
 なおも、意地悪そうに笑って言ってくる。
「そういう問題じゃないよ〜」
 いつも通り、香里にからかわれている名雪。
 単純と言うか、素直と言うか…。
「俺たちのことより、香里はでないのか?」
「でないわよ」
 即答だな、おい。
「え〜。お姉ちゃん、でないんですか?」
 俺たちがその声に気がついて振り返ると、そこには栞がいた。
「し、栞…。いつからそこに?」
「…最初からいました。作者が台詞を書いてなかっただけです」
「そ、そうなの?」
 香里がうろたえている………珍しい画だ。
「ねえ、お姉ちゃん。舞踏会、でようよ?」
「…栞がそう言うんならしょうがないわね」
 おい、香里。
 妹には甘すぎないか?
「そういうわけで、あなた達もでるのよ」
「なんで? 俺たちがでる必要はないだろ?」
「祐一さん、でないんですか?」
 涙目になった栞が言ってくる。
「あ・い・ざ・わ・君?」
「喜んでお供させていただきます」
 香里の『気』……いや、むしろ『氣』が変わった。
 逆らうと命はない、本能がそう言っている。
「名雪さんもでましょうよ」
「で、でも、私、踊りなんてできないよ〜」
「あ、そういえば俺もできないんだ。残念だなあ〜」
「では、私が教えましょうか?」
 こ、このおっとりとした声は…。
「あ、秋子さん…」
「お、お母さん。どうしてここに?」
「買い物の帰りよ」
「それより、秋子さん。ダンスなんてできるんですか?」
「ええ、少しくらいなら」
 この人の『少し』は、普通の人の『かなり』だからな…。
「あら、香里さん、お久しぶり。いつも、名雪が迷惑をかけてごめんなさいね」
「いえ、そんなことは………」
「そちらは?」
 秋子さんが栞の方を向いて聞いた。
「もしかして、妹さん?」
「あ、はい。初めまして、美坂栞です」
「やっぱり…」
 たおやかに微笑む秋子さん。
「香里さんたちは踊れるの?」
「…一応は」
「えっ、香里、踊れるの?」
「少し位ならね」
「じゃあ、俺と名雪だけか…」
「では、早速今日から練習ですね」
 楽しそうに微笑む秋子さん。
「あ、私たちこっちだから」
「そうか、じゃあな。香里、栞」
「またね、香里。栞ちゃん」
「いつでも遊びに来てくださいね」
 最後の秋子さんの台詞に、香里は少し怯えながら帰っていった。
「じゃあ私たちも帰りましょうか…」
「あ、秋子さん。荷物、持ちますよ」
「すみません、祐一さん。では、お願いします」
 そして、俺たちも家路についた。
「ねえ、名雪」
「な〜に? お母さん?」
「後ろにいる男の人、お友達?」
 後ろにいる男?
 ………。
「ううん、知らないよ」
「そう…」
 あ、泣きながら走り去っていった。
 北川…、可哀想なやつだ。
 まあ、気にしないことにしよう。
 舞踏会まであと1週間ちょっとか…。
 沈んでいく太陽を見ながら、そんなことを考えた。


――― 1月21日(日) P.M 8:30
「祐一君、がんばって!」
「祐一ったらおかしいの」
 外野(たいやき食い逃げ常習犯といたずら狐)の声がうるさい。
「うぐぅ、もうしてないよ…」
「真琴は狐なんかじゃなーい!」
 抗議の声が聞こえたが、そんなことは関係ない。
 プルルルルル―――。
「あ、電話…」
 踊りの練習をしていた名雪が電話の音に気がつき、足を止める。
「あ、いいわ、名雪。私がでるから……」
 俺たちに踊りを教えていた秋子さんが受話器を取る。
「はい、水瀬です」
「夜分すみません……」
「……はい、少々お待ちください」
 秋子さんが俺の方を向いて、
「祐一さん。森さんってお知り合いですか?」
 と聞いてきた。
「森? あ、はい。前の学校のクラスメートですけど…」
「そうですか…。その森さんからです」
「あ、はい……」
 そう言って受話器を受け取る。
 森が、俺に電話?
 ………なんだろう?
「はい、相沢です」
「おお、相沢か。俺だよ、森だ」
「久しぶりだな。んで、どうした?」
「あ〜、そうだ。ちょっと同級会をやることになってな」
「マジか?」
「おお。それで、お前もどうかなって」
「もちろん行くさ」
「だよな? いやあ〜、お前がいないと女子がうるさくてな…」
「よく言うぜ」
「いや、そんなことないぞ。お前、さりげなく女子に人気だったんだぞ」
「まあ、今日のところはそういうことにしておいてやろう」
「ふっ……。お前、相変わらずだな」
「お前もな。それで、詳しいことは決まってるのか?」
「ああ、場所は学校の体育館。日時は………」
「えっ?」
「どうした? なんか予定でも入ってるのか?」
「ああ……。その日はな……」
 いつの間にか隣に来ていた名雪の方を見る。
「悪いけど、先約が入ってる」
「……なんとかならないのか? せっかくの機会だし……」
「……悪いな、こればっかりは……」
 俺が断ろうとした時、
「祐一、行ってきたら?」
 と、名雪が言ってきた。
「悪い、森。ちょっと待ってくれ」
 俺は電話の保留のボタンを押す。
「……名雪。でも、その日は…」
「私のことはいいから………ね?」
「でも、先に約束したのは名雪の方だし………」
「みんな待ってるんでしょ? 行った方がいいよ……」
「でも……」
「祐一さん。祐一さんの言いたいこともわかりますが……」
 秋子さんも名雪に味方する。
 この二人に、ここまで言われたら仕方がない。
「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます……」
 再び受話器を取る。
「待たせたな」
「いや、別に。それで、どうなんだ?」
「ああ、行くよ」
 名雪の方を見る。
 ……笑ってる。
 でも、どこか悲しそうだ。
「でも、俺は早めに帰るぞ。それでもいいか?」
「う〜ん。じゃあ、開始時間を少し早めた方がいいか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「じゃあ、決まりだな。また電話するな」
「ああ、じゃあな」
「おお」
 そして、俺は受話器を置いた。
「………祐一」
 名雪が泣きそうで、どこか嬉しそうな顔で俺を見ている。
「……俺は欲張りだからな。こうすれば両方楽しめるって訳だ」
 不意に名雪が抱きついてきた。
「………ありがとう、祐一」
 俺は名雪の頭を撫でてやる。
「すみません、祐一さん。ご迷惑をおかけして……」
 秋子さんが申し訳なさそうに言う。
「いえ、迷惑をかけてるのはこっちですよ」
 苦笑まじりに答える。
「少し休憩にしましょうか…、私はお茶の用意でもしますね」
「すみません……お願いします」
「じゃあ、真琴にあゆちゃん、手伝ってちょうだい」
「うんっ、わかったよ」
「は〜い」
二人は返事をすると先に部屋を出て行った。
「では、名雪のこと、よろしくお願いしますね」
「あ………。は、はい」
 そして、微笑みながら、
「これからも、ずっと………」
 と付け加え、部屋を出て行った。


――― 1月27日(土) P.M 5:00
『6:30頃までには会場に行く』
 祐一は私にそう書き置きをして駅に向かって行った。
 私は見送りに行きたかったけど、祐一もお母さんも起こしてくれなかった。
 あゆちゃんに真琴も寝ていたらしいし……。
 お母さんは祐一に起こさなくて言いからって言われたからだけど。
 祐一の見送り、行きたかったな………。
 でも、過ぎたことを言ってもどうしようもないね。
 あ、もうこんな時間。
 もう、そろそろ行かないと。
 私はお母さんに用意してもらったドレスを入れたバックを持って部屋を出る。
「楽しんでいらっしゃいね」
 家を出るとき、お母さんがそう言った。
「うん。行ってきま〜す」
 いつも歩き慣れた雪の残る道を、しばらく一人で歩く。
 祐一と一緒に通うこの通学路。
 まだ、祐一が来てから一年しか経っていないのに、ずいぶん前から一緒に通っているような気がする。
 一人はちょっと寂しいな……。
 そう思いながら雪を踏みしめる。
「名雪」
 不意に後ろから名前を呼ばれた。
「あ、香里、栞ちゃん。こんにちは」
「こんにちは、名雪さん」
 栞ちゃんが明るく挨拶をしてくる。
「それよりどうしたの、名雪? 元気がなさそうだけど……」
 香里がそんなことを聞いてくる。
「大丈夫だよ。ただ、少し寂しいかなって……」
 祐一が隣りにいないだけで、こんなになるなんて……。
「……相沢君もいい男ね。名雪を置いて同級会に行くなんて……」
 香里が呆れたように言う。
「……香里」
「わかってるわよ、そんなに怖い目をしないで」
「うん……。祐一、電話で話してるとき、すごく楽しそうだった……」
「そうなの……」
「だから、行って欲しかったんだ」
「でも、ちゃんと間に合うように帰ってくるんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、いいじゃない。……ほらっ、行くわよ」
 そう言うと、香里は先に歩いていってしまった。
「すみません、名雪さん」
 香里の後ろにいた栞ちゃんが謝ってくる。
「えっ? ……なにが?」
「今日のお姉ちゃんの態度……おかしいと思いませんか?」
 そう言われてみれば……。
「……香里、どうしたのかな?」
「お姉ちゃん、名雪さんがうらやましいんですよ」
「えっ? うらやましい?」
「北川さんが、正式に誘ってくれなかったから……」
「あ……そっか。香里、北川君のこと……」
「だから、名雪さんがうらやましくてあんなこと言っちゃったんですよ」
「へぇ……。香里、北川君のこと好きなんだ……」
「だから、お姉ちゃんのこと許してくださいね」
「うん…当たり前だよ」
 私は栞ちゃんの方を向いて微笑む。
「名雪〜、栞〜。早く来なさいよ〜」
 先に行った香里が手を振っている。
「じゃあ、行こうか? 栞ちゃん?」
「そうですね」
 私たちは微笑みあうと、香里のほうに向かって走り出した。


――― 同日 P.M 6:00
「皆さん。今日は我が学園舞踏会にお越しいただき、ありがとうございます」
 祐一が来ないうちに舞踏会は始まりを告げた。
「今日は存分にお楽しみください」
 司会者が拍手に包まれながら壇から降りていく。
「相沢君、遅いわね」
 真紅に染まるドレスに着替えた香里がボソッと言ってくる。
 香里は何でも着こなすんだね。
 私にはそんなドレス、似合いそうもないよ……。
「うん……。でも、まだ祐一が言った時間と違うし……」
「そうね……。まだ、始まったばかりだしね」
 いつものように香里が微笑む。
 さっき北川君に会ったから機嫌がいいのかな?
「お姉ちゃん、ごきげんだねっ!」
 香里とは対照的な純白のドレスに着替えた栞ちゃんが微笑んで言う。
「べ、別にそんなことないわよ……」
「本当? 香里?」
「な、名雪まで……。なんでもないのよっ!」
 珍しく香里が慌てる。
 いつもは香里にからかわれてるんだから、今日くらいは私がからかってもいいよね?
「本当〜? なんでもないなら、そんなに慌てなくてもいいんじゃないかな?」
「もうっ! 名雪、いい加減にしてっ!」
 香里が本当に怒りそうになったその時
「美坂、なにそんなに怒ってんだ?」
 と、北川君がやってきた。
「き、北川君……」
「三人とも綺麗だな。どこかのお姫様かと思ったぞ」
 しらっと、そんなキザな台詞を言ってくる。
「ありがとう、北川君」
「ありがとうございます、北川さん」
 私と栞ちゃんはそう返事をする。
「あ、ありがとう……北川君」
「どうしたんだ、美坂? 顔が赤いぞ?」
「な、なんでもないわよっ!」
 頭の上に?マークを浮かべる北川君。
「栞ちゃん、私たちはあっちに行ってようか?」
「クスッ、そうですね」
「ちょっ、ちょっと名雪、栞……」
 私たちは香里がそういうのもお構いなしにその場を離れた。


――― P.M 6:50
 約束の時間を20分もが過ぎても祐一が来ない。
 どうしたんだろう?
 まさか事故!?
 一年前のお母さんの事故が頭の中をよぎる。
「…………祐一」
「相沢君、遅いわね……」
 香里が私を慰めてくれるように言う。
「うん……どうしたのかな?」
「盛り上がってるから帰って来にくいんじゃないの?」
「そうかな……? そうだったらいいけど……」
「? どうしたの、名雪?」
「うん。……祐一が事故に遭ってるんじゃないかなって」
「大丈夫よ。例えそうだったとしても、死んだって死ぬような男じゃないでしょ?」
「うん……。そうだね」
「……けど、ちょっと気になるな……。あいつは約束の時間は守るやつだからな……」
 横にいた北川君がポツリと言う。
「そうですね……祐一さん、そういうことないですからね」
 栞ちゃんも同調する。
「俺、ちょっと調べてくるな」
 そう言うと体育館を出て行った。
「調べるって……何を、どうやって調べるのかな?」
 香里に聞いてみると
「さあ? 私にもわからないわ……」
 と答えた。


――― P.M 7:10
 ……祐一はまだ来ない。
「祐一さん、遅いですね」
 栞ちゃんが心配そうな顔をして言う。
「……そうだね」
 私はもう、答える気力もなかった。
 香里も栞ちゃんも私を気遣ってくれてそばにいてくれる。
 その時、二人組の男性が私たちの方に来た。
「さっきから踊ってないようですけど、お相手がいないからですか?」
 タキシードをビシッと着た、格好いい男性たちだった。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
 私と栞ちゃんの代わりに香里が答える。
「本当ですか? では、私たちと一曲踊っていただけないでしょうか?」
「すみませんが………」
 香里が断ろうとしたその時
「香里、行ってきたら?」
 と、私が香里を止めた。
「名雪……でも」
「せっかく誘さそわれたのに、断ったら失礼だよ……」
「そうだけど……」
「私なら、大丈夫だから……」
「そう……わかったわ」
「本当ですか!? いや〜、俺たちついてるな、なぁ?」
「ああ、全くだ」
 誘ってきた男性たちが喜ぶ。
「じゃあ、行ってくるわね……。行きましょう、栞」
「はい。……祐一さん、きっとすぐに来ますから大丈夫ですよ」
「うん……。ありがとう、栞ちゃん」
 そして、二人はホールの中央に向かって歩いていった。
 ……祐一、早く来ないかな。
 また、しばらくそのことばかり思っていると
「あれ? 名雪さんじゃないですか〜」
 と、誰かに呼ばれた。
 声のした方に振り返ると
「やっぱりそうです〜」
 にこやかに微笑む佐祐理さんの姿があった。
 横には舞さんもいた。
「佐祐理さん、舞さん……」
「一人でどうしたんですか? 祐一さんは?」
「祐一、いない……」
「あ、祐一は前の学校の同級会に行って……それで……」
「ほえ〜、そうなんですか……。残念ですね〜、舞?」
「……はちみつクマさん」
 佐祐理さんは残念そうな顔をしたが、舞さんの方はあまり表情の変化が見られなかった。
 でも、あまり喋らない人だから、口に出したことは本心だと思う。
「それより、佐祐理さんたちは踊らないんですか?」
「そうですね、あはは〜。行きましょうか、舞」
「……ぽんぽこタヌキさん」
 そして、二人は相手を見つけに中央の方に行ってしまった。
 あれ? でも、たしか『ぽんぽこタヌキさん』って……。
 気にしないことにしよう………。
 祐一、早く来ないかな?


――― P.M ???
 ハァ…ハァ…ハァ…。
 早く学校に行かなきゃなのに……。
 こんな大事な日に電車が止まるなんて……。
 それよりも、ここはどこなんだ?
 線路沿いに走れば行けると思ったのに……。
 くそっ! こんなところで時間を使ってるヒマなんて無いのに……。
『プップッー』
後ろの方からクラクションが聞こえた。
「……えっ?」
 ……………。


――― P.M 7:40
「相沢くん、本当に遅いわね……。何やってるのかしら」
 香里がイライラしながら言う。
「祐一さん、本当に遅いですね……」
 栞ちゃんも、心配そうに言う。
「やっぱり、事故に……」
 私がそう言おうとしたその時
『ガラガラガラ……』
 体育館のドアが開いた。
(祐一っ!?)
 私が振り向いたその先には……
 ……北川君がいた。
 北川君が私たちの方へ来る。
「相沢は多分来れない……」
 北川君が首を振って言ってくる。
「来れないって、どういうこと?」
 香里が首を振って北川君に尋ねる。
「……電車が雪の影響でかなり遅れているらしい」
「そんな………祐一」
 祐一、来れないの?
『俺には、奇跡は起こせないけど…』
 そんなのやだよ……。
 祐一、お願いだから奇跡を起こして……。
 今だけでいいから……。
 この一回だけでいいから……。
 奇跡を起こして……。
 ……お願いだよ、祐一
「名雪、大丈夫よ。相沢君ならきっと来るわよ」
「そうですよ。祐一さんならきっと来ますよ」
「水瀬、あいつなら『主人公は遅れて登場するもんだ』とか言いながら来るって……」
 みんな、私を気にかけてくれる……。
「……うん。ありがとう………」
 しかし、会場の時計は午後8時を告げた。


――― P.M 8:15
 会場ではすでに後かたづけが始まっている。
 参加者たちは、ほとんど帰ってしまって体育館の中はもう、役員の人くらいしかいない。
「名雪………」
 香里が慰めてくれるように話しかけてきてくれる。
「……電車が遅れたなら、しょうがないよ」
「………名雪さん」
 栞ちゃんも悲しそうな目をしている。
「名雪さん、元気出してくださいね」
「祐一、悪い男……」
 佐祐理さんと舞さんも残っていてくれてる。
『ガラガラガラ……』
 体育館の扉が再び開いた。
 どうせ、役員の人が出入りしてるんだろうなぁ……。
「相沢君!!」
「祐一さん!!」
「相沢!!」
 扉の方を向いた三人が一斉に声をあげる。
「一体何やってたの!? 名雪がこんなに待っていたのに!!」
 香里が祐一を責める。
「……ごめんな、名雪……」
 祐一が息を切らしながら謝ってくる。
 祐一の格好……頭から足元までびしょびしょになってる……。
「謝って済むことじゃないでしょ!?」
「……わかってるさ」
「だったら……!」
「もういいよ、香里……」
「名雪……。でも……」
 香里がまだ、責め足りないように食い下がる。
「祐一だって好きで遅れたんじゃないし……」
「でも………」
「それに、祐一の格好……」
「え……」
 三人とも祐一の姿を見る。
「相沢君……。あなた、なんでそんなに服が……?」
「ああ、これか?」
 祐一が自分の姿を見て、話を続ける。
「雪の中を走ったからだろう……。さすがに、一駅走るのは辛かったけどな」
「祐一さん……一駅って……」
 栞ちゃんも何か言いたそうな目で祐一を見てる。
 一駅って……この辺はそんなに近くに駅なんてないから5Km以上あるのに……。
 祐一……。
「まぁ、秋子さんが車で拾ってくれたから助かったけどな……」
「えっ!? お母さんが?」
「ああ、あゆと真琴と一緒にそこにいるはず……」
 祐一はそう言って後ろを振り向く。
 そこには本当にお母さんとあゆちゃん、真琴がいた。
「あらあら、名雪。なんて顔しているの……」
 お母さんが私の方を見るなりそう言ってきた。
「お母さん……」
「ほら、早く身だしなみを整えてきなさい」
 そう言って、私の背中を押す。
「おっ、お母さん……」
「祐一さんも早く準備してくださいね……」
「………はい、わかりました」
 そう言うと、私はお母さんに押されて更衣室まで連れて行かれた。
 私が更衣室から帰ってくると格好よく着替えた祐一がいた。
「祐一……なんか、いつもと違う……格好いいよ」
「なんだ、その言い方は? それじゃあ普段は格好悪いみたいじゃなか…」
「あ、そうだね………ごめん」
「まったく……じゃあ、行こうか?」
「行くって……どこに?」
「いいから、連いて来いよ」
「えっ? えっ?」
 私は訳もわからないうちに、祐一に手を引かれていった。
 私が連れて行かれた先は、今までみんなが踊っていた場所だった。
 私たちが中心に行くと、突然照明がついた。
「えっ? なんで……?」
「こんなことするのは北川だな……」
 祐一がボソッと呟く。
 でも、すぐに私の方を向いた。
「じゃあ、踊ろうか……名雪?」
「うんっ!」
 音楽が流れ出した……。
 私たちは曲に合わせて踊り始める。
「名雪……」
「なあに、祐一?」
「その…………綺麗だぞ」
「………ありがとう、祐一」
 私たちは踊り続ける……。
「名雪、綺麗ね……」
「そうですね、お姉ちゃん。……祐一さんと名雪さん、ステキです」
「ほぇ〜、二人ともお似合いです〜。ねえ、舞?」
「……はちみつクマさん」
「名雪さん、綺麗だねっ」
「名雪、きれ〜〜〜〜」
「祐一さん、名雪のこと頼みますよ……」
 みんなが見ている中で私たちは踊り続ける。
「なぁ、名雪?」
「なあに?」
 不意に祐一が話し掛けてきた。
「お前、幸せか?」
「急にそんなこと聞いてくるなんてどうしたの?」
「いや、ちょっと気になってな……」
「私、幸せとかってまだよく分かんないけど、祐一とずっと一緒に居たいよ……」
「そっか……なら、それでいい……」
「うん……」
 そして演奏が終わった。
「あ……もう終わっちゃったね……」
「なんなら、もう1曲踊るか?」
「……うん」


そして、二人は踊り続ける。
大切な人たちに見守られながら……。
決して終わることのない、『幸せ』と言う名のワルツを…






  〜 あとがき 〜

  初めまして、ym2という者です。
  今回、SilverCherryに寄贈させてもらうことになりました。
  SilverCherryの管理人さんには日頃、いろいろお世話になっております。 <( _ _ )>

  いろいろと突っ込みたいところがある方もいるでしょうが、そこは広いお心で許してください。(泣)
  ちなみに、このタイトルは『あるアニメ』から引用させていただきました。
  わかる人にはすぐにわかりますよね?(笑)
  でも、中身までそのまま使うほど落ちぶれてはいませんので、そこんとこヨロシク!(核爆)
  では皆さん、また機会があったらお会いしましょう。

  SilverCherry 寄贈日  不明


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